Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴官のラクス・クライン氏に対する責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理するつもりであることを、お伝えする!」
「なんですか?」
コックピットで黙々と作業に励んでいたキラは、ふと人の気配を感じて声をかけた。
「いや…どうかなぁって思って…」
顔を見せたのはマードックだ。
皆が休憩に入っても降りてこないキラを気遣ったのだが、いかんせん荒っぽい職人肌の自分に、こういったこまやかな行動は似合わない。
「オフセット値に合わせて、他もちょっと調整してるだけです。あ、でも…もういいのかなぁ…」
キラは鼻をかきながら、呟くように言った。
「やっとけやっとけ。無事合流するまでは、おまえさんの仕事だよ」
マードックはなんだかんだ言っても、素直で聞き分けのいいこの小娘を結構気に入っていた。フラガも同じだと感じている。
コーディネイターということも、そう、ちょっとばかり…というか、かなり優秀な点を除けば、おとなしい普通の女の子という感じだ。
無論、モビルスーツに乗れば天下無双の守護神になるのも確かだが…
「何ならその後、志願して残ったっていいんだぜ?」
「冗談じゃないですよ!」
キラはむくれたように言う。
マードックなりの、おまえはここにいてもいいという意思表示に気づいたのか気づかなかったのかは、キラの凍ったような表情からはわからなかった。
その頃、アークエンジェルのブリッジには、第8艦隊所属・第6先遣隊のモントゴメリーから、ランデブー・ポイントへの到達時間が通達されていた。
乗員は皆、明るい表情で艦長コープマンの言葉を聞いている。
ついに安全が保障される…孤独な一人旅はもうじき終わるのだ。
そこにはフレイの父、ジョージ・アルスターも同乗していた。
彼はヘリオポリスの避難民救助に尽力した艦長以下クルーに礼を述べ、その後、その中に息子がいたことに感謝の念を述べた。
サイがこっそりと乗員名簿を流したことを知らなかったマリューは「え!?」と思わず声を上げてしまったが、相手が連邦の事務次官であり、しかもフレイ・アルスターの父親なら、コーディネイターのキラへの待遇、さらにはラクス・クラインへの処遇も配慮してもらえるかもしれないと、心の中でほくそえんだ。
マリューが何を考えているかなど、ナタルにはお見通しだったが、艦長の楽天家ぶりにも、少なくともザフトの警戒域でもある宙域で息子に会わせてくれと言う
次官の親バカぶりにもウンザリしていたことは確かだった。
しかしひと時の安穏はけたたましいアラートによって破られた。
ランデブー・ポイントに向かうモントゴメリー、バーナード、ローの三艦を、何者かがロックし、攻撃を仕掛けてきたのだ。
モビルスーツは4機。コープマンはすぐにモビルアーマー隊を発進させたが、数では勝るとしても、果たしてモビルスーツ隊にかなうかどうかはわからなかった。
「アークエンジェルへ、反転離脱を打電!」
彼の判断は迅速だった。
ハルバートン准将のもとに、あの艦と、艦に乗るたった1機のGを届けなければならないのに、こんなところで落とされてはならない。
「ここまで来て…本気かね、艦長!?」
アルスターはあと一歩で息子に会えるという想いからか、声を荒げて抵抗した。
しかし、これが今現在取れる最も正しい策なのだ。
「モントゴメリーより入電!ランデブーは中止!アークエンジェルは直ちに反転離脱、とのことです」
パルの報告に、さしものナタルも「艦長!」と叫ぶ。
「敵の戦力は?」
マリューは冷静だった。
「イエロー257、マーク40にナスカ級。熱紋照合、ジン3、それと…待ってください…これは…イージス!?X-303、イージスです!」
「では、あの時のナスカ級が!?」
ブリッジの誰もが息を飲んだ。
フラガに傷を負わされ、撤退したナスカ級がもう戻ってきたのだ。
「…そして我々が合流するはずだった先遣隊を襲っているというわけね」
マリューに迷いはない。
相手が3艦いようとも、4機のモビルスーツでかかればどうなるかわからない。
もしそうなれば、ここで逃げてもしぶといナスカ級はまた、自分たちの後を追ってくるだろう。何より…はるばる迎えに来てくれた友軍を、連合の艦を見捨てて逃げるなど、今この場の誰も考えていないはずだ。
「総員、第一戦闘配備!アークエンジェルは、先遣隊援護に向かいます!」
甘いと言われようと、命令に従うべき軍人として失格だろうと、マリューにはこの選択肢しか選ぶことはできなかった。
艦内に響き渡る警報に急かされ、キラはパイロットルームへ向かう。
頭の中で、ストライクの整備が完璧に終わっているかどうか、確認を繰り返しながら。その時、足元に何かが転がり出てきた。
「モシモシ?モシモーシ!」
「!?また?!」
これは、ラクスが持っていた小さなボール型ロボットだった。
キラは立ち止まってきょろきょろとあたりを見回す。
「何かあったの?急に賑やかに…」
(やっぱり!)
