Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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その時、山間に不時着していたフラガから雑音交じりの通信が入った。
「今の爆発音は? 」
「爆発はわかりません。ですが現在、ストライク、スカイグラスパー2号機、共に全ての交信が途絶です」
マリューがそう答えた後、ナタルは応答を求めるミリアリアの肩を叩いた。
「もうやめろ」
そして艦長に向き直り、艦の被害状況を確認するよう要請した。
アークエンジェルがここで動けなくなっては、捜索すらもできない。
バスターのこともある。フラガも一刻も早く回収しなければなるまい。
それでも指示を下せないままのマリューにナタルが怒鳴る。
「ここで惚けていても、どうにもなりません!」
マリューははっとして、すぐにマードックに連絡を取った。
「そう酷くはねぇです」
マードックはモニターを見ながら機関部位の焼ききれた接続状況を確認していた。大分傷んではいるが、オーブの技師は優秀だった。
「ホースブラケットの応急処置さえ終わりゃ飛べまさぁ!」
続いてマリューはバスターに向けて兵の派遣手配をした。
バギーを出し、数人が銃を抱えてディアッカの確保に向かう。
ゴットフリートは照準をあわせたまま、兄弟機であるストライクと同じチャンネルを利用して、抵抗しないよう通告し、武装を全て解除すること、条約に則って捕虜として扱うことなどを伝えた。
「了解した。そちらの指示に従う」
そう答えた声は、驚くほど若かった。
武装兵がパイロットを確保する間、整備兵たちはバスターの駆動を確認していた。
「回収するんですか?」
「もともとこっちのもんだ。置いてってまた使われたらしゃくだろうが」
緊急事態なので仕方がないとはいえ、重機でかなり乱暴にバスターを引っ張り上げると、まるで死体のように機体をトレーラーに横たえた。
事後処理は着々と進むが、キラとトールの捜索は頓挫したままだった。
「あっ!!ろ、6時の方向、レーダーに機影!」
やがて沈黙を破り、カズイが震える声で告げた。
(なんだよぅ、こんな時に…!)
「か、数は、3…」
「ディンです!会敵予測、15分後!」
トノムラがライブラリ照合の結果を伝える。
連絡のないアスランたちを心配したか、無事なはずのイザークが連絡したのか、間違いなく彼らの母艦ボズゴロフからの援軍だった。
「迎撃用意!」
「ムチャです!現在半数以上の火器が使用不能です!これではディン3機相手に10分と保ちません!」
ナタルはマリューを見た。
修理は進み、バスターも回収、フラガも戻った今、艦が動ける事はわかっているのに、彼女があくまでもここに留まろうとする理由は一つしかない。
(ヤマトとケーニヒを探すつもりなのだ…バカなことを!)
ナタルは艦長を筆頭に非情な現実を受け止められないクルーに対し、心の中で毒づいた。
そして、まだキラたちを呼び続けるミリアリアの耳障りな声に「いい加減にしろ!ヤマト少尉、ケーニヒ二等兵は、共にMIAだ!」と怒りをぶつけてしまった。
少女の顔が驚きで見る見る青くなる。
「受け止めろ!割り切れなければ次に死ぬのは自分だぞ!」
サイは息を呑み、ミリアリアを見た。彼女が震えているのがわかる。
思わず「ミリィ」と声をかけたが、それ以上の気休めは言えなかった。
サイの目の前のモニターは、3機のディンの急接近を伝えているのだ。
「ディン接近!会敵まで11分!」
トノムラが伝え、艦長の判断を固唾を呑んで待つ。
「パワー、戻ります」
ノイマンがシフトレバーを力一杯押し入れながら言った。
警戒色で赤暗かったブリッジに光が戻り、停まっていた機関が再びうなりを上げ始めた。
「離床する。推力最大!」
マリューは静かに伝え、ノイマンはそれを復唱した。
ゆっくりとアークエンジェルが眼を醒ます。
エンジン音、反応ともに良好だ。
「2号機とストライクの最後の確認地点は?」
マリューは通信班に声をかけた。
チャンドラはデータを確認し、両者とも7時方向の小島であることを伝える。
「この状況で戻るなどできません!」
「でも…もしかしてキラもトールも脱出してたら!?」
ナタルの言葉に、サイがミリアリアをなだめると同時に、自身の心を慰めるためにも彼ら2人の安否について言及した。
ナタルは(どいつもこいつも死にたいのか!)と怒鳴りたい気持ちを押し殺した。
ヤマトは確かに貴重な戦力だが、状況が状況だ。
墜落し、やっと回収されたスカイグラスパー1号機も今すぐ飛べる状態ではない。
ナタルは防衛線を張れない艦に活路はないと知っていた。
ディンに3機も取りつかれたら逃げられない。
一刻も早くアラスカの防空圏、せめて地球軍の制空圏内に入らねばなるまい。
「艦長!クルー全員に死ねとおっしゃるつもりですか!?」
マリューは一度ふぅと息をつくと、落ち着いた声でアラスカへの打電を続けるよう伝えた。
そして、2人のロスト状況と島の位置、救援要請信号をオーブに出すように伝えた。
「艦長!」
「人命救助よ!オーブは請けてくれるわ!」
ナタルは怪訝そうな顔で抗議したが、マリューの怒鳴り声に黙り込んだ。
「ディン接近!距離8000!」
「機関最大!この空域からの離脱を最優先とする!」
身を引きちぎられる思いで、マリューは発進を決断した。
(どうか、キラさんたちを頼みます…ウズミ様、カガリくん、キサカ一佐…!)
アークエンジェルが全速前進で北上を始めると、ミリアリアは席を立った。
同じCICでもレーダー探知の仕事を受け持つサイは席を立てない。
「ミリィ!」と声をかけたものの、持ち場を離れるわけにはいかず、おろおろしながら見送るしかなかった。
動き出したアークエンジェルに、離脱を決めたか…とフラガは息をついた。
1号機は飛べないほどではないがダメージを受けている。
ハンガーには見慣れたストライクはなく、それどころか自分が撃ち抜いて右腕を失ったバスターがあった。
パイロットは武装解除され、パイロットスーツを脱がされて後ろ手に手錠をかけられていた。それは背が高く筋肉質で、浅黒い肌の青年だった。頭に怪我をしたのか血が流れた顔はコーディネイターらしく非常に端正だったが、フラガが想像した以上に若い。恐らく、キラとさほど変わらない年齢だろう。
その連行劇をじっと見ていると、相手も自分に気づいたようだった。
そしてフラガの後ろのスカイグラスパーを見て、面白そうに笑った。
「へぇ、あんたか…」
「黙って歩け!」
「やってくれたよねぇ、ったくさ」
フラガは、警護兵にどんと背中を押されて歩かされていく捕虜が、にやにや笑いながらハンガーを眺め回すのを見て、少し呆れていた。
(不敵なヤツだ)
彼が連行されてしまうと、あとは整備兵の怒鳴り声だけがこだまする。
戻らないストライクがいるべき場所を見ていたのは、フラガだけではなかった。
フレイはぽっかり空いたストライクの整備ハンガーフックと、その隣に立つボロボロのモビルスーツを見た。
(…赤いヤツじゃない)
それはキラの友達が乗っているという赤い機体…イージスではなかった。
(負けたのか…キラ…本気で戦えと言ったのに)
その時、後ろからフラリとミリアリアがやってきた。
その歩き方があまりにも頼りなげだったので、フレイは思わず「ミリアリア…」と名を呼んだ。ミリアリアは涙に濡れた青い瞳でフレイを見上げた。
「…トー…ル…」
フレイははっと息を呑む。
「…トールは?」
ここまで来る間にも、ハンガーのあちこちでも、「ケーニヒは撃墜されたんじゃないか?」と兵が噂している声が聞こえていた。
装甲の厚いストライクより、むしろ戦闘機の方が心配だ…とも。
「ミリアリア、きみ…」
「ねぇ、トールは…?」
ミリアリアはフレイの腕を掴むと、揺すりながら泣き出した。
「そんなはずないよ…MIAだなんて…そんなはず…だから…だから!」
―― トール…ッ!!!
フレイはミリアリアにされるがままになりながら、生意気で口の悪いトールを思い出していた。
(キラを庇うあいつとは、いつも喧嘩した…でも、俺はあいつを嫌いだったわけじゃないんだ…トール…)
床に崩れて泣きじゃくるミリアリアの腕を支えながら、フレイもまたうつむいたいたまま動けなかった。
(バカ野郎…おまえまで、コーディネイターなんかに殺されちまうなんて…!)
