忍者ブログ
Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
ブログ内検索
機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
[3]  [4]  [5]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12]  [13]  [14]  

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「あれにはフェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです」
ニコルは少しいたずらっぽく言った。
「傘の中に閉じこもって安全だと信じている彼らの、寝首をかく作戦ができるかもしれません」

拍手


アークエンジェルはブリッジを制圧され、士官たちは連れ去られていった。
友軍の扱いにしては随分物騒で失礼千万だ。
ノイマン、トノムラ、チャンドラ、パルらブリッジ要員たちは、整備兵のマードックらと共にキラたちと一室に閉じ込められた。
「いつまでこんな状態なんですかねぇ?」
メガネをかけたチャンドラが言うと、背の高いトノムラもお手上げというように「艦長達が戻らなきゃ、何もわからんよ」と返す。
ぽっちゃりしたパルは「友軍相手に暴れるわけにもいかないしな」と、おっとりした雰囲気とは似つかわしくない物騒なことを言う。

ユーラシアの説明は一方的だった。
新造艦アークエンジェルには、友軍と認めるべき識別コードが振られていない事が理由で、乗員を拘束しているとのことだった。
大西洋連邦に確認でき次第、彼らは解放され、補給を受けることができる。
この拘束はあくまでも「形式的なもの」だと、彼らは銃を突きつけながら言うのだ。とても信じられるものではない。
「本当の問題は、別のところにありそうだがな」
「ですね」
乱暴な物言いだが、キラにストライクについてのレクチャーや整備の仕方をきちんと教えてくれるマードックと、AAの操縦士アーノルド・ノイマンが不機嫌そうに語っている。
(識別コードなんてのは体のいい口実で、本当に彼らが見たいのはあれだ…) 
「いろいろあるみたいね、地球軍の中でも」
サイがキラにそっと耳打ちする。 キラは何度目かのため息をついた。
(ここに来れば安全で、私たちは解放されると信じていたのに…)
マリューやフラガたちと引き離されていることも心細かった。
(私もいつの間にか、あの人たちを頼りにしていたのかな?)
彼らは今、タヌキとキツネの化かし合いの真っ最中である。

「マリュー・ラミアス大尉、ムウ・ラ・フラガ大尉、ナタル・バジルール少尉か…。なるほど、君たちのIDは確かに、大西洋連邦のもののようだな」
アルテミス司令ガルシアが3人のIDカードを見ながら言う。
3人は司令室に通され、このたびの事態の説明を受けるところだった。
「グリマルディ戦線でのきみの活躍は聞き及んでいる」
ガルシアは月戦線でのフラガの功績を讃えた。
地球軍艦隊を壊滅させられ、サイクロプスの暴走による両軍への多大な犠牲など、忘れ難いと同時に忌まわしい戦線でもあるのだが…ガルシアはフラガが現在ここにいること、そして新造戦艦のこと、目的のことなど探りを入れるが、フラガはのらりくらりとかわしていた。
業を煮やし、ガルシアは「それでは補給は難しいな」と兵糧攻めを示唆した。
「我々は一刻も早く、月の本部に向かわなければならないのです。まだ、ザフトにも追われておりますので…」
そんな押し問答に、マリューは思わず口を挟んだ。
しかしガルシアは動じることもなく、アルテミスの監視カメラの映像を流してみせた。そこにはアルテミスの傘に手を出しあぐねるローラシア級、アスランがキラに「ガモフ」と言った艦が、隠れる様子もなく映っていた。

「アルテミスの光波防御帯に、手を出せる者などおらんよ」
ビームも実弾も防ぐこの鉄壁の防御の前では、敵はただ歯噛みしてウロつき、やがて諦めて去っていく。それは何度も繰り返されてきた構図だった。
ガルシアはそれを口実にし、連中がいる限り要塞から出られない艦に、わざわざ今すぐ補給などはしない、の一点張りだった。
「ゆっくりしていきたまえ…ここは女神の庇護の下にあるのだから」
結局、化かし合いではずっと上手だった古だぬきに若い士官たちは押し切られてしまったのだが、最後にフラガが皮肉っぽく聞いた。
「アルテミスは、そんなに安全ですかねぇ?」
ガルシアは心底楽しそうに笑う。
「ああ、まるで母の腕の中のようにな」
フラガは、その慢心がむしろ気になった。
絶対防御によってこの中が安全だと信じているなら、逆にひとたび何者かに進入されちまったら、往々にして中は手薄だった、なんてケースもある…そこまで考えて、彼は心の中で肩をすくめた。
(ま、あの傘を一体どうやったら突破できるのかはわからないけどさ)

