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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「あのテーブルにいる子供は?」
銃を構え、物陰に隠れた男が仲間に尋ねる。
「その辺のガキだろ。どうせ虎とヘラヘラ話すような奴だ」
「では行くぞ。開始の花火を頼む」
彼らの間に緊張感が走る。
「ああ…魂となって宇宙へ還れ!コーディネイターめ!」

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「じゃあ、4時間後だな」
カガリはごつい腕時計で時間を合わせると、キサカがジープから「気をつけろ」と声をかけた。
「わかってる。そっちこそな。アル・ジャイリーってのは気の抜けない奴なんだ」

埃っぽいバナディーヤの街は思った以上に人通りが多く、人々がにぎやかに行きかっていた。野菜や果物、花、香辛料や、タバコ、昔ながらの日用品…キラは露天で売られている物たちをぼんやりと見ている。
「ヤマト少っ…しょっ、少年たち!頼んだぞ!」
出発前には正体を明かさぬよう気をつけろと散々言っていたナタルが、自らキラの身分を明かすような事を言ってしまい、(しまった…)と赤くなった。
お供のトノムラはそんな上官の姿を見なかったことにしようと必死に前を向いている。
彼らはサイーブとキサカと共に、これから「商談」に向かうのだ。
明けの砂漠に武器を横流し、必要とあらば地球軍もザフトもテロリストでも、商売の相手とする、いわゆる「死の商人」である。

「ボケッとするなよ。ここは女が1人でうろつくと危ないんだ」
ジープが去ると、残されたのはキラとカガリの2人だった。
カガリはきょろきょろするキラに、くれぐれも自分の傍を離れないよう言い聞かせた。
「ほんとに、ここが虎の本拠地?随分賑やかで、平和そうだけど…」
キラはカガリの後について歩きながら尋ねる。
「う~ん…」
カガリはどう説明したらいいかな、という顔をする。
「こっち。ついて来いよ」
カガリが見せたのは、街の向こう側にどっしり構えたレセップスだった。
「平和そうに見えたって、見せかけだけだ」
普段地上に見えている部位の高さが250m程度のレセップスは、宇宙艦のアークエンジェルよりも小さく見える。しかし砂を液状化させて進むスケイルモーターを備え、全体の艦底面積を見ると驚くほど巨大な大型陸上戦艦である。
まさしく「砂の海を進む巨大な船」なのだ。
「あれがこの街の本当の支配者だ。もし逆らえば容赦なく殺される」
苦々しい表情で彼は言った。
「ここはザフトの…砂漠の虎のものなんだ」
キラは強い日差しに眼を細めながら、街角で遊ぶ子供たちを見つめた。

今回のキラへの外出許可は、マリューの計らいだった。
仲良し集団だったヘリオポリスの学生たちの雲行きが怪しい…それに真っ先に気づいたのはやはり勘のいいフラガの方である。
「でも、いつからそんな…」
ハンガーでマリューは声を潜めた。
「さあ?けど、地球に降りてからじゃないの?それまでそんな余裕、なかったでしょ」
何しろ宇宙では、キラはほとんどフラガやマードックと過ごしていたのだ。
「だって、あの男の子はサイさんの彼氏でしょ?」
マリューにはおとなしそうに見えるキラが友達の彼氏を…とは、どうしても信じがたいようで、さっきから何度も「まさか」「ホントに?」と繰り返している。
「意外だよねぇ。俺もそう思うんだけどさぁ」
フラガは肩をすくめた。
「俺だって、まさかあの晩生そうなお嬢ちゃんがとは思うよ?いやはや、やっぱり怖いねぇ、女の子って」
「…ったく、何やってんだ、あいつ!」
上から聞こえた声で2人がストライクに眼をやると、マードックがブツクサ言いながらコックピットを片付けていた。コックピットには食べ物の包み紙やドリンクカップなど、キラが持ち込んだ物が散乱しているようだ。
マードックはキラが何度かここで寝ている姿を見たという。
初めは、整備に夢中になって時間を忘れ、うたた寝をしているのかと思って毛布を差し入れたが、何度もとなるとさすがにおかしい。
「ちゃんと寝てんですかねぇ、あの嬢ちゃん」
マードックからのグチにも似た情報から、それとなく子供たちから事情を聞いたフラガが、ようやくマリューに報告した、というわけだ。
「おかしくなってそうなったのか、そうなったからおかしくなったのかは知らんが、ともかくうまくないな、お嬢ちゃんのあの状態は」
(それに、あのフレイって小僧はキラの部屋に入り浸りみたいだしな…)
しかしさすがにそれは妙齢の女性のマリューには伝えていない。男が女の部屋に居付くということがどんな意味をもつのか、フラガもマリューも想像できないほど経験不足ではないからだ。
「それにしても迂闊だったわ」
マリューはしょんぼりと肩を落とした。
「パイロットとしてあまりにも優秀なものだから、つい…彼女が、正規の訓練も何も受けてない子供だということを忘れてたわ」
「それを言うなら、お嬢ちゃんの様子に気づいてやれなかった俺も同じさ」
フラガはマリューを慰めるつもりで言った。
「いつでも信じられないほどの働きをしてきたからなぁ…必死だったんだろうに」
フラガはふと、自分もキラを追い詰めたのかもしれないと思った。
「きみはできるだけの力を持っているだろ?なら、できることをやれよ」
できるからと戦いを押しつけ、あの子の気持ちを聞いてやったり、その重荷を少しでも取り去ろうとしてやったりはしなかったと思うと、少し苦い思いがした。
「自分が頑張って艦を守らなきゃならない。そう思い詰めて、追い込んでいっちまったんだろうなぁ、自分を」
「ええ。可哀想に…あの子はまだあんなに幼いのに…」
マリューはそう呟くと、真顔で聞いた。
「解消法に心当たりは?先輩でしょ?」
「え?ああ、う~ん…」
フラガはグラマラスな彼女の体をしげしげと眺めて言葉に詰まった。
鬱憤晴らしといえば、男なら当然、よろしくない事も含まれてくる。
「…あまり、参考にならないかも」
「…のようですわねぇ…」
マリューはじとっとフラガを睨んで呆れ顔だ。

