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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「私は何も、地球を占領しよう、まだまだ戦争をしようと申し上げている訳ではない。しかし、状況がこのように動いている以上、こちらも相応の措置を執らねばならないのは確かです。中立を公言しているオーブ・ヘリオポリスの裏切り。先日のラクス氏遭難の際の拉致事件…」

父はザラ委員長が提唱する「オペレーション・スピットブレイク」に賛成票を投じるつもりだろう。
(でも、それで戦争は終わるんだろうか…?)
ニコルは、再び戦場に赴く息子を案じながら議会へと向かう父、ユーリ・アマルフィを見送ると、久しぶりにピアノを弾くため部屋に戻った。
そして想う。アスランは今頃、何をしてるんだろうな…と。

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「認識番号285002、クルーゼ隊所属、アスラン・ザラ。ラクス・クライン氏と、面会の約束です」
声紋とIDが認識され、クライン家の門が開く。
アスランは車を飛ばしてクライン邸の正面玄関に回りこんだ。
長い髪を結い上げて背中に垂らし、柔らかな素材のワンピースに身を包んで美しく装ったアスランは、出迎えてくれた執事に軽く目礼した。
「いらっしゃい。よく来たね、アスラン」
2階からゆったりとした上着を着たラクスが手を振っている。
「ごめんなさい。少し遅れたわ」
「そう?」
ラクスが階段を降り始めるとハロも彼と一緒にぴょんぴょん飛びながら降りてきて、「アスラーン」と彼女の胸に飛び込んだ。
「これを…後でお茶のときにでも」
「ありがとう」
ラクスは古ぼけた犬型ロボットのオカピに、アスランからのみやげをメイドのアリスに持って行くよう命じた。
その間もハロはアスランの周りをぴょんぴょん飛び回っている。
「それにしても、どうしたの?このハロは…」
「お客さまを歓迎してるんだよ。さぁ、行こう」
そう言って歩き出したはいいが、2人とも思わず足元にまとわりつくハロを蹴っ飛ばしそうになる。
「どこかおかしいのかも…見てみましょうか?」
アスランが言うと、ラクスは慌てて「いいよいいよ」と断った。
(鍵開け機能がバレたら怒られる)
ラクスは心の中でぺろっと舌を出した。
「きみだから余計はしゃいでるんだよ。きみが家に来てくれたのは、本当に久しぶりだからね」
それを聞いてアスランは(しまった)と思う。
たとえ短い休暇が取れた時も、病弱な婚約者に会いに行かない自分の冷たさにチクリと胸が痛む。しかしそれを誤魔化そうとして口から出た言葉は、まるでその「冷たさ」をさらに示すようなものだった。
「機械にそんな感情はないわよ」