その頃、アルテミスの外側を巡回しているガモフではニコル・アマルフィがブリッツでの出撃準備に入っていた。
「しかし地球軍も姑息なものを作る」
「ニコルには丁度いいさ。臆病者にはね」
何をどうしたって不機嫌さから開放されないイザークについては、機嫌を取るだけムダとわかっていても、ディアッカは太鼓を持った。
「傘はレーザーも実体弾も通さない。ま、向こうからも同じことだがな」
ガモフの艦長ゼルマンは、若い赤服たちの未熟さを補って余りある老練な兵士だった。彼らの作戦会議には常にオブザーバーとして参加し、いつも的確な情報提供やアドバイスをして彼らの成長を助けていた。
アルテミスの傘は防御兵器としては確かに一級品である。
しかし一方、それを展開中には中からも攻撃ができず、防戦一方という難点があった。
ただし、攻撃を受け続けたからといって、それによってエネルギー切れを起こす事もない。一体こんな恐るべき無敵の防御帯を、ユーラシアがなぜこんな辺鄙で、軍事拠点としての価値もない場所に設置しているのかがわからないのだが…まさに技術の無駄遣いである。
(どうせ大西洋連邦との力関係だろう…一枚岩になれないナチュラルだからこそ、数で劣る我々コーディネイターが対抗できているのだ)
ゼルマンは、敵の敵が自分たちだけではないことを熟知していた。
「あの傘を突破する手立ては今のところない」
髭をいじりながらゼルマンは状況説明を終える。
あとはヒヨッコどもが考えるべきところだが、ディアッカが「じゃあどうするの?出てくるまで待つ?フフフ…」とニヤニヤした時はさすがにムッとしてしまった。しかし自分が怒るより早く、銀色の髪をした怒りっぽいイザークがディアッカを叱り飛ばした。イザークはこういう時は本当に役に立つ。
「傘は、常に開いてるわけではないんですよね?」
2人の諍いなど聞いていないかのように、優しい顔立ちの少年が艦長に尋ねた。
ニコルはさっきからアルテミスのグラフィックをじっと見つめ続けている。
「周辺に敵のない時まで展開させてはおらん。だが閉じているところを近づいても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう」
防御に強い者特有の対空感知の高さをアルテミスも備えており、よく見える眼とよく聞こえる耳をもって敵の接近を探査していた。
「なら、もしその鋭い眼や耳で感知できないものが近づいたら?」
ゼルマンはいぶかしげに「どういうことかね、ニコル」と聞き返した。
「僕の機体…あのブリッツなら上手くやれるかもしれません」
あどけない可愛らしい顔で、ニコルは笑った。
その屈託のない笑顔に、ゼルマンはなんとなく空恐ろしい気分になった。