というわけで女は女を知るとばかりに、マリューは「街の空気を吸って、買い物をしたり食事をしたり、楽しいおしゃべりをすれば気持ちも晴れると思うわ」と宣言すると、キラ・ヤマトの外出許可を出した。
無論、こんな状況で1人で街に行かせるのは危険なので、このあたりの地理に詳しいカガリ・ユラに護衛を頼んだ。
「コーディネイターに護衛?」
チャンドラたちは笑ったが、「仮にもキラさんは女の子なのよ!」とマリューは息巻いた。
「いいよねぇ若者は!」
フラガはチラッとマリューを見て思う。
とはいえキラが出かけてしまうと、アークエンジェルでは防衛の要の彼女がいないと思うだけで、皆なんとなくそわそわしていた。
「しっかし思い切ったことするよね、艦長も」
チャンドラがモニターから眼を上げてパルに話しかけた。
「ですね。数時間とはいえ、ヤマトを艦から離れさせるなんて」
ミリアリアも珍しくミスが多いので、見かねたトールが声をかけた。
「ミリィ、どうした?」
「ん、なんか落ち着かないなーって思って。キラがいないと」
「大丈夫さ、すぐに帰ってくるよ。それまではなんかあっても俺たちが守るし」
トールはやはり不安がっているミリアリアに明るく言ってみせる。
(キラにも、気分転換が必要だもんな…あんな事があったんじゃ、余計に)
トールは、今は空いているサイの席を見ながら思った。
 