2人はテラスに出て、クライン邸ご自慢のバラ園を眺めたり、白鳥が優雅に泳ぐ池のほとりを散歩しながら過ごした。
スカンジナビア王国に生まれたクラインは、故郷の美しい風景を懐かしみ、そんな故郷に似せた庭を造って、望郷の念を慰めていた。
やがて2人は芝生に座り、用意されたお茶を飲んだ。
体力のないラクスはアリスが持ってきてくれた柔らかいクッションにもたれて寝そべり、アスランの美しい長い髪をいじりながら近況を語っていた。
プラントに帰ってからというもの、ラクスは追悼式典の仕事に追われたが、寝込むこともなく、元気に過ごしているという。
「追悼式典には戻れなくて…ごめんなさい」
「いいよ。きみの母上の分も、僕が代わりに祈らせてもらったよ」
ありがとう、とアスランは答えた。
査問会出席の折、久しぶりに母の墓参りには行ったものの、1年前、彼女がいなくなったその日に祈りを捧げられなかった事は悔やまれる。
「もう1年になるんだね」
ラクスはふぅ、とため息をつく。
「1年前は…こんな風に家に帰れるとさえ思ってなかったっけ」
「ラクス…」
深淵の宇宙に取り残され、酸素残量が日に日に減り、周りの人々が次々死体になっていく…それは一体、どれほどの恐怖だったろう。
アスランが思わず彼の手に自分の手を重ねると、ラクスは微笑み、その手を握り返した。
1人は永遠に母を失い、1人は健康な体と未来を失った。
それは分かち合える痛みだと思えた…共に生きていく上で。
「きみが戻ったと聞いて、今度は逢えるかと楽しみにしてたんだよ」
ラクスは嬉しそうに笑った。
「父が、今度の休みには必ず僕に逢いに来るよう約束させたって言ってたけど」
「約束だからだけじゃないわよ」
アスランは査問会で会ったシーゲルとの約束を思い出し、軽く抗議した。
「今回は少し、ゆっくりできるの?」
「どうかしら。休暇は…あくまでも予定だから」
首を傾げたアスランを見て、「そうか」とラクスは寂しそうに言った。
「この頃はまた、軍に入る人が増えているようだよ」
ユニウスセブン一周忌、ラクス・クライン拉致事件、第八艦隊撃滅、ビクトリア攻防戦…マスコミによる戦争昂揚は激しくなるばかりだ。
「戦争がどんどん大きくなっていくような気がするね」
「…ええ」
「父は必死に戦争拡大を抑え、最小限の戦線で、対話による解決を望みたいと言っているけど、きみの父上の支持率は上がる一方だ」
パトリック・ザラが提案している「オペレーション・スピットブレイク」は、多くの人の支持を得ていると聞く。ザフトがさらに積極的攻撃に転じれば、地球軍も総力を上げてそれを阻止しようとするだろう…だがそれでは結局、戦争は拡大の一歩を辿るだけになるのではないのか。
けれど反面、それによって早期決着が図れるのなら…とも考えられる。
「…そうかもしれない、実際…」
アスランはラクスにとも自分にともつかず、ポツリと答えた。
最近はどんなメディアでも、父の頑固そうな顔を見ない日はなかった。

その頃、じきに開かれる最高評議会を前に、シーゲル・クラインはパトリック・ザラが用意したGシリーズの戦闘映像を見て顔を曇らせた。
「そんなものを見せて、まだ駄目押しをしようと言うのかね」
「正確な情報を開示したいだけですよ」
振り向きもせずに答えたザラに向かって、クラインは「きみが『選んだ』正確な情報を、だろう?」と皮肉った。
それを聞いてザラは肩をすくめてみせる。
彼は今、地球軍本部のあるパナマを攻撃し、マスドライバー、「ポルタ・パナマ」を制圧して地球軍を地球に封じ込めるという、ザフト軍の積極的攻撃態勢への転換を強く提唱していた。
その「オペレーション・スピットブレイク」は、本日可決されるだろう。
もやは世論はザラに傾き、クラインに人心を取り戻す術はない。
「我々は総意で動いているのです、シーゲル」
ようやく振り返ったザラは、鋭い眼光をかつての盟友に向けた。
「オペレーション・スピットブレイクも、新たなリーダーを待つことも、すべてが我らコーディネイターの総意なのです」
しかしクラインはザラの方法による短期決戦論に納得できない。
「戦火が広がればその分憎しみは増すぞ。どこまで行こうと言うのかね、きみたちは!」
ザラはひるむことなく、戦いが泥沼化して、そうならない為にも早期終結を目指すのだと答えた。
「戦争は、勝って終わらねば意味がない」
ダラダラと話し合って、馴れ合って、互いにくたびれ果てて終わるなど、愚の骨頂だ。我らが権利と自由を手に入れるためには勝たねばならない。
「我らコーディネイターはもはや別の、新しい種です。ナチュラルと共にある必要はない」
パトリックは元々選民思想に傾きがちで、昔からナチュラルとコーディネイターはもはや別の種であるとよく発言していた。
戦いが始まって以降は、ナチュラルとの共棲など完全否定派だ。もし1人娘がナチュラルの男を選んだりしたら、大変な事になるだろう。
「しかし子供が産まれなければ、命は繋げないぞ」
ナチュラルに比べて格段に体が強く、知能レベルも高いコーディネイターにも、大きな欠点があった。
それは、出生率の大幅な低下である。
ことにアスランやラクスたちの第2世代に続く第3世代が産まれない。
自然妊娠はもちろん、高度な不妊治療を施しても受精卵になることなく、卵は皆死んでいってしまう。高度に発達しすぎた肉体が問題とも、組み替えられた遺伝子により、個体が互いを「別種」と判断してしまうためとも言われているが、明確な回答は未だ得られていない。
「きみのいう、新たな種として生き残る事すら不可能だ」
ザラはクラインの言葉に、それすらもコーディネイターの叡智をもって克服し、新たな未来を切り拓けるはずだと力説した。
「そう、いずれは人工的な生命体を作る事さえ不可能ではない」
パトリック・ザラの不遜な言葉に、シーゲルは思わず声を荒げた。
「パトリック!命は生まれいずるものだ!作り出すものではない!」
「そんな概念、価値観こそがもはや時代遅れと知られよ!」
ザラもまた厳しく言った。
「我らは作られた。人の手により、遺伝子を操作され、より善き明日を作れと。より豊かな未来を生きよと。なぜ今になってそれを否定する?非難する?」
「だが、そればかりが幸福か!?」
クラインもまた問うた。
「弱者を切り捨て、虐げて前に進む事すらも?」
「望むものが幸福でないならば、人は進化などできなかったはずだ」
望むから、願うからこそ、人は明日へと歩いていけるのです…ザラはそう言ってふふんと笑った。
「これは総意なのです、クライン議長閣下。我らはもう、今持つ力を捨て、進化の道をナチュラルへ逆戻りすることなどできんのですよ」
高みにいる者が、なぜ泥沼にはまる者と同じ事をせねばならぬのか…誰もが今の生活を捨てられない。そうやってナチュラル自身も進化してきた。
ならば、これこそが「人類の総意」と言えまいか?
「我らは進化したのではないぞ…パトリック」
振り返りもせずに議場へと向かったザラを見送り、クラインは苦々しげに呟いた。
(進化とは、人の手で意図的に行われるものではないはずだ…!)

