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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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ディアッカは、ダメだ、撃たれる…と思って眼を閉じた。
ふと思い出したのは、もういない戦友だった。
彼は仲間を庇い、何のためらいもなく凶刃の前にその身を晒したのだ。

―― ニコル…おまえは、死ぬ事が怖くなかったのか…?

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ディアッカは顔をそむけ、眼を堅く閉じてその瞬間を待った。
しかし銃声が鳴り終わっても、自分はまだ思考を続けている。
やがてそっと眼を開けてみる。
情けない事に、現実を見るのが怖い。
(昔、俺もイザークもニコルの事を意地悪く「臆病者」なんて言ったもんだが…)
まさか自分こそがこんなにも情けないビクついた臆病者だったとはと自嘲気味に思う。
そしてそうやって笑える自分が無傷であると気づき、安堵のため息をついた。
「う…」
目の前には、女の子が倒れている。
(こいつ…)
それは自分がからかい、深く傷つけてしまった少女だった。
彼女は銃を構えていた赤毛の男に体当たりし、男は彼女の下敷きになっている。
「…おい!」
ディアッカは転がった銃を見て、傍らにいるメガネをかけた兵士に向かって顎をしゃくった。
呆然としていたサイは捕虜の小さな声に気づくと、すぐに銃を拾い上げてロックをかけ、自分の後ろに隠した。
そしてようやく2人は同時にほーっと息をついた。

「何…するんだよ…」
フレイは思いもかけないミリアリアのタックルで銃を取り落とし、千載一遇のチャンスを逃してしまったことに気づくと、自分の上に覆いかぶさっているミリアリアに言った。
渾身の力でフレイにぶつかったミリアリアは何も答えず、ただ痛みに呻くだけだ。
「くそっ、どけよっ!」
「・・・あぁっ!」
フレイは起き上がると、まだよろめくミリアリアを振り払ったので、ディアッカは乱暴に押しのけられてまた床に転がった彼女を見つめた。
(なんだこいつ…相手は女の子だろ、一応…)
アスランへの自分の荒っぽい態度はすっかり棚に上げ、ディアッカは赤毛の男に対してひどく憤慨した。
「ミリィ、大丈夫!?」
サイが叫んでミリアリアに駆け寄ったが、フレイは忌々しげに彼女たちを睨みつけている。
「…何で邪魔するんだ!おまえだってこいつを殺そうとしてただろ!」  
その言葉にびくっとしたミリアリアが顔をあげた。
赤毛の男を見上げた彼女の眼が、今度はゆっくりとディアッカを捉える。
ディアッカは何も言えず、ただ固唾を呑んで2人を見守っていた。
「違うよ、フレイ…」
やがて、ミリアリアは弱々しく呟いた。
「何が違うんだ!憎いんだろ!?こいつが!!」
フレイはそんなミリアリアの言葉を遮るように怒鳴った。
「おまえのトールを殺した、コーディネイターがさ!」
「…っ!」
フレイはミリアリアの耳元で怒鳴り、ミリアリアは体を縮ませた。
それを見たサイは果敢に「やめてよ!」とフレイを押し戻す。
ミリアリアは再びフレイを見ると、か細い声で抗議した。
「そうだけど…でも…違うよ、フレイ…」
フレイは苛立ってさらに声を荒げる。
「いい子ぶるなよ!」
ミリアリアがビクッと体を堅くすると、フレイはわざと怖がらせるように顔を寄せた。
「おまえも、コーディネイターなんか皆死ねばいいって…トールの代わりにこいつが死ねばよかったって思ってるんだろ!?」
フレイは高らかに笑った。
「おまえも俺と同じだよ。だからこいつを殺してやろうと思ったのに…おまえのためにさ!」
フレイが落とした銃を探すような目つきであたりを見回したので、サイは思わず背筋を伸ばして自分の後ろに隠した銃を意識した。
「なのに邪魔しやがって…こんなヤツ…死んで当然なのに!」
フレイは周囲に手頃な武器がないと知ると、今度は拳を固めてディアッカに近づいていった。
サイは真っ青な顔で歪んだ表情のフレイを見つめていた。
(狂ってる…フレイはもう、どこかおかしいんだ)

