忍者ブログ
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
ブログ内検索
機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
[11]  [12]  [13]  [14]  [15]  [16]  [17]  [18]  [19]  [20]  [21]  

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「離脱中の艦を……おのれクルーゼ!」

ハルバートンはクルーゼの卑劣な追い討ちに怒りを隠せなかった。

拍手


響くアラートの中、キラはパイロット・ルームに向かっていた。
ドアを開け、自分のロッカーのブロックに向かった時、そこに思いもかけない人影を見つけてギクリとする。
それは、キラのヘルメットを手にしたフレイだった。
「…キラ!?」
フレイは驚いたように彼女を見て言った。
「もうとっくに行ってしまったとばかり思ったのに…どうしたんだ?どうしてランチに乗らなかったんだ?」
フレイの質問にキラはしどろもどろに答えた。
「サイや、トールや、皆が…フレイが残ったって聞いて…それで…」
「そうか…戻ってきてくれたんだな、俺たちのために」
フレイはそれを聞いて嬉しそうに笑った。
「俺、皆が戦ってるのに…初めに戦うって言ったのに、俺だけ戦ってないだろ。だから、俺さ…俺が…」
キラは今の状況を思い返した。
パイロットルームで、ヘルメットを手に持っているフレイ。
「まさか!…フレイ!そんなバカなこと!モビルスーツなんて無理だよ…だってきみは…」
「ナチュラル…だから?」
キラははっと言葉を止めた。
「そうだよな。あんなすごい兵器、俺に動かせるわけがない」
フレイは寂しそうにヘルメットを撫でながら呟いた。
「おまえみたいな女の子に、あんなもので戦わせて…俺には…ナチュラルの俺には、本当に何の力もないんだな」
キラは俯いたフレイを見て胸が締め付けられるようだった。
できてしまうことに悩む自分と、できないことに悩むフレイと…こんな戦いを終りにしたいと思うことは、誰だって同じだ。
(なら、私もフレイも、自分ができることをやればいいだけ)
キラは真っ直ぐフレイを見つめ、きっぱりと言った。
「ストライクには…私が乗る!フレイの分も戦うから!」
「キラ…」
フレイが顔を上げ、キラを見つめかえした。灰色の眼が少し濡れている。
(勝気で、強気で、わがままなフレイが…泣いている…?)
こんな事がなければ今もヘリオポリスで、自信に満ち、大勢の取り巻きに囲まれて、明るく過ごしていたであろうフレイ…
(みんな、こんな戦争に巻き込まれて、辛くて、苦しくて、哀しいんだ)
キラはもうフレイを見つめる事に気後れを感じることはなかった。
自分もフレイも、同じように戦争に苦しめられ、戦争を終わらせたいと願っている仲間なのだと思えた。それ以上に、彼への想いが募ってあふれそうだった。
「だから、フレイの想いの分も…もう、逃げない。決めたの。しょうがないもの。この戦争を終わらせなきゃ…私たちだって…」
一生懸命気持ちを語るキラの言葉は、そこで遮られた。
気づくと、キラの小さな体はフレイに抱きしめられていた。
(フ…レイ…?)
キラの心臓は破裂しそうなほど脈打ち、この状況に頭が混乱する。
一瞬、メガネをかけたサイの顔が浮かんだが、フレイの腕の中は暖かくて、心地よくて、なんだか不思議なほど安心できるのだ。キラは思わずサイのことを振り払うと、フレイの胸に顔を埋めた。
フレイはそんなキラをさらに抱きしめると、「ありがとう」と呟いた。
「いつも、怖い想いをさせて、ごめん。ずっと1人ぼっちにして、ごめん」
「あ…」
フレイの言葉は、傷ついてボロボロだったキラの心に優しく沁みていった。
「ナチュラルの俺は、一緒には戦えないかもしれないけど…なら…」
フレイは少しだけ体を離すと、キラの頬にそっと触れた。

「…俺の想いは…きみを守るよ…」

そのまま、フレイの唇がキラの唇に重なる。
キラは驚いて眼を見開き、初めてのくちづけに戸惑いを隠せない。
けれどそれはなんという甘い幸せだろう。キラは瞳を閉じ、彼に身を任せた。