「そういえば、キラさんは今頃どうしてるんだろうね」
ラクスはお茶を飲みながら尋ねた。
「アスランはあの後、キラさんに会ったの?」
「え…」
アスランはラクスのいつもながらのほほんとした口調に呆れ、心の中で軽いため息をつくと言った。
「あの子は、今地球よ。多分、無事だと思うけど…」
「地球かぁ」
ラクスは懐かしそうに言った。
「僕はもう随分降りてないな。きみは?」
しかしアスランはその問いには答えず、また1人で考え込んでいた。
(キラ…イザークやディアッカと共に落ちて行った…)
クルーゼは、イザークたちを戻さず、そのまま足つきを追わせると言っていた。
当然、ストライクもその足つきと共にいるはずだ。
「小さい頃からの友達だったの?」
心ここにあらずという感の彼女を見てラクスはお茶を一口飲み、再び聞いた。
その声にはっと我に返ったアスランは、何事もなかったかのように続けた。
「4、5歳の頃から。私たちはずっと月にいたの。開戦の兆しが濃くなった頃、私は父に言われて先にプラントに上がったわ」
別れの日、泣きそうな顔で一言も喋らないキラの姿は今も覚えている。
花吹雪が舞って、キラが泣かないように、自分は一生懸命笑ってみせた。
「…あの子も、後から来ると聞いていたんだけど…」 
キラの事を思い出す穏やかな顔のアスランを見て、ラクスは微笑んだ。
「ハロのことを話したら、きみのこと、相変わらずなんだなって」
アスランはその言葉の意味を図りかねて「え?」と尋ねた。
「嬉しそうに笑ってたよ。自分のトリィも、きみに作ってもらったって」
「あの子…まだ持って?」
「キラさん、とても大事にしていたようだよ」 

―― 空を飛ぶ鳥を作ってよ。羽を広げて、首をかしげて鳴く鳥を…

「そう」
アスランは胸が熱くなった。
(変わってないのね、キラ…今も、甘ったれで泣き虫で、いたずらっぽい眼で、私が知らない友達に囲まれて、明るく笑っているのかしら?)
アスランはふと寂しそうに眼を伏せた。
(私のことなんか忘れてしまって…今の友達の方が大事だから、彼らを守るために、私と戦おうと思っているの?)
そんな物思いにふけっていると、ラクスがポツリと言った。
「僕、あの子が好きだよ」
「…えっ!?」
アスランが思わず声を上げると、ラクスはいたずらっぽく笑った。

