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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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「イーゲルシュテルン、4番5番、被弾!」
「損害率、25%を超えました!」
排熱が間に合わず、ラミネート装甲も悲鳴を上げる。

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カガリ・ユラを救助後、インド洋を抜け、マラッカ海峡で待ち構えていたザフト軍との戦闘を辛くも勝ち抜いて南太平洋にたどり着いたアークエンジェルは、そこで再びザフト軍の襲撃を受けた。
デュエル、バスター、ブリッツ、そしてイージス…ザラ隊はインド洋で隊長を救助後、ただちにカーペンタリアに戻り、作戦会議を始めた。しかし潜水母艦の不調により、彼らが最初に交戦地として選んでいたマラッカ海峡では出撃できなかったため、急遽編成されたカーペンタリア所属の別の隊が彼らを襲った。
 
しかし結局ストライクの活躍によってそこも突破されてしまい、ザラ隊は今度こそ万全の状態で足つきを迎え撃つため、新たに母艦を要請し、再度網を張る場所の特定からやり直していた。
マルコ・モラシム隊のグーンやゾノを撃破したとはいえ、戦闘機とストライクしか持たない足つきにとって、水中用MSの脅威は大きく、ましてや潜水母艦に狙われる危険も無視できない。
南極回りの道が閉ざされている今、人間の心理としては大小様々な島を隠れ蓑にしつつ、恐らくはジャワ海からミクロネシアへと抜けるというのがアスランの読みだった。
 
すなわち、網を張るのはソロモン諸島周辺ということ…アスランは赤道の南、島が連なる一帯を指で囲ってみせた。
 
「ふん、妥当な作戦だ」
イザークが彼女に同意したので、襲撃の場所は決まった。
飛行能力を持たないGシリーズには、グゥルが準備された。
彼らの母艦となる潜水艦の艦長は壮年の落ち着いた人物で、我が子より若い彼らに慇懃に敬礼すると、柔和な笑顔で「ようこそ、ボズゴロフへ」と告げた。
彼らの母艦は、ボズゴロフ級の一番艦として長く不沈を誇っている、誇り高き老練な潜水母艦だった。
 
北太平洋は地球連合軍に制空権があり、抜ければ当然アラスカまで手を出す事はできなくなる。
なんとしてここでしとめるという、4人、ことにストライクとは長く因縁を引きずるイザークの意気込みは並々ならぬものがあった。イザークはわざと残した顔の傷に触れる。
(この借りは必ず返す…おまえの命で償わせてやる!)
 
「回避っ!」
ノイマンは必死に舵をとるが、ブリッジを大きな衝撃が襲う。
「バリアント、ウォンバット、撃ぇ!」
間隙を縫ってナタルが迎撃し、近づくデュエルを追い払った。
マリューは衝撃に耐えながら、必死に回避角を指示しているが、艦は徐々に南東へと流され、元々の北東ルートから外れていく。
「何をやっている、ディアッカ!さっさと艦の足を止めろ!」
この艦砲射撃で近づけないデュエルが、バスターを振り向く。
「わかっている!」
(弾幕が厚くて届かないんだよ…いまいましいヤツらめ!)
ディアッカは再びランチャーとライフルを構えてエンジンを狙った。
 
「あいつ!」
ブリッツとビームライフルで交戦していたキラは、その優れた視力でバスターの動きを視認した。
同時に、相変わらず勘の鋭いフラガが飛び込んでバスターの射線を遮った。
「ちぃッ!」
邪魔をされて一歩下がったディアッカは、忌々しげに舌打ちするとそのままスカイグラスパーを追って連射した。
「役立たずめ!」
それを見送ったイザークは苛立ち、艦砲をかいくぐって足つきに近づく。
彼の眼にはエールストライカーを装備したストライクしか映らない。
(俺の狙いはストライク…貴様だけだ!)
イザークはランチャーを放つ。
「イザーク!一人で出過ぎないで!」
通信機からはアスランの声が飛び込んできたが、イザークは当たり前のように無視した。
アスランも自分の言う事を素直に聞く相手だとは思っていない。
(足つきのエンジンは、まだ生きている)
それに艦砲もやむ気配はなく、やつらは戦いを捨ててはいない。
「イザーク!連携を…!」
逸りすぎて前に出がちなイザークを、アスランは何度も留めた。
バスターを中心に据え、イージスとデュエルが援護しつつ、艦の足を止めるまでは素早いブリッツが足つきに近づいてストライクと交戦する…大まかな作戦は納得したはずだ。
 
「うるさいっ!」
しかしイザークの苛立ちとフラストレーションはピークに達していた。
無尽蔵とも思える弾薬、ダメージを吸収する硬い装甲、そしてあれだけの煙を吐きながらなお推進する強力なエンジン…足つきは彼らの予想を大きく上回って攻撃に耐え切っている。
「エンジンを狙って!」
再度伝えても、イザークは返事をせずに行ってしまう。
仕方なくアスランはニコルを呼び戻し、二手に分かれて足つきのエンジンを攻撃し始めた。
足つきの進路はますます南東に流れていく。
(こいつさえ沈めれば…!)
アスランは、盾をかざしながらビームライフルを撃つストライクを見た。
(キラ…私たちは、もう戦わなくていい…!)
右のエンジンに回り込んだイージスは、機関に向かってライフルを連射した。
ブリッツも反対側でバリアントを避けながら攻撃を仕掛けている。
(ザラ隊にとって、これが初めての戦闘だ)
ニコルは今日こそは勝って、隊長であるアスランに勝利をもたらすのだと、心の中で人知れず息巻いていた。
ブリッツはトリケロスを撃ち込んではイーゲルシュテルンの砲口を潰す。
 