キラはのほほんと廊下を歩いているラクスを両手で止める。
「戦闘配備なんです!さぁ中に入って…ここの鍵は一体どうなって…」
「戦闘配備って、戦いになるの?」
ラクスにはこの警報や飛び交うコールが聞こえないのだろうか。
「そうですよ。ってか、もうとっくにそうです」
「キラさんも戦うの?」
そう聞かれて、キラははっとする。
ラクスにその意図があったかどうかはわからないが、キラには「きみはコーディネイターなのに?」と続けて尋ねられたような気がしたからだ。
「と、とにかく、部屋から出ないでください。今度こそ…いいですね?」
キラはそれをごまかすように、彼を部屋に押し込めてドアをロックする。
(今は何も考えないようにしよう)
キラはドアの前で胸に手を当てて自分を落ち着かせようとした。
(戦わなければ、皆死んでしまう。戦うのはいやだけど、仕方がないんだ…)
「キラ!」
再び走り出したキラの足を、再び止めたのはフレイだった。
彼は不安そうにキラを見つめ、駆け寄ってきた。
「なぁ、戦闘配備ってどういうことなんだ?先遣隊は?」
今にも掴みかからんばかりにフレイはキラに迫ってくる。
「わ、からない…私にはまだ何も…」
あの一件以来、キラはフレイとなるべく会わないように気を配っていた。
またサイに促され、仲間に後押しされたフレイに、仕方なさそうに謝られるのはもうイヤだった。
だからいきなり2人きりで、フレイにこんな風に話しかけられると緊張して逃げ出したくなる。かつて憧れのように持っていた好意は、今はただ卑屈なまでの気おくれと化し、ただ彼に拒絶されたり、否定されたくないという自尊心の欠如が露呈してしまっていた。
「…大丈夫だよな!?」
フレイはキラを見つめて言う。
「父さんの艦、やられたりしないよな?なぁ!?」
その不安げな灰色の瞳に、自信家で怖いものなしのフレイはいない。
たった今危険な目にあっている、大切な人を心配する眼だ。
「だ…大丈夫…だよ、フレイ。私たちも行くから」
ついそんな気休めを口にすると、フレイの瞳がふっと和らぎ、にこりと笑う。
キラはそれを見て、なぜか喩えようのない嬉しさを感じた。
バーナードに向かったアスランは、がら空きの横腹にピタリとつけた。
モビルアーマーなど、ジンの敵ではない。
アスランも何機か落とし、護衛艦を丸裸にしてやった。
(いつもながら、脆すぎる)
アスランはビームサーベルをかまえ、艦底からブリッジへ致命傷を与えた。
(キラ…どこにいるの?またきっと戦場に出てくるんでしょう?)
沈むバーナードになど何の興味もないように、アスランは振り返らず、次はローに襲い掛かるジンを援護に向かう。戦うべき友を待ちながら。
「敵は、ナスカ級にジン3機。それとイージスがいるわ。気を付けてね」
フラガを送り出したミリアリアが、続けて発進準備を整えているキラに戦局を伝えた。
(イージス…アスラン)
キラはきゅっと口を結ぶ。
「キラ!先遣隊にはフレイのお父さんがいるの。お願い!」
その通信に割り込んできたサイがキラに言う。優等生のサイにしては珍しい行動だった。それだけ、フレイにとってお父さんは大切なのだろう。
「わかった!」
どこまでやれるかはわからない。
(でもフレイが笑ってくれて、私がコーディネイターでも許してくれるのなら)
「カタパルト接続。エールストライカー、スタンバイ。システム、オールグリーン。進路クリア。ストライク、どうぞ!」
キラは、再び戦場へと飛び出した。
「バリアント!1番2番、撃ぇ!」
モントゴメリーに張り付いたジンが、思いもかけない伏兵に撃たれて爆散する。
「何?アークエンジェルが?」
「来てくれたのか!」
連邦がようやく作ったモビルスーツをみすみす敵に奪われて、しかもそれに自身が襲われるなどありえない…と叫んでいたアルスターは、戦闘が始まるとコープマンの隣で恐怖に震え、ずっと頭を抱えていた。
危険宙域とはいえ、ヘリオポリスの一件は連合として見逃すわけにはいかず、自分が「視察」という名の貧乏くじを引いたようなものだ。それでもこれだけの護衛艦に守られていれば大丈夫だろうと思い、しかも任務の途中で案じていた息子の無事も確認する事ができた。ここまでは順調に来ていたというのに…
(なのに、なんという事だ!)
