Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「何たるザマだ、これは!」
「JOSH-Aが成功しても、パナマを落とされてはなんの意味もないではないか!」
「パナマポートの補給路が断たれれば、月基地は早々に干上がる。それでは反攻作戦どころではないぞ」
「ビクトリア奪還作戦の立案を急がせてはおるが…無傷でマスドライバーを取り戻すとなると、やはり容易にはいかぬ」
JOSH-Aから場所を移した地球軍司令本部では、日々紛糾していた。
その中に、髪も爪も整え、仕立てのいいスーツを着た中年の男がいる。
彼の名はムルタ・アズラエル。
莫大な資産を持つ実業家にして、ブルーコスモスの盟主と噂されていた。
「JOSH-Aが成功しても、パナマを落とされてはなんの意味もないではないか!」
「パナマポートの補給路が断たれれば、月基地は早々に干上がる。それでは反攻作戦どころではないぞ」
「ビクトリア奪還作戦の立案を急がせてはおるが…無傷でマスドライバーを取り戻すとなると、やはり容易にはいかぬ」
JOSH-Aから場所を移した地球軍司令本部では、日々紛糾していた。
その中に、髪も爪も整え、仕立てのいいスーツを着た中年の男がいる。
彼の名はムルタ・アズラエル。
莫大な資産を持つ実業家にして、ブルーコスモスの盟主と噂されていた。
アークエンジェルがオーブにたどり着いてから約1ヶ月。
その間に世界は大きく姿を変えていた。
パナマが落とされたことで月への補給路を絶たれた地球軍は、中立国への圧力をかけ、協力という名の徴用を呼びかけ始めた。
ことにマスドライバーと技術力を持つオーブへの圧力が強かった。
しかしJOSH-Aで多大な犠牲を払わされたユーラシアと東アジア共和国は、この連邦の中立国への強硬姿勢と恫喝に近い圧力には反対していた。
そして彼らはビクトリアのマスドライバーを奪還すべく、アフリカ戦線の縮小を決めたザフトと戦う独自の道を選んだ。
彼らの主張は「我らの敵はナチュラルに非ず」というものだったが、もはや連邦の「自国第一主義」にはついていけないという怒りの表れでもあった。
しかし、友軍を切り捨てるような策をとる連邦には何の傷も与えられない。
彼らにとっては「逆らう者はすべて敵」なのである。
「オーブは…オーブはどうなっておる?」
高官の一人が尋ねる。
オーブへの再三のマスドライバー徴用要請は未だ成功していない。
「頑固者のウズミ・ナラ・アスハめ!どうあっても首を縦に振らん」
「ふむ…『ワン・アース』宣言で、連合への参加を求めてもつっぱねおる」
「おや?中立だから…ですか?」
アズラエルがにこやかに笑いながら口を開いた。
「いけませんね、それは。皆命を懸けて戦っているというのに…人類の敵と」
彼が何を言いたいのかを悟り、高官たちは顔を見合わせた。
「そういう言い方はやめてもらえんかね。我々はブルーコスモスではない」
高官の1人が難色を示すと、アズラエルは肩をすくめた。
「これは失礼いたしました。しかしまた、何だって皆さま、この期に及んでそんな理屈を振り回しているような国を、優しく認めてやっているんです?もう中立だのなんだのと、言ってる場合じゃないでしょう」
どっちつかずの国なんて許しておいてはいけませんよ…アズラエルは困ったように手を広げて笑った。
「オーブとて、れっきとした主権国家の一つなんだ。仕方あるまい」
先ほどの発言に苦言を呈した高官が言う。
どうやら彼にはこの、ムルタ・アズラエルという男は不興のようだ。
しかしアズラエルは気にもせず、「主権国家であると同時に、オーブも地球の一員でしょう?」と投げかける。
そして交渉は自分が引き受けると言った。
今はとにかく、マスドライバーが必要なのだ。
「皆様にはビクトリアの作戦があるんだし、分担した方が効率いいでしょう」
アズラエルは完全に場の雰囲気を掌握した事を実感した。
こうなったらもう自分のものだ。ビジネス同様、強気で行くものだ。
「もしかしたら、あれのテストもできるかもしれませんしね」
「あの機体を使うつもりかね?きみは」
再び不愉快そうにあの高官が言った。
「いや、機体というよりあんな出来損ないどもを…」
「それは向こうの出方次第ですけど。そのアスハさんとやらが噂通りの頑固者なら、ちょっとすごいことになるかもしれませんね」
アズラエルはニヤニヤと笑った。
それはまさしく、「やってみたくて仕方がない」という子供の顔だった。
地球に降下したアスランは、フリーダムの行方を追っていた。
もし本当にキラが生きているのだとしたら、足つきと共にいるはずだ。
ならば足つきの辿った軌跡を追うのが一番の早道だろう。
最初に降り立ったジブラルタルで、アスランはあの輸送機のパイロットと再会した。救助されるまでは大変だったと笑う彼らの無事を確認でき、アスランは気が重いこの旅の中で少しだけ晴れやかな気持ちになれた。
イザークやディアッカに手を焼かされた整備員もアスランを覚えており、今回のアラスカの件では胸を痛めていた。
「パナマは無理もないさ。アラスカがあれじゃな…」
アスランはパナマで何があったのかと聞いたが、彼らは言葉を濁した。
また、アラスカ以降戦況が思わしくないといわれているビクトリアの様子も聞いた。
アラスカで戦力を大幅に減らしたザフトは、アフリカ戦線を縮小すると決定したため、基地からはすっかり兵が減り、もはや防衛は難しいと目されている。
マスドライバー奪還を狙ってユーラシア、東アジアが大規模な攻撃を仕掛けるという噂は絶えず、「引き上げるなら本部も早く決断してくれるといいんだが」と、南にいる同胞を心配する声が多かった。
その後足つきの足取りを追うと共に、サイクロプスが使われた実情を自身の眼で確かめるため、大西洋から北極を回ってアラスカへ向かう。
そこでアスランが見たものは、驚愕すべき光景だった。
JOSH-Aは跡形もなくなり、巨大な穴が穿たれたそこは、生きとし生けるもの全てが死に絶えた不毛な地と成り果てていた。わずかでも水分があれば全て沸騰して爆発したのだ。樹木も、バクテリアさえも残るまい。
そのくせ皮肉な事に、核や陽電子と違って環境への影響がほとんどないため、人間が直接その地に下りても何の毒性もない。アスランはまさに「清浄なる地」となった焦土に触れ、カサカサに乾いていたためにかろうじて残った枯れ木に触れた。
街ではサイクロプスの影響で負傷した人々が治療を続けていた。
連合の情報操作によってこの惨状を生み出したのはコーディネイターだとされているため、コーディネイターへの反感は日に日に強まっている。
治安維持部隊とぶつかりあうデモ隊を後にし、アスランは次に黒い噂が流れるパナマに向かった。
現在はザフトが掌握しているパナマの街では、マスドライバーが崩壊した後ザフトによる大虐殺が行われたという噂が広まり、ナチュラルの間にはますます反コーディネイター色が強い。
そのパナマ基地では事後処理にあたっていたクルーゼとイザークに会い、アラスカとパナマの情報を受け取った。
「こんな時に物見遊山とは、特務隊も随分ヒマなようだな」
久々に聞くイザークの嫌味も、聞きようによっては懐かしいと言えなくもない。
彼は若い兵士の教育係を申しつけられていて不満そうだったが、なんだかんだで面倒見のいいイザークのことだ。きちんと職務をこなすだろう。
一方機密を知るクルーゼは興味深そうにジャスティスを見上げていた。
「これがNジャマーキャンセラーが搭載された機体かね」
「はい」
「戦いの流れを変える力を持つ機体だ。フリーダムを地球軍に渡す事だけは、避けねばならん」
きみの任務は重大だと、ザラと同じ事を言いながら、一方でクルーゼは(Nジャマーキャンセラーのデータが欲しい)と考えをめぐらせていた。
フリーダムの奪取が本当にテロリストやスパイによるものなら、このまま自然に任せていればいい。しかしそれはないとクルーゼは思っていた。
(首謀者はラクス・クラインだ。悲劇の英雄殿はまさかそんな事はしまい)
ならば自分で手に入れるしかない。本国では既に手を回してあった。
それを何らかの方法で地球軍に渡せば…クルーゼは人知れずほくそ笑んだ。
(アズラエルめ、使わぬわけがない。そうなったら見ものだな)
ゲームのパワーバランスを整えるのは、ゲームマスターの役目だった。そのバランスを崩すかもしれない忌々しいウィルスたる者たちについて彼は語った。
「今、世界の戦力はビクトリアとオーブに向かっている」
今はまだ大した脅威ではないが、フリーダムを手に入れたことで何らかの思惑があるはずのラクス・クラインの行方が知れぬ今、クライマックスに向かうゲームを中断させるバグは摘み取りたかった。
「ならばフリーダムがどこにいるかは、自ずと知れような、アスラン?」
