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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「キラ・ヤマト!ガンダム!行きます!!」
何も知らないまま平和を享受していた子供たちは、戦渦に巻かれていく。

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「X-105ストライク!X-105ストライク!キラ・ヤマト!聞こえていたら…無事なら応答しろ!」
ナタル・バジルールの冷静な声に呼ばれ、デブリの海を漂っていたキラは返事をした。
「無事か…」という思いがけない彼女の言葉に、思わずホッとする。
住んでいた家も、学んでいたカレッジも宇宙の藻屑と消え、父や母の安否も知れない。けれど、帰れる場所があった。

「認められない?認められないってどういうことです!?」
艦内各部への指示に追われていたマリュー・ラミアスは、冷静すぎてたまに鼻につくナタル・バジルールが不機嫌そうに通信していることに気づいた。相手はキラ・ヤマトらしい。
「推進部が壊れて漂流してたんですよ?それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか!?避難した人たちが乗ってるんですよ!?」
何を揉めているのかと尋ねると、ストライクでの帰投途中に漂流中の救命ポッドを拾ったのだという。
それを持ち帰ろうとする彼女と、規律と現在の戦闘配備情勢から許可できないと主張するナタルの押し問答が続いていたのだった。
マリューは人知れずため息をついた。
ナタル・バジルールが優秀な軍人であることは誰もが認める事実である。
軍人家系に育ち、いつも襟を正して規律と秩序を重んじる彼女は、明晰かつ冷血なコンピューターだ。同時に融通の利かない軍事バカ。
(フラガ大尉ほどくだけるのはどうかと思うけれど、彼女にも少しは「融通」とか「例外」というものを覚えてもらいたいわ…)
正直、こんなつまらぬことで時間を取りたくなかった。
その点、ヘラヘラしながらもフラガはさすが歴戦の猛者だった。
「さて、どうする?」
ボロボロの新造艦。圧倒的な戦力不足。人手は足りず、月も地球も遠い。 
「素直に投降するか?」
ありえない。
けれどそれを「ありえない」と一蹴することができない状況だ。
「それも一つの手ではあるぜ?」
本心の見えない微笑で軽く言うが、彼の青い瞳は決して笑っていない。
「エンデュミオンの鷹」と呼ばれるエースだからこそ、この状況がいかに厳しいものかはよくわかっているのだろう。自分は今戦えず、コーディネイターの女の子に全てを委ねなければ生き残れないのだ。
マリューにはなんとしてもGシリーズを地球に持ち帰る責務があった。
5機中4機が奪われてしまうという失態があったとしても、ストライクはこちらの手にある。それは必ず届けねば…あの人の信頼に応えねば…

「いいわ。許可して」
やがてマリューが命じると、ナタルからは怒りに満ちた眼が向けられた。
彼女は放っておけばいつまでもこの問答を続け、神経の張り詰めているキラ・ヤマトはじきにそれを無視して強引に着艦する。当然2人の間にはひと悶着あるだろう。
そうすれば「やっぱりコーディネイターは…」と艦内がざわめくのだ。
そんな事でわずらわされるのはまっぴらだった。
彼女はそんな面倒なことが起こるだろうなんて予想していない。
たとえ本当に起きたとしても、自分で事態を収拾するはずがない。
指揮官だの艦長だのと持ち上げられたって、ひとたび面倒ごとが起きれば責任はこっちがかぶることになるんだからたまらない。
(睨むなら睨めばいいわ。それで気が済むならいくらでも)
 
石頭のナタルが突然不機嫌そうに着艦許可をだしたので、キラは救命ポッドを持って慎重にアークエンジェルのハンガーへと戻った。
漂流するポッドを見てまず思ったのは、(彼が乗っているのではないか)ということだった。明るい金の髪をした、ぶっきらぼうな少年。ケガをしていた。
(もし乗っていたら、すぐに手当てをしてあげなくちゃ)
しかしそこには少年は少年でも、別の少年が乗っていたのだった。
憔悴しきった避難民が次々降りる光景を見ながら、キラはひどい疲労感を感じながら、無重力に身を任せていた。
トリィも無重力状態を気ままに飛び回っており、小さな子供がそれを見て歓声を上げている。
(あんな小さな子も避難してたんだ)
ふと戦闘時の記憶が蘇る。
 