第8艦隊はメネラオスを中心に密集陣形を取り、ワルキューレと呼ばれるモビルアーマー部隊を発進させる。アークエンジェルは旗艦のそばにあり、続々と集まって迎撃に備える艦隊を見守った。
ナタルはいつもどおり迎撃体制を整え、万全の状態で敵を待つ。
いつもより人口密度の低いブリッジで、マリューもきびきびと指示を与えていたが、そこに突然現れたトールやミリアリアを見て驚いた。
「遅れてすみません!」
「あ、あなたたち!?」
メネラオスのランチはとっくに出てしまった。
「なぜ戻ってきたの!?」
「志願兵です。ホフマン大佐が受領し、私が承認致しました」
ナタルはサラッと事実だけを述べ、サイやミリアリアに指示を与える。
「そんな…だって…」
マリューは眉をひそめ、それでも彼らが戻った事に、少しうしろめたい嬉しさも感じていた。

「イージス、バスター、ブリッツ、デュエルか!」
ハルバートンは自らが開発させたGの雄姿を敵の手で見せつけられ、苦々しい思いを禁じえない。
ナスカ級からはジン4機を引き連れて赤いX-303イージスが、ローラシア級からはX-103バスター、X-207ブリッツ、少し遅れて見覚えのない装備のモビルスーツが出てきたが、その熱紋は同じGATシリーズのX-102デュエルであった。
「確かに…見事なモビルスーツですな。が、敵ではやっかないだけだ」
ホフマンも戦場の中で特に機敏な動きを見せる彼らを見て呟く。

「ハルバートンは、どうあってもあれを地球に降ろす気だ」
ラウ・ル・クルーゼは戦況図を見ながらアデスに言った。
「ヤツは戦艦とモビルアーマーではもはや我らに勝てないと知っている」
「モビルスーツの実戦投入による成果を示したいのでしょうな」
アデスが呆れるように言った。
「ならばせめて、この戦闘でその自説を証明してさしあげよう」
クルーゼはにやりと笑った。
(月艦隊全滅という悲劇は、きっと地球軍を動かす事になるだろう)

「奴は?!ストライクはどこだっ!!」
深手を負って治療中だったイザークが、まさか戦闘に参加するとは思っておらず、戦場にデュエルを見つけたディアッカは仰天した。
「イザーク、おまえ、なんで…」
「くっそぉ!出て来いっ!」
案の定、熱くなってレールガン、ミサイルポッド、ビームライフルを乱射しまくるものの、そこは一応腕のよさもあり、メビウスや戦艦プトレマイオスを爆散させていく。
「…怪我人のくせに張りきりすぎだろう」
ディアッカはそんな彼を見てため息をついたが、デュエルの景気のいい戦果に負けじと、火力の高い超高インパルス長射程ライフルをかまえてアンティゴノスを撃沈した。
ディアッカは心地よい勝利感に高笑いし、イザークは怒りをぶちまけながら、ひたすらストライクを探し続けた。

その頃ブリッツはミラージュ・コロイドをうまく使い分けながら、メビウスの群れを突破し、戦艦カサンドロスに取り付いた。
そしてブリッジを探し当てると右腕のグレイプニールを打ち込む。
これではもちろん致命傷にはならないが、眼と耳を失えば戦艦も自然、動きが止まるものだ。思ったとおりカサンドロスは離脱を始めた。
アスランもまた、今回は今まで以上にMS形態とMA形態を使い分け、スキュラを放つ回数が増えた。戦艦に張りつき、この複列位相エネルギー砲を放つだけで、ほとんどの戦艦は沈黙する。
無論イージスも驚くほどの数のモビルアーマー群をかいくぐり、時にはそれら数機を一度に屠りながら、また戦艦が放つビームやミサイルを避けてたどり着く必要がある。
彼ら自身、既にGをかなり上手に使いこなせるようになっており、もともと高い戦闘能力も、さらに向上して熟練度が増したと言える。
しかしクルーゼには、彼らの戦いぶりはお気に召さないようだ。
「アスランとニコルは甘いな…人を残せば、そいつはまた新たな武器を手に来るぞ」
そしてアスランとニコルがそれぞれ沈黙させたセレウコス、カサンドロスに突撃照準を命じる。
「手負いにするより殺した方が情けということもあるからな」
クルーゼの命で討たれた離脱中の艦は、無残にも爆発して散った。