彼にとっての「修正プログラム」のひとつであるアスランは、「はい」と返事をした。
「フリーダムは、恐らくオーブに」
クルーゼは満足げに頷き、活躍を期待しているとかつての部下を労った。
クルーゼの企みなど知りもせず、再びジャスティスに乗り込んだアスランの脳裏には、キラが、そしてカガリの顔が浮かんだ。
(行かなければ…オーブに…)
そして、自分の眼で、耳で、確かめなければ。
同じ頃、キラは日々、ストライクに搭乗するフラガやM1パイロットの模擬戦の相手をしながら、彼らに合わせてOSをカスタマイズしていた。
今のところ損傷もほとんどないためさほどやる事はなかったが、宣言どおりフリーダムの整備は誰にも任せず、自分だけで行っていた。
オーブでの生活が少し落ち着いた頃、キラはディアッカに会いに行った。
あの後毎日食事を運ぶようになったミリアリアがキラを紹介すると、ディアッカはそれがストライクのパイロットだと知って驚いた。同時に、自分以上に彼女に煮え湯を飲まされ続けた友の事を思い出しながら。
「アスラン・ザラ…を、知ってますか?」
「隊長だよ、俺たちの」
2人が昔からの友達だったと聞いて、ディアッカは、アスランがなぜあの時命令に背いてまでストライクを鹵獲しようとしたのか、初めて理解した。
けれど当時の自分なら、たとえアスランから事情を聞いても、それを受け入れることなど決してできなかったろうとも思う。
(だからきっと、1人で苦しんだんだろう…あいつの事だから)
ディアッカは「陰気な女」と思っていたアスランを思い出して苦笑した。
こうして離れると、彼女の頑固さや強さが何だかひどく懐かしく感じる。
「ニコルを…ブリッツをやられて、俺たちは誓い合ったんだ」
ディアッカはもう随分昔の事のように思い出しながら語った。
「おまえとストライクを、必ず倒すってな」
それを聞いてキラは少し表情を堅くし、一緒にいたミリアリアは「ちょっと!」と声を荒げた。
ディアッカはすぐに「わかってるって」と苦笑する。
「それを言い合ってたら、キリがねぇんだよな」
長く退屈な捕虜生活にあって、食事を運んでくれるミリアリアとの語らいが唯一の慰めであるディアッカにとって、彼女の存在は日に日に大きくなる。
それが好意なのか恋愛感情なのか、ただの勘違いなのかはわからない。
(だけど…)
ディアッカは、最近やっと少し笑うようになったミリアリアを見て思う。
(ナチュラルをただ敵と決めつけて戦うことは、俺にはもうできないかもな)
キラは、彼の仲間を殺したという消しようのない罪を意識した上で、「そうですね」と答えた。
(わかり合えれば、相手を知ることができれば、もう敵ではなくなるのに)
「キサカ!」
議場に走りこんできたカガリを、キサカは前の方へ案内した。そこには父や首長たちがいた。
「最後通告だと?」
怒りを含んだウズミの言葉に、代表のホムラが連合からの通告を読み上げる。
「現在の世界情勢を鑑みず、地球の一国家としての責務を放棄し、頑なに自国の安寧のみを追求し、あまつさえ、再三の協力要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ首長国連邦に対し、地球連合軍はその構成国を代表して、以下の要求を通告する。
一 オーブ首長国現政権の即時退陣
二 国軍の武装解除、並びに解体
48時間以内に以上の要求が実行されない場合、地球連合はオーブ首長国連邦をプラント支援国家と見なし、武力を以て対峙するものである」
「どういう茶番だそれは!」
ウズミは机を叩き、烈火のごとき怒りをあらわにした。
「パナマを落とされ、もはや体裁を取り繕う余裕すらなくしたか、大西洋連邦め!」
連合の通告とはいえ、これが連邦主導であることは明らかだ。
「既に、太平洋を連合軍艦隊が南下中です」
「欲しいのはマスドライバーとモルゲンレーテですな」
ホムラが呟く。他の首長もこの劣勢に弱腰だ。
「いくらこれが筋の通らぬことと声高に叫んでも、もはや大西洋連邦に逆らえる国もない」
「ユーラシアは既に疲弊し、赤道連合、スカンジナビア王国など、最後まで中立を貫いてきた国々も、既に連合じゃ」
中立国に比較的好意的だったユーラシアも、アラスカで多くの兵を失い、本国でも戦争終結への機運が高まりつつある。赤道連合はビクトリア攻撃への協力を求められ、スカンジナビアは今もオーブにとっては大切な隣人だが、大西洋を挟んだ連邦の圧力に屈していた。
「我らも選ばねばならぬ時、ということですかな」
「事態を知ったプラント、ザフトのカーペンタリア基地からも、会談の申し入れがきておりますが…」
政治的思惑を持ち、連合、プラントの両者が動いている。
中道を貫きたいと願うだけなのに、それはどっちつかずの卑怯者と罵られ、どちらかを選ばされるのだ。強制され、中立の意思は踏みにじられる。
「どうあっても世界を二分したいか、大西洋連邦は!」
ウズミが怒りを爆発させた。
「敵か味方かと…そしてオーブはその理念と法を捨て、命じられるままに与えられた敵と戦う国となるのか!」
沈痛な面持ちの主張や行政官たちは、ウズミの言葉に項垂れている。
「連合と組めば、プラントは敵。プラントと組めば、連合は敵」
中立を選ぶ道はいかにも険しい。
このままでは引きずられ、国は磨耗していく。
「たとえ連合に降り、今日の争いを避けられたとしても、明日はパナマの二の舞ぞ!」
陣営を定めればどのみち争いは避けられない。
理不尽な要求を呑むことはオーブの理念を殺すことになる。
敗色は明らかでも、臨まねばならない。
「ともあれ避難命令を…」
ホムラが静かに命じ、補佐官たちが慌しく部屋を後にする。
「子供らが時代に殺されるようなことだけは、避けたいものじゃが…」
年老いた首長が悲しげに言い、ウズミは彼の肩を叩いた。
カガリは話し合いの間、じっと父を見つめていた。
事態の収拾に固唾を呑んでいたカガリは、ウズミがカガリの姿を見つけ、ふと目元を緩めた事には気づかなかった。
決着のつかない首長たちの話し合いが続く中、マリューは整備ドックにアークエンジェル搭乗員を全て呼び出していた。
マリューの隣にはフラガが立ち、その後ろにはノイマンたち士官と下士官が立つ。キラはもう軍人ではないから立ちたくないと言ったが、「あなたがいないと始まらないから」と頼まれて仕方なく立っていた。
「現在、このオーブへ向け、地球連合軍艦隊が進行中です」
クルーたちが驚いて顔を見合わせる。
「中立国なのに?」
「なんで連合が…」
「地球軍に与し、共にプラントを討つ道を取らぬというのならば、プラント支援国と見なす。それが理由です」
「なんだそりゃ」
トノムラが思わず声を出す。クルーたちは騒然となった。
「オーブ政府は、あくまで中立の立場を貫くとし、現在も外交努力を継続中ですが、残念ながら、現状の地球軍の対応を見る限りにおいて、戦闘回避の可能性は、非常に低いものと言わざるを得ません」
オーブは東アジア共和国、スカンジナビア、ユーラシアとの交渉を続け、なんとか外圧で連邦の非道を止めさせようとしているが、連合を我が物顔で牛耳る大西洋連邦に逆らえる力は、もやはどこにもなかった。
ましてやそれに対抗し得る唯一の勢力であるプラントの支援など、今はなおの事、受けられるはずがなかった。
オーブは全国民に対し、都市部、及び軍関係施設周辺からの退去を命じ、不測の事態に備えて防衛態勢に入ると決めていた。政府から発表された重大ニュースは全国民に向けて流され、この戦時下においても戦争など中立国民の自分には関係ないと思っていた多くのオーブ国民を戸惑わせた。
ついこの間まで「戦争なんかバカみたい」と思っていたあの少年も、妹と共にニュースを聞き、大変な事になったようだと顔を見合わせた。
「我々もまた、道を選ばねばなりません」
動揺するクルーを見ながら、マリューは言葉を続けた。
「現在、アークエンジェルは脱走艦であり、我々自身の立場も定かでない状況にあります。オーブのこの事態に際し、我々はどうするべきなのか…」
マリューは震えそうになりながら皆に事実のみを伝えていた。
「命ずる者もなく、また私も、あなた方に対しその権限を持ち得ません」
言葉に詰まりそうになるたびに、すぐそばにフラガの気配を感じて安心した。
(大丈夫…大丈夫よ、私は)
「回避不能となれば、明後日0900、戦闘は開始されます。オーブを守るべく、これと戦うべきなのか、そうではないのか。我々は皆、自身で判断せねばなりません」
トノムラもチャンドラもパルも、そしてマードックやサイ、ミリアリアも、皆の前で気丈に弁説を振るい続けているマリューの姿を見つめていた。
「よってこれを機に、艦を離れようと思う者は、今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って、避難してください」
(言えた…!)