モビルアーマー隊はほぼ全滅に近い。面白いように装備をもがれ、鉄の棺桶となった機体はあっけなく爆発する。新たに出てきた有線ガンバレルを持つゼロはやや抵抗を見せたものの、すぐにジンによって被弾し、推進力を失って失速した。
「なんてこったい!」とフラガは苛立って舌打ちした。
「これじゃ立つ瀬ないでしょう、俺は!」
戦局は完全にザフト優位だった。
ヴェサリウスではダメージの大きい戦艦ローへのミサイル発射が命じられる。
クルーゼの眼に、もはや地球軍など映っていない。
「本命の御登場だ。雑魚にあまり時間をかけるなよ」
やがてローは撃沈され、完全に沈黙した。
キラは混乱を極める戦場の中で、無意識にアスランを探していた。
アスランもまた、キラを見つけた。両者は今回はチャンネルを合わせることもなく、言葉もかわさずに、真っ直ぐに相手に切り込んだ。実際はビームサーベルが実剣のようにぶつかりあうことはないが、高エネルギー体同士がヴィン!と強く反発しあい、激しく震えるように太刀筋が揺らぎ、両者の機体が滑る。
もはや語る事はなかった。
キラはアスランに今までにない意志を感じ、アスランもまた、キラが今までに比べると何か迷いを振り払ったような気がした。
(守らなくちゃいけない…ナチュラルでは皆を守れないなら、私が皆を、フレイを…そうだ、フレイとの約束を守らなきゃ!)
ストライクの思わぬ猛攻にアスランは押され、やや陣を下げた。
ローが爆発する映像を見て、勝手にブリッジに入ってきたフレイは眼を見張った。
「何してるの!?出て行きなさい!」
驚いたマリューはブリッジを出るよう警告したが、フレイの眼は戦場を映し出すモニターに釘付けになっていた。
「フレイ!」
CICからサイが顔を出す。
蒼白の彼の顔色を見ると、サイは任務を投げ出して彼に駆け寄った。
「父さん…父さんの艦はどれだよ?どうなってるんだよ!!」
モビルアーマーはもう1機しか残っていない。それすらも見る間に撃墜された。
勝ち誇ったようにジンのモノアイがこちらを見ていた。
そしてすぐに、たった1隻残っている戦艦へと向かっていく。
フレイは直感した。
(あれだ…父さんはあれに乗っているんだ!)
全身に痺れるような震えが走り、フレイは息ができなくてパクパクと喘いだ。
そしてやがて気づいたようにサイの前のモニターを覗き込み、見慣れた白い機体を探そうとした。無論、レーダーの座標では彼には何もわからない。
「あいつ…キラは?…あいつは何やってるんだよ!?」
フレイはもどかしげに叫んだ。
その声にブリッジはぎょっとしたが、サイが「落ち着いて」となだめた。
「頑張って戦ってるわ。でも向こうにもイージスがいるし…なかなか…」
「でも!大丈夫だって言ったんだ!あいつ…自分たちも行くから大丈夫だって!」
―― 何やってるんだ、何やってるんだ、何やってるんだよ!
おまえがやるべき事は、俺の父さんを守ることだけだろう!!
ジンは容赦なくモントゴメリーに襲い掛かる。
イージスはストライクが抑えているものの、既にジンを抑えるべき戦力がない。
主砲塔が被弾し、機関部が損傷したモントゴメリーのダメージを見て、ジンは分散して各個に攻撃することにしたようだ。
即ち、1機はこちら専属になるということ…そんなもの嬉しくもなかった。
「艦長!だめだ!離脱しなきゃ、こっちまでやられるぞ!」
ローエングリンを撃ってもジンには避けられるだけだし、ナスカ級を討つには遠すぎる。被弾して戻り、戦場の様子をよく知るフラガがハンガーから叫んだ。
「これ以上は無理だ!」
ナタルは忙しく防衛線を立て直し、ミリアリアは必死にキラに呼びかける。
サイだけでは暴れるフレイを連れ出せなかったので、トールが手伝って彼を個室に連れて行った後、2人ともすぐ持ち場に戻り、それぞれCICと副操縦士を務めていた。怖がりのカズイすらも、今は泣きそうな声で通信補助に必死だ。
マードックからの報告によればアークエンジェルの艦底部及び機関部へのダメージも無視できないようだった。
退路は少ないが、今ならまだ、敵の目はモントゴメリーにある。
マリューは決断を迫られた。退くか、死ぬか。選択肢はそれだけだ。
「こいつを殺す!」
ドスの利いた声に、瞬間、ブリッジが凍りついた。
「父さんの艦を撃ったら、こいつを殺す!あいつらに言えっ!」
「きさま、何を!?」
「あなた…」
ナタルもマリューもベルトで止められた体を乗り出して振り返り、仰天した。
フレイが連れていたのは、ラクス・クラインだったのだ。
自室に戻されたフレイは、そのまま彼の部屋に行くと勝手にロックを解除し、彼の首に腕を回してここまで引きずってきた。ラクスに抵抗の意志はないようだったが、見た目よりもきつく締めあげられているのか、表情はやや苦しげだ。フレイの灰色の瞳には、狂気があった。
「早くそう言えよぉっ!!」
フレイがそう叫んだのと、ほぼ同時の出来事だった。
彼の父が脱出する間もなく、モントゴメリーは無残にも爆散したのだ。
フレイの時間が凍りつく。
力が抜け、男にしては華奢な体のラクスを離すと、フレイは輝くモニターに釘付けになったまま床に膝からくずおれた。ラクスは首を押さえてよろけ、自分を拉致した彼を見た。
「父さん…死ん…だ…」
やがて、フレイがブツブツと何か呟いているのが聞こえてきた。
マリューが気の毒そうに見たが、すぐに攻撃の続く戦場に眼を戻した。
「嘘だろ…嘘だと言ってくれ…こんなの、嘘だ…」
フレイは呆然としたまま項垂れた。
言葉すらもかわせないまま、父さんはいなくなってしまった。
やっと会えると思っていたのに。やっと安心できると思ったのに。
誰が父さんを殺した?誰が俺から父さんを奪った?誰が?誰が?
