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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「きみ、コーディネイターだろ」
軍服を着た金髪の男は、面白そうに言った。

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「バジルール少尉!」
マリューは軍服を着た女性に声をかけた。

コロニー内に現れた戦艦は「アークエンジェル」と言った。
ピカピカの新造戦艦らしいが、攻撃を受けたのか巨艦を動かすにはあまりにも人員が足りていないようだった。
キラたちはマリューに軍人たちが居並ぶハンガーまで連れて来られ、待たされていた。皆不安だったが、それゆえに口を利くものはいなかった。

整備兵らしき無精ひげの男、マリューを「ラミアス大尉」と呼んだ背の高い女性、そして少し前に地球軍の虎の子のモビルアーマーで飛び込んできた男たちが、それぞれ自己紹介をしているようだ。
ヒソヒソと状況を報告しあっていた彼らが、やがて一斉にキラを見る。
「御覧の通り、民間人の少女です。襲撃を受けた時、何故か工場区にいて…私がGに乗せました。キラ・ヤマトと言います」
マリューが自分について説明している。
しかし、その声は先ほどとは随分違って、柔らかくて優しく聞こえた。
皆しげしげと自分を見る。
「ふーん。女の子なんだ?」
モビルアーマーから降りてきた男が面白そうにキラを見る。
「はい。彼女のおかげで、先にもジン1機を撃退し、あれだけは守ることができました」
「ジンを撃退した!?」
それを聞き、バジルール少尉と呼ばれた背の高い女性が叫ぶ。
非常に端正な顔立ちをしているが、反面、厳しげで怜悧だった。
彼女はしげしげとキラを見つめていたが、やがて再び感情を落ち着かせ、氷のような表情に戻って上官たちを見た。
ただ、先ほどアークエンジェルが現れた時に彼らを襲っていたシグーと呼ばれる機体と戦ったキラは、武装の一つ「アグニ」という超高インパルス砲…すなわち強力なレーザー砲を放って応戦したため、ヘリオポリスの外壁を破壊し、シャフトにまで届くようなダメージを与えてしまったかもしれない…
再びヒソヒソ話を始めた大人たちに、置き去りにされたままの子供たちの不安感は募った。
「ああ、そうか…」
やがて金髪のパイロットが思いついたように言った。
そしてつかつかとキラの元へ歩み寄ってくる。
キラはギクリとして体を硬くした。
けれど彼は柔和に笑ったままだった。
勘のいい彼は気づいたのだ。キラがコーディネイターであると。
彼らが今まさに戦っている「敵」であると。
キラにはそれを隠す理由はなかった。
そもそも隠すことなどできはしなかった。

「この状況で寝られちゃうってのもすごいよな」
ぐったりと眠るキラを見て、カズイは暗い声で呟いた。
コーディネイターだから…と言いたいのだろう。
コーディネイターだから、戦闘中にOSの書き換えもできる。
コーディネイターだから、ナチュラルには動かせないモビルスーツも簡単に動かせる。
コーディネイターだから…やっぱり薄気味が悪い…
あからさまには言わなかったが、カズイがそう思っていることは明白だ。
トールは少しムッとしてやめろよと言い、サイもカズイをたしなめた。
キラがいなかったら、私たち死んでたかも…ミリアリアは呟き、疲れきったキラに毛布をかけた。
コーディネイターではあるけれど、それ以前にキラは女の子なのに…ミリアリアは短く柔らかいキラの茶色い髪をそっと撫でる。
(そう、キラがいなかったら、私たちは…)

整備兵に銃を向けられたキラをトールがかばい、さらにはマリューも毅然とした態度でかばってくれた。
中立国ならコーディネイターがいても不思議ではない。
ましてや彼女は敵ではない。
金髪の男…ムウ・ラ・フラガ大尉は自分の軽率さを詫び、キラたちは居住区に通されて休息を取ることを奨められたのだった。
キラはもう一杯一杯だった。
爆発に巻き込まれ、少年に助けられ、長い間会えなかったアスランが敵軍の兵士になって現れ、モビルスーツに乗って戦わされ、何度も銃を向けられて…なんという日だ。穏やかな日常は全て崩れ去った。
遠かった戦争が急に身近に感じられ、嫌悪感で全身が総毛立つ。
 
「トリィ」
キラはトリィを指にとまらせ、愛らしく首を振る彼を見た。
この小さなロボットは、アスランがくれたものだ…さよならした時の、まだ幼かったアスランのきれいな笑顔が思い出され、キラは泣きそうになる。
だから眼を閉じた。
身体も精神ももはや限界に近かったから、すぐに訪れた眠りはありがたかった。
キラは悪夢すら見ずにぐっすり眠った。しかし眼が覚めると、悪夢よりひどい、本当の悪夢が待っていた。