マリューはほっとしてため息をついた。
戦いをやめたいものは、退艦してよい…この、たった一言を言うために、彼女は悩み続け、苦しんだ。
(オーブには恩義があるし、その理念にも共感している)
けれど、クルーの安全を守る事も自分の使命なのだ。
命令がないからこそ、決断は自分でしなければならない。
考えた挙句マリューは、全てを彼らに任せると決めた。
誰も残らないかもしれない…もはや艦を出せないほどに。
ハルバートンには叱られるかもしれない、とマリューは思う。
壮健な軍人だった彼が今の自分を見たら、なんと情けない事をと失望し、「戦いから逃げるな!戦わずして諦めるな!」と叱咤されるかもしれない。
(けれどこれは、私自身が考えて出した結論だわ)
不肖の弟子と呆れられるかもしれないけど、もう譲れない。
「私のような頼りない艦長に、ここまでついてきてくれてありがとう」
マリューは深々と頭を下げた。
涙がポツリと床に落ち、いつまでもいつまでも頭を上げられなかった。
「キラ!」
皆がバラバラと解散した後、キラはカガリに呼び止められた。
「キラ、キラ…あのな…」
カガリは息を弾ませて何かを言おうとする。
「ちょっと落ち着いて」
キラは両手で抑えて抑えてとジェスチャーした。
「そんな服着てる人が慌ててると、みんなが不安がるよ?」
それを聞いてふーっと息をつき、カガリが「そうだな」と答える。
「オーブが戦場になる。こんなことになるとはな…」
かつて砂漠の虎にタッシルが焼かれた時とは規模も攻撃の意味も違う。
意に沿わないからとなれば武力行使。同じ地球に住む者同士で、なぜこんな事になるのだろう。
「オーブは連中の敵じゃない!おかしいだろ、どう考えたって!」
カガリは悔しそうに言った。
「俺たちは、ただ戦争から逃げて知らん顔して暮らしているわけじゃない。努力して、頑張って、自分たちの手で平和な国を作りあげて来たんだぞ?」
それから、カガリは呟くように言った。
「確かに俺たちの…オーブの平和の陰で、どこかの国が踏みにじられ、食い物にされているじゃないかとなじる者もいる…」
いつだって大衆は残酷で、一面的な見方しかしない。
「でも、俺はさ!」
カガリは何も言わずに聞いているキラの両肩を掴んで揺すった。
「なら自分の国が銃を取り、憎しみで戦う国でいいのかと逆に聞きたい!」
「カガリ…痛いよ」
あ、ごめんと言いながら彼はキラを離した。
「俺はこの国の在り方も、一つの可能性だと思う」
皆が中立を貫く事は難しくても、戦わない道もあると示せるのだ。
「なのに、それも認めない世界なんて…」
「でも正しいと思うよ、私は」
キラはすっかり意気消沈してしまったカガリに言った。
「…え?」
「オーブの執った道。一番大変だとも思うけど」
キラは明るい表情を見せて言った。
戦いたくないと思いながら、戦い続けなければならなかったキラ。
敵ではない相手と、命懸けで殺しあわなければならなかったキラ。
カガリは過酷な運命を背負って戦ってきたキラを眩しそうに見た。
「意志を貫くって、本当に大変で、辛くて、厳しいことだけど…」
キラは一言一言、噛み締めるように呟いた。
「それを踏みにじられそうな時は、やっぱり戦わなきゃいけない」
「キラ」
「だからカガリも落ち着いて。できるかどうかわかんないけど、私も守るから」
「守る…」
「うん。お父さんたちが守ろうとしているオーブって国をね」
カガリは自分より小さくて頼りなげな少女が微笑む顔を見つめた。
彼女がストライクで戦う姿を見て、自分たちが得ていた絶対的な安心感。そしてキラがいなくなった時の喪失感とたとえようもない不安。そんな身勝手な自分たちの想いを受け止めきれず、それでも戦っていたキラは今、あの頃のように弱々しくはなかった。
(ああ…こいつの「守る」という言葉が、どれほど心強いか、今わかった…)
キラの「守る」という言葉には、優しく強い「力」があった。
「キラ!」
カガリは嬉しさのあまり、思わずキラを力一杯抱き締めた。
「おまえ、この野郎!ホントにいいヤツだな!」
「うっ…いや…だから…カガリ、苦しいってば…」
一方ではサイがカズイを見送ろうとしていた。
「だって…サイは降りないの?」
おどおどと卑屈そうな眼でカズイはサイを見上げた。
「私は残るわ。攻撃されるのオーブだしね」
サイはにっこりと笑って言った。
「今は私にもできる事があるから。さっき家にも電話してそう言ってきた」
女の子のサイが降りないのに、自分だけ…とカズイはもじもじする。
「あ、でも、ミリィは降りるよね?キラは…降りないかもしんないけど」
相変わらず他の人ばかり気にするカズイを見て、サイは苦笑した。
「他の人のことなんか、気にするのはやめなさいよ」
カズイはそう言われてビクっとする。
「自分で決めたことなら、それでいいじゃない。みんな違うんだから」
あの時…フレイが戦うと決めたあの時、皆はそれにただ同調した。
今みたいに、色々考えて、自分で決めて戦場に残ったわけじゃない。
「現に、今回は誰も誰かの意見なんか聞いていないでしょ?」
カズイも、私も、ミリィも、キラも、皆1人で考えてるのよとサイは穏やかに言った。
「けど、俺だけ降りるって言ったら、みんな臆病者とか卑怯者とか…俺のこと思うんだろ!?」
「カズイ」
「どうせそうだろうけどさ…でも、だって俺、できることなんかないよ。戦うなんて!そんなことはできる奴がやってくれよ…!」
泣き出しそうな声で訴えるカズイを見て、サイは少し気の毒になった。
カズイにとって、これまでどれほど怖くて、逃げ出したかった事か。
むしろよく頑張ってここまで来たと思う。だから、サイは頷いた。
「わかってる。向いてないだけよ、あなたには。戦争なんて…」
平和になったら、また会いましょうとサイは微笑んだ。
「サイ…俺、やっぱり」
「そうやってまた残ったら、きっと後悔するわよ」
ぐらついたカズイをサイは止め、バンと背中を押した。
(だから、さよなら、カズイ)
ミリアリアがキーロックを解除したのを見て、ディアッカは尋ねた。
「尋問?移送?」
移送だったらもうこいつとは会えないのかな…と余計な事を思いながら。
「この艦、また戦闘になるの。オーブに地球軍が攻めてくるから」
ミリアリアはドアを開くと、持ってきた洋服を一式、ディアッカに渡しながら言った。そしてディアッカが使った毛布をたたみ始める。
「え!?」
「だから、あんた、もういいって。釈放」
ミリアリアは毛布を手に出て行き、ディアッカはその後を追った。
「ちょっ…ちょっと待てよ!おい!どういうことだよ、それは!」
すたすたと歩いていくミリアリアの腕をつかむと、振り向かせる。
初めて触れた彼女の腕の細さに一瞬ドキリとしたが、今はそれどころではない。
「だから今言ったでしょ?」
ミリアリアは掴まれた手を振り払うと素っ気なく言った。
「地球軍が攻撃してくるから、アークエンジェルは戦うの。それにあんた乗っけといたってしょうがないじゃない。だから降りて」
しかしディアッカにはわけがわからない。
「いや…だから、なんでおまえらが地球軍と戦うの?」
「オーブが地球軍に味方しないからよ」
はぁ?とディアッカは大げさに言ってみせる。
「なんだそりゃ!ナチュラルってやっぱバカ?」
「悪かったわね!」
その言葉にムッとし、ミリアリアはジロリとディアッカを睨みつけた。
「攻撃が始まったら大混乱よ。悪いけど、あとは自分でなんとかしてね」
そう言い残してミリアリアは仕事に戻ろうとする。
「…って言われたってよぉ…」
ディアッカはこんなところで開放されたってと思う。
(大体、どうやってカーペンタリアに連絡すりゃいいんだ?俺たちが潜入した時に手引きした連絡員は、まだここにいるのか?)
そこまで思ってはたと気づき、ディアッカはもう一度彼女に呼びかけた。
「あ、おい!バスターは?」
「あれは元々こっちのものよ。モルゲンレーテが持っていったわ」
「げえ…」
戦闘になるってのに、バスターもないとなると踏んだり蹴ったりだ。
その時、ミリアリアはふと(こいつだってこんなところで放り出されたら心細いよね)と思って振り返った。
脱出方法でも考えているのか、ディアッカは思案に暮れている。
「こんなことになっちゃって、ごめんね」
ディアッカは思いもかけないその言葉にドキリとする。
「…お、おまえも戦うのかよ?」
そしてつい、どもりながら彼女の動向を聞いてしまう。
「野戦任官だって…元々は民間人だって、言ってたろ…?」
一方は殺そうとし、一方は殺されかけた出会いから約1ヶ月。
今はこうして手の届くところで、互いの安否を気遣っている。
(変なの)
そう思いながら、ミリアリアはディアッカを見つめた。
「私はアークエンジェルのCIC担当よ」
それは、戦うという意思表示だった。
「それに、オーブは私の国なんだから!」
国を守るのだと誇らしげに胸を張ったミリアリアを見て、ディアッカはかつての自分もそうだった事を思い出した。
「そっか…そうだよな」
誰だって、自分の国を守りたいと思うのは当然だ。
ユニウスセブンの悲劇を聞いて柄にもなく義憤に駆られ、父からは軍人など似合わんからやめておけと言われながらもザフトの門を叩いた遠い日を思い出し、ディアッカはふと懐かしそうに笑った。
(そのために戦ってたんだ、俺たちも)
「要求は不当なものであり従うことはできない。オーブ首長国連邦は今後も中立を貫く意志に変わりはない」
オーブからの回答を手に、アズラエルは楽しそうに言った。
「はっ!いや、さすが、アスハ前代表。期待を裏切らない人ですね」
それからモニターに映し出されたモビルスーツデータを楽しそうに眺める。
「ほんとのところ、要求飲まれちゃったらどうしようかなぁ…と思っていたのですよ、これのテスト…」
アズラエルは、最近自社で開発したばかりの「サイバースコープ」の試作品をかけた。二次元のモニターからはモビルスーツの立体映像が飛び出し、視覚からより脳に入りやすい形に変換されたデータが現れた。
「是非とも最後まで頑張り通していただきたいものですがね」
アズラエルは自由自在に動き回る3機の立体映像を見つめながら言った。
いよいよ戦闘開始だ。
アズラエルは戦闘準備に忙しい整備員たちとパイロットを見に行った。
そして、強化ガラスの向こうにいる彼らにマイクで呼びかける。
「きみたち、マスドライバーとモルゲンレーテの工場は壊してはいけません」
わかってるね?とアズラエルは茶目っ気をこめて言った。
「他はいくらやってもいいんだろ?」
片目を隠したシャニ・アンドラスという少年がけだるそうに尋ねる。
「ですね?」
赤っぽい髪のクロト・ブエルがそれに応えた。
もう1人のオルガ・サブナックはつまらなそうに無視している。
(頑張ってくださいよ、アスハ前代表…データを取れるくらいにはね)
アズラエルは立体映像などではない、本物のモビルスーツを見上げた。