やがて残像を残して光は消え、そこには闇だけが口を開けていた。
「うわあぁぁ!!嘘だ、嘘だぁっ!!」
フレイの狂ったような絶叫に、カズイは思わず耳を塞ぐ。
誰もが眼をそむける中、ラクスだけがただ、彼を見つめていた。
(また一つ、爆発した)
キラはレーダーの友軍機のシグナルがロストするたび眉をひそめた。
(地球軍の艦はまだ残っているんだろうか)
何より、アークエンジェルは大丈夫だろうか…キラがそう思った時、アークエンジェルからの全周波放送が通信機から飛び込んできた。
「ザフト軍に告ぐ!こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル!」
「ナタルさん?何を…」
キラは驚いて通信機のボリュームを上げた。
「当艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインのご令息、ラクス・クライン氏を保護している」
「なっ…!?」
「え!?」
アスランとキラが同じタイミングで声を上げる。
(ラクス?ラクスと言った?)
アスランは急激にいつもの表情に戻っていった。
(ラクスがあの艦にいる?保護されている…ですって?)
ナタルは体裁のよい言葉で、ラクス・クラインを保護しているアークエンジェルに対し、今後何かしらの攻撃等が行われた場合、この件については「当艦が」「何を」「どうしてもよい」と意思表示をしたものとみなす…と宣言した。要は、攻撃したらおまえたちの大切な英雄に何するかわからないぞ、ということだ。
しかもその証拠にと、ラクス・クラインの姿をモニターで映し出してみせた。
ラクスは少し顔色の悪い様子だったが、それでも無理に笑ってみせた。
ナタルの宣言に、フラガはハンガーで「なんともまぁ…」と呟いた。
(さぁて…どうするんだろうね、うちの艦長さんは)
人質に取られた彼を見て、アスランはギリッと唇を噛んだ。
「卑怯な!!」
「格好の悪いことだな…援護に来て不利になったらこれか」
一方、ヴェサリウスのクルーゼはさもおかしそうに笑った。
アデスは不快そうに手で払うような仕草をしながら言った。
「人質にするなら最初から使えばいいものを」
「ふん。どうせ仲間を見捨てられずに戻ったはいいが、泥沼にはまって抜けられなくなったので、仕方なく隠し玉を使った…というお粗末な筋書きだろうな」
ふふ…クルーゼはさもおかしそうに笑った。
(これだからナチュラルは甘いと言われるのだ。それゆえにつけこむ隙が多いこともまた、事実だがね)
クルーゼはアデスに、全軍攻撃中止を打電するよう命じた。
(さて、アスラン…友と婚約者と、きみはどっちを選ぶのかな?)
