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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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「MIAと認定されますか?」
ナタルが尋ねる。

拍手


それを聞いて、サイは近くにいたトノムラに「何ですか?それ…」と尋ねた。
「ミッシング・イン・アクション。戦闘中行方不明…まぁ確認してないけど、戦死でしょ、ってことだな」
意外なほどドライな意味に、サイもミリアリアもえっ…と言葉に詰まる。
「それは早計ね、バジルール中尉」
そう言ってからマリューは日没までの時間をミリアリアに尋ねた。
およそ1時間…春まだ浅い北半球では、上空からの捜索は辛い。
ナタルの抗議を無視し、マリューは彼をひどく心配しているキラのたっての希望を聞いて、出撃させるつもりでいた。
ナタルは苛立ち、「艦長!」と声を荒げたが、反撃は迅速だった。
「報告にでも記録にでも、好きに書きなさい!」
睨みつけたマリューの瞳は、ナタルをひるませるに足る力があった。

―― 地球軍の兵士?まさか…さっきのパイロット…?

アスランは腕を抑えたまま、警戒しながら相手の様子を窺った。
大岩からは相手の様子が見えず、自身もまだヘルメットをしたままだったため、死角が多い。
肩の痛みはそれほどではない。アスランは仰ぎ見ると、自分が隠れている岩の高さを目測した。
カガリもまた銃を構えたままジリジリと相手の元へ近づいたが、落ちている銃に気づくと、それを相手がいる方向とは逆方向に蹴り飛ばした。
(…!)
その途端、チラリと影が見えたのでそちらに数発発砲する。
相手は再び岩の陰に隠れ、永遠のような時間が過ぎていく。
頭に血が上り、こめかみがドクドクと波打っている。
(これ以上進むとヤバい)
本能が警告している。
獣の領域に足を踏み入れたような、ゾッとするような緊張感。
じゃり…とデザートブーツが砂を噛み、カガリは大岩に近づいた。
その時、なぜか炎天下にいる自分の上に陰が落ちた。
はっとして振り仰ぎ、慌てて銃を構えなおして発砲したが、相手は素早く地に足をつくとカガリの足を蹴り払った。
「ぐっ!」
カガリは咄嗟に受身を取り、再び銃を構えた。
しかし今度はその銃を持つ右手を蹴られてバランスを崩してしまう。
銃は自分の後方に飛び、思わず膝をついたカガリに忍び寄った相手は、間髪いれずに彼の襟を掴んで両腕で振り回し、遠心力を利用して引き倒す。
カガリは肩から激しく地面に激突したが、痛みにひるむことなく「この野郎!」と、自分の襟を掴んだ腕を素早く掴み返した。
力まかせに引き寄せたら思ったよりあっけなくそれが倒れこんできたので、そのままキサカに習った投げ技をかけた。
とにかく必死なので型も何もないめちゃくちゃな投げだったが、思ったより体重が軽い相手が宙にふわりと浮いた。
(こんな事ならもっと真面目にやっときゃよかったぜ…!)
そして背中からもろに落下して痛みに呻いている相手の腕を足で押さえつけると、首を絞めにかかった。
しかし相手はパイロットスーツなので襟が掴みづらい。

―― 大体コイツの体、細いくせにやけにモコモコしてるし…

抑えた体に不思議な違和感を感じていると、相手が苦しそうにもがく。
(息ができないのか?)
手を緩めるのは危険なので、カガリは指でヘルメットのピンをパチンと外してやった。
その途端、ヘルメットからはサラリと長い藍色の髪がこぼれ落ち、それを見たカガリは目を見張った。
「お…女…!?」
同時に「やけにモコモコしている」ものの正体に気づいてしまう。
(…じゃ、これって…)
驚いて力を緩めてしまったカガリの足から腕が自由になったアスランは、起き上がりざまに拳を固め、思いっきり相手の顔をぶん殴ったのだった。