「違うよ…」
その時、ミリアリアがずず、と這ってフレイの前に出た。
それはまるでディアッカの目の前に立ちはだかるようだった。 
「ダメだよ、フレイ…違うの…私が間違ってたの」
懇願するように、ミリアリアはフレイを見上げている。
「憎いとか…そうじゃない…違う…だから、やめてよ」
ディアッカは後ろから彼女の小さな背中を見つめ、それから自分に強い敵意を向けている赤い髪の男を見た。
(ちくしょう、縛られてさえいなきゃな…)
ディアッカは無駄と知っていても縛られた細い強化ファイバーのロープを力一杯引っ張ってみた。
それはいかな力の強いコーディネイターといえども人の力で千切れるはずもなく、小さな少女に庇われている自分の不甲斐なさが心を苛むばかりだ。
(今、俺が自由なら、こいつを絶対ぶん殴る…!)
「おい、なんだ!この騒ぎは!?」
その時、艦内での銃声とブリッジに入った緊急警報に驚いたパルが、武装した警備兵たちを引き連れて医務室に入ってきた。
彼らが眼にしたのは、相当の場数を踏んだ兵たちですら後々まで語り継ぐほど混沌とした修羅場だった。

「彼をいつまでも医務室に置いておいたのが間違いでした」
ナタルがボードを指でコツコツと叩きながら報告書を読み上げる。
「ましてや一時でも無人にするなど。銃、ナイフ類の管理にも問題があります」
パルからの報告で大急ぎで医務室に駆けつけたナタルは、放心状態のフレイと泣きじゃくるミリアリア、頭から血を流している捕虜という、全く意味不明のシチュエーションを眼にした。さらに壁にめり込んだ銃弾とそれを発射した銃、捕虜の血がついたナイフという数々の物的証拠に混乱を来たした。
(全く…アーガイル二等兵がいてくれて助かった)
冷静で理知的な彼女は動揺を抑えこみ、副長たちに事のいきさつを説明してくれたのだった。
「艦長!私は何も、個人的感情であなたを非難しているつもりはありません」
ナタルは規律の乱れや法務・秩序の乱れは、軍にとって時に致命的になると主張した。
非常事態でも野戦任官でも、例外を認めては危険を呼ぶ。そんな事はマリューも痛いほどよくわかっていた。
自分の甘さが、彼らにあんな行動を取らせてしまった事も、上層部の命がないからと若い捕虜に適切な処遇を処さなかったことも…
(管理とか統制とか、必要不可欠だってことは私だってわかってはいるのよ)
しかしナタルの演説は続いていた。
「軍には厳しく統制され、上官の命令を速やかに実行できる兵と、それに広い視野で情勢を見据え、的確な判断を下すことのできる指揮官が必要です」
「…ええ」
マリューが眼を伏せると、ナタルはますます激しく弁舌を振るう。
「でなければ、隊や艦は勝つことも、生き残ることもできません!」
「わかってるわ、ナタル」
マリューはほーっと溜息をついた。
(わかっていても、できなきゃ一緒よね)
自分があの時、艦長という重責につかねばならなかったのはただただ、運が悪かったとしかいえない。
「自分が器じゃないことは、よくわかってるつもりよ」
もちろんナタルは、あくまでも一般論として述べているだけに過ぎないのだ。
嫌われる事を覚悟の上で、正しい事を主張できる彼女は本当に強い。
「色々あったけど、あなたにはほんと、感謝してる」
ナタルは思わず「違う」と言いそうになって言葉を飲み込んだ。
「あなたならきっといい艦長になるわね」
どうしても噛み合わない論点に、ナタルがついに諦めた。
(…だから甘いというのだ、あなたは)

「いてっ!うっ…」
寝返りを打った拍子にミリアリアにつけられた傷に触れたディアッカは呻いた。
彼はあの後医務室から移され、今は艦底近くの牢に入れられている。
照明が落とされた暗い牢で、思い出すのは自分を殺そうとし、自分を庇った少女のことばかりだった。
「トールが、トールがいないのにっ!なんで…こんなヤツ!こんなヤツがここにいるのよっ!!」
泣きながら叫んだ彼女を思い出すたび、自分が放った残酷な言葉が自分に返ってくる。
「チッ…ビンゴだったとはな」
コーディネイターなど死ねばいいと言う赤毛の男に、彼女ははっきりと「違う」と言った。
その気持ちを思うと、いつものように皮肉な言葉で笑い飛ばす事などできそうもない。
ディアッカは与えた傷と同じだけ傷を負い、いつまでも眠れなかった。