そんな2人を見て、フラガはやりきれなさに思わず眼を逸らす。
「くっそぉぉー!!」
そしてヘルメットを投げ飛ばし、壁を蹴り飛ばして自分の不甲斐なさと無力さへの怒りをぶつけた。
「艦長!」
バタバタバタバタ!と走ってくる足音が聞こえたので、艦長は振り返った。
「もういいのかね?」
答えるはずはないだろうが、と思いながら、艦長はぼさぼさ頭に包帯を巻いたイザークに尋ねた。
デュエルはかなり高度から落下したため、肋骨や鎖骨の損傷など比較的重い怪我をしているのだが、表情を見るにそんなことはお構いなしのようだ。
「アスランとディアッカは?艦が動いているな!状況はどうなっている?」
畳み掛けるように質問するイザークに、艦長は落ち着いて説明した。
「2人は不明だ。我々にはクルーゼ隊長から帰投命令が出ている」
「不明?」
イザークの顔色が変わる。
「不明とはどういうことだ!」
イザークは食いつかんばかりだ。その剣幕にオペレーターたちも思わず振り返る。艦長は手を上げて「落ち着きたまえ」と静かに言った。
「詳しい状況はわからん。まずバスターとの交信が途切れ、やがて大きな爆発を確認した後、イージスとの交信も途切れた」
「エマージェンシーはっ!?」
イザークは上ずった声で尋ねる。
「どちらからも出ていない」
艦長が言ったとおり、確かに何もわからない状況にさらに苛立つ。
「ストライクと足つきは!?」
「足つきはオズマン隊が追撃している」
艦長は機影を捉えたレーダーを示し、海図と併せてみせた。
ディン隊は帰投できるギリギリまで足つきを追う事になっている。
今取りうる最上の策を、老獪な艦長は完璧に手配していた。
イザークはそれでも「そんなバカな!」と喚いた。
自分しか戻っていないという現状に、どうしても納得できないようだ。
「すぐに艦を戻せ!あの2人がそう簡単にやられるか!伊達に赤を着ているわけじゃないんだぞ!!」
ザフトレッドの矜持を口にしながら仲間を案じるイザークに、艦長は温厚そうに見えながら、実に抜け目のない眼を向けた。
コーディネイターは比較的感情の安定している者が多いが、イザークのこの激情はどうしたことかと量りかねているようだ。
「ならば、状況判断も冷静にできるはずだがね」
艦長がその矜持をくすぐると、イザークはぐっと言葉に詰まった。
「我々は帰投を命じられたのだ。捜索には別部隊が出る」
「だが…!」
諦めきれないイザークが食い下がるので、艦長はもう一度駄目押しをした。
「オーブが動いているという報告もあるのだ。わかってもらえるかな?」
「…っ!!」
イザークはそれ以上は何も言えず、黙ってブリッジを出て行った。
「艦長」
ようやく騒ぎが収まったので副長が呼びかけると、老艦長は軽く首を傾げた。
「ふん…見かけによらず、随分と仲間想いのようだな」
艦長が気にしていたオーブはといえば、アークエンジェルからの救難要請を受けて即座に捜索隊を出していた。カガリはキサカと共にじきじきに現場に向かい、アカツキ島周辺の捜索にあたっている。
そして潜水夫が浮上すれば「いたか?」と聞き、ボートが戻ってくれば「どうだ?」と声をかけた。
やがて小さな島の海岸線で、赤い機体の残骸が発見された。
それは粉々に砕け散り、無残な姿を晒していた。
爆発の火炎が砂を焼き、浜辺が黒くなっている。
壮絶な戦いだったに違いない。
「赤の一人が自爆したのか?それでストライクを…」
これにはさしものキサカも渋い顔だった。
(これは、イージス…あいつが…)
カガリの脳裏に、あの美しい女兵士の姿が蘇った。
そのすぐ傍には、ストライクが座り込む形で放置されていた。
表面は思ったより損傷は少なかったが、かといってパイロットが無傷と思えるような状態ではなかった。カガリは思わず走り出した。
「…キラ…キラッ!!」
「よせ!カガリ!」
そこにあるむごい光景を思い、キサカはカガリを止めた。
しかしカガリは構わずストライクのコックピットを覗き込む。
無残に裂けたハッチは、イージスの攻撃によるものだろうか。
中は相当な熱さになったらしく、計器や強化プラスティックなど熱に弱いものが融け落ちている。シートもボロボロだったが、そこにキラはいない。
「キラ…あいつ…」
カガリは振り返ると、追いついてきたキサカに言った。
「もぬけの殻だ。飛ばされたのかもしれない…いや、脱出したのか!?」
キサカに絶望的な事を言われたくないカガリは、早口でそう喋ると、いてもたってもいられないというようにコックピットを飛び降りた。
そして走り回って、あたりにキラが脱出した痕跡がないか探し始めた。
「カガリ!もう…」
「死ぬわけないんだ、あいつがっ!!」
キサカはそんな彼の痛々しい姿を見ていたが、やがて別の方向から捜索員に呼ばれた。
「キサカ一佐!向こうの浜に!」
やがて2人は捜索員と共にボートに乗りこんで少し先にある島に向かった。
カガリはまだ舟が浜にも着かないうちに飛び降りて浅瀬をザブザブと歩き、捜索員が銃を向けている人影に近づいた。
(キラ…キラであってくれ!)
彼らはカガリに道を開け、分け入った彼ははっと息を呑んだ。
「…こいつは…」
それはひどく傷つき、気を失ったアスランだった。
真っ白い浜辺に横たわったアスランを、オーブの美しい海が洗っていた。
眩しい光が眼に刺さり、アスランは「う…」と呻いた。
堅く閉じられていた瞼を開けると、飛び込んできたのは白い天井と、長い影が落ちた壁…そして眼を刺した強い日差しだと思ったそれが、既に沈みかけた、オレンジ色の柔らかい夕陽だったことに気づいた。
左腕が動かず、胸部にひどい痛みが走って、息をすると苦しい。
足は動くが、腰も背中もギシギシと音を立てそうなくらい堅く、痛んだ。
アスランはもう一度眼を閉じ、痛みが去るのを待って、再び眼を開けた。
「気がついたか?」
その時、逆光の中に人影らしきものが動いた。
アスランは眩しさに眼を細め、声の主を視界に捉えようとした。
「ここはオーブの飛行艇の中だ」
影の中から現れたのは、カガリ・ユラ・アスハだった。
「俺たちは浜に倒れていたおまえを発見して収容した」
(オーブ…飛行艇……浜で…収容…なぜ?)
アスランは混乱する頭で彼の言葉を理解しようとしたが、うまくいかない。
不用意に喋ろうとすると胸部に痛みが走ると気づき、少し息を整える。
やがて意識が鮮明になり、忌わしい記憶が蘇ってきた。自分は戦ったのだ…キラと…
「痛みはあるか?」
彼は淡々とした声で訊ねたが、何も答えないアスランには構わず、まだ少し残る痛み止めの点滴を調節した。
アスランは眼を閉じて顔を軽く背けると、皮肉交じりに言った。
「…中立のオーブが、私に何の用?それとも、今は地球軍なの?」
もう何もかもどうでもよかった。
「ったく…意地っ張りだな、おまえは…」
呆れ顔をしてから、カガリは横たわるアスランを見下ろしたまま尋ねた。
「聞きたいことがある。ストライクをやったのはおまえだな?」
アスランは突然突きつけられた現実に思わず息が詰まった。
「…ええ」
ほっと息をつくと、カガリはアスランを覗き込んだ。
「パイロットはどうした?おまえのように脱出したのか?それとも…」
アスランはあの時の状況を思い浮かべた。
(キラは、コックピットの中で動けなかった…私を見て、眼を見開いて、そしてそのまま…)
「見つからないんだ、キラが…なんとか言え!」
何も言わないアスランに苛立ち、カガリが少し声の調子を強めた。
「あの子は…私が殺した」
アスランは言いたくなかった言葉を、カガリが聞きたくなかった言葉を告げた。
「殺した…私が。イージスで組みついて、自爆した」
淡々とアスランが語る。まるで他人事のように。
「脱出できたとは思えない」
ストライクはイージスのクローで完全にロックされ、動けなかった。
そして自分は、キラが脱出できる時間すら与えなかったのだ。
与えることができたのに…手は差し伸べられなかったけれど、それでも可能性を残す事はできたのに…
「それしかもう…手がなかった…あの子を倒すには…」
アスランは自身の罪を告白し終わると眼を閉じた。
カガリは顔を上げると、ゆっくりと背中に手を回し、腰に差した銃を掴んだ。
そして無言のまま銃を構えると、アスランに向けた。
(こいつが…キラを…キラを殺した!)
青白く、やつれきった顔…疲弊し、擦り切れた心が見て取れる。
カガリは唇を噛み締めながらトリガーに指をかけた。
「でも…何で私…生きてるんだろう?」
次の瞬間、ぽつりとアスランが呟いたので、カガリはギクリとした。
「あの時、脱出しちゃったから?」
あんなところにキラを置き去りにして、自分だけ…逃げた自分。
「それとも、あなたが…私を撃つから…?」
「…おまえっ!!」
自暴自棄のように呟いたその言葉に激しい怒りを覚え、カガリは思わずアスランの右肩を掴んで乱暴に引き起こした。
点滴用のガートルがガチャンと音を立て、腕と繋いだ管が大きく揺れる。
アスランは思わぬ激痛に呼吸もできずに呻いたが、声は出さなかった。
「ふざけるなっ!」
そのまま彼女の顎先に銃を向けて叫ぶ。
「…おまえ、俺に殺して欲しいのか?キラを殺したから、今度は自分を殺してくれって言うのか!?」
アスランは何も答えない。はらりと落ちた藍色の髪が表情を隠した。
「キラは…危なっかしくて、わけわかんなくて…すぐ泣いて!でも優しい……いいヤツだったんだぞ!」
カガリは言っても詮のないことと思いながら、眼の前の彼女にやりきれなさをぶつけた。
しかしそれに対するアスランの言葉は思いもかけないものだった。
「知ってる…」
「…え?」
カガリは思わず聞き返す。
「やっぱり変わってない…昔からそう…あの子は…」
「おまえ…」
「泣き虫で、甘ったれで…優秀なのに、いい加減で…」
アスランは俯いたまま呟き続けた。
その声はどこか優しさを含み、楽しそうでさえあった。
「…キラを…知ってるのか?」
カガリはそう言って銃を下げ、同時にアスランは顔を上げた。
「知ってる…よく」
アスランの視線が、いぶかしむ美しい琥珀の瞳とぶつかった。
「小さい頃から、ずっと。友達だったのよ…仲良かったわ」
アスランの瞳からはすーっと一筋の涙が流れた。
カガリはそれを見て、アスランの言っている事が真実なのだと確信した。
(キラと…知り合い?)
しかも、仲が良くて、小さい頃からずっと一緒だった…友達だという。
「…そんな…だって、あいつ…そんなこと一言も…」
呆然としたカガリの脳裏に、寂しそうなキラの笑顔が蘇った。
(キラ…!)
