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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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戦いたがる者などおらん。
我らの誰が、好んで戦場に出たがる?
平和に、穏やかに、幸せに暮らしたい。
我らの願いはそれだけだったのです。

だがその願いを無惨にも打ち砕いたのは誰です?
自分達の都合と欲望の為だけに、我々コーディネイターを縛り、利用し続けてきたのは!

我らは忘れない。
あの血のバレンタイン、ユニウスセブンの悲劇を!

24万3721名…それだけの同胞を喪ったあの忌まわしい事件から1年。
それでも我々は、最低限の要求で戦争を早期に終結すべく心を砕いてきました。
だがナチュラルは、その努力をことごとく無にしてきたのです。

我々は、我々を守るために戦う。
戦わねば守れないならば、戦うしかないのです!

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「そんな…どうしても、とか言われると困っちゃうんだけど…でもやっぱり、謝っておいた方がよくないかな?この場合…」
サイは優しく含めるようにフレイに言う。
赤い髪をいじりながら不満そうな顔をする彼に、もはや天敵ともいっていいトールが噛みついた。
「おまえの一言のおかげで、あいつがとんでもない目に遭ったことは事実だからな!」
「でも…俺はただ…!」
つっかかろうとするフレイを遮るようにサイが間に入った。
「とにかく、言うだけは言っておいたら?ごめんなさいって。この艦の中で気まずいでしょ?顔合わせた時とか…」
トールは、あんなに知的で冷静なサイが、こんなにフレイを甘やかすなんて片腹痛いと思いつつ、けれどこれでこの赤毛のわがまま王子がおとなしくキラに謝るなら、我慢しようと決めていた。
「うーん…サイがそんなに言うんなら…言ってもいい…かな」
やがて子供みたいに駄々るフレイにようやくそう言わせたサイが微笑んだ。
(ちぇ!)
トールは口を尖らし、このバカップルめ、と心の中で毒づく。
自分とミリアリアもこれまで仲間たちから散々そう思われてきたのだが…

アルテミス壊滅の混乱に乗じ、アークエンジェルはローラシア級を振り切っていた。しかし補給もなく飛び出してきた今、艦の中では深刻な水不足や物資不足が起きている。マリューは難問が山積みの現状に頭を抱え、ノイマンとナタルは、近づくデブリ帯の航行に備えルート計算を繰り返している。
この艦はどこもかしこも問題だらけだった。

「お!ストライクの整備、完了か?」
何やら密談に忙しい仲間たちのもとに、ようやく休憩となったキラが戻ってきた。最近はストライクの整備に時間をとられることが多く、トールやサイたちと過ごす時間があまり取れなくなっていた。
「うん。でも、パーツ洗浄機もあまり使えないから、まいっちゃうよ。手間ばっかりかかって」
キラはドリンクを注ぎながらトールに答えた。
ドリンクがカップの半分で止まってしまうのは、水不足の折、今は水以外も節約最優先だからだ。
マードックに聞きながら、本当に大切な部分だけを水で洗浄し、あとは薬液や油を使って手作業で行う。時代の最先端ともいえるモビルスーツをそんな旧時代的アナログな方法で整備しているのだから笑ってしまう。
同じくモビルアーマーを手入れするフラガも、ブツクサ言いつつ連日ハンガーで地道な作業をこなしているが、キラは男臭い作業場が嫌いではなかった。
自室にこもってプログラム作業をするより、皆で体を使って同じ作業をやる方がちょっと楽しいような気もするからだ。
マードックの乱暴な冗談も、フラガのセクハラにもすっかり慣れた。
男たちのきわどい冗談にも動じないキラを見て「強くなったねぇ、お嬢ちゃん」とフラガが笑う。

