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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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金色の髪を月光で輝かせながら、ゴーグルの奥の琥珀色の眼が光る。

砂漠の虎が戦いを連れてくる…

この地に生きる人々の想いなど踏みにじって。

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キラの熱は下がらなかった。
サイとミリアリアがつききりで看病していたが、キラはうなされ続けた。
コックピットの温度は相当で、マードックやフラガに助け出されたキラは、ぐったりとして意識がなかった。
フラガは小さな少女を抱き上げるとすぐに医務室に走り、艦長に報告してメネラオスから補充として新たに配属された軍医を呼ぶよう指示をした。

「だからさ、感染症の熱じゃないし、内臓にも特に問題はないし。今はとにかく水分取らせて、できるだけ体を冷やしておくほかないでしょ」
「あんなに苦しんでて、つらそうなのに、なんでもないなんてこと…!」
サイは軍医の投げやりな物言いに思わず抗議した。
見た目はなんとなく同じに見えるが、コーディネイターはナチュラルより遙かに身体機能が高い。サイたちが悩まされる宇宙酔いも、低重力障害も、彼らコーディネイターにはほとんど現れない。頑丈な彼らだからこそ、宇宙からの「降下強襲」などという無茶な作戦が成功するのだ。
「ナチュラルより遙かに力を持てる肉体、遙かに知識を得られる頭脳。 死ぬような病気にはならないし、抵抗力も高い」
軍医はぶつくさと言う。
「ま、撃たれりゃ死ぬし、熱出して寝込むこともあるが、そういったリスクは俺たちより遙かに低いんだ。あの子が乗ってたコックピットの温度、何度になってたか聞いたか?」
「いえ…」
「俺たちだったら、助かんないぜ」
そこまで言われてしまったらサイもミリアリアも黙り込むしかない。
彼はコーディネイターと戦って傷ついたナチュラルをたくさん診てきた軍医なのだから、コーディネイターに対する敵愾心や嫌悪感があるのは当然で、仕方がない。
(でも、もう少し親身になってくれてもいいのに…)
荒っぽい戦場の医師に望むのは酷と思いつつ、サイは口を尖らせた。

キラの乗ったストライクは、しぶとく食い下がったデュエルとの死闘の果て、はからずも大気圏単機突入となってしまった。
アラートが鳴り響き、すべてのゲージが危険域に達する。
キラはマニュアルで覚えこんだエマージェンシーメソッドを正確に行っていったが、何しろ全てが初めての事なので、果たして本当に正しく機能しているのかどうかまでは確認ができない。
何よりコックピットの温度の上昇が止まらなかった。
酸素濃度と酸素量はノーマル域で保たれているが、下がるはずの気温が下がらない。バイタルアラームがキラの体温変化を伝え、対応を急ぐよう警告する。

艦外カメラでストライクを捉えたアークエンジェルでは、マリューが艦をストライクまで寄せるよう指示をしていた。
このままではアークエンジェルとストライクの突入角が乖離し、両者が別々の場所に落ちてしまうためだ。
「キラ!キラ!戻れないの?艦に戻って!」
ミリアリアは必死にキラに呼びかけている。
「無理だ!ストライクの推力では…もう…!」
両者の位置をモニターで確認していたナタルがそれを否定する。
しかしマリューは諦めていなかった。
「艦を寄せて!アークエンシェルのスラスターならまだ…」
「ええっ!?しかし…」
驚いたのはノイマンだ。
短い時間の中で綿密に計算した突入角が狂えば、当然着陸場所も狂ってしまう…下手をしたら着陸地点が地球軍の勢力圏どころか、大洋の真ん中とか、ザフトの勢力圏という可能性も出てくるのだ。
しかし、マリューは躊躇しなかった。
「ストライクを見失ったら意味がないわ!早く!」
ノイマンは(どうなっても知らないぞ…!)と思いながら舵を切った。

