Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「こりゃまずいぜ!くっそー!」
ひざの辺りまで砂に埋まったバスターに手を焼きながらディアッカが泣き言を言っている。
イザークもいつもならがみがみと叱り飛ばすところだが、ただでさえ動けないところにレジスタンスにロープをかけられ、機体が右に左に傾ぐのでそれもままならない。
「こいつら!足場さえ…うわぁ!」
ひざの辺りまで砂に埋まったバスターに手を焼きながらディアッカが泣き言を言っている。
イザークもいつもならがみがみと叱り飛ばすところだが、ただでさえ動けないところにレジスタンスにロープをかけられ、機体が右に左に傾ぐのでそれもままならない。
「こいつら!足場さえ…うわぁ!」
食事の皿を前に、キラはため息をついていた。
「なんだ、遅いな。早く食えよ。ほら、これも」
隣で旺盛な食欲を見せていたフラガが、大皿から取り分けた豆や野菜をキラの皿に盛ってくれたが、食欲のわかないキラは顔をしかめた。
「ん~。やっぱ現地調達のもんはうまいねぇ」
「少佐…まだ食べるんですか?」
フラガは3つ目のケバブに手を出している。
キラはそれを見ているだけでもうお腹いっぱいだ。
「俺たちはこれから戦いに行くんだぜ?食っとかなきゃ、力でないでしょ。ほら、ソースはヨーグルトの方がうまいぞ」
フラガは勝手にキラの食べかけにヨーグルトソースをかけたが、キラがその図々しさと言葉の両方にちょっと驚いた顔をしたので、「なんだ?」と問うた。
「いえ…虎もそう言ってたから。ヨーグルトのがうまいって」
「味のわかる男だな」
フラガは笑って答えた。
「けど、敵のことなんか知らない方がいいんだ。早く忘れちまえ」
これから命のやり取りをする相手だ。
「知ってたってやりにくいだけだろ」
その言葉はこれまでアスランと戦ってきたキラの心をチクリと刺した。
レジスタンスたちは既に出発し、アークエンジェルは周囲を警戒しながら北北西への進路を取っていた。
彼らいわく、タルパディア工場区跡地に大量の地雷を仕掛けてあるのだそうだ。
そこに敵軍を誘い込み、少しでも敵の足止めを…と思っているようだ。
基地に残る武器弾薬をありったけ持ち出した「明けの砂漠」は虎への復讐に燃えている。
焼かれた街と、殺された仲間たち…カガリもまた、車の中でくすみの残る青い石を手にしていた。
「それは?」
隣に座ったキサカが訊ねた。
「アフメドが、いずれ加工して俺にくれようとしていた物だと。さっきお袋さんから…」
「マラカイトの原石か。大きいな」
アフメドの母さんは、死んだ息子を想って何日も泣き暮らしたと聞く。
「なのに出発前に俺を呼んでこれをくれた。持っててやってくれ、って」
キサカは「そうか」と頷いた。
(あいつ、こんなものいつの間に…)
カガリはぎゅっとその石を握り締めた。
「虎の野郎…あんなふざけたヤツにアフメドは殺されちまった」
吐き捨てるように言う彼の言葉を、キサカはそれ以上何も言わずに聞いている。
(死んだ方がマシなクチか、だと?)
カガリは彼が何も言わなくともかまわず怒りを迸らせている。
(おまえに従うくらいなら死んだ方がマシだと思うヤツがたくさんいるってことだ!)
「だから戦うんだ。戦わなければ信念を守れない!」
キサカはちらりと若い彼の横顔を見、それからまた視線を前方に投げかけた。
何か想うところはあるようだが、余計なことは言うまいとしているようだ。
(でも…)
カガリは虎の顔を思い浮かべてふと思う。
(俺たちには、本当に、絶対に、それしかないんだろうか?)
―― 生きていれば、望める未来や抱ける希望もあるんじゃないだろうか…
キラもまた、出撃を待ちながら虎との邂逅を思い出していたが、ハンガーはいつものように忙しなく、フラガが出撃の手順について指示を下していた。
「そうだよ。1号機にランチャー、2号機にソードだ!」
整備兵が「なんでです?!」とやはり怒鳴り声で聞き返すと、フラガも負けじと怒鳴った。
「なんでって、換装するより俺が乗り換えた方が早いからさ!」
整備兵が了解というように手を振ってみせる。
フラガはブツブツ言いながらキラの元にやってくると、「連中には悪いが、レジスタンスの戦力なんぞはっきり言って当てにならん」と吐き捨てた。
「そうですね」
それを2回も目の当たりにしているキラも頷いた。
「おまえも踏ん張れよ」
フラガはそう言ってから、(あ…やべぇ)と口をつぐんだ。
先日、もう無責任にキラを追い詰めるようなことは言わないようにしようと決めたのに…と思いなおし、慌てて言った。
「ああ、まぁ、けど最近のおまえさんなら、心配ないとは思うけどな」
「あ…」
なんとも中途半端な慰めだったが、キラは逆にその言葉で何かを思い出したようで、ためらいながらフラガに質問をした。
「少佐、バーサーカーって何ですか?知ってます?」
「バーサーカー?それは…何かの神話に出てくる狂戦士のことだろ?」
フラガはいきなりの質問に面食らったが、知識をかき集めるように言った。
「確か、普段はおとなしいのに、戦いになると興奮して、人が変わったように強くなるってヤツだったかな」
「そう…なんですか」
キラはバルトフェルドが言いたかったことの意味を悟った。
頭がクリアになって、すべてが透明に見えるあの瞬間…どうしたらいいか、何をすればいいか、感覚でわかるあの感じ…あれがバーサーカーに変わる瞬間なのだとしたらと考えて、キラはなんだか怖くなり、軽く頭を振った。そんなキラを見てフラガはいぶかしむように覗き込む。
「でもなんだ?いきなり…?
「…なんでもないです。すみません」
その時、ミリアリアが2人を呼び、キラもフラガも会話をやめて各々の持ち場に戻っていった。
キラはコックピットを閉めてシステムを起動させながら考える。
(バーサーカー…私は、戦いの中で我を忘れる狂戦士ってこと…?)
「あ!レ、レーダーに…!」
ブリッジではカズイがレーダーに敵影を見ていた。
トノムラがより詳しい情報をCICおよび艦長、操縦士へと送る。
敵機と思われる影は認めるが、数は不明。1時半の方向だ。
「その後方に、大型の熱量2。敵空母、及び駆逐艦と思われます!」
「来たわね」
マリューがただちに迎撃態勢をとるよう命じる。
「対空、対艦、対モビルスーツ戦闘、迎撃開始!」
撹乱しているのは恐らくバクゥと戦闘ヘリ、地上空母は当然レセップスだ。
「ストライク、スカイグラスパー、発進!」
ナタルが命じ、いよいよ天下分け目の決戦が開始された。
バルトフェルドは既にレジスタンスが仕掛けた地雷原を爆破して突破していた。
地雷原は確かに車両系には効果があるが、場所がわかっているならどうということはない。
彼は「盛大にふっ飛ばせばいいのさ」と笑った。
「動き出しちゃったって?」
それより少し前、アークエンジェルが移動を始めたと知ったバルトフェルドは、予定より早いが仕方がない…と全軍の移動を命じた。
高度を20に保ち、ビートリーとヘンリーカーターに打電させる。
攻撃艦はレセップスと僚艦2。バクゥの補充がなかったため、使い勝手の悪いザウートと、あとはあの2機…それは、バスターとデュエルだった。
「戦士が消せる傷を消さないのは、それに誓ったものがあるからだ、と思うがね」
着任早々砂嵐の洗礼を受け、体中砂まみれで不機嫌極まりなかったイザークは、バルトフェルドのそんな言葉には答えず、ぷいと眼をそらした。
「そう言われて顔を背けるのは屈辱の印、とでも言うところかな?」
およそ真面目とは程遠く見える男に面白そうに言い当てられ、さらに腹を立てたイザークは、逆に「足つきはどこにいるんです!?」と尋ねた。
「ここから南東へ180kmの地点、レジスタンスの基地にいるよ」
そう言ってからバルトフェルドは修理の終わったデュエルとバスターを眺めた。
(なるほど…同系機というだけあってストライクによく似ている)
クルーゼが送り込んできたこの2人…名だたるエリートとは聞くが、宇宙戦の経験しかないのでは、地上での戦闘はあやしいものだ。
(緒戦は恐らく、あの可憐で空恐ろしいレディのようにはいくまいよ)
「スカイグラスパー1号、フラガ機、発進位置へ。進路クリアー、フラガ機、どうぞ!」
まずはランチャーストライカーを積んだフラガが出撃する。
「APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカー、スタンバイ」
ミリアリアが続いてキラの出撃を促した。
「本当にエールでいいのか?」
マードックが最終確認のためキラに尋ねた。
「バクゥ相手には、火力より機動性です」
そのため必要に応じて換装できるよう、フラガにはランチャー装備で出てもらっている。どれだけの数がいるかにもよるが、まずは身軽なエールでできる限りバクゥを片付けたかった。
「システム、オールグリーン。続いてストライク、どうぞ!」
「キラ・ヤマト、行きます!」
レセップスとビートリーは既にアークエンジェルへの艦砲射撃を開始している。
駆逐艦からの攻撃に加え、後方のレセップスからの援護を浴びたが、アークエンジェルは防衛網を立て直していた。
補給のおかげで艦体にも弾薬にも不安はない。
フラガはバクゥをストライクに任せ、動きの鈍いザウートを中心に攻撃していた。
弾幕を厚くして、ところどころでゴットフリートを放ちながら、ナタルは頭の中でシミュレートした得意の布陣を敷いた。
一方バルトフェルドは自身のラゴゥの前で出撃を待っていた。
そこにイザークがやってきていきなり噛み付いてくる。
「どうして我々の配置が、レセップス艦上なんです!?」
「おやおや、クルーゼ隊では、上官の命令に兵がそうやって異議を唱えてもいいのかね?」
奇抜な虎縞のパイロットスーツに身を包んだバルトフェルドがイザークにチクリと釘を刺すと、イザークはぐっと詰まった。ザフトに階級はないが、上下関係に基づく指揮系統は当然存在するからだ。
「いえ…しかし、奴らとの戦闘経験では俺たちの方が!」
「負けの経験でしょ?」
「なにぃ!?」
イザークは痛いところをついてきた女性の声に思わず振り返った。
そこには商館にいた美しい女性…バルトフェルドの恋人であるアイシャが、やはりパイロットスーツを着て微笑んでいた。
「よせよせ、失礼だろう?」
バルトフェルドは冗談めかしてアイシャをたしなめると、2人に向き直って『エリートだか何だか知らないが、地球での戦いに慣れてないヒヨッコが戦場に出てもジャマなだけだからおとなしくしてろ』という内容を、体のいい理由に変換しながら説明した。
「きみたちの機体は砲戦仕様だ。高速戦闘を行うバクゥのスピードには、ついて来れんだろ?」
「しかし!」
抗議するイザークを見ながらバルトフェルドは心の中でペロッと舌を出した。
(ストライクの戦いぶりを凌駕できるなら別だがね)
エリートの証である赤服を着たこの血気盛んな青年が、戦いとは無縁にしか見えないあの小さな彼女に一度も勝てなかったと思うと、無性に可笑しかった。
「イザーク、もうよせ。命令なんだ」
なおも食い下がろうとするイザークをディアッカが止め、彼はそのままバルトフェルドに向き直ると真顔で敬礼した。
「失礼致しました、バルトフェルド隊長」
イザークはギリギリと歯を噛み締め、悔しさのあまり「ふん!」と鼻を鳴らしてその場を去ったが、ディアッカはニヤニヤしながらイザークを追ってきた。
「なんだあの女は!」
「隊長のコレだろ」
「くそっ!」
怒りが収まらないらしく、側にあった器具を蹴飛ばして整備兵を驚かせている。
「なに、乱戦になればチャンスはいくらでもあるさ」
「…ふん」
ディアッカのその言葉に、イザークも少し機嫌を直したようだ。
そんな連中の考えもバルトフェルドにはお見通しだったが、砂漠の戦いを経験すれば、それは間違いだと気づくだろう。
(生意気盛りの若いヤツらは痛い目を見て覚えるのが一番だ)
「では艦を頼むぞ、ダコスタくん」
ダコスタが敬礼して2人が搭乗するラゴゥを見送る。
「バルトフェルド、ラゴゥ出る!」
「バクゥは何機いる?4…5機!」
キラは攻撃してくるバクゥのランチャーを避けながら数を確認する。
前回複数で回り込まれた戦法を取られると厄介なので、バクゥを近づけさせないため、ビームライフルで牽制しつつ距離をとった。
後方ではレジスタンスがようやく追いついてきたようで、小爆発が起きている。
キラはほんの少し、カガリの身を気にかけたが、その想いはすぐに目の前の敵の前にかき消されてしまった。
「ECM、及びECCM強度、17%上がります!」
1週間の独房入りの刑がちょうど明けたサイが報告を続けるブリッジでは、雨あられと続く敵の艦砲射撃への対応に追われていた。
「バリアント砲身温度、危険域に近づきつつあります」
ナタルは砲撃の中、マリューのほうを向き直った。
「艦長!ローエングリンの使用許可を!」
陽電子砲の発砲許可は艦最高責任者に権限がある。
射程に入る2艦を、アークエンジェルの特装砲でなぎ払うことで戦局を有利に傾けようと考えたナタルは、マリューの方を向いた。しかしマリューはその進言を直ちに却下した。
「ダメよ!あれは地表への汚染被害が大きすぎるわ!」
レジスタンスが地を這うようにして生きているこの地を、陽電子砲によって汚染させてはならない。
「バリアントの出力と、チャージサイクルで対応して!」
砲身温度を一定に保ちつつの防衛は当然穴が大きくなる。
ナタルは渋い顔をしてマリューに食い下がったが、マリューの決断は翻らない。
「命令です!」
「了解しました」
この現状を見て、悠長なことを言う…そうは思いながらもナタルはすぐに思考を切り替え、バリアントと組み合わせて使用するため、コリントスやヘルダートの用意をさせた。
一方灼熱の砂漠では、地を走りながらザウートやバクゥに攻撃を仕掛けるレジスタンスにも被害が出ていた。カガリはRPGを構えながら吹っ飛ばされる自走砲と仲間たちを案じながら、悔しさに唇を噛み締める。
(無茶だとわかっていても、皆、黙ってやられるだけなんてできなかった)
しかし冷静に見れば無残な死者や怪我人が増えるばかりだ。
アークエンジェルはレセップスとビートリー級の2艦を相手によく戦ってはいるが、キラは5機のバクゥに張りつかれたまま手一杯だ。
(このままではやられる)
そう思った瞬間、鷹が舞い降りた。
レセップスの前に立ちはだかりながら砲撃を続けるビートリーの目の前に、ランチャーストライカーを装備したスカイグラスパーが急激に近づいてアグニを放つ。
敵から見たら、相変わらず憎たらしいほど腕のいいフラガの一撃は、ビートリーの機関区を直撃し、大幅に推力が低下する。炎を上げ、艦内は消火活動におおわらわだ。
ダコスタはその様子を視認かつビートリーからの通信で受けたが、
「間もなくヘンリーカーターが配置につく!持ちこたえろ!」
と僚艦のブリッジを励ました。そして地球軍の砲の強力さに眉をひそめた。
(それにしてもなんて威力だ)
キラはビームライフルで何機かにダメージを与えて距離を保ちつつ、近づいてきたバクゥには斬りかかった。
しかしやはり接近戦は機動性の高いバクゥに利があり、サーベルでは間に合わない。
「ええい…!」
キラは思い切って役に立たないサーベルを相手に投げつけた。
そのサーベルが一機に命中し、それによってバクゥの集団が思わずひるむ。
彼らの動きが鈍くなったところで急速に相手との距離をつめ、そしてまた腹部を蹴り飛ばした。バクゥの動きを止めるにはこれが一番だ。
けれどいつまでも決しない戦いは、果てしないように思われた。
しかし、戦局は知らぬ間に新たな局面を迎えていた。
レセップス、ビートリーとは別働のヘンリーカーターが姿を現したのだ。
「6時の方向に艦影!敵艦です!」
「なんですって!?」
「もう一隻?伏せていたのか!」
アークエンジェルが行き過ぎるのを待ち、回り込んで出てきた敵艦。
まさしく前門の虎、後門の狼…このままではいい的になるばかりだ。
「艦砲、きます!直撃コース!」
トノムラが絶望的な状況を報告する。
「かわして!」
「撃ち落とせ!」
ノイマンは(無茶言うな!!)と思いながら力一杯舵を切る。
毎度ながらぎりぎりのところでなんとか艦砲の直撃は逃れたものの、アークエンジェルは引盾にした工場跡地の瓦礫にっかかってしまった。
舵が利かず、ブースターをふかしても脱出できない。
「くっ…ダメだ…!」
相手からは隠れているだけに見えるだろうが、逃げることができなければやがては近づかれ、集中砲火を浴びてしまう。
ローエングリンの射出許可が出ない今、対艦砲として有効なのは主砲のゴットフリートだが、動けなくなっては射線が取れない。
「アークエンジェルが!」
最初にアークエンジェルの異常に気づいたのはカガリだった。
(何をやっているんだ?もしかして…動けないのか?)
キサカもその状況に気づいて叫ぶ。
「これでは、狙い撃ちだぞ!ストライクは?」
しかしその直後、2人のすぐ近くに着弾し、キサカは大量の砂をかぶった。
キサカが眼を開いた時、既にカガリの背中は遠くなっていた。
同じ頃、キラもアークエンジェルの様子がおかしいと気づいていた。
バクゥはほぼ片付けたが、母艦とは距離がある。
アグニを…と思った瞬間、ストライクのアラートが鳴り響き、敵の接近を告げた。
それはバクゥによく似ているが、バクゥよりは一回り大きく、オレンジ色をした機体だった。
「バクゥとは違う…隊長機?あの人!?」
キラは直感した。バルトフェルド…あの男が乗っていると。
背中にはツインキャノンを載せ、口にサーベルをくわえたその姿はバクゥより機動性と攻撃力が格段に上だった。
複座のコックピットでは残りのバクゥを仕留めたストライクの動きを見て、射手のアイシャが言う。
「なるほど、いい腕ね」
「だろ?今日は冷静に戦っているようだが、この間はもっとすごかった」
その嬉しそうな声にアイシャはくすりと笑う。
「あなた、あの娘のことが好きなんでしょ?」
それを聞いてバルトフェルドも楽しそうに笑った。
「ふふ…妬けるわね」
振り返った愛しい恋人に、バルトフェルドは真顔で訊ねた。
「投降すると思うか?」
「いいえ」
「だろうな」
バルトフェルドも同感とばかりにギアを上げた。
「ヘルダート、コリントス、撃ぇっ!」
動けないアークエンジェルのブリッジではナタルが必死の防衛を敷いていた。
しかしトノムラがそこにいるはずのない機体を捉えて上ずった声を上げる。
「こ、これは…レセップスの甲板上にデュエルとバスターを確認!」
「なんですって!?」
なぜやつらが…マリューはそれを聞いてノイマンに言う。
「スラスター全開、上昇!ゴットフリートの射線が取れない!」
「やってます!しかし、艦体が何かに引っかかってて…」
艦砲は激しさを増すばかりだ…その時、ミリアリアが叫んだ。
「スカイグラスパー2号機が発進!」
「なに!?」
ブリッジはその報せに驚き、皆が手近なクルーと顔を見合わせる。
「おい!2号機に誰が乗ってる!?」
それとフラガからの通信が入ったのは同時だった。
マリューは一瞬きょとんとする。
(少佐でないなら、一体誰が?)
やがてミリアリアがマードックと通信をし、真実を確かめた。
「パイロットは、カガリさんだそうです!」
「なんだと!?」
民間人が勝手に…ナタルは思わず拳を握り締める。
(どいつもこいつも勝手な事ばかり!)
カガリはスカイグラスパーを半ば強奪すると、積んであるソードストライカーがシュベルトゲベールという長剣を持っている事を知り、セットした。
(俺もさすがに戦闘機なんか操縦したことはないが…大体は予想がつく…)
バクゥはもうキラがほとんど片付けてくれたから、艦砲射撃に注意すれば対空攻撃をする敵はほとんどいない。
「ザウートののろい砲撃なんか当たるもんか!」
のたのたと砂漠を這いずり回る連中にキャノンを撃ちながら戦場を見渡すと、ストライク、アークエンジェル、レジスタンスの仲間たちが見える。しかしそこで一番の問題は、砲撃の中を全く動けないアークエンジェルのように見えた。
カガリは彼らを救援するために操縦桿を傾け、機首を向けた。
(どうせやるなら、大物を狙ってやる!)
そして機銃で攻撃を加え、シュベルトゲベールを突き出すとレセップスに突っ込んでいく。そのまま敵艦のミサイルランチャーを破壊し、反転して今度は艦上にいたザウートを引っ掛けて誘爆を誘った。
さすがにこのスピードで艦に直接攻撃は仕掛けられないが、砲台やモビルスーツを狙って削っていくことはできる。カガリは狙い通りの効果ににやりと笑った。
「戦い方は、いくらでもあるってことだ!」
「へぇ、やるなぁ、あいつ」
フラガは思った以上のカガリの働きに大喜びし、一方ダコスタはもう一機の支援機に戸惑い、ダメージコントロールに忙しい。
カガリはレセップスが動かなくなったのを見届け、挟み撃ちに現れた伏兵・ヘンリーカーターに向かっていった。そしてレセップスに行った攻撃と同じようにシュベルトゲベールを利用して仕掛けたのだが、こちらは後手だったせいか機銃も艦砲も無傷に近く、ダメージは与えたものの、自身の機体も被弾してしまった。
「しまった!」
ヘンリーカーターにはフラガが追い討ちをかけてダメージを拡大させたが、カガリの乗る2号機は何とかコントロールを保ちながら砂漠へと落ちていった。
「カガリッ!」
墜落の方向を見定めてから、キサカがただちに救出に向かう。
「ちっ!ビームの減衰率が高すぎる!大気圏内じゃこんなかよ!」
レセップス艦上ではディアッカがビームが当たらず苦労していた。
ちょろちょろ飛び回るあんな戦闘機ごときに…
一方では被弾で動きの鈍ったレセップスに、イザークの堪忍袋の緒が切れた。
「くっそー!この状況でこんなことをしていられるか!」
しかしイザークは飛び降りたそこには機体を支えるはずの堅い地面がないことを悟り、機体は傾いでバランスを崩した。
「うわ!くっそー!なんなんだこれは!?」
機体がずぶずぶと砂に埋もれてうまく歩けない。
デュエルは無様に足踏みをしながら沈むばかりだ。
バスターもデュエルとさして変わらず、着地した近くでずぶずぶと砂に埋もれている。
もがけばもがくほど埋まる砂に手を焼きながら、ディアッカはそれでもインパルスを構えた。
そしてそれが天敵が乗っている機体とも知らず、身軽に飛び回るスカイグラスパー1号機を狙う。
「いい加減に落ちろ!」
しかしますます気温の上がった砂漠で、熱対流で曲がったビームは大きく軌道を外れ、偶然にもアークエンジェルを捉えていた瓦礫を破壊した。
途端に艦体が大きく傾き、ノイマンが驚いたように叫んだ。
「うわっ…外れた!?」
ぐぐぐとアークエンジェルの艦体が戻っていく。
「面舵60度!ナタル!」
マリューはレセップスへの止めを指示する。
「ゴットフリート、照準!」
キラはラゴゥの正確な射撃と素早い動きに翻弄されつつも、これまでのバクゥとの戦いをデータとし、戦いをいくらか優勢に進めていた。
(追い詰められないのは、多分、相手が実際に会った人だからだ)
そう考えるとキラはどうしても攻め切れない。
再び動き出したアークエンジェルのゴットフリートが放たれ、敵母艦を攻撃していることがわかる。勝機は早くもこちらに傾いた。
キラは先ほど投げ捨ててしまったビームサーベルを拾うと、ジャンプするラゴゥを狙うが、バクゥに乗っていた時の轍は踏まないとばかりに虎はその剣を避けてさらに飛んだ。キラは振り向きざま側頭部のイーゲルシュテルンを放ったが、さしたるダメージは与えられない。
一方レセップスのダメージは大きく、既に走行限界を迎えていた。
第4、第9区画が消失し、第3区画も大破している。至るところで火災が発生し、機関及び振動モーターが停止して動けなくなってしまった。
ダコスタは必死に立て直しを図っていたが、もはやここまでだった。
「くそぅ、隊長!!応答してください、隊長!」
バルトフェルドはしばらく無言で考えた末、レセップスからの通信に応えた。
「ダコスタくん。退艦命令を出せ」
残存兵をまとめ、バナディーヤに戻ってジブラルタルと連絡を取れ…らしくない命令に、ダコスタは抗議するように「ですが、まだ…!」と叫んだ。
しかし勝敗は決したことは明らかだ。
「残念ながら今回は僕たちの負けだ。きみは1人でも多くの兵をバナディーヤに連れ帰ってくれ。できるな?ダコスタくん」
同時にバルトフェルドはアイシャにも脱出するように言ったのだが、アイシャは振り向きもせず、何食わぬような声で答えた。
「そんなことするくらいなら、死んだ方がマシね」
「死んだ方がマシ…か」
バルトフェルドはかつて自分が呟いた言葉を口の中で転がしてみた。
これ以上戦っても何もならないのはわかっているが、ここで引くくらいなら…確かに、死んだ方がマシだ。
キラはエネルギーゲージのアラームが鳴り続けていることを悟り、必死にシステムをダウンさせていった。
レセップスはもはや沈黙した。既に勝敗は火を見るより明らかだった。
―― もう来ないで。もう…戦いたくない!
あなたは教えてくれた。これが、戦争の輪の中にある戦いだと。
互いに滅ぼしあうまではやまない戦いだと。けれど、そんな事はない。
なぜなら、私はあなたを知っていて、あなたも私を知っているから…
「バルトフェルドさん!」
「まだだぞ!バーサーカー!」
「…なぜ、なぜですか!?」
キラは素早く緊急チャンネルに合わせて回線を開くと叫んだ。
「もうやめてください!勝負はつきました!降伏を!」
しかしその叫びへの返事はビームキャノンとして放たれ、ストライクはシールドで防いだもののゲージが再び大きく減った。
「言ったはずだぞ!戦争には明確な終わりのルールなどないと!」
(とはいえ、自分で終わらせることはできるんだがね)
バルトフェルドは自嘲気味に笑った。
(それをきみには教えてやらなかったな)
ラゴゥが猛スピードで突進してきたので、キラもビームライフルで応戦した。
やがて相手の機体が煙を吐きはじめた。しかし一方でストライクもそれでエネルギーを消費し尽くしてしまう。
「戦うしかなかろう。互いに敵である限り!どちらかが滅びるまでな!」
「ぐっ…!」
途端に起こるフェイズシフトダウン。ストライクの色が褪せていく。
キラは再び向かってくるラゴゥを見つめた。
「バルトフェルドさん…あなたは…」
彼の後ろに死がある。キラは呻いた。
(私はここで死ぬわけにはいかない…けれど、あなたを殺したくはない…)
キラは歯を食いしばり、シフトレバーを一杯に入れた。
「なぜ、なぜ引いてくれなかったんです!?」
見る見るうちに思考が冴え渡り、視界がクリアになっていく。
(バーサーカー…目覚めてはだめだ…でも…戦わなければ…終わらない)
キラは合理的に、もっともエネルギー消費が少ない動作で腕を動かし、腰のアーマーシュナイダーを取り出した。
(これで…すべてを…!)
突っ込んできたラゴゥのサーベルを最小限の動きで避け、キラは全く無駄のない動きで機体下部を大きく切り裂く。
「アンディ!」
コックピットの2人は抱き合い、次の瞬間、業火に包まれた。
アークエンジェルがゆっくりと東進を始め、戦場にはただ、燃え盛る駆逐艦や壊れたバクゥ、ザウートが横たわっている。
レセップスもまたもうもうと煙をあげながら一歩も動けず沈黙し、唯一動いているのは、砂に足をとられてモタモタするデュエルをロープをかけて鹵獲しようとしているレジスタンスだけだった。カガリは墜落したスカイグラスパーから脱出し、駆けつけたキサカと共に、PSダウンしたストライクを見つめていた。
そのすぐ側ではまだ燻っている四足の機体が無残にも倒れている。
(アンドリュー・バルトフェルド…砂漠の虎が、逝ったのか…)
眼の前の光景を見たキラの頬を涙が伝った。
「どうして…こんな…」
自分は、あなたを心から憎んだわけでもない。
今は戦争だから…そこまで考えてキラは俯いた。
「殺しあうのはあたりまえだから、諦めなくちゃいけないんですか?」
それから顔を上げたキラの頬には、いく筋もの涙が伝っている。
「私…私は…殺したくなんかないのに!」
「なんだ、遅いな。早く食えよ。ほら、これも」
隣で旺盛な食欲を見せていたフラガが、大皿から取り分けた豆や野菜をキラの皿に盛ってくれたが、食欲のわかないキラは顔をしかめた。
「ん~。やっぱ現地調達のもんはうまいねぇ」
「少佐…まだ食べるんですか?」
フラガは3つ目のケバブに手を出している。
キラはそれを見ているだけでもうお腹いっぱいだ。
「俺たちはこれから戦いに行くんだぜ?食っとかなきゃ、力でないでしょ。ほら、ソースはヨーグルトの方がうまいぞ」
フラガは勝手にキラの食べかけにヨーグルトソースをかけたが、キラがその図々しさと言葉の両方にちょっと驚いた顔をしたので、「なんだ?」と問うた。
「いえ…虎もそう言ってたから。ヨーグルトのがうまいって」
「味のわかる男だな」
フラガは笑って答えた。
「けど、敵のことなんか知らない方がいいんだ。早く忘れちまえ」
これから命のやり取りをする相手だ。
「知ってたってやりにくいだけだろ」
その言葉はこれまでアスランと戦ってきたキラの心をチクリと刺した。
レジスタンスたちは既に出発し、アークエンジェルは周囲を警戒しながら北北西への進路を取っていた。
彼らいわく、タルパディア工場区跡地に大量の地雷を仕掛けてあるのだそうだ。
そこに敵軍を誘い込み、少しでも敵の足止めを…と思っているようだ。
基地に残る武器弾薬をありったけ持ち出した「明けの砂漠」は虎への復讐に燃えている。
焼かれた街と、殺された仲間たち…カガリもまた、車の中でくすみの残る青い石を手にしていた。
「それは?」
隣に座ったキサカが訊ねた。
「アフメドが、いずれ加工して俺にくれようとしていた物だと。さっきお袋さんから…」
「マラカイトの原石か。大きいな」
アフメドの母さんは、死んだ息子を想って何日も泣き暮らしたと聞く。
「なのに出発前に俺を呼んでこれをくれた。持っててやってくれ、って」
キサカは「そうか」と頷いた。
(あいつ、こんなものいつの間に…)
カガリはぎゅっとその石を握り締めた。
「虎の野郎…あんなふざけたヤツにアフメドは殺されちまった」
吐き捨てるように言う彼の言葉を、キサカはそれ以上何も言わずに聞いている。
(死んだ方がマシなクチか、だと?)
カガリは彼が何も言わなくともかまわず怒りを迸らせている。
(おまえに従うくらいなら死んだ方がマシだと思うヤツがたくさんいるってことだ!)
「だから戦うんだ。戦わなければ信念を守れない!」
キサカはちらりと若い彼の横顔を見、それからまた視線を前方に投げかけた。
何か想うところはあるようだが、余計なことは言うまいとしているようだ。
(でも…)
カガリは虎の顔を思い浮かべてふと思う。
(俺たちには、本当に、絶対に、それしかないんだろうか?)
―― 生きていれば、望める未来や抱ける希望もあるんじゃないだろうか…
キラもまた、出撃を待ちながら虎との邂逅を思い出していたが、ハンガーはいつものように忙しなく、フラガが出撃の手順について指示を下していた。
「そうだよ。1号機にランチャー、2号機にソードだ!」
整備兵が「なんでです?!」とやはり怒鳴り声で聞き返すと、フラガも負けじと怒鳴った。
「なんでって、換装するより俺が乗り換えた方が早いからさ!」
整備兵が了解というように手を振ってみせる。
フラガはブツブツ言いながらキラの元にやってくると、「連中には悪いが、レジスタンスの戦力なんぞはっきり言って当てにならん」と吐き捨てた。
「そうですね」
それを2回も目の当たりにしているキラも頷いた。
「おまえも踏ん張れよ」
フラガはそう言ってから、(あ…やべぇ)と口をつぐんだ。
先日、もう無責任にキラを追い詰めるようなことは言わないようにしようと決めたのに…と思いなおし、慌てて言った。
「ああ、まぁ、けど最近のおまえさんなら、心配ないとは思うけどな」
「あ…」
なんとも中途半端な慰めだったが、キラは逆にその言葉で何かを思い出したようで、ためらいながらフラガに質問をした。
「少佐、バーサーカーって何ですか?知ってます?」
「バーサーカー?それは…何かの神話に出てくる狂戦士のことだろ?」
フラガはいきなりの質問に面食らったが、知識をかき集めるように言った。
「確か、普段はおとなしいのに、戦いになると興奮して、人が変わったように強くなるってヤツだったかな」
「そう…なんですか」
キラはバルトフェルドが言いたかったことの意味を悟った。
頭がクリアになって、すべてが透明に見えるあの瞬間…どうしたらいいか、何をすればいいか、感覚でわかるあの感じ…あれがバーサーカーに変わる瞬間なのだとしたらと考えて、キラはなんだか怖くなり、軽く頭を振った。そんなキラを見てフラガはいぶかしむように覗き込む。
「でもなんだ?いきなり…?
「…なんでもないです。すみません」
その時、ミリアリアが2人を呼び、キラもフラガも会話をやめて各々の持ち場に戻っていった。
キラはコックピットを閉めてシステムを起動させながら考える。
(バーサーカー…私は、戦いの中で我を忘れる狂戦士ってこと…?)
「あ!レ、レーダーに…!」
ブリッジではカズイがレーダーに敵影を見ていた。
トノムラがより詳しい情報をCICおよび艦長、操縦士へと送る。
敵機と思われる影は認めるが、数は不明。1時半の方向だ。
「その後方に、大型の熱量2。敵空母、及び駆逐艦と思われます!」
「来たわね」
マリューがただちに迎撃態勢をとるよう命じる。
「対空、対艦、対モビルスーツ戦闘、迎撃開始!」
撹乱しているのは恐らくバクゥと戦闘ヘリ、地上空母は当然レセップスだ。
「ストライク、スカイグラスパー、発進!」
ナタルが命じ、いよいよ天下分け目の決戦が開始された。
バルトフェルドは既にレジスタンスが仕掛けた地雷原を爆破して突破していた。
地雷原は確かに車両系には効果があるが、場所がわかっているならどうということはない。
彼は「盛大にふっ飛ばせばいいのさ」と笑った。
「動き出しちゃったって?」
それより少し前、アークエンジェルが移動を始めたと知ったバルトフェルドは、予定より早いが仕方がない…と全軍の移動を命じた。
高度を20に保ち、ビートリーとヘンリーカーターに打電させる。
攻撃艦はレセップスと僚艦2。バクゥの補充がなかったため、使い勝手の悪いザウートと、あとはあの2機…それは、バスターとデュエルだった。
「戦士が消せる傷を消さないのは、それに誓ったものがあるからだ、と思うがね」
着任早々砂嵐の洗礼を受け、体中砂まみれで不機嫌極まりなかったイザークは、バルトフェルドのそんな言葉には答えず、ぷいと眼をそらした。
「そう言われて顔を背けるのは屈辱の印、とでも言うところかな?」
およそ真面目とは程遠く見える男に面白そうに言い当てられ、さらに腹を立てたイザークは、逆に「足つきはどこにいるんです!?」と尋ねた。
「ここから南東へ180kmの地点、レジスタンスの基地にいるよ」
そう言ってからバルトフェルドは修理の終わったデュエルとバスターを眺めた。
(なるほど…同系機というだけあってストライクによく似ている)
クルーゼが送り込んできたこの2人…名だたるエリートとは聞くが、宇宙戦の経験しかないのでは、地上での戦闘はあやしいものだ。
(緒戦は恐らく、あの可憐で空恐ろしいレディのようにはいくまいよ)
「スカイグラスパー1号、フラガ機、発進位置へ。進路クリアー、フラガ機、どうぞ!」
まずはランチャーストライカーを積んだフラガが出撃する。
「APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカー、スタンバイ」
ミリアリアが続いてキラの出撃を促した。
「本当にエールでいいのか?」
マードックが最終確認のためキラに尋ねた。
「バクゥ相手には、火力より機動性です」
そのため必要に応じて換装できるよう、フラガにはランチャー装備で出てもらっている。どれだけの数がいるかにもよるが、まずは身軽なエールでできる限りバクゥを片付けたかった。
「システム、オールグリーン。続いてストライク、どうぞ!」
「キラ・ヤマト、行きます!」
レセップスとビートリーは既にアークエンジェルへの艦砲射撃を開始している。
駆逐艦からの攻撃に加え、後方のレセップスからの援護を浴びたが、アークエンジェルは防衛網を立て直していた。
補給のおかげで艦体にも弾薬にも不安はない。
フラガはバクゥをストライクに任せ、動きの鈍いザウートを中心に攻撃していた。
弾幕を厚くして、ところどころでゴットフリートを放ちながら、ナタルは頭の中でシミュレートした得意の布陣を敷いた。
一方バルトフェルドは自身のラゴゥの前で出撃を待っていた。
そこにイザークがやってきていきなり噛み付いてくる。
「どうして我々の配置が、レセップス艦上なんです!?」
「おやおや、クルーゼ隊では、上官の命令に兵がそうやって異議を唱えてもいいのかね?」
奇抜な虎縞のパイロットスーツに身を包んだバルトフェルドがイザークにチクリと釘を刺すと、イザークはぐっと詰まった。ザフトに階級はないが、上下関係に基づく指揮系統は当然存在するからだ。
「いえ…しかし、奴らとの戦闘経験では俺たちの方が!」
「負けの経験でしょ?」
「なにぃ!?」
イザークは痛いところをついてきた女性の声に思わず振り返った。
そこには商館にいた美しい女性…バルトフェルドの恋人であるアイシャが、やはりパイロットスーツを着て微笑んでいた。
「よせよせ、失礼だろう?」
バルトフェルドは冗談めかしてアイシャをたしなめると、2人に向き直って『エリートだか何だか知らないが、地球での戦いに慣れてないヒヨッコが戦場に出てもジャマなだけだからおとなしくしてろ』という内容を、体のいい理由に変換しながら説明した。
「きみたちの機体は砲戦仕様だ。高速戦闘を行うバクゥのスピードには、ついて来れんだろ?」
「しかし!」
抗議するイザークを見ながらバルトフェルドは心の中でペロッと舌を出した。
(ストライクの戦いぶりを凌駕できるなら別だがね)
エリートの証である赤服を着たこの血気盛んな青年が、戦いとは無縁にしか見えないあの小さな彼女に一度も勝てなかったと思うと、無性に可笑しかった。
「イザーク、もうよせ。命令なんだ」
なおも食い下がろうとするイザークをディアッカが止め、彼はそのままバルトフェルドに向き直ると真顔で敬礼した。
「失礼致しました、バルトフェルド隊長」
イザークはギリギリと歯を噛み締め、悔しさのあまり「ふん!」と鼻を鳴らしてその場を去ったが、ディアッカはニヤニヤしながらイザークを追ってきた。
「なんだあの女は!」
「隊長のコレだろ」
「くそっ!」
怒りが収まらないらしく、側にあった器具を蹴飛ばして整備兵を驚かせている。
「なに、乱戦になればチャンスはいくらでもあるさ」
「…ふん」
ディアッカのその言葉に、イザークも少し機嫌を直したようだ。
そんな連中の考えもバルトフェルドにはお見通しだったが、砂漠の戦いを経験すれば、それは間違いだと気づくだろう。
(生意気盛りの若いヤツらは痛い目を見て覚えるのが一番だ)
「では艦を頼むぞ、ダコスタくん」
ダコスタが敬礼して2人が搭乗するラゴゥを見送る。
「バルトフェルド、ラゴゥ出る!」
「バクゥは何機いる?4…5機!」
キラは攻撃してくるバクゥのランチャーを避けながら数を確認する。
前回複数で回り込まれた戦法を取られると厄介なので、バクゥを近づけさせないため、ビームライフルで牽制しつつ距離をとった。
後方ではレジスタンスがようやく追いついてきたようで、小爆発が起きている。
キラはほんの少し、カガリの身を気にかけたが、その想いはすぐに目の前の敵の前にかき消されてしまった。
「ECM、及びECCM強度、17%上がります!」
1週間の独房入りの刑がちょうど明けたサイが報告を続けるブリッジでは、雨あられと続く敵の艦砲射撃への対応に追われていた。
「バリアント砲身温度、危険域に近づきつつあります」
ナタルは砲撃の中、マリューのほうを向き直った。
「艦長!ローエングリンの使用許可を!」
陽電子砲の発砲許可は艦最高責任者に権限がある。
射程に入る2艦を、アークエンジェルの特装砲でなぎ払うことで戦局を有利に傾けようと考えたナタルは、マリューの方を向いた。しかしマリューはその進言を直ちに却下した。
「ダメよ!あれは地表への汚染被害が大きすぎるわ!」
レジスタンスが地を這うようにして生きているこの地を、陽電子砲によって汚染させてはならない。
「バリアントの出力と、チャージサイクルで対応して!」
砲身温度を一定に保ちつつの防衛は当然穴が大きくなる。
ナタルは渋い顔をしてマリューに食い下がったが、マリューの決断は翻らない。
「命令です!」
「了解しました」
この現状を見て、悠長なことを言う…そうは思いながらもナタルはすぐに思考を切り替え、バリアントと組み合わせて使用するため、コリントスやヘルダートの用意をさせた。
一方灼熱の砂漠では、地を走りながらザウートやバクゥに攻撃を仕掛けるレジスタンスにも被害が出ていた。カガリはRPGを構えながら吹っ飛ばされる自走砲と仲間たちを案じながら、悔しさに唇を噛み締める。
(無茶だとわかっていても、皆、黙ってやられるだけなんてできなかった)
しかし冷静に見れば無残な死者や怪我人が増えるばかりだ。
アークエンジェルはレセップスとビートリー級の2艦を相手によく戦ってはいるが、キラは5機のバクゥに張りつかれたまま手一杯だ。
(このままではやられる)
そう思った瞬間、鷹が舞い降りた。
レセップスの前に立ちはだかりながら砲撃を続けるビートリーの目の前に、ランチャーストライカーを装備したスカイグラスパーが急激に近づいてアグニを放つ。
敵から見たら、相変わらず憎たらしいほど腕のいいフラガの一撃は、ビートリーの機関区を直撃し、大幅に推力が低下する。炎を上げ、艦内は消火活動におおわらわだ。
ダコスタはその様子を視認かつビートリーからの通信で受けたが、
「間もなくヘンリーカーターが配置につく!持ちこたえろ!」
と僚艦のブリッジを励ました。そして地球軍の砲の強力さに眉をひそめた。
(それにしてもなんて威力だ)
キラはビームライフルで何機かにダメージを与えて距離を保ちつつ、近づいてきたバクゥには斬りかかった。
しかしやはり接近戦は機動性の高いバクゥに利があり、サーベルでは間に合わない。
「ええい…!」
キラは思い切って役に立たないサーベルを相手に投げつけた。
そのサーベルが一機に命中し、それによってバクゥの集団が思わずひるむ。
彼らの動きが鈍くなったところで急速に相手との距離をつめ、そしてまた腹部を蹴り飛ばした。バクゥの動きを止めるにはこれが一番だ。
けれどいつまでも決しない戦いは、果てしないように思われた。
しかし、戦局は知らぬ間に新たな局面を迎えていた。
レセップス、ビートリーとは別働のヘンリーカーターが姿を現したのだ。
「6時の方向に艦影!敵艦です!」
「なんですって!?」
「もう一隻?伏せていたのか!」
アークエンジェルが行き過ぎるのを待ち、回り込んで出てきた敵艦。
まさしく前門の虎、後門の狼…このままではいい的になるばかりだ。
「艦砲、きます!直撃コース!」
トノムラが絶望的な状況を報告する。
「かわして!」
「撃ち落とせ!」
ノイマンは(無茶言うな!!)と思いながら力一杯舵を切る。
毎度ながらぎりぎりのところでなんとか艦砲の直撃は逃れたものの、アークエンジェルは引盾にした工場跡地の瓦礫にっかかってしまった。
舵が利かず、ブースターをふかしても脱出できない。
「くっ…ダメだ…!」
相手からは隠れているだけに見えるだろうが、逃げることができなければやがては近づかれ、集中砲火を浴びてしまう。
ローエングリンの射出許可が出ない今、対艦砲として有効なのは主砲のゴットフリートだが、動けなくなっては射線が取れない。
「アークエンジェルが!」
最初にアークエンジェルの異常に気づいたのはカガリだった。
(何をやっているんだ?もしかして…動けないのか?)
キサカもその状況に気づいて叫ぶ。
「これでは、狙い撃ちだぞ!ストライクは?」
しかしその直後、2人のすぐ近くに着弾し、キサカは大量の砂をかぶった。
キサカが眼を開いた時、既にカガリの背中は遠くなっていた。
同じ頃、キラもアークエンジェルの様子がおかしいと気づいていた。
バクゥはほぼ片付けたが、母艦とは距離がある。
アグニを…と思った瞬間、ストライクのアラートが鳴り響き、敵の接近を告げた。
それはバクゥによく似ているが、バクゥよりは一回り大きく、オレンジ色をした機体だった。
「バクゥとは違う…隊長機?あの人!?」
キラは直感した。バルトフェルド…あの男が乗っていると。
背中にはツインキャノンを載せ、口にサーベルをくわえたその姿はバクゥより機動性と攻撃力が格段に上だった。
複座のコックピットでは残りのバクゥを仕留めたストライクの動きを見て、射手のアイシャが言う。
「なるほど、いい腕ね」
「だろ?今日は冷静に戦っているようだが、この間はもっとすごかった」
その嬉しそうな声にアイシャはくすりと笑う。
「あなた、あの娘のことが好きなんでしょ?」
それを聞いてバルトフェルドも楽しそうに笑った。
「ふふ…妬けるわね」
振り返った愛しい恋人に、バルトフェルドは真顔で訊ねた。
「投降すると思うか?」
「いいえ」
「だろうな」
バルトフェルドも同感とばかりにギアを上げた。
「ヘルダート、コリントス、撃ぇっ!」
動けないアークエンジェルのブリッジではナタルが必死の防衛を敷いていた。
しかしトノムラがそこにいるはずのない機体を捉えて上ずった声を上げる。
「こ、これは…レセップスの甲板上にデュエルとバスターを確認!」
「なんですって!?」
なぜやつらが…マリューはそれを聞いてノイマンに言う。
「スラスター全開、上昇!ゴットフリートの射線が取れない!」
「やってます!しかし、艦体が何かに引っかかってて…」
艦砲は激しさを増すばかりだ…その時、ミリアリアが叫んだ。
「スカイグラスパー2号機が発進!」
「なに!?」
ブリッジはその報せに驚き、皆が手近なクルーと顔を見合わせる。
「おい!2号機に誰が乗ってる!?」
それとフラガからの通信が入ったのは同時だった。
マリューは一瞬きょとんとする。
(少佐でないなら、一体誰が?)
やがてミリアリアがマードックと通信をし、真実を確かめた。
「パイロットは、カガリさんだそうです!」
「なんだと!?」
民間人が勝手に…ナタルは思わず拳を握り締める。
(どいつもこいつも勝手な事ばかり!)
カガリはスカイグラスパーを半ば強奪すると、積んであるソードストライカーがシュベルトゲベールという長剣を持っている事を知り、セットした。
(俺もさすがに戦闘機なんか操縦したことはないが…大体は予想がつく…)
バクゥはもうキラがほとんど片付けてくれたから、艦砲射撃に注意すれば対空攻撃をする敵はほとんどいない。
「ザウートののろい砲撃なんか当たるもんか!」
のたのたと砂漠を這いずり回る連中にキャノンを撃ちながら戦場を見渡すと、ストライク、アークエンジェル、レジスタンスの仲間たちが見える。しかしそこで一番の問題は、砲撃の中を全く動けないアークエンジェルのように見えた。
カガリは彼らを救援するために操縦桿を傾け、機首を向けた。
(どうせやるなら、大物を狙ってやる!)
そして機銃で攻撃を加え、シュベルトゲベールを突き出すとレセップスに突っ込んでいく。そのまま敵艦のミサイルランチャーを破壊し、反転して今度は艦上にいたザウートを引っ掛けて誘爆を誘った。
さすがにこのスピードで艦に直接攻撃は仕掛けられないが、砲台やモビルスーツを狙って削っていくことはできる。カガリは狙い通りの効果ににやりと笑った。
「戦い方は、いくらでもあるってことだ!」
「へぇ、やるなぁ、あいつ」
フラガは思った以上のカガリの働きに大喜びし、一方ダコスタはもう一機の支援機に戸惑い、ダメージコントロールに忙しい。
カガリはレセップスが動かなくなったのを見届け、挟み撃ちに現れた伏兵・ヘンリーカーターに向かっていった。そしてレセップスに行った攻撃と同じようにシュベルトゲベールを利用して仕掛けたのだが、こちらは後手だったせいか機銃も艦砲も無傷に近く、ダメージは与えたものの、自身の機体も被弾してしまった。
「しまった!」
ヘンリーカーターにはフラガが追い討ちをかけてダメージを拡大させたが、カガリの乗る2号機は何とかコントロールを保ちながら砂漠へと落ちていった。
「カガリッ!」
墜落の方向を見定めてから、キサカがただちに救出に向かう。
「ちっ!ビームの減衰率が高すぎる!大気圏内じゃこんなかよ!」
レセップス艦上ではディアッカがビームが当たらず苦労していた。
ちょろちょろ飛び回るあんな戦闘機ごときに…
一方では被弾で動きの鈍ったレセップスに、イザークの堪忍袋の緒が切れた。
「くっそー!この状況でこんなことをしていられるか!」
しかしイザークは飛び降りたそこには機体を支えるはずの堅い地面がないことを悟り、機体は傾いでバランスを崩した。
「うわ!くっそー!なんなんだこれは!?」
機体がずぶずぶと砂に埋もれてうまく歩けない。
デュエルは無様に足踏みをしながら沈むばかりだ。
バスターもデュエルとさして変わらず、着地した近くでずぶずぶと砂に埋もれている。
もがけばもがくほど埋まる砂に手を焼きながら、ディアッカはそれでもインパルスを構えた。
そしてそれが天敵が乗っている機体とも知らず、身軽に飛び回るスカイグラスパー1号機を狙う。
「いい加減に落ちろ!」
しかしますます気温の上がった砂漠で、熱対流で曲がったビームは大きく軌道を外れ、偶然にもアークエンジェルを捉えていた瓦礫を破壊した。
途端に艦体が大きく傾き、ノイマンが驚いたように叫んだ。
「うわっ…外れた!?」
ぐぐぐとアークエンジェルの艦体が戻っていく。
「面舵60度!ナタル!」
マリューはレセップスへの止めを指示する。
「ゴットフリート、照準!」
キラはラゴゥの正確な射撃と素早い動きに翻弄されつつも、これまでのバクゥとの戦いをデータとし、戦いをいくらか優勢に進めていた。
(追い詰められないのは、多分、相手が実際に会った人だからだ)
そう考えるとキラはどうしても攻め切れない。
再び動き出したアークエンジェルのゴットフリートが放たれ、敵母艦を攻撃していることがわかる。勝機は早くもこちらに傾いた。
キラは先ほど投げ捨ててしまったビームサーベルを拾うと、ジャンプするラゴゥを狙うが、バクゥに乗っていた時の轍は踏まないとばかりに虎はその剣を避けてさらに飛んだ。キラは振り向きざま側頭部のイーゲルシュテルンを放ったが、さしたるダメージは与えられない。
一方レセップスのダメージは大きく、既に走行限界を迎えていた。
第4、第9区画が消失し、第3区画も大破している。至るところで火災が発生し、機関及び振動モーターが停止して動けなくなってしまった。
ダコスタは必死に立て直しを図っていたが、もはやここまでだった。
「くそぅ、隊長!!応答してください、隊長!」
バルトフェルドはしばらく無言で考えた末、レセップスからの通信に応えた。
「ダコスタくん。退艦命令を出せ」
残存兵をまとめ、バナディーヤに戻ってジブラルタルと連絡を取れ…らしくない命令に、ダコスタは抗議するように「ですが、まだ…!」と叫んだ。
しかし勝敗は決したことは明らかだ。
「残念ながら今回は僕たちの負けだ。きみは1人でも多くの兵をバナディーヤに連れ帰ってくれ。できるな?ダコスタくん」
同時にバルトフェルドはアイシャにも脱出するように言ったのだが、アイシャは振り向きもせず、何食わぬような声で答えた。
「そんなことするくらいなら、死んだ方がマシね」
「死んだ方がマシ…か」
バルトフェルドはかつて自分が呟いた言葉を口の中で転がしてみた。
これ以上戦っても何もならないのはわかっているが、ここで引くくらいなら…確かに、死んだ方がマシだ。
キラはエネルギーゲージのアラームが鳴り続けていることを悟り、必死にシステムをダウンさせていった。
レセップスはもはや沈黙した。既に勝敗は火を見るより明らかだった。
―― もう来ないで。もう…戦いたくない!
あなたは教えてくれた。これが、戦争の輪の中にある戦いだと。
互いに滅ぼしあうまではやまない戦いだと。けれど、そんな事はない。
なぜなら、私はあなたを知っていて、あなたも私を知っているから…
「バルトフェルドさん!」
「まだだぞ!バーサーカー!」
「…なぜ、なぜですか!?」
キラは素早く緊急チャンネルに合わせて回線を開くと叫んだ。
「もうやめてください!勝負はつきました!降伏を!」
しかしその叫びへの返事はビームキャノンとして放たれ、ストライクはシールドで防いだもののゲージが再び大きく減った。
「言ったはずだぞ!戦争には明確な終わりのルールなどないと!」
(とはいえ、自分で終わらせることはできるんだがね)
バルトフェルドは自嘲気味に笑った。
(それをきみには教えてやらなかったな)
ラゴゥが猛スピードで突進してきたので、キラもビームライフルで応戦した。
やがて相手の機体が煙を吐きはじめた。しかし一方でストライクもそれでエネルギーを消費し尽くしてしまう。
「戦うしかなかろう。互いに敵である限り!どちらかが滅びるまでな!」
「ぐっ…!」
途端に起こるフェイズシフトダウン。ストライクの色が褪せていく。
キラは再び向かってくるラゴゥを見つめた。
「バルトフェルドさん…あなたは…」
彼の後ろに死がある。キラは呻いた。
(私はここで死ぬわけにはいかない…けれど、あなたを殺したくはない…)
キラは歯を食いしばり、シフトレバーを一杯に入れた。
「なぜ、なぜ引いてくれなかったんです!?」
見る見るうちに思考が冴え渡り、視界がクリアになっていく。
(バーサーカー…目覚めてはだめだ…でも…戦わなければ…終わらない)
キラは合理的に、もっともエネルギー消費が少ない動作で腕を動かし、腰のアーマーシュナイダーを取り出した。
(これで…すべてを…!)
突っ込んできたラゴゥのサーベルを最小限の動きで避け、キラは全く無駄のない動きで機体下部を大きく切り裂く。
「アンディ!」
コックピットの2人は抱き合い、次の瞬間、業火に包まれた。
アークエンジェルがゆっくりと東進を始め、戦場にはただ、燃え盛る駆逐艦や壊れたバクゥ、ザウートが横たわっている。
レセップスもまたもうもうと煙をあげながら一歩も動けず沈黙し、唯一動いているのは、砂に足をとられてモタモタするデュエルをロープをかけて鹵獲しようとしているレジスタンスだけだった。カガリは墜落したスカイグラスパーから脱出し、駆けつけたキサカと共に、PSダウンしたストライクを見つめていた。
そのすぐ側ではまだ燻っている四足の機体が無残にも倒れている。
(アンドリュー・バルトフェルド…砂漠の虎が、逝ったのか…)
眼の前の光景を見たキラの頬を涙が伝った。
「どうして…こんな…」
自分は、あなたを心から憎んだわけでもない。
今は戦争だから…そこまで考えてキラは俯いた。
「殺しあうのはあたりまえだから、諦めなくちゃいけないんですか?」
それから顔を上げたキラの頬には、いく筋もの涙が伝っている。
「私…私は…殺したくなんかないのに!」
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制作裏話-PHASE21-
虎との戦いに決着がつくこのPHASEは、心情の補填が多いせいか、アニメで見た時より濃く感じます。それに追い詰められたキラがバルトフェルドを殺してしまう過程は、思ったように書けたので満足です。
2クールの戦闘は、後半以降はフリーダムで「不殺戦法ヒット&アウェイ」を繰り返すよりは、ずっと面白いと思います。
私はSEEDを見始めたのがストライク撃破のあたりだったので、どうしてもフリーダムの方が馴染み深いですしフォルムも大好きですが、もともとシンプルでスマートなストライクも非常に好きな機体です。
けれどこの逆種で、毎回ストライクの戦闘を頭をひねって描写してみると(何しろ見返さない主義なので、戦闘はすべて自分で考えるしかない)、本当に「これ、いい機体だなぁ」と思ったんですよね。
ストライカーパックによる戦闘形態の変化、臨機応変にこなす戦闘、油断するとPSダウンを起こしてしまうことさえも、戦闘シーンを非常に面白くします。
もともとスペックが高かったキラが、さらに強くなったのは間違いなくストライクのおかげではなかろうか。フリーダムもインパルスもデスティニーもストライクフリーダムも、主役機としての活躍はストライクには及ばないのではないだろうかと、逆種を書いてみてしみじみ思いました。
いやぁ、名機ですよ、これは。
もう惚れ直したとでも言いましょうかストライク。
なので逆種でストライクRがストライクとして復活した時は嬉しくて筆が乗りましたね(もちろん本編で見た時もストフリなんかよりこっちに大興奮)
「被・撃墜王」のカガリがスカイグラスパーで出撃し、シュベルトゲベールでレセップスを斬り裂く本編は「いやいや、ないわー」と思ったので、逆種では艦砲を破壊するに留め、PHASE18で彼が「戦い方はある」と言ったセリフに対応させてみました。
そして本編では笑いを誘った王子には、砂漠にはまり、レジスタンスのイジメを受けてもらい、ディアッカは早くも「アークエンジェル・レスキュー」です。この時点ではまさかヤツがAAに寝返るとは、お釈迦様でも気づかなかった。まさに種ドッキリ。
2クールの戦闘は、後半以降はフリーダムで「不殺戦法ヒット&アウェイ」を繰り返すよりは、ずっと面白いと思います。
私はSEEDを見始めたのがストライク撃破のあたりだったので、どうしてもフリーダムの方が馴染み深いですしフォルムも大好きですが、もともとシンプルでスマートなストライクも非常に好きな機体です。
けれどこの逆種で、毎回ストライクの戦闘を頭をひねって描写してみると(何しろ見返さない主義なので、戦闘はすべて自分で考えるしかない)、本当に「これ、いい機体だなぁ」と思ったんですよね。
ストライカーパックによる戦闘形態の変化、臨機応変にこなす戦闘、油断するとPSダウンを起こしてしまうことさえも、戦闘シーンを非常に面白くします。
もともとスペックが高かったキラが、さらに強くなったのは間違いなくストライクのおかげではなかろうか。フリーダムもインパルスもデスティニーもストライクフリーダムも、主役機としての活躍はストライクには及ばないのではないだろうかと、逆種を書いてみてしみじみ思いました。
いやぁ、名機ですよ、これは。
もう惚れ直したとでも言いましょうかストライク。
なので逆種でストライクRがストライクとして復活した時は嬉しくて筆が乗りましたね(もちろん本編で見た時もストフリなんかよりこっちに大興奮)
「被・撃墜王」のカガリがスカイグラスパーで出撃し、シュベルトゲベールでレセップスを斬り裂く本編は「いやいや、ないわー」と思ったので、逆種では艦砲を破壊するに留め、PHASE18で彼が「戦い方はある」と言ったセリフに対応させてみました。
そして本編では笑いを誘った王子には、砂漠にはまり、レジスタンスのイジメを受けてもらい、ディアッカは早くも「アークエンジェル・レスキュー」です。この時点ではまさかヤツがAAに寝返るとは、お釈迦様でも気づかなかった。まさに種ドッキリ。