サイがフレイに合図し、トールやミリアリアも彼に眼で促す。
「あ、あの…キラ…」
「え?」
ミリアリアの隣に座りかけたキラは、フレイに声をかけられて驚いた。
そういえば同じ艦にいるのにフレイとはほとんど話していなかった。
「この間は…ごめん。俺、考えなしにあんなこと言っちゃって…」
「あんなこと?」
「アルテミスで…キラがコーディネイターだって…」
キラはとぼけたつもりではなかった。ずっと忙しくて忘れていたのだ。
「あ、いいよ、別にそんなこと。気にしてないから…ほんとのことだしね」
キラは慌ててそう言うと、フレイに何度も頷いてみせた。
それを聞いて安心したフレイは、おどけたようにごめんと手を上げる。
サイがそんなフレイをにこやかに見守っているので、彼女がフレイに言わせたんだなと簡単に推測できた。恐らく、安堵したような顔をしているトールやミリアリアたちも後押ししてくれたんだろう。
(そんなこと、気にしてないのに)
サイもトールもミリアリアも、皆自分のこと、コーディネイターだからとか、コーディネイターのくせになんて言わない。
(あの、アルテミスの軍人たちみたいには見ないから…)
キラは遠くを見つめた。
(ナチュラルとか、コーディネイターなんて、関係ないよね?)
今はもう整備兵たちもマードックも、ムウも艦長も、自分のことを普通に扱ってくれていると信じている。自分を変な目で見たりしない、と。
(皆、私のことを裏切り者のコーディネイターなんて…言わないよね)
キラが受けた心の傷は、誰にも見えなかった。
けれど少しずつ、少しずつ、その傷は彼女を侵食していた。

「御同道させていただきます、ザラ国防委員長閣下」
慇懃丁寧な物言いをする仮面の男に、ザラ委員長は厳格な顔を向け、軽く頷く。
しかしその後、自分は今、ここにはいないはずの人間だ、と念を押した。
「いいかね、アスラン」
「わかりました。父上、お久しぶりです」
他人行儀な挨拶を交わし、アスランはクルーゼの後ろに一歩下がった。
父はもはや一人娘の姿など眼に入らないように、クルーゼと、地球軍が作っていた新型モビルスーツの件で言葉を交わしている。
国防委員長である父は強硬派だ。
戦線拡大を防ぐためには、むしろ武力行使による短期決戦・短期収拾・短期決着こそが必要なのだと主張している。
現政権は一貫して連合と対話と譲歩による解決を試みてきたが、実を結んでいない事は明白である。血のバレンタイン以降はとみに穏健派の現政権への不満は鬱積し、支持率は下がる一方だった。

父は、キラ・ヤマトの件を握りつぶすと告げた。
敵が作った機体にコーディネイターが乗っているなどと知れれば、たとえナチュラルがモビルスーツを作ったとしても、実際にそれを乗りこなすことはできないのだという、穏健派に余計な反論の余地を与えるだけだ。
要はプラントの技術に勝るとも劣らない技術を持って、ナチュラルがモビルスーツを作ったこと、それを実戦投入していること、すなわち、奴らには戦争終結の意思などないということ…それらを査問委員会で証明するに足る証拠があればいいだけのことなのだ。
「きみも、自分の友人を地球軍に寝返ったものとして報告するのは辛かろう?」
ラウ・ル・クルーゼが振り返り、部下を思いやる言葉をかける。
それを聞いたアスランは言葉に詰まり、黙り込むしかなかった。
しかし、クルーゼの言葉は表面上だけで、彼はプラントに戻るとすぐ、極秘裏に「キラ・ヤマト」というコーディネイターを調べ始めていた。
キラ・ヤマト…ザフトレッド4人を敵に回してなお、敗北の辛酸を知らぬ驚異的なパイロットに、クルーゼは密かな興味を抱いていた。

「奴らは、自分達ナチュラルが操縦しても、あれほどの性能を発揮するモビルスーツを開発した…そういうことだぞ。わかるな…アスラン」
そう念を押しながら、パトリック・ザラはようやく再び娘を見た。
すんなりと背が高く、長い髪をなびかせた娘は、この頃死んだ母親にますます面影が似て美しくなってきた。軍の中でも能力が高いことは聞き及んでいるが、いつまでも「男勝りな女義勇兵」というわけにもいくまい…
(クラインの息子も、いつどうなるかわからないのだし)
「…はい」
アスランは物憂げな碧眼を伏せた。父は誰に言うでもなく続けた。
「我々ももっと本気にならねばならんのだ。早く戦いを終わらせる為にはな」
そう、少しばかり強引な手を使っても…

父と別れたアスランは、クルーゼと共にロビーで査問委員会への出頭を待っていた。思い出すのは先ほど会ったいかめしい父の顔だ。
(父と…まともに話をしなくなったのはいつ頃からだったろう?)
母が亡くなり、自分がザフトに入隊すると告げても、反対も賛成もしなかった。
その後もほとんど連絡らしい連絡を取り合うこともない。
多忙な人だから無理はないが、たまに会っても挨拶がせいぜいだ。
(母がいた頃は、私たちはもっと話をしていた気がするのに…)