「本当に地球軍の兵士か?認識票もないようだし…」
アスランは手足を縛ったカガリを転がしたまま、すぐ目の前で彼の乏しい持ち物を点検していた。
カガリは鼻の下に鼻血の痕を残したままアスランを睨んでいる。
(くそ、油断した…)
アスランはカガリを殴り飛ばすと、素早く起き上がって押さえ込み、ブーツに仕込んだナイフを首にあてて降伏させた。
そしてカガリの両手両足をきつく縛ってからようやくヘルメットを外したのだが、その姿を見たカガリはポカンと口を開いてしまった。
それは長い髪をなびかせた、凛とした美少女だったからだ。 
「私たちの輸送機を落としたな。向こうの浜に機体があった」
アスランはふと、自分をパージしたパイロットたちを思い出した。
(無事に脱出して救助を待っているといいのだけど…)
「俺を落としたのはそっちだろ」
カガリはぶっきらぼうに答えると、アスランはきゅっと唇を引き締めた。
地球軍機に乗っていたのだから、この男は当然地球軍のはずだ。
(それにしても、妙な体術を使っていた)
先ほどのアスランの攻撃パターンは、カガリより体が大きく、力も強いイザークを何度か下したことのある「定石」だった。
アスランは質問を続けた。
「所属部隊は?なぜあんなところを単機で飛んでいた?」
「俺は軍人じゃない。所属部隊なんかないね」
カガリは乾いた鼻血でむずがゆい鼻を鳴らして答える。
アスランはわかりきった嘘をつくなと言うと、カガリの銃をあっという間にバラし、思いっきり遠くまで投げ飛ばした。銃はぽちゃんぽちゃんと海に沈んだ。
「俺の銃!何するんだよ!」
それを見たカガリが抗議の声をあげたが、アスランは肩をすくめた。
(緊張感があるんだかないんだか…)
相手は男だが、手足を縛ってあるし武器も取り上げた。
(ここに転がしておいて、うるさかったら口も塞いでしまえばいい)
それからアスランは、カガリに撃たれた肩の傷の治療をするため医療キットを取り出した。
そのまま上半身のパイロットスーツを脱ぎ出すと、カガリが突然「わーっ」と叫んだのでビクッとする。
「…な、何?」
驚いたアスランがそちらを見ると、真っ赤になったカガリが、「何やってんだ、おまえ!」と怒鳴っている。
「何って…傷の手当よ。撃ったでしょう、私を」
「だからって、こんなとこで…は、はしたないだろ!」
(…はしたない!?)
今度はその言葉にアスランがぽかんとする。
今時、そんな古典的な言葉を使う人間がいるなんて…ちらっと変わり者の婚約者を思い浮かべたが、それにしたって古臭いと思い、アスランはついついぷっと吹きだしてしまった。
「裸になるわけじゃないし、考えすぎよ」
アスランはまだごにょごにょと何か言っているカガリにはかまわず、袖をまくって傷に消毒用パッチを貼り付けた。
かすっただけなので既に血も止まり、傷もそれほど大きくはない。
(それにしてもどこの深窓の王子様なのかしら、この男は…)
カガリは心の中で自分の言動を散々バカにされたような気がして体を起こそうとしたのだが、すぐに倒れこんでしたたかに顎を打った。
(くそーっ、俺だってこんなところ、来たくて来たわけじゃ…)
アスランはきかん気の強い彼を少し面白そうに眺めていたが、やがて倒れこんだままのカガリが自分をじっと見つめている事に気づいた。
「おまえ、あの時ヘリオポリスを襲った奴らの一人か?」
アスランは突然投げかけられたカガリのその言葉にたじろいだ。
(なぜそんな事を知っている?地球軍じゃないと言いながら…)
カガリはまるでアスランの戸惑いがわかったように答えた。
「俺もあの時あそこにいた。おまえたちがぶっ壊した、あのヘリオポリスにな!」 
カガリの瞳が、強い怒りで輝き始める。
崩壊していくコロニー壁、へし折れるシャフト、吸いだされる空気、そして宇宙空間を埋め尽くした凄まじい量のデブリ…
「何人死んだと思う?何も知らない、中立コロニーの人々が!」
カガリの言葉に、アスランは何も答えなかった。
ただ、燃えるような琥珀色の瞳がとても綺麗だと思った。

相変わらずマリューの甘さに苛立ちながらも、ナタルは職務を忠実にこなす事に決めていた。
すぐにでもカガリ救出に出かけたいと逸るキラにわずかな休憩を取らせ、スカイグラスパーの予想航行ルートから割り出した捜索範囲のデータを送る。
電波状態が非常に悪いため、よしんば出ていたとしても救難信号を拾えるとは思えなかった。
「予測されているエリアには、小さな無人島も多い。案外そっちに落ちているかもしれない」
探すなら海からの方がいいかもしれん、とナタルはキラに申し送った。
「疲れているところを悪いけど、頼むわね」
マリューが割り込み、戦闘を終えて間もないキラをいたわる。
「いえ、私は大丈夫ですから」
マリューは手がかりがなくても2時間で一度帰投するよう命じた。
苦戦を強いられるアークエンジェルにとって、やはりストライクは虎の子だ。
それに乗るキラの身も案じなければならないマリューは、2時間経ったら必ず戻るのよと念を押したが、それを横目で見ながら、ならば捜索などに行かせなければいいものを…とナタルは思う。
キラはわかりましたと答え、日が暮れかけた海に入っていく。
(一体どこにいるの、カガリ…)