「ああ…」
モニターを見ていたミリアリアが思わず声をあげた。
管制として腕を上げている彼女には、現在の戦況が楽観を許さないとわかってしまうのだ。数では圧倒的なのに、味方を示す光が次々と消えていく…味方の陣はどんどん狭まり、追い詰められていた。
「おい!なんで俺は発進待機なんだよ!」
修理を終えて万全だったゼロに乗ったものの、未だ待機のままのフラガがとうとう痺れを切らしてブリッジに通信を入れてきた。
「第8艦隊だって、あれ4機相手じゃやばいぞ!?」
マリューは逸るフラガをなだめ、メネラオスに通信を繋がせる。
戦況は刻一刻と悪化している。フラガはああ言うが、めぼしい戦力のないアークエンジェルがここにいても、忌々しい4機のGたちに狙い討たれるだけだ。

メネラオスでは艦隊の指揮に忙しく、あちこちで怒号が飛んでいた。
僚艦を次々と落とされて薄くなった防衛線のため、さらに戦艦クセルクセス、パリスが前に出て旗艦を守る。しかしデュエルとバスターが新たな獲物に嬉々として向かってくる姿を見ると、ホフマンの指示も自然感情的になる。
「ビームを使うんだ!落とせ!やつらを近づけるな!」
そんなメネラオスに響いたマリューの声は、思いもかけないものだった。
「本艦は艦隊を離脱し、直ちに降下シークエンスに入りたいと思います。許可を!」
「なんだと!?自分たちだけ逃げ出そうという気か!」
マリューの言葉に、必死に戦闘指揮を取る副官ホフマンは怒りを隠せない。
しかしマリューはひるまず続けた。
「敵の狙いは本艦です!本艦が離れなければ、このまま艦隊は全滅です! 」
この言葉は一部は正しいが、一部は正しくない。
なぜならクルーゼの狙いの一つは確かにアークエンジェルだったが、もう一つの狙いがハルバートンと艦隊を撃破することだったのだから。
「アラスカは無理ですが、この位置なら地球軍制空権内へ降りられます」
アークエンジェルが突入限界点まで持ちこたえれば、少なくともジンとザフト艦は振り切れるだろう。
「ふん!相変わらず無茶な奴だな」
「部下は、上官に倣うものですから…」
守る戦いより、生き延びるための戦いをして欲しいという、それは彼女なりの上官へのメッセージだった。
「いいだろう。アークエンジェルは直ちに降下準備に入れ。限界点まではきっちり送ってやる。送り狼は、1機も通さんぞ!」
アークエンジェルのブリッジが、再びあわただしくなった。

アスランたちは戦いを優勢に進めてはいたものの、とにかくモビルアーマーの数が半端ではない。ニコルは襲い掛かる2機をほぼ同時にかわし、ランサーダートを打ち込んで仕留めている。
アスランはMAをサーベルで一閃し、ディアッカは収束火線ライフルでうるさいハエを叩いて「グゥレイトッ!数だけは多いぜ!」と叫んだ。
しかしイザークはまだ望む相手を見つけられず、イライラしていた。
「出てこいストライク!でないと…でないと傷が疼くだろうがぁ!!!」
「イザーク、出過ぎないで!」
熱くなりすぎているイザークをアスランは何度か諌めたが聞く耳を持たない。
けれど反面、キラが出てこないことにほっとしている自分もいる。
いや、もしかして足つきがまだ無事でいる事にさえも…