「では次に、ユニウスセブン追悼一年式典を控え、クライン最高評議会議長が、声明を発表しました」
「あの不幸な出来事は、我々にとって決して忘れることのできない、深い悲しみです」

ぼんやりとした頭に、モニターからクライン議長の声が聞こえてきた。
そこには思慮深そうで穏やかな表情のクライン議長が映し出されている。
膠着状態に入った戦争の収拾をつけられない彼の責任を問う声も多く、最近はタカ派である「ザラ議長」待望論が囁かれていた。ことに技術に優れるザフトは、その勇猛な戦いぶりで圧倒的に数に勝る地球軍と互角…いや、時には圧倒する事さえありながら善戦を続けている。
今こそ強いリーダーを据え、有利な条件で終戦を望む声は多い。
しかしそれは同時に根強いクライン派を刺激する。
クラインもザラも、元々は共にプラント理事会に抗う「黄道同盟」を結成した、志を同じくする者同士だ。両者が対立する事は、いたずらにプラントを二分し、それこそ地球軍につけこまれる隙を作る事になる。
だからハト派のクラインとタカ派のザラが「友好な関係である」と示す策として、恐ろしいほど前時代的な、けれど古典的ゆえに有効な方法が取られた。

「そういえば、彼がきみの婚約者だったな」
「はい…」

髭をたくわえたクラインの隣に、線が細く、色の白い長身の青年が立っている。
(ラクス・クライン…体の具合は大丈夫なのかしら…)
アスランは穏やかな微笑を讃えてカメラの前に立つ彼の体を気遣った。
「ラクスくんは今回の追悼慰霊団の代表も務めるそうじゃないか。素晴らしいことだな」
クルーゼが言っても、アスランは生返事をするばかりだ。
長旅は当然ラクスの体を蝕む。
(ましてやユニウスセブンは彼にとって忌わしい地)
アスランはそこまで考えて、そういえばラクスとはもう随分長く連絡を取っていないことに気づいた。

「ザラ委員長とクライン議長の血を継ぐ、きみらの結びつき…次の世代にはまたとない光になるだろう。期待しているよ」
アスランは礼を述べたが、実際は誰の眼にも明らかな政略結婚だ。
けれどラクスのことは嫌いではない…だから、拒む理由がない。
大体それが自分に課せられた使命なら、ただ受け入れるだけだと思っていた。
その時メッセンジャーが、査問委員会の準備が整ったと伝えに来た。
アスランは凛とした軍人の顔に戻り、隊長の後に続いて議場に入った。

「不可能を可能にする男かな?オレは…」
そんなふざけたセリフを吐いてニヤリと笑ったフラガは、これから通り抜ける予定のデブリ帯で「補給を受ける」と言う。
しかし子供たちがあまりにも素直に喜びに沸いたものだから、さすがに気まずくなったとみえ、「補給じゃないんだ」と白状した。
「受けられると言うか…まぁ…勝手に補給すると言うか…」
ごにょごにょと語尾をごまかすフラガの態度に、勘のいいサイが「まさか…」と怪訝そうな顔をする。
「少佐…戦場盗人…じゃないでしょうね?」
「違います」と言った後、マリューが引き継いだ。
「デブリベルトには、宇宙空間を漂う様々な物が集まっています。そこには無論、戦闘で破壊された戦艦等もあるわけで…」
フラガの意見に賛成はしたものの、さすがにマリューも自信を持って「やる!」とは言えない作業なので、どうも奥歯に物が挟まったような言い方になる。
こういう時はナタル・バジルール…とノイマンは思う。
「あまり嬉しくないのは同じだ。だが他に方法は無いのだ。我々が生き延びる為にはな!」
彼女の演説がビシッと決まると、皆の間の空気が変わった。
その後を引き取り、マリューが柔らかい口調で諭すように言った。
「不必要なものまであさるわけじゃないわ。ただほんの少し、必要な分だけ、分けてもらいましょう」
それを聞いて子供たちも不承不承重い腰を上げた。