アークエンジェルからストライクが発進した頃、カーペンタリアではニコルがそわそわしながら、情報を仕入れに行ったイザークの戻りを待っていた。
やがてドアを開けてすました顔でイザークが戻ってくる。
ニコルはすぐに駆け寄ると、「イザーク!アスランの消息…」と言いかけたのだが、それはイザークの朗々とした声に遮られた。
「ザラ隊の諸君!」
イザークは敢えてニコルを見ずに、わざとらしく声を張り上げる。
「さて、栄えある我が隊の、初任務の内容を伝える」
ニコルはその言葉にきょとんとし、ディアッカはイザークのヤツ、また面白そうな事を始めたなと言わんばかりににやにやしている。
「それは…これ以上ないと言うほど!重大な!隊長の捜索である!」
それを聞いてディアッカが手を叩いて爆笑した。
イザークもふんぞりかえってそれはそれは楽しそうだ。
ニコルは(こいつら…)と思いながら唇を噛んだ。
「ま、輸送機が落っこちまったんじゃしょうがないが、本部もいろいろと忙しいってことでね」
自分たちの隊長は自分たちで探せとさ、とイザークは両手を広げる。
「やれやれ、なかなか幸先のいいスタートだねぇ」
ディアッカがくっくっくと笑いながら言う。
「ヤバいよねぇ、あんなきれーなおねーさんが変なトコに落ちてたら…」
そう言って、心配するニコルの心をわざと逆撫でするようにぎゃははと笑う。
「俺がナチュラルなら、絶対ガマンできないね」
ニコルはその言葉にひゅっと息を呑んで睨みつけたが、ディアッカは意地悪そうにニヤニヤするばかりだ。
「とは言っても、もう日が落ちる。捜索は明日かな?」
さらにイザークは楽しそうに、捜索開始前に捜索打ち切りを宣告した。
「そんな!」
ニコルは先ほどのディアッカの言葉に心を乱され、2人のあまりの冷たさに抗議した。
「心配じゃないんですか?!」
「イージスに乗ってるんだ。落ちたって言ったって、そう心配することはないさ。大気圏に落ちたってわけでもないし」
大気圏に落ちたことがよほど堪えたらしいディアッカはそう言うが、そもそもニコルの心配を増幅させる余計な事を言ったのもディアッカなのだ。
「ま、そう言うことだ。今日は宿舎でお休み。明日になれば母艦の準備も終わるってことだから、それからだな」
ニコルは勝手に結論づけたイザークに言い返すこともできず、ただ2人を睨みつけた。

「どのチャンネルも拾わない…か」
アスランは先ほどからイージスのコックピットで通信を試みていたが、雑音か無音ばかりだ。
ポータブルの通信機も電波状態がよさそうなところにいくつか仕掛けたが、うんともすんともいわないままだ。
アスランはため息をつき、沖合いに数個の救難ブイを射出した。
(このまま救助を待つにしても…どうしよう)
自分ひとりならイージスで夜を明かすのが一番安全なのだが、問題はあの男だ。
浜辺でさっきからイモムシのように必死に這いまわっているあいつをどうしようかということだった。
(あ…随分頑張って移動してる)
アスランは、うんうん言いながら海岸線を移動して、やっと自分とイージスのいる磯のあたりまでやってきたカガリを眺めて感心した。
その時パネルの点滅とアラームが鳴り、天候ナビがスコールの到来を告げた。
時間通りになど降らない雨、意外と潮の流れが激しい荒い海。
それに、何よりもじっとりとまとわりつくようなこの暑さと湿気!
(地球は、まるで手に負えない子供みたい)
かつてキラが砂漠で思ったことと似たような事をアスランも考えていた。
「…あれ?」
そしてもう一度浜辺に目をやると、イモムシ…カガリの姿がなかった。
 
カガリは傷の手当を終えると、自分を置き去りにしてさっさと姿を消した女兵士に悪態をつき、もぞもぞ這いだした。
「砂漠の次は砂浜かよ!」
カガリは相変わらず砂まみれになりながら、女兵士が消えた磯のあたりまで何度も転びながらやってきた。
だか、そこにあったのがGシリーズのGAT-X303イージスだったので「あっ」と声を上げてしまった。
ストライクの兄弟機…これは確か可変タイプの司令機だ。
(あいつ…もしかしてキラと…?)
カガリはもう少しイージスをよく見ようと膝をついた。
ところが、膝をついたそこにちょうど埋まった岩があったため、ぐらりとバランスを崩して倒れこんでしまった。しかも悪い事に倒れこんだ先は緩やかな斜面になっていて、カガリはゴロゴロと転がった挙句、そのままどぼんと海に落ちた。
そこは小さな潮溜まりで、カガリの体はまるで冗談みたいに間にすっぽりはまってしまったのだった。
「おいおい…」
カガリは急激に曇って青空が消えた空を見上げながら、後ろ手に縛られた腕や肩を動かしたが、全く動かない。
そうこうするうちにスコールが降り始め、波が急激に荒くなって、カガリは顔まで水につかってしまう。波の上に顔を出そうとすると、口の中に流れ込んでくる水を飲んでしまい、盛大にむせてしまった。
(ヤバくないか?これ)
縛られた手は全く動かず、足も狭い岩にぴったり挟まって動かない。
カガリは波をかぶりながら、必死にガボガボと暴れまくっていた。
「何してるの?」
上から声がしたので見ると、イージスがカガリを覗き込んでいた。
遥か上空のコックピットからは、アスランが不思議そうな顔をして見ている。
姿が見えなくなったから探してみれば、こんなところで海にはまっていた。
(全く、世話の焼ける…)
アスランは、先にイージスの盾を彼の上にかざして雨避けにしてやると、ラダーで地面に降りてきた。
「見てわかんないかよ…ぶっ!」
カガリは怒鳴ったが、その途端また水を飲んで呻いた。
「動けないんだよ!ぼけっと突っ立てないで助けろ!」
「威張って言える立場?」
アスランはその乱暴な言葉に呆れ、面白そうに眺めている。
「いいから早くしろってば!」
溺れて死んじゃうだろ!化けて出るぞ!と、あまりにもぎゃーぎゃー叫ぶので、アスランは仕方なく磯に下りると、カガリの肩を持ってザバッと水から引き上げた。
「大丈夫?」
カガリはぷはーっと息をつき、「死ぬかと思った」と呟いた。
スコールは激しさを増し、水滴が海面にボコボコと穴をあけている。
アスランはふと、カガリの濡れた金色の髪がモゾモゾと動く事に気づいた。
(なんだろう…?)
いぶかしんで見ると、そこには赤いカニがいて、思わず息を呑んだ。
カニはそのままカサカサとアスランの腕を伝わってくる。
「~~~~~っ!!!!!」
その見慣れぬ姿に驚いたアスランは、思わず腕を力いっぱい振り払った。
「いてぇっ!」
振りまわしたその腕に殴られ、カガリはまた、無様に海に落ちた。