「総員、大気圏突入準備作業を開始せよ」
アークエンジェルでは、思ったよりしっかりした口調でカズイが艦内放送を行っていた。各部の隔壁が閉じられ、断熱シャッターが降り始める。
「降りるぅ?この状況でか!?」
ゼロで待機しているフラガが素っ頓狂な声をあげた。
「何を考えてるんだ艦長は!」
「俺に怒鳴ったって、しゃーねぇでしょう!」
耳元で突然怒鳴られたマードックが抗議する。
「にっちもさっちもいかない劣勢に、大尉を出す事もできず、ただ味方がボロボロにやられていくのを見てるだけ」
マードックはそう言いながらもせっせと手を動かしてゼロの調整を続けている。
「そんならさっさとトンズラして、連中の守りの布陣を解いてやろう、って事でしょうよ、きっと!」
「いや、けどさぁ…ザフト艦とジンは振り切れても…」
「あの4機が問題ですね」
その時、聞き慣れた声がフラガの後を継いだので、フラガもマードックも驚いて振り向き、そして眼を見張った。
そこにはパイロット・スーツを着たキラ・ヤマトがいて、どこか明るい、今までとは少し違う表情で笑っている。
2人の男は艦を降りたはずの少女の姿にあっけに取られ、ただバカみたいにポカンと彼女を見ているだけだった。
「ストライクで待機します。まだ、第一戦闘配備ですよね?」
キラはそう言うとすぅっとストライクのコックピットに吸い込まれた。
マードックとフラガは相変わらずそちらを見ていただけだが、心なしか嬉しそうなマードックに比べ、フラガはやや渋い顔で呟いた。
「あんな若い頃から…しかも女の子が、戦争を見て、戦場の熱に浮かされたんじゃ、あとの人生きついぜ」
キラはいつものようにストライクを起動させ、機能チェックを行う。
(スペックを落とさずにいて正解だった)
手になじむ操縦桿も、シフトレバーも、押しなれたスイッチも、何だか懐かしく思える。
そのままヘルメットをかぶろうとしたキラは、ふと自分の唇に手をあてた。
そこにはまだ、生まれて初めて感じた熱が残っているようだった。

「降下シークエンス、チェック終了。システム、オールグリーン」
パルが降下シークエンスが正常に起動することを報告すると、トールは軌道の修正値を告げていった。
「降下角、6.1、シータ、プラス3…」
マリューは今が絶好の機会であるとメネラオスに信号を送らせた。
ハルバートン准将は降下を許可し、アークエンジェルはいよいよ初めての降下シークエンスに入るとノイマンが宣言する。
「降下開始!機関40%。微速前進。4秒後に、姿勢制御」
現在シークエンスはフェイズワン。大気圏突入限界点までは約7分だ。
この時間を守りきれば、艦隊は各々の防衛に戻れる。メネラオスからはハルバートンの命令が飛んでいた。
「本艦隊はこれより、大気圏突入限界点までの、アークエンジェル援護防衛戦に移行する。厳しい戦闘になるとは思うが、彼の艦は、明日の戦局の為に決して失ってはならぬ艦である」
既に味方の戦力を大幅に失いながら、縁もゆかりもない新造戦艦を守れと言うのは、ほとんどの兵士たちには酷な事だったであろう。
けれどハルバートンはその兵士のために、自身の願いを捨てる事ができなかった。
その堅牢な意志がGプロジェクトを遂行させ、その頑迷さがキラやラミアスたちを更なる窮地に追い込むとも知らずに。

アークエンジェルの降下体制に気づき、ヴェサリウスのクルーゼもアスランたち4機も驚きを隠せなかった。
「足つきめ、味方艦隊を置き去りにして降下するというのか!」
その無謀な行動にはさしものクルーゼも声を荒げる。
「なんとしても降下する前に仕留めるんだ!」
イザークとディアッカが、アスランが止める間もなく飛び出したが、メネラオスは主砲を放って威嚇し、アークエンジェルを守った。
メネラオスに近いという事は足つきにも近いが、同時に重力圏も近いということだ。イザークは思わぬ邪魔に怒り狂ってレールガンとランチャーを撃ちまくり、バスターもインパルスで応戦している。
さしものメネラオスもバスターとデュエル相手ではどこまで持つかわからない。
「フラガ大尉!」
それを直感したキラは思わず叫んだ。
「ああ、わかってる!」
フラガもそう答えるとブリッジへの緊急通信を開いた。
「艦長!ギリギリまで俺たちを出せ!何分ある?」
「大尉、ですから…!」
ブリッジのマリューはまたしてもフラガの通信にやや苛立ちつつ、けれど彼が言った「俺たち」という複数形をいぶかしんだ途端、聞き慣れた声が聞こえたことに驚いてモニターを覗き込んだ。
「カタログスペックでは、ストライクは単体でも降下可能です!」
これにはブリッジにいた誰もが驚きを隠せなかった。
「キラさん!?どうしてあなた…そこに…?」
「このままじゃ、メネラオスも危ないです、艦長!」
今は答えているヒマはない。いつものおとなしそうなキラはどうしたのかと思うくらい、彼女ははっきりと意思表示をした。
「出ます!許可を!」
「わかった!ただし、フェイズスリーまでに戻れ!」
戸惑うマリューに代わり、すばやく指示を出したのはナタルだった。
「スペック上は大丈夫でも、やった人間はいない。中がどうなるかは知らないぞ。高度とタイムは常に注意しろ!」
キラは「はい!」と返事をして通信を切り、出撃準備に入る。
「ナタル、どうして…!」
ナタルの判断に抗議するマリューに、ナタルはきっぱりと言った。
「ここで本艦が落ちたら、第8艦隊の犠牲の全てが無駄になります!」
ナタルはこの件については譲らない意志の強さを見せた。
(降下を選んだのはあなただ。なら最後までその責任を取ってもらう!)