「イージス、ブリッツ、接近!」
アークエンジェルは着実にダメージが蓄積し、被弾率が上がっていく。
マードックたちは徹夜に次ぐ徹夜で修理にかかってくれたのだが、補給もない中、マラッカで受けたダメージは回復できないままだった。
「ウォンバット照準!グゥルを狙うんだ。ストライクにもそう伝えろ!」
ナタルが自由自在に飛び回るGシリーズを見て指示する。
バリアントの砲身は放熱が間に合わず、チャージサイクルが落ちている。
聞きなれない言葉に、ミリアリアが思わず「グゥル、ですか?」と聞き返すと、トノムラが「モビルスーツが乗って飛んでいるアレだよ!」と教えてくれた。
その間も被弾はやまず、艦内は大きく揺れ、カズイが首をすくめる。
「くっそー!こんなところまで追いかけてくるなんて、あいつら!」
トールは決死行を続けるノイマンの補佐をしながら毒づいた。
(キラ…頼む、踏ん張ってくれよ…!)
 
その頃、フレイは他の兵たちと待機室に入り、モニターを見ていた。
激しい衝撃が起きるたびに兵たちは体を縮めるが、フレイは真っ直ぐ前を見つめたままだ。
 
―― キラが本気で戦っているのなら、この艦は落ちない。
 
(あの赤いモビルスーツ)
フレイはモニターに映るイージスを見つめていた。
(おまえの友達が乗っているというモビルスーツとも、本気なら戦えるはずだよな?)
フレイの口元が小さく歪んだ。
「殺せる…はずだよな?」
(大丈夫だ。キラは俺を裏切らない。俺を守るために戦っているんだから。そうだろ、キラ)
 
砲口を潰され、イーゲルシュテルンの弾幕が薄くなると、ついにデュエルがナタルが張った防衛網を突破してきた。
アスランは艦後方からエンジンを集中的に破壊し続けていたが、ストライクの前に出たデュエルを見てグゥルのスピードを上げた。
「下がれ、アスラン!こいつは俺が!」
ようやくお目当てのストライクの目の前に立ったイザークは、自分たちと違って機動力のない相手を見て嗜虐的に笑ったが、イージスの姿を見ると邪魔をするなと言わんばかりに怒鳴った。
「イザーク!迂闊に…」
アスランの言葉など聞きもせず、デュエルはグレネードを撃ってサーベルを抜いた。彼の心は逸り、自然と唇の端が持ち上がる。
「おまえと戦うのは久々だなぁ、ストライク!」
「デュエル!」
キラもサーベルを抜き、両者は相手の隙を狙って打ち合った。
しかしこの戦いは動けないストライクには、完全に不利である。
デュエルは攻撃を防がれればすぐにグゥルを戻し、体勢を立て直して再び襲い掛かる。離れれば間髪いれずミサイルポッドやレールガンを撃ってくる。キラは完全に劣勢に立たされ、ナタルが言うようにやつらの「足」を止めなければ、勝機はないのだと実感した。
再び艦が大きく傾いた。
艦内のアラートは鳴り止まない。
消火やシステムチェックのために走り回る兵は後を絶たず、艦体がかしぐたびに誰かが壁にぶつかった。
カガリも壁に身を預けながら、今までにない危機感を感じていた。
自分が墜落させてしまったスカイグラスパーは整備が間に合わず、出撃する事ができない。
(いや、何より)
カガリは唇を噛み締めた。
(ここは、もう…)
「うわっ!」
再び大きな衝撃が艦を襲い、カガリは床に叩きつけられた。
敵の中には、すっかり見慣れたイージスの姿もあった。
「アスラン…」
カガリは無人島で出会った女兵士を思い出し、呼び慣れないその名を呟いてみた。
(だけどこんなところで…俺たちは沈むわけにはいかないんだ)
カガリはよろよろと立ち上がり、再びブリッジを目指して歩き始めた。
 
