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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「まだ犠牲が欲しいのですか?」
戦場に再び、ジェネシスを停止して欲しいと告げるラクスの声が響いた。

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「核を撃たれ、その痛みと悲しみを知る我らが、同じことをしようというのですか?討てば癒されるのですか?」
ラクスは人々に訴えかけるため、自らの心をもさらけ出した。
「そうすれば僕も…元の体を取り戻せるのでしょうか…?」
いつもなら、もうとっくに割り切ったと思う傷がズキリと痛む。
「哀しみに満ちた過去を否定はしません。それは悼むべきものです。けれど怒りのままに彼らを討っても、何も取り戻せはしないのです」
ラクスはきっぱりと否定する。
失われたコインをいくつ数えても、戻ってくる事はない。
「同じように罪無き人々や子供を討つ…これが正義と?」
ラクスの青く澄んだ瞳が、モニターの向こうにいる人間を真っ直ぐ見据えている。
「互いに放つ砲火は何を生んでいくのか、まだわからないのですか?」
激しい砲撃を避けながら、エターナルはジェネシスを目指していた。

残り少なくなってしまったM1が、ジンと刺し違えて同時に爆発した。
クサナギを攻撃していたゲイツがエターナルの集中砲火を浴び、逃げ遅れたダガーが数機のゲイツに追いまわされて屠られる。
そんな中、新型の中ではまだ唯一無事なレイダーが駆け抜けていく。
しかし彼が投薬を受けられる母艦ドミニオンは既に沈んだ。
禁断症状が始まったクロトの眼は落ちくぼみ、異常発汗が激しくなって荒い呼吸が苦しげだった。
ドミニオンの光が消えていく…ナタル・バジルールは、愚か者の魂を道連れに天に召されて行った。
けれど彼女は知らないままだ。
彼女がかつて密かに憧れを抱いた男も、女たちがしのぎを削ったこの哀しい宙域に消えていったことを…
「帰って…帰って来るって、言ったのに…」
マリューは両手で顔を覆い、恋人を想って泣きじゃくっている。
サイもミリアリアも慰めに行ってあげたいのはやまやまだったが、さらに激化する戦闘状況から眼が離せず、彼女を遠目に見ているだけだ。
ノイマンは後ろから聞こえる艦長の嗚咽に、唇を噛んだ。
戦いは決し、我々は皆、かけがえのないものを失ったのだ。
(バジルール中尉…)
自分にできることは他人にもできると思っていて、優秀で厳しく、お堅くて…けれど、不器用な優しさを持っている人だった。
彼女の印象とはおよそかけ離れたその不器用さは、長く一緒に仕事をした彼だけが知っていた。ノイマンは彼女が消えた宙域を最後に見つめて敬礼し、舵をきった。アークエンジェルは再びジェネシスへと向かった。

「え…?なに?」
ジェネシスに向かう先陣を切っていたキラが、ふと立ち止まった。
何か…何かが自分を呼んでいる気がする…ひどく禍々しく、おぞましい…
「キラ?」
すぐ後ろをついてきたストライクRが止まり、カガリがいぶかしんだ。
「カガリをお願い!何かが…」
キラはしんがりを務めるアスランにそう言うと突然方向転換し、答えを待つまでもなく、そのまま飛び去ってしまった。
アスランはフリーダムを見送るストライクRを見て、小さなため息をついた。
(乗らないと言っていたのに…)
なぜ乗ったのかと彼に問い質したいのはやまやまだったが、今は時間がない。
「行きましょう、カガリ」
「ああ」
アスランはストライクRの前に立つと加速した。