その頃、カガリとキラはメモを見ながら、あちこちの店で買い物をしていた。
(アークエンジェルの艦長が、買い物を口実にキラを街まで連れて行ってくれと頼みに来た時は、何のためかと思ったけど…)
カガリは横を歩くキラをチラリと見ながら考えた。
アフメドが死んだあの戦闘の後、キラは姿を見せなくなった。
何しろもう一度話をしようと思っても、会うこともできなかったのだ。
「わぁ…」 
水パイプ、きらびやかな踊り子の衣装、不思議な形の楽器…バナディーヤの街にはキラが見たこともないものがたくさんあって、つい立ち止まってはカガリに怒られた。とはいえ、少しずつ表情が明るくなってきたキラを見て、カガリも少し安心したようだ。
「きれいだねぇ」
「おい、キラ!ちゃんとついてこいって!」
カガリは、寄り道ばかりしてちっともおとなしくついて来ないキラに手を焼きながらも、こんな事でこいつが元気になるならいいかな…と思っていた。
それくらい、久々に会ったキラは雰囲気が変わって、ひどく憂鬱な暗い表情をしていたのだ。
やがて2人は一つの店を選び、テーブルに座ると買い物をチェックした。
「これで大体揃ったかな。あるものしかないから、仕方ないけど」
そこにカガリが注文した食べ物が運ばれてきた。
「何、これ?」
見たこともない料理に、キラが尋ねる。
「ドネルケバブだよ。あー、疲れたし腹も減った。ほら、おまえも食えよ。このチリソースをかけて…」
そう言ってカガリがソースをかけようとした時、隣に座っていた派手な服を着たサングラス男が、突然2人の会話に乱入してきた。
「あいや、待ったぁ!ちょっと待ったぁ!」
キラもカガリもそのバカでかい声にビクッとしてその男を見る。
「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルトソースをかけるのが常識だろうがぁ!」
「はぁ?」
カガリは男をにらみつけた。キラは呆気に取られて見ているだけだ。
「いや、常識というよりも、もっとこう…ん~、そう!ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒涜だよ!」
(ぼ、ぼうとく…?)
キラはもう一度やや薄汚れた皿の中の料理を見る。
焼いた肉をパンにしてはペッタリしたもので包み、無造作に野菜が飛び出している。
(冒涜って…だったらお皿の汚れの方が冒涜では…?)
「なんなんだ、あんたは?」
カガリが不機嫌そうに男を睨みつけた。
キラはカガリを止めようとしたが、なんだか入り込む隙がない。
「見ず知らずの男に、俺の食い方にとやかく言われる筋合いはない!」
カガリはこれ見よがしに自分のケバブにチリソースをたっぷりとかけると、豪快に大口を開けてパクリと食いついた。
「あーっ!なんという!」
「うまい!」
そしてカガリは、今度はチリソースをキラのケバブにかけようとする。
「ほら、おまえも!ケバブにはチリソースが当たり前だ!」
「いや、ちょ…」
キラはやるなら自分でやると言おうとしたが、カガリと男が再び騒ぎ出したのでその声が届かない。
「だああ!待ちたまえ!レディまでも邪道に堕とす気か!?」
「何すんだよ!引っ込んでろ!」
人の皿の上でもみ合うな…と思った瞬間、2人が手に持っていたチューブから、ソースが同時にベチャッとキラの皿に飛び出した。白と赤。チリソースとヨーグルトソースがてんこ盛りになっている。
「ああ…」
結局、キラはその後も勝手に座り込んできた男とカガリに見張られているような形で紅白ケバブを食べさせられた。
「いや~、悪かったねぇ」
「ええ、まぁ…ミックスもなかなか」
男は勘定は自分が払うから、十分味わってくれと言った。
「でもヨーグルトソースの方がうまいだろ?」
彼はカガリの目を盗んでそっと囁いたが、目ざとく見つけられ、「チリだ!」と怒鳴られている。
「しかしすごい買い物だね。パーティーでもやるの?」
「余計なお世話だ。大体あんた、何なんだ?勝手に座り込んであーだこーだと」
「ま、いいじゃないの。ほら、同郷のよしみってやつ?」
「誰が同郷だっつの」
キラがもぐもぐと口を動かす間も、2人は言葉を交わしている。
(なんだか、気があってるように見えるのは気のせいかな…?)
しかし、その平穏は突如として破られる事になった。

ジャイリーという男は部下を何人も従えてこちらを威圧しつつも、サイーブとは旧知の仲らしく、馴れ馴れしい口を利いていた。
しかしサイーブはけんもほろろで、彼を憎憎しげに見つめるばかりだ。
「水を押さえて優雅な暮らしだな、ジャイリー」
水不足が深刻なこの土地でオアシスの水を管理し、ザフトに供給しているのはこのジャイリーだ。本来水の恩恵にあずかれる地元民は、おかげで高い金を払い、その上給水制限を受けながら不自由な暮らしを強いられている。
サイーブはこの男が大嫌いだった。
「大事なのは神殿より命ですよ、サイーブ・アシュマン。水場も替わるものです。が、どこの水でも水は水だ。飲めればいい。それが命を繋ぐのです」
「くだらん問答をする気はない。商談に応じるのか応じないのか」
「それは無論、同胞は助け合うもの。はっはっはっは」
ナタルは2人の会話を黙って聞いていた。
戦争で儲ける者、苦しむ者…太古から繰り返されてきた構図は変わらない。