ナチュラルとコーディネイターの狭間に立ち、仲間を守るためとはいえ同じコーディネイターと戦い、しかもその相手が…友達だったなんて…
カガリは幼馴染に討たれて果てたキラの孤独と哀しみを想うと、どうしても目の前のアスランに食って掛からずにはいられなかった。
「それで、なんで…おまえがあいつを殺すんだよ!?」
カガリはこれ以上言ってはいけないと自分を律しようとはした。
けれど止まらない。
溢れる感情を今は止めようがなかった。
「キラはっ…きっと、おまえと戦うことに苦しんでいただろうに…」
「…っ!」
「なんで…そんなキラを殺した!?友達のくせにっ!」
カガリの言葉で傷ついた心をさらに深く抉られたアスランは、涙で一杯の瞳で彼を睨みつけた。
「わからない!わからないのよ!私にも!」
叫ぶと同時に、見開かれた眼から再び涙が溢れた。
「別れて…次に会った時には敵だった!」
「…敵?」
今度は逆に、アスランが動かせる右の腕でカガリの左腕を掴んだ。
「一緒に来いと何度も言ったわ!あの子はコーディネイターよ!私たちの仲間なの!地球軍にいることの方がおかしい!だから…」
彼の半袖のシャツから剥き出しの腕に彼女の爪が食い込んだが、逆にその痛みのおかげで少し気持ちが落ち着いたカガリは訊ねた。
「おまえ…キラを取り戻そうとしたのか?キラと戦いたくないからって…」
アスランは小さく頷き、それから「…でも、ダメだった」と絞り出すように言った。
「あの子は聞かなくて…私たちと戦って…仲間を傷つけて…ニコルを殺した!」
「ニコル…」
カガリは聞き覚えのない名を繰り返した。
(そういえば、オーブ沖の戦いでブリッツが破壊されたと聞いた。ニコルというのは…多分、こいつの目の前で…)
「だから…キラを殺したのか?」
カガリは少し声のトーンを落として聞いた。
いつの間にか掴まれたままの彼の左腕は、アスランの右腕を支える形になっている。
「その…ニコルのために?ニコルを殺されたから、キラを殺せば気が済むのか?」
「敵だからよ!」
アスランは涙で濡れた顔をカガリに向けた。
「今のあの子は…もう…なら倒すしかないじゃない!」
カガリは苦しげに顔を歪めて叫ぶアスランから眼を逸らした。
(なんだよ…なんなんだよこれ…おかしいだろう、こんなの…)
「バカ野郎…」
カガリは銃を置くと彼女の手から腕を抜き、ベッドに腰を下ろした。
「なんでそんなことになる?なんでそんなことしなきゃならないんだ」
そして殺風景な床を見つめると、心底呆れたように、溜息混じりに呟いた。
「そんな事、したいとも思ってないくせに…おまえたちは、バカだ」
「あの子はニコルを殺した!」
アスランは身を乗り出してもう一度繰り返した。
「それは…」
「いつも優しくて、イザークやディアッカの意地悪からも庇ってくれて…!」
カガリの言葉を遮り、アスランは息をつく間もなくまくしたてた。
落ち着いたカガリの声が思った以上に穏やかだったせいか、それともこれまで押し隠していた感情が噴き出したためか、言葉が止まらなくなっていた。
「ピアノが好きで…まだ15で…それでもプラントを守るために戦ってたあの子を!」
「キラだって…守りたいもののために戦っただけだ」
彼女の言葉を静かに聞いていたカガリは、膝の上で手を組み合わせた。
「キラはいつだって守らなきゃいけなかった…仲間たちのことを。おまえと戦ってまで、キラにはやらなきゃいけないことがあったんだ」
彼は友達の恋人を取り合って喧嘩していたキラを思い出していた。
(誰かに優しくされたくて、愛されたくて、友達を傷つけて…)
あいつはずっと、たった1人で戦って、たった1人で泣いていた。
抱き締めた彼女は小さくて、はかなくて、誰かを守るどころか逆に守ってやらなければならないほど弱々しかった。それでもキラは、誰にも何も言わずに戦っていたのだ。
「なのに…なんで殺されなきゃならない?それも友達のおまえに…」
アスランは呟くように言うカガリを見つめた。
―― キラだって、戦う理由があった…
(そうだ、あの子は何度もそう言っていた)
イージスで鹵獲しようとした時も、ラクスを返してくれたあの時も、あの艦には、守りたい人がいると…それがキラの、戦う理由だった。
「…キラ」
アスランは右手でシーツをつかみ、体を折り曲げて泣き出した。
そして、小さい声で「ごめん、ごめん…」と呟き続けた。
「…キラ…もう会えない…話すこともできない…謝れない…」
カガリはそんな彼女に触れようとしたが、思いなおしてそのまま手を下ろした。
傷ついた彼女を慰め、優しく抱いてやる腕など今の自分にはないと思ったからだ。
そして下ろしたその手を拳にすると、片方の掌にパシッと打ち合わせた。
「殺されたから殺して、殺したから殺されて…」
カガリは自分自身に問いかけるように呟いた。
アフメドが、死んでいった多くの「明けの砂漠」の仲間たちが、ヘリオポリスの住人が、バルトフェルドとアイシャが心をよぎり、去って行く。最後に、互いに背を向けて立つキラとアスランが残った。
「…それでほんとに、最後は平和になるのかよ?」
カガリは負の連鎖を説いた父の言葉を噛みしめながら、声すら出さずに泣き続けるアスランを見つめていた。
「守備隊、ブルーリーダーより入電。我是ヨリ、離脱スル」
「援護を感謝すると伝えて」
アラスカ防空圏内に入ったアークエンジェルは順調な航行を続けていた。
追われる彼らのために、アラスカは戦闘機を派遣して援護してくれた。
守備隊が去った今は、カリフォルニア沖をさらに北上中だ。
「あ…第18レーダーサイト…より、船籍照合」
カズイはおずおずとデータを送っていいんですか?と聞いた。
「アラスカへは初入港ですものね。データを送って。問題はないと思うわ」
ディンは北回帰線に到達するところまで追撃してきたが、守備隊の出現を知ると交戦することなく退いていった。
ザフトの制空権が失われ、潜水母艦からも離れたここで戦うことは得策ではない。
サイはアラスカの影響力の強さに、しみじみと感じ入った。
インド洋から南氷洋、太平洋の一部を抑えるカーペンタリアもすごいと思ったけど、パナマ、アラスカで広大な南北太平洋と、ジブラルタルに奪われているとはいえ、大西洋の半分を抑えている地球軍のことを、頼もしく思わずにはいられない。
そしてこんな風に世界地図を按分する自分を、なんだか軍人が板についちゃったな…と自嘲気味に笑いながら。
「いつまでしゃべっている!まだ第二戦闘配備だぞ」
ナタルがクルーを叱り飛ばすと、マリューはいけない、と気づいた。
「あ、ごめんなさい。もう大丈夫よね。半舷休息とします」
第二戦闘配備が解除され、艦内の空気がふっと緩む。
しかしマリューにはもう一つ、問題が飛び込んできた。
「少佐!発進は許可いたしません。整備班をもう休ませてください」
艦長席をナタルに頼み、マリューはハンガーまでやってきた。
「オーブからは、まだ何も言ってきてないんだろ?」
フラガは振り向きもせずに言う。
マードックが休憩に入ったため、さっからスカイグラスパーを出せと言われて困っていた整備兵が助けを求めるように艦長を見た。
「艦はもう大丈夫なんだ。ならいいじゃねぇかよ!」
マリューはフラガの気持ちがわかるだけに、尚更許可などできない。
「今の状況で、少佐を1機で出すようなことはできません!今はオーブと、キラさんたちを信じましょう」
そこまで言うと、それに…と、マリューはうつむいた。
「もしそれで、あなたまで戻ってこなかったら、私は…」
フラガはその言葉に息を呑み、眉をひそめると「わかった」と答えた。
一方サイは休息をもらうと、すぐにミリアリアの元に向かった。
ナタルからはキラとトールの遺品の整理を、と頼まれている。
キラの分はフレイに頼むか自分がやってもいいけど、トールの分はミリアリアに気づかれないように、後でカズイにやってもらおう…そう思ったその時、サイの足が止まった。目の前に、フレイがいた。
「フレイ…」
「キラ…戻ってこないんだってな」
フレイはチラッとサイを見ると言った。
「ええ。そうよ」
サイは眼を背けた。
フレイもきっと、ミリアリアのように辛いに違いない…好きな人を失ったら、誰だって苦しいはずだ。
「死んだのかな、あいつ」
けれどフレイのその言葉に驚き、サイはもう一度フレイを見た。
フレイは表情を変えず、そのままサイの横を通り過ぎた。
「本気で戦わないからだよ…バカなヤツ」
サイは驚愕の表情のまま、すたすたと立ち去る彼を見送った。
一方ミリアリアは部屋を出てとぼとぼと歩いていた。
どこにいてもトールの面影が強すぎて、居場所がない。
やがてサイがそんなミリアリアを見つけ、声をかけた。
「トールから連絡は?」
ミリアリアが弱々しく聞く。
「まだ…でも大丈夫、きっと!艦長がオーブに捜索を頼んでる…本部へ行けば、なにかわかるかもしれないし」
「そう…そうよね…そんなはずないもの」
その時、廊下の向こう側がなんとなくざわめいた。
「なんだよ、そうつっつくなよ」
若い男が何やらしきりに文句を言っているようだ。
それは投降したバスターのパイロットだった。
「ケガ人だぞ、俺は!ったく、いつまで放っておく気だったんだよ」
(コーディネイター)
(バスターの…)
(ほら、少佐が…)
そんな周囲のヒソヒソ声を聞き、ディアッカはさらに挑発的に文句を言ってはうるさいと怒鳴られた。
サイはミリアリアと一緒にすぐ傍にいたノイマンの元に向かった。
「あれ、バスターの?」
「ああ。これから副長の取調べだそうだ」
サイはミリアリアを庇うようにしながら若い男を見た。
しかしディアッカはサイの後ろで眼を逸らしたミリアリアを見て、(お、なかなか可愛いじゃん)と思い、いたずら心を疼かせた。
「へぇ~!この艦ってこんな女の子も乗ってんの?」
手錠をかけられたディアッカはミリアリアを覗き込んで言った。
まだ涙を残していたミリアリアは怯えて、思わずサイの陰に隠れた。