アークエンジェルのダメージは思った以上に大きかった。
「急げ!こっちが先だ、バカやろう!」
「125から144ブロックまで閉鎖!」
「酸素排出量イエロー。総員、退避!急げ!」
機関室もデッキもどこもかしこもボロボロで、隔壁が閉じられている。
パルだけでは追いつかず、チャンドラもコントロールをカバーしている。
メインエンジンの出力も低下しつつあった。
「推力50%に低下」
「センサーの33%にダメージ」
同じ頃、ドミニオンから出発したランチの中で、フレイは応急処置を受けていた。
鎮痛剤は効いたが、傷は深く、ずっと浅い息を繰り返している。
「近くに友軍艦は?」
「俺たちがヤキンに近過ぎて…」
行き先を探してどよめくクルーに、フレイが苦しい息の下で呟いた。
「アーク…エンジェル…」
懐かしいあの艦…サイ、キラ、ミリアリア、カズイ…トールはもういないけど、皆にはもうじき会える…「ごめん」って、言える…フレイは苦しい息の下で嬉しそうに微笑み、起き上がった。腹からじわりと出血する感覚がある。
「おい、ダメだ、動いちゃ!」
「アークエンジェルに…行きましょう…」
そして皆が止めるのも聞かず、震える手で通信オペレーションを始めた。
そんな彼らに、死神が近づきつつあった。
「アズラエルめ、案外と不甲斐ない」
ドミニオンのシグナルがロストしたと気づいたクルーゼは、つまらなそうに鼻で笑った。
「結局プラントも討てず、コーディネイターも滅ぼせず、か…」
だがヤツが残した遺恨は今、ついに地球を狙おうとしている。
(その働きに免じて、せめておまえの仇を取ってやろう)
クルーゼは因縁深き足つきに向かっていった。
「モビルスーツ接近!」
ミリアリアの声にマリューが顔を上げた。
航行がやっとの状態で、モビルスーツなどに狙われてはひとたまりもない。
「バスターを呼び戻して!」
涙交じりの声でマリューが告げ、ミリアリアは通信チャンネルを開いた。
サイとトノムラが慌ててCICに戻り、ノイマンはサブエンジンを起動して推力を保とうとした。フリーダムもジャスティスもジェネシスに向かい、ストライクはもはや失われている。

警戒態勢をとっていたディアッカは、レーダーに近づく機体を認めた。
イザークもまた、足つきに向かっていく機体に気づいていた。
「友軍機?あんな機体…」
機体そのものはライブラリにはないが、シグナルはザフトのそれだ。
しかしどうにも悪い予感がして、イザークは進路を変えた。
「くっそー、こんな時に!」
ディアッカは武装を繋げ、スナイパーライフルに変えた。
かなりのスピードで近づくのは見慣れない大きな機体で、背中には巨大なユニットをマウントしている。
「うっ…」
何を仕掛けてくるのか皆目見当がつかなかったせいもあるが、向かってくるのに敢えて武器を持たず、空手の機体を見て、ディアッカは不気味さを感じ、一瞬たじろいだ。
ちょうどその時、踵を返して戻ってきたキラも両者の姿を捉えた。
(あれは…!?)
その途端、プロヴィデンスがバスターに襲い掛かった。
プロヴィデンスのユニットからは11基のドラグーンが飛び出した。
ディアッカはゾクリと背筋が寒くなり、本能的に(ヤバい!)と思った途端、小さな砲門が開き、小動物のように素早く動きながらビームが発射された。
その動きと速さがバスターの身を削った。
「なにっ…うわぁ!!」
ストライク同様、ビームの包囲網に絡め取られたバスターはダメージを受け、機体のあちこちで小爆発を起こした。そして激しい爆煙が機体を包み込んだ。
「きゃ…ッ!!」
その様子をモニターで見ていたミリアリアは、悲鳴を上げそうになって慌てて両手で口を覆った。心臓が破れそうなほど激しく脈打っている。
(…嘘…あいつ…嘘っ!?)
メインカメラやミサイルポッドなど、外装のほとんどを吹っ飛ばされて半壊状態のバスターが、煙の向こうから姿を見せた。機体は内部でいやな音を立て、急激にパワーを失ったかと思うと見る見るPSダウンを起こす。
「ディアッカ!!」
真っ青になったイザークはさらにスピードを上げた。
「くっ!」
キラは攻撃をやめさせようとプロヴィデンスにビームを放ち、クルーゼはそれがキラ・ヤマトであると気づいて苦笑した。
「またきみか!厄介なヤツだよ、きみは!」
「あなたは!?」
キラもまたその声で相手がラウ・ル・クルーゼであることを知った。
クルーゼはフリーダムに対しても、ストライク、そして今、かつての部下に甚大なダメージを与えたドラグーンを放った。小さなビーム砲が巨大なミーティアに襲いかかり、その強固な装甲にダメージを与えていく。
それはさながら巨大な雄牛に群がる小蝿か蟻の群れのようだ。
(…これは!?)
キラはそのあまりにも素早い11基のビーム砲を視認だけで回避した。
コンピューターが感知するよりも早く、射線を正確に捉えている。
キラはクリアな視界と研ぎ澄まされた感覚で必死に回避を続けた。