「ここがアラスカ、そしてここが現在地。嫌なところに降りちまったねぇ。見事にザフトの勢力圏だ」
月が輝く地球の風景の中に、アークエンジェルは静かに佇んでいた。
フラガは艦長室でモニターの地図を眺めていたが、マリューはといえば(言われなくてもわかってるわ)とでも言うように目を閉じてため息をついた。
そして意を決したように答える。
「仕方ありません…あのまま、ストライクと離れるわけにはいかなかったのですから」
ハルバートン准将と、第8艦隊の兵士たちの命を無駄にしないためにも、ストライクを失うわけにはいかなかったのだ。

「あれ?ここにいたんですか」
ヴェサリウスの廊下で低重力に身を任せ、戦場の事後処理に追われる救護艦や整備艦、忙しく立ち働くEVA要員を見つめていたアスランは、ニコルの声に振り返った。
スプレーで固めてはあるのだが、彼女のしなやかで長い髪がふわりと揺れ、ニコルの鼻先をかすめた。その思いがけず甘い優しい香りに思わずドキリとする。
けれどニコルはそんな気持ちを押し隠し、アスランの横に立った。
「イザークたち、無事に地球に降りたようです。さっき連絡が来ました」
「そう。よかった」
あの2人のことだ、恐らくは地球の重力下でも元気に騒いでいるだろう。
むしろ大変なのは彼らを引き取ったジブラルタルの方かもしれない…そんな風に思っているアスランを、彼女よりやや背が低いニコルは斜め下から覗き込んだ。
(この人はいつもこうだ)
心ここにあらずという感じで物思いにふけり、憂いのこもった表情をする。
(でも…それがあまりに綺麗だから、困るんだ…)
「イザークの傷の具合は?」
「ああ、それは…でも心配ないですよ。あの時もあれだけの戦闘をやってのけたんですから」
「そう」
確かに、傷を負いながらもあれだけ戦艦を沈めていたし、結果論とはいえ、ディアッカも一緒だから、きっと大丈夫だろう。
イザークの傷を目の当たりにしたニコルは、本当は彼の傷が思ったより重症であると知っていたが、それを話すことでアスランがイザークの心配をすることが何となくイヤだった。
イザークのアスランへの対抗心は、裏返せば関心の強さでもあると感じ取ってしまうのは、ニコルの勘のよさなのかはわからないが、彼はアスランにイザークの事を話す時は、どこか敵愾心を仄めかした。それは軽い牽制なのかもしれない。
「でも、大丈夫なんでしょうか?」
「え?なにが?」
アスランはちょっと困ったような顔をしているニコルを見た。
「結局僕らは、あの最後の1機…ストライクと新造戦艦の、奪取にも破壊にも失敗しました。 このことで隊長は、また帰投命令でしょう?」
確かに、クルーゼは再び委員会に呼び出され、事の顛末を説明するはずだ。
けれど今回は月に駐屯していた地球軍第8艦隊を殲滅したのだ。
ストライク・足つきの鹵獲・破壊失敗と相殺できなくはないだろう。
それに、アフリカ南部ではビクトリア攻防戦が行われたとも聞く。
ラクス・クラインの一件もあって地上の兵士の士気は高いようだし、父も国防委員会も今は当然、そちらに関心が傾いているに違いない。
「クルーゼ隊長でも落とせなかった艦。委員会でも、そう見るでしょう」
アスランは戦いの最中、地球へと降下していったキラを想って眉をひそめた。
あの艦にはキラが乗っていて、ストライクで戦っている。
あれだけの腕を持つイザークが躍起になってかかっても、キラは負けない…
「でもあの艦には…守りたい人達が…友達がいる!」
キラの言葉が、ちくりと胸を刺した。
(きっと無事に違いない。そしてまた、私たちと戦うの…?)
「アスラン?」
再び物思いに沈んでしまったアスランの横顔を見て、ニコルは不安に駆られて声をかけた。
(こんな表情で考えているのは、婚約者のラクス・クラインのことかな?)
並び立つ彼らの姿をプラントで知らない者はいない。
本当にお似合いだとも思うけど…ニコルは自分が考えるそばからザクザクと傷つき、慌ててそれを打ち消した。
(僕が誰を想おうと自由だし、何より、僕は彼よりずっと長くアスランの傍にいることができるんだし…)
一方アスランはといえば、まさかニコルがそんな風に全然別のことで思い悩んでいるとは知らず、自分が上の空で答えていたせいだと勘違いして優しく微笑んだ。
「あ、いえ…とにかく心配はないわ。この帰投も、何か別の作戦のことのようだから」