「こんな状況で出るなんて、俺だって初めてだぜ!」
フラガも慌ててヘルメットをかぶり、発進シークエンスに入った。
「出せって言っといてなんだけどさ…これってかなりヤバい状況だよな?」
「キラ・ヤマト、行きます!」
フラガの泣き言は聞かずに、キラは戦場へと身を躍らせる。
心なしかストライクが重い。いつもなら素直なストライクのコントロールが利きづらいのは、磁場の影響なのか、それとも重力の影響なのか。キラはすぐ近くに見える青く美しい惑星を見た。

「ようやくお出ましか、ストライク!この傷の礼だ!」
メネラオスを攻めあぐねていたイザークは、ストライクの出現に踊り出さんばかりだった。怒りと憎しみに燃えた炎が彼の体を焼き尽くすのではないかと思うほどの勢いで、デュエルはストライクに向かっていく。
キラはその見慣れない姿を認めて驚いた。
「デュエル!?装備が!?」
「受け取れぇぇ!!!!!」
やっと会えた宿敵に斬りかかり、しかもそれをがっちりと受け止められたため、イザークの喜びはこの上なかった。
「…くっ!」
大気圏降下限界点までは、あと4分。
厄介な敵に見つかったキラはチラリと時計を見た。
「いけぇぇぇ!!」
デュエルはレールガンを放って逃げるストライクを追う。
ブースターを強化したアサルトシュラウドはデュエルの機動性を引き上げ、すばしこいストライクにも引き離される事はない。
「こいつ…!」
キラは毎度ながらデュエルのしつこさにうんざりしていたが、狙い通り自分たちが彼らをひきつける事で、メネラオスもアークエンジェルも一時砲火を避けることができていた。

「そぅら、もう一つ!」
その頃、ディアッカは再びインパルスを放って僚艦のベルグラーノを撃沈していた。
そろそろバスターのパワーが心許なくなってきており、第一、うっかり重力圏に捉まったりしたら目も当てられない。
(そろそろ戻る事も考えておかなきゃな)
そう思った時、ディアッカとしては今一番会いたくない敵が現れた。
「しつこいんだよ!おまえら!」
「…んだよ、こんな時に!」
後退を考えていたところで天敵ともいえるフラガの登場に、ディアッカは本当に焦り始めた。既にバスターがかなり重いのだ。重火器を使う際に踏ん張りが必要な分、スラスター操作とバランス操作が多いバスターが、コントロールが利きづらい中でゼロの相手をするのは分が悪い。
しかしその時、彼はこんな思いもかけないところで、思いもかけないものに遭遇して驚愕した。
それは彼らの母艦であるローラシア級ガモフだった。
(ゼルマン艦長?何をする気だ…!?)
「ガモフ、出過ぎだぞ!何をしてる!?ゼルマン!」
ヴェサリウスの艦長アデスが慌ててチャンネルを開く。
「くそっ、特攻か!?」
フラガもまたその無茶とも言えるガモフの割り込みに気づき、反転した。
ディアッカもまたゼロが自分からガモフに照準を切り替えた事を知り、ますます重くなる機体を立て直そうとしながら、ガモフから目が離せなかった。
それは離れたところから戦場を見つめていたアスランとニコルも同じだった。
「なぜあんな無理な専行を!?」
1機のメビウスがガモフに的確な攻撃を仕掛ける。しかし避ける気はないらしく、ガモフは火を噴きながらそのまま推進していった。
「ゼルマン艦長…まさか…」
「ガモフが…!アスランッ!!」
アスランもそのあまりにも凄絶な光景に思わず息を呑んだ。
ヴェサリウスには致命傷を負ったガモフから雑音交じりの通信が入っていた。
「ここまで追い詰め…退くこと…元はと言えば…我ら…足つき…」
ゼルマンはこれまで、言葉にこそ出さなかったが、何度も足つきを射程に捕らえながら落とす事ができず、その結果今もこうしてみすみす降下を許そうとしているのは自らの責任だと考えていたようだ。
彼らしくもない特攻はしかし、ゼロに阻まれ、ガモフは真っ直ぐメネラオスに向かっている。