「キラは顔出さない方がいいよ…鍵開けたらドアの影にいて」
キラはサイに食事を運ぶ順番だったカズイに無理に頼んで独房まで一緒に来たものの、カズイからそう言われて足を止めた。
バナディーヤに行っている間に、サイはストライクを動かして倒れてしまい、随分色々なものが壊れたと聞いた。
(マードックさんは怒り心頭で、ムウさんは歯切れの悪い事しか言わなくて…ミリアリアもトールも、なんだか気まずそうだった) 
「またキレちゃったら、嫌だろう?あのサイがさ…」
カズイの言葉がズキンと刺さったが、何も言えなかった。
「サイ!大丈夫?」
キラはサイから見えないように廊下の壁際に立つ。
「一週間きついだろうけどさ、規則じゃしょうがないもんな。我慢して」
カズイがねぎらうと、サイは消え入りそうな声で答えた。
「…わかってるわ。大丈夫だから」
ありがとう…サイの細い声を聞いて、いたたまれずにキラは駆け出した。
サイにそんな事をさせたのは自分だった。
(私は…サイを追い詰めて、苦しめてる…)
キラは自分の部屋に入ると、電気もつけずにベッドにうつ伏せた。
「ストライクに乗るなんて…そんなムチャな事を、あのサイが…」
いつでも優しくて、世話を焼いてくれて、しょうがないなぁ、と笑っていたサイ…キラはこぼれる涙をシーツに押しつけた。
(ごめん…ごめんね、サイ…私、あなたにひどいことをした…!)

オペレーション・スピットブレイクは無事可決され、パトリックは作戦の中心となるはずのラウ・ル・クルーゼとの面会約束を取り付けた。
まだ評議会は途中だが、残っている案件など大したものではない。
「コーディネイターの未来を阻む者は全て排除する。奴らの罪は、その命をもってしか償う事はできない」
ぎりっと歯を食いしばったパトリックの脳裏に、妻と娘の笑顔が浮かんだ。
「我らが本気になれば、地球など!」
ザラからのコールを受けたクルーゼは、その体調の悪さを悟られぬよう受け答えをしたものの、薬の瓶を手にしたままひどく苦しんでいた。
間もなくの議長選で、クラインの後任は間違いなくパトリック・ザラに決まるだろう。プラントは大きく攻勢に出ることになり、戦禍は格段に広がに違いない。
「せいぜい思い上がるがいい、パトリック・ザラ!」
ナチュラルだろうがコーディネイターだろうが、「戦争」というこの世で一番面白い見世物を見せてくれれば、それでいいさ…クルーゼは苦しみもがきながらも楽しそうに笑った。

世界が大きく動こうとしているその時、アークエンジェルも突破口を開こうとしていた。
進路をアラスカに向けるためには、どうしても砂漠の虎率いるレセップスを突破せねばならない。
タッシルを焼かれた「明けの砂漠」は、アークエンジェルへの支援を申し出ている。しかしそれは犠牲を生む作戦でもあった。
「このあたりは、廃坑の空洞だらけだ。こっちには俺達が仕掛けた地雷原がある。戦場にしようってんならこの辺だろう」
せっかく仕掛けた地雷を使わない手はなかった。
「矛盾する話だが、爆発しなければ俺たち自身もそこを通る事ができないしな」
サイーブは先日のアル・ジャイリーとの会見で、虎に従う道も考えたようだが、支配者の手はきまぐれだ。何百年というもの、彼らの一族はそれに泣かされてきた。支配されず、支配せず…望みはただそれだけだ。虎がいなくなればそれは叶うだろう。
それを聞いていたフラガは(それでも…)と考える。
それはほんの一時のことで、虎がいなくなれば新たな支配者か、それを打ち破り、恐らくはユーラシアがやってくるのだろう…彼らの安寧は束の間だ。
けれど彼らがそれでいいというなら、所詮パッセンジャーの自分たちがどうこう言う権利はなかった。
「では、レセップス突破作戦へのご協力、喜んでお請け致します」
そう答えたマリューにだって、それはわかってるはずだ。