母艦とゼルマン艦長を失い、なおかつイザークとディアッカが地球に落ちてしまったことにショックを受けていたニコルは、ヴェサリウスに収容された時、思った以上に意気消沈していた。
アスランはすぐにハンガーにニコルを迎えに行って休憩室で話を聞き、落ち着かせてからあてがわれた部屋まで送って休ませたのだ。
それからというもの、ニコルはアスランの姿を探してばかりいる。
アスランは、それはまだ年若いニコルの不安や寂しさだろうと考え、なるべく優しく接するよう心がけていた。まさか自分のそういった行為が男心をいたく刺激するなど、鈍感な彼女には思いもつかないことだった。
最初の日、自分の部屋に入る前にニコルが自分に抱きついた事すら、恐らく混乱ゆえの衝動だろうと思っていた。この鈍感さはもはや筋金入りである。
「そうですか…ですよね。僕、ちょっとブリッツ見てきます」
そんなアスランとは反対に、ニコルは敏感にアスランの心の壁を感じると、理由をつけて彼女から離れた。
(アスランは優しいけど、心の殻が堅い)
ニコルは廊下を進みながら深呼吸した。損傷の少ないブリッツをいじる必要はなく、むしろ彼女ともっと一緒にいたかったが、そこは自制心を働かせたのだ。
(無理にこじ開けたりせず、自然に受け入れてくれるまで気をつけなきゃ…)
見た目より内面がずっと大人びているニコルはそんな風に考えていた。
もしかしたら、ニコルがもっと無邪気な子供だったなら、アスランは警戒心を解き、自分が何に悩んでいるかを彼に語れたかもしれない。
けれど、アスランは誰にも思いを語らなかった。語る術を知らなかった。
だから再び暗い宇宙にたった1人で視線を戻す。
(キラ…あなたは今、どこにいるの?)

暗い部屋の中で、聞き慣れたトリィの機械的な羽ばたき音が聞こえる。
「トリィ、トリィ?」
ああ、アスランがプログラムしてくれた声だ…キラはなぜか真っ先にアスランの名を思い出した。
「ト…リィ…」
つぶやいたキラの声に気づき、部屋のすみにいた人影がいきなり口をきいた。
「気がついたか?キラ」
キラは驚いて顔をあげかけ、ズキリと痛む頭と、だるさと筋肉痛で体中が悲鳴をあげる事に気がついて思わずうめき声をあげてしまう。
「あ、ダメだって、いきなり起きちゃ…」
「う…フレイ?なんで、フレイが…ここに?」
痛む頭でキラはようやく言った。
(ケガはしていないようなのに、なぜこんなに体が痛いんだろう)
キラは呼吸を整えると、改めてあたりを見回した。
「…ここって?」
見慣れない景色。そしてフレイ。一体何があったのかキラには見当もつかない。
「艦の医務室だよ。キラが着艦した時にはもう意識がなかったっていうから、覚えてないんだろう」
「着艦…あの時…」
キラはけたたましいアラームと上昇する温度に感じた恐怖を思い出した。
暑さで息苦しい中、必死にシステムを切り替え、切れ切れに聞こえるミリアリアの声に応え、寄せてくるアークエンジェルの艦体を見たのだった。
(そうだ、そこでストライクがアークエンジェルに弾き飛ばされないよう、慎重なコントロールで位置を合わせて…)
そこまでは確かに覚えている。
(…うまく着艦できたのかな?)
キラはそんな事を本気で考えていた。
どうやら今、自分がこうして無事に生きている事がその証とは結びついていないようだ。