それは見るも禍々しい武装を備え、これから追い込む獲物を待っていた。
マリューはオノゴロの港に止まった艦に連なる避難民の波を見ていた。
(数ヶ月前は、平和な中立国だったのに)
わずかな間に状況が変わって、戦いを知らない人々が戦いに巻き込まれる…
(ヘリオポリスでの、あの子たちもそうだったわね)
「何たそがれてんの?艦長さんが」
ノック音とフラガの声に、マリューは振り向いた。
「結局退艦は11名」
フラガも隣に来て、マリューが見ているものを見た。
集団疎開なのか、ヘルメットをかぶった子供たちの集団が見える。
「みんなすごいじゃないの。JOSH-Aがよっぽど頭に来たのかね」
JODH-Aの名を聞いて思い出したように、マリューは振り返った。
「少佐は、なんで戻ってらしたんですか?JOSH-Aで」
「え!?」
フラガは思いもかけない質問に言葉に詰まってしまった。
(なんでってそりゃ…)
彼の瞳に映るのは、不思議そうに自分を見上げている彼女だった。
「…今さら聞かれるとは思わなかったぜ」
フラガはそのままマリューの腰を抱くと、有無を言わさずくちづけた。
マリューは驚いてそれを受けたが、やがて体を離すと顔をそむけ、「わ、私は、モビルアーマー乗りは嫌いです!」と言った。胸に下がったロケットが急に重みを増した。
(モビルアーマー乗りは、皆…帰ってこないもの…)
けれどフラガはそれを笑って否定した。
「あ、俺今、モビルスーツのパイロット!」
その明るい笑顔に、マリューもついつられてしまう。
(この人は、本当にもう…)
この明るさで、いつだって自分を救ってくれた。
でも、アラスカで彼がいなくなって初めてその辛さがわかり、帰ってきてくれて初めて、この人を愛しているのだと知った。
2人は再び唇を合わせ、気持ちを確かめ合った。
やがてノイマンたちがブリッジに入ってきた事にも気づかず、彼らが2人の熱烈なキスに真っ赤になってもなお、離れなかった。
その頃アスランは、オーブ近海のアカツキ島に来ていた。
強力なECMを出して機体を隠すと、マルキオ導師の元に向かう。
(ラクスは、マルキオ導師がキラを連れてきたと言った…)
孤児たちはザフトのパイロットスーツを着た彼女に不審そうな眼を向けたが、マルキオはクラインやザラを通じてよく知るアスランを、快く受け入れた。
「どうやら避けられぬようですね。オーブと地球軍の戦闘も」
メディアはオーブと地球軍の戦いが始まらんとする様子を映し出す。
「人はたやすく敵となる」
「なぜ…オーブと地球軍が…」
アスランにはナチュラル同士の戦いが理解できない。
(戦いたくないのなら、オーブはなぜ連合に与しない?そうでなければ、なぜプラントに助けを求めないのだろう…)
アスランには、オーブの理念が理解できなかった。
中立を守るために戦うなど、それこそ理念に反しているではないかと。
(そんな事のために食い合うなど…バカバカしい…)
「ザフトなんか!俺が大っきくなったら全部やっつけてやる!」
その時、アスランは近寄ってきた1人の子供に突然足を蹴られた。
「え?」
「これ!…すみません」
マルキオが彼を叱ったが、子供は疾風のように駆け出してしまった。
「彼はカーペンタリア占領戦のおり、親を亡くしたものですから」
ああ…アスランは逃げて行った子を目で追う。
彼にとっての自分は、実際に親を殺したかどうかではなく、ただの敵に過ぎないのだ。敵とはそんなものだ…イメージが形作られ、一人歩きを始める。
「広げるは容易く、消すは難しいものです。戦火は」
マルキオは静かに呟いた。
そして連鎖は繋がっていく。殺し、殺され、また殺して…
(キラ…あなたは今、そこに…オーブにいるはず)
アスランが一歩を踏み出す。
「行くのですか?」
マルキオは敏感な耳で足音を聞き取り、アスランに声をかけた。
アスランは立ち止まり、それから「はい」と答えた。
(行ったところで…私は何をしようというのだろうか)
「決めるのは、あなた自身ですよ」
まるで自分の心を読んで問いかけたかのようなマルキオの言葉に、アスランは一瞬、(何を決めるのだろう)と思った。
けれど導師を問い質す事はしなかった。
「わかっています」
そう返事をすると彼の家を辞し、隠しておいたジャスティスに飛び乗った。
「時間です!」
警告の48時間が過ぎ、アズラエルが合図を送った。
途端に沖合いの艦体から激しい艦砲射撃が始まる。
オーブ軍のイージス艦が迎撃を開始し、戦闘が開始された。
「オーブ軍、戦闘開始しました」
サイの言葉に、マリューが命じる。
「アークエンジェル、発進します!」
海岸に陣取ったM1を中心に、戦車やヘリなどが陣形を取る。
やがて沖合いからは揚陸艇が何隻も近づいてきた。
「ゴットフリート照準、撃ぇ!」
アークエンジェルはその強力な砲で沖合いの艦隊を下げんとする。
しかし数が数だ。たちまちオーブ艦が火を噴き、ヘリが墜落していく。
M1部隊が慣れない機体を操りながら、到着した揚陸艇から降りてくるストライクダガーを相手に戦闘を開始した。性能はほぼ互角のようだ。
ディアッカは小高い丘からその様子を見つめていた。
アークエンジェルは低空飛行を続けながら、激しい爆雷で弾幕を張り、かつて自分をロックした強烈な主砲を放って連合軍の艦艇を沈めて行った。
「敵モビルスーツ部隊、イザナギ海岸に上陸!」
モニターに敵の光が点り始める。
カガリはそれを見て、第8機甲大隊を回すよう命じた。
迎撃はM1中心に行わせるよう、そちらの指揮を執るキサカに命じる。
「ヘリと戦車は動きが鈍い。遠方から援護を行わせろ!」
「オノゴロ上空に大型機接近!」
「何!?」
カガリは慌ててレーダーとモニターを見た。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
戦闘が激しくなると、飛行能力のあるフリーダムはそのまま飛び去り、捉まえられる範囲にいる艦隊とストライクダガーを急速にマルチロックした。
起き上がる背部のバラエーナ。両腰からはクスィフィアス。
そしてルプスの引鉄に指をかけ、キラは全ての砲を放った。
艦はことごとく火を噴き始め、ダガーは足やカメラを失って動きを封じられる。
さらにキラは獲物を求めて素早く飛び去り、その姿はもう見えない。
「なんだあれは!?オーブ軍のモビルスーツなのか?」
見たこともない機体の威力に驚愕し、地球軍は慌てて戦力を立て直しにかかったが、結局は何もできないまま、あっという間にキラに撃破された。
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」
フラガのストライクはエールの推進力で海岸に着地した。
そこでは実戦投入されたM1がダガーを相手に戦っている。
互いにモビルスーツ戦に慣れないため、ビームライフルで撃ちあうのが主だったが、1機のダガーが防衛ラインの薄い部分を突破してきた。
近づいてきたダガーにジュリがサーベルを抜いて斬りかかると、相手はそれをシールドで防ぎ、ジュリは反動でバランスを崩した。
「うわ、うわ…!」
相手のサーベルが振りかざされた時、空から一陣の風が舞い降りた。
フリーダムはダガーの腕を斬り落とすと後頭部を蹴り倒し、再び飛び去った。
あまりの早業にM1の三人娘も呆然とするばかりだ。
モビルスーツに乗って改めてキラの技術の高さを知ったフラガも「おーおー、かっこいいねぇ。どうせ俺は新米だけどね!」とおどけてみせた。そして次々と向かってくるダガーにライフルを撃つ。
「こら!ボーっとしてると次が来るぞ!お嬢ちゃんたち!」
「バリアント、撃ぇ!」
艦隊への攻撃を続けているアークエンジェルを捉えたのは、飛行能力のあるモビルアーマー形態のGAT-X370レイダーに乗ったクロトだった。
その背に乗ったGAT-X131カラミティにはオルガが乗っている。
イーゲルシュテルンをものともしない彼らの機体には、PS装甲の次世代型、トランスフェイズ装甲が施されていた。
「あれ、やるよ?白いの」
クロトは操縦桿をアークエンジェルに向けた。
「敵モビルスーツ、いや、モビルアーマー接近!」
トノムラが機体を捉えて叫ぶ。
「おらぁぁぁ!!」
背中のオルガがバズーカ砲トーデスブロックを放つ。
アークエンジェルから離れていたキラはその威力に息を呑んだが、ノイマンが思い切り舵を切って襲い掛かってきた砲を回避した。
「ハズれ!下手くそ!」
クロトがオルガを罵った。
「地球軍の新型か?」
見慣れない機体を見て、フラガも援護射撃を行った。
以前なら上空から支援できたが、モビルスーツの今は動けない。
しかもこっちはストライクダガーの進攻を食い止めなければならないのだ。
「撃滅!!」
やがてカラミティをオノゴロ島の岬に降ろし、身軽になったレイダーはアークエンジェルを守ろうと急接近するフリーダムに向かってきた。
MA形態からモビルスーツに変形すると、ミョルニルと呼ばれる鉄球を投げつけ、それを避けると口からエネルギー砲ツォーンを放ってくる。
離れればMA形態になって身軽に飛び回り、機銃掃射だ。
キラはもはやPSダウンを気にしなくてよい核のPS装甲ゆえに、恐れる必要のない機銃を防ぐふりをしてひきつけ、ラケルタで斬りかかると同時に距離を詰めた。レイダーはモビルスーツ形態になると防盾砲を向けたが、キラの方が一瞬早く、サーベルを手にしながらフェイントで蹴り倒す変則技でレイダーを吹っ飛ばした。レイダーはくるくると回ってMA形態になると機体を立て直し、再びフリーダムに向かってきた。
「てめぇ!!抹殺!!」
一方オルガが操るカラミティは軍港を破壊していた。
移送船に乗ろうとしていた避難民や兵が逃げ惑い、連射される双肩のビーム砲シュラークで吹き飛ばされていく。
裏の山手や崖なども全て容赦なく爆撃された。そこを必死に走っていた家族の命が無惨に踏み躙られ、一人の少年の運命が大きく変わったことなど、今は誰も気づけなかった。
キラが止めようと近づいても、カラミティは上空に向けてシュラークを放ち、ビーム砲のケーファーツヴァイを撃ちこんでくるので近づけなかった。
もはや異常なまでに強化された新型の火力…
無論、フリーダムの火力はさらに上を行っているのだが、彼らの容赦のない戦闘にキラは震撼し、突破口を見つけられずにいた。
飛び回るレイダーに取りつかれ、アークエンジェルは苦戦していた。
防戦と艦隊への攻撃の攻防を同時に行っているのだ。
ディアッカは足を止め、高台から戦いの推移を見守っていた。
(どうする…このまま逃げるか?あいつを置いて…あいつを見捨てて…)
ディアッカの心に、ミリアリアの泣き顔がよぎる。
自分を殺そうとしたくせに、赤毛の男の銃からは守ってくれて。
食事を届けに来たあいつと、ちょっとだけ話すことが楽しみだった。
(けど、俺が戦ったってしょうがないじゃないか!)