―― 多分、人を殺した。この手で…初めて…
 
そしてアスランがいた。起こるはずのないことが同時に起きた。
ぼんやりしていたキラは、いつの間にかバラバラと散開した避難民の集団に近づき過ぎてしまい、人にぶつからないよう柵に掴まろうとして手を伸ばした。
ところが柵は思ったより遠く、キラは無様に空振りしてバランスを崩してしまった。
無重力での慣性の法則により、思いがけず体が回転する。
そんなキラの腕を誰かが引っ張って安定させてくれた。
礼を言おうとしたキラがその手の主を見て、驚いた声をあげた。
「フ、フレイっ!?」
「あれ?きみ…サイの友達の…」
それはキラが思いを寄せていたフレイ・アルスターだった。
赤い髪と印象的な灰色の髪を持つフレイはカレッジの人気者だ。
実家が金持ちで、父親も中立国の出身でありながら大西洋連邦の機関に属し、非常に高い地位の役職についていると聞いている。
ナチュラルである自分の容姿が、両親の夢としてデザインされる美貌のコーディネイターにも決して劣らないことをよく知っているフレイは、そんな彼らの「作られた才能や美しさ」をバカにしていた。
だからいつもナチュラルの中でも特に美しい女の子たちを引きつれていた。
それに加え、羽振りのいい彼の行く先は常に華やいで賑やかだった。
成績こそいまいち振るわないが、スポットライトを浴びて生きている少年だ。
反面、自己中心的で鼻持ちならないところも多いのだが…
「ほんとに、フレイ・アルスター?このポッドに乗ってたなんて!」
フレイに抱きとめられ、近い距離で彼に見つめられたキラは動転し、上ずった声を出してしまう。憧れのスターに会ったファンのように。
しかしフレイにとってキラは「見覚えはあるけど、印象がない」典型的な相手らしく、キラの様子などお構いなしで完全に崩壊したヘリオポリスを気にしている。
買い物をしていたら、急に警報が鳴り、友人たちとはぐれて近くのシェルターに入った。気づいたらいつの間にかパージされていたが、推進装置が故障したらしく、宇宙空間を行くあてもなく漂流していたところを誰かに助けてもらった…
「これはザフトの艦なのか?俺たちはどうなるんだ?そういえば…きみはなんでこんなところにいるの?」
いつも仲間を引き連れ、自信満々のフレイ・アルスターには怖いものなどないように思えた。しかし今は不安や恐怖心からか彼はいつになく饒舌で、キラが説明しようにも暇を与えなかった。
「こ、これは地球軍の艦だよ」
「えっ!?モビルスーツが乗ってるのに?なぜ?」
フレイはますます大きく印象的なグレーの眼を見開く。
事態を全てこの眼で見てきたキラにだって全ては信じがたいのだ。
ましてや救命ポッドにいたフレイにとっては全てが寝耳に水だろう。
「大丈夫」
キラはフレイの男としてのプライドを傷つけないように気を配りながら、まずは安心させるために言った。
「ここには、サイも…」
その名を耳にした途端彼の表情が明るくなったことに、キラは気づかないふりをした。
けれどサイと再会したフレイが彼女を抱き締める光景を目にすると、本当に胸が痛かった。キラの想いを知っているトールはキラを別の席に誘導し、一緒に座ったミリアリアはキラに微笑みかけた。
「…え!?じゃあなに?これに乗ってる方が危ないってことなのか?」
サイから事情を聞いたフレイは、開発中だったモビルスーツがザフトに奪われ、最後の完成品も狙われていると知るとあからさまに不快感を表した。
「なんだよ、それ…冗談じゃないよ!」
ここに至るまでの詳しい顛末を知らないのだから無理はないが、ミリアリアはフレイの傍若無人な物言いに呆れ、ナタル・バジルールを怒らせてまで彼の乗る救命ポッドを助けたキラなど、感じなくてもいい責任を感じてなんとなくしょんぼりしてしまった。