「…悪かったわ…」
アスランは再びカガリを助け出すと、しゅんとして謝った。
「おまえ、カニなんか怖いのかよ」
殴られるわ転ぶわ何度も海に落ちるわ…カガリはぶすっとしたままアスランを睨みつけている。
「別に、怖くなんか…あんまり経験がないから…こういうことは」
「プラントにはカニはいないのか?」
仏頂面のままそう言い捨て、カガリは立ち上がった。
そして、そのままぴょんぴょんと跳ねてイージスの盾を出ていく。
「どこへ…」
「ちょうどいいから洗うんだよ。砂だらけなんだから」
激しいスコールがカガリの全身を打つ。
「うひゃーっ、気持ちいい!!」
天然のシャワーに喜び、嬉しそうに飛び跳ねるカガリを見て、(子供みたい)と呆れながら、アスランはふと、自分が笑っている事に気づいた。
(私…)
地球軍かもしれない、「敵」かもしれない相手を前にして、自分が笑っているという事実に、内心軽いショックがあった。
(…ま、いいか)
アスランは珍しく考え込む事はやめ、そのまま彼に近づくと腕と足を縛るロープを切った。
「え?」
カガリが驚いてアスランを見る。
「おまえ…いいのかよ?」
カガリが言うと、アスランはナイフを手に少し首を傾けて言った。
「別に、武器も持ってないあなたなんかどうってことないもの」
「なんだと!?」
男のプライドをいたく傷つけるその言葉に、カガリは憤慨した。
「後悔するなよ!」
アスランは何言ってるんだかというように肩をすくめて後ろを向いた。
「絶対後悔するなよ!絶対だぞ!」
「しないわよ」
そう言って振り返った途端、鼻先に大きなカニを突き出された。
「~~~~~っ!!!!!」
驚いた拍子に足を滑らせて海に落ち、気づくとカガリが大笑いしていた。
「おまえ、やっぱり怖いんだろ!」
高笑いするカガリを見て、アスランは珍しく悔しさで赤くなった。

カガリとアスランがそんなおかしな出会いをしているとも知らず、キラはストライクに乗って海中を移動し、島から島を探索していた。
海はあまりにも広すぎて、機体の破片もボートすらも見つからない。
「カガリ…どこへ墜ちたの…?」
キラは、約束の時間を過ぎても艦に戻らず、大切な友を探し続けた。
そして遥か遠いカーペンタリアでも、ニコルが一睡もできないまま、アスランの身を案じていた。

「はい」
アスランはカガリに携帯食とスープを差し出した。
「ザフトの物でも食料は食料よ。自分の分はパックごと流されたんでしょ?」
すぐやむかと思われたスコールは思ったより長く降り続き、すっかり体の冷えた2人は浜を離れ、乾いた洞窟を見つけて火を焚くことにした。
カガリはぐっしょりと濡れて重くなったサバイバルジャケットとシャツを脱いで上半身裸になり、泥まみれのブーツを乾かしている。
アスランが毛布を渡すと、「ありがとう」と礼を言ってそれを身にまとった。
「電波状態が酷いから、今夜はここで夜明かしになる可能性が高いわ」
「電波状態が悪いのは、ザフトのせいだけどな」
わざと同じ言葉を繰り返してみせたカガリの言葉がアスランを刺す。
確かにこれはNジャマーのせいだ。けれど、コーディネイターにNジャマーを撃たせたのは誰なのだ?
「…先に核攻撃を仕掛けたのは、地球軍よ」
アスランは小さな声で呟いた。
あの日、あの時のことは忘れない。忘れられない。忘れる事ができない。
カガリは責めるでもなく、頷くでもない、不思議な表情でアスランを見た。
その表情は、宇宙空間から救い出されて治療を受けていたラクスが、面会を断られながらも何度も足を運んだアスランと初めて再会した時の表情を思い出させた。
何もかも包み込むように優しい、けれどどこかひどく哀しそうな彼の顔を。
(こんなヤツに、ムキになる事はないわ)
アスランは自分にそう言い聞かせて息をついた。