(艦上にへばりついてるだけのくせに、ライフルとサーベルだけでよくしのぐ)
イザークはここまで近づいてなお、そして相手を追い詰めてなお、ストライクに決定的なダメージを与えられないことが許せなかった。
(ナチュラルの分際で…!)
イザークは今までになくグゥルで近づいていく。
「取りつく気か!?させない!!」
キラはビームライフルを抜くと、射程に入ってきたデュエルのグゥルを撃ち抜いた。
油断していたイザークは咄嗟に立て直そうとしたが、失速したグゥルはそのままただ前に進むばかりだ。
キラはライフルをマウントすると、ビームサーベルを抜いた。
「くそっ!」
イザークはコントロールを失ったグゥルに乗ったまま、同じくサーベルを抜いてストライクに突っ込んだ。
ストライクはそのデュエルのサーベルを受け止め、ビームを拡散させて無効化した。
そしてそのままジャンプするとデュエルを蹴り飛ばし、さらによろめいた機体を踏みつけてより高く飛び上がったのだった。
「なにぃ!?」
ストライクの踏み台にされたデュエルはそのままグゥルから放り出され、海へと落ちていく。
「くっそぉぉ!」
悔しさをにじませたイザークの叫び声を聞き、ニコルは思わず「イザーク!」と叫んでしまった。
しかしすぐに、目の前にジャンプしてきたストライクを見て、相手の次の獲物が自分だった事に気づいた。
「くっ!」
ニコルは咄嗟にトリケロスを構えたのだが、ブリッツはそのままストライクの体当たりを受け、ぶざまにもデュエルの後を追った。
「う、うわぁ!」
「ニコル!」
ストライクは残ったニコルのグゥルをサーベルで一閃した。
グゥルは特に頑丈なつくりというわけではないらしく、あっけなく傷つき、小爆発を起こす。
完全に推進力を失う前に、今度はそれを踏み台にして飛び上がり、キラは見事アークエンジェルの艦上へ戻った。
(機動力の差に単機防衛…完全に不利なのに…)
アスランは無傷のストライクを見つめて、しばし愕然とした。
「これほど腕を上げてるなんて…キラ…」
一体、どれだけの苛烈な戦いをくぐり抜けてきたのだろう。
アスランはゾクリと背筋が寒くなる。
 
キサカが艦内を移動していたカガリを見つけたのは、ブリッジまであと少しというところだった。
「カガリ!待て!どうするつもりだ!」
キサカはこれだけの揺れだというのにふらつきもせず、カガリの肩を掴む。
「どこへ行って、何をするつもりだ?」
「離せ!これじゃ沈んじまう!」
カガリはさらに前へ進もうとし、キサカは力を込めて止める。
しかしカガリは止まろうとせず、振り絞るように言った。
 
「もうここは…オーブのすぐそばなんだぞ!」
 
戦闘によって迷走を続けるアークエンジェルはさらに東へと進路をずらし、南へと流されている。
アスランはなかなか言う事を聞かないあの連中を、それでもなんとか制御して防衛ラインを作り上げ、足つきが逃げたがる北…すなわち地球軍の制空圏内である北太平洋への逃げ道を塞いできたためだ。
キサカはそれを聞いて口をつぐみ、カガリは「それに、もうすぐ…」と呟く。
(そうだ、そろそろやってくるだろう)
キサカもそれを知っていた。
「領海線上に、オーブ艦隊!」
チャンドラがレーダーの反応に声を上げる。
「なに!?」
ナタルは「まさか…もうそんなところまで来たのか」と驚きを隠せない。
「助けに来てくれたの?!」
「オーブ」という単語を聞いたカズイが素っ頓狂な声を上げ、トールもミリアリアも思わず顔を見合わせ、ほっと息を吐いた。
(だって、オーブは私たちの国だもん)
長く戦争を知らずにいた彼らの心にはその想いがあった。
しかし次にマリューの口から出た言葉は、彼らにとって思いもかけないものだった。
「領海に寄り過ぎてるわ!取り舵15!」
「しかし…艦長!」
攻撃を避けながら航路をとってきたノイマンは、ここでの取り舵は敵の方を向く事になると抗議する。
「これ以上寄ったら、撃たれるわよ!」
「そんな…!?」
マリューの言葉を聞いて、事態が飲み込めないカズイが泣きそうな声で呟く。
「どうして俺たちが、自分の国に撃たれなきゃいけないんですか!?」
「オーブは友軍ではないのよ。平時ならまだしも、この状況では…」
マリューは落胆するカズイが気の毒になり、少しだけ優しい声で、けれど厳粛な事実を告げた。
 
「かまうことはない!」
 
その時、ブリッジにカガリの声が響き渡った。
クルーが一斉に扉の方を見ると、そこにカガリとキサカが立っていた。
かつて、フレイがブリッジに入って来てラクスを人質にとった一件以来、戦闘中のブリッジのセキュリティを強化し、万全にしたつもりなのに…マリューはそれを突破し、やすやすと入ってきた2人を見つめて驚いた。
 
「このまま領海へ突っ込め。オーブには俺が話す。早く」
カガリは艦長席に近づくとマリューに向かって言った。
オーブ領海へつっこむ?まさか、そんなことができるわけがない…マリューは彼の言葉に唖然としたまま言葉もなかった。
こんなにボロボロの艦が、オーブ艦隊に攻撃されたらひとたまりもない。
「展開中のオーブ艦隊より、入電!」
その時、艦隊からオープンチャンネルで通告が入った。
 
「接近中の地球軍艦艇、及び、ザフト軍に通告する。貴官らはオーブ首長国連邦の領域に接近中である」
 
キサカは腕組みをしたまま、カガリも口をへの字に結んでそれを聞いている。
サイたちも祖国の軍からの通信に聞き入っていた。
 
「速やかに進路を変更されたい。我が国は武装した船舶、及び航空機、モビルスーツ等の、事前協議なき領域への侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!」
 