街角がざわめくのと銃声が響くのはほぼ同時だった。
キラが優れた聴力で気配を悟ったように、男もはっとそちらを見る。
「伏せろ!」
「うわっ」
キラが体を動かしたのと、男がまだ何も気づいていなかったカガリの頭を押さえつけたのは同時だった。
銃弾がすぐそばを掠める気配に気づき、キラは思わず身を固くした。
男は2人のためにテーブルを倒し、盾にして銃弾から身を守る。
キラがチラリと辺りを見ると、数人の男がこちらに向かってサブマシンガンや銃を乱射していた。しかし同時に、どこからともなく彼らを狙撃する銃弾も飛び交っているようだった。
(うんうん、いいねぇ…大したもんだ)
彼はそれを見て満足げに笑い、それからキラとカガリを振り返った。
「無事か、きみたち?」
カガリは何が何だかわからないながらもキラをかばっていたが、2人ともテーブルが倒れたおかげで赤と白のソースまみれだった。
その時、テーブルの向こうから男が走り寄ってくる気配がした。
「死ね!コーディネイター!宇宙の化け物め!」
その言葉に、思わずキラがカガリの腕の中でビクッとすると、カガリが気づいて安心しろと言うように抱きしめてくれた。
「青き清浄なる世界のために!」
彼が続けて叫んだ忌まわしい標語を聞いて、カガリは唾棄するように呟いた。
「…ブルーコスモス!」
反コーディネイターを堂々と掲げるテロ組織「ブルーコスモス」は、この戦争を操り、煽っているとも言われている過激な秘密結社だった。
しかしなぜこいつらが…そこまで考えたカガリははっとして男を見た。
その時、襲い掛かってきたテロリストに、男は容赦なく発砲した。
「構わん!すべて排除しろ!」
先ほどまでのヘラヘラした様子とは全く違う男の様子に、カガリは驚きを隠せない。
(まさか…まさかこの男…)
すると隠れていた男たちがバラバラと現れ、テロリストを銃撃していく。
その時、1人の男が2人が隠れたテーブルの陰から突然立ち上がった。
男は銃を構え、あちらを向いている派手な服の男に狙いを定めている。
カガリは先ほどから男の正体に気を取られていたため反応が遅れ、腰に隠した銃を取る事ができない。
(やばい、あいつ…撃たれる…!)
すると、キラが突然カガリの腕からするりと抜け出した。
そしてカガリが止める間もなく素早くテーブルの向こう側に回りこむと、小柄なキラは相手の懐にもぐりこんで持っていた銃を思い切り蹴り上げた。
「うわぁ!」
思いもかけないところからの攻撃に驚いたテロリストは銃を取り落としたので、キラはそれを拾い上げると、撃つ…ことはせず、そのままボカッと殴りつけた。
地面に転がったテロリストが頭を抑えて呻くと、がっちりした赤毛の男が進み出て、問答無用で彼を撃ち殺した。
カガリは銃声にすくんでいるキラを引き寄せ、手に持っていた銃を奪い取った。
「おまえ!銃の使い方知ってるか?」
「え…ああ…」
「銃ってのは殴るもんじゃなくて…」
そこまで言いかけてカガリは口をつぐんだ。
男を中心に、彼の仲間が集まってきたからだ。
「隊長!ご無事で!?」
テロリストを撃ち殺したダコスタが声をかけると、派手な服を着た男はサングラスを取り、さも楽しそうに笑った。
「ああ。僕は平気だ。彼らのおかげでな」
「全く…護衛がいたからいいようなものの、やめてください、勝手な外出は!」
はいはいと答えながら、彼はくるりとキラたちの方を向いた。
「いやぁ、助かったよ。ありがとう」
「おまえ…」
カガリは警戒し、キラをさらに後ろに隠して呟いた。
「…アンドリュー・バルトフェルド…砂漠の虎か!」

「ささ、どうぞ」
バルトフェルドは嬉しそうに接収した商館に2人を招きいれた。
カガリは散々「いいよ、放っておいてくれ」と言ったのだが、有無を言わさぬ強引さでここまで連れてこられてしまった。
「いやいや、お茶を台無しにした上に助けてもらって。2人とも服グチャグチャじゃないの。それをそのまま帰すわけにはいかないでしょう。ね?僕としては」
そう言われて2人は互いを見た。
確かに、紅白のソースが髪から服からドロッとかかり、2人とも悲惨極まりない状態だった。
2人は館に入るとすぐに引き離され、それぞれシャワーを浴びさせられた。
「あらあら、ケバブね」
キラを浴室に案内してくれたのは長い髪のとても美しい女性で、髪の汚れを丁寧に拭き取ってくれ、タオルや着替えも用意してくれた。
けれど、風呂から上がってきたキラは、置いてあった服を見て「ええ!?」と思わず声を上げてしまった。
 
「僕はコーヒーには、いささか自信があってね」
その頃、同じくシャワーを浴びてサッパリし、シャツを借りたカガリはブスッとしたまま虎と向かい合っていた。
(皆が一杯の水に苦しんでいるこの土地で、あんなにたっぷり使える水があるなんて…ザフトのやつらめ)
久々のシャワーに、心の底から気持ちがいいと感じてしまったことにやや罪悪感を感じ、カガリは心の中で毒づいていた。
部屋の中には淹れ立てのコーヒーの香りが立ち込める。
手持ち無沙汰に部屋を見回していたカガリは、暖炉の上に置いてあるものを見つけてふと眼を留めた。
「エヴィデンス01。実物を見たことは?」
それは木星で発見された「ハネクジラ」といわれる化石だった。
進化するものの象徴として、コーディネイターが好むモチーフだ。
「いや」
カガリには、プラントに行った記憶はなかった。
そうしているうちに、ドアをノックする音がした。
「アンディ」
扉が開くと、先ほど廊下でキラを連れて行った綺麗な女性がいた。
「おやおや!」
扉の向こうを見てバルトフェルドが歓声を上げる。
カガリもまた怪訝そうにそちらを見て、思わず「うわっ!」と声をあげた。
そこには、いつもとは全く違うキラがいたからだ。
「…嘘だろ?」
ふんわりと広がるミニスカートからスラリと伸びた足には、無骨な軍靴ではなく、華奢なヒールのサンダルを履いている。
カガリはまじまじとキラを見、キラも赤くなってもじもじしていた。
軍服も男物を選び、普段も男っぽい格好しかしないキラが、髪型まで女の子らしく変え、あまりにも可愛いらしいので、カガリはしばらくポカンとしていたが、やがて恐る恐る口を開いた。
「…おまえ……………女??」
「もう、またっ!!」
怒るキラを見て、カガリは慌てて言い訳した。
「…だったよな、って言おうとしただけだって」
この他愛ない言い合いに、バルトフェルドも女性も大声で笑った。