「キラ!?」
サイは、ジャスティスと共にジェネシスに向かったはずのフリーダムが戻ったことに気づき、驚きの声を上げた。
「援護できる?」
「この状況では…」
ようやく指揮官の顔を取り戻したマリューが尋ねたが、サイは首を振った。
アークエンジェルのダメージは大きく、今、両者の動きを追うことはできない。
「データの追跡は続けます」
サイは新型との戦いに苦戦するフリーダムを見つめて言った。
(キラ…気をつけて)
初めこそドラグーンを避けていたキラだったが、フリーダム同様、尽きる事のない核エネルギー炉を持つプロヴィデンスの、無限にも思える攻撃で徐々にダメージを蓄積し始めた。ミーティアが破壊されたが、キラはその衝撃に耐えながらなお、ミサイルやソードで戦いを挑む。
「あってはならない存在だというのに!」
クルーゼは驚異的な空間認知能力でドラグーンを操りながら言った。
「なぜ足掻く?この戦いの根本に欲望があり、その欲望の果てがきみなのに!」
「なにを…!」
キラは右腕のソードで斬りかかったが、ドラグーンと同時にプロヴィデンスのサーベルを受け、ミーティアのライトアームを失った。

見る見る熱を帯びるコックピットで、回路がショートし、激しく火花が散る。
「ち…またか!頑張ってくれよ!」
頭部から血を流したディアッカは、必死にコントロールを取り戻そうとした。
バスターを視認できる距離に来たイザークは、バスターの思った以上のダメージに驚いた。
しかし事態はさらに悪化した。PS装甲を失ったバスターの上から、突然レイダーが現れたのだ。
「このっ…!」
イザークは動けないバスターの前に飛び出してライフルを構えたが、レイダーの方が一足早く、機関砲の直撃を受けたライフルは爆発した。
イザークはサーベルを抜いたが、レイダーを相手に接近しての防戦は不利だ。
「うーははははは!!」
「…くっ!」
禁断症状が激しくなり、笑い狂うクロトがめちゃくちゃな攻撃を仕掛けると、デュエルはバスターを庇ったまま、シールドを構え、頭部バルカンを撃つ。
「イザーク…」
片側の眼に血が入って開けられなくなったディアッカは、そんな頼りない防衛しかできないくせに、自分を見捨てようとしないデュエルを見つめた。

プロヴィデンスに削られたミーティアのダメージは大きかった。
「知れば誰もが望むだろう、きみのようになりたいと!」
キラは残ったミーティアのミサイルをプロヴィデンスにありったけぶちこむ。
それをやすやすと避けながら、クルーゼはなおも言う。
「きみのようでありたいと!」
「そんなこと!」
彼の言葉に苛立ち、キラは声を荒げた。
「ゆえに許されない。きみという存在も!」
「あなたなんかに…私の何がわかるっていうんです!」
キラは残った左腕のモジュールを突き出し、ビームソードを一閃した。
「苦しくて、怖くて、哀しくて!できるから、やれるからと言われて、やるしかなくて…だけどそこには、私の想いも意志も、何もなかった!」
(きみは、できるだけの力を持っている。なら、できることをやれよ)
(自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんだろうっ!)
(なら仕方がないわ…次に戦うときは…私があなたを討つ!)
(だがきみは、裏切り者のコーディネイターだ)
(きみが何故同胞と敵対する道を選んだかは知らんが…)
まるで自分が便利な道具のように思えた日々を思い出し、キラは唇を噛んだ。
(…そんな…人殺しの道具みたいに…)
じわりと滲みそうになる涙を振り払うように、キラは大きくかぶりを振った。
「あなたにもわかるでしょう!?いいえ、わかるはずです…あなたには!」
ソードがプロヴィデンスのシールドに押し返されたが、キラは叫んだ。

