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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「ヴェサリウスからはもうアスランが出ている。後れを取るなよ!」
「ふん!あんなやつに!」
ディアッカは強い口調で答えたが、心の中ではニヤニヤ笑っていた。
(イザークには一応そう言っておくけどさ、ま、美人は美人だよねぇ…)

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「ミサイル発射管、13番から18番、撃ぇ!7番から12番、スレッジハマー装填!19番から24番、コリントス、撃ぇー!」
よく通るナタルの声が的確な攻撃指令を下していく。
煙たい女だが、こういう時は本当に頼りになる…子供たちは見習いで、工学カレッジ在学だからプログラムには強いというアドバンテージがあるだけ。
マリューもまた、慣れない実戦に緊張が隠せない。
「戦争をしているんです…!」
そんなセリフで彼らを脅しておきながら、技官の自身も決して実戦経験が多いわけではない。今はただ、まだ曹長に過ぎないアーノルド・ノイマンが操るこの艦と、戦闘巧者ナタルが預かるCIC、たった一人の戦闘員、そしていたいけな少女に頼るしかないのだ。

「キラ!」
その頃、キラは前方のヴェサリウスから発進した赤い機体・イージスと対峙していた。
アスランはイージスが元々ストライクと同じシリーズである利点を生かしてチャンネルを拾い、キラに呼びかけてくる。
「アスラン!」
懐かしいその声はキラを動揺させ、すぐにでも彼女に会って事情を説明したくなった。
(戦う相手がアスランだなんて)
そもそも、なぜアスランがこんなところにいるのか。
自分が知っているアスランだったら、今頃はプラントで勉強して、何かの研究者とか専門家になって、国のために能力を生かしているのが一番ふさわしい。
なのに、アスランも自分のように、誰かの命を奪っているんだろうか。
ナイフを構え、飛び出してきた時のアスランは暗殺者のようだった。
そして今、ストライクの操縦にまだ慣れきっていないキラに比べ、滑らかに、見事なまでに赤い機体を操っている…まるで軍人みたいに。
「やめなさい!剣を引いて!キラ!私たちは敵じゃない、そうでしょう?」
私たちが戦わなくちゃならない理由なんかない…おとなしいけれどいたずら好きなキラと、真面目で優秀なアスラン。第一世代のキラと第二世代のアスランではやや育った環境は違うが、それでも月の幼年学校では同じコーディネイターとして教育を受け、いつも一緒に遊び、一緒に笑いあい、一緒に成長してきた仲だ。
アスランもまた、必死に語りかけていた。
(キラがどうしてこんなところに…私たちコーディネイターの敵、ナチュラルと一緒にいるの?)
「同じコーディネイターのあなたが、なぜ私たちと戦わなくちゃならないの?」

「ディアッカとニコルは艦を!俺はアスランとモビルスーツをやる!」
「わかりました」
ブリッツに乗るニコルは素直だったが、バスターを駆るディアッカは不満げな声を出したので、イザークは舌打ちをしてから「文句を言うな!」とたしなめた。
バスターの火力とブリッツの機動力で攻撃されれば、意外なほどの火力と的確な弾幕を張るあの戦艦もたまらないはずだ。
「デカい獲物は貴様らに譲ってやる!だがな…」
イザークはシフトを一杯に入れると急激に加速した。
「女なんかに手柄を取らせるか!」
獲り損ねた白いGを生意気なあの女に渡すつもりはなかった。
ストライクに最もよく似た機体…X-102の機体ナンバーを持つデュエルは一直線にアスランとキラが互いの意図を図りかねている戦場へ躍り出た。

アスランはまだ粘っていた。キラが地球軍に入った理由が知りたい。
同じく中立地帯だった月にいた頃は、お互いに戦争なんか絶対イヤだと言い合っていた。キラはプログラミングが大得意で、誰かの役に立つソフトの開発がしたいと言っていた。ハッキングやゲームの改竄すら簡単にやってのけるその腕は、さしものアスランもかなわなかった。
「私は地球軍じゃない!」
キラは、フラガにもマリューにも言った言葉を繰り返す。
「なら…!」
どうして、という言葉を口にしかけたアスランは、次のキラの言葉を聞いた瞬間、自分でも思いがけないほどグサリと胸が痛んだ。

「けどあの艦には、仲間が…友達が乗ってるんだ!」

(友達…友達が乗っているから?)
アスランは眼を見張った。
(友達を守るために戦う…なら、私は?)