今、アークエンジェルは地球にいる。
フレイ曰く、ここは北アフリカの砂漠地帯だという。
「キラは女の子だから、状態が悪い間はミリアリアが看てたよ。安心して」
フレイは敢えて「サイ」とは言わなかった。サイももちろん、献身的に看護していたのだが。
「少し熱が下がってからは、俺が立候補してキラの看病をしてたんだ」
「フレイが…でも、なんで?どうしてそんな…」
「だって俺、皆と違ってまだなんにも仕事ができないからさ」
はにかむように言うフレイを見て、キラは急に気恥ずかしくなる。
「それに…きみが心配で…」
自分には力がないと言ったフレイの代わりに戦うと決めた自分。
そんな自分を抱き締めてくれたフレイ…それから、初めてのキス…急に蘇ってきた記憶で頬が赤くなり、ちらりとフレイを見ると、フレイもキラを見つめていた。
やがてフレイはキラの柔らかい髪に触れ、そしてその華奢な体をそっと抱き寄せた。
「本当に心配したよ。でもよかった…きみが無事で」
フレイに抱き締められ、キラは激しい心臓の鼓動を感じながら思った。
(夢…じゃなかった…)
彼の優しい言葉も、力強い腕も、くちづけも、すべてが本物だった。

「マニュアルは昨夜見たけど、なかなか楽しそうな機体だねぇ」
ハンガーではアークエンジェルに新たに配備された大気圏内運用機体、FX-550スカイ・グラスパーを前に、フラガはマードックと話をしていた。
「しかしまぁ、ストライカーパックも付けられますってのは…俺は宅配便か?」
「宅配便はいいや」
コーヒーを片手にマードックは大笑いした。
「大尉なら、じゃねぇや、少佐ならどんなとこにもお届けできますってね」
「少佐ねぇ」
地球に着いてみたら、ハルバートンの計らいにより、彼らは全員昇進が決まっていた。
大尉だったフラガとマリューは少佐に、ナタルは中尉に、パイロットであるノイマンとキラは少尉にそれぞれ昇進していた。他の子供たちも野戦任官として軒並み二等兵だ。ナタルからの報告に、彼らもさすがに自分たちも本格的に軍人になったのだと緊張した面持ちだったっけ…
「そういや、嬢ちゃんの熱は?」
マードックがキラの容態を尋ねる。
「朝には下がったってさ。ストライクがすごいんだか、あいつの体がすごいんだか」
軍医はコーディネイターなんか診たことがないと逃げ腰だったが、散々心配させたものの、キラは既に熱も下がり元気になっていた。
ただし様子を見るため今日一日は自室で休むようにと、医師から言われていたのはもちろん、何よりずっと彼女を心配していたマリューの「艦長命令」が下っていた。