「こうしろと!こう生きろと!誰かに……運命なんかにすべてを決められる辛さが!」

小爆発と同時に、ミーティアの左腕のユニットが破壊された。

レイダーはMS形態のまま高速で近づくと、クローを展開した。
「ひゃはははは!」
けたたましく笑いながら、クロトはもてる限りの機銃と機関砲を放ち、アフラマズダを放った。そしてすれ違いざまにモビルスーツ形態になるとバスターを背にして思うように戦えないデュエルのサーベルを、ミョルニルで絡め取って彼方へふっ飛ばした。
「ぐ…!」
「うはは!僕は…僕はねぇ!」
禁断症状が進み、顔中から噴き出す汗が眼に入ったが、クロトにはもうそれが何なのかさえわからなかった。ダラダラととめどなく涎や鼻水を垂らし、血走った眼で彼は笑い続けていた。苦しみが彼の心を完全に破壊していた。
そのくせ戦いに関する感覚だけはまだ刈られていない。
崩壊しかけた精神の中、自分が近づくと向きを変えて何かを庇うデュエルを彼は冷静に観察していた。
「あいつ…あいつ…後ろに何を隠してる…?」
大事なものを奪ってやる…大事なものを奪われると人は泣く。
(それを目の前でぶち壊してやると、気違いみたいに泣き叫んで面白いんだぁ)
クロトは空しくバルカンを放つデュエルに高速で近づいた。
しかし本当の狙いは後ろで固まっているバスターだ。
(あれだ…捕まえて、爆発させてやる…あいつの目の前で!)
イザークは相手の意図を敏感に感じ取り、ギリッと唇を噛んだ。
(このままでは2人とも危ない…)
振り返りはしなかったが、背中に友の息遣いを感じる。
今自分が敗れれば、防衛すら出来ないディアッカも共に倒れるのだ。
(…こうなったら!)
「ええい、そいつをよこせっ!」
デュエルが突然、動けないバスターの手からインパルスを奪い取った。
「イザーク!?」
まさか武器をもぎ取られるとは思っていなかったディアッカは思わず叫んだ。
イザークは長い砲身を持つスナイパーライフルを構えた。
見よう見真似だが、バスターのスペックくらいは頭に叩き込まれている。
腰を落として待ち構えるデュエルを見て、クロトは有効な武器がないとタカをくくり、あまりにも無防備に飛び込みすぎたことに気づいた。
「ひ…うわぁ…!」
「こんな奴にぃ!!」
砲撃の衝撃に耐えるため、デュエルのスラスターが轟音を上げ始めた。
機動力重視のデュエルはバスターより20tは軽い。にわか仕込みの火線砲撃に果たして踏みとどまれるのかわからなかった。
(やるしかない!)
イザークは敵を睨みつけ、気迫で吼えた。
「やられて…たまるかぁ!!」
レイダーも苦し紛れにモビルスーツに変形し、ツォーンを発射しようとしている。
次の瞬間、両者の砲が同時に放たれた。
凄まじい爆発が起こり、あたりは爆煙に包まれた。
レイダーは跡形もなく、残ったのは半壊したバスターと、ツォーンの直撃をかわして肩にわずかなダメージを負ったデュエルだった。
やがてインパルスを構えたデュエルもPSダウンを起こし、沈黙した。
ただ1人残され、薬が切れてなお生きる事に執着していたクロトもまた、全てを浄化する光に包まれ、先に逝ったオルガとシャニの後を追ったのだった。