―― あなたが戦おうとしている私は…友達?それとも…敵?

「アスランこそ、なんでザフトになんか…なんで戦争したりするの!?」
「友達」という単語を口にしたことで、キラは自分が戦うべき理由を再び見出した。アークエンジェルが攻撃されている。ストライクと同じGシリーズに…本当はあの艦に載せられてザフトと戦う予定だったモビルスーツに攻撃されている。このまま攻撃を受け続ければ頼りないあの艦はすぐに沈んでしまうだろう。
(そうしたら私は帰る場所も、守るべき友達も失ってしまう)
キラは心を奮い立たせた。
「戦争なんか嫌だって、アスランだって言ってたじゃない!そのアスランがどうしてヘリオポリスを…!」
(中立のコロニーだったのに…私たちが平和に暮らしていたのに…)
抑えつけてきた感情が迸った。心を許して笑いあった友達だからこそ、キラはそのもやもやした感情をアスランにぶつけられたのかもしれない。
「コロニーが壊れて、たくさんの人がたくさんのものを失ったんだよ!やったのはザフトじゃないか!私たちと同じ、コーディネイターじゃないか!」
アスランは絶句した。
軍人としての冷静さと、友を説得したいという情熱が彼女の心をかき乱した。
(キラ、あなたは知らない…私が何を失ったのかを)
ナチュラルはコーディネイターを憎むことしかしないのだ。
こんな兵器を作って、まだ戦争を続けるつもりなのだ…両者が滅びあうその日まで。
 
「何をモタモタやっている!アスラン!」
その時、2人の間に男の怒声が割り込んできた。
「イザーク!?」
端正な顔をした血気盛んな同僚は、何かといえば突っかかってくる面倒な相手だった。ガチンコで勝負すれば体力的には男女の性差は如何ともしがたいが、アスランはこれまでに素早さと戦法によって何回かイザークに土を舐めさせたことがある。
無論、アスランだってその倍くらいは痛い目にあってはいるのだが…
カッカしやすいイザークは相手が女でも容赦というものがない。
イザークは、まさかストライクを少女が操っているなんて思いもしないだろう。
そんな事を知ったら余計闘争心に火がついてしまう。
ただでさえプライドの高い彼のこと、ナチュラルがこんなものを作るとは生意気な!と激しく息巻いているに違いないのだから。
デュエルはストライクに挑み、イージスから離れていく。
アスランはキラが心配で2人の動きを追い続けた。
イザークは直情型だが、パイロットとしての腕、能力、体力のどれをとっても今現在アスランが知る赤服の中ではピカイチだ。
そんな彼が、「地球軍ではない」と言い張るキラを追い回している。
 
―― きっと殺されてしまう…
 
アスランは迷った。
いや、できればキラを助けたいと思う。
けれど、説得に応じない彼女をどうやって助ければいいのか。
デュエルに追われ、押され気味のストライクを見つめながら、イージスはただその周りを旋回するしかなかった。

「ちぃ!ちょこまかと!逃げの一手かよ!」
キラは必死だった。
攻撃らしい攻撃をしてこなかったアスランと違い、このデュエルは畳み掛けるように攻撃をしてくる。
今回初めて使うビームライフルで応戦するが、当たらない。
慌てて補正をかけても当たらない。
実戦に慣れた相手の方が一枚も二枚も上手だった。
「くそっ、くそ、くそーっ!」
キラは苛立ちがつのり、女の子らしからぬ悪態をつく。
「そぉんな戦い方でっ!」
完全に主導権を握ったイザークは嬉々としてビームを避け続ける。
アスランは遠巻きにそれを見ながら、悪い予感がふつふつと沸く。
(キラは、このGシリーズの弱点に気づいているのだろうか?)