「キラ・ヤマトはいるか?」
急に人口の増えた居住区でそんな事を話していたゼミ生たちの会話は、キラを探しに来たフラガの言葉で遮られた。
「マードック軍曹が怒ってるぞ。人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分で整備しろって」
「…わ、私の機体…?そんなのって…」
「今はそういうことになってるってことだよ。実際、あれにはきみしか乗れないんだから、しょうがないだろ」
仰天するキラに、フラガはあっけらかんと言った。
「それは…しょうがないと思って2度目も乗りましたよ?でも、私は軍人でもなんでもないんですから」
なんだか知らない間に既成事実を作られているようでぞっとする。
このままこれが、人殺しが「自分の仕事」になってしまうのか…冗談じゃない。
キラは不満そうに抵抗した。
優しそうな雰囲気を持ちながらどこか抜け目なさを感じさせるフラガは特に表情を曇らせることもなかったが、「ふーん」と言った後で続けた。
「なら次の戦闘の時は乗るのをやめて、自分は軍人じゃない、仕方なく乗っただけで本当はやりたくないからと言って死んでいくか?」
「…っ!」
感情のこもっていない、ただ事実だけを淡々と告げるその言い方は、冷たくもなく、かといって優しくもなく、キラをゾッとさせた。黙りこくったキラに、フラガは再び言った。
「なぁ、今この艦を守れるのは、俺とおまえさんだけなんだぜ?」
今度は優しげだったが、決して媚びているわけではなく、それもまたまごうことなき事実だった。
「きみは、できるだけの力を持っている。なら、できることをやれよ」
 
―― できるから…できるんだから…?
 
再びキラは呪縛に囚われる。
できてしまうとか、だからやれとか…なぜそこに「やりたいか、やりたくないか」が入る余地がないのか。
戦闘が始まって以来、自分の意思を反映させることなんかできない。
それがこれほどまでにつらいとは…キラは眩暈を起こしそうだった。
「あのぉ…この艦って、これから…どうなるんですか…?」
キラが黙っていると、さっきから不安がっていたカズイが恐る恐る尋ねた。
フラガたちはユーラシアの要塞「アルテミス」に向かうと決めていた。ユーラシア連邦はアジア・ヨーロッパの連合体で、北米の大西洋連邦とは友軍関係にある。とはいえ、機密を載せ、敵に追われるボロボロの新造戦艦が果たして歓迎されるかどうかは神のみぞ知る、なのだが…とりあえず、今はそこを頼るしかなかった。
「ま、行くっきゃないでしょ。死ななければの話だけど、さ」

キラが協力しなければどうなるか、という含みを持たせたフラガの言葉にいたたまれなくなったキラが部屋を出て行くと、仲間たちの間には重苦しい雰囲気が流れた。
キラのことをよく知らないフレイだけが1人蚊帳の外にいる。
目の前で繰り広げられた不可解な会話…フレイはサイに、彼女は一体何者で、今の会話の意味は何なのかと尋ねた。
「あなたの乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたでしょう?あれを操縦してたの…キラなの」
「え!?あの子…?」
サイの言葉にフレイの表情は驚きで一杯になった。
鹵獲したザフト軍のモビルスーツをいくら綿密に解析しても、ナチュラルにはとても乗りこなせないことは周知の事実だった。
空間認識能力、情報処理能力、反射神経、動体視力…どれをとってもコーディネイターとナチュラルの差は歴然とし過ぎていたのだ。
「キラはコーディネイターだからね…」
「なんだって!?」
カズイのやや悪意のこもる言葉に、フレイは再び驚き、仲間たちはその不用意さにカズイをキッと睨んだ。
しかし彼らは優しい性格をしている反面、誰かと本気でケンカをしたり、意見をぶつけあったり、主張したりということをしないふんわりした友情関係を築いているから、たとえキラを庇おうと思ったとしても、その庇い方もまた、やんわりとした力なきものでしかなかった。
「うん。キラはコーディネイターよ。でもザフトじゃないわ」
優等生のサイはカズイを叱り飛ばすことも、自身の正義に基づいてキラを判官贔屓にすることもせず、思慮深そうにそう呟いた。
(事実は事実。自分たちがそれを認めて受け入れればいいんだ)
優等生らしいその考え方は、仲間たちに安堵感をもたらした。