大遅刻をしてキサカやマリューにこっぴどく絞られたものの、キラを無事送り届け、トールたちが望んだ物をできる限りで買って来てくれたカガリは、いつの間にかアークエンジェルに勝手に乗ってくるようになった。
もちろんセキュリティ上そんな事は絶対に許されないのだが、キサカもカガリもまるでこの戦艦のどこから入ればいいかを熟知しているかのごとくいつの間にか艦内にいて、あれこれ見て廻っているので、もはや誰も彼らに文句を言わなくなっていた。
今日もカガリはアークエンジェル艦内に入り込み、ノイマンやミリアリアと一緒にシミュレーターで飛行・戦闘訓練を行っていた。
カズイがあっという間に訓練終了になったのを見て「貸してみ」と代わったのだが、これがまた結構な腕前でノイマンを驚かせた。
皆が騒いでいるのを聞きつけてやってきたトールは興味津々でカガリの訓練レベルを見守っていた。さすがにSとはいかないが、Aプラスだった。
「おまえたち、軍人のくせに情けなさ過ぎるよ」
「ちぇ、なんだよ、偉そうに」
銃も撃った事がないという彼らに呆れたようなカガリにトールが抗議したが、カガリはふふんと鼻で笑うように言った。
「そんな事じゃ、いつか死ぬぜ?今は戦争中なんだからさ」
やがてノイマンの指導の下、わいわいとシミュレーションをやり始めたトールたちを残し、カガリはディアクティブモードのストライクを見上げた。
どんな理由かはわからないが、キラはコーディネイターでありながら、同じコーディネイターと戦っているのだ。
(俺は…「明けの砂漠」の連中が自由になれるのならと思って戦ってきた)
カガリは拳を握り締めた。
(でも、あいつが戦ってる理由と比べたら、これは本当に「俺の戦い」だといえるだろうか)
世界は未だ激しい戦火の中にあり、故郷を遠く離れて、ここで…
(何をしている?俺は)
カガリはもう一度ストライクを見上げた。

―― 俺の戦場は、どこにある?

「キラ?」
真っ暗な部屋に、フレイの声がする。
キラはベッドに座ったまま、膝を抱えていた。
「どうしたんだ?」
フレイがキラの隣に座って訊ねたが、キラは何も答えず、ただ両手を膝の上で絡ませていた。
「サイのところに行っただろう?」
その言葉に、キラはビクッと肩を震わせた。
「サイは、きみがストライクを動かせるなら、自分もやれると思ったって。俺たちナチュラルには、できっこないのにな」
不思議な事に、フレイの言葉はなぜか時々キラをチクリと刺す。
ナチュラルとの差を感じさせ、ナチュラルとの壁を感じさせた。
キラはなんだかいたたまれなくなって膝に顔を埋めた。
「キラ?どうした…キラ…」
フレイが心配そうに呼びかけるけれど、キラは答える気になれなかった。
フレイはキラの肩に手を回し、下を向いたキラの顔を向けさせた。
「大丈夫だよ、キラ…きみには俺が…」
「フレ…」
キスをされ、そのままフレイはキラを抱きすくめた。
抵抗してもフレイは力を込めて彼女を離さず、そのままベッドに押し倒した。
「…やだ!やめて!」
キラは思わず力いっぱいフレイを突き飛ばして部屋を出た。
そして廊下を走りながら、乱れた襟元を手で押さえる。

―― ごめん、フレイ…ごめん、サイ…

(もうどこにも私の居場所がない…私は、どこに行けばいいの…?)

「残念だな。夕食を一緒に食べられると思ったのに」
ラクスは本当に残念そうに、帰り支度をするアスランを見守っている。
「議会が終われば父も戻るし、きみにも会いたいと言ってたのに」
それでもほぼ丸一日、ずっと一緒に他愛もないおしゃべりに興じたのだが、会えない時間が多い2人の隙間は、なかなか埋められなかった。
「やることが色々あるの。あまり戻れないから…ごめんなさい」
「そうか…なら仕方がないね」
けれど少し寂しそうな顔をするラクスを見て、アスランは慌ててつけ加えた。
「あ、でも、時間が取れれば、また来るわ」
ラクスは普通の人のようにいつでも気軽に外に出られる体ではない。
一旦体調が悪くなれば、何日も寝込む事だって少なくないのだ。
彼にとって、時間はとても貴重なのだ…アスランは自戒した。
「本当に?なら、楽しみに待ってるよ」
それを聞いてラクスが笑ったのでほっとする。
(子供みたいな人…こんなあなたが「悲劇の英雄」だなんて)
するとラクスはアスランの頬に顔を近づけた。
アスランもまた彼の意図を汲み取り、心持ち頬を出す。
彼は彼女の頬に親愛のこもったキスをすると、「おやすみ」と言った。
「おやすみなさい」
絶対に無理しちゃダメよと、常套句を残してアスランは去って行った。
(無理をしているのはきみの方だろう、アスラン)
ラクスは彼女を見送るとふぅとため息をついた。
「ねぇ、ハロ…僕の綺麗なヒルダはまだ、一人ぼっちの可哀想なカイの眼に、氷が刺さっていることに気づかないみたいだね」