海に落ちたデュエルとブリッツもこの通信を傍受していた。
「なに寝言を言っている!」
イザークは怒りでバシッとデュエルのモニターを叩いた。
「自分たちの国には入ってくるなだと?まったく…バカも休み休み言え!この戦時下でよくそんな悠長な事が言えるものだ!」
「繰り返す。速やかに進路を変更せよ!」
一方でアスランはこの正式な通告に、これ以上の戦闘は無理だと感じていた。
非常時とはいえ、オーブがこのように国際的ルールに則った正しい対応をしているのに、我々がそれを無視してしまうとカーペンタリア、ひいてはプラントとオーブの国際問題に発展してしまう。それは当然ながら避けたい。
(ここは、退かざるをえない)
アスランは眉をひそめた。 
「この警告は最後通達である。本艦隊は転進が認められない場合、貴官らに対して発砲する権限を有している」
艦隊の司令官は冷静に通告を締めくくった。
砲火がやんだこともあり、アークエンジェルのブリッジは重苦しい沈黙に包まれた。耐え切れず、カズイが口を開く。
「攻撃って…俺たちも?そんな…」
「何が中立だよ。アークエンジェルはオーブ製だぜ?」
チャンドラが呆れたように言い、それを聞いたカガリは唇を噛み締めて、再びマリューの方を向き直った。
「構わない。このまま領海へ向かえ」
しかしマリューはカガリの真意を計りかね、言葉を捜している。
「借りるぞ!」
「ええっ!?」
カガリは業を煮やしてカズイのインカムを奪いとると口元に近づけた。
カズイは耳を押さえて不満げな顔をしたが、皆カガリの行動を見守っている。
 
「この状況を見てて、よくそんなことが言えるな!」
 
キラとアスランはその声を聞き、それぞれのコクピットで耳をそばだてた。
「この声は…」
「カガリ?」
「アークエンジェルは今からオーブの領海に入る。だが攻撃はするな」
カガリはいつになく凛とした声で命じている。
通信の向こうで、オーブ艦隊のブリッジがざわめくのがわかった。
「な…なんだ、おまえは!?」
カガリはムッとして言い返した。
「おまえこそなんだ?おまえでは判断できないなら、行政府へ繋げ」
キサカがカガリの傍に立つ。ピンと背筋を伸ばし、後ろ手に手を組んで。
「父を…ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!」
カガリは少しためらいながら父の名を出した。
「俺はカガリ・ユラ・アスハだ。俺が直接話をつける!」
 
ブリッジでは息を呑んだクルーが目を白黒させている。
「アスハって…」
サイが囁き、ミリアリアが「代表首長の?」と返す。
キラは心底驚き、アスランもまた怪訝そうな顔をしていた。
(カガリって…あいつなの?あいつが…元代表首長の息子?!)
衝撃の事実に、相手方もしばらく沈黙したが、やがて怒号が響き渡った。
「何をバカなことを!若様がそんな艦に乗っておられるはずがなかろう!」
カガリは通信機を口元に当てて「はぁ!?」と叫ぶ。
「おい、ちょっと待…」
「仮に真実であったとしても、何の確証もなしにそんな言葉に従えるものではないわ!」
「いや、だから俺は…おいっ!」
カガリは存在を全否定されて話を聞けと食い下がったが、後ろに控えたキサカはむしろ満足げな顔をして見守っていた。
なかなかの判断だ…と思いながら。
 
アークエンジェルでそんなゴタゴタが起きているとも知らず、ディアッカとアスランは上空でこの様子を見守っていた。
「ご心配なく、ってね!領海になんて入れないさ」
バスターはスナイパーライフルを構えてロックする。
(あのムカつく艦もあと一歩。オーブなんかに渡すかよ)
アスランはディアッカの構えに気づいて慌ててバスターに向き直った。
「いけない!」
「その前に決める!」
バスターが構えたのを見てフラガが回頭する
「毎度毎度…ホントにしつこいぜ!」
「ディアッカ!オーブ艦にあたる!回り込んで!」
アスランは射線を読むとその位置からではダメだと警告する。
「そんなこと!」
ディアッカはニヤリと笑う。
「かまうもんかよ!」
(自分たちだけ中立だとか、入ってきたら攻撃するとか…バカなこと言ってんじゃねぇよ)
インパルスの照準がピタリと合わされる。
「だってさぁ、これって戦争だろ!?」
バスターが放った砲は、アークエンジェル、さらに予想通りオーブ軍への攻撃となった。
アスランは(しまった)と思い、ディアッカを下がらせようとしたが、ディアッカはさらに追い討ちをかけようと足つきに近づいていった。
その時、キラは近づくバスターのグゥルをライフルで撃ち抜いた。
ディアッカは足つきしか見ていなかった自分の散漫さに気づいたが、そこにさらにスカイグラスパーのキャノンで追い討ちをかけられ、バスターはグゥルから転落し、あっけなく海に落ちていった。
しかしバスターのライフルはアークエンジェルを大きく破壊した。
通告の最中でもあり、アークエンジェルが砲撃をやめていたところへの一撃が、ついに機関に致命的ダメージを与えたのだ。
艦体が急激に落下していく。ストライクもズズズ…と滑り、ブリッジも衝撃と思いもかけない墜落の速度に息を呑んだ。
「1番2番エンジン被弾!48から55ブロックまで隔壁閉鎖!」
ノイマンはついに万策尽き、これで全てが終わったのだと悟る。
「推力が落ちます!高度、維持できません!」
傾く艦上でバランスを保ちながら、キラはまだ唯一グゥルに乗ったままストライクと足つきを見つめているイージスを見た。
 