―― 自分たちがキラを大切な仲間と思っていれば、キラだって苦しまない。

皆がそんなお互いの「崇高なる在り方」に子供たちは満足して酔いしれ、フレイの瞳に強い嫌悪感が宿っていたことなど、誰1人気づかなかった。
 
(…モビルスーツを動かせたって…戦争ができるわけじゃない…)
どこまでも暗い宇宙を見つめながら、キラは何度もフラガの言葉を反芻していた。
(動かせるから、できるからやらなきゃいけないなんて…)
でもこの艦には他に守ってくれる人がいなくて、今まさに、こんな頼りない姿で敵に追われているのだ。
キラの脳裡に、再びナイフを構えて走ってくるザフト兵の姿が蘇った。
(私たちを殺そうとする…アスランたちに…)

アークエンジェルより早く発進して先行するのは、ザフトのナスカ級戦艦ヴェサリウスだった。足の速いこの戦艦にはラウ・ル・クルーゼという怪しげな仮面をつけた男が乗っている。彼とムウの間には浅からぬ関係があるようで、2人は戦場で相まみえるたび、まるでそこに相手がいたとわかるかのように何度も激突していたのだった。
「アスラン・ザラ、出頭致しました!」
深紅の制服に身を包み、長い紫紺の髪をなびかせたアスランは敬礼し、隊長であるクルーゼの執務室に入室した。
ザフト・レッドの称号…それは抜きん出た能力を持つコーディネイターの「義勇軍」として発足したザフトの中でも、特に優秀な者にのみ許されるエリートの証だった。
クルーゼは今回の奪取作戦のおおよその成功、その後の部下たちの失態とヘリオポリスの崩壊について事実の整理と確認を望んでいた。
軍の中でも特に作戦成功率の高さを誇る「クルーゼ隊」としては、今回の戦死者の多さやコロニー破壊に至る経過は想定外だった。
「あまりにもきみらしからぬ行動だからな。アスラン」
クルーゼは目の前にいる彼女に語りかけた。
表情はうかがい知れないが、レッドの中でも能力の高いアスランには特に眼をかけている。その彼女が命令を無視して出撃し、目の前で仲間を撃破されて来たのだから事情を聞かないわけにはいかなかった。
「あの機体が起動した時もきみは傍にいたな?」
「申し訳ありません。思いもかけぬことに動揺し、報告ができませんでした」
優秀すぎるゆえに今回の自身の行動に責任を感じているらしく、用意してきた最も効果的な報告文言を滑らかで淀みなく告げる。
「あの最後の機体、あれに乗っているのは…キラ・ヤマト。月の幼年学校で友人だったコーディネイターです」
それを聞いているクルーゼの口元は、いかにも面白そうに歪んだ。
(美しき、麗しき友情か)
クルーゼはまだあどけなささえ残しながら、隊の中でも男顔負けの身体能力を持ち、抜きん出た撃墜率を誇る冷静で残酷な「殺人者」である彼女を見つめた。
そのアスランが多くの男たちを騒がせる、いかにも女性らしい美しい容貌をしていることは、もはや皮肉としか思えない。
「そうか。戦争とは皮肉なものだ。きみの動揺も仕方あるまい」
仲の良い友人だったのだろう?と、クルーゼは「思いやり深い上官」を演出した。
友情だの愛情だの、そんな甘ったるいものを持ったまま戦場に出ればどうなることか…しかし、クルーゼにとってそれは壮大なゲームに加わった「新要素」のようなものだった。
「そんな相手に銃は向けられまい。私もきみにそんなことはさせたくない」
クルーゼは次の作戦からアスランを外すことを提案した。
そしてアスランを心から思いやる言葉を投げかけ、彼女の反応を待つ。
「いえ、隊長」
思ったとおり、生真面目なアスランはすぐに反論してきた。
キラはナチュラルたちに利用されているだけだと主張する。
「優秀だけど、ボーっとして、お人好しだから、そのことにも気づいてなくて…だから私は、説得したいんです!あの娘だってコーディネイターなんです。私の言うことがわからないはずがありません。説得してみせます」
キラは友達なのだから、とアスランは自分に言い聞かせながら言った。