キラはもはや武装の役割を果たさなくなったミーティアを思い切って捨て、フリーダムで飛び出した。
「私は…それでも私は!力だけが私の全てじゃない!」
「それが誰にわかる?何がわかる?」
今もこうして戦い続ける姿は、力だけの存在でしかないというのに…クルーゼはせせら笑った。
「わからぬさ、誰にも!」
「…くっ!」
身軽になったキラはルプスを構え、ドラグーンとプロヴィデンスを狙った。

「きみに力以外の価値などないのだよ、キラ・ヤマト!」
クルーゼの非情な言葉に、力を利用された苦い日々が蘇る。
意志なき力では何も成し遂げられないと言われた。
フレイは、コーディネイターだから、どっちにもいい顔をするから、一人ぼっちなんだと言った。そんな自分と同じように、どっちにもいい顔をしたと非難されたオーブは、世界中から否定されてなくなってしまった。
(いつだって、私は否定されてきた…なのに、どうして…)

―― 想いだけでも、力だけでもだめなんだ

ラクスの穏やかな声が、沈みかけたキラの心を掬い上げた。
(想いだけでも…力だけでも…)
キラはきっと視線を上げた。紫の瞳には、強い光が宿っていた。

「力だけじゃない…いいえ!力だけじゃ、だめなんです!」

その時、キラの眼に戦場にそぐわないランチが映った。
それは月軌道での戦いを思い出させる、頼りない脱出艇だった。

クルーゼもまた、キラが何を見つけたのか気づいた。
「ふふ…」
プロヴィデンスがゆっくりとライフルを構え、ランチを狙う。
あれが何であるか、誰が乗っているかなど彼には関係なかった。
(力だけではだめだと?小娘が何を言う…力なき者は、死ぬだけだ)
「まさか…!」
キラの心に苦い想いが蘇った。
死んでしまった女の子が乗っていたランチが燃え落ちるさまが…キラは何も考えずに飛び出した。
あの時、間に合わなかった自分を責め続けた日々。
(もういやだ。殺させない…もう誰も殺させたりしない!)
フレイは座席に座り、国際救難信号を出し続けていた。
傷の出血は止まらず、貧血で眼の前がぼんやり薄らいでくる。
もはや寒さを感じる段階を越え、彼の体温は急激に低下していた。
(キラに会ったら…まず謝らなきゃ…)
戦争のことも、コーディネイターとナチュラルのことも、何も知らなかった自分が一人ぼっちの彼女をどれだけ傷つけたか。
色々な事を知った今なら思う。知らなかったことより、知ろうとしなかったことが罪だと。

キラ…俺、プラントでイザークっていうヤツに会ったんだ。すぐ怒鳴って、いつも怒ってて、イライラしてて…でも、あいつはきっといいヤツなんだと思う。
ナチュラルの俺のことを、ホントはいつも守ってくれてるって知ってたんだ…

フレイは取りとめもなく記憶の断片を思い返していった。
意識が混濁を始めて危険な状態だったが、彼はそれを自覚していない。

それから、俺を利用した、仮面をつけた男。この戦争を、こんなにもひどい状況に追い込んだ1人だ。
バジルール少佐とも話したし、アズラエルは…最悪だ…あいつ…フレイは息苦しさを感じて眼を閉じ、ふふっと笑った。
ミリアリアはあの捕虜を撃たなかったのに、俺は、俺と同じナチュラルに撃たれてしまった。
フレイの口の端から溢れ出た血が流れる。命の灯が、消えかけていた。

(キラ…ごめんな…ひどい事して、ごめん。もう一回、きみに会えないかな…会いたいよ…キラ…)