「え!キラ、気がついたの?」
「うん、ちょっと前にね」
食堂ではこれから交代に向かうミリアリアとサイが、逆に休憩に入るトールたちからもたらされた報せに、安堵の表情を浮かべていた。
「大丈夫らしいから、もう部屋に戻ってる。食事はフレイが持ってった」
トールがそう言うと、「フレイが?」とミリアリアは密かにいぶかしんだ。
ちょうどその話をしているところに当人が現れた。
「どう?キラ」
「ああ、大丈夫みたいだよ。食事もしたし、昨夜の騒ぎが嘘みたいだ」
フレイはサイの質問にそう答え、キラのためにドリンクを用意している。
そんなかいがいしいフレイの姿に、ミリアリアもトールも驚いていた。
(こいつ、こんなにマメなヤツだったっけ?)
「俺、今から休憩だから代わりに行こうか?」
トールはそう提案したのだが、フレイは首を振った。
「いいよ。仕事が終わって疲れてるだろうし、今日はもう遅いし…トールは休んでなよ」
「けど…」
そう言われてしまうと、無理にその役を奪い取るわけにもいかなかった。
そもそもフレイが天敵のトールを思いやるとは…皆驚きを隠せない。
トールも「じゃあ、また明日にするよ」と言うしかなかった。
「フレイも疲れたでしょ。私たちと交代してからずっと、キラについてたもんね。少し休んだ方が…」
その時、サイが気遣ってフレイの腕に触れた。
「俺は大丈夫だよ。食事もキラと一緒にしたしさ。まだみんなみたいに、艦の仕事があるわけじゃないし」
彼は甲斐甲斐しくボトルをトレイに戻しながら言った。
「俺たちのために戦ってくれてあんな事になったんだし…キラには早くよくなってもらわなくちゃな」
フレイの表情は明るい。
「うん…キラによくなって欲しいって、それはみんな思ってるけど…」
やけに甲斐甲斐しい彼を見たサイは、違和感を感じずにはいられなかった。
(確かに私たちは交代制で、休憩時間も決まってるけど…フレイはいつからこんな風にキラの事を語るようになったの?)
「まだ心配だから、行ってるよ」
「あ、ねぇ、フレイ?」
サイは結局その違和感をはっきりとはまとめられなかったのだが、ついフレイを呼び止めてしまった。なんとなく、フレイの態度がいつもより冷たいような気がしたせいかもしれない。
「何?」
「え…何って…」
フレイは特にいつもと変わりなく振り返って聞いた。
その切り返しにサイも次の言葉を失って口ごもってしまった。
そんなサイを見て、フレイは少し寂しそうに言った。
「なぁ、サイ…きみとのことは…父さんの決めたことだけど…その父さんも、もういないだろ」
そのフレイの言葉に、サイ以上に周囲のトールたちが凍りつく。
ミリアリアは思わずトールの腕につかまり、カズイも興味津々だ。
「俺たち、まだ子供なんだし…まだ話だけだったんだし…今は状況も変わったんだから、きみもあの約束に縛られることはないと思うんだ」
フレイは申し訳なさそうな顔をしながら続けた。
「俺…色々いい加減で、勉強なんかもてんでダメだけどさ、きみはとても優秀で優しいし…もっと、俺なんかより…さ…」
フレイはそう言い残すと、サイとは眼を合わせずに微笑み、「じゃ、またね」と言い残して立ち去っていった。
残されたサイは呆然と立ちすくみ、他の3人も言葉がなかった。

(サイ…悪いけど、もう終わりなんだよ…)
フレイはトレイを持ってキラの部屋に向かった。
「俺は賭けに勝ったんだ」
そう思いながら、心の中では軽いため息をつく。
(きみはいつも優しくて、頭がよくて、何でも俺の言うことを聞いてくれたけど、俺が本当に望むことをしてはくれない…できないんだよ、俺たちナチュラルには…あいつのようにはね)
フレイの顔が邪悪に歪む。

「キラは…戦って…戦って…戦って死ぬんだ。でなきゃ許さない」

俺の父さんを見殺しにした罪を…「敵」と真剣に戦わない罪を贖って。

飛び回るトリィを見ながら、キラはベッドに横になっていた。
さっきフレイがドリンクを持ってくるよと出て行った後、キラは月軌道の戦い以来の汗を流そうとシャワーを浴びた。
人工重力下ではない水は、激しい水飛沫を上げてまっすぐに落ち、このまますべての穢れを洗い流してくれればいいのに…と思う。
望んだわけではないが、パイロットということで自分が士官になったと聞いたのは、忙しい時間を割いて見舞いに来たラミアス艦長からだった。
「士官には、士官の待遇というものがあるのよ」
そう言われて一人では広すぎる部屋をあてがわれ、こうして手持ち無沙汰な時間を過ごしている。