一方アークエンジェルは、モビルスーツ2機を相手に善戦していた。
ナタルはこの艦での実戦が二度目とは思えないほど武装について熟知し、バリアント、イーゲルシュテルン、リニアカノン、スレッジハマー、コリントスを使いこなしている。
おかげでマリューは統括指揮に専念でき、さらに思いもかけずノイマン曹長が見事な腕前で回避行動をとるため、アークエンジェルは何とか無事に応戦していた。
とはいえ未だフラガからの入電はなく、このまま攻撃を続けられたら一体どこまでもつかはわからない。
頼みのストライクもデュエルに襲われ、苦戦を強いられている。
もしも今、イージスがこちらに攻撃の矛先を向けたら…しかし絶望は一足先にマリューの耳に届いた。
「前方ナスカ級より、レーザー照射感あり!本艦に照準!ロックされます!!」
相手の有効射程距離に入ったのだ。
 
手練れの赤服が操る4機ものモビルスーツに襲わせているのに、まだ落ちないアークエンジェルに業を煮やしたクルーゼは、持ち前の勘のよさでムウが操るモビルアーマーが出てこないことを気にしつつも、膠着した戦場に揺さぶりをかけるため敵艦に主砲を向けさせた。
それを聞き、実直な軍人であるヴェサリウス艦長アデスは抗議する。
「モビルスーツが展開中です!主砲の発射は…」
「友軍の艦砲に当たるような間抜けはいないさ」
クルーゼは笑いながら言った。
(そう、優秀なコーディネイター諸君ならば、な…)

「ローエングリン、発射準備!」
同じく応戦のためアークエンジェル最大の武器、陽電子砲の発射をナタルが命じる。そしてこちらでも艦長が指令者に抗議をした。
「待って!大尉のゼロが接近中です!回避行動を!」
「危険です!撃たなければ撃たれる!」
ナタルに迷いはない。今この場で、最も合理的な判断をしたのだから。

時を同じくしてフラガのメビウスもようやくヴェサリウスを捕らえていた。
哨戒に気づかれないようエンジンを切り、慣性だけで近づいていく。
(捕まえた!)
 
―― 食らいやがれ、ラウ・ル・クルーゼ。おまえの鼻を明かせるだけで溜飲が下がるってもんだ!

後方の戦場に気をとられていたヴェサリウス艦橋は熱源感知に遅れ、機関への攻撃を避けられなかった。機関部を破壊され、第5ナトリウム壁が損傷した。火災の発生にダメージコントロールが隔壁閉鎖を命じる。

「まったく鼻持ちならない男だよ、ムウ・ラ・フラガ」
思わぬ伏兵の存在を疑い、クルーゼは珍しくギリリと唇を噛んだ。
推力が低下したヴェサリウスは離脱を試みた。

しかし、敵のローエングリンは既に彼らを射程に捉えていた。
「熱源接近!方位000、着弾まで3秒!」
「右舷スラスター最大!かわせっ!」
陽電子砲は艦体をかすめ、ヴェサリウスは辛くも被弾を逃れた。
 
a. vesarius was damaged by surprise attack.
withdrowal all units immediately.

 
旗艦の被弾により、Gシリーズすべてにも離脱が命じられた。
同時にアークエンジェルも奇襲が成功したフラガの帰投を待ち、全速で離脱することを決定した。残る懸念はストライクだけだ。
「イザーク!撤退命令よ!」
アスランはなおもストライクを追うイザークを止めたが、返ってきたのは怒鳴り声だった。
「うるさいっ!腰抜けっ!」

ろくな援護もしないくせに、俺に偉そうに命令するな!と、イザークは彼女の忠告を一蹴した。
大体、同じ隊にいながらアスランだけが旗艦に残されている事が気に入らない。
緑服のミゲルやオロール、マシューは先輩なので隊長直々に指揮を執るのはともかく、クソ生意気なアスランとおちゃらけたラスティがあちらで、どうして自分がガモフで、バカなディアッカやトロくさいニコルのお守りをしなければならないのか…
イザークはそんな苛立ちをすべてストライクに向けていた。
ここで手柄を立てれば、あの女より俺の方が上だと誰もが思い知る。
(いまいましいストライクめ…これで、終わりだ!)
紙一重でかわしてきたストライクに、接近したデュエルがビームサーベルを振り下ろす。
その途端、キラは驚きの声をあげた。
「えっ!?」 
 