「この艦に積んであるモビルスーツのパイロットと技術者はどこだね?」
士官3人を別室に閉じ込め、アークエンジェルと見慣れない大西洋連邦のモビルスーツの調査を命じたガルシアは、一般兵たちの部屋にやってきた。
「何故我々に聞くんです?」
荒々しくパイロットを探すユーラシア兵の姿を見て、ノイマンは彼らがまだ、何一つ情報を手に入れていないことを悟った。
(俺だってなまじ長年バジルール少尉の部下はやってない)
彼女の観察力に比べたら微々たるものだが、それでもこういう時は軍事ロボットみたいなあの人に従ってきてよかったと思える。
「艦長達が言わなかったからですか?それとも聞けなかったからですか?」
さすがガルシアは司令官だけの事はあり揺さぶりに動じなかったが、下っ端のユーラシア兵の顔色は変わった。
(ビンゴだな)
ノイマンはふふんと腹の中で笑った
一方キラはノイマンの応対にああ、と思い当たっていた。
(大尉がさっき、ストライクを自分以外に起動できないようロックしておけと言ったのはこのことだったんだ)
自分たちがこうして拘束されているのは、アークエンジェルのせいではなく、むしろストライクのせいだったのだ。
ガルシアは生意気な下士官の言葉を聞いてふん、と鼻白む。
「ストライクをどうするつもりです?」
そう聞いたノイマンには、「どうもしないさ」とはぐらかし、あれのパイロットはフラガ大尉だと答えたマードックには、あからさまに不快そうに反論した。
「ガンバレル付きのゼロ式を扱えるのは、あの男だけだということぐらい、私でも知っているよ」
業を煮やしたガルシアは行動に出た。
怯えたような眼で下士官の後ろにいる、年若い子供たち。
見習いか、候補生かはわかないが、頑固な下士官どもの口を割らせるには格好の獲物だった。彼は手近にいたキラを睨みつけると、手を伸ばした。
それを察知したキラは咄嗟に男の腕を避け、体をよじって逃げた。
「やめてください!」
ガルシアは小さくて非力な女の子と侮っていた相手に簡単に避けられ、無様に空ぶり、たたらを踏んだ。
「こいつ…抵抗するか!」
かっとなった彼が思わず声を荒げると、兵たちが一斉にキラに銃を向ける。
「キラ!」
トールが叫ぶと、兵たちはさらに彼らにも銃を向けた。
「女性がパイロットということもないと思うが…」
体裁を整えたガルシアがキラの目の前に立ち、ニヤリと笑った。
「この艦は艦長も女性ということだしな」
そう言いながら、今度は自分や仲間たちに銃を向けられてもはや逃げられないキラの細い左腕をむんずと掴んだ。
「…っ!」
男の力は凄まじく、キラは思わず痛みで息を止めた。
「言いたまえ。あのモビルスーツのパイロットは誰かね?」
トールが怒りに身を震わせ、彼に庇われているミリアリアもサイも抗議しようと口を開きかけた。けれど、こんな扱いを受け慣れていない子供たちには、反撃の糸口がつかめなかった。
カズイなどもはや壁に背を押し当て今にも逃げ出しそうだ。
「言え!誰がパイロットなのかね?」
「…あれに乗っているのは…私…です…」
キラが顔を背けながら言うと、マードックは思わず顔をしかめ、トールもサイも息を呑んだ。同時に、フレイは顔色を曇らせている。
「…なにぃ?」
まさかパイロットのはずがないと判断して敢えて小柄なキラを選んだのに、その本人がパイロットだと言うのだから、さしものガルシアも驚いた。
それゆえにからかわれたに違いないと感じ、彼はさらに手に力をこめた。
小娘にはきちんとおしおきしなければ…と嗜虐的な気持ちが芽生える。
「ふざけたことを!おまえがパイロットであるはずがない!」
苛立ったガルシアのもう片方の手が、彼の顔の位置まで上げられた。
(殴られる…!)
キラも他の皆も同時にそう思った。
しかしその途端、ガルシアは顎に激しい衝撃を感じ、気づいた時にはゴロリと床に転がっていた。それまではガルシアに掴まれた腕を必死に引っ張って、少しでも彼から逃れようとしていたキラが、突然、体全体でガルシアに突進したのだ。
顎の痛みと衝撃でガルシアはキラの腕を放し、床に転がってしまったのである。
「なんなんですかっ!あなたはっ!」
「キラ!やめろ!抵抗するな!」
マードックがキラを止めようとするが、こんな扱いを受けて痛い思いをさせられ、怒りに震えるキラは聞こうとしない。
(こうなったらとことん抵抗してやる!)
キラはヤケクソ気味になって怒りをぶつけた。
(殴られるのはイヤだけど、この人たち、本当に頭にくる!)
それに、感情の昂ぶりと相俟ってか体が軽く、今は動きたいような気がしていた。
「私はあなたに殴られる筋合いはないです!」
再び、トールやミリアリアの驚きの眼がキラに向けられた。
地味でおとなしく、優しいので皆からは妹のように扱われるキラ。
それがここ数日間の間に、不思議なほど強く、凛としてきていた。
「あいつを捕えろ!早く!」
「や…やめてください!やめて!」
司令官の無様な姿を見て飛び掛ってきた副官を避けようとした瞬間、果敢にもサイが彼の前にたちはだかった。勇気を振り絞ってキラを守ろうとしたのだろう。
けれど非力な彼女はすぐに吹っ飛ばされ、メガネがカチャンと床に落ちた。
キラをはじめ、周りにいた皆が息を飲んだ。
「サ…ッ!」
「サイ!サイッ!」
キラが動揺して声をかけるより早く、床に崩れたサイにフレイが駆け寄った。
「やめろよ!そいつが…キラが言ってることは本当だ!」
その瞬間、空気が凍りついた。
「その子がパイロットだ!」
フレイはきっとキラを睨みつけ、彼女を指差して指令たちに教えたのだ。
自分で告白していたとはいえ、キラはこの告発が好意を持つフレイからのものだったことにわずかながらショックを受けた。
一体真実がなんなのか、情報の交錯に副官が苛立ち、銃を向ける。
司令官は恥をかかされ、パイロットが女の子のはずがないと思っていたら本当に女の子だという…もはや収拾がつかなかった。
けれど、次に放たれたフレイの言葉が突如この「事実」の信憑性を高めた。
「嘘じゃない!だってその子は…コーディネイターだ!」