「うまかった、ザフトの飯もまぁまぁだな」
もらった食料で腹がくちくなると、カガリはそう言って笑った。
アスランはその緊張感のなさにまた少し呆れた。
「おまえ、俺を縛っておかなくていいのか?」
さらにカガリは真顔になって聞く。
「は?」
アスランは唐突なその質問にきょとんとして思わず聞き返した。
「俺が隙をみておまえの銃を奪えば、形勢は逆転するだろ?そうなったらおまえ、バカみたいだからな」
アスランはとうとう我慢できなくなって笑い出した。
「何で笑うんだよ?」
「全然懲りてないのね」
ひとしきり笑い終わると、アスランは真面目な顔つきで言った。
「もしあなたが私の銃を奪おうとするなら、殺すしかなくなる。だからやめた方がいいわ、そんなことは」
アスランはホルダーの銃に触れて言った。
「私はもう、この手でたくさんの人の命を奪ってきた。直接的にも、間接的にも…軍人として、敵を殺す事にためらいはない」
アスランはちらりとキラのことを思い浮かべながら言った。
「ヘリオポリスでもここでも、せっかく助かった命でしょう?」
カガリは黙って聞いていたが、ヘリオポリスの名を聞くと表情が硬くなった。
「ザフトに命の心配をしてもらうとは思わなかったな」
「ヘリオポリスは…」
それを聞いたアスランの表情が曇る。 
「私たちだって、あんなことになるとは思ってなかった…」
崩壊していく大地…吹き飛ぶ建物、真空で凍りついた大量の水…言わずもがな、ユニウスセブンを思い出させるような破壊の痕跡。
「モルゲンレーテが開発した地球軍のモビルスーツ。それだけ奪えればよかったはずだった」
(けれどコロニーは壊れ、キラに会い、戦う事になってしまった)
「何を今さら」
カガリは頬杖をついて吐き捨てるように言った。
「どう言おうが、コロニーを攻撃して壊したのは事実だろ」
その言葉に、今度はアスランがカガリに向き直った。
「中立だと言っておきながら、オーブがヘリオポリスであんなものを造っていたのも事実でしょう!?」
「それは…!」
「コーディネイターを受け入れると言っておきながら、陰では地球軍に軍事協力をしていたなんて…だまし討ちみたいで、卑怯だわ!」
アスランの厳しい言葉に、カガリはぐっと言葉に詰まった。
「私たちはプラントを守るために戦ってるのよ。あんなものを見逃すわけにはいかない」
「それは…地球だって同じだ!」
怒りを露にしたアスランに、カガリもすぐさま応戦した。
「俺たちだって、おまえたちが攻めてきて、地球を滅茶苦茶にするから!」
カガリはニュートロンジャマーが地球に打ち込まれて以降起きた、悪夢のようなエネルギー危機…「エイプリルフール・クライシス」を思い出した。
何百万もの人が、エネルギー不足の影響で死んだのだ。
互いの憎しみと怒りは、戦争を泥沼化させ、さらに激化させていった。
カーペンタリア、スエズ、カサブランカ、ビクトリア、カオシュン…
「抗う事も戦う事もできない人たちが、巻き込まれて大勢死んだんだ!」
カガリの言葉を聞きながら、アスランはギリッと唇を噛んだ。
(何も知らないくせに…私たちが何を失ったか、何も知らないくせに!)

「私の母は、ユニウスセブンにいたわ」
やがてアスランが苦しそうに言った。
それを聞いてカガリが眼を見張る。
「ただの農業プラントだった。何の罪もない人たちが、一瞬のうちに死んだのよ。子供まで…それで黙っていられる?」
カガリは自分でも気づかないうちに止めていた息をぷはっと吐いた。
(親を…大切な人を失った…)
カガリの心に、サイーブが率いる明けの砂漠の仲間たちが浮かんだ。
「俺の友達も、たくさん死んだよ」
そうつぶやきながら、カガリは元気な頃のアフメドを思い出す。
こいつは母親を、俺は友達を…そうやって、殺されたからと怒りにまかせて、殺したやつらを憎んで、また殺しあう…
(…一体いつ終わるんだ、そんなことが)
砂漠の露と消えたバルトフェルドが、にやにやと笑っている。
(戦争には制限時間も得点もない)
(ならどうやって勝ち負けを決める?)
(どこで終わりにすればいい?)
「敵である者を、全て滅ぼして…かね?」
最後にカガリの心に浮かんだのは、煙ったような紫の瞳を濡らし、憎むべくもない同胞と命懸けで戦っている、一人ぼっちのキラだった。
それから眼の前の彼女を見た。赤いパイロットスーツ…ザフトのエリートの証。整った優しげな容姿は、およそ人殺しなどをするようなタイプには見えない。
この兵士にも戦う理由があり、割り切るべき事情があるのだろう。
(生命は、秤にかけるもんじゃない)
カガリは眼を逸らし、固めた拳を手で包み込んだ。
カガリの感情が収まったように、アスランも静かに鎮火した。
「よしましょう…ここであなたとそんな話をしても仕方がないわ」