「アスラン」
査問会が終わり、評議会議長がアスランに声をかけた。
ナチュラルがモビルスーツを作ったことが戦争拡大の意思の表れだとするザラ派と、その理由を解明し、中立国オーブの説明を受けるべきだとするクライン派の意見は紛糾したが、結局はアスランが発表したGシリーズのあまりの性能の高さに、委員たちの心には未だコーディネイターを凌駕する可能性さえ秘める、「残酷なナチュラル」への脅威が頭をもたげてしまった。

「クライン議長閣下」
アスランは未来の義父に敬礼で答えた。
「ようやくきみが戻ったと思えば、今度はラクスは仕事で居らん。まったく、きみらはいつ会う時間が取れるのかな」
「すみません…」
アスランはひどく恐縮し、クラインは楽しそうに笑った。
続いてラクスの体調について尋ねると、相変わらず一進一退だが、ここのところ調子はよさそうだったと聞いてホッとする。
けれどアスランは、またすぐにアークエンジェル追尾の任務に就くことになっていた。ユニウスセブンに向かったラクスと会えるのは随分先になるだろう。

クラインは、「次の休暇には必ず息子を訪ねるように」と約束させて、アスランを見送った。
(レノアに似て美しいよい娘だが、呆れるくらい堅物で真面目で、融通が利かん…いい意味でも悪い意味でも、まさにパトリックの子だな)
これで戦争は拡大し、彼女も悲惨な戦場で様々なものを見るだろう。
命を落とさねばいいが…
若い者が自分のような年寄りより先に逝くのは忍びない。
「我々にはそう時間はないのだ。いたずらに戦火を拡大してどうする?」
木星で発見された未知の生物エヴィデンス01…通称「ハネクジラ」の化石のレプリカの前で、クラインは後ろからやってきたザラに問うた。
「だからこそ許せんのです。我々の邪魔をする者は」
我らは進化を諦めない…それを阻む者は、排除されねばならない。
自らが生み出した者を恐れ、自らが生み出した者に食われるがいい。

デブリベルトの中でキラたちが見たものは、ヘリオポリスの何十倍、いや、何百倍も悲惨な光景だった。そこにあったのは死に絶えた大陸…ユニウスセブンだったのだ。

ユニウスセブンは、血のバレンタインで壊滅した農業用プラントである。
何の罪もない24万以上の人々が、突然の核攻撃を受けて死んだ。
ある者は爆発で蒸発し、ある者は爆風に叩きつけられ、ある者は真空の中で息絶え、死んだことに気づきさえもせず死んでいった。
ズタズタの大陸はひび割れ、激しく波打った海はそのまま凍っている。
デブリ帯には永遠に風化することのない遺体や遺物が漂い、そのあまりにも異様な光景は全ての者を絶句させた。

ミリアリアは顔をそむけ、トールは彼女を抱きしめた。
サイは唇を噛み、カズイは顔を歪めて泣き出しそうだ。
さしものナタルですら眉をひそめ、上下に漂っていたクマのぬいぐるみを手に取る。その瞬間まで、誰かが遊んでいたのだろうか…破れて壊れたそれは、永久に主を失ってしまったのだ… 
(これが、こんなものが、現実…)

キラはここにアスランの母がいたのだと考える。
一瞬で消えてしまった命。
この事を知ったアスランは何を思ったろう。
ナチュラルを憎んだはずだ…母に理不尽な死をもたらしたナチュラルを。
こんなにも、ナチュラルとコーディネイターの憎しみは深いのか…キラは改めて両者の深すぎる溝を知った。

こんなひどいことをするくらい。
こんなひどいことをされるくらい。

そして、両者は今も戦っている。
殺しあっている。
憎みあっている。

艦に戻ったミリアリアの発案で、鎮魂のための花を折ろうということになった。
皆で折った色とりどりの色紙の花が、悲惨なデブリの中を流れていく。本当はデブリを増やしてはいけないのだが、たくさんの哀しい魂が安まるように…少女たちは何か気持ちを手向けずにはいられなかった。
再び艦に戻ったクルーの間に、現実を見せつけられた重苦しい沈黙が流れた。
けれどそれを破るのもいつだって現実だ。
「あそこの水を!?本気なんですか!?」
キラは抗議した。何十万人の死者たちの間を縫って、生者のために氷を切り出し、それを溶かして水を作る。突然真空になったがゆえに蒸発し、気化熱によって凍った膨大な水。あの悲劇さえなければ、今も豊かな農業プラントを潤していたであろう「彼らの水」なのだ。
(黙りこくって、誰も抗議しないなんてあんまりだ!)