言い訳をするようにディアッカは拳を握り締めた。
(俺はザフトだぞ。オーブを守る義理なんかねぇし…)
何より、とディアッカは自分の力のなさを思い起こした。
(俺が戦ったところで、戦いを止めるなんてできっこねぇ!)
その間にもレイダーにプラズマ砲を撃ちこまれ、後方エンジンから火を噴いたアークエンジェルを見て、ディアッカは息を呑む。
(…バスターがあれば…)
ふと思う。
(俺にも、できる事はあるんじゃないか…?)
「ええい!」
やがてディアッカは踵を返して走り出した。
「考えんのはもうやめだ!」
もともとそういうのは性に合わないし、とりあえず自分がやりたいと思う事をやってみればいい…そう思って今来た道を走り抜けた。
(俺は今、あいつを死なせたくないって、そう思うんだから!)
レイダーを追っていたキラに、突然横からビームが襲い掛かった。
それは誘導プラズマ砲フレスベルグだった。
さっきまでオーブ艦隊を禍々しい鎌で切り裂いては爆破させていたGAT-X252フォビドゥンが、フリーダムとレイダーの戦いに横槍を入れたのだ。
「邪魔すんな、シャニ!」
「邪魔はてめぇだよ」
キラは避けたビームが不思議な軌道を辿った事に驚きを隠せない。
やがてレイダーと場所取りを繰り広げていたフォビドゥンが再びフレスベルグを放ち、キラはその軌道を予測したのだが、やはりそれが予測とはやや外れて届いたため、一旦身を引いた。
「ビームが…曲がる!?」
(データの変更を…!)
そう思ったが、今度はレイダーのミョルニルが飛んできた。
避ければフォビドゥンの機関砲アルムホイヤーが襲いかかり、再入力の暇を与えてはもらえない。
「ヘルダート、撃ぇ!」
アークエンジェルはカラミティのシュラークに痛めつけられていた。
プラズマ砲やビームによって、ラミネート装甲の排熱が間に合わない。
カラミティが再びトーデスブロックを構え、ロックされる。
「総員、衝撃に備えて!」
マリューが叫んだ時、別の方面からカラミティの砲撃が阻止された。
そしてさらに飛び回るレイダーをガンランチャーで追い払う。
「…バスター!?」
ライブラリに見慣れた名が出たので、サイが思わず叫んだ。
「え!?」
誰もが驚いたが、もちろん一番驚いたのはミリアリアだった。
「とっととそこからさがれよ、足つき…じゃねぇ、アークエンジェル!」
モルゲンレーテに収容されたはずのバスターがそこにいた。
ランチャーとライフルを速射し、ついでにM1とストライクを援護する。
(ちぇ、俺がストライクの野郎を援護するなんてなぁ…)
ディアッカは自嘲気味に笑った。
(イザークに怒られるわ、こりゃ)
「あいつ…なんで?」
ミリアリアは怪訝そうに眉を顰め、サイはくすっと笑った。
「助けてくれるんじゃない?ミリィのこと」
ミリアリアは「やめてよ、変な事言うの」とむくれてみせる。
けれど心の中には嵐のように不安がざわめいていた。
(だって、そんなこと頼んでないよ………ディアッカ…)
「こいつら!」
キラはフリーダムの威力をもってしても有利に立てない3機を相手に苦戦を強いられていた。アークエンジェルにバスターの援護がついた事で、むしろレイダーとフォビドゥンの攻撃目標がフリーダムに移ったといっていい。しかもカラミティまでが気まぐれな援護射撃を行ってくるため、3方向全て気が抜けない。
特にゲシュマイディヒ・パンツァーによる偏向ビームが厄介だった。
アスランはマルキオの家を辞してオノゴロに向かった後、上空に待機したままこの戦闘の様子を窺っていた。
大艦隊がオーブ沖に展開し、イージス艦や駆逐艦は、モビルアーマーとモビルスーツの合いの子のような機体に随分沈黙させられてしまった。
パナマで投入されたというストライクダガーの威力は思った以上で、オーブのモビルスーツも健闘はしているが、圧倒的に数でかなわない。
そして見慣れたストライクとバスターが戦っているのを見て少し驚く。
(バスター…?鹵獲されて、今はナチュラルが乗っているのだろうか?)
ディアッカの行方は、パナマのイザークも知らなかった。
しかし何より、特務隊員である自身の目標物であるフリーダムだ。
翼を広げ、機敏な動きで新型を相手に戦うキラは、相変わらず際立って強い。しかし3機の新型はあまりにも強大すぎる…
「フリーダム…キラ…」
私が信じて戦うもの…私がなすべき事…何をもって敵とし、何をもって戦うとすべきなのだろう。
ラクスの問いに、アスランはまだ答えを見出せないでいる。
(聞いてみたい。キラに)
あなたは何のために戦うのかと。
(そのために…私がすべきことは…)
突然、フリーダムとレイダー、フォビドゥンの間にビームが放たれ、驚いた3者は散開した。そして全員がその方向に意識を集中した。
上空からゆっくり降りてきたのは、リフターを背負い、ライフルを手にした赤い機体…ZGMF-X09Aジャスティスだった。
キラは眼を見張る。
あの時、工廠でフリーダムの隣にあった機体に誰が乗っているのか…それはもはや火を見るより明らかだった。
アスランはフリーダムの前に立ち、眼を逸らさなかった。
(キラ…私は今、あなたと話がしたい…)
その間に世界は大きく姿を変えていた。
パナマが落とされたことで月への補給路を絶たれた地球軍は、中立国への圧力をかけ、協力という名の徴用を呼びかけ始めた。
ことにマスドライバーと技術力を持つオーブへの圧力が強かった。
しかしJOSH-Aで多大な犠牲を払わされたユーラシアと東アジア共和国は、この連邦の中立国への強硬姿勢と恫喝に近い圧力には反対していた。
そして彼らはビクトリアのマスドライバーを奪還すべく、アフリカ戦線の縮小を決めたザフトと戦う独自の道を選んだ。
彼らの主張は「我らの敵はナチュラルに非ず」というものだったが、もはや連邦の「自国第一主義」にはついていけないという怒りの表れでもあった。
しかし、友軍を切り捨てるような策をとる連邦には何の傷も与えられない。
彼らにとっては「逆らう者はすべて敵」なのである。
「オーブは…オーブはどうなっておる?」
高官の一人が尋ねる。
オーブへの再三のマスドライバー徴用要請は未だ成功していない。
「頑固者のウズミ・ナラ・アスハめ!どうあっても首を縦に振らん」
「ふむ…『ワン・アース』宣言で、連合への参加を求めてもつっぱねおる」
「おや?中立だから…ですか?」
アズラエルがにこやかに笑いながら口を開いた。
「いけませんね、それは。皆命を懸けて戦っているというのに…人類の敵と」
彼が何を言いたいのかを悟り、高官たちは顔を見合わせた。
「そういう言い方はやめてもらえんかね。我々はブルーコスモスではない」
高官の1人が難色を示すと、アズラエルは肩をすくめた。
「これは失礼いたしました。しかしまた、何だって皆さま、この期に及んでそんな理屈を振り回しているような国を、優しく認めてやっているんです?もう中立だのなんだのと、言ってる場合じゃないでしょう」
どっちつかずの国なんて許しておいてはいけませんよ…アズラエルは困ったように手を広げて笑った。
「オーブとて、れっきとした主権国家の一つなんだ。仕方あるまい」
先ほどの発言に苦言を呈した高官が言う。
どうやら彼にはこの、ムルタ・アズラエルという男は不興のようだ。
しかしアズラエルは気にもせず、「主権国家であると同時に、オーブも地球の一員でしょう?」と投げかける。
そして交渉は自分が引き受けると言った。
今はとにかく、マスドライバーが必要なのだ。
「皆様にはビクトリアの作戦があるんだし、分担した方が効率いいでしょう」
アズラエルは完全に場の雰囲気を掌握した事を実感した。
こうなったらもう自分のものだ。ビジネス同様、強気で行くものだ。
「もしかしたら、あれのテストもできるかもしれませんしね」
「あの機体を使うつもりかね?きみは」
再び不愉快そうにあの高官が言った。
「いや、機体というよりあんな出来損ないどもを…」
「それは向こうの出方次第ですけど。そのアスハさんとやらが噂通りの頑固者なら、ちょっとすごいことになるかもしれませんね」
アズラエルはニヤニヤと笑った。
それはまさしく、「やってみたくて仕方がない」という子供の顔だった。
地球に降下したアスランは、フリーダムの行方を追っていた。
もし本当にキラが生きているのだとしたら、足つきと共にいるはずだ。
ならば足つきの辿った軌跡を追うのが一番の早道だろう。
最初に降り立ったジブラルタルで、アスランはあの輸送機のパイロットと再会した。救助されるまでは大変だったと笑う彼らの無事を確認でき、アスランは気が重いこの旅の中で少しだけ晴れやかな気持ちになれた。
イザークやディアッカに手を焼かされた整備員もアスランを覚えており、今回のアラスカの件では胸を痛めていた。
「パナマは無理もないさ。アラスカがあれじゃな…」
アスランはパナマで何があったのかと聞いたが、彼らは言葉を濁した。
また、アラスカ以降戦況が思わしくないといわれているビクトリアの様子も聞いた。
アラスカで戦力を大幅に減らしたザフトは、アフリカ戦線を縮小すると決定したため、基地からはすっかり兵が減り、もはや防衛は難しいと目されている。
マスドライバー奪還を狙ってユーラシア、東アジアが大規模な攻撃を仕掛けるという噂は絶えず、「引き上げるなら本部も早く決断してくれるといいんだが」と、南にいる同胞を心配する声が多かった。
その後足つきの足取りを追うと共に、サイクロプスが使われた実情を自身の眼で確かめるため、大西洋から北極を回ってアラスカへ向かう。
そこでアスランが見たものは、驚愕すべき光景だった。
JOSH-Aは跡形もなくなり、巨大な穴が穿たれたそこは、生きとし生けるもの全てが死に絶えた不毛な地と成り果てていた。わずかでも水分があれば全て沸騰して爆発したのだ。樹木も、バクテリアさえも残るまい。
そのくせ皮肉な事に、核や陽電子と違って環境への影響がほとんどないため、人間が直接その地に下りても何の毒性もない。アスランはまさに「清浄なる地」となった焦土に触れ、カサカサに乾いていたためにかろうじて残った枯れ木に触れた。
街ではサイクロプスの影響で負傷した人々が治療を続けていた。
連合の情報操作によってこの惨状を生み出したのはコーディネイターだとされているため、コーディネイターへの反感は日に日に強まっている。
治安維持部隊とぶつかりあうデモ隊を後にし、アスランは次に黒い噂が流れるパナマに向かった。
現在はザフトが掌握しているパナマの街では、マスドライバーが崩壊した後ザフトによる大虐殺が行われたという噂が広まり、ナチュラルの間にはますます反コーディネイター色が強い。