「お断りします!」
マリュー、フラガ、そしてナタルの3人の士官は、キラ・ヤマトにあの「ストライク」と名づけられている機体に再び乗り込んで戦うよう要請する事を決めた。
戦闘中にOSを書き換える処理能力や操縦術、どれをとってもキラに勝る者はなく、キラ抜きでコロニーから脱出することは難しいと思われた。
「私たちをもうこれ以上、戦争になんか巻き込まないでください!」
軍服に着替えたマリューがそれを伝えにきた時、キラは当然ながら烈火のごとく怒って断った。ボーイッシュな格好はしていても、いつもおとなしめのキラの激しさを見たことがないサイたちは、そんなキラの姿を見て驚いていた。
(むちゃくちゃだ…何もかもむちゃくちゃすぎる!)
「あなたの言ったことは正しいのかもしれません。私たちの外の世界は戦争をしているんだって。でも、私たちはそれが嫌で、戦いが嫌で、中立のここを選んだんです!それを…」
しかし、そんなキラの抗議は、突然のエマージェンシーに遮られた。
敵が再び襲ってきたようだ。フラガのモビルアーマーは損傷が激しくて応戦が出来ない。艦もまた、手薄な人員だけで動かさなければならないのだ。
ぐずぐず言っているヒマはない…マリューはキラの方へ向き直る。

「聞いての通りよ。また戦闘になるわ。シェルターはレベル9で、今はあなたたちを降ろしてあげることもできない。どうにかこれを乗り切って、ヘリオポリスから脱出することができれば…」

(ずるい、ずるい、ずるい!あなたはずるい!)
もう自分には断れない。断る余地がない。断りたくても理由がない。
なぜなら「できてしまうから」だ。「戦えてしまえるから」だ…
ミリアリアが不安げにトールの腕をつかむ。トールもキラを見つめる。
サイも、カズイも、誰も彼もがキラにしかできないと眼で言っている。
「卑怯です…あなたたちは…」
キラは絞るように言う…これ以上言ってもムダだとわかっていても。
相手を複数形にしたのは、身勝手な要求をする軍人たちだけではなく、自分が大切に思っている仲間たちを含んだのか、キラにはわからない。
「キラ…」
トールが歯を食いしばるキラの名を呼ぶ。トールはいいヤツだ。
女の子に危ないことをさせるなんて、と思ってくれている。
けれど今ここで戦えるのも自分だけだと思っているんだ。
そんな理不尽さが、キラには納得できない。けれどそれしか選択肢がないのだ。
だから悲痛な叫びだけが、キラができる精一杯の抵抗だった。
 
「そしてこの艦にはモビルスーツはあれしかなくて、今扱えるのは私だけだって言うんでしょ!」

―― できるんだからやれって…できるんだから殺せって…
できるんだから死ねって言うんだね?あなたたちは私に…
そう、コーディネイターの私に…あなたたちの敵の私に…
 
ストライクには武装がいくつかあると簡単な説明してくれた荒々しい整備員から指示を受け、キラは再びモビルスーツ…「ストライク」の操縦席に座った。
先ほどは丸裸だったが、今回はソードストライカーという剣を主体とした武装にすると言っていた。
既に被害が甚大なヘリオポリスをこれ以上傷つけるわけにはいかない。
避難はほとんど終わっているとマリューは言っていたが、それでもまだ誰かが逃げ遅れているかもしれないのだ。
(コロニーの外は宇宙空間だ…)
キラは急にブルッと体をふるわせた。死が見つめている気がした。

アークエンジェルのブリッジの混乱ぶりは凄まじく、的確な指示など求めようがなかった。キラは発進するとすぐモビルスーツ連隊を認めた。
そしてその連隊を見たことのある赤い機体が後から追ってきていた。
キラの心臓がギュッと掴まれたように収縮する。ドキドキする。
しかしそんな感傷はすぐに振り払われた。
覚えのある機体…恐らく、さっき戦ったあのジンが再び襲いかかってきたのだ。
ヘリオポリスへのダメージを少なくするため、とにかく防戦一方のキラは苦戦していた。
一方、小回りの利くモビルスーツに囲まれたアークエンジェルも被弾し、艦は大きく揺れてミリアリアたちを怖がらせた。
たまに通信が繋がっても混乱の様子が伝わるだけだ。
(どうしよう…どうすれば…)
コロニーへのダメージなど考えもせず撃ってくるジンを捕らえ、最小限の爆発で破壊する…そんなことが自分にできるのだろうか。
その時、眼の端に赤い機体が入ってきた。
それに反応したのはジン。
赤い機体と連携して何かを仕掛けられたら…キラの中で危険信号が鳴り響き、無意識に反応していた。赤い機体に気を取られたジンに突進するストライク。
シュベルトゲベールはジンを捕らえ、破壊する。
 