フェイズ・シフト・ダウン。

アスランが恐れていた事が起きた。
ストライクのエネルギーが切れ、白い機体が急速に灰色のディアクティヴモードへと移行する…
キラはこれまで通りデュエルの攻撃を避けようとして操縦棹を握った途端、その手応えが突然消えてしまった事に驚いたのだ。
「パワー切れ!?しまった…装甲が!」
これではPS装甲は機能せず、実弾や直接攻撃が可能になってしまう。
(防げない…やられる…!)
デュエルは迫り、キラは絶体絶命に追い込まれた。

「…っ?!」
しかし、直後にキラが感じた衝撃は、デュエルの攻撃ではなかった。
無防備なストライクを、イージスが鹵獲したのである。
変形したイージスは巨大なカギ爪となってストライクを挟み込み、デュエルの目の前からさらっていく。キラはわけがわからず、兄弟機であるGシリーズのチャンネルから漏れ聞こえるアスランの声で、自分がイージスによって捕らえられたことを知った。

「何をする!アスラン!」
烈火のごとく怒り狂ったイザークが怒鳴る。
もともと鹵獲など命令にない。
「おい、何やってんだ!?」
これにはさすがにバスターのディアッカも抗議したが、アスランは返事もせずどんどん離脱していく。
(こいつのこの強引過ぎる行動がイザークの神経を逆撫でするんだっつーの)
ディアッカは後々の騒動を思い、憂鬱そうに首を振った。
「アスラン!!くっそー…あいつ!!」
イザークのコックピットからは何やら物が壊れる音が聞こえ、ディアッカは苦笑した。
(あーあ、ほらね)
 
「アスラン!どういうつもり!?」
キラは後ろにいるはずのアスランに叫ぶ。
捕らえられたストライクは動かず、もはや通信しかできない。
アスランはこのままキラを「ガモフ」に連行すると言った。
恐らく追尾している艦だろう…
「やめて!私はザフトの艦になんかいかない!」
もう何もできないのに、いつまでも抗うキラにアスランも苛立って答えた。
「いい加減にして、キラ!このまま来るのよ!でないと私は、あなたを討たなきゃならなくなる!」
「え…」
アスランが本気で怒っている。
キラはそれに気づいて黙り込んだ。
彼女はいつも穏やかで優しかったが、完全にキラが悪い時だけは本気で怒り、キラが心からごめんと言うまで絶対許してくれなかった。
(…アスラン…一体何が…?)
穏やかな優等生のアスランは、理不尽な暴力や意地悪、差別に対しては常に敢然と立ち向かった。しかしその反面、清廉だが扱いづらい頑固さがクラスメイトを遠ざけ、なかなか彼女のよさに気づく人がいないことが、キラには悔しかった。
だがそんなアスランだからこそ、ザフトに入った理由が生半可なものであるはずがなかったのだ。

「血のバレンタインで母も死んだの…私は…!」

キラは息を呑んだ。
アスランが尊敬してやまなかった、あの美しいお母さんが死んだ…ナチュラルによる核攻撃で、一瞬にして消えたユニウスセブンで。
ヘリオポリスのように、無残なデブリと化した悲劇のプラントに、アスランのお母さんがいたなんて。
(それで、ザフトに…?)
怒っているのに、キラにはアスランが泣いているような気がした。
一瞬、このまま連行されればアスランに会えるのだ…と思った。
しかしそのキラの思いは、戻ってきたメビウスの攻撃で遮られた。