キラはこの思いもかけない展開に言葉もなかった。
ブリッジで一体何があったのか。なぜラクスがあそこにいるのか。
なぜナタルはあんな事を言ったのか…いや、ラミアス艦長があれを命じたのか?ムウさんは何も言わなかったのか?一体何が起きた?と混乱するばかりだ。
キラには今、何がどうなっているのか全くわからなかった。
しかしそれはまだ、まさしく嵐の前の静けさと言ってよかった。
コックピットで黙々と作業に励んでいたキラは、ふと人の気配を感じて声をかけた。
「いや…どうかなぁって思って…」
顔を見せたのはマードックだ。
皆が休憩に入っても降りてこないキラを気遣ったのだが、いかんせん荒っぽい職人肌の自分に、こういったこまやかな行動は似合わない。
「オフセット値に合わせて、他もちょっと調整してるだけです。あ、でも…もういいのかなぁ…」
キラは鼻をかきながら、呟くように言った。
「やっとけやっとけ。無事合流するまでは、おまえさんの仕事だよ」
マードックはなんだかんだ言っても、素直で聞き分けのいいこの小娘を結構気に入っていた。フラガも同じだと感じている。
コーディネイターということも、そう、ちょっとばかり…というか、かなり優秀な点を除けば、おとなしい普通の女の子という感じだ。
無論、モビルスーツに乗れば天下無双の守護神になるのも確かだが…
「何ならその後、志願して残ったっていいんだぜ?」
「冗談じゃないですよ!」
キラはむくれたように言う。
マードックなりの、おまえはここにいてもいいという意思表示に気づいたのか気づかなかったのかは、キラの凍ったような表情からはわからなかった。
その頃、アークエンジェルのブリッジには、第8艦隊所属・第6先遣隊のモントゴメリーから、ランデブー・ポイントへの到達時間が通達されていた。
乗員は皆、明るい表情で艦長コープマンの言葉を聞いている。
ついに安全が保障される…孤独な一人旅はもうじき終わるのだ。
そこにはフレイの父、ジョージ・アルスターも同乗していた。
彼はヘリオポリスの避難民救助に尽力した艦長以下クルーに礼を述べ、その後、その中に息子がいたことに感謝の念を述べた。
サイがこっそりと乗員名簿を流したことを知らなかったマリューは「え!?」と思わず声を上げてしまったが、相手が連邦の事務次官であり、しかもフレイ・アルスターの父親なら、コーディネイターのキラへの待遇、さらにはラクス・クラインへの処遇も配慮してもらえるかもしれないと、心の中でほくそえんだ。
マリューが何を考えているかなど、ナタルにはお見通しだったが、艦長の楽天家ぶりにも、少なくともザフトの警戒域でもある宙域で息子に会わせてくれと言う
次官の親バカぶりにもウンザリしていたことは確かだった。
しかしひと時の安穏はけたたましいアラートによって破られた。
ランデブー・ポイントに向かうモントゴメリー、バーナード、ローの三艦を、何者かがロックし、攻撃を仕掛けてきたのだ。
モビルスーツは4機。コープマンはすぐにモビルアーマー隊を発進させたが、数では勝るとしても、果たしてモビルスーツ隊にかなうかどうかはわからなかった。
「アークエンジェルへ、反転離脱を打電!」
彼の判断は迅速だった。
ハルバートン准将のもとに、あの艦と、艦に乗るたった1機のGを届けなければならないのに、こんなところで落とされてはならない。
「ここまで来て…本気かね、艦長!?」
アルスターはあと一歩で息子に会えるという想いからか、声を荒げて抵抗した。
しかし、これが今現在取れる最も正しい策なのだ。
「モントゴメリーより入電!ランデブーは中止!アークエンジェルは直ちに反転離脱、とのことです」
パルの報告に、さしものナタルも「艦長!」と叫ぶ。
「敵の戦力は?」
マリューは冷静だった。
「イエロー257、マーク40にナスカ級。熱紋照合、ジン3、それと…待ってください…これは…イージス!?X-303、イージスです!」
「では、あの時のナスカ級が!?」
ブリッジの誰もが息を飲んだ。
フラガに傷を負わされ、撤退したナスカ級がもう戻ってきたのだ。
「…そして我々が合流するはずだった先遣隊を襲っているというわけね」
マリューに迷いはない。
相手が3艦いようとも、4機のモビルスーツでかかればどうなるかわからない。
もしそうなれば、ここで逃げてもしぶといナスカ級はまた、自分たちの後を追ってくるだろう。何より…はるばる迎えに来てくれた友軍を、連合の艦を見捨てて逃げるなど、今この場の誰も考えていないはずだ。
「総員、第一戦闘配備!アークエンジェルは、先遣隊援護に向かいます!」
甘いと言われようと、命令に従うべき軍人として失格だろうと、マリューにはこの選択肢しか選ぶことはできなかった。
艦内に響き渡る警報に急かされ、キラはパイロットルームへ向かう。
頭の中で、ストライクの整備が完璧に終わっているかどうか、確認を繰り返しながら。その時、足元に何かが転がり出てきた。
「モシモシ?モシモーシ!」
「!?また?!」
これは、ラクスが持っていた小さなボール型ロボットだった。
キラは立ち止まってきょろきょろとあたりを見回す。
「何かあったの?急に賑やかに…」
(やっぱり!)