2人は黙り込み、少し離れたところでそれぞれの考えをめぐらせた。
やがてカガリは乾いたシャツを着ると、立ち上がって洞窟から外を眺めた。
そこにあるのはディアクティブモードのイージス…それをじっと見上げながら、カガリは眉をひそめた。
オーブは確かに地球軍に軍事協力をしてしまった。
戦争の早期解決を図るため…そんな事を言い訳にしながら、地球軍もザフトも技術開発に躍起になっている。
そして戦争は泥沼化するばかりだ。
(誰もが戦争なんていやだ、やめたいと言うくせに、俺たちはなぜ戦う事をやめられないんだろうな…) 
しばらく雨の音を聞きながら考えていたカガリは、ほっと息をつくと、温かい火が焚かれている洞窟の中に踵を返した。
そして信じがたい光景に唖然とした。
「お、おい!おまえ、寝ちゃう気か!?」
アスランは火の横で壁にもたれ、うつらうつらと眠りかけていた。
「え?あ…まさか…けど、降下して…すぐ…移動で…」
やがて碧の瞳は完全に閉じられ、すぅ…と寝息まで聞こえてくる。
(こいつ…マジかよ…)
あまりにも無防備なその姿に、カガリは呆れて頭を振った。

「だから私は大丈夫ですってば!言われた通り、ちゃんと休んだし…」
フラガが腕を掴んで止めるのをキラは振り払おうともがいた。
「何が大丈夫だ!休んだって言ったって、アラートで1時間転がっていただけじゃないか!帰投時間は守らない、きちんと休まない。そんなおまえを出せるか!」
「でも…でも!」
キラは疲れきった顔で、大きな眼を見開いてフラガにすがる。
「カガリが…カガリがどこかで苦しんでたら…助けに行かなきゃ!」 
「あと5時間もすれば、日も昇る。そうすりゃ俺も出るから」
フラガは泣き出しそうなキラの頭をぽんぽんと叩いて慰めた。
「俺も大概、情けねぇよ」
フラガもまた、被弾した彼を1人で帰すんじゃなかったと後悔し続けていた。
「やらせておいて言うのもなんだが、あまり一人で背負い込むなよ?あいつも強いヤツだ。日が昇ればきっと見つかる。大丈夫だから」
フラガはぽんとキラの肩を叩いて、無理に笑顔を作って見せた。
「とにかく、朝まで待とう」
フラガの言葉に、キラもようやく頷いた。

カガリは焚き火に小枝をくべながらまんじりともせずに過ごしていた。
「敵放っといて寝るなよなぁ…」
思い切って小さな声でつぶやいてみたが、アスランは目覚めなかった。
(…っていうか…これは…いくらなんでも無防備過ぎる…)
眼の前でこんなにすやすやと気持ちよさそうに眠られてしまうのは、男としてはどうなんだろうと思いながらも、アスランの寝顔をチラチラと横目で見ては、(しかし綺麗な女だな…)と思う。だがそれがまたなんだかひどく情けなくて頭を抱える。
(何考えてんだ、俺は!)
カガリはそんな思いを吹き飛ばすように、これまでの事を思い出してみた。
ヘリオポリス、砂漠での戦い、キラとの再会、砂漠の虎との邂逅…脳裏をよぎるのは、いつの間にか戦いの記憶ばかりだ。
いっそ、Gシリーズを全て破壊してしまえば…このままストライクがアラスカに着かなければ、データは地球軍に渡らずに済むんだろうか…
(あのイージスがなければ、こいつも…)
カガリは眠るアスランの腰の銃に眼を走らせた。
浅はかな考えだということはわかっていた。
だがあれは、オーブが残した恥ずべき遺恨だ。
(それなら…いっそ…)
カガリはゴクリと唾を飲むと、そろそろと立ち上がった。

「あっ!」
人の気配に眼を覚ましたアスランがガバッと起き上がるのとカガリが飛び退ったのは同時だった。
アスランはかぶせられた毛布を取り払い、ブーツに隠したナイフを取り出して構えていた。
(しまった…いくら疲れていても、敵の前で眠り込むなんて…!)
「よせ!おまえを撃つ気はないんだ」
カガリは慣れた手つきで銃を構えながら言った。
「造ったオーブが悪いってことはわかってる。でもあれは、あのモビルスーツは、地球の人たちをたくさん殺すんだろ?」
アスランはカガリを睨みつけたまま何も答えない。
「オーブは、絶対にそんな片棒を担いではいけないんだ。だから、俺は…」
「なら撃ちなさい。その引き金を引いているのは私よ!」
アスランは冷静に言った。
やはり自分たちは敵同士なのだ。道は決して交わらない。 
「私はザフトのパイロットよ。機体に手を掛けさせるわけにはいかない」
ナイフには絶対の自信がある。相手は不思議な体術の使い手なので簡単にはいかないかもしれないが、射撃の腕次第では勝機があると思えた。
「どうしてもやるというのなら、私は…おまえを殺す!」
アスランの美しい碧眼が真っ直ぐにカガリを見つめた。
カガリはそれを見て、彼女が本気だと気づいた。
(違う…こんなの違うんだ…)
カガリは歯を食いしばり、搾り出すように言った。
「おまえと争いたいわけじゃない。俺は…俺はただ…」