サイも(何、こいつ…)とディアッカを睨みつける。
「こら、さっさと歩け!」
立ち止まったディアッカを、連行している兵が後ろから小突いた。
「へいへい、行きますよ」
ディアッカはそう言ってもう一度ミリアリアを見てニヤリと笑った。
「バッカみてぇ。何泣いてんだよ。泣きたいのはこっちだっつーの!」
「な…ちょっと!」
その不遜な態度に憤り、サイは思わずディアッカの袖を掴もうとしてノイマンに止められた。
「よせよ!捕虜への暴行は禁止されている」
「ぼ、暴行!?」
サイは憤慨した。
「そんな!私はただ、あいつに謝らせたいだけです!」
けれどノイマンはしっと口に指を当て、首を振るばかりだ。
「謝らせてください!あんな事、言わせておくなんておかしい!」
彼女はさらに抗議したが、ノイマンは「規則だから」とたしなめた。
一方、ミリアリアは去って行った捕虜をじっと睨んでいた。
フレイもまた、そんなミリアリアの様子を窺っていた。
オーブ沖で停泊を続けていた飛行艇アルバトロスでは、扉を開けてキサカがカガリを呼んだ。カガリは彼と二言三言かわすと頷いて振り返った。
「アスラン…ほら、迎えだ…」
カガリはさっきからずっと壁際に体を預けたまま、口も利かず、眠りもせず、呆けたような表情をしているアスランに声をかけた。
美しい長い髪はもつれて散らばり、虚ろな瞳はどこを見ているのかもわからない。
カガリの声を聞いても、まるで子供のように彼を見ているだけだ。
「ザフトの軍人では、オーブには連れて行けないんだ」
カガリはアスランに歩み寄ると、「ごめんな」と言った。
「けどおまえも、仲間のところに帰る方がいいだろ?」
カガリは、返事もせず眼だけこっちに向けている彼女を見て少し不安になったが、かき集めて準備した着替えを指し示した。
「俺は部屋を出るから、自分であれを着ろ。着られるな?」
「…」
しかし聞こえているはずなのにアスランの反応はほとんどない。
何度声をかけても立ち上がろうともしない彼女を見て、カガリはついに実力行使に出た。
「ったく、もう!」
カガリはシーツを剥ぎ取ると、アスランの背中を抱いて足を下ろさせた。
彼女はアンダースーツ姿だったので素肌に触れるのはためらわれたが、恥ずかしがりもせず素直に従うアスランに、またため息をついた。
「くそ、おまえ、大丈夫か?」
仕方なく着替えさせてくれるカガリを見ながら、アスランは突然ふっと笑った。
「やっぱり…変なやつ…あんたって…」
なるべく細身を選んで持ってきたパンツの裾に、彼女の細い足を通すのに四苦八苦しながら、カガリは「はぁ!?」と答えた。
「おまえの方がよっぽど変だろうが!…くそ、何だよ、この靴は!」
大き過ぎる靴を履かせながらブツブツ言っているカガリを見て、アスランはまた笑った。
「ありがとう、って言うのかな?今は…よくわからないけど…」
折れた左腕を吊ったアスランは、最後に肩からコートをかけてもらうと呟いた。
そのいかにも頼りなさそうな姿を見て気になったカガリは、扉をくぐって出て行こうとするアスランを呼び止めた。
「ちょっと待て!」
そして首から下がったペンダントを外した。
それはアフメドが綺麗な石だと言って欲しがっていた、オーブ人の守り神の石だった。
カガリがその淡いピンク色の石をアスランの首にかけてやると、彼女は胸に下がった石を見て、それから再びカガリを見つめた。
「ハウメアの護り石だ。おまえ、危なっかしい。護ってもらえ」
「キラを殺したのに?」
自虐的なアスランを、カガリは「やめろ」と言って睨んだ。
「もう、誰にも死んで欲しくない」
アスランはその琥珀色の瞳を、やはりとても美しいと思った。
「貴様!どのツラ下げて戻って来やがった!」
迎えに来たザフトのランチからは赤服を着た若い男が怒鳴っている。
「なんか、随分怒ってるな」
カガリは苦笑し、じゃあなと手を振ってアスランを送り出した。
アスランは乗組員に助けられてボートからランチに乗り移ったが、イザークも手を差し出してその背を支え、奥まで押し込んでやった。
「ありがとう」
痛みに顔を歪めているアスランを見て、彼女の負った傷が深いことがわかる。
「ストライクは、討ったわ」
アスランはすれ違いざまにそう呟くと、イザークは軽く頷いた。
ニコルに続いて仲間が2人も戻らない事を心配していたイザークにとって、数時間前のオーブからの秘匿通信は心からの安堵をもたらしたのだ。
医務室へ向かうアスランを見送ったイザークは、密かにほっとしたような顔で笑った。
明るいけれど、砂漠の太陽よりはずっと優しい光が眼に飛び込んできた。
(ここは…?)
見慣れないガラス張りの屋根を見て、ここはどこだろうと思う。
「眼が醒めたね?」
その声は優しくキラに話しかけた。
「おはよう、眠り姫さん」
傍らで、ラクス・クラインが微笑んでいた。
「今の爆発音は? 」
「爆発はわかりません。ですが現在、ストライク、スカイグラスパー2号機、共に全ての交信が途絶です」
マリューがそう答えた後、ナタルは応答を求めるミリアリアの肩を叩いた。
「もうやめろ」
そして艦長に向き直り、艦の被害状況を確認するよう要請した。
アークエンジェルがここで動けなくなっては、捜索すらもできない。
バスターのこともある。フラガも一刻も早く回収しなければなるまい。
それでも指示を下せないままのマリューにナタルが怒鳴る。
「ここで惚けていても、どうにもなりません!」
マリューははっとして、すぐにマードックに連絡を取った。
「そう酷くはねぇです」
マードックはモニターを見ながら機関部位の焼ききれた接続状況を確認していた。大分傷んではいるが、オーブの技師は優秀だった。
「ホースブラケットの応急処置さえ終わりゃ飛べまさぁ!」
続いてマリューはバスターに向けて兵の派遣手配をした。
バギーを出し、数人が銃を抱えてディアッカの確保に向かう。
ゴットフリートは照準をあわせたまま、兄弟機であるストライクと同じチャンネルを利用して、抵抗しないよう通告し、武装を全て解除すること、条約に則って捕虜として扱うことなどを伝えた。
「了解した。そちらの指示に従う」
そう答えた声は、驚くほど若かった。
武装兵がパイロットを確保する間、整備兵たちはバスターの駆動を確認していた。
「回収するんですか?」
「もともとこっちのもんだ。置いてってまた使われたらしゃくだろうが」
緊急事態なので仕方がないとはいえ、重機でかなり乱暴にバスターを引っ張り上げると、まるで死体のように機体をトレーラーに横たえた。
事後処理は着々と進むが、キラとトールの捜索は頓挫したままだった。
「あっ!!ろ、6時の方向、レーダーに機影!」
やがて沈黙を破り、カズイが震える声で告げた。
(なんだよぅ、こんな時に…!)
「か、数は、3…」
「ディンです!会敵予測、15分後!」
トノムラがライブラリ照合の結果を伝える。
連絡のないアスランたちを心配したか、無事なはずのイザークが連絡したのか、間違いなく彼らの母艦ボズゴロフからの援軍だった。
「迎撃用意!」
「ムチャです!現在半数以上の火器が使用不能です!これではディン3機相手に10分と保ちません!」
ナタルはマリューを見た。
修理は進み、バスターも回収、フラガも戻った今、艦が動ける事はわかっているのに、彼女があくまでもここに留まろうとする理由は一つしかない。
(ヤマトとケーニヒを探すつもりなのだ…バカなことを!)
ナタルは艦長を筆頭に非情な現実を受け止められないクルーに対し、心の中で毒づいた。
そして、まだキラたちを呼び続けるミリアリアの耳障りな声に「いい加減にしろ!ヤマト少尉、ケーニヒ二等兵は、共にMIAだ!」と怒りをぶつけてしまった。
少女の顔が驚きで見る見る青くなる。
「受け止めろ!割り切れなければ次に死ぬのは自分だぞ!」
サイは息を呑み、ミリアリアを見た。彼女が震えているのがわかる。
思わず「ミリィ」と声をかけたが、それ以上の気休めは言えなかった。
サイの目の前のモニターは、3機のディンの急接近を伝えているのだ。
「ディン接近!会敵まで11分!」
トノムラが伝え、艦長の判断を固唾を呑んで待つ。
「パワー、戻ります」
ノイマンがシフトレバーを力一杯押し入れながら言った。
警戒色で赤暗かったブリッジに光が戻り、停まっていた機関が再びうなりを上げ始めた。
「離床する。推力最大!」
マリューは静かに伝え、ノイマンはそれを復唱した。
ゆっくりとアークエンジェルが眼を醒ます。
エンジン音、反応ともに良好だ。
「2号機とストライクの最後の確認地点は?」
マリューは通信班に声をかけた。
チャンドラはデータを確認し、両者とも7時方向の小島であることを伝える。
「この状況で戻るなどできません!」
「でも…もしかしてキラもトールも脱出してたら!?」
ナタルの言葉に、サイがミリアリアをなだめると同時に、自身の心を慰めるためにも彼ら2人の安否について言及した。
ナタルは(どいつもこいつも死にたいのか!)と怒鳴りたい気持ちを押し殺した。
ヤマトは確かに貴重な戦力だが、状況が状況だ。
墜落し、やっと回収されたスカイグラスパー1号機も今すぐ飛べる状態ではない。
ナタルは防衛線を張れない艦に活路はないと知っていた。
ディンに3機も取りつかれたら逃げられない。
一刻も早くアラスカの防空圏、せめて地球軍の制空圏内に入らねばなるまい。
「艦長!クルー全員に死ねとおっしゃるつもりですか!?」
マリューは一度ふぅと息をつくと、落ち着いた声でアラスカへの打電を続けるよう伝えた。
そして、2人のロスト状況と島の位置、救援要請信号をオーブに出すように伝えた。
「艦長!」
「人命救助よ!オーブは請けてくれるわ!」
ナタルは怪訝そうな顔で抗議したが、マリューの怒鳴り声に黙り込んだ。
「ディン接近!距離8000!」
「機関最大!この空域からの離脱を最優先とする!」
身を引きちぎられる思いで、マリューは発進を決断した。
(どうか、キラさんたちを頼みます…ウズミ様、カガリくん、キサカ一佐…!)