「差し違えるつもりかっ!?」
ホフマンは向かってくるローラシア級を見て目を見張った。
メネラオスは当然激しい艦砲射撃を開始し、さらにガモフにダメージを与えたが、ガモフは止まらない。それどころか瀕死のガモフからは至近距離からの艦砲が撃たれ、メネラオスの被害も甚大であった。
やがて重力圏に引かれ始めたメネラオスの進退は窮まっていく。
「すぐに避難民のシャトルを脱出させろ!」
ハルバートンは指示を下した。
「あんな連中に殺させてはならん!」

やがてアークエンジェルの後方では、ガモフがメネラオスに突っ込み、相互爆発を起こして両者とも完全に沈黙した。
「ハルバートン提督!」
「ゼルマン艦長ーっ!」
マリューは涙ながらに上官の名を叫び、ニコルもまた、G奪還作戦以前からずっと若輩の自分たちを導いてくれた老練な艦長の名を叫んだ。
大勢の兵士の命を燃やした光は、やがて大気圏へと飲み込まれ、流星のように燃え尽きていく…アークエンジェルを守ると言ったメネラオスが、まさか地上への露払いになってしまうとは皮肉だった。
死はナチュラルとコーディネイター、両者に平等に訪れる。
そしてザフトも地球軍も、誰もが彼らの死に敬礼を送るのだ。

「アスランとニコルは戻せ!今から追っても、何もできん!」
忌々しそうにクルーゼが言っうと、アデスもまた渋い表情で聞いた。
「デュエルとバスターはどうします?」
「あそこまで降りていては間に合わん。落下地点を確認し、救援を向かわせる手配をしておけ」
これだけの艦隊相手に、10機出たジンの半分とガモフがやられたが、4機は無事だ。戦果を見れば勝利なのだが、足つきを逃し、部下が地球に落ちるとは…クルーゼは軽く舌打ちをし、それからふっと微笑んだ。
(試合に勝って勝負に負けた、とでも言おうか。足つきめ…面白いヤツだ)

「艦長!フェイズスリー突入限界点まで、2分を切ります!」
ノイマンがカウントを告げた。
次の段階では融除剤ジェルで艦体を包むため、ハッチ開閉ができなくなってしまうのだ。
「ゼロとストライクを呼び戻せ!」
マリューに替わってナタルが命じた。
「くっそー、限界か!」
ガモフを仕留めたフラガは時間切れを悟り、帰投準備に入った。
ディアッカと同じ位置にいても、この場合は一方向への加速に強いモビルアーマーの方が断然有利だった。フラガは回頭し、全速力で戦場を後にする。
やがて辛くも重力の手を振りほどき、ゼロは母艦へと消えていったが、バスターは既に重力圏に捉まっていた。
ディアッカはなんとかパワーを上げて離脱を試みたが、無駄な足掻きだった。
摩擦で機体がどんどん熱くなると、バイタルアラームがイエローを告げ始めた。
「だめだ…戻れない!」

一方のキラも、帰投命令に従えなかった。
デュエルは重力圏に恐怖を感じないかのように、いつも通り食い下がり、攻撃を仕掛け続けている。距離をとればレールガンとランチャーで、近づけばサーベルで、鬼気迫る勢いで襲い掛かってきた。
「ええい!」
しかしキラはその分大味な攻撃が多いイザークの隙を突き、デュエルのヘッドを蹴り飛ばした。
イザークはアイカメラの映像が一瞬真っ暗になったので驚き、次の瞬間には衝撃で吹っ飛ばされていた。やがて機体が真っ赤に燃え出し、既にデュエルが重力に捉まった事を示していた。
「くっそぉ~!!」
バランスを大きく崩した事で完全に重力に負け、体勢を立て直すこともできないイザークは、それでもライフルを構えてストライクを狙った。
しかしその瞬間、彼らの間をメネラオスから脱出したシャトルが横切ったのだ。
イザークは射線を取れず、同じく重力に負けたストライクが降下して射程からどんどん離れていく。
「チッ!」
忌々しそうに舌打ちしたイザークの怒りと苛立ちが沸点に達した。
「くそぉ、よくも邪魔を…」
イザークの青い瞳がシャトルを睨みつけ、デュエルはライフルを構えなおした。
(…これは戦場での「不可抗力」だ。残念だったな、ナチュラル諸君…)
デュエルのライフルが、哀れなシャトルを完璧にロックした。
 