キラはのほほんと廊下を歩いているラクスを両手で止める。
「戦闘配備なんです!さぁ中に入って…ここの鍵は一体どうなって…」
「戦闘配備って、戦いになるの?」
ラクスにはこの警報や飛び交うコールが聞こえないのだろうか。
「そうですよ。ってか、もうとっくにそうです」
「キラさんも戦うの?」
そう聞かれて、キラははっとする。
ラクスにその意図があったかどうかはわからないが、キラには「きみはコーディネイターなのに?」と続けて尋ねられたような気がしたからだ。
「と、とにかく、部屋から出ないでください。今度こそ…いいですね?」
キラはそれをごまかすように、彼を部屋に押し込めてドアをロックする。
(今は何も考えないようにしよう)
キラはドアの前で胸に手を当てて自分を落ち着かせようとした。
(戦わなければ、皆死んでしまう。戦うのはいやだけど、仕方がないんだ…)
「キラ!」
再び走り出したキラの足を、再び止めたのはフレイだった。
彼は不安そうにキラを見つめ、駆け寄ってきた。
「なぁ、戦闘配備ってどういうことなんだ?先遣隊は?」
今にも掴みかからんばかりにフレイはキラに迫ってくる。
「わ、からない…私にはまだ何も…」
あの一件以来、キラはフレイとなるべく会わないように気を配っていた。
またサイに促され、仲間に後押しされたフレイに、仕方なさそうに謝られるのはもうイヤだった。
だからいきなり2人きりで、フレイにこんな風に話しかけられると緊張して逃げ出したくなる。かつて憧れのように持っていた好意は、今はただ卑屈なまでの気おくれと化し、ただ彼に拒絶されたり、否定されたくないという自尊心の欠如が露呈してしまっていた。
「…大丈夫だよな!?」
フレイはキラを見つめて言う。
「父さんの艦、やられたりしないよな?なぁ!?」
その不安げな灰色の瞳に、自信家で怖いものなしのフレイはいない。
たった今危険な目にあっている、大切な人を心配する眼だ。
「だ…大丈夫…だよ、フレイ。私たちも行くから」
ついそんな気休めを口にすると、フレイの瞳がふっと和らぎ、にこりと笑う。
キラはそれを見て、なぜか喩えようのない嬉しさを感じた。
バーナードに向かったアスランは、がら空きの横腹にピタリとつけた。
モビルアーマーなど、ジンの敵ではない。
アスランも何機か落とし、護衛艦を丸裸にしてやった。
(いつもながら、脆すぎる)
アスランはビームサーベルをかまえ、艦底からブリッジへ致命傷を与えた。
(キラ…どこにいるの?またきっと戦場に出てくるんでしょう?)
沈むバーナードになど何の興味もないように、アスランは振り返らず、次はローに襲い掛かるジンを援護に向かう。戦うべき友を待ちながら。
「敵は、ナスカ級にジン3機。それとイージスがいるわ。気を付けてね」
フラガを送り出したミリアリアが、続けて発進準備を整えているキラに戦局を伝えた。
(イージス…アスラン)
キラはきゅっと口を結ぶ。
「キラ!先遣隊にはフレイのお父さんがいるの。お願い!」
その通信に割り込んできたサイがキラに言う。優等生のサイにしては珍しい行動だった。それだけ、フレイにとってお父さんは大切なのだろう。
「わかった!」
どこまでやれるかはわからない。
(でもフレイが笑ってくれて、私がコーディネイターでも許してくれるのなら)
「カタパルト接続。エールストライカー、スタンバイ。システム、オールグリーン。進路クリア。ストライク、どうぞ!」
キラは、再び戦場へと飛び出した。
「バリアント!1番2番、撃ぇ!」
モントゴメリーに張り付いたジンが、思いもかけない伏兵に撃たれて爆散する。
「何?アークエンジェルが?」
「来てくれたのか!」
連邦がようやく作ったモビルスーツをみすみす敵に奪われて、しかもそれに自身が襲われるなどありえない…と叫んでいたアルスターは、戦闘が始まるとコープマンの隣で恐怖に震え、ずっと頭を抱えていた。
危険宙域とはいえ、ヘリオポリスの一件は連合として見逃すわけにはいかず、自分が「視察」という名の貧乏くじを引いたようなものだ。それでもこれだけの護衛艦に守られていれば大丈夫だろうと思い、しかも任務の途中で案じていた息子の無事も確認する事ができた。ここまでは順調に来ていたというのに…
(なのに、なんという事だ!)
モビルアーマー隊はほぼ全滅に近い。面白いように装備をもがれ、鉄の棺桶となった機体はあっけなく爆発する。新たに出てきた有線ガンバレルを持つゼロはやや抵抗を見せたものの、すぐにジンによって被弾し、推進力を失って失速した。
「なんてこったい!」とフラガは苛立って舌打ちした。
「これじゃ立つ瀬ないでしょう、俺は!」
戦局は完全にザフト優位だった。
ヴェサリウスではダメージの大きい戦艦ローへのミサイル発射が命じられる。
クルーゼの眼に、もはや地球軍など映っていない。
「本命の御登場だ。雑魚にあまり時間をかけるなよ」
やがてローは撃沈され、完全に沈黙した。
キラは混乱を極める戦場の中で、無意識にアスランを探していた。
アスランもまた、キラを見つけた。両者は今回はチャンネルを合わせることもなく、言葉もかわさずに、真っ直ぐに相手に切り込んだ。実際はビームサーベルが実剣のようにぶつかりあうことはないが、高エネルギー体同士がヴィン!と強く反発しあい、激しく震えるように太刀筋が揺らぎ、両者の機体が滑る。
もはや語る事はなかった。
キラはアスランに今までにない意志を感じ、アスランもまた、キラが今までに比べると何か迷いを振り払ったような気がした。
(守らなくちゃいけない…ナチュラルでは皆を守れないなら、私が皆を、フレイを…そうだ、フレイとの約束を守らなきゃ!)