「アスラン…」
 
艦は盛大な黒煙をあげながらオーブ領海へとつっこんでいった。
それと同時に、激しい艦砲射撃が始まった。衝撃が艦体を揺らす。
海は瞬く間に水飛沫に覆われ、猛々しい水のカーテンが傷だらけのアークエンジェルを覆い隠した。
「これでは、領海に落ちても仕方あるまい」
急激な落下で斜めになったブリッジで、キサカがぼそりと言った。
「心配はいらん。第二護衛艦群の砲手は優秀だ。上手くやるさ」
マリューは困惑しながらも「わかりました」と答えて再び思う。
(本当にこの人…一体何者なの!?)
こうして、激戦を戦い抜いてきたアークエンジェルはついに堕ちた。

艦砲射撃の合間に、司令官は発砲を行ったザフトにも通告を続けた。
「警告に従わない貴官らに対し、我が国はこれより自衛権を行使するものとする」
オーブ艦隊の砲はイージスをロックしている。
これで完全にノーゲームだ。アスランは撤収を命じ、ボズゴロフに帰投信号を送った。
 
「ウズミ様」
代表が敬意を持って、髭をたくわえた1人の首長の名を呼んだ。
「許可なく領海に近づく武装艦に対する我が軍の措置に、例外はありますまい。ホムラ代表」
ウズミ・ナラ・アスハ…カガリが呼べと言った彼の父は、ホムラと呼ばれた代表にこの措置が正しかったことを告げた。
「はぁ…しかし…テレビ中継までされてしまっては、またマスコミや国民への説明が…」
「それはよい」
「それに、地球軍やザフトをいたずらに刺激することにもなりますし…」
気の小さそうな代表のボソボソ呟くような言葉に、ウズミはもう一度、「判断は間違いではない」と力強く言った。
そして、これはオーブの理念を守るためなのだとも。
ホムラ代表が軍からの連絡を受けると、首長たちは次々と席を立った。
「さて…とんだ茶番だが、致し方ありますまい。公式発表の文章は?」
まるで自身こそが代表のような威厳とテキパキとした指示で、ウズミは傍らの補佐官に確認した。
既に草稿の第二案ができているという報告に満足し、「いいでしょう。そちらはお任せする」とバトンを渡し、それから改めて首長たちに向き直った。
「あの艦とモルゲンレーテには、私が参りましょう」
ホムラはまるで部下のように頭を下げ、他の首長も困ったように 「どうにもやっかいなものだ、あの艦は」と呟いている。
「何しろウズミ様が代表を辞す原因になったのですから」
「セイランめ、よくも…」
「今更言っても、仕方ありますまい」
ウズミはきっぱり言うと、オノゴロ島に向かった。
 
「指示に従い、艦をドックに入れよ」
響き渡る声がボロボロのアークエンジェルを誘導していく。
キラはストライクを降りて、艦上でオーブの海風を感じていた。
(ここが、オーブ)
護衛艦に守られながら、アークエンジェルはたくさんの小さな島の間を抜け、緑が生い茂る一つの島に誘導されてきた。
フラガもハンガーでしゃがみこみ、戦闘中はずっと消火活動に走り回っていたマードックや整備兵も、ようやく一息ついていた。
キサカは通信用インカムを借り、ドックの兵たちと言葉を交わしている。
やがてアークエンジェルが入港を始めると、マリューたちに告げた。
「オノゴロは軍とモルゲンレーテの島だ。衛星からでもここを窺うことはできない」
彼は国家機密の島を紹介しながら、無表情のまま言った。
「つまり、どこにいるより安全と言うわけだ」
マリューはそんなキサカに向き直って尋ねた。
「そろそろあなたも、正体を明かしていただけるのかしら?」
タッシルからこっち、何者なのかとずっと気になっていたのだ。
身のこなしや銃器の扱いはもちろん、アークエンジェルについてもあまりによく知りすぎている…そう、どこから侵入できるかさえも。
「ふむ。確かにな」
キサカは敬礼すると、ようやく己の身分を名乗った。
「オーブ陸軍、第21特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ」
それからふっと表情を緩め、カガリの頭に大きな手を置いた。
「これでも、このやんちゃ坊主の護衛でね…」
子ども扱いされたカガリは、なんともバツが悪そうにしていた。
「あっちゃ~、じゃ、やっぱり本物…」
ミリアリアはサイに囁き、サイもうんうんと頷く。
「我々はこの措置を、どう受け取ったらよろしいのでしょうか?」
「それは、これから会われる人物に直接聞かれる方がよろしかろう」
戸惑うように尋ねたマリューに、キサカは穏やかに答えた。
「オーブの獅子と呼ばれる、ウズミ・ナラ・アスハ様にな」
 