この部屋に移った後、フレイが食事を運んでくれて一緒に食べた。
カレッジの話や好きな映画や歌手の話…話題が豊富なフレイの話はとても楽しくて、キラは相槌を打ちながら聞いていた。
赤毛のフレイ…いつでもたくさんの女の子や男の子に囲まれて、誰からも声をかけられて…いつも人の輪の中心にいたフレイ。
そのフレイが今は、自分の方だけを向いて、自分のためだけに話をしてくれる。
素敵だな、とずっとずっと思っていた。
あんな風に、自分に自信が持てたら…と思っていた。
そのフレイが…親友のサイの婚約者のフレイが…キラはそこまで考えてギクリとした。
(サイ…そうだ、サイ…私は…大変なことをしてしまったんじゃないか)
サイの顔と彼のキスの感触が思い出され、キラはきゅっと唇を結んだ。
(フレイは、サイの婚約者なのに…)

しかしその思考は、フレイの姿を見た直後、別のことでかき消された。
フレイは部屋に入ってきてドリンクのトレイを置くと、キラに「ほら、これ」と何かを差し出したのだ。
「整備の人から、キラに渡してくれって頼まれたよ」
フレイは何気なく言った。実際、彼にはそれが何なのかわからなかった。
「ストライクのコックピットにあったから、キラのだろうって」
キラはそれを見た瞬間、あっ、と叫んでしまった。
それは、紙でできた小さな花だった。
もうどこにもいないあの子がくれた、紙の花…
「今まで守ってくれて、ありがと」
そう言って、死んでしまったあの子がくれたものだ。
「…あ…ぁ…」
キラは思い出したくない光景を思い出す。
ダメージアラート、バイタルアラーム、計器が悲鳴をあげるコックピット…青い地球…そこに向かうシャトルが、ビームで貫かれる。
(あいつ、デュエル…あいつが彼らのシャトルを撃った。ヘリオポリスから命がけで逃げてきた、何の罪もない人々を…殺した)
キラは床に崩れ落ち、小さな花を握り締めて跪いた。
まるで彼女の命のように、その紙はあまりにも頼りなく、キラの手のひらの中でくしゃりと潰れてしまった。

(死んでしまった…守れなかった…あの子…まだあんなに小さな…女の子…)

「キラ!」
そんなキラの様子に、フレイは驚いて駈け寄った。
キラは両手を胸に当てながら荒い呼吸をしている。
けれど心配そうな様子のフレイに気づくとなんとか笑おうとした。
「大丈夫か?」
「あっ…ありがと…」
笑わなきゃ…だって、フレイが心配してくれてるんだもの…
「どうしたんだ、キラ?」
その様子にフレイはますます不安げに覗き込み、キラの肩に手を置いた。
笑おうとしているのに、視界がぼやけていく…おかしいな…
「あ…あの子…が……私………守れなかっ…」
キラはこらえきれずに嗚咽をもらした。
「守れなかったの…あの小さな女の子を…皆、みんな死んでしまった…あと少しで、帰れたのに…」
「キラ!」
フレイは震えるキラを強く抱きしめると言った。
「いいんだよ…キラ…きみは精一杯やった」
その途端、キラはまるで小さな子供のようにフレイにすがって大声で泣き始めた。
「守るために…戦うって、フレイと約束したのに!そう決めたのに…」
「キラ…」
「守れなかった…可哀想なあの子…皆、死んでしまった」
キラは堰を切ったように泣き、フレイは彼女の小さな体を強く抱き締めた。
「キラ…俺がいるよ…」
フレイはそのままキラの柔らかい髪を、そして小さな背中を優しく撫でる。
「きみは頑張った。やれるだけの事をやった。だからいいんだよ、キラ」
フレイはまるで呪文のようにキラの耳元で囁き続けた。
優しい声とぬくもりが、凍え切ったキラの心を満たしていく。
「フレ…」
「大丈夫。俺がいるから」