女性が下がり、バルトフェルドは2人に淹れたばかりのコーヒーを渡した。
そして今、カガリとハネクジラの話をしていたのだと言う。
「ハネクジラ?」
キラは彼が示したレプリカを見て「ああ、エヴィデンス01ですね」と言った。
キラもまだ実物を見たことがない。
「何でこれを鯨石と言うのかねぇ。これ、クジラに見える?」
並んで座った2人は、彼の質問に思わず顔を見合わせた。
「これ、どう見ても羽じゃない。普通クジラには羽はないだろう」
バルトフェルドはレプリカを手に持ちながらしげしげと眺めている。
「でも、それは外宇宙から来た地球外生物の存在証拠ってことですから…」
キラはプライマリで学んだ記憶を手繰り寄せる。
しかし誰もが知っているそんな答えには、バルトフェルドは納得しないようだ。
「僕が言いたいのは、何でこれがクジラなんだってことだよ」
「じゃあ、何ならいいんだよ?」
今度はカガリが尋ねた。
「ん~、何…と言われても困るが…」
バルトフェルトは顎を押さえたが、切り替えてコーヒーの味を聞いた。
「ところで、どう?コーヒーの方は」
「うん、まぁまぁだな」
そう答えたカガリを見て、キラは「えっ?」という顔をする。
(これが?)
キラはさっきから苦いとしか思えず、飲むに飲めないコーヒーを見つめた。
「あ、きみにはまだわからんかなぁ、大人の味は」
バルトフェルドはそんなキラの様子を見て、可笑しそうに笑った。
「ま、楽しくも厄介な存在だよねぇ、これも」
「厄介…ですか?」
キラは再びエヴィデンス01のレプリカをまじまじと見た。
「そりゃそうでしょう。こんなもの見つけちゃったから、希望っていうか、可能性が出てきちゃったわけだし」
「はぁ?」
今度はカガリが聞いた。
「人はまだもっと先まで行ける…ってさ。この戦争の一番の根っこだ」
そう言われても、キラにはよくわからなかった。どうやらカガリも同じようで、乾き始めた髪をぼさぼさと掻きながら、虎を睨んでいた。

ナタルたちはジャイリーから、水、食料、燃料を買いつけた。
しかし肝心な買い物は他にあった。75mmAP弾、モルゲンレーテ社製EQ177磁場遮断ユニット、マーク500レーダーアイ。全て純正品だ。
ナタルの護衛としてついてきたトノムラは眼を白黒させ、ナタルはこれだけの武器が一体どこから横流しされてるんだか…と内心呆れていた。
「望みのものは手に入ったのか」
やがてサイーブがナタルに確認した。
ナタルが見つけたものは十分過ぎる代物だが、いかんせん指揮系統のしっかりしている軍の哀しさで、先立つものが全くない。
しかも、相手から差し出された請求書にはトノムラが思わず声を上げた。
「げ!?なんだこの額は…嘘だろ?」
「おやおや、必要なものにはそれ相応の対価をということですよ、お客人」
「キサカ!」
ねちっこく金を要求するジャイリーに眼もくれず、サイーブはキサカを呼んだ。
キサカは前に進み出ると「支払いは、アースダラーでか?」とキャッシュを出した。
トノムラがまた「ええ~!?」と声をあげたので、ナタルは彼を肘でつつく。
「ど…どうなってるんですかねぇ?ついて行けないですよ、俺」
あれだけのブツをアースダラー、しかもキャッシュで買う男…ナタルはお得意の「私に聞くな」という顔をして眼をそむけた。

ナタルたちが買い物を終えてアークエンジェルに向かい、キサカがカガリとの待ち合わせ場所に戻ったのはちょうど約束の時間だった。
しかし、あの2人は現れないままだ。
「なんですって!?キラさんとカガリくんが戻らない?」
マリューの声に、ブリッジにいた者は皆一斉に振り向いた。
「ああ。時間を過ぎても現れない。サイーブ達はそちらに戻ったか?」
まだよ、と答えながら、マリューはなぜこんなレジスタンスの男の現状報告が簡潔かつ的確でわかりやすいのかしら…と考えていた。
「電波状態が悪くて、先に戻った彼らと直接連絡が取れない。サイーブと連絡がついたら、何人か街に戻るように言ってくれ。市街でブルーコスモスのテロがあったようで、情報が錯綜している。今は何をするのにも手が足りんからな」
「わかりました」
なぜか今後の見通しと対応策までも指示され、マリューはパルにナタルを呼び出すよう命じた。今自分が喋っているこの男は何者なのだろうと首を傾げながら。