ストライクの思わぬ猛攻にアスランは押され、やや陣を下げた。
ローが爆発する映像を見て、勝手にブリッジに入ってきたフレイは眼を見張った。
「何してるの!?出て行きなさい!」
驚いたマリューはブリッジを出るよう警告したが、フレイの眼は戦場を映し出すモニターに釘付けになっていた。
「フレイ!」
CICからサイが顔を出す。
蒼白の彼の顔色を見ると、サイは任務を投げ出して彼に駆け寄った。
「父さん…父さんの艦はどれだよ?どうなってるんだよ!!」
モビルアーマーはもう1機しか残っていない。それすらも見る間に撃墜された。
勝ち誇ったようにジンのモノアイがこちらを見ていた。
そしてすぐに、たった1隻残っている戦艦へと向かっていく。
フレイは直感した。
(あれだ…父さんはあれに乗っているんだ!)
全身に痺れるような震えが走り、フレイは息ができなくてパクパクと喘いだ。
そしてやがて気づいたようにサイの前のモニターを覗き込み、見慣れた白い機体を探そうとした。無論、レーダーの座標では彼には何もわからない。
「あいつ…キラは?…あいつは何やってるんだよ!?」
フレイはもどかしげに叫んだ。
その声にブリッジはぎょっとしたが、サイが「落ち着いて」となだめた。
「頑張って戦ってるわ。でも向こうにもイージスがいるし…なかなか…」
「でも!大丈夫だって言ったんだ!あいつ…自分たちも行くから大丈夫だって!」
―― 何やってるんだ、何やってるんだ、何やってるんだよ!
おまえがやるべき事は、俺の父さんを守ることだけだろう!!
ジンは容赦なくモントゴメリーに襲い掛かる。
イージスはストライクが抑えているものの、既にジンを抑えるべき戦力がない。
主砲塔が被弾し、機関部が損傷したモントゴメリーのダメージを見て、ジンは分散して各個に攻撃することにしたようだ。
即ち、1機はこちら専属になるということ…そんなもの嬉しくもなかった。
「艦長!だめだ!離脱しなきゃ、こっちまでやられるぞ!」
ローエングリンを撃ってもジンには避けられるだけだし、ナスカ級を討つには遠すぎる。被弾して戻り、戦場の様子をよく知るフラガがハンガーから叫んだ。
「これ以上は無理だ!」
ナタルは忙しく防衛線を立て直し、ミリアリアは必死にキラに呼びかける。
サイだけでは暴れるフレイを連れ出せなかったので、トールが手伝って彼を個室に連れて行った後、2人ともすぐ持ち場に戻り、それぞれCICと副操縦士を務めていた。怖がりのカズイすらも、今は泣きそうな声で通信補助に必死だ。
マードックからの報告によればアークエンジェルの艦底部及び機関部へのダメージも無視できないようだった。
退路は少ないが、今ならまだ、敵の目はモントゴメリーにある。
マリューは決断を迫られた。退くか、死ぬか。選択肢はそれだけだ。
「こいつを殺す!」
ドスの利いた声に、瞬間、ブリッジが凍りついた。
「父さんの艦を撃ったら、こいつを殺す!あいつらに言えっ!」
「きさま、何を!?」
「あなた…」
ナタルもマリューもベルトで止められた体を乗り出して振り返り、仰天した。
フレイが連れていたのは、ラクス・クラインだったのだ。
自室に戻されたフレイは、そのまま彼の部屋に行くと勝手にロックを解除し、彼の首に腕を回してここまで引きずってきた。ラクスに抵抗の意志はないようだったが、見た目よりもきつく締めあげられているのか、表情はやや苦しげだ。フレイの灰色の瞳には、狂気があった。
「早くそう言えよぉっ!!」
フレイがそう叫んだのと、ほぼ同時の出来事だった。
彼の父が脱出する間もなく、モントゴメリーは無残にも爆散したのだ。
フレイの時間が凍りつく。
力が抜け、男にしては華奢な体のラクスを離すと、フレイは輝くモニターに釘付けになったまま床に膝からくずおれた。ラクスは首を押さえてよろけ、自分を拉致した彼を見た。
「父さん…死ん…だ…」
やがて、フレイがブツブツと何か呟いているのが聞こえてきた。
マリューが気の毒そうに見たが、すぐに攻撃の続く戦場に眼を戻した。
「嘘だろ…嘘だと言ってくれ…こんなの、嘘だ…」
フレイは呆然としたまま項垂れた。
言葉すらもかわせないまま、父さんはいなくなってしまった。
やっと会えると思っていたのに。やっと安心できると思ったのに。
誰が父さんを殺した?誰が俺から父さんを奪った?誰が?誰が?