その頃、ボズゴロフに拾われてカーペンタリアに戻ったアスランたちは、オーブからの公式発表を聞いて心穏やかではいられなかった。
「こんな発表!素直に信じろって言うのか!」
イザークは、怒りのあまり机をバンと叩きつけた。
「足つきは既にオーブから離脱しました…なんて、本気で言ってんの?それで済むって、俺たちバカにされてんのかねぇ」
ボードのモニターを覗きがら、くっくっくとディアッカが笑う。
「やっぱ隊長が若いからかな。それとも…女の子だからかな?」
「ディアッカ!」
あまりにも意地の悪い物言いにニコルがムッとする。
「そんなことはどうでもいい。でも、これがオーブの正式回答だという以上、ここで私たちがいくら嘘だと騒いだところで、どうにもならないのは確かよ」
腕を組んだアスランはモニターに目を落としながらいざこざを収める。
オーブのニュースも、アークエンジェルのことは何も伝えていない。
「なにを…!」
自覚はあるらしく、騒ぐのは自分だと言われたと思ったイザークが食って掛かろうとしたが、アスランは冷静な表情でイザークを見た。
「押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題になる」
アスランにまっすぐ見つめられ、珍しく気圧されたイザークは、けれどすぐにニヤリと笑った。
「さすがに冷静な判断だな、アスラン。いや、『ザラ隊長』」
ディアッカもイザークの意図に気づき、いつものように乗る事にした。
「だから?はいそうですかって帰るわけ?」
「そうまで言うなら何か策があるってことだろうな」
2人はチラと目をあわせ、ニヤニヤしてアスランの答えを待った。
「カーペンタリアから圧力を掛けてもらうけど、すぐに解決しないようなら…」
アスランは一呼吸置くとモニターをパタンと閉じた。 
「潜入しましょう」
「え!?」
「オーブヘかよ?」
ディアッカもニコルも思ってもいなかったその提案に驚く。
「それでいい?」
アスランは3人に尋ねたが、実際にはイザークの返事を待っていた。
イザークは腕を組んで聞いていたが、好奇心を刺激されたようだ。
相手は仮にも一国家だ。
確証もないまま独断で不用意なことをするのはまずい。
「そんな回りくどいことをするより、突破していけば足つきがいるさ」
ディアッカは言ったが、オーブの軍事力を舐めてはいけない。
こんな時代に「中立」という困難な理念を貫き通すには、その理念を守り抜くための強大な力もまた、必要なのだ。
オーブはその刃を隠し持ち、それを振るう事を恐れていない。
それが自分たちの理念を守り、平和を守ると信じているからだ。
「表向きは中立だけど、裏はどうなっているのか計り知れない」
本当に厄介な国だ。
アスランはふと、子供のように屈託のないカガリの笑顔を思い出す。
(…あいつの国だったのね…だからあんなに…)
「オーケー、従おう」
ディアッカの抗議を遮って、イザークが了解した。
しかしただ素直に認めたわけではなく、当然嫌味をタラタラ言い捨てる。
「俺なら突っ込んでますけどね!さすが、ザラ委員長閣下の御令嬢だ」
(そうやって突っ込んで、真っ先にストライクに蹴られたくせに!)
ニコルはその失礼な物言いに、悔しさのあまり心の中で悪態をつく。
(いつもいつもアスランに絡んでばかり…ホント、困ったお人だ)
イザークはそんな事とはつゆ知らず、先を続けた。
「ま、潜入ってのも面白そうだし、案外ヤツの…あのストライクのパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ? 」
「・・・っ!?」
それを聞いてアスランがギクリとする。
自分で提案した作戦とはいえ、確かにキラに会ってしまうかもしれない可能性はゼロではない。
それに、自分は今、どんな顔をしてキラに会えばいいのかわからない。
(こんなに長い間敵として戦って…けれど事態は何も変わらなくて…私たちがもう一度会うことができたなら、何かが変わるんだろうか?)
 
オーブに入国したという事実は、サイたちの心に安堵をもたらした。
けれど同時にそれは、民間人の普通の子として我が家に帰り、父や母に会うことはできないのだ、と実感させてしまう事になった。
なんとなく沈み込んだ表情の子供たちを見て、ノイマンは哀れになり、「親に会いたいか?」と尋ねてみた。誰も、何も答えないことが答えなのだろう。
「会えるといいな」
今はただ、それしか言えなかった。
 