「何を見てるの、キラ?」
歩けるようになったキラは、クライン邸の庭で、かつてアスランがラクスと共に歩いた輝く池を見つめていた。
「あの鳥…白鳥を」
「キラは、いつも悲しそうだね。体は治っても、心が傷だらけみたいだ」
ラクスが言うと、涙のにじむ瞳でキラは呟いた。
「悲しいよ…たくさん人が死んで、私もたくさん…殺した」
「きみは、戦ったんだよ」
ラクスもまた、優雅な白鳥を見ながら言う。
「それで守れたものも、たくさんあるはずだ。今はそれでいい」

シーゲル・クラインは評議会を辞して屋敷に戻ると、マルキオとラクスに、ザラは議定書を歯牙にもかけず、今の路線のまま、戦禍の拡大を唱えるばかりだと告げた。
「パトリックはアスランを呼び戻すつもりだぞ」
それを聞いてラクスの顔が少し翳った。
「ストライク撃破の功績により、ネビュラ勲章の授賞が決まったそうだ」
「では…議長は彼女にあれを渡す気なんですね?」
ラクスは、キラと同じく身も心も傷ついているであろう婚約者を思い出した。いつもどこか寂しげな表情をしていたアスラン…
さらにシーゲルは、水面下で動いている、自分に賛同する者たちが集めた情報をラクスのタブレットに転送しながら苦々しげに言った。
「パトリックは既に、戦争反対や和平に向けて活動する者を、治安維持の名目で弾圧し始めている。特に我らの監視は強い」
確かに、弾圧は静かに始まっていた。いつからかメディアからは討論番組が消え、配信される活字媒体にも行政への批判はない。それらは表立ってではないからまだ誰も気づいてはいないが、規制や統制がかかり始めている。彼が最も邪魔に思っている、「クラインに与する者たち」を弾圧し始めるのも時間の問題だ…ラクスは顎に手を当てて大き目のボードに眼を落とした。
「今はまだ何もせずにザラ議長が動き出すのを待つか、それとも十分な準備の上、自分たちで始めるか…ですね」
「む…」
ラクスが呟くとシーゲルは少し表情を曇らせた。
シーゲルの心にはまだ迷いがある。
今も親友としてのパトリック・ザラを信じるシーゲルにとって、反戦を掲げて決起する事は、彼との決定的な訣別を意味するからだ。
「…それもやむをえんだろう」
搾り出すように言った父を労わるように見つめていたラクスに、今度はシーゲルが尋ねた。
「『彼』との連絡は?」
「ついています。既にプラントに上がり、ザラ議長とも接触しています」
そうか…と答え、シーゲルはいよいよ時が近いことを実感した。
だがシーゲルには闘いを始めるにあたり、気がかりがもう一つあった。
「ラクス、おまえはやはりスカンジナビアに…」
ラクスは首を振った。
「いいえ。共に行きます。兵にはなれない僕だけど、それでも闘うことはできます」
それからいかにも彼らしい、優しく気品溢れる笑顔を見せた。
「こんな僕にもできる事があると教えてくれたのは、父さんですよ」
シーゲルは、命がけで自分のもとに還ってきたあの日の息子を思い出した。
心も体もどうしようもなく傷つき、助かったって何もできないと自暴自棄になっていたラクスが、今はこうして穏やかに、けれどしなやかに強く立っている。
(ならば、もう何も言うまい…)
シーゲルもまた、穏やかに微笑み返した。

「彼女の様子はどうかね?」
ボードやタブレットをしまった2人は、庭で1人佇んでいるキラを見つめていた。
「体はもう大丈夫でしょう」
ラクスは言う。
「一番の問題は、心です」
アスランを傷つけ、アスランに傷つけられたことがキラの心を閉ざしている。彼女は迷い、揺れている。ラクスは窓に手をあてて呟いた。
「キラは今、自分なりの答えを探しています」
「そうか」
シーゲルもまた、歩き出したキラを眼で追った。
「おまえが選んだ子なら、私は信じるよ」
そう言ってから、シーゲルはふと楽しげに笑った。
「無論、パトリックの娘のこともな」
それを聞いてラクスもふふ、と笑った。
「2人とも本当にいい子ですよ」