そのパナマ基地では事後処理にあたっていたクルーゼとイザークに会い、アラスカとパナマの情報を受け取った。
「こんな時に物見遊山とは、特務隊も随分ヒマなようだな」
久々に聞くイザークの嫌味も、聞きようによっては懐かしいと言えなくもない。
彼は若い兵士の教育係を申しつけられていて不満そうだったが、なんだかんだで面倒見のいいイザークのことだ。きちんと職務をこなすだろう。
一方機密を知るクルーゼは興味深そうにジャスティスを見上げていた。
「これがNジャマーキャンセラーが搭載された機体かね」
「はい」
「戦いの流れを変える力を持つ機体だ。フリーダムを地球軍に渡す事だけは、避けねばならん」
きみの任務は重大だと、ザラと同じ事を言いながら、一方でクルーゼは(Nジャマーキャンセラーのデータが欲しい)と考えをめぐらせていた。
フリーダムの奪取が本当にテロリストやスパイによるものなら、このまま自然に任せていればいい。しかしそれはないとクルーゼは思っていた。
(首謀者はラクス・クラインだ。悲劇の英雄殿はまさかそんな事はしまい)
ならば自分で手に入れるしかない。本国では既に手を回してあった。
それを何らかの方法で地球軍に渡せば…クルーゼは人知れずほくそ笑んだ。
(アズラエルめ、使わぬわけがない。そうなったら見ものだな)
ゲームのパワーバランスを整えるのは、ゲームマスターの役目だった。そのバランスを崩すかもしれない忌々しいウィルスたる者たちについて彼は語った。
「今、世界の戦力はビクトリアとオーブに向かっている」
今はまだ大した脅威ではないが、フリーダムを手に入れたことで何らかの思惑があるはずのラクス・クラインの行方が知れぬ今、クライマックスに向かうゲームを中断させるバグは摘み取りたかった。
「ならばフリーダムがどこにいるかは、自ずと知れような、アスラン?」
彼にとっての「修正プログラム」のひとつであるアスランは、「はい」と返事をした。
「フリーダムは、恐らくオーブに」
クルーゼは満足げに頷き、活躍を期待しているとかつての部下を労った。
クルーゼの企みなど知りもせず、再びジャスティスに乗り込んだアスランの脳裏には、キラが、そしてカガリの顔が浮かんだ。
(行かなければ…オーブに…)
そして、自分の眼で、耳で、確かめなければ。
同じ頃、キラは日々、ストライクに搭乗するフラガやM1パイロットの模擬戦の相手をしながら、彼らに合わせてOSをカスタマイズしていた。
今のところ損傷もほとんどないためさほどやる事はなかったが、宣言どおりフリーダムの整備は誰にも任せず、自分だけで行っていた。
オーブでの生活が少し落ち着いた頃、キラはディアッカに会いに行った。
あの後毎日食事を運ぶようになったミリアリアがキラを紹介すると、ディアッカはそれがストライクのパイロットだと知って驚いた。同時に、自分以上に彼女に煮え湯を飲まされ続けた友の事を思い出しながら。
「アスラン・ザラ…を、知ってますか?」
「隊長だよ、俺たちの」
2人が昔からの友達だったと聞いて、ディアッカは、アスランがなぜあの時命令に背いてまでストライクを鹵獲しようとしたのか、初めて理解した。
けれど当時の自分なら、たとえアスランから事情を聞いても、それを受け入れることなど決してできなかったろうとも思う。
(だからきっと、1人で苦しんだんだろう…あいつの事だから)
ディアッカは「陰気な女」と思っていたアスランを思い出して苦笑した。
こうして離れると、彼女の頑固さや強さが何だかひどく懐かしく感じる。
「ニコルを…ブリッツをやられて、俺たちは誓い合ったんだ」
ディアッカはもう随分昔の事のように思い出しながら語った。
「おまえとストライクを、必ず倒すってな」
それを聞いてキラは少し表情を堅くし、一緒にいたミリアリアは「ちょっと!」と声を荒げた。
ディアッカはすぐに「わかってるって」と苦笑する。
「それを言い合ってたら、キリがねぇんだよな」
長く退屈な捕虜生活にあって、食事を運んでくれるミリアリアとの語らいが唯一の慰めであるディアッカにとって、彼女の存在は日に日に大きくなる。
それが好意なのか恋愛感情なのか、ただの勘違いなのかはわからない。
(だけど…)
ディアッカは、最近やっと少し笑うようになったミリアリアを見て思う。
(ナチュラルをただ敵と決めつけて戦うことは、俺にはもうできないかもな)
キラは、彼の仲間を殺したという消しようのない罪を意識した上で、「そうですね」と答えた。
(わかり合えれば、相手を知ることができれば、もう敵ではなくなるのに)
「キサカ!」
議場に走りこんできたカガリを、キサカは前の方へ案内した。そこには父や首長たちがいた。
「最後通告だと?」
怒りを含んだウズミの言葉に、代表のホムラが連合からの通告を読み上げる。
「現在の世界情勢を鑑みず、地球の一国家としての責務を放棄し、頑なに自国の安寧のみを追求し、あまつさえ、再三の協力要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ首長国連邦に対し、地球連合軍はその構成国を代表して、以下の要求を通告する。
一 オーブ首長国現政権の即時退陣
二 国軍の武装解除、並びに解体
48時間以内に以上の要求が実行されない場合、地球連合はオーブ首長国連邦をプラント支援国家と見なし、武力を以て対峙するものである」
「どういう茶番だそれは!」
ウズミは机を叩き、烈火のごとき怒りをあらわにした。
「パナマを落とされ、もはや体裁を取り繕う余裕すらなくしたか、大西洋連邦め!」
連合の通告とはいえ、これが連邦主導であることは明らかだ。
「既に、太平洋を連合軍艦隊が南下中です」
「欲しいのはマスドライバーとモルゲンレーテですな」
ホムラが呟く。他の首長もこの劣勢に弱腰だ。
「いくらこれが筋の通らぬことと声高に叫んでも、もはや大西洋連邦に逆らえる国もない」
「ユーラシアは既に疲弊し、赤道連合、スカンジナビア王国など、最後まで中立を貫いてきた国々も、既に連合じゃ」
中立国に比較的好意的だったユーラシアも、アラスカで多くの兵を失い、本国でも戦争終結への機運が高まりつつある。赤道連合はビクトリア攻撃への協力を求められ、スカンジナビアは今もオーブにとっては大切な隣人だが、大西洋を挟んだ連邦の圧力に屈していた。
「我らも選ばねばならぬ時、ということですかな」
「事態を知ったプラント、ザフトのカーペンタリア基地からも、会談の申し入れがきておりますが…」
政治的思惑を持ち、連合、プラントの両者が動いている。
中道を貫きたいと願うだけなのに、それはどっちつかずの卑怯者と罵られ、どちらかを選ばされるのだ。強制され、中立の意思は踏みにじられる。
「どうあっても世界を二分したいか、大西洋連邦は!」
ウズミが怒りを爆発させた。
「敵か味方かと…そしてオーブはその理念と法を捨て、命じられるままに与えられた敵と戦う国となるのか!」
沈痛な面持ちの主張や行政官たちは、ウズミの言葉に項垂れている。
「連合と組めば、プラントは敵。プラントと組めば、連合は敵」
中立を選ぶ道はいかにも険しい。
このままでは引きずられ、国は磨耗していく。
「たとえ連合に降り、今日の争いを避けられたとしても、明日はパナマの二の舞ぞ!」
陣営を定めればどのみち争いは避けられない。
理不尽な要求を呑むことはオーブの理念を殺すことになる。
敗色は明らかでも、臨まねばならない。
「ともあれ避難命令を…」
ホムラが静かに命じ、補佐官たちが慌しく部屋を後にする。
「子供らが時代に殺されるようなことだけは、避けたいものじゃが…」
年老いた首長が悲しげに言い、ウズミは彼の肩を叩いた。
カガリは話し合いの間、じっと父を見つめていた。
事態の収拾に固唾を呑んでいたカガリは、ウズミがカガリの姿を見つけ、ふと目元を緩めた事には気づかなかった。
決着のつかない首長たちの話し合いが続く中、マリューは整備ドックにアークエンジェル搭乗員を全て呼び出していた。
マリューの隣にはフラガが立ち、その後ろにはノイマンたち士官と下士官が立つ。キラはもう軍人ではないから立ちたくないと言ったが、「あなたがいないと始まらないから」と頼まれて仕方なく立っていた。
「現在、このオーブへ向け、地球連合軍艦隊が進行中です」
クルーたちが驚いて顔を見合わせる。
「中立国なのに?」
「なんで連合が…」
「地球軍に与し、共にプラントを討つ道を取らぬというのならば、プラント支援国と見なす。それが理由です」
「なんだそりゃ」
トノムラが思わず声を出す。クルーたちは騒然となった。
「オーブ政府は、あくまで中立の立場を貫くとし、現在も外交努力を継続中ですが、残念ながら、現状の地球軍の対応を見る限りにおいて、戦闘回避の可能性は、非常に低いものと言わざるを得ません」
オーブは東アジア共和国、スカンジナビア、ユーラシアとの交渉を続け、なんとか外圧で連邦の非道を止めさせようとしているが、連合を我が物顔で牛耳る大西洋連邦に逆らえる力は、もやはどこにもなかった。
ましてやそれに対抗し得る唯一の勢力であるプラントの支援など、今はなおの事、受けられるはずがなかった。
オーブは全国民に対し、都市部、及び軍関係施設周辺からの退去を命じ、不測の事態に備えて防衛態勢に入ると決めていた。政府から発表された重大ニュースは全国民に向けて流され、この戦時下においても戦争など中立国民の自分には関係ないと思っていた多くのオーブ国民を戸惑わせた。
ついこの間まで「戦争なんかバカみたい」と思っていたあの少年も、妹と共にニュースを聞き、大変な事になったようだと顔を見合わせた。
「我々もまた、道を選ばねばなりません」
動揺するクルーを見ながら、マリューは言葉を続けた。
「現在、アークエンジェルは脱走艦であり、我々自身の立場も定かでない状況にあります。オーブのこの事態に際し、我々はどうするべきなのか…」
マリューは震えそうになりながら皆に事実のみを伝えていた。
「命ずる者もなく、また私も、あなた方に対しその権限を持ち得ません」
言葉に詰まりそうになるたびに、すぐそばにフラガの気配を感じて安心した。
(大丈夫…大丈夫よ、私は)
「回避不能となれば、明後日0900、戦闘は開始されます。オーブを守るべく、これと戦うべきなのか、そうではないのか。我々は皆、自身で判断せねばなりません」
トノムラもチャンドラもパルも、そしてマードックやサイ、ミリアリアも、皆の前で気丈に弁説を振るい続けているマリューの姿を見つめていた。
「よってこれを機に、艦を離れようと思う者は、今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って、避難してください」
(言えた…!)