「ミラージュコロイド、電磁圧チェック、システムオールグリーン。ミラージュコロイド生成良好。散布減損率35%」
(使えるのは、80分が限界だ)
ニコルは軌道シークエンスをこなしながらエネルギーの残量をはかった。
「テストもなしの一発勝負か。大丈夫かな?」
アルテミスの傘はたたまれ、今は要塞の中は剥き出し状態だ。
ニコルはブリッツにのみ搭載されたミラージュコロイドの調整のため忙しく手を動かした。
(この機能、果たして敵の目と耳を騙せるか?)
入り込めたら、データにある傘を開くためのリフレクターを破壊。
傘の中は驚くほど安全でも、傘を張れなくなればその中は…ニコルは突然ふふっ、と笑った。
「皆さん、きっと驚くでしょうね」
 
「OSのロックを外せばいいんですか?」
銃を向けられ、ハンガーまで連れて来られたキラは不機嫌そうに言う。
これまでの人生で銃なんか向けられたことはないのに、この数日間で一体何度この物騒なシロモノを向けられればいいんだろう…キラは不愉快でたまらなかった。
コーディネイターを見るのは初めてというわけでもあるまいに、ユーラシアの兵士たちは遠巻きに自分を見てヒソヒソと話している。
特に古だぬきのガルシアは嘗め回すように自分を見るので気持ちが悪い。
「きみならば、ストライクと同じものや、それに対抗できる武器を作れるんじゃないのかね?」
彼は事あるごとにねちねちとあてこすり、嫌味を言ってきた。
(もううんざりだ)
キラは怒りをぶつけるのすら面倒くさくなる。
「私はただの民間人で、学生です。軍人でもなければ、軍属でもない。そんなことをしなければならない理由はありません」
そうだ、自分は勝手に戦争をやっているような人たちとは関係ない。ナチュラルとか、コーディネイターとか、それすらも自分には関係ない。自分がコーディネイターでも気にしない友達がいて、自分も彼らの優秀さを認めている。
(だから私たちは、いつまでだって仲良くしていられるんだ)
そう独り言ちるキラに、次のガルシアの言葉はあまりにも衝撃的だった。