「これ、フレイに持って行ってあげてくれる?」
「ええっ!?俺が?」
サイが食事のトレーをカズイに渡そうとしたが、カズイはビビって及び腰だ。
フレイは艦内での発砲と騒ぎの張本人として、5日間の独房入りが決まっていた。
ちなみに同じく厳重注意を受けたミリアリアは、サイの証言にも助けられ、1日で済んでいる。
「だ、だって、フレイ、銃ぶっ放したんだろ…?」
おどおどしながら小声で囁くカズイを見てサイは呆れた。
「じゃ、いい」
「…あ、いいよ、俺、持つよ…」
「いいってば」
「…部屋までは、持って行くからさ…渡すのはサイの方がいいでしょ?」
(銃を撃ったフレイがそんなに怖いなら、女にそれを任せるなんて、もっと間違ってるんじゃないの)
そう言いたかったが、カズイの性格から考えれば無理もないので、仕方がない。
「でも、ミリィがそんなことするとはな」
結局カズイはビビリまくり、独房の中に食事を運んだのはサイだった。
「あのザフトが悪いのよ。また何か言ったらしいから…」
「あ、あいつの名前、ディアッカって言うんだって」
カズイは相変わらずそんな情報を手に入れるのが早い。
「ところでさ、俺たち、もう除隊できるんだろ!?」
サイはまた始まったと思いつつも、元来の優しい性格から彼を邪険に扱いはしない。
「わからない。艦長に聞いてみたら?」
「まだダメなのかなぁ…もうこんなの、ホントにさ…」
肩を落とすカズイが深いため息をついた。

同じ頃、ミリアリアは恐る恐る艦底へ向かっていた。
今までこんなところまで来たことはない。
それどころか、独房以外に牢があるなんて知らなかった。
(会いに行って、どうしようって言うの?)
あの若いザフト兵がトールを殺したと確認したいのか、それとも、殺していないと確認したいのか…
(どっちなんだろう…私…)
ミリアリアは自問自答を繰り返しながら、重い足取りで歩き続けた。
独房でもずっと考えていた。考える時間はたくさんあった。
(あいつを殺そうとしたのは、あいつの言葉に逆上したから…なら、フレイからあいつを庇ったのは…なんでだろう?)
考えても考えても答えが見つからなかったので、ミリアリアは勇気を振り絞り、行動に移したのだ。
(会いに行ってみよう)
牢はがらんとして寒々しかった。
暖房は効いているのだが、人気がないせいだろうか。
見張りがいるかと思ったが、ナタルにあれだけ言われたというのに相変わらずマリューの采配は杜撰で、そこまで眼が行き届いていないようだった。
ミリアリアはそっと牢に近づいた。
どこにいるんだろう…足を忍ばせ、手前から一つ一つ牢を見ていく。
一番奥に、なんとなく気配がする。ミリアリアの鼓動が激しくなった。
(いた…!) 
ディアッカは頭に包帯を巻き、壁の方を向いて眠っているようだ。
こんな暗くて寒々しいところで…チクリと、わずかに胸の奥が痛んだ。
(1人ぼっちなんだ、こいつ)
ミリアリアはしばらくその姿を見ていた。
するとディアッカは寝返りを打ってこちらを向いた。
「ん…?」
ディアッカは完全に眠っていたわけではないようで、振り向きざまに人の気配に気づいてはっと起き上がった。
暗闇でもナチュラルのミリアリアよりはよく見える視力で、ディアッカはそこに彼女が立っている事に気づいた。
「あ…」
ミリアリアは実際にディアッカと眼が合った途端、慌てて逃げ出そうとした。
(何をしに来たんだろ、私…こいつに会ってどうしようと…)
「待てよ!」
ディアッカは起き上がって思わず彼女を呼び止めた。
(逃げないでくれ…)
心の中では、なぜか祈るように願ってさえいた。
ミリアリアはその声に、ためらいながらも鉄格子から少し離れたところで立ち止まった。そして警戒心を捨てず、半身だけディアッカに向け、半身を出口に向けてうつむいた。
「…あー、っと…」
呼び止めておきながら、いざとなると言葉が出ない。
「その…おまえの彼氏…どこで…その…」
真っ白になった頭で、口をついて出たのはいきなり核心だった。
(どうしちゃったんだ、俺?)
ディアッカは途方にくれたが、口から出てしまったものは仕方がない。
「…スカイグラスパー…に、乗ってたの」
ミリアリアは、少しの間沈黙し、重い口を開いた。
トールがいなくなった事を思い出すことも辛かった。
「あの時、島で、あんたたちが攻撃してきた時…」
(ニコルの弔い合戦の時か)
ディアッカは記憶を手繰る。
しかし肝心の事がわからないので、恐る恐る聞いてみた。
「ところで、その…スカイなんとかって、何のことだ?」
ミリアリアは一瞬黙り込んだが、やがて小さな声で呟いた。
「戦闘機…青と白の…」
(ああ…!)
ディアッカは思い当たり、そしてなぜかほっと安堵した。
バスターを降ろされて連行される時、ハンガーにあった機体…ディアッカの優れた視力は、直前の戦闘で自分がつけた傷まで捉えていた。
「俺じゃない」
ミリアリアはその答えに顔を上げた。
「確かに、俺はその戦闘機と戦ったけど…でもあれは、金髪のあいつだ」
ディアッカは安堵して、ゆっくりと記憶を蘇らせた。
(俺のバスターをやってくれたヤツは、俺が連行される時にピンピンしてたじゃないか)
キラたちのオペレーターを務めていたミリアリアも、今はもう気づいていた。
フラガが戦う相手は、なぜかいつもバスターだった事を。
とりあえず、お互いに因縁はないと知った2人はしばらく沈黙した。
ディアッカは彼女の恋人を殺したのが自分でなくて心底ほっとした。
(ナチュラルを何人殺しても、こんな事は思わなかったのにな)
だが彼女の恋人がニコルの弔い合戦の最中に戦死し、それに自分が関わっていないのなら、実際に彼を仕留めたのはアスランかイザークだろう。
(だとしたら連帯責任…ってヤツだよな)
ディアッカは今度こそ観念したように、ゴロリと仰向けに横になった。
そして沈黙を続けているミリアリアに言った。
「どうしたんだよ。殺しに来たんならやればいいだろ」
ミリアリアはそんな彼を、黙って見つめているだけだった。