エース級のジンを仕留められ、敵の命令系統が混乱したようだ。
おかげで次の攻撃がこない。
(艦は無事なのかな?)
目の前を貴重な酸素を燃焼しながら、動きを止めたジンが落ちていく。
(あの中の人、死んだんだ…きっと…)
どんな人かも知らない。けれど自分と同じコーディネイター。
刹那、キラは臓腑からこみ上げるものを感じたが、必死に耐えた。
泣きたかったが、それもこらえた。戦いは終わっていないのだ。
まだ赤い機体がいる。多分、そう、あそこにはアスランがいる…
 
「キラ!キラ・ヤマト!?」
 
その時、キラは誰かが自分の名を呼ぶのを聞いた。
誰だろう…誰が自分を呼んでいる?
「やはりキラ…キラなの?」
澄んだ綺麗な声。懐かしい声。
「…アスラン!アスラン・ザラ!?」
思わず答えてしまった。だってアスランは…友達、だから…
 
しかし時を同じくしてアークエンジェルの主砲ももろくなったコロニーの壁を完全に破壊してしまった。急激に空気が抜けていく。
車が、建物が、街が闇に消えていく。真空が全てを飲み込んでいく。
 
「なぜ…なぜあなたが!?」
キラは混乱する頭で呼びかける。
大人っぽくて頭がよくて、とても綺麗で優しかったアスラン。
穏やかなアスランと戦争なんか、一番無縁だと思っていたのに…
 
キラはアスランに何年も会うことができなかった。
アスランの父はプラントの実力者ゆえに、彼女は父の失脚を狙う者たちや、地球で幅を利かせる反コーディネイターグループ・ブルーコスモスのテロや拉致などから隠されなければならなかった。
連絡を取る手段もないままに別れた。
もう二度と会えないかもしれないと思ってさえいた。
 
「キラこそ…どうしてそんなものに乗っているの!?」
 
アスランの戸惑いがキラに伝わる。
(わからないよ…アスランがここにいることと同じくらい、自分がこれに乗っていることがわからないんだよ…なぜこんなことになったのかも…)
涙で視界が曇ったが、かろうじてキラは泣かずに済んだ。
泣くより早く、ストライクが真空の闇へと吸い込まれてしまったからだ。
アスランの乗った赤い機体…イージスもまた、虚空へと飲み込まれる。
 
ヘリオポリスは完全に崩壊し、瓦礫は膨大なデブリとなって宙域を汚す。
キラたちが今朝起きた時に足元にあった大地は跡形もなく消え去り、あとにはポッカリと黒い宇宙空間があった。不気味な墓穴のように。
 
戦争は全てを壊す。
世界も、人も、街も、心も、体も、思い出も、愛情も、友情も…
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secret
制作裏話--PHASE3
PHASE3はSEEDの中でもかなり面白い回に数えられると思いますが、私自身も筆が乗り、「よし、これなら書き続けられそうだ」と確信した回です。

逆転では「戦うしかないと追い詰められていくキラ・ヤマト」に焦点を当てたかったので、アスランやイザークたちの描写が一切ありません。ミゲルにも、申し訳ないんですがセリフすらなくアッサリ死んでいただきました。
本編ではもちろんイザークたち強襲部隊の活躍や、ぼけっとして整備兵のコンピューターに侵入してすまないと謝ったり、ミゲルに引っ付いて勝手に出撃するアスランや、優等生だった彼のそんな行動に驚くクルーゼたちの描写がありますが、一切排除しました。
主人公側が固まるまでは、「キラが見ていない・知らないものは、読者にも見せない・知らせない」つもりでした。

アスランの口調をどうするかについては、いくつかパターンを考えました(軍人口調とか、紋切り調とか)が、結果として「優しい」「品がいい」「知性を感じさせる」「女性らしい」「丁寧」の五拍子にしました。
SEEDにはトミノガンダムに多いアバズレ口調のビッチが1人もいないので、それだけは本当に気に入っています。

なお「これぞまさしく逆転SEEDの裏話」なのですが、実は最初、ナタル・バジルールは男性でした。
彼女を男にして「怜悧な軍人」として描こうと思ったのですが、PHASE5までいったところで思い直し、以降、不要な性別逆転は一切やめました。
これは正解だったと思います。
になにな(筆者) 2011/02/28(Mon)12:35:32 編集



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