「貴様っ!どういうつもりだ!おまえがあそこで余計な真似をしなければっ!」
肩を掴まれてロッカーに押し付けられ、アスランは痛みに顔を歪めた。
それを見てもディアッカは止めず、腕を組んで彼女を責める。
「とんだ失態だよ。あんたの命令無視のおかげで」
本当は自分もアークエンジェルを追い込み、撃破するという責務を放棄してしまったのだが、そこは「より大きな責務放棄」が優先だ。
(イザークが本気でアスランを殴りそうになったら止めればいいや…)
そんなこずるい事を考えながら呑気に構えるディアッカの後ろから、優しげな顔をのぞかせたニコルは、その光景を見て思わず叫んだ。
「あっ!何やってるんですか!やめてください!こんなところで!」
体の小さいニコルが果敢にもイザークとアスランの間に割って入った。
一番年下で、少女のように優しい顔をしているせいか、イザークやディアッカにからかわれたりバカにされたりすることが多いニコル。
しかし意外と大胆なところがあり、ことに女性であるアスランに対しては、常に紳士的な態度を崩さない小さなナイトだった。
そもそもイザークは、女が配属された隊であることが気に入らず、しかも多くの作戦において、年下で女性のアスランが隊長格に抜擢されることに怒りを覚え、苛立ちを隠せないのだった。
「そーいう小さいとこがダメなんじゃないの?」
「そうだよ。サイコーだよねぇ、可愛い女の子がいる部隊なんてさ」
そんな風に余計なことを言うディアッカやへらへらと笑っていたラスティには毒づいてばかりいた。
ディアッカやラスティは面白半分に、自意識過剰なイザークとしては、美人のアスランが男としての彼に何の興味も関心も持っていないことが、山より高いヤツのプライドを傷つけているんじゃないかと分析しては笑っていた。

ニコルは暴力に訴えようとするイザークを睨み、アスランを気遣う。
イザークは彼の思った以上に強い視線にややひるみつつも言った。
「4機でかかったんだぞ!それで仕留められなかった…こんな屈辱があるか!」
メビウスの奇襲でイージスのカギ爪が外れ、ストライクは自由になった。
とはいえフェイズシフトが効かない今、すぐに反撃ができるわけでもない。
しかしフラガは既に、アークエンジェルにランチャーパックを射出するよう命じていた。ストライクはエール・ソード・ランチャー等のストライカーバックを換装することで臨機応変に戦い方を変えられるが、それと同時にエネルギー補給をも可能にする、今までにない新しいシステムを備えていた。
とはいえ、危険宙域での換装などベテランパイロットでも無理がある。
しかし今はそれしかない。
(自由に動ければ、あいつは敵を蹴散らせる)
それはフラガのキラへの信頼であり、そうなればナタルもそれを信じないわけにはいかなかった。
ナタルは艦長からコントロールを受け取り、自身のタイミングでストライクへの軸線を読む。
それはストライクのエネルギー消耗を防ぐためだった。
正確な射出が明暗を分ける。
(相対速度を合わせ、真っ直ぐに…)

「だからといって、ここでアスランを責めても仕方ないでしょう!」
見事換装完了という最悪のタイミングでキラの懐に飛び込んだデュエルは、PS装甲が復活したストライクの最初の餌食となった。
手柄どころか、仲間の中でストライクからの最初のダメージ…すなわち右腕を失う結果になってしまい、ガモフへの帰投までイザークの怒りの咆哮がやむことはなかった。
(ほとんど自滅じゃないか…)
ディアッカもニコルももちろん口には出さないが、舐めてかかって返り討ちにあったのだから自業自得だ。
しかしアスランはイザークの言葉を聞いていなかった。
優しいニコルが気遣ってくれても、それすら今は煩わしい。
いっそイザークに殴られた方がまだマシだったかもしれない。
(なんだかもう、ぐちゃぐちゃだ)
そんな憂鬱を抱えるアスランにヴェサリウスへの帰還命令が届くのはほどなくしてだった。本国に召集されるのだ。