ニヤニヤしたい気持ちを抑えこみ、クルーゼは表情を崩さない。
「きみの気持ちはわかる。だが、聞き入れないときは?」
自分が仕掛けた罠に簡単に乗ってきた可愛い部下。
自分の信念と正義を貫くために、友だというそのパイロットと戦うことができるのかどうか…退屈で陳腐なこの戦争に、彼らの戦いはきっと花を添えてくれることだろう。
(私を厭きさせずにいてくれよ、アスラン)
「…その時は…私が討ちます…!」
獲物は餌に食いつき、そしてゲームは始まった。

「ほぉー」
フラガはキラの姿を見てなんともいえない歓声をもらした。
キラは青と白を基調とした連合のパイロットスーツを着ている。
ややピッタリとしたそのスーツにより、ほっそりした体はまだまだ発展途上だが、少女らしい柔らかな丸みが強調されて、やはり彼女が女であることを見せつける。
男の子のような格好しか見ていないから、余計にそのギャップが楽しい。
キラが少し照れたような、困ったような顔をするのを眺めるのもまた楽しい。
「やっとやる気になったってことか。その格好は」
俺もこんなことで浮かれるとは、おじさんになったって事かねぇ…と心の中で苦笑しながら、それでもキラが自主的にハンガーに来たことは評価してやりたかった。きつい言葉を投げかけてハッパをかけたものの、自分だってコーディネイターとはいえ、戦闘訓練も受けていない普通の女の子に戦えと言うのは酷だと思っている。
キラの繊細そうな紫の瞳が曇ると、女性に関しては百戦錬磨といえるフラガでさえ、つい挫けそうになった。
「大尉が言ったんでしょ?今この艦を守れるのは、私と大尉だけだって」
キラがやや口を尖らせて言う。
「なら仕方がないじゃないですか」
今は自分にできることをやるしかないのだとキラは諦めていた。
しかし本当はそれだけではなかった。
サイたちが、キラだけに戦わせないと見習いとしてアークエンジェルのブリッジに入ったからだった。彼らは地球軍の制服に身を包んで、敵の追撃を受けるという恐ろしい最前線に立つと決めたのだ。
それも全てはキラのため…仲間たちは、ただキラに守ってもらうだけではなく、友達としてキラと共に戦うと言ってくれたのだ。
「戦いたいわけじゃないけど、私はこの艦を守りたい。みんな乗っているんですから」
みんなが自分を信じてくれて、さらに自分たちに「できること」をやろうとしてくれている。
(私は1人じゃない…だから…)
噛み締めるように、言い聞かせるようにキラはサイたち一人ひとりの姿を思い浮かべた。友達なのだ…彼らは自分にとって、何よりも大切な。
「俺たちだってそうさ。意味もなく戦いたがる奴なんざそうはいない。戦わなきゃ守れねぇから戦うんだ」
フラガもまた、再びキラに「理由」をくれる。

―― 今、私が戦うのは大切なものを守るため。好きで戦うわけじゃないんだ。だから、それは、きっと正しい…

こうしてキラは完全に呪縛に囚われた。手に入れたのは浅はかな友情と、大義名分という殺人ライセンス。
同時にアスランもまた、姑息なゲームプレーヤーによって「愚かな持ち駒」として戦場に投入された。