アークエンジェルが全速前進で北上を始めると、ミリアリアは席を立った。
同じCICでもレーダー探知の仕事を受け持つサイは席を立てない。
「ミリィ!」と声をかけたものの、持ち場を離れるわけにはいかず、おろおろしながら見送るしかなかった。
動き出したアークエンジェルに、離脱を決めたか…とフラガは息をついた。
1号機は飛べないほどではないがダメージを受けている。
ハンガーには見慣れたストライクはなく、それどころか自分が撃ち抜いて右腕を失ったバスターがあった。
パイロットは武装解除され、パイロットスーツを脱がされて後ろ手に手錠をかけられていた。それは背が高く筋肉質で、浅黒い肌の青年だった。頭に怪我をしたのか血が流れた顔はコーディネイターらしく非常に端正だったが、フラガが想像した以上に若い。恐らく、キラとさほど変わらない年齢だろう。
その連行劇をじっと見ていると、相手も自分に気づいたようだった。
そしてフラガの後ろのスカイグラスパーを見て、面白そうに笑った。
「へぇ、あんたか…」
「黙って歩け!」
「やってくれたよねぇ、ったくさ」
フラガは、警護兵にどんと背中を押されて歩かされていく捕虜が、にやにや笑いながらハンガーを眺め回すのを見て、少し呆れていた。
(不敵なヤツだ)
彼が連行されてしまうと、あとは整備兵の怒鳴り声だけがこだまする。
戻らないストライクがいるべき場所を見ていたのは、フラガだけではなかった。
フレイはぽっかり空いたストライクの整備ハンガーフックと、その隣に立つボロボロのモビルスーツを見た。
(…赤いヤツじゃない)
それはキラの友達が乗っているという赤い機体…イージスではなかった。
(負けたのか…キラ…本気で戦えと言ったのに)
その時、後ろからフラリとミリアリアがやってきた。
その歩き方があまりにも頼りなげだったので、フレイは思わず「ミリアリア…」と名を呼んだ。ミリアリアは涙に濡れた青い瞳でフレイを見上げた。
「…トー…ル…」
フレイははっと息を呑む。
「…トールは?」
ここまで来る間にも、ハンガーのあちこちでも、「ケーニヒは撃墜されたんじゃないか?」と兵が噂している声が聞こえていた。
装甲の厚いストライクより、むしろ戦闘機の方が心配だ…とも。
「ミリアリア、きみ…」
「ねぇ、トールは…?」
ミリアリアはフレイの腕を掴むと、揺すりながら泣き出した。
「そんなはずないよ…MIAだなんて…そんなはず…だから…だから!」
―― トール…ッ!!!
フレイはミリアリアにされるがままになりながら、生意気で口の悪いトールを思い出していた。
(キラを庇うあいつとは、いつも喧嘩した…でも、俺はあいつを嫌いだったわけじゃないんだ…トール…)
床に崩れて泣きじゃくるミリアリアの腕を支えながら、フレイもまたうつむいたいたまま動けなかった。
(バカ野郎…おまえまで、コーディネイターなんかに殺されちまうなんて…!)
そんな2人を見て、フラガはやりきれなさに思わず眼を逸らす。
「くっそぉぉー!!」
そしてヘルメットを投げ飛ばし、壁を蹴り飛ばして自分の不甲斐なさと無力さへの怒りをぶつけた。
「艦長!」
バタバタバタバタ!と走ってくる足音が聞こえたので、艦長は振り返った。
「もういいのかね?」
答えるはずはないだろうが、と思いながら、艦長はぼさぼさ頭に包帯を巻いたイザークに尋ねた。
デュエルはかなり高度から落下したため、肋骨や鎖骨の損傷など比較的重い怪我をしているのだが、表情を見るにそんなことはお構いなしのようだ。
「アスランとディアッカは?艦が動いているな!状況はどうなっている?」
畳み掛けるように質問するイザークに、艦長は落ち着いて説明した。
「2人は不明だ。我々にはクルーゼ隊長から帰投命令が出ている」
「不明?」
イザークの顔色が変わる。
「不明とはどういうことだ!」
イザークは食いつかんばかりだ。その剣幕にオペレーターたちも思わず振り返る。艦長は手を上げて「落ち着きたまえ」と静かに言った。
「詳しい状況はわからん。まずバスターとの交信が途切れ、やがて大きな爆発を確認した後、イージスとの交信も途切れた」
「エマージェンシーはっ!?」
イザークは上ずった声で尋ねる。
「どちらからも出ていない」
艦長が言ったとおり、確かに何もわからない状況にさらに苛立つ。
「ストライクと足つきは!?」
「足つきはオズマン隊が追撃している」
艦長は機影を捉えたレーダーを示し、海図と併せてみせた。
ディン隊は帰投できるギリギリまで足つきを追う事になっている。
今取りうる最上の策を、老獪な艦長は完璧に手配していた。
イザークはそれでも「そんなバカな!」と喚いた。
自分しか戻っていないという現状に、どうしても納得できないようだ。
「すぐに艦を戻せ!あの2人がそう簡単にやられるか!伊達に赤を着ているわけじゃないんだぞ!!」
ザフトレッドの矜持を口にしながら仲間を案じるイザークに、艦長は温厚そうに見えながら、実に抜け目のない眼を向けた。
コーディネイターは比較的感情の安定している者が多いが、イザークのこの激情はどうしたことかと量りかねているようだ。
「ならば、状況判断も冷静にできるはずだがね」
艦長がその矜持をくすぐると、イザークはぐっと言葉に詰まった。
「我々は帰投を命じられたのだ。捜索には別部隊が出る」
「だが…!」
諦めきれないイザークが食い下がるので、艦長はもう一度駄目押しをした。
「オーブが動いているという報告もあるのだ。わかってもらえるかな?」
「…っ!!」
イザークはそれ以上は何も言えず、黙ってブリッジを出て行った。
「艦長」
ようやく騒ぎが収まったので副長が呼びかけると、老艦長は軽く首を傾げた。
「ふん…見かけによらず、随分と仲間想いのようだな」
艦長が気にしていたオーブはといえば、アークエンジェルからの救難要請を受けて即座に捜索隊を出していた。カガリはキサカと共にじきじきに現場に向かい、アカツキ島周辺の捜索にあたっている。
そして潜水夫が浮上すれば「いたか?」と聞き、ボートが戻ってくれば「どうだ?」と声をかけた。
やがて小さな島の海岸線で、赤い機体の残骸が発見された。
それは粉々に砕け散り、無残な姿を晒していた。
爆発の火炎が砂を焼き、浜辺が黒くなっている。
壮絶な戦いだったに違いない。
「赤の一人が自爆したのか?それでストライクを…」
これにはさしものキサカも渋い顔だった。
(これは、イージス…あいつが…)
カガリの脳裏に、あの美しい女兵士の姿が蘇った。
そのすぐ傍には、ストライクが座り込む形で放置されていた。
表面は思ったより損傷は少なかったが、かといってパイロットが無傷と思えるような状態ではなかった。カガリは思わず走り出した。
「…キラ…キラッ!!」
「よせ!カガリ!」
そこにあるむごい光景を思い、キサカはカガリを止めた。
しかしカガリは構わずストライクのコックピットを覗き込む。
無残に裂けたハッチは、イージスの攻撃によるものだろうか。
中は相当な熱さになったらしく、計器や強化プラスティックなど熱に弱いものが融け落ちている。シートもボロボロだったが、そこにキラはいない。
「キラ…あいつ…」
カガリは振り返ると、追いついてきたキサカに言った。
「もぬけの殻だ。飛ばされたのかもしれない…いや、脱出したのか!?」
キサカに絶望的な事を言われたくないカガリは、早口でそう喋ると、いてもたってもいられないというようにコックピットを飛び降りた。
そして走り回って、あたりにキラが脱出した痕跡がないか探し始めた。
「カガリ!もう…」
「死ぬわけないんだ、あいつがっ!!」
キサカはそんな彼の痛々しい姿を見ていたが、やがて別の方向から捜索員に呼ばれた。
「キサカ一佐!向こうの浜に!」
やがて2人は捜索員と共にボートに乗りこんで少し先にある島に向かった。
カガリはまだ舟が浜にも着かないうちに飛び降りて浅瀬をザブザブと歩き、捜索員が銃を向けている人影に近づいた。
(キラ…キラであってくれ!)