「だがきみは、裏切り者のコーディネイターだ」
「う…裏切り者…?」

雷に打たれたようにキラは驚いて固まってしまった。
そして突然、アスランの言葉が蘇る。
「同じコーディネイターのあなたが、なぜ私たちと戦わなくちゃならないの?」
彼女の疑問はもっともなのだ。だから何度も問いかけてきたのだ。
なぜいつまでもナチュラルのもとにいるのかと。
自分は気づいていなかった。友達を守りたいという強い想いと、「できてしまう」から仕方なくやるだけで、その行為そのものが端から見ればただの「裏切り行為」に見えてしまうとは…
ナチュラルからは疎まれ、コーディネイターにも戻れない「裏切り者」
(私は…いつの間にかそんなものになってしまっていた…?)
キラの心情など無視し、ガルシアはさらに傷口に塩を塗りこんだ。
「同胞を裏切ったコーディネイターは貴重だ…その能力も情報もな。理由はなんでもいい。その力を貸してくれるなら、きみはどこででも優遇される」
「何を…」
古だぬきの不敵な笑いに、キラはゾッと怖気だった。
「このユーラシアでもな」

「なんであんなこと言うんだよ!おまえは…」
残されたトールは、サイを気遣っているフレイに詰め寄った。
「俺は本当の事を言っただけだ。何がいけないんだよ!」
フレイは不愉快そうにトールに答え、悪びれもしない様子だった。
それを見たトールはますます怒り狂って、両手で机を叩いた。
フレイの襟首に掴みかかりそうな勢いの彼の腕を、ミリアリアがそっと抑えた。
本当は男である自分が抵抗しなければいけなかった…キラは連行され、自分たちはあまりに無力だった。トールはやるせない気持ちを、ついフレイにぶつけてしまう。
「キラがどうなるかとか、考えないわけ?おまえって!」
「おまえおまえって、何だよ!キラは仲間なんだし、ここは味方の基地なんだろう!?ならいいじゃないか!」
するとトールはその言葉にさらにいらだって怒鳴りつけた。
「地球軍が何と戦ってると思ってんだよ!」
フレイは灰色の瞳でトールを睨みつけた。
小さくて弱々しげなキラの姿を思うと少し気が咎めたが、すぐに思い直した。巨大なモビルスーツを自在に操って戦う彼女は、紛れもないコーディネイターなのだ。
(ああ、そうだ。あいつが…コーディネイターなんかどうなろうが知ったことか!!)

ニコルは慎重に傘のない要塞に近づいた。
先ほど傘が閉じられてから、ミラージュコロイドの限界時間を配分しながらゆっくり近づき、ようやくここまで来た。既にデータ通りリフレクターの位置も確認できている。
ニコルはごくりと唾を飲み、そのまま侵入した。思ったとおり、警報は鳴らなかった。
(よし、いける!)

その時突然、要塞が揺れた。
 
管制塔も、アークエンジェルの士官たちも、サイやトールたちもその衝撃に一斉に振り返る。直後、けたたましく警報が鳴り響き、施設内が急激にざわめき始めた。
しかし何度か繰り返された戦闘を生き抜いてきたアークエンジェルのクルーたちには、この衝撃は攻撃を受けたのではないかと直感的に感じさせ、それと同時に研ぎ澄まされた生存本能がチャンスが来たことを知らせていた。
銃を向けられながらストライクのコックピットにいたキラにも、衝撃は伝わっていた。
ガルシアが管制に事情を聞くため通信を開いている。
「何事だ!?」
「ぼ、防御エリア内にモビルスーツ!リフレクターが落とされていきます!」
「なんだとっ!!」
(モビルスーツ!?アスラン…?)
キラは当然、あの見慣れた赤い機体が襲ってきたのかと思った。
「傘が破られた!?そんなバカなっ!?」
どうやらアルテミスの中に何者かが侵入したようだ。
キラは咄嗟に、ガルシアの言葉に気を取られていた兵士に体当たりをし、ストライクのコックピットのロックを外した。
今まで非協力的にモタモタと解除作業をやっていたキラが、見えないほどのすばやさでキーを叩くと、やがてストライクは簡単に起動した。
慌てるユーラシア兵が銃を向けても後の祭りだ。
「攻撃されてるんでしょ?こんなことしてる場合ですか!?」
キラは初めて少し楽しそうに言った。
ストライクのコックピットを閉鎖すると、不思議な安心感が訪れた。
これまではただのおぞましい兵器に過ぎなかったストライクが、今はどんなものからも守ってくれる頼もしい相棒に思えた。