フレイは暗い部屋で、ベッドに座ってぼんやりとモニターを見ていた。
部屋に戻ったキラはその姿がなんだかひどく寂しそうに見え、恐る恐る聞いた。
「フレイ…外が見たいの?」
フレイは「いや…」と答えると、おいでとキラを呼ぶ。
後ろから自分を抱きしめながら、やはり黙り込んでいるフレイに、キラは「上陸できるかもしれないんだって…」と伝えた。
「フレイも、オーブに家、あるんでしょ?」
「オーブにもあるけど、でも誰もいないよ…母さんは小さい時に死んだし、父さんも…」
父さんは、コーディネイターに殺されてしまった。
だから、俺は仇をとらなくっちゃいけないんだ。
(そうだろう、キラ)
フレイは後ろからキラを強く抱き締め、柔らかい髪に顔を埋めた。
キラは眼を閉じ、フレイに身を預けてなされるままだ。
(今度はちゃんと、本気を出せるよな?あの赤いやつを…おまえの友達とやらを、やれるよな?)
憎しみや怒りが混ざり合って、彼女の肌に爪を立てそうになり、フレイは息をついた。
(でなきゃ許さない…俺はおまえを許さない…キラ)
 
入港してしばらくすると、本島からチャーター機でやってきたウズミ元代表が、早速アークエンジェルの佐官ら3名を呼び出し、今後について話し合う会見の席を設けた。
「御承知の通り、我がオーブは中立だ」
ウズミは自らが宣言した国の路線を説明した。
「公式には、貴艦は我が軍に追われ、領海から離脱した…ということになっておる」
イザークが怒り狂っていた「うそっぱちの公式発表」だ。
マリューもナタルも頷いたが、フラガは口を挟んだ。
「助けてくださったのは、まさか、ご子息が乗っていたから…ではないですよね?」
マリューがキサカの正体を気にしていたのと同じように、フラガもまた、ずっとカガリの正体を気にしていたのだ。
(なるほど、軍神ねぇ)
負けん気の強い、それでいてどこか不思議な柔軟さを持つ、キリリとした少年の顔を思い出し、フラガは苦笑する。
(ホント、今となって思えば、あのMIAはヤバかったよな)
ウズミはふふっと笑って答えた。
「国の命運と、甘ったれたバカ息子一人の命、秤に掛けるとお思いか?」
「失礼いたしました」
フラガはすぐに詫びたが、反面、この人はあの坊主を本当に可愛がってるな…とも直感した。親の愛情が薄く、その寂しさを感じながら育ったフラガならではの勘だった。
「そうであったならいっそ、わかりやすくてよいがな…」
ようやく帰ってきた放蕩息子が無事だったと知って、心の中では安堵したウズミ自身もふっと本音を漏らす。
「ヘリオポリスの件は遺憾だった」
巻き込まれ、志願兵となったというこの国の子供たち。
彼らが戦わねばならなかった道はいかに厳しかったか。
戦場でのXナンバーの活躍はオーブにも聞こえてくる。
それは同時に、オーブの背負った罪だった。
「人命のみ救い、あの艦とモビルスーツは、このまま沈めてしまった方がよいのではないかと、大分迷った。今でもこれでよかったものなのかもわからん」
ウズミはアークエンジェルを受け入れるまでの葛藤を語った。
モビルスーツの開発、アークエンジェルの建造…モルゲンレーテの軍事協力を進めたのは、決してオーブの総意ではないとはいえ、彼は国を率いる者として責任を取らねばならなかったのだ。
「このようなことになり、こちらこそ申し訳ありません」
マリューは緊急事態だったため、半強制的に彼らを艦に乗せ、その後、命がけで共に戦ってきてくれた彼らを思い、彼らの祖国の首長であるウズミに謝罪した。
「よい。あれはこちらにも非のあること。国の内部の問題でもあるのでな」
中立を保つということは、非常に難しい。
オーブはナチュラルもコーディネイターも敵にしたくない。
しかし力がなければ、その意志を押し通すことはできず、理念はただ絵に描いた餅でしかなくなる。
だからといって力を持てば、それもまた狙われ、標的にされてしまう…マリューもまた、「力」の矛盾に思いを馳せた。
力は持てば持つほど、天井知らずのインフレを起こしていく。
より強く、より多くの戦禍をあげられる兵器を作ろうとして、そのことがまた争いを呼び、終わりが見えなくなってしまう…ここにきてマリューは、今は亡きハルバートンの言葉が、本当に全て正しかったのかと、初めて疑念を持ち始めていた。
地球軍が核を撃ち、ザフトはNジャマーとモビルスーツをもって対抗した。
提督はモビルスーツに対抗するためGを開発し、そして、今ザフトは…?
ウズミが言うように、力がなければ何も守れず、力があればそれはまた、争いを呼んでしまう。
(戦いはこれからもっと醜く、どうしようもないものになっていくのでは…?)
 