―― あそこは、コーディネイターの墓場なのに…
  死にたくなかった人たちの哀しみの場所なのに…

キラはなぜかやるせない怒りを感じ、そしてふと考えた。
(この痛みは私がコーディネイターだから…なんだろうか?)
「誰も、大喜びしてる訳じゃない。水が見つかった!ってよ…」
フラガがキラを諌める。
「けどしょうがねぇだろ。俺たちは生きてるんだ!ってことは、生きなきゃなんねぇってことなんだよ」
「だって…でも…」
キラは混乱して言葉に詰まった。
ならば、生きるとはなんと醜いエゴだろう。
(そしてそんなにも生きることに貪欲な生命を、簡単に奪い取る戦争って、なんなんだろう?)
この、初めて持つ生命についての葛藤は、キラを苦しめ続けた。
氷の切り出し作業中、キラは撃墜された民間船を発見し、同時に強行偵察型複座のジンの姿を認めた。今は決して命を奪いたくない場所で、奪われそうになった命…カズイとチャンドラを守るために、キラはジンに照準を定めた。
心の中で、このまま気づかず行ってしまえと願いながら…
「バカ!何で気づくんだ!」
願いはかなわず、彼らに気づいたジンに対してキラは引鉄を引いた。
ジンはあっけなく爆散し、眼の前で人の命が炎を上げて燃え尽きていった。
この忌わしき墓場で、彼らはコーディネイターである自分に殺されたのだ。
自分がコーディネイター殺しであると改めて自覚したキラは、考えれば考えるほど、何かにすがらないと倒れそうだった。
自分が何のために戦っていたのか、道が見えなくなってしまった。
ナチュラルの友達を守るために、コーディネイターの友達と戦う自分。
天秤にかけて量れるものではない。けれど、皆が両方を選ぶのはダメだという。

闇の中でもがいているような苦しさで、宇宙空間に眼を向けると、何かが光ったような気がする。キラはモニターを見るよりも、自らの視力の優れた瞳を真っ暗な宇宙空間にこらしていた。
「救命…ポッド…?」
チカッ、チカッと救難信号を発しながら、頼りない小さなそれはデブリの中を漂っていた。まるで嵐の夜に見つけた灯台のように。

「つくづくきみは、落とし物を拾うのが好きなようだな」
フラガが苦笑いしながら、ポッドを見つめているキラをからかった。
今回はもう、さしものナタルもため息をつくだけで何も言わなかった。
やがてマードックが開錠のためのコードを入力し、「開けますぜ」と合図する。
トノムラたちが銃を構え、不測の事態に備えていたが…中からは何やら丸い小さなものが飛び出してきた。一瞬身構えた兵たちは、拍子抜けしてそれを眺めた。
「ハロ、ハロ、ハロ、ラクス、ハロ…」
そしてその奥からは柔和な笑顔の1人の青年が現れた。
「ありがとう。ごくろうさまです」
彼のことは多くの人が知っている。そう、ナチュラルでさえも。

彼の名はラクス・クライン…「悲劇の英雄」と呼ばれるその人だった。
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secret
制作裏話-PHASE7-
私は実はこのPHASEが好きなのです。
戦闘もほとんどなく、SEED独特のセリフだけで話が進む話ですが、アスランと父、アスランとクラインの関わりが描かれる数少ない回でもあり、ナチュラルとコーディネイターの深い確執が描かれる回なので、こうして文章で読む方が興味深いです(アニメだと動きがないのでちょっと厭きますね)

この頃のアスランは優秀で穏やかで優しいこともわかっており(キラをイザークから救おうとしたことで)、キラとの邂逅に悩みながらも、まだ戦う事そのものには迷いがないので、種と運命を通じて「一番まともに見えた時期」ですね。
婚約者がいて、それがまた二人とも美しくて非常にお似合いなんですから、完璧キャラっぽかった。
まぁこの後はキラ病に罹患し、ヘタレ街道まっしぐらなわけですがね。

そしてキラの孤独や傷口がどんどん広がっていくあたりで、いよいよラクス・クラインが登場します。
ラクスは私にとっても満を持しての登場でした。

SEEDの初期は本当によくできています。
いや、私はやっぱり全体的に種は好きですね。
よく練りこまれていますよ。描写不足と総集編と回想が惜しいだけで。
になにな(筆者) 2011/02/28(Mon)17:20:33 編集



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