一方ニコルはもうもうと上がる爆煙の中、要塞の中へ入り込んでいった。
フラガが心配するまでもなく、絶対防御を破ってしまえば、要塞も普通の基地となんら変わりはない。ニコルはやすやすと深部まで入り込み、足つき、すなわちアークエンジェルのいるドック近くまで進んでいた。
しかしそこで、飛び出してきたストライクと鉢合わせてしまった。

「いた!あいつ!今日こそ!」
「ブリッツ!?こんなところまで!?」

ニコルは珍しく熱くなり、一直線にストライクに向かって行った。
(あいつのせいでアスランがイザークなんかにどやされたんだ。あれを落としてしまえば、僕たちはまた前のように戻れるはず!)
アスランがリーダーで、イザークはそれがつまらなくても逆らえず、ディアッカは嫌味を言ったりニヤニヤしながらも手を出す事はできなくて…ニコルは美しい彼女の横顔を思い浮かべると、きゅっと唇を結んだ。
(そして僕は…僕はいつかきっと!)

ノイマンたちもまた、衝撃と同時に見張りの兵たちに襲い掛かり、アークエンジェルに戻っていた。ストライクと違い、こちらは特に見張りも多くなく、すぐに起動できる状態になっている。
サイたちはドックの片隅に閉じ込められていた避難民を艦に戻すと、急いで持ち場についた。
「よくやったなぁ!ボウズ共!」
フラガたち士官は一体どうやって逃げてきたのか、発進準備が終わると同時にブリッジに飛び込んできた。晴れやかに笑っているフラガと明るい顔のマリューからして、何やら大立ち回りでもしてきたような雰囲気だったが、ナタルだけは2人に対して怪訝な表情を向けている。
(よほどカタブツの彼女のお気に召さない「緊急行為」だったようだ)
ノイマンはこっそり苦笑した。
確かに、軟禁された部屋でぎゃーぎゃー騒ぎ、見張りの兵士をおびき寄せてぶん殴るという、馬鹿馬鹿しいが成功した脱出方法はナタル好みではない。
しかしあの2人にそんな臨機応変さがあるがゆえに、この艦がこれまでなんとか生き残ってきたと思えば、不機嫌ながらも共に戦う戦友として認めないわけにはいかなかった。
「ここでは身動きが取れないわ!アークエンジェル、発進します!」
マリューが発進の号令をかける。向かうは当然反対の港口だ。

キラはもうもうと上がる黒煙の中、ブリッツと戦っていた。
ミラージュコロイドの制限時間をオーバーこそしなかったもののエネルギー消費は激しく、ニコルは残りのエネルギー配分に慎重にならざるをえなかった。
(くそ、もっと時間の余裕を取っておくんだった)
ニコルは自分の詰めの甘さを呪った。
(イザークやディアッカの援護なんか、初めから期待するんじゃなかった)
「あの艦は?」
「わからない!ニコル!どこだ!?」
ニコルが傘を突破したらすぐに駆けつけると言っていた彼らはその頃、黒煙の中でストライクもブリッツも見つけることができず、大混乱の要塞の中で無様にも右往左往していた。

「キラ!キラ、戻って!アークエンジェル発進します!」
やがてキラのもとにミリアリアから緊急通信が入った。
「皆、無事なんだね!?」
「大丈夫よ!キラも気をつけて!」
キラはブリッツが放つドレイプニルを避けつつ、壁際に下がった。そちらに、アークエンジェルが向かった後方の港口への抜け道があるはずだった。
(私が帰る場所はあそこしかない)
裏切り者と言われても、厭われても憎まれても、帰れるのはあそこしかないのだ。
「くっ…!逃げるのか!!」
キラは食い下がろうとするブリッツにライフルを放ち、その推進力を使って爆煙の中に姿を消した。ニコルは怒りと屈辱を覚えたが、残りのエネルギーを思うとこれ以上深追いすることは危険だった。
自分を見失ってユーラシア軍と戦っているイザークとディアッカと合流するため、ニコルは仕方なく踵を返した。ミラージュコロイド作戦は成功し、はからずも敵の無敵要塞を殲滅する手柄を立てたことにはなったのだが、どうも腑に落ちない。
(もともとこれが目的じゃなかったのになぁ)
ニコルはため息をつきながら、爆発を続ける要塞を後にした。