彼らはカガリに道を開け、分け入った彼ははっと息を呑んだ。
「…こいつは…」
それはひどく傷つき、気を失ったアスランだった。
真っ白い浜辺に横たわったアスランを、オーブの美しい海が洗っていた。
眩しい光が眼に刺さり、アスランは「う…」と呻いた。
堅く閉じられていた瞼を開けると、飛び込んできたのは白い天井と、長い影が落ちた壁…そして眼を刺した強い日差しだと思ったそれが、既に沈みかけた、オレンジ色の柔らかい夕陽だったことに気づいた。
左腕が動かず、胸部にひどい痛みが走って、息をすると苦しい。
足は動くが、腰も背中もギシギシと音を立てそうなくらい堅く、痛んだ。
アスランはもう一度眼を閉じ、痛みが去るのを待って、再び眼を開けた。
「気がついたか?」
その時、逆光の中に人影らしきものが動いた。
アスランは眩しさに眼を細め、声の主を視界に捉えようとした。
「ここはオーブの飛行艇の中だ」
影の中から現れたのは、カガリ・ユラ・アスハだった。
「俺たちは浜に倒れていたおまえを発見して収容した」
(オーブ…飛行艇……浜で…収容…なぜ?)
アスランは混乱する頭で彼の言葉を理解しようとしたが、うまくいかない。
不用意に喋ろうとすると胸部に痛みが走ると気づき、少し息を整える。
やがて意識が鮮明になり、忌わしい記憶が蘇ってきた。自分は戦ったのだ…キラと…
「痛みはあるか?」
彼は淡々とした声で訊ねたが、何も答えないアスランには構わず、まだ少し残る痛み止めの点滴を調節した。
アスランは眼を閉じて顔を軽く背けると、皮肉交じりに言った。
「…中立のオーブが、私に何の用?それとも、今は地球軍なの?」
もう何もかもどうでもよかった。
「ったく…意地っ張りだな、おまえは…」
呆れ顔をしてから、カガリは横たわるアスランを見下ろしたまま尋ねた。
「聞きたいことがある。ストライクをやったのはおまえだな?」
アスランは突然突きつけられた現実に思わず息が詰まった。
「…ええ」
ほっと息をつくと、カガリはアスランを覗き込んだ。
「パイロットはどうした?おまえのように脱出したのか?それとも…」
アスランはあの時の状況を思い浮かべた。
(キラは、コックピットの中で動けなかった…私を見て、眼を見開いて、そしてそのまま…)
「見つからないんだ、キラが…なんとか言え!」
何も言わないアスランに苛立ち、カガリが少し声の調子を強めた。
「あの子は…私が殺した」
アスランは言いたくなかった言葉を、カガリが聞きたくなかった言葉を告げた。
「殺した…私が。イージスで組みついて、自爆した」
淡々とアスランが語る。まるで他人事のように。
「脱出できたとは思えない」
ストライクはイージスのクローで完全にロックされ、動けなかった。
そして自分は、キラが脱出できる時間すら与えなかったのだ。
与えることができたのに…手は差し伸べられなかったけれど、それでも可能性を残す事はできたのに…
「それしかもう…手がなかった…あの子を倒すには…」
アスランは自身の罪を告白し終わると眼を閉じた。
カガリは顔を上げると、ゆっくりと背中に手を回し、腰に差した銃を掴んだ。
そして無言のまま銃を構えると、アスランに向けた。
(こいつが…キラを…キラを殺した!)
青白く、やつれきった顔…疲弊し、擦り切れた心が見て取れる。
カガリは唇を噛み締めながらトリガーに指をかけた。
「でも…何で私…生きてるんだろう?」
次の瞬間、ぽつりとアスランが呟いたので、カガリはギクリとした。
「あの時、脱出しちゃったから?」
あんなところにキラを置き去りにして、自分だけ…逃げた自分。
「それとも、あなたが…私を撃つから…?」
「…おまえっ!!」
自暴自棄のように呟いたその言葉に激しい怒りを覚え、カガリは思わずアスランの右肩を掴んで乱暴に引き起こした。
点滴用のガートルがガチャンと音を立て、腕と繋いだ管が大きく揺れる。
アスランは思わぬ激痛に呼吸もできずに呻いたが、声は出さなかった。
「ふざけるなっ!」
そのまま彼女の顎先に銃を向けて叫ぶ。
「…おまえ、俺に殺して欲しいのか?キラを殺したから、今度は自分を殺してくれって言うのか!?」
アスランは何も答えない。はらりと落ちた藍色の髪が表情を隠した。
「キラは…危なっかしくて、わけわかんなくて…すぐ泣いて!でも優しい……いいヤツだったんだぞ!」
カガリは言っても詮のないことと思いながら、眼の前の彼女にやりきれなさをぶつけた。
しかしそれに対するアスランの言葉は思いもかけないものだった。
「知ってる…」
「…え?」
カガリは思わず聞き返す。
「やっぱり変わってない…昔からそう…あの子は…」
「おまえ…」
「泣き虫で、甘ったれで…優秀なのに、いい加減で…」
アスランは俯いたまま呟き続けた。
その声はどこか優しさを含み、楽しそうでさえあった。
「…キラを…知ってるのか?」
カガリはそう言って銃を下げ、同時にアスランは顔を上げた。
「知ってる…よく」
アスランの視線が、いぶかしむ美しい琥珀の瞳とぶつかった。
「小さい頃から、ずっと。友達だったのよ…仲良かったわ」
アスランの瞳からはすーっと一筋の涙が流れた。
カガリはそれを見て、アスランの言っている事が真実なのだと確信した。
(キラと…知り合い?)
しかも、仲が良くて、小さい頃からずっと一緒だった…友達だという。
「…そんな…だって、あいつ…そんなこと一言も…」
呆然としたカガリの脳裏に、寂しそうなキラの笑顔が蘇った。
(キラ…!)
ナチュラルとコーディネイターの狭間に立ち、仲間を守るためとはいえ同じコーディネイターと戦い、しかもその相手が…友達だったなんて…
カガリは幼馴染に討たれて果てたキラの孤独と哀しみを想うと、どうしても目の前のアスランに食って掛からずにはいられなかった。
「それで、なんで…おまえがあいつを殺すんだよ!?」
カガリはこれ以上言ってはいけないと自分を律しようとはした。
けれど止まらない。
溢れる感情を今は止めようがなかった。
「キラはっ…きっと、おまえと戦うことに苦しんでいただろうに…」
「…っ!」
「なんで…そんなキラを殺した!?友達のくせにっ!」
カガリの言葉で傷ついた心をさらに深く抉られたアスランは、涙で一杯の瞳で彼を睨みつけた。
「わからない!わからないのよ!私にも!」
叫ぶと同時に、見開かれた眼から再び涙が溢れた。
「別れて…次に会った時には敵だった!」
「…敵?」
今度は逆に、アスランが動かせる右の腕でカガリの左腕を掴んだ。
「一緒に来いと何度も言ったわ!あの子はコーディネイターよ!私たちの仲間なの!地球軍にいることの方がおかしい!だから…」
彼の半袖のシャツから剥き出しの腕に彼女の爪が食い込んだが、逆にその痛みのおかげで少し気持ちが落ち着いたカガリは訊ねた。
「おまえ…キラを取り戻そうとしたのか?キラと戦いたくないからって…」
アスランは小さく頷き、それから「…でも、ダメだった」と絞り出すように言った。
「あの子は聞かなくて…私たちと戦って…仲間を傷つけて…ニコルを殺した!」
「ニコル…」
カガリは聞き覚えのない名を繰り返した。
(そういえば、オーブ沖の戦いでブリッツが破壊されたと聞いた。ニコルというのは…多分、こいつの目の前で…)
「だから…キラを殺したのか?」
カガリは少し声のトーンを落として聞いた。
いつの間にか掴まれたままの彼の左腕は、アスランの右腕を支える形になっている。
「その…ニコルのために?ニコルを殺されたから、キラを殺せば気が済むのか?」
「敵だからよ!」
アスランは涙で濡れた顔をカガリに向けた。
「今のあの子は…もう…なら倒すしかないじゃない!」
カガリは苦しげに顔を歪めて叫ぶアスランから眼を逸らした。
(なんだよ…なんなんだよこれ…おかしいだろう、こんなの…)
「バカ野郎…」
カガリは銃を置くと彼女の手から腕を抜き、ベッドに腰を下ろした。
「なんでそんなことになる?なんでそんなことしなきゃならないんだ」
そして殺風景な床を見つめると、心底呆れたように、溜息混じりに呟いた。
「そんな事、したいとも思ってないくせに…おまえたちは、バカだ」
「あの子はニコルを殺した!」
アスランは身を乗り出してもう一度繰り返した。
「それは…」
「いつも優しくて、イザークやディアッカの意地悪からも庇ってくれて…!」
カガリの言葉を遮り、アスランは息をつく間もなくまくしたてた。
落ち着いたカガリの声が思った以上に穏やかだったせいか、それともこれまで押し隠していた感情が噴き出したためか、言葉が止まらなくなっていた。
「ピアノが好きで…まだ15で…それでもプラントを守るために戦ってたあの子を!」
「キラだって…守りたいもののために戦っただけだ」
彼女の言葉を静かに聞いていたカガリは、膝の上で手を組み合わせた。
「キラはいつだって守らなきゃいけなかった…仲間たちのことを。おまえと戦ってまで、キラにはやらなきゃいけないことがあったんだ」
彼は友達の恋人を取り合って喧嘩していたキラを思い出していた。
(誰かに優しくされたくて、愛されたくて、友達を傷つけて…)
あいつはずっと、たった1人で戦って、たった1人で泣いていた。
抱き締めた彼女は小さくて、はかなくて、誰かを守るどころか逆に守ってやらなければならないほど弱々しかった。それでもキラは、誰にも何も言わずに戦っていたのだ。
「なのに…なんで殺されなきゃならない?それも友達のおまえに…」
アスランは呟くように言うカガリを見つめた。
―― キラだって、戦う理由があった…
(そうだ、あの子は何度もそう言っていた)
イージスで鹵獲しようとした時も、ラクスを返してくれたあの時も、あの艦には、守りたい人がいると…それがキラの、戦う理由だった。
「…キラ」
アスランは右手でシーツをつかみ、体を折り曲げて泣き出した。
そして、小さい声で「ごめん、ごめん…」と呟き続けた。
「…キラ…もう会えない…話すこともできない…謝れない…」
カガリはそんな彼女に触れようとしたが、思いなおしてそのまま手を下ろした。