フレイが灰色の瞳を開いた時、ランチの窓からフリーダムが見えた。
フリーダムはシールドをかざし、自分たちを守ってくれているようだ。

「…キラ?」
「フレイ!?」

キラもまた、クルーゼのビームから守ったランチにフレイがいる事を知った。
(フレイ?なぜフレイがここに?)
けれど次の瞬間、キラは安堵の笑みを浮かべた。
「よかった、フレイ…無事だったんだね!」
ドーム型のウィンドウを見上げているフレイと眼が合った気がした。
綺麗な赤毛も、整った容姿も、キラがあこがれ続けた彼のものだった。
(もう大丈夫だよ、フレイ。一緒にアークエンジェルに帰ろう。サイも、ミリアリアも、マリューさんも、皆待ってるから…)
それからキラは嬉しそうに…本当に嬉しそうに呟いた。
「やっと 、あなたを守れた…」
「キラ」
フレイもまた、最期の息の下で優しく微笑んだ。
(ありがとう、キラ…守ってくれて、ありがとう…泣き虫で、優しくて、臆病で、引っ込み思案のキラ…)

その瞬間、キラの目の前でドラグーンのビームがランチを貫いた。

(もう、泣かなくていいよ…今度は、俺がきみを守るから…)

「……え?」

キラは、何が起きたのかわからずに眼を見開いた。

兵たちは爆発に巻き込まれ、ランチは何度も爆音を響かせた。
同じ名を持つ北欧神と同じく、この醜く悲愴なラグナロクにおいて自分の剣を持たなかったフレイは、燃え盛る焔の中に消えて行った。
 
クルーゼが笑いながら飛び去っていく。
「残念だったな!それだけの力があっても守りたいものを守れないとは」
(この皮肉な結末は悲劇ではない。まさに喜劇だ、キラ・ヤマト!)

「フレイ…?」
キラは助けたと思った大切な命が、再び掌からこぼれていった事を知った。
「フレ…イ?」
キラの紫の瞳が涙で一杯になる。

―― ウソだ、ウソだ、ウソだ…だって、今、フレイはそこにいたのに…

「フレーイッ!!」

アークエンジェルではサイが、視認でも捉えられた光についてマリューに報告していた。
「爆発したのは、ドミニオンからの脱出艇です」
無論、サイにはそこにフレイがいたなどと知る由もない。
バスターを連れてアークエンジェルに向かっていたイザークもその光を見た。
無数に光る戦場での光など、何なのかわかるはずなどない。
気にとめる必要などないと思うのに、イザーク、そしてサイも、なぜだかいつまでも、光が消えた場所から…フレイ・アルスターの命が消えた場所から眼が離せなかった。

キラの叫びは、誰にも聞こえない。
「そんな…フレイ…こんな…どうして…」
偽りでも、あの時フレイは一番欲しかったぬくもりをくれた…
「どうしてあなたが…フレイ!私は…あなたに何も…」
フレイがいたから、戦えた…それは嘘偽りのない、本当のことだった。
「フレイッ!!」
キラの涙はいつまでも止まらなかった。
けれど死者はもはや何も語らない。
だからこそ命はこんなにもはかなく、かくも尊いものなのだ。
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secret
制作裏話-PHASE50①-
いよいよ逆転SEEDもクライマックスです。
本編の最終回は流れそのものは面白かったのですが、イマイチだったのが何よりクルーゼVSキラです。モビルスーツ戦では無双のキラきゅん、口喧嘩弱すぎ…

それにこれは監督のコンテや演出にも問題があると思うんですが、とにかくブツ切り。セリフだけ読んでると「ゆえに!」とか「だから!」など、「前のセリフを受ける間接詞」が出てきますが、場面がブツ切り過ぎて「前に何と言っていたかわからない」んですね。だからますます彼らの会話が意味不明になり、不完全燃焼もいいところでした。

なので私は彼らの会話で一番面白いと思ったキラの「力が…力だけが僕の全てじゃない!」を膨らませ、キラの軌跡を集約させました。
さらにクルーゼの言葉に心が折れそうになるキラを、同志として固く結ばれたラクスの言葉が救います。