アークエンジェルは後方の大混乱から逃げ出すように発進し、ストライクを収容して再び長い旅路についた。補給もなく、援護もないが、失ったものがなかったことだけが幸いだった。
しかしキラだけは、消すことのできない烙印を与えられたのだった。
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Font-Color
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret
制作裏話-PHASE6-
SEEDは1クールは本当に面白かったと思います。
Gシリーズと呼ばれるガンダムはそれぞれ得意分野が違い、その中でも今回は「ミラージュコロイド」という「不思議粒子」を持つブリッツが活躍します。
しかしユーラシアの「不思議バリア」こと「光波防御帯」も負けてはいません。
これは後々、ザムザザーやゲルズゲー、デスティニーやストフリなどのビームシールドに応用されていく技術です。そんな中でもアカツキのミラーコーティングは反則中の反則なわけですがね。(でもナニゲに、アカツキは実はC.E73のDESTINY時代ではなく、C.E71のSEED時代に造られた機体というのも肝なのかも…)

さらに、キラの心を抉るような事件が続きます。
このシーンはちょっと失敗したと思い、今回大幅に書き直しました。
なぜなら、本編のガルシアが「女性がパイロットのはずがない」とミリアリアを選んで捻りあげるので、逆転ではこの後本当に少女(キラ)がパイロットだったと判明する過程を描くと、なんだか女続きでくどくなってしまうからです。
しかもキラを庇うサイも性別逆転により女になってるので、全てにおいて女まみれになっちゃってます。
こうなるとどうしても「(一番反撃しそうな)トールは何してんの!!」と思わざるを得ないという、ちょっと残念な展開になってしまいました。フレイを責めてるけど、トールも立場ないよ!

最初の頃はあまり本編に介入することをよしとしていなかったのでこうなってしまったのですが、「手を加えなければどうしようもない」DESTINYの逆転版を描き終えた今となっては、開き直って手を加えました。
すなわち、ガルシアにいたぶられるのはミリアリアではなく、初めからキラにしたのです。
でもこうすると二重三重に「女をいたぶった→女が庇った→女をいたぶった→女がパイロットだった→また女が庇ったのでいたぶった」という事がなく、なんとかすっきりです。

なお、ここでは「裏切り者のコーディネイター」がキーになり、それまでは「関係ない」「何故そんな事になるのか」と物事の本質を理解できていなかったキラが初めて、「ナチュラルとコーディネイターがなぜ戦争しているのか」身をもって悟る最初のシーンにしてあります。ガルシアの言葉とフレイの言葉が、この後キラを徐々に追い詰めていくわけです。

いわばこれこそが「ナチュラルVSコーディネイター」という非常に面白い対抗構図を描こうとしたSEEDの一番の見所なんですよね。1クールはガンダムバトルに加えてキャラの魅力とこうしたテーマを描こうという気概が見えて、本当に面白かったと思います。DESTINYではもうこの両者の対立なんか完全に忘れ去られてましたもんね。(これを主張して頑張ったのはジブリールくらい)
んで結局最後はコーディネイター同士でカップルになって、「キラ様最強ひゃっほぅ!」で締めやがりました。ふん。

他にはゼルマン艦長をなかなかのダンディじいさんに描写できたと思います。
ニコルは後に彼の死を悼んで絶叫するので、艦長も実はニコルの底知れない度胸(ディアッカはニコルを臆病者と評しますが、彼自身がフレイに殺されかけた時、そうではなかったのだと悟るように描写しました)と実力を見抜いていたという設定にしました。
になにな(筆者) 2011/02/28(Mon)15:42:51 編集



Copyright (C) 逆転SEED All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog | Template by 紫翠

忍者ブログ | [PR]