「ともあれ、こちらも貴艦を沈めなかった最大の理由をお話しせせねばならん。ストライクのこれまでの戦闘データと、パイロットであるコーディネイター、キラ・ヤマトの、モルゲンレーテへの技術協力を我が国は希望している」
ウズミの正直な言葉に、3人は思わず顔を見合わせた。
「こんな時だからこそ、オーブは力を持たなければならぬ。誰かの言いなりになって、軍事開発に手を貸す事がないように。 国の中で意見が割れ、道に迷うものがおらぬよう、想いを貫く力が必要なのだ」
マリューもフラガも言葉に詰まっている。
修理と補給を受けるには、機密事項であるストライクの戦闘データと、ヤマトの力を渡すこと…こちらが断れないことを知っていながら、取引を求めるとは。ナタルは思わず眉をひそめた。 
(足元を見られた…これではあの、胸糞悪いアル・ジャイリーと一体何が違うのだ?)
これだから政治家はと、唾棄するようにナタルは眼を逸らした。
(大体、まるでキラ・ヤマトをよく知っているようなあの口調…一体なんなのだ?この国は)
ウズミが去った後、3人は今後の事を話し合ったが、マリューもフラガもオーブの申し出を受ける以外はないと思っている。
確かにアークエンジェルは補給も修理も受けずに出航などできる状態ではない。
他に方法がないのはわかっている。わかってはいるが、気に食わない。
ナタルはせめて代価を、と主張したが、公式発表でいないことになっている艦について、地球軍からの代価など、この国が受け取るはずがない。
「艦長がそう仰るなら私には反対する権限はありませんが、この件に関しましては、アラスカに着きました折に、問題にさせていただきます」
ナタルはそう言い捨てて部屋を出て行くのが精一杯だった。
「この件も…だろ?」
バン!と扉を閉めて出て行ったナタルを見送り、どうしてあんなにおっかないかねぇ、あの人…とフラガが肩をすくめる。
マリューはふふ、と笑ったものの、またキラ1人に犠牲を強いる今後の事を思うとなんだかグッタリだった。
「あー、もう!」
突っ伏したマリューを見てフラガはやれやれ、大変だな、と思い、マリューの肩を叩いて励まそうとしたが、マリューは顔を上げもせずに言った。
「やめてください、少佐。セクハラです」
「い!?」
フラガは思わず手を引っこめ、その手をじっと見つめた。
 
その頃アークエンジェルでは、カガリが侍女に傅かれて艦を辞そうとしていた。
いつもボサボサだった金髪を整え、きちんとスーツを着たカガリは見違えるほど品のいい、立派な青年に見えたが、表情は気恥ずかしそうで、迎えに来た侍女マーナの前を歩いていく。
そして途中でフレイとキラに会うと、カガリはいつものように笑い、「じゃあな!」と元気よく手を振って、マーナにたしなめられた。
キラはそんなカガリを見送ると、なんだか胸が締め付けられるような、まるで半身を失ったような寂しさを感じて、彼の名前を呟いた。
「カガリ…」
隣にはフレイがいるのに、なんだろう…
(心にぽっかり穴が開いたように、とても寂しい)
フレイはといえば、ようやく去っていった厄介な男を見送ってほっとした。
あいつはキラの心をかき乱す。
(キラの孤独を癒してしまう…キラが成すべき事はただ一つ…コーディネイターを殺すことだけだ)
 
やや冷え込んだ朝もやに煙るオーブの海岸に、人影が蠢く。
辺りをうかがい、安全だと悟ると、彼らは徐々に姿を現した。
岩の陰からは別の人影が出て彼らを迎えた。ウェットスーツを着た4人のうち、細身の人物が一歩前に出て言った。
「クルーゼ隊、アスラン・ザラです」
帽子をかぶり、偽装のための釣竿を持った人物は言った。
 
「ようこそ、平和の国へ」
 
ここは理想と現実が混ざり合い、真摯でありながら欺瞞に満ちた国だ。
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制作裏話-PHASE25-
逆転SEEDもいよいよ折り返し。
2010年は猛暑でしたが、暑さと共にいよいよ目前の「キラVSアスラン」と、今後グダグダになっていく最終回までの道のりを思い、「頑張って補完&補填するぞ!」と気合を入れ直した事を覚えています。

それと同時に「でもあと半分でこんなに楽しい創作活動終わりか…」と寂しくなりましたが、「いや、まだDESTINYがある」と思い、同時に「でも種以上にダメなDESTINYは大変だからなぁ…」と思ったものです。

アークエンジェルがついに撃墜された戦闘と、これまで本編以上に意味深に出してきた「オーブ」という国の説明、そしてカガリとキサカの正体が明かされます。

本編では開始と同時に既にアークエンジェルはズタボロになっていたのですが(多くの人が『先週見逃した?』と思ったという…)、これには実は「マラッカ海峡でザラ隊ではない別のザフト軍と交戦し、そのダメージが残っていた」という設定があったので、入れてみました。

ザラ隊はマラッカでは潜水母艦のトラブルで参戦できなかったそうです。初任務が「隊長捜索」次の任務が「母艦トラブルで不発」そして今回、満を持しての出撃ではイザークは蹴られるわニコルは蹴られるわディアッカは追い落とされるわで…ま、いつも通りですね、うん。

本編ではお姫様スタイルで帰国したカガリですが、逆転のカガリはスーツを着て、さっぱりとした良家の青年姿です。
本編では本物のお姫様にはかなわないと知ったフレイお嬢様の怒りが面白かった別れのシーンは、元気なカガリらしく、キラに明るく手を振って叱られる、というものにしました。

そういえば本編の婚約者設定が本当なら、この時もカガリのことをユウナが迎えたんですかねぇ…
そんなの、この頃のSEEDでは欠片も見えなかったのにね。やっぱ種デスの設定はいい加減の極みですね。
になにな(筆者) 2011/03/16(Wed)23:23:04 編集



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