―― ただ、あの機体を…オーブが造った、あれを…

「くっそーっ!!」
「…っ!!」
次の瞬間、カガリが奪った銃を地面に投げつけようとしたので、アスランは驚くと同時に、咄嗟に彼に飛びかかった。 
小さな洞窟に、銃声がこだまして返った。
(…え?)
しばらくして、カガリは自分が天井を見上げていることに気づいた。
やがて少し重みを感じる事に気づいて見れば、自分の胸の上に長い髪を乱したアスランが覆い被さっているのだとわかった。
(何が…あったんだろう…)
ぼんやりと考えていると、胸の上の彼女が「う…」と呻いて顔を上げた。
さっきまで遠かった綺麗な顔がすぐ目の前にあり、少しドキリとする。
しかしアスランは怒りに燃えた眼でカガリを睨みつけると、そのまま両手で彼の襟を乱暴につかみ、激しく揺さぶった。
「オープンボルトの銃を投げるなんてっ!」
カガリは首を絞められ、揺さぶられて苦しそうに謝った。
「ご…ごめ…」
「なんてムチャなヤツなの、あんたはっ!!まったく!!信じられない!!」
アスランは柄にもなく喚き散らし、襟から手を離すとぺたんと座り込んだ。
カガリは上半身を起こしてバツが悪そうに首の後ろを掻いていたが、アスランの脇腹から血が出ていることに気づいてぎょっとした。
「おまえ、それ…今ので!?」
「ああ…大したことないわ」
アスランはそう言われて初めて気づき、傷をチラリと見た。
「手当しなきゃ!」
「気にしなくていい」
まだ怒りを収め切れないアスランは素っ気無く言って立ち上がると、緊急用パックを手に取った。
カガリも慌てて立ち上がろうとする。
「でも…!」
「いいってば!自分でできるから」

―― 全く、今日はなんて日なの…2箇所も銃創を作ってしまうなんて…

そう思った瞬間、アスランは後ろから力づくで引っ張られ、仰向けに押し倒された。
「ちょっ、何す…きゃーっ!!!!!」
そしてカガリは、驚いて抵抗する彼女のパイロットスーツを手早く脱がせてしまった。
「いいからやらせろよ!」
「…っ!?」
カガリはさらに、彼女のアンダーシャツを乱暴にめくりながら言った。
「このまんまじゃ俺、借りの作りっぱなしじゃないか!少しは返させろ!」
その剣幕と真剣な眼を見てアスランは黙り込み、赤くなった顔を逸らした。
傷はさほど深くはないが、何より場所が場所だ。感染症の心配もある。
カガリはアスランが手に持ったままだった緊急用パックを奪うと、中から医療キットを取り出し、消毒から止血、滅菌パッチを貼るまで、実に見事な手際で処置を行った。
「ぅ…」
ひやりとした薬剤が傷に触れると、アスランは鈍い痛みに悲鳴を上げそうになったが、必死に耐えた。
「よし、あとはドクターに…」
カガリは最後に彼女の細い腰にバンデージを巻きながらはたと気づいた。
(あれ…俺……もしかして…)
恐る恐る様子を窺うと、はからずも組み敷いているアスランが、真っ赤になって自分を睨んでいる。
胸まではだけさせ、今にも下着が見えそうなあられもない姿で…それからカガリは、今喰らった3発目が一番容赦ないと思った。

「ア…ラン…アスラン…こえますか…応答…がいます…」
夜が明けてすぐにイージスのアラームがけたたましく鳴り、アスランは慌ててコックピットに向かうと、切れ切れに聞こえるニコルの声に応えた。
「アスラン!よか…た…今…電波から位置を…」
追いかけてきたカガリが眠そうな声で下から尋ねる。
「どうした? 」
「無線が回復したわ!」
それを聞いてカガリもぱっと顔が明るくなった。
しかし同時に、レーダーがザフトのものではない機影を捉えた。
(あいつのお仲間かな…)
アスランはそう思って、なんだかちょっとだけ寂しい気持ちになった。
「こっちは救援が来るわ。他にも海から何か来るみたい」
2人は支度を済ませると、アスランは自分はイージスを隠さなければいけないから、ここで別れようと言った。
「できれば、こんなところで戦闘になりたくないから」
それはカガリの仲間とは戦わない、というアスランの意思表示だ。
カガリもそれを汲み取ると、「そうだな」と答えた。
「俺も機体のところへ戻るよ。どっか隠れて、様子を見る」
「そう…」
「じゃあな」
あっさりと立ち去っていくカガリを見送りながら、アスランは何となく引っかかるものを感じて尋ねた。
「本当に、地球軍じゃないのね?」
「ちーがーうー!」
振り返ったカガリは笑っており、おどけるように答えた。
(軍人でもないくせに、みんな…)
アスランは苦々しく思う。
(あいつも、キラも、皆、なんで…)
「カガリだ!おまえは?」
その時、カガリが言った。
顔を上げると、カガリはもう一度振り向いて笑っている。
アスランは少しためらってから、自分の名前を告げた。
「アスラン」
カガリは手を振って走りだし、やがてアスランの視界から消えた。
言い知れない寂しさを感じたが、そんなものはただの感傷に過ぎない。
アスランもまた、二度と振り向かずにイージスへと歩き出した。

スカイグラスパーが不時着した海からやってきたのはストライクだ。
捜索に出てすぐに救難信号を捉えたフラガが、キラに発信場所を連絡し、キラは逸る気持ちを抑えてカガリを迎えに来たのだ。
カガリもまたその姿を見た途端、嬉しそうに浜辺を走り出した。
「ストライク!キラ!」
長い夜は明け、こうして2人だけの戦争は終わりを告げた。
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制作裏話-PHASE24-
本編では「アスカガ派」を名乗って憚らない私ですが、その我々「アスカガ派」にとって最も大切なPHASEである、「二人だけの戦争」です。
本編では文句のつけようがないこのストーリーを、男女逆転でいかに見せるかが腕の見せどころでした。