さらにこのテーマは実は逆デスにも繋げるつもりでした。
なぜならDESTINY本編では、「力」をテーマに打ち出しながら、結局何も描けなかったからです。
そこで逆デスではシンが望む力を描く時、「力しかない」と言われた事を否定し、それでもなお「最強の力」としてシンの前に立ちはだかるキラを描こうとイメージしていました。

けれどキラは、戦いの行き着く先を知っているので後追いのシンよりはアドバンテージがある。だから偽りを受け入れてでも力にだけ頼ったシンは最終的にキラたちに敗れてしまった…としたかったのです。

それが表れているのが「運命なんかに決められたくない!」という叫びです。
このセリフは当然、DESTNY本編でキラが言う「未来を決めるのは、運命じゃないよ」というセリフに対応させています。
さらにラクスには「過去は忘れるものではなく、悼むもの」と言わせています。もちろんこれはシンを意識しています。実際、シンはこのヤキン突撃時のラクスの言葉を聞いてミーアが贋者であると看破する、という展開にしてあります。
…ってか私、本当に逆デスばっかりですね、考えてるの。

困難が待っているとわかりきっている逆デスで頭が一杯だったとはいえ、逆種の手を抜くわけにはいきません。
でも今回読み返してみると「気もそぞろだったなぁ」と苦笑するような部分が結構ありましたね。なのでちょこちょこと加筆修正しました。
マリューが「バスターを呼び戻して!」と言ってディアッカを仲間として見てる事を示唆したり、爆煙に包まれたバスターを見てミリアリアが叫び声をあげかけたりね。

そのディアッカを庇って寡黙に戦う王子はアサルトシュラウドを失っているのでベースの武装のみです。それも次々失い、最後は丸腰になってしまいます(丸腰のデュエルには最後にこれまたちょっと嬉しいオマケが待っているわけですが)

本編で見ていた時はもう、「次は王子が死ぬのではないか」とそればかり気になってハラハラドキドキでしたが、バスターの砲を奪って放ち、見事レイダーを仕留めた時はぶはーっと息をつくほどでした。その後急激にPSダウンしますが、もうここのデュエルの格好良さは筆舌に尽くし難い。
種にはこうした劇的で記憶に残るバトルがありますが、DETINYはねぇ…「主人公の扱いがあまりにひどい」「キラが最強過ぎてつまらない」「アスランがダメダメ」としか印象がないという…

フレイとキラの別れは、本当に気に入っています。
キラやイザークと出会う事で変わったフレイに思いを吐露させる事ができたし、無情な死は彼らに会話などさせてはくれないという冷たさも描写できましたから。
私、死者との電波会話大ッ嫌いなんですよ。死んだ人とは話せるわけがないんです。(話せるよ!という人は話してらっしゃればよろしいでしょう)

だからこそ人間は後悔のないように一生懸命生きなきゃいけないのに、当たり前のように死んだ人と話して、贖罪したような事をほざいてるキャラを見るとハナクソつけたくなります。
なので、逆転ではキラもシンも死んだ人と話したりしません。そこには冷たい死が横たわるだけです。
いくら後悔しても、泣き叫んでも、懇願しても、死んだ人は戻りません。それを表現したかったのです。

とはいえ、フレイの死を知らないイザークとサイには不思議な感覚を感じてもらいました。やっぱりこういう演出もないと冷たすぎちゃうかなと思うので。
なおサブタイの「黄昏」はもちろん、剣を失った北欧神フレイにちなみ、ラグナロクを意識しています。

さて、次はいよいよ大詰めです。
実際本編もここまででAパートでしたが、果たして残り少ない時間の中でジェネシスを潰し、パトリック・ザラを何とかし、プロヴィデンスを倒し、戦争を終わらせられるのか…何よりアスランは、キラは果たして無事生還できるのか?とドキドキでしたね(キラは別に死んでもいいやと思ってたけど)
いやホント、ダラダラ見ていたDESTINY最終回とは全く違う意味で楽しんでしましたね。
になにな(筆者) 2011/05/10(Tue)22:14:04 編集



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