やがて残像を残して光は消え、そこには闇だけが口を開けていた。
「うわあぁぁ!!嘘だ、嘘だぁっ!!」
フレイの狂ったような絶叫に、カズイは思わず耳を塞ぐ。
誰もが眼をそむける中、ラクスだけがただ、彼を見つめていた。
(また一つ、爆発した)
キラはレーダーの友軍機のシグナルがロストするたび眉をひそめた。
(地球軍の艦はまだ残っているんだろうか)
何より、アークエンジェルは大丈夫だろうか…キラがそう思った時、アークエンジェルからの全周波放送が通信機から飛び込んできた。
「ザフト軍に告ぐ!こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル!」
「ナタルさん?何を…」
キラは驚いて通信機のボリュームを上げた。
「当艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインのご令息、ラクス・クライン氏を保護している」
「なっ…!?」
「え!?」
アスランとキラが同じタイミングで声を上げる。
(ラクス?ラクスと言った?)
アスランは急激にいつもの表情に戻っていった。
(ラクスがあの艦にいる?保護されている…ですって?)
ナタルは体裁のよい言葉で、ラクス・クラインを保護しているアークエンジェルに対し、今後何かしらの攻撃等が行われた場合、この件については「当艦が」「何を」「どうしてもよい」と意思表示をしたものとみなす…と宣言した。要は、攻撃したらおまえたちの大切な英雄に何するかわからないぞ、ということだ。
しかもその証拠にと、ラクス・クラインの姿をモニターで映し出してみせた。
ラクスは少し顔色の悪い様子だったが、それでも無理に笑ってみせた。
ナタルの宣言に、フラガはハンガーで「なんともまぁ…」と呟いた。
(さぁて…どうするんだろうね、うちの艦長さんは)
人質に取られた彼を見て、アスランはギリッと唇を噛んだ。
「卑怯な!!」
「格好の悪いことだな…援護に来て不利になったらこれか」
一方、ヴェサリウスのクルーゼはさもおかしそうに笑った。
アデスは不快そうに手で払うような仕草をしながら言った。
「人質にするなら最初から使えばいいものを」
「ふん。どうせ仲間を見捨てられずに戻ったはいいが、泥沼にはまって抜けられなくなったので、仕方なく隠し玉を使った…というお粗末な筋書きだろうな」
ふふ…クルーゼはさもおかしそうに笑った。
(これだからナチュラルは甘いと言われるのだ。それゆえにつけこむ隙が多いこともまた、事実だがね)
クルーゼはアデスに、全軍攻撃中止を打電するよう命じた。
(さて、アスラン…友と婚約者と、きみはどっちを選ぶのかな?)
キラはこの思いもかけない展開に言葉もなかった。
ブリッジで一体何があったのか。なぜラクスがあそこにいるのか。
なぜナタルはあんな事を言ったのか…いや、ラミアス艦長があれを命じたのか?ムウさんは何も言わなかったのか?一体何が起きた?と混乱するばかりだ。
キラには今、何がどうなっているのか全くわからなかった。
しかしそれはまだ、まさしく嵐の前の静けさと言ってよかった。
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制作裏話-PHASE9-
先遣隊に襲い掛かるクルーゼ隊との戦いがメインの回です。
フレイが父を救おうとしてラクスを人質にとったものの、ジョージ・アルスターの乗るモントゴメリーはフレイの目の前で爆発炎上してしまいます。
この後フレイは、父の仇コーディネイターを滅ぼすために、コーディネイターのキラを使う事になりますが、う~ん、この設定はやっぱり「悪女」の方がいいですよねぇ、圧倒的に。
自分を餌にして男を操るフレイさんはガンダム史上稀に見る潔いダークヒロインだと思いますよ。
そんな風に濃い本編に比べて薄味になるのは仕方がないと思いつつ、ここはほぼ本編どおりに進みます。ラクスもまだまだおっとりした不思議君ですし。
馴染んでいるのに孤立していくというキラと対比するため、アスランは無駄口を利かず、戦艦を落としまくる冷徹なパイロットとして書いています。
非常に手前味噌で恐縮ですが、無駄な描写もなくて読みやすいですね。
フレイが父を救おうとしてラクスを人質にとったものの、ジョージ・アルスターの乗るモントゴメリーはフレイの目の前で爆発炎上してしまいます。
この後フレイは、父の仇コーディネイターを滅ぼすために、コーディネイターのキラを使う事になりますが、う~ん、この設定はやっぱり「悪女」の方がいいですよねぇ、圧倒的に。
自分を餌にして男を操るフレイさんはガンダム史上稀に見る潔いダークヒロインだと思いますよ。
そんな風に濃い本編に比べて薄味になるのは仕方がないと思いつつ、ここはほぼ本編どおりに進みます。ラクスもまだまだおっとりした不思議君ですし。
馴染んでいるのに孤立していくというキラと対比するため、アスランは無駄口を利かず、戦艦を落としまくる冷徹なパイロットとして書いています。
非常に手前味噌で恐縮ですが、無駄な描写もなくて読みやすいですね。