2人の命懸けの戦い、勝敗、カニにまつわるエピソード、洞窟でのユニウスセブンへの言及、戦争への想いのぶつけ合い、銃の奪い合い、そして傷の手当…と、逆転すると難しい事が多く、一つ一つクリアしていく必要がありました。

本編では投げ飛ばされたカガリが、こちらでは男性なので一旦は勝利をおさめます。けれど相手が女性と知って逆転されてしまいます。カガリがキサカに習って使った技は、柔道ですかね。
ヘルメットを取ったら凛とした美少女が…というのは憧れのシチュエーションですね。「眼鏡を取ったらものすごい美人だった」みたいなものです。

そして本編にはない「はしたない」発言で、アスランはカガリに少し興味を持ちます。ラクスというやや変わった男性を婚約者に持つ彼女にとっては、もう少し強いインパクトのある男性でないと心に残らないと思うんですよね。そもそもこの頃のアスランってラクスに何の不満もなく、恋愛感情はなかっただろうとは思いますが、好意は持っていたと思うので。

カニのエピソードは、本編では無防備なカガリがいきなり服をまくり、下乳を見てしまった晩生のアスランが驚いてずっこけるという展開なので、男女逆転でこれをやるにはさすがに無理があります。
(それに美少女である逆転アスランに、それこそそんな「はしたない」事はさせたくないので…)
というわけで、いたずら心を起こしたカガリが、アスランを大きなカニで脅かすという「おまえは小学生か!」というワンパク展開で、アスランを海に落とす事に成功しました。

ユニウスセブンについて言い争うシーンも、本編よりも落ち着いた感じになっています。虎やキラにからめて、憎しみの連鎖や終わらない戦争についてカガリに考えさせるのは、この出会いがカガリとアスランの運命の出会いである事、カガリは為政者として、アスランは逆デスの彼女の基盤として、重要だからです。

逆転のアスランは女性なので、捕虜のロープを切ったり、男の前で眠り込んだりするのはさすがに無防備すぎだろと思いましたが、カガリが自由に動いてくれないと銃を奪ってもらえないので、これも仕方がないです。
さらに本編ではこの後、カガリがアスランの傷の手当をする、というシーンで締めますから、果たしてどうしたらいいか…と頭をひねりました。

そこて「カガリはライセンスを持つ医療技術者である」という設定になりました。
それゆえに彼は手当てを拒むアスランを無理やりひん剥き、強引に治療をするということにしました。ちなみに遥か以前のPHASE1-2で、キラと出会ったばかりのカガリが、爆風で吹き飛ばされたキラに怪我がないかと彼女の体を観察するのは、彼が医療技術を持っているから、という伏線です。砂漠でも重宝がられ、本編(=金づる)より砂漠編でのカガリの存在意義を強調することもできました。こうした特殊技術を持っているだけでもコーディネイターという優れた種族に対抗しうる立場にでき、カガリを物語の核心に絡めて行く事ができます。この後アスランが自爆でケガをしたり、逆デスでキラがケガを負う事も見越してましたし、ラクスが病を患っていることももちろん含めて考えています。

なお本編ではいくつかの微エロサービスがあった回なので、ここでほんの少しだけ微エロ…ですかね?
ちなみに、カガリは体温が高そうなのでずっと上半身裸でもいいかなと思ったんですが(何しろ本編でも趣味は「体力づくり」なんですから、逆転ではなおのこと、身体を鍛えて引き締まっていると思われるので)、怒ったアスランに首を絞めさせるためにシャツを着てもらいました。

カガリの「やらせろよ!」は本編でもちゃんと言っているセリフなんですが、男女逆転すると何ともいかがわしいですな。もちろん何もしてませんよ!…多分ね…

また、カガリが会ったばかりのアスランに3発殴られることも初めから決めていました。
DESTINYでシンが殴られるので、その前にカガリを殴らせようと思ってましたから。

いやみな王子といい、ニコルを不安のどん底に叩き落す無責任男ディアッカといい、カガリを探すキラたちといい、今回も背景でしかありません。すみません。次回は戦闘なので彼らにも活躍してもらいます。

これまではあまり感情を見せず、少しお堅かったアスランが、少年らしさを持ちながら大人になりつつある屈託のないカガリとの出会いで、ほんの少し変化を見せ始める。それが少しでも表現できていたら幸いです。

また、最終回でカガリに叱咤され、生きる事を選択するアスランが彼の琥珀色の瞳を美しいと思う伏線も張っています。
「だまし討ちみたいで…」のセリフも本編にはありませんが、後々、二人が互いを思い出すシーンに役立ってもらっています。

こういう展開を見ても、やっぱり種は少なくともDESTINYよりは丁寧に練られていると思います。
欲を言えば、この出会いはもう少し早い話数でやってもよかったですよね。砂漠編ではアスラン、全然出番なかったから。
になにな(筆者) 2011/03/16(Wed)00:40:20 編集



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