整備の終わったメビウスゼロが先行し、先を行く高速艦ナスカ級に気づかれないよう潜み、奇襲攻撃を仕掛ける。司令艦が被弾すれば当然指揮系統が乱れ、攻撃の手が緩むというのがフラガの狙いだった。
キラが乗るストライクは後方のローラシア級を担当し、メビウスの動きを察知されないよう迎え撃たねばならない。メビウスが戻ったら両者着艦し、自慢の足を使ってアークエンジェルは宙域を急速離脱、アルテミスへ向かう。
(うまくいくのかな?)
フラガは軽い調子で明るく大丈夫大丈夫、成功するよと言っていたが、彼がどこまでこの絶望的な現状を把握しているのかいまいち不安だった。
しかし今は戦闘経験の多い熟練パイロットのフラガを信じるしかない。
彼らのモビルスーツとモビルアーマーの戦闘管制は、地球軍の制服に身を包んだミリアリアだった。
「よろしくね、キラ」
(本当に、ブリッジに入って戦うんだ)
キラはモニターの向こうのミリアリアを見てじわりと胸が熱くなるのを感じた。
(皆、私と一緒に戦ってくれるんだ…なら、私はもう1人じゃないよね)
 
「キラ・ヤマト!ストライク、発進だ!」

機械のように正確なナタルの声が響き、キラの緊張がピークに達する。

「先の言葉、信じるぞ…アスラン」

一方、何かを含んだようなクルーゼの声が、アスランの背を押した。

戦う。改めてそう決めた2人が、戦場へと飛び出していく。
自らの正義と、自らの信念と、そしてほんの少しだけ希望を抱えて。
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secret
制作裏話-PHASE4-
キラが今後パイロットスーツを着て戦う事になる、ある意味「決意」の回です。
ちなみに逆転の中では少年兵の制服も下士官や将校同様カーキ色という設定です。後のヤク中もファントム・ペインもカーキ色です。
絵的な色気はないですが、70年代ならともかく、時代を考えて色で男女別にはしません。

ザフト側の描写を減らした反面、増やしたのはヘリオポリス組です。
1990年代をすっ飛ばして久々にアニメに戻ってきた私にとって、本編での彼らの描写は「これがイマドキのゆとりっ子か」と驚く事ばかりでした。何しろぶつかって喧嘩するどころか、言い合いさえしないんですからね。向かい合いながら話すらせずに、誰かとメールしてる現代っ子よりはマシという程度です。

キラがそんな彼らを守るために、今はアスランと戦わざるを得ないという理由付けを強く出したかったのです。
彼らの中にあってキラはひどく孤独で、だからこそ後にキラを救うラクスとカガリの存在を強く浮き立たせたかったからです。

それに何より、このPHASEで登場したフレイの存在を印象づけねばなりませんから、キラをどんどん追い詰めていく必要がありました。
だからここで「自分は人を殺したのだ」と自覚させ、ショックを与えました。
本編のキラは、戦う事を嫌がってはいても、人殺しをしたという実感がなかったようなので(だからバルトフェルドやニコルの時のもやもやが唐突に思えてしまう)このあたりから与えておきたかった。
この後何回かキラは孤独に泣くことになりますが、女の子を泣かせるのはさすがに心苦しいですね。

逆に軍人であるアスランは戦闘や殺人を淡々とこなしているという描写で対比もしてあります。
ようやく明らかになってきたアスランのキャラクターについては、無口で言葉が足りないとか、自分自身に無頓着とか、物思いにふけりやすいとか、美しい容姿とは裏腹にやたら男みたいなところが多々ある子にして、本編のアスランらしさを残しました。

ラスボスとなるクルーゼについては、いい上官の仮面をかぶりつつも、戦争を操る傀儡師として描きたかったのですが、いかんせんそういう怪しいセリフが少なく、決定的なシーンも少ないので難しかったです。
この頃から既に、密かにアズラエルと通じていた、なんて設定だったら面白かったと思うんですけどね~。彼はナチュラルなんだから信用されるでしょうしね。

物語的にそういう仕掛けがあってもよかったと思うんですが、ラクスとアスランの「対の遺伝子設定」をなくしてしまったり、キラとカガリを双子にしてしまったり、フレイさんの使い方を間違ったり、結局キラとアスランを共闘させたり(それをやらせたいならオーブ戦だけにしておけばよかったのに)今思っても種は本当に惜しいですね。
になにな(筆者) 2011/02/28(Mon)13:33:03 編集



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