「あれは…あいつ、まさか!」
キラはイザークの意図に気づくと、急激に気温が上昇するコックピットで身を乗り出した。けれどストライクはもはやキラの言う事をきいてはくれない。
(そこには花をくれたあの子が…私が助けた、避難民の人たちがいる…)
 
「逃げ出した腰抜け兵がぁ!!」
「やめてぇーーーーーっ!!!!」
 
次の瞬間、キラの叫びも虚しく、デュエルのビームがシャトルを貫いた。
シャトルは爆散し、あっけないほど簡単に、無数の命が散っていった。
(助けた命が、守ってきた命が、また、消えた…消えてしまった…)
イザークは高らかに笑い、キラは呼吸ができず、胸を抑えた。
コックピットの気温はさらに上昇し、バイタルアラームが鳴り響く。
まるで流星のように、全てが地球へと降り注いでいく。
けれど地球を守る大気圏はそのほとんどを阻み、許された者だけが地上に降りる事ができるのだ。

アスランは燃えながら落ちていくストライクを見つめていた。
「キラ…」
あんな危険な状況で、軍人でもないキラが戦っている。
その不可解さは、アスランの表情を暗く曇らせた。
(守りたい人がいるから、戦っていると言っていた)
アスランはデブリが散らばり、それが地球の重力に引かれ、赤く燃える流星となって落ちていく様子を見つめながら考えていた。

(そうまでして守りたいものが、私には…あるのだろうか…)
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Font-Color
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret
制作裏話-PHASE13-
キラがフレイの手の内に落ちました。
でも男女逆転だと残念ながらさほどインパクトはないですね。

戦闘も物語も、SEED1クール最大の山場のこのPHASE。少しでも緊迫感が出ているといいんですが…
しかし何度見ても1クール山場のこのPHASEは、「SEEDをリアルタイムで見ていた人はきっとドキドキしたんだろうなー」と羨ましくなります。
だって年の瀬の12月28日の放映がこれでおしまいじゃ、「ど、どうなったの!?」と気が気じゃないじゃないですか。
(しかしそんな視聴者を置き去りにして次は総集編というのが種クォリティ)

因縁深いデュエルとストライク、バスターとゼロ。
しかもイザークは怒り狂った手負いの狼です。
アスランとニコルもいるので、赤服4人が同時に戦場に立ったのはPHASE5以来なんですよね。次に4人が揃って戦うのはPHASE25(再会するのは23ですが)なのでさらに遠く、次の28ではニコルが死んでしまい、29ではディアッカが離脱するので、赤服が4人揃ってガンダムに乗り、「共に戦った」のはなんとわずか4回だけだったんですねー
もっと一緒にいたような気がするんですけどね。でも00、AGEと見てくると、やはりSEEDはこの赤服軍団VSキラという構図は面白いですね。私はホモには全く興味がないのでそのへんは一切抜きにしても(これが全員子持ちのオッさんばかりでもOK。いや、むしろそっちのが可)

イザークが民間人のシャトルを撃ってしまい、エルちゃん死亡という最悪の事をしでかします。
王子は好きですがさすがにこの行為はまずい。
制作陣はイザークを憎まれ役にして殺すつもりだったんでしょうねぇ、明らかに。

アスランの印象が異常に薄いんですが、それでも最後に独白がある分、本編で「キラ…」と呟くだけだったよりはマシだと思います。
守りたいものがあるのか…というのは逆転ならではの創作ですが、ザフトを裏切り、父と戦う事になるアスランには迷ってもらわなければならないので、こうした自問自答を入れてみました。
何しろ続編の逆転デスでも同じように「何を守りたいのか」を見出すまで迷いまくりますからね。
ま、それが本編でも逆転でも「アスラン・クォリティ」なわけですが。
になにな(筆者) 2011/03/03(Thu)22:29:16 編集



Copyright (C) 逆転SEED All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog | Template by 紫翠

忍者ブログ | [PR]