可哀想なキラ。哀れで惨めなはぐれコーディネイター。
一人ぼっちのおまえには、もう俺しかいないんだ…そう、俺しか…

「俺の想いが…きみを守るから…」

フレイが唇を奪うと、キラは素直に受け入れた。
なされるがままのキラを、フレイは甘い言葉で慰め続けた。
(キラ…傷ついた心も体も、魂までも、全部俺のものになれ…)

月の出た砂漠は恐ろしく冷え込んでいた。
死んだような景色の中に、暗い人影が数体見える。
非常に大柄な影、縦はさほどではないが横と厚みががっちりした影、さほど大きくはないがすらりとした影、そしてもう一つは小柄でまだ子供のようだった。
彼らは砂漠に停泊した見慣れない戦艦について、合図をしあい、無線機を設置して何やら相談している様子だった。
「図面でしか見たことはないが…間違いないだろう。あれはヘリオポリスで建造された、地球軍の新型強襲機動特装艦アークエンジェルだ」
中くらいの影が、アークエンジェルの正体を暴いた。
誰も何も言わないが、これでザフトの勢力圏であるこの地に、地球軍の戦艦がたった一機迷い込んできたことがわかった。
「どうした? 」
子供のような影が、思ったより大人びた声で無線に問いかけた。
「虎がレセップスを出た。バクゥ5機を連れて、その艦へ向かっているぞ!」

砂漠の夜は、静かに更けていく。
やがて流される血がその砂を紅く染めるまでは、ただ静かに。
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secret
制作裏話-PHASE15-
戦闘ではなく、物語としてのSEEDの山場の一つです。
ここからフレイがサイからキラに乗り換え、キラを真の「コーディネイター殺し」に育成していくことになります。

本編のフレイはキラの弱さにつけこみましたが、逆転のキラは女の子なので、たとえ見せ掛けであっても相手に「優しさ」を求めてしまうという設定にしました。
「本編でもキラはフレイの優しさにすがった」という向きもあるかもしれませんが、男と女で「優しさ」を求めるニュアンスは微妙に違うと思うんですね。

このシチュエーションだと、男はいうなれば「捌け口として」、女は哀しいかな「嫌われないために」ですよね。

一方でアスランに憧れ、好意を示すニコルを描写していますが、本編同様朴念仁のアスランは全然気づきません。
ニコルが彼女に抱きついた(ニコル本人は抱き締めたつもりですが)という衝撃の回想も入れたのですが、アスラン、もちろんその意味には気づいてません。
逆転にした分、DESTINYの女難要素がないので「アスランの鈍感ぶり」はこちらに入れ込んであります。相手がニコルでは当然「絶対に成就しない」ですしね。

ちなみにアスランの鈍感ぶりは、今後も何度か表現しており、それがPHASE48でカガリに告白するまでの伏線になっています。
こうした伏線によって、アスランは「カガリ以外の男には決してなびかない」という事を強調しています。これには逆デスのメイリンも苦労していますね。

種ではなく、種デス本編のアスランもシナリオを読む限りは実は他の女には特になびいているわけではないのですが、あちらはスタッフの遊びが過ぎたことと、タイトなスケジュールによる描写不足が災いして、中途半端な女難男になってしまいました。
女難に遭ってもせめてカガリの事をちゃんと思い出すだけでも違ったのに、ほぼ99%そのシーンがなかったのは大失敗のキャラクラッシュでした。あのおかげでアスランがただの変なヤツになってしまいましたからね。
(今後も関係を続けるならきちんと話し合う、別れるなら互いにきちんとケジメをつけるべき、という事です)

しかしこのPHASEは何より、男女逆転SEEDを書く動機でもあるカガリがようやく再登場した回です。
これでやっと、「バカではなく、喚くだけでもなく、男性らしく感情を抑えた、格好いいカガリ」が書けるぞ、バンザイ!と意気揚々としていました。

私は本当に、明るくて前向きで少年らしいカガリが書きたかったんですよ。
になにな(筆者) 2011/03/07(Mon)00:50:39 編集



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