マリューはほっとしてため息をついた。
戦いをやめたいものは、退艦してよい…この、たった一言を言うために、彼女は悩み続け、苦しんだ。
(オーブには恩義があるし、その理念にも共感している)
けれど、クルーの安全を守る事も自分の使命なのだ。
命令がないからこそ、決断は自分でしなければならない。
考えた挙句マリューは、全てを彼らに任せると決めた。
誰も残らないかもしれない…もはや艦を出せないほどに。
ハルバートンには叱られるかもしれない、とマリューは思う。
壮健な軍人だった彼が今の自分を見たら、なんと情けない事をと失望し、「戦いから逃げるな!戦わずして諦めるな!」と叱咤されるかもしれない。
(けれどこれは、私自身が考えて出した結論だわ)
不肖の弟子と呆れられるかもしれないけど、もう譲れない。
「私のような頼りない艦長に、ここまでついてきてくれてありがとう」
マリューは深々と頭を下げた。
涙がポツリと床に落ち、いつまでもいつまでも頭を上げられなかった。
「キラ!」
皆がバラバラと解散した後、キラはカガリに呼び止められた。
「キラ、キラ…あのな…」
カガリは息を弾ませて何かを言おうとする。
「ちょっと落ち着いて」
キラは両手で抑えて抑えてとジェスチャーした。
「そんな服着てる人が慌ててると、みんなが不安がるよ?」
それを聞いてふーっと息をつき、カガリが「そうだな」と答える。
「オーブが戦場になる。こんなことになるとはな…」
かつて砂漠の虎にタッシルが焼かれた時とは規模も攻撃の意味も違う。
意に沿わないからとなれば武力行使。同じ地球に住む者同士で、なぜこんな事になるのだろう。
「オーブは連中の敵じゃない!おかしいだろ、どう考えたって!」
カガリは悔しそうに言った。
「俺たちは、ただ戦争から逃げて知らん顔して暮らしているわけじゃない。努力して、頑張って、自分たちの手で平和な国を作りあげて来たんだぞ?」
それから、カガリは呟くように言った。
「確かに俺たちの…オーブの平和の陰で、どこかの国が踏みにじられ、食い物にされているじゃないかとなじる者もいる…」
いつだって大衆は残酷で、一面的な見方しかしない。
「でも、俺はさ!」
カガリは何も言わずに聞いているキラの両肩を掴んで揺すった。
「なら自分の国が銃を取り、憎しみで戦う国でいいのかと逆に聞きたい!」
「カガリ…痛いよ」
あ、ごめんと言いながら彼はキラを離した。
「俺はこの国の在り方も、一つの可能性だと思う」
皆が中立を貫く事は難しくても、戦わない道もあると示せるのだ。
「なのに、それも認めない世界なんて…」
「でも正しいと思うよ、私は」
キラはすっかり意気消沈してしまったカガリに言った。
「…え?」
「オーブの執った道。一番大変だとも思うけど」
キラは明るい表情を見せて言った。
戦いたくないと思いながら、戦い続けなければならなかったキラ。
敵ではない相手と、命懸けで殺しあわなければならなかったキラ。
カガリは過酷な運命を背負って戦ってきたキラを眩しそうに見た。
「意志を貫くって、本当に大変で、辛くて、厳しいことだけど…」
キラは一言一言、噛み締めるように呟いた。
「それを踏みにじられそうな時は、やっぱり戦わなきゃいけない」
「キラ」
「だからカガリも落ち着いて。できるかどうかわかんないけど、私も守るから」
「守る…」
「うん。お父さんたちが守ろうとしているオーブって国をね」
カガリは自分より小さくて頼りなげな少女が微笑む顔を見つめた。
彼女がストライクで戦う姿を見て、自分たちが得ていた絶対的な安心感。そしてキラがいなくなった時の喪失感とたとえようもない不安。そんな身勝手な自分たちの想いを受け止めきれず、それでも戦っていたキラは今、あの頃のように弱々しくはなかった。
(ああ…こいつの「守る」という言葉が、どれほど心強いか、今わかった…)
キラの「守る」という言葉には、優しく強い「力」があった。
「キラ!」
カガリは嬉しさのあまり、思わずキラを力一杯抱き締めた。
「おまえ、この野郎!ホントにいいヤツだな!」
「うっ…いや…だから…カガリ、苦しいってば…」
一方ではサイがカズイを見送ろうとしていた。
「だって…サイは降りないの?」
おどおどと卑屈そうな眼でカズイはサイを見上げた。
「私は残るわ。攻撃されるのオーブだしね」
サイはにっこりと笑って言った。
「今は私にもできる事があるから。さっき家にも電話してそう言ってきた」
女の子のサイが降りないのに、自分だけ…とカズイはもじもじする。
「あ、でも、ミリィは降りるよね?キラは…降りないかもしんないけど」
相変わらず他の人ばかり気にするカズイを見て、サイは苦笑した。
「他の人のことなんか、気にするのはやめなさいよ」
カズイはそう言われてビクっとする。
「自分で決めたことなら、それでいいじゃない。みんな違うんだから」
あの時…フレイが戦うと決めたあの時、皆はそれにただ同調した。
今みたいに、色々考えて、自分で決めて戦場に残ったわけじゃない。
「現に、今回は誰も誰かの意見なんか聞いていないでしょ?」
カズイも、私も、ミリィも、キラも、皆1人で考えてるのよとサイは穏やかに言った。
「けど、俺だけ降りるって言ったら、みんな臆病者とか卑怯者とか…俺のこと思うんだろ!?」
「カズイ」
「どうせそうだろうけどさ…でも、だって俺、できることなんかないよ。戦うなんて!そんなことはできる奴がやってくれよ…!」
泣き出しそうな声で訴えるカズイを見て、サイは少し気の毒になった。
カズイにとって、これまでどれほど怖くて、逃げ出したかった事か。
むしろよく頑張ってここまで来たと思う。だから、サイは頷いた。
「わかってる。向いてないだけよ、あなたには。戦争なんて…」
平和になったら、また会いましょうとサイは微笑んだ。
「サイ…俺、やっぱり」
「そうやってまた残ったら、きっと後悔するわよ」
ぐらついたカズイをサイは止め、バンと背中を押した。
(だから、さよなら、カズイ)
ミリアリアがキーロックを解除したのを見て、ディアッカは尋ねた。
「尋問?移送?」
移送だったらもうこいつとは会えないのかな…と余計な事を思いながら。
「この艦、また戦闘になるの。オーブに地球軍が攻めてくるから」
ミリアリアはドアを開くと、持ってきた洋服を一式、ディアッカに渡しながら言った。そしてディアッカが使った毛布をたたみ始める。
「え!?」
「だから、あんた、もういいって。釈放」
ミリアリアは毛布を手に出て行き、ディアッカはその後を追った。
「ちょっ…ちょっと待てよ!おい!どういうことだよ、それは!」
すたすたと歩いていくミリアリアの腕をつかむと、振り向かせる。
初めて触れた彼女の腕の細さに一瞬ドキリとしたが、今はそれどころではない。
「だから今言ったでしょ?」
ミリアリアは掴まれた手を振り払うと素っ気なく言った。
「地球軍が攻撃してくるから、アークエンジェルは戦うの。それにあんた乗っけといたってしょうがないじゃない。だから降りて」
しかしディアッカにはわけがわからない。
「いや…だから、なんでおまえらが地球軍と戦うの?」
「オーブが地球軍に味方しないからよ」
はぁ?とディアッカは大げさに言ってみせる。
「なんだそりゃ!ナチュラルってやっぱバカ?」
「悪かったわね!」
その言葉にムッとし、ミリアリアはジロリとディアッカを睨みつけた。
「攻撃が始まったら大混乱よ。悪いけど、あとは自分でなんとかしてね」
そう言い残してミリアリアは仕事に戻ろうとする。
「…って言われたってよぉ…」
ディアッカはこんなところで開放されたってと思う。
(大体、どうやってカーペンタリアに連絡すりゃいいんだ?俺たちが潜入した時に手引きした連絡員は、まだここにいるのか?)