「ちょっと言い忘れてた」
アルテミスへの入港を控えて浮き足立つ艦内で、フラガがキラを呼び止めた。
この頃はキラも私服をやめて、サイたちと同じく地球軍の制服に着替えていた。
もっとも、ボトムだけはサイやミリアリアのようなスカートではなく、トールやカズイと同じくパンツスタイルを選んでいたのだが、作業中は汚れるのでもっぱらジャージや作業着ばかりだ。
「ストライクの起動プログラムをロックしておくんだ…きみ以外、誰も動かすことの出来ないようにな」
そう囁くフラガにキラは首をかしげたが、何しろ助けてもらった恩があるので、一応素直に頷いた。
戦場での長い緊張と恐怖、アスランとの会話など、もろもろの感情ですっかり混乱し、着艦後にコックピットを開けることもできず、過呼吸のような症状で
苦しんでいたキラを救い出してくれたのも彼だった。
「もう終わったんだ。ほら、とっとと出てこいよ」
笑顔でそう言いながら、フラガは緊張でコチコチに固まったキラの手をほぐし、操縦桿から外してくれた。
「おまえも俺も死ななかった。艦も無事だ。上出来だったぜ」
そのまま肩を抱かれてコックピットから出てきた彼女は、多くの整備兵に笑顔で迎えられた。初めは自分に銃を向けたナチュラルの軍人たちが、コーディネイターの自分に対して「よくやった」「よく頑張ったな」と、まるで仲間のように礼を言う姿は少なからず驚きだった。
フラガの言うとおり作戦は成功し、誰も死なずに戦いを勝ち抜いた。
そしてアークエンジェルは無事、要塞アルテミスに辿りついたのだ。
だからこれでもう戦わなくてもいいはずなのにとキラは首を傾げた。
(変な大尉)
 
アルテミスへの入港が許可され、アークエンジェルは準備にかかる。
光波防御帯に守られた要塞アルテミス。
傘のような形のそれを、トールたちは物珍しそうに眺めた。
ビームも通さない磐石の防壁。戦艦の居住区という、逃げようのない「まな板の上の鯉」状態で戦闘を乗り切ったフレイも、サイの傍で安堵の表情を浮かべた。
「これでもう安心だよな」
しかしその安寧はすぐに破られた。
ブリッジは銃を持った軍人たちに占拠され、殺伐とした雰囲気に包まれる。
ラミアス艦長もバジルール副長も驚きを隠せない。事態は再び急変した。
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secret
制作裏話-PHASE5-
何よりも戦闘描写が楽しかったこのPHASEは、実は遥か遠い未来を見据えて書かれています。

逆転DESTINYのPHASE44「正義と自由と」や、PHASE45「二人のラクス」、そしてPHASE47「ミーア」の回で、ラクスが言った「戦士としてではない、アスランの力」についての伏線回です。
イージスのカニバサミで捕えられたキラが、アスランがいかに「正しさ」を貫く頑固な子供だったかを思い出すシーンですね。
これは、DESTINYで正しさを貫けず、迷ったことでシンを導けなかったアスランの「失態」を見越して書いてあります。

「そう。強大な力に屈することなく、辛い孤独を恐れることなく、正しいと思えば、それを主張し通す事ができるのがきみの『力』」(逆転DESTINY PHASE47 ラクス・クライン)

いつか、上記のこの言葉をラクスに言わせたいと思いながら、逆転DESTINYは収束して行ったのです。そのためにこんなに早くから、本当に長く眠らせていた伏線でした。長かったなぁ、本当に。

本編でもそうですが、アスランの欠点と言える「考え込むと、答えが出ない(本編ではそのたびにニコルを殺しまくる)」「正しくあろうとしても、うまく表現できない」「 人に理解してもらうより、自分が孤立する事を選んでしまう」そんな性格をなんとか救ってあげたかったんですね。

さらに、「力」にこだわりながら答えを出せなかったDESTINY本編で、アスランの力と、アスランが本当は何と戦うべきだったかの答えを出してあげようとも思っていました。

それにしてもアスランが女性になったことで一番割りを食ったのは間違いなく王子ですね。
ディアッカはアスランが男でも女でも別に変わりませんが、イザークはねぇ…
いくらなんでも年下の女の子に負けるんじゃ可哀想過ぎますよね。
本編と違い、後々王子とからむフレイも男になっちゃってるし。ホント、踏んだり蹴ったりだなぁ。
イザークにはホント、悪いことをしました。ごめんね王子。

ちなみに、実はここまではニコルも性別逆転させて「アスランになつく妹的キャラ」にしてました。
けれど「アスランに憧れる女性キャラ」は後にルナマリアが担うんだし、逆に男に逆転してアスランに恋するメイリンとの対比キャラにする事にしました。
失恋はしてしまうけど自分の手で未来を勝ち取ったメイリンと違い、ニコルは最後まで報われないんですが、これも正解だったと思います。
になにな(筆者) 2011/02/28(Mon)14:58:58 編集



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