「あんた、ほんとに砂漠の虎か?」
話の区切りがつくと、カガリが瞳に警戒の色を浮かべて聞いた。
「毎度毎度…虎はよっぽどお遊びがお好きなようだな」
「ほう?毎度のお遊び…とは?」
「変装してヘラヘラ街で遊んでみたり、キラにこんなドレスを着せたり、住民は逃がして街だけ焼いてみたり…ってことさ」
キラは心配そうにカガリとバルトフェルドを交互に見た。
しばらく黙ってカガリを見つめていたバルトフェルドは言った。
「いい目だねぇ。真っ直ぐで、実にいい目だ」
「ふざけるな!おまえのせいでアフメドは…」
「カガリ…!」
からかわれたと思ってカッとなったカガリを、キラはそっと押しとどめた。

「きみも死んだ方がマシなクチかね?」
「何?」

突然の質問に、カガリは怪訝そうに聞き返した。
「想いを遂げられるなら、死んでもいいと考える…逆に言えば、死んでもいいから望みを遂げたい、と考える」
バルトフェルドはレプリカを元の場所に戻すと、腕を組んだ。
「その想いがいくら強かろうと、まずは死なないためにどうしたらいいのかとは、きみたちは考えないのか?」
2人は思わず顔を見合わせる。
(誰だって、本音を言えば死にたくなんかない…はずだ。でも…)
カガリはそれを口に出す気になれなかった。
「そっちのレディ。きみはどう思ってんの?」
その時、バルトフェルドはキラに矛先を変えた。
「どうなったらこの戦争は終わると思う?モビルスーツのパイロットとしては」
虎はそう言ってニヤリと笑った。
「ねぇ?奇妙なパイロットくん?」
「…っ!」
「どうしてそれを!?」
キラもカガリもこの誘導尋問に引っかかり、あまりにアッサリ答えをバラしてしまった。
途端にバルトフェルドは大笑いした。
「きみたち、真っ直ぐすぎるのも問題だぞ」
虎はカマをかけるまでもなく、2人のうちどちらかがパイロットと睨んでいたのだが、先ほどの運動能力を見てキラだと確信していた。
ザフトにも女性パイロットはそう多くはないが、全くいないわけではない。
空間認識能力が優れていれば、男以上の力を発揮する者もいる。
(エリート集団のクルーゼ隊にも、凄腕の女パイロットがいたはずだ)
バルトフェルドは遠い記憶を手繰り寄せようとした。
(名はなんと言ったか…確か政府のお偉いさんのご令嬢だったと思ったが…)

「戦…争…」
動揺したキラが呟くと、バルトフェルドは少し優しい声で言った。
「戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のようなね。ならどうやって勝ち負けを決める?」
「あ…」
キラは答えに窮した。
(そういえば…世界は今も戦争をしているんだった…)
戦争からは遠い場所で平和を享受していた自分たちが、戦争に巻き込まれ、今は自分や大切な人を守るためとはいえ戦い、人を殺している…その現実が急に目の前に並べられたようで、キラはただ当惑していた。
「どこで終わりにすればいい?」
虎は立ち上がり、窓辺のデスクへと向かった。
「敵である者を、全て滅ぼして…かね?」
そして銃を構え、2人に狙いを定めた。
「…っ!」
カガリは素早くキラの手を掴んで立ち上がると、ソファの後ろに廻ってキラを自分の後ろに隠した。
キラはキラで、カガリの背に隠れながら、窓や扉に眼をやった。
無意識に退路を探したのだが、いかんせん状況は絶望的だった。
「やめた方が賢明だな。いくらきみがバーサーカーでも、暴れて無事にここから脱出できるもんか」
バルトフェルドはキラの考えを読み取ったように断言する。
「ここにいるのは、みんなきみと同じコーディネイターなんだからね」
「な…」
キラがバーサーカーという単語に反応したのと同じく、カガリはコーディネイターという言葉に反応し、思わずキラを振り返った。
(こいつ、コーディネイターなのか!?)
「きみの戦闘を2回見た。砂漠の接地圧、熱対流のパラメーター。きみは同胞の中でも、かなり優秀な方らしいな」
すっかり軍人の顔に戻ったバルトフェルドがキラを追い詰めていく。
「あのパイロットをナチュラルだと言われて素直に信じるほど、僕は呑気じゃない。そして見慣れぬきみのさっきの立ち回り。身体能力、情報処理能力、空間認識、視力、聴力、反射神経…どれをとってもそんじょそこらのコーディネイターレベルではない」
キラはカガリの背に隠れながら言葉を失っている。
「きみが何故同胞と敵対する道を選んだかは知らんが、あのモビルスーツのパイロットである以上、僕ときみは敵同士だということだな?」
それを聞いたカガリは改めて、キラが戦っている相手は、彼女と同じコーディネイターなのだと悟った。
「やっぱり、どちらかが滅びなくてはならんのかねぇ」
キラは一言も答える事ができないままだった。
何より、今の今まで自分が戦争をしていると確信した事がなかったのだ。
ただ皆を守るため、やれる事をやるためだけに夢中で戦ってきた。
バルトフェルドはふふ、と笑って銃を下ろした。
「ま、今日のきみは命の恩人だし、ここは戦場ではない」
彼の眼からは厳しさが消え、またおどけたような雰囲気が戻ってきた。
「帰りたまえ。話せて楽しかったよ。よかったかどうかはわからんがね」
さっきの女性が扉を開けて2人を誘導する。
「また戦場でな!」
彼はまるで「また明日」とでも言うように気安く言い、カガリはキラの肩を抱いたまま、守るように部屋を出た。
キラはずっと目線を下に落としていた。