キラが初めてシーゲル・クラインに会ったのは、その日の夕食の時間だった。
「身体の具合は大丈夫かね、お嬢さん」
優しそうな微笑みを湛えて彼は訊ねた。
それからクラインは、かつてキラがラクスの救命ポッドを拾ってくれたこと、そして人質にされた彼を無事に返してくれたことについて礼を言った。
「きみは、アスランの昔からの友達だそうだね」
その言葉に、キラの手が止まった。
「友…達…」
キラの瞳に陰が落ち、シーゲルとラクスはそっと目配せをした。
(アスランは…きっともう、私を友達とは思っていない…)
「あれはいい娘だ。優秀なだけでなく、優しくて強く、美しい」
(そう、誰よりも美しかった彼女の母、レノア・ザラのように)
一瞬感慨深げに遠い眼をしたクラインは、すぐにいたずらっぽくウィンクした。
「ただし」
そういう表情をすると、彼はラクスによく似ていた。
「真面目過ぎて、どうにも頑固で融通が利かんがな」
それを聞いたラクスが笑い出し、キラもつられて苦笑した。
「友達同士、道が違ってしまうのはよくある事だ」
クラインは言う。かつて親友であった彼を想いながら。
「だが、話すことでわかりあえることもある。そう思わんかね?」
クラインは優しく笑った。
キラは答えに詰まり、困ったような顔で曖昧に頷いた。
(そうかな…アスランは、また私と話してくれるかな…)
「とにかく、きみはまずは体を治さなければいかんな」
「そうだね、早く元気にならないと」
ラクスも頷きながら父に同意する。
「きみにかかりきりじゃ、僕のドクターが僕を診られないよ」
キラは少し首を傾げ、寂しそうに笑った。