傷ついた彼女を慰め、優しく抱いてやる腕など今の自分にはないと思ったからだ。
そして下ろしたその手を拳にすると、片方の掌にパシッと打ち合わせた。
「殺されたから殺して、殺したから殺されて…」
カガリは自分自身に問いかけるように呟いた。
アフメドが、死んでいった多くの「明けの砂漠」の仲間たちが、ヘリオポリスの住人が、バルトフェルドとアイシャが心をよぎり、去って行く。最後に、互いに背を向けて立つキラとアスランが残った。
「…それでほんとに、最後は平和になるのかよ?」
カガリは負の連鎖を説いた父の言葉を噛みしめながら、声すら出さずに泣き続けるアスランを見つめていた。
「守備隊、ブルーリーダーより入電。我是ヨリ、離脱スル」
「援護を感謝すると伝えて」
アラスカ防空圏内に入ったアークエンジェルは順調な航行を続けていた。
追われる彼らのために、アラスカは戦闘機を派遣して援護してくれた。
守備隊が去った今は、カリフォルニア沖をさらに北上中だ。
「あ…第18レーダーサイト…より、船籍照合」
カズイはおずおずとデータを送っていいんですか?と聞いた。
「アラスカへは初入港ですものね。データを送って。問題はないと思うわ」
ディンは北回帰線に到達するところまで追撃してきたが、守備隊の出現を知ると交戦することなく退いていった。
ザフトの制空権が失われ、潜水母艦からも離れたここで戦うことは得策ではない。
サイはアラスカの影響力の強さに、しみじみと感じ入った。
インド洋から南氷洋、太平洋の一部を抑えるカーペンタリアもすごいと思ったけど、パナマ、アラスカで広大な南北太平洋と、ジブラルタルに奪われているとはいえ、大西洋の半分を抑えている地球軍のことを、頼もしく思わずにはいられない。
そしてこんな風に世界地図を按分する自分を、なんだか軍人が板についちゃったな…と自嘲気味に笑いながら。
「いつまでしゃべっている!まだ第二戦闘配備だぞ」
ナタルがクルーを叱り飛ばすと、マリューはいけない、と気づいた。
「あ、ごめんなさい。もう大丈夫よね。半舷休息とします」
第二戦闘配備が解除され、艦内の空気がふっと緩む。
しかしマリューにはもう一つ、問題が飛び込んできた。
「少佐!発進は許可いたしません。整備班をもう休ませてください」
艦長席をナタルに頼み、マリューはハンガーまでやってきた。
「オーブからは、まだ何も言ってきてないんだろ?」
フラガは振り向きもせずに言う。
マードックが休憩に入ったため、さっからスカイグラスパーを出せと言われて困っていた整備兵が助けを求めるように艦長を見た。
「艦はもう大丈夫なんだ。ならいいじゃねぇかよ!」
マリューはフラガの気持ちがわかるだけに、尚更許可などできない。
「今の状況で、少佐を1機で出すようなことはできません!今はオーブと、キラさんたちを信じましょう」
そこまで言うと、それに…と、マリューはうつむいた。
「もしそれで、あなたまで戻ってこなかったら、私は…」
フラガはその言葉に息を呑み、眉をひそめると「わかった」と答えた。
一方サイは休息をもらうと、すぐにミリアリアの元に向かった。
ナタルからはキラとトールの遺品の整理を、と頼まれている。
キラの分はフレイに頼むか自分がやってもいいけど、トールの分はミリアリアに気づかれないように、後でカズイにやってもらおう…そう思ったその時、サイの足が止まった。目の前に、フレイがいた。
「フレイ…」
「キラ…戻ってこないんだってな」
フレイはチラッとサイを見ると言った。
「ええ。そうよ」
サイは眼を背けた。
フレイもきっと、ミリアリアのように辛いに違いない…好きな人を失ったら、誰だって苦しいはずだ。
「死んだのかな、あいつ」
けれどフレイのその言葉に驚き、サイはもう一度フレイを見た。
フレイは表情を変えず、そのままサイの横を通り過ぎた。
「本気で戦わないからだよ…バカなヤツ」
サイは驚愕の表情のまま、すたすたと立ち去る彼を見送った。
一方ミリアリアは部屋を出てとぼとぼと歩いていた。
どこにいてもトールの面影が強すぎて、居場所がない。
やがてサイがそんなミリアリアを見つけ、声をかけた。
「トールから連絡は?」
ミリアリアが弱々しく聞く。
「まだ…でも大丈夫、きっと!艦長がオーブに捜索を頼んでる…本部へ行けば、なにかわかるかもしれないし」
「そう…そうよね…そんなはずないもの」
その時、廊下の向こう側がなんとなくざわめいた。
「なんだよ、そうつっつくなよ」
若い男が何やらしきりに文句を言っているようだ。
それは投降したバスターのパイロットだった。
「ケガ人だぞ、俺は!ったく、いつまで放っておく気だったんだよ」
(コーディネイター)
(バスターの…)
(ほら、少佐が…)
そんな周囲のヒソヒソ声を聞き、ディアッカはさらに挑発的に文句を言ってはうるさいと怒鳴られた。
サイはミリアリアと一緒にすぐ傍にいたノイマンの元に向かった。
「あれ、バスターの?」
「ああ。これから副長の取調べだそうだ」
サイはミリアリアを庇うようにしながら若い男を見た。
しかしディアッカはサイの後ろで眼を逸らしたミリアリアを見て、(お、なかなか可愛いじゃん)と思い、いたずら心を疼かせた。
「へぇ~!この艦ってこんな女の子も乗ってんの?」
手錠をかけられたディアッカはミリアリアを覗き込んで言った。
まだ涙を残していたミリアリアは怯えて、思わずサイの陰に隠れた。
サイも(何、こいつ…)とディアッカを睨みつける。
「こら、さっさと歩け!」
立ち止まったディアッカを、連行している兵が後ろから小突いた。
「へいへい、行きますよ」
ディアッカはそう言ってもう一度ミリアリアを見てニヤリと笑った。
「バッカみてぇ。何泣いてんだよ。泣きたいのはこっちだっつーの!」
「な…ちょっと!」
その不遜な態度に憤り、サイは思わずディアッカの袖を掴もうとしてノイマンに止められた。
「よせよ!捕虜への暴行は禁止されている」
「ぼ、暴行!?」
サイは憤慨した。
「そんな!私はただ、あいつに謝らせたいだけです!」
けれどノイマンはしっと口に指を当て、首を振るばかりだ。
「謝らせてください!あんな事、言わせておくなんておかしい!」
彼女はさらに抗議したが、ノイマンは「規則だから」とたしなめた。
一方、ミリアリアは去って行った捕虜をじっと睨んでいた。
フレイもまた、そんなミリアリアの様子を窺っていた。
オーブ沖で停泊を続けていた飛行艇アルバトロスでは、扉を開けてキサカがカガリを呼んだ。カガリは彼と二言三言かわすと頷いて振り返った。
「アスラン…ほら、迎えだ…」
カガリはさっきからずっと壁際に体を預けたまま、口も利かず、眠りもせず、呆けたような表情をしているアスランに声をかけた。
美しい長い髪はもつれて散らばり、虚ろな瞳はどこを見ているのかもわからない。
カガリの声を聞いても、まるで子供のように彼を見ているだけだ。
「ザフトの軍人では、オーブには連れて行けないんだ」
カガリはアスランに歩み寄ると、「ごめんな」と言った。
「けどおまえも、仲間のところに帰る方がいいだろ?」
カガリは、返事もせず眼だけこっちに向けている彼女を見て少し不安になったが、かき集めて準備した着替えを指し示した。
「俺は部屋を出るから、自分であれを着ろ。着られるな?」
「…」
しかし聞こえているはずなのにアスランの反応はほとんどない。
何度声をかけても立ち上がろうともしない彼女を見て、カガリはついに実力行使に出た。
「ったく、もう!」
カガリはシーツを剥ぎ取ると、アスランの背中を抱いて足を下ろさせた。
彼女はアンダースーツ姿だったので素肌に触れるのはためらわれたが、恥ずかしがりもせず素直に従うアスランに、またため息をついた。
「くそ、おまえ、大丈夫か?」
仕方なく着替えさせてくれるカガリを見ながら、アスランは突然ふっと笑った。
「やっぱり…変なやつ…あんたって…」
なるべく細身を選んで持ってきたパンツの裾に、彼女の細い足を通すのに四苦八苦しながら、カガリは「はぁ!?」と答えた。
「おまえの方がよっぽど変だろうが!…くそ、何だよ、この靴は!」
大き過ぎる靴を履かせながらブツブツ言っているカガリを見て、アスランはまた笑った。
「ありがとう、って言うのかな?今は…よくわからないけど…」
折れた左腕を吊ったアスランは、最後に肩からコートをかけてもらうと呟いた。
そのいかにも頼りなさそうな姿を見て気になったカガリは、扉をくぐって出て行こうとするアスランを呼び止めた。
「ちょっと待て!」
そして首から下がったペンダントを外した。
それはアフメドが綺麗な石だと言って欲しがっていた、オーブ人の守り神の石だった。
カガリがその淡いピンク色の石をアスランの首にかけてやると、彼女は胸に下がった石を見て、それから再びカガリを見つめた。
「ハウメアの護り石だ。おまえ、危なっかしい。護ってもらえ」
「キラを殺したのに?」
自虐的なアスランを、カガリは「やめろ」と言って睨んだ。
「もう、誰にも死んで欲しくない」
アスランはその琥珀色の瞳を、やはりとても美しいと思った。
「貴様!どのツラ下げて戻って来やがった!」
迎えに来たザフトのランチからは赤服を着た若い男が怒鳴っている。
「なんか、随分怒ってるな」
カガリは苦笑し、じゃあなと手を振ってアスランを送り出した。
アスランは乗組員に助けられてボートからランチに乗り移ったが、イザークも手を差し出してその背を支え、奥まで押し込んでやった。
「ありがとう」
痛みに顔を歪めているアスランを見て、彼女の負った傷が深いことがわかる。
「ストライクは、討ったわ」
アスランはすれ違いざまにそう呟くと、イザークは軽く頷いた。
ニコルに続いて仲間が2人も戻らない事を心配していたイザークにとって、数時間前のオーブからの秘匿通信は心からの安堵をもたらしたのだ。
医務室へ向かうアスランを見送ったイザークは、密かにほっとしたような顔で笑った。
明るいけれど、砂漠の太陽よりはずっと優しい光が眼に飛び込んできた。
(ここは…?)