そこまで思ってはたと気づき、ディアッカはもう一度彼女に呼びかけた。
「あ、おい!バスターは?」
「あれは元々こっちのものよ。モルゲンレーテが持っていったわ」
「げえ…」
戦闘になるってのに、バスターもないとなると踏んだり蹴ったりだ。
その時、ミリアリアはふと(こいつだってこんなところで放り出されたら心細いよね)と思って振り返った。
脱出方法でも考えているのか、ディアッカは思案に暮れている。
「こんなことになっちゃって、ごめんね」
ディアッカは思いもかけないその言葉にドキリとする。
「…お、おまえも戦うのかよ?」
そしてつい、どもりながら彼女の動向を聞いてしまう。
「野戦任官だって…元々は民間人だって、言ってたろ…?」
一方は殺そうとし、一方は殺されかけた出会いから約1ヶ月。
今はこうして手の届くところで、互いの安否を気遣っている。
(変なの)
そう思いながら、ミリアリアはディアッカを見つめた。
「私はアークエンジェルのCIC担当よ」
それは、戦うという意思表示だった。
「それに、オーブは私の国なんだから!」
国を守るのだと誇らしげに胸を張ったミリアリアを見て、ディアッカはかつての自分もそうだった事を思い出した。
「そっか…そうだよな」
誰だって、自分の国を守りたいと思うのは当然だ。
ユニウスセブンの悲劇を聞いて柄にもなく義憤に駆られ、父からは軍人など似合わんからやめておけと言われながらもザフトの門を叩いた遠い日を思い出し、ディアッカはふと懐かしそうに笑った。
(そのために戦ってたんだ、俺たちも)
「要求は不当なものであり従うことはできない。オーブ首長国連邦は今後も中立を貫く意志に変わりはない」
オーブからの回答を手に、アズラエルは楽しそうに言った。
「はっ!いや、さすが、アスハ前代表。期待を裏切らない人ですね」
それからモニターに映し出されたモビルスーツデータを楽しそうに眺める。
「ほんとのところ、要求飲まれちゃったらどうしようかなぁ…と思っていたのですよ、これのテスト…」
アズラエルは、最近自社で開発したばかりの「サイバースコープ」の試作品をかけた。二次元のモニターからはモビルスーツの立体映像が飛び出し、視覚からより脳に入りやすい形に変換されたデータが現れた。
「是非とも最後まで頑張り通していただきたいものですがね」
アズラエルは自由自在に動き回る3機の立体映像を見つめながら言った。
いよいよ戦闘開始だ。
アズラエルは戦闘準備に忙しい整備員たちとパイロットを見に行った。
そして、強化ガラスの向こうにいる彼らにマイクで呼びかける。
「きみたち、マスドライバーとモルゲンレーテの工場は壊してはいけません」
わかってるね?とアズラエルは茶目っ気をこめて言った。
「他はいくらやってもいいんだろ?」
片目を隠したシャニ・アンドラスという少年がけだるそうに尋ねる。
「ですね?」
赤っぽい髪のクロト・ブエルがそれに応えた。
もう1人のオルガ・サブナックはつまらなそうに無視している。
(頑張ってくださいよ、アスハ前代表…データを取れるくらいにはね)
アズラエルは立体映像などではない、本物のモビルスーツを見上げた。
それは見るも禍々しい武装を備え、これから追い込む獲物を待っていた。
マリューはオノゴロの港に止まった艦に連なる避難民の波を見ていた。
(数ヶ月前は、平和な中立国だったのに)
わずかな間に状況が変わって、戦いを知らない人々が戦いに巻き込まれる…
(ヘリオポリスでの、あの子たちもそうだったわね)
「何たそがれてんの?艦長さんが」
ノック音とフラガの声に、マリューは振り向いた。
「結局退艦は11名」
フラガも隣に来て、マリューが見ているものを見た。
集団疎開なのか、ヘルメットをかぶった子供たちの集団が見える。
「みんなすごいじゃないの。JOSH-Aがよっぽど頭に来たのかね」
JODH-Aの名を聞いて思い出したように、マリューは振り返った。
「少佐は、なんで戻ってらしたんですか?JOSH-Aで」
「え!?」
フラガは思いもかけない質問に言葉に詰まってしまった。
(なんでってそりゃ…)
彼の瞳に映るのは、不思議そうに自分を見上げている彼女だった。
「…今さら聞かれるとは思わなかったぜ」
フラガはそのままマリューの腰を抱くと、有無を言わさずくちづけた。
マリューは驚いてそれを受けたが、やがて体を離すと顔をそむけ、「わ、私は、モビルアーマー乗りは嫌いです!」と言った。胸に下がったロケットが急に重みを増した。
(モビルアーマー乗りは、皆…帰ってこないもの…)
けれどフラガはそれを笑って否定した。
「あ、俺今、モビルスーツのパイロット!」
その明るい笑顔に、マリューもついつられてしまう。
(この人は、本当にもう…)
この明るさで、いつだって自分を救ってくれた。
でも、アラスカで彼がいなくなって初めてその辛さがわかり、帰ってきてくれて初めて、この人を愛しているのだと知った。
2人は再び唇を合わせ、気持ちを確かめ合った。
やがてノイマンたちがブリッジに入ってきた事にも気づかず、彼らが2人の熱烈なキスに真っ赤になってもなお、離れなかった。
その頃アスランは、オーブ近海のアカツキ島に来ていた。
強力なECMを出して機体を隠すと、マルキオ導師の元に向かう。
(ラクスは、マルキオ導師がキラを連れてきたと言った…)
孤児たちはザフトのパイロットスーツを着た彼女に不審そうな眼を向けたが、マルキオはクラインやザラを通じてよく知るアスランを、快く受け入れた。
「どうやら避けられぬようですね。オーブと地球軍の戦闘も」
メディアはオーブと地球軍の戦いが始まらんとする様子を映し出す。
「人はたやすく敵となる」
「なぜ…オーブと地球軍が…」
アスランにはナチュラル同士の戦いが理解できない。
(戦いたくないのなら、オーブはなぜ連合に与しない?そうでなければ、なぜプラントに助けを求めないのだろう…)
アスランには、オーブの理念が理解できなかった。
中立を守るために戦うなど、それこそ理念に反しているではないかと。
(そんな事のために食い合うなど…バカバカしい…)
「ザフトなんか!俺が大っきくなったら全部やっつけてやる!」
その時、アスランは近寄ってきた1人の子供に突然足を蹴られた。
「え?」
「これ!…すみません」
マルキオが彼を叱ったが、子供は疾風のように駆け出してしまった。
「彼はカーペンタリア占領戦のおり、親を亡くしたものですから」
ああ…アスランは逃げて行った子を目で追う。
彼にとっての自分は、実際に親を殺したかどうかではなく、ただの敵に過ぎないのだ。敵とはそんなものだ…イメージが形作られ、一人歩きを始める。
「広げるは容易く、消すは難しいものです。戦火は」
マルキオは静かに呟いた。
そして連鎖は繋がっていく。殺し、殺され、また殺して…
(キラ…あなたは今、そこに…オーブにいるはず)
アスランが一歩を踏み出す。
「行くのですか?」
マルキオは敏感な耳で足音を聞き取り、アスランに声をかけた。
アスランは立ち止まり、それから「はい」と答えた。
(行ったところで…私は何をしようというのだろうか)
「決めるのは、あなた自身ですよ」
まるで自分の心を読んで問いかけたかのようなマルキオの言葉に、アスランは一瞬、(何を決めるのだろう)と思った。
けれど導師を問い質す事はしなかった。
「わかっています」
そう返事をすると彼の家を辞し、隠しておいたジャスティスに飛び乗った。
「時間です!」
警告の48時間が過ぎ、アズラエルが合図を送った。
途端に沖合いの艦体から激しい艦砲射撃が始まる。
オーブ軍のイージス艦が迎撃を開始し、戦闘が開始された。
「オーブ軍、戦闘開始しました」
サイの言葉に、マリューが命じる。
「アークエンジェル、発進します!」
海岸に陣取ったM1を中心に、戦車やヘリなどが陣形を取る。
やがて沖合いからは揚陸艇が何隻も近づいてきた。
「ゴットフリート照準、撃ぇ!」
アークエンジェルはその強力な砲で沖合いの艦隊を下げんとする。
しかし数が数だ。たちまちオーブ艦が火を噴き、ヘリが墜落していく。
M1部隊が慣れない機体を操りながら、到着した揚陸艇から降りてくるストライクダガーを相手に戦闘を開始した。性能はほぼ互角のようだ。
ディアッカは小高い丘からその様子を見つめていた。
アークエンジェルは低空飛行を続けながら、激しい爆雷で弾幕を張り、かつて自分をロックした強烈な主砲を放って連合軍の艦艇を沈めて行った。
「敵モビルスーツ部隊、イザナギ海岸に上陸!」
モニターに敵の光が点り始める。
カガリはそれを見て、第8機甲大隊を回