その頃、誰もがキラの無事な帰還を願っていたアークエンジェルでは、ある騒動が巻き起きていた。
サイがハンガーに忍び込んでストライクに乗り込み、勝手に起動させたのだ。
もちろん、サイにモビルスーツを動かせるはずなどなく、ストライクは案の定バランスを崩し、ガクリと前のめりになった。
「うっ…く!」
サイは必死で操縦桿を握るが、何をどうすればよいかもわからない。
整備兵たちが慌てて退避し、マードックが怒鳴っている。
弾みで跳ね上がったケーブルが工具や整備車両を跳ね上げ、あちこちで色々なものが壊れてしまい、大変な状態になった。
「サイ、何してるの!?」
「馬鹿野郎、降りて来い!怪我するぞ!」
フラガやミリアリアが駆けつけたものの、ジタバタと無様に動いているストライクをどうする事もできない。やがてストライクはゆっくりと前面の壁に向かって倒れこんできた。
「危ない!」
フラガが悲鳴をあげたミリアリアを庇って地に伏せた。
サイはなんとか動かせた腕で地面を支えたものの、もはやそのままどうにもならない。必死にガチャガチャとあちこちいじってみたが、何も起きなかった。
(私には、これをキラのようには扱えない。あの子には簡単にできることが、私には何にもできない…)
サイの瞳に、悔し涙が滲んだ。
コーディネイターと知ってはいても、キラはあまり目立たず、おとなしくて控え目な娘だった。ちょっと抜けてるところがあって、ダメなところも一杯あって、可愛い妹みたいで放っておけなかった。
(でも、本当はそうじゃなかった…)
サイは溢れる涙を拭おうともせず、嗚咽を続けた。
(あの子は何でも持ってた。私にないものを、全部…)
「ずるいよ、キラ」
サイは泣きながら呟いていた。
「何でも持ってるくせに、私からフレイを奪うなんて、ずるいよ…ずるい!!」
マードックや整備兵たちが動かなくなったストライクに走り寄っていく様子を、物陰からフレイがじっと見ていた。
(バカだな、サイ…俺たちにはどう足掻いたってできないのに…)
フレイの瞳には、憐れみとも哀しみともとれる憂いが浮かんでいた。
(だからやってもらうんだ…俺たちの敵を、全部殺してもらうんだよ)
フレイは灰色の眼を閉じ、そしてそっと踵を返して歩き出した。
「あのコーディネイターに…キラ・ヤマトに…」

「約束の時間に随分遅れたな。キサカが心配する。急ごう」
キラとカガリが綺麗に洗濯された自分の服に着替えて館を出ると、街はもう暮れなずんでいた。暑さがやわらぎ、少しだけ涼しい夜の風が体に心地よかった。
(…私、戦争をしてたんだ…)
キラは改めて、自分が戦争という大きなうねりの中にいたことを実感していた。
アスランも、砂漠の虎も、みんな戦争をしている。
(ザフトと戦ってるカガリも、コーディネイターの私を敵…だと思うのかな?)
キラはふとそんな事を考えてしまい、カガリを見ることができなかった。
「行くぞ」
「ああ…うん」
ぼんやりと答えたキラは、次の瞬間驚いて体をすくませた。
カガリが突然キラの手を握り、そのまますたすたと歩き出したからだ。
「な…!?」
「フラフラ歩いて、こんな時間に迷子になったら困るからな」
カガリに引っ張られながら、そういえばヘリオポリスでは自分の方が彼の手を引っ張って走ったんだっけ…と思い出し、キラは少し笑った。
ナチュラルの彼が、コーディネイターの自分の手を引いている…それは正体を知ってなお、彼が自分を「拒絶しない」という意思表示のようにも思えた。
「ほら、ちゃっちゃと歩け!」
「わかったよ」
けれど少し乱暴な手の温かいぬくもりが、今のキラには何よりも嬉しかった。
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secret
制作裏話-PHASE19-
砂漠の虎アンディ・バルトフェルドとキラ、カガリの出会いです。
それと同時にサイがストライクを動かして大騒動を起こしますが、さすがに逆転では本編の彼のすさまじいまでの「負け犬っぷり」にはかないません。