見慣れないガラス張りの屋根を見て、ここはどこだろうと思う。
「眼が醒めたね?」
その声は優しくキラに話しかけた。
「おはよう、眠り姫さん」
傍らで、ラクス・クラインが微笑んでいた。
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制作裏話-PHASE31-
本編では最後の最後に視聴者をびっくり仰天させた「慟哭」回です。
なんであれでキラが生きとるんじゃ~!
この物語もアスカガ派にとっては重要過ぎる回なので気合入りまくりです。
とはいえ、かなり改変も加えています。
まず、トールを失って哀しみに暮れるミリアリアが泣きつくのは本編ではフラガですが、逆転ではフレイです。フレイにはキラが本当にいなくなった事を実感として受け止め、トールを失った事で自分と同じようにコーディネイターを「憎むはず」のミリアリアから眼を放さない、という演出をしてあります。
ぶっちゃけ、この時点のフレイにとってキラの死は「便利な道具がなくなった」くらいのつもりで書いています。
フレイが変わるのは拉致られてザフトに行ってからです。本編でフレイが突然連れ去られ、心境の変化があったという描写があまりにも薄かった(つーか、全然なかったですよね)ので、逆転ではそれをできる限り補完するつもりでしたから。
アスランとカガリの再会については、本編では銃を突きつけて、泣き喚きながらキラの死を共有し、悼むというものでしたが、逆転では「カガリをバカみたいに泣かせない」という鉄則があるため、涙を見せないカガリの方が少し冷静で、感情コントロールも早いです。アスランは普段が冷静なので、隠していた感情が噴き出したら止まらなくなったという演出にしてあります。
逆種のカガリも銃は突きつけますが、相手が女性なのですぐに銃口を外すし、胸倉ではなく肩を掴むなど、全体的に動作をソフトにしてあります。(逆にアスランに腕を掴まれて、爪を立てられちゃったり)
手前味噌ですが、カガリが、実は大切な友達と戦っていたキラの深すぎる孤独を知り、しかもそんな相手に殺されたと思って心の中で嘆くシーンはなかなかいいかなと思っています。
まぁこうしている間、キラ本人は実はピンピンしていたというオチがつくわけですが。(でもアスランとカガリも、キラが心配して不眠不休でカガリを探してる間、無人島でラブコメやってたのでおあいこ)
本編でのアスランは迎えが来たと知って自分の足で別室に向かいましたが、逆転アスランはショックが大き過ぎて何もできないので、仕方なくカガリが着替えさせる…という改変を行いました。
この時点では完全にキラに心が傾いているカガリにも、少しくらいいい思いをさせておかないと、後々ね…(しかしこれ、いい思いか?)
しかもこの改変シーンにはもう一つの思惑がありました。
それはDESTINYでのシンとステラの出会いとダブらせるということです。「何もできない女の子に手を貸す男の子」の構図をアスランとカガリが先にやっておく事で、アスランには本編よりもステラを返しに行ったシンの心情を汲めるようにしたかったからです。
実際、逆デスではさらに2人がステラ救出後にディオキアで食事をしたというエピソードを追加したため、アスランは彼らの出会いの状況をより深く知ることができていました。私は本編でもあんなくだらない女難なんかより、シンとアスランのエピソードをもっと描写すべきだったと思います。
王子は普通に仲間思いのいいヤツです。
王子の「キシャマー」は、実は本編のカガリには聞こえていないのですが、カガリは後で王子に助けられる恩義があるので、逆種ではここでちょっとだけ2人の運命を掠らせてみました。
また、イザークは本編ではアスランの肘をつかんでランチに助けあげてやる(意外と優しい)のですが、逆転ではウブ(ディアッカ談)なので、逆転アスランの背を押してやるのが精一杯。なので彼がアスランの手を(初めて)握るのはPHASE34です。でも実は格闘訓練でただ1人、逆転アスランを遠慮なくぶっ飛ばす事ができる男なので侮れない。(ただのガキとも言う・ディアッカ談)
また、カッカする王子と感情を排して諭す老獪な艦長との会話がなかなか好きです。ボズゴロフは撃沈されないのでよかったよかった(この後引き続きクルーゼ隊の潜水母艦となっていますが、クルーゼ隊は地球では全ての任務を遂行して無事なので、ボズゴロフはクルーゼ隊の唯一無事な母艦だったのです)
なお本編フラガの「ラジャー」はあまりにもダサかったので、普通に「わかった」にしました。
なんであれでキラが生きとるんじゃ~!
この物語もアスカガ派にとっては重要過ぎる回なので気合入りまくりです。
とはいえ、かなり改変も加えています。
まず、トールを失って哀しみに暮れるミリアリアが泣きつくのは本編ではフラガですが、逆転ではフレイです。フレイにはキラが本当にいなくなった事を実感として受け止め、トールを失った事で自分と同じようにコーディネイターを「憎むはず」のミリアリアから眼を放さない、という演出をしてあります。
ぶっちゃけ、この時点のフレイにとってキラの死は「便利な道具がなくなった」くらいのつもりで書いています。
フレイが変わるのは拉致られてザフトに行ってからです。本編でフレイが突然連れ去られ、心境の変化があったという描写があまりにも薄かった(つーか、全然なかったですよね)ので、逆転ではそれをできる限り補完するつもりでしたから。
アスランとカガリの再会については、本編では銃を突きつけて、泣き喚きながらキラの死を共有し、悼むというものでしたが、逆転では「カガリをバカみたいに泣かせない」という鉄則があるため、涙を見せないカガリの方が少し冷静で、感情コントロールも早いです。アスランは普段が冷静なので、隠していた感情が噴き出したら止まらなくなったという演出にしてあります。
逆種のカガリも銃は突きつけますが、相手が女性なのですぐに銃口を外すし、胸倉ではなく肩を掴むなど、全体的に動作をソフトにしてあります。(逆にアスランに腕を掴まれて、爪を立てられちゃったり)
手前味噌ですが、カガリが、実は大切な友達と戦っていたキラの深すぎる孤独を知り、しかもそんな相手に殺されたと思って心の中で嘆くシーンはなかなかいいかなと思っています。
まぁこうしている間、キラ本人は実はピンピンしていたというオチがつくわけですが。(でもアスランとカガリも、キラが心配して不眠不休でカガリを探してる間、無人島でラブコメやってたのでおあいこ)
本編でのアスランは迎えが来たと知って自分の足で別室に向かいましたが、逆転アスランはショックが大き過ぎて何もできないので、仕方なくカガリが着替えさせる…という改変を行いました。
この時点では完全にキラに心が傾いているカガリにも、少しくらいいい思いをさせておかないと、後々ね…(しかしこれ、いい思いか?)
しかもこの改変シーンにはもう一つの思惑がありました。
それはDESTINYでのシンとステラの出会いとダブらせるということです。「何もできない女の子に手を貸す男の子」の構図をアスランとカガリが先にやっておく事で、アスランには本編よりもステラを返しに行ったシンの心情を汲めるようにしたかったからです。
実際、逆デスではさらに2人がステラ救出後にディオキアで食事をしたというエピソードを追加したため、アスランは彼らの出会いの状況をより深く知ることができていました。私は本編でもあんなくだらない女難なんかより、シンとアスランのエピソードをもっと描写すべきだったと思います。
王子は普通に仲間思いのいいヤツです。
王子の「キシャマー」は、実は本編のカガリには聞こえていないのですが、カガリは後で王子に助けられる恩義があるので、逆種ではここでちょっとだけ2人の運命を掠らせてみました。
また、イザークは本編ではアスランの肘をつかんでランチに助けあげてやる(意外と優しい)のですが、逆転ではウブ(ディアッカ談)なので、逆転アスランの背を押してやるのが精一杯。なので彼がアスランの手を(初めて)握るのはPHASE34です。でも実は格闘訓練でただ1人、逆転アスランを遠慮なくぶっ飛ばす事ができる男なので侮れない。(ただのガキとも言う・ディアッカ談)
また、カッカする王子と感情を排して諭す老獪な艦長との会話がなかなか好きです。ボズゴロフは撃沈されないのでよかったよかった(この後引き続きクルーゼ隊の潜水母艦となっていますが、クルーゼ隊は地球では全ての任務を遂行して無事なので、ボズゴロフはクルーゼ隊の唯一無事な母艦だったのです)
なお本編フラガの「ラジャー」はあまりにもダサかったので、普通に「わかった」にしました。