自室に戻ったアスランは、ラクスの話を思い出していた。
昔、キラに作ってあげたトリィ…キラはまだ、大切に持っているという。
アスランもまた、壁のボードにアカデミーやザフト入隊後の写真と共に、幼い日、キラと一緒に撮った写真を貼っていた。
(キラ…私たちは、やっぱり戦わなければならないの?)
アスランは無邪気に笑う遠い日の自分たちを見て、ポツリと呟いた。

「私は、あなたを憎んでなんかいない」
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secret
制作裏話-PHASE20-
逆転SEEDを書き始めたきっかけが「カガリ」と「ラクス」ですから、この2人がメインの話は、当初から書きたくてうずうずするものばかりでした。

ユニウスセブンで身も心も傷ついたラクスと、母を失って戦いに身を投じたアスランは、「同じ境遇の者同士」という絆で繋がっています。
この頃のアスランは政略結婚であっても、ラクスを共に生きていく相手として見ていたのは間違いないと言っていいでしょう。

本編ではさも後付けっぽく、「ラクスはアスランを共に戦う同志となり得るか、観察していた」などという設定がありましたが、逆転のラクスはまさにその真っ最中でした。その答えが逆デスのPHASE47「ミーア」で出される事は既にご存知でしょう。

なおこの時のアスランとラクスの仲がよくて気のおけない雰囲気は、逆デスのPHASE46「真実の歌」でも生きていると思います。
しかもこの時、彼らの雰囲気がよければよいほど、決裂してしまったキラとサイ、慰めでしかないキラとフレイの関係と対照的になっていて、キラはますます孤独になり、孤立感を深めていきます。

しかし実は結構楽しかったのはザラとクラインという、かつて志を同じくした盟友の道が分かたれていく過程でもありました。もうちょっと力のある脚本家なら、この親父たちのドラマもちゃんと描けたろうなと惜しい気がします。

また、逆デスのシンがPHASE19で「戦うべきときには戦わないと」と、パトリック・ザラと同じ事を言うのですが、実はその際のシナリオがどうにもわかりにくく、納得いかなかったので、私が後日シンのセリフに「それに、戦うからには勝たないと」というフレーズを創作して入れ込んだんですね。
けれど後になってこのPHASEを読み返してビックリ。意図せずともシン=パトリック、即ち「戦争は勝って終わらねば意味がない」になっていました。これも運命のなせる業ですかね!(いえ、単に私の力不足です、もちろん)

なおこの話で私が気に入っているのは、キラが同胞と戦っているのだと知ったカガリが、「ならば自分の戦いとは何だろう」と自分の運命に向き合い、この後ウズミに諭されて、為政者となるべき「自分の戦場」を見つけ出すきっかけとなるセリフを伏線として言わせたことです。

また、これは実は全く意図していなかったのですが、逆デスでは故国に帰りながらも行政府に戻れないカガリが、「戦場を見失った自分」の歯がゆさを、この時の幼い自分と重ねあわせるという化学反応を生み出しました。所謂、「キャラが勝手に動いた」というヤツです。
逆デスはこういった事が本当に多くて、自分でもびっくりしました。

ただし、オペレーション・スピット・ブレイクやいよいよレセップス突破作戦が始まるとか、背景の説明も必要だし面白いっちゃ面白いんですが、ガンダムなのにガンダムが全然出ない話が続くのはやっぱりいただけないですね…
になにな(筆者) 2011/03/07(Mon)22:33:02 編集

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