本編でもカガリの気の強さがクローズアップされましたが、こちらのカガリは気の強さに加えて女の子を守ろうとする男としての役割もあるので、カガリが主役っぽいです。キラはおとなしい可愛い女の子という印象。

キラたちに戦争の根っこや、この戦争は互いに滅ぼしあうまで終わらないだろうと説くバルトフェルドですが、この時の虎のセリフは、正直何度読んでもいまいちピンとこないんですよね…これはシナリオの力不足ではないかと。(ランバ)ラルとは違うのだよ、ラルとは!

本編ではドレスを着るのはカガリでしたが、逆転ではカガリに正装させるわけにもいかないので、コスプレ役はキラに変更しています。
もともとお姫様なので正装がサマになるという設定のカガリならともかく、庶民であり、少年っぽい雰囲気のキラがロングドレスというのはおかしいので、ミニワンピにサンダルという設定にし、後に逆デスでも3人がこの事を話題にするシーンを入れておきました。

なおカガリにもシャワーを浴びさせたのは、ザフトがレアメタル鉱山のみならず、この地域の水を握っている事を改めて読者に認識させるためです。砂漠の水は大変貴重なのです。(逆デスでも同じく乾いた土地にあるマハムール基地では給水制限をしているという設定にしました)

アル・ジャイリーのような「死の商人」の「仲介人」を出したのに、種ではこの後何も生かされなかったので、DESTINYの標的が「戦争を操る者」になったんですかね。
この話ではブルーコスモスといい、コーディネイターとナチュラルの確執といい、アル・ジャイリーといい、キラたちが今、「戦争の泥沼にはまりつつある」ことを表現したかったんでしょうけど、全部セリフでやろうとするのが姑息だし、中途半端ですよね。

トミノガンダムなら、テロで街の人が犠牲になるとか、戦争の醜さを一般人の命や翻弄される運命で知らしめるとか、「戦争のえげつなさを見せる」と思うんですが、種はどうもそれがない。
じゃあ誰も殺さないかというとそんな事はなく、むしろサイクロプスや核、デストロイのような極悪な大量破壊兵器を使いますからねぇ…名もなき人は大量に殺すけど、それは主人公の成長に絡む死ではない、ということです(逆転ではなんとかこの状況を、主人公であるキラやシンが戦争の根を考える材料になるよう頑張ってはみました)
せめて虎との出会いの前に、バナディーヤの街の人とも話すシーンを入れて、彼らがザフトをどう思っているかくらいは入れておけばよかったのに。

この時バルトフェルドはカガリの瞳を気に入りますが、彼とカガリはこの後も長い付き合いになるので、逆デスでいくつか2人についての追加エピソードを入れています。
バルトフェルドがカガリの瞳が曇ったと残念がり、けれどやがてまた輝きを取り戻したと喜ぶシーンや、シンに突っかかられたカガリが部屋に戻り、「虎みたいにうまくいなせなかった」とアスランに呟いたシーンがそれです。アスランは彼らの出会いを知らないのですが、それを知っている読者にはちょっとニヤリとしてもらえるようにしました。
そのアスランについても、バルトフェルドはあまり好きではないものの名声高いクルーゼの隊にとんでもない女戦士がいるらしいと噂は聞いている、と創作しました。その彼女を「勇敢なお嬢さん」と呼ぶことになるのはかなり後半になってからです。

本編ではサイがストライクを土下座させるという今までにない衝撃的なラストで終わりましたが、逆転では少し変えて、戦争という流れの中に取り残されたはぐれコーディネイターという自分の立場を改めて感じたキラの孤独を、カガリが荒っぽいながらも優しく、温かく包み込みます。

キラが女の子なのでちょっとだけ救いを与えてあげたかったのですが、これは恋愛ではなく(今は互いの正体を知らないので恋愛に近いですが)今後、及び逆デスに向けてヒビキ兄妹が絆を深めていく伏線です。

しかしこの話も物語としては箸休めにはいいけど、アニメならAパートでサクサク描いておしまいでいいですよねぇ。
になにな(筆者) 2011/03/07(Mon)17:55:52 編集



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