ラミアス、フラガ、バジルールが召喚された査問会はひどいものだった。
ひたすら「キラ・ヤマト」というコーディネイターがストライクを駆ったことが、ヘリオポリス、アルテミスを壊滅させ、果ては先遣隊や第8艦隊の壊滅までも先導したといわんばかりだ。
戦争はたった1人の力でなど決しないと言っていたハルバートンがこれを聞いたら、さぞ激怒した事だろう。
軍幹部が、これほどまでに反コーディネイター色が強いとは…キラを擁護しようと反論するたびにへこまされるマリューを見ながら、ナタルは軍そのものに疑念を抱き、口を閉じて何も語らなかった。
今日の査問会では、艦の問題点を、艦長の重大な判断ミスも含め報告するつもりで来たのだが、聡い彼女はこんな連中に何を話しても無駄だと悟り、口をつぐんだ。
(こんな…ブルーコスモスの息がかかった連中に…!)
ナタルは誇り高い軍人一族として、軍幹部にブルーコスモスが入り込んでいるのではという噂には、これまで耳を塞いできた。そんな不確かな情報を信じて、自分たち一族が培ってきた誇りを汚したくなかったからだ。
だが、今日この査問会で確信した。
(軍は腐っている…それもかなり深刻に、奥深いところまで)
規律正しく、秩序ある、公明正大であるべき軍がここにはない。
沈黙を守るナタルの姿は、彼女がこれまでの数々の事件や出来事を幹部連中に訴えるとばかり思っていたフラガやマリューを驚かせた。
全ては、コーディネイターの子供がそこにいたということ。
そしてその偶発的事象を必然に変えてしまった艦長の判断ミス。
結局はそう結論づけられ、一切の反論を認められないまま査問会は終了した。
マリューもフラガも、今までにない敗北感で一杯だった。
しかも彼らには追い討ちがあった。
「アークエンジェルの次の任務は追って通達する。ムウ・ラ・フラガ少佐、ナタル・バジルール中尉、フレイ・アルスター以外の乗員は、これまで通り、艦にて待機を命ずる」
サザーランドは敬礼する3人に残酷な運命の分かれ道を伝えた。
「では、我々は?」
驚いたフラガが尋ね、ナタルも怪訝そうな瞳を向けた。
「この3名には、転属命令が出ている。明け0800。人事局へ出頭するように。以上だ」
軍人の常とはいえ、唐突な…フラガとナタルは顔を見合わせ、ナタルが質問した。
「あの…アルスター二等兵も転属というのは?」
「彼の志願の時の言葉を聞いたのはきみだろう?」
サザーランドは何を今さら、というようにナタルに告げた。
「はい」
「アルスター家のご子息でもある彼の言葉は、多くの人々の胸を打つだろう。志願動機と共にな」
ニヤリと笑ったサザーランドを見て、3人は軍の思惑を知った。
(連合のプロパガンダとして利用するつもりか…)
ナタルは眉をひそめ、マリューは怒りのあまり眼を背けた。
「彼の活躍の場は、前線でなくてよいのだよ」
サザーランドはそう言い捨てると彼らを残して部屋を出て行った。 
彼らにとっては、失ってはならぬ人材だけが手に入れられればいいのだった。
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secret
制作裏話-PHASE33-
本編では完全に総集編で、ガンダムに馴染みのない新たなファン層(おにゃのこさんたち)にとっては、サザーランドとガルシアの立場や立ち位置が一体どう違うのかもわからなかったかもしれません。

逆種ではこの「査問会」を大幅にカットし、私としてはもっと描写して欲しかった部分を取り上げています。
それがラクスとシーゲルの会話であり、ラクスがキラとアスランを見守っているという描写であり、シーゲルとキラが接点を持つ、というものです。
でもこうして自分が書いたものを読んでみても、決して不自然じゃないと思います。むしろない方がおかしい。だってキラは、シーゲルにとってラクスを助けてくれた恩人ですから。
大体、シーゲルにとってはどこの馬の骨ともわからないキラをいきなり引き取って治療してるんですからね。ラクスがキラが自分の命の恩人であると父に話さないわけがないじゃないですか。制作陣はここ、絶対忘れてたと思いますよ。

ラクスとシーゲルの親子関係をきちんと描いたおかげで、逆デスでも傷ついた彼が父の言葉で救われた事、そして父の後を継がねばと思いながらも逃げ出した事(そしてそれを悔いていた事)、さらには父の為政が正しいばかりではなかったと言及することもでき、カガリとウズミ、アスランとパトリックに対抗し得る強い「親子関係」を描けたのではないかと思います。

同時に、本編ではイマイチ描写されなかったシーゲル・クラインとパトリック・ザラという盟友同士が道を分かち、今後敵対していく未来を見据え、シーゲルには「分かたれてしまっても、話をすれば分かり合える」とキラを諭させています。本編のキラはフリーダムを手に入れた途端天下無敵のキラ様仏様になりましたが、逆種ではキラがゆっくりでも成長していく手助けをする「大人」を作りたかったので、親友との決裂という似たような境遇からも、クラインは当然ながら適役でした(いや、本編も初期の彼らの出演回数を見ると、本当はそれがやりたかったのかもしれないですね)

フレイの狂気っぷりは本編以上です。何しろディアッカをぶん殴る気満々です。これくらいのショックがあって初めて、ディアッカもミリアリアも互いの存在を意識し始めるきっかけになると思ったので、フレイにはとことん暴れてもらいました。
こうしたナチュラルとコーディネイターの対立。その負の感情を利用され、互いを憎みあい、やがては行き着くところまで行ってしまう戦争。そしてその渦中に巻き込まれていく主人公たち。
種は運命とは違い、テーマがはっきりしていて非常にわかりやすいですね。
になにな(筆者) 2011/03/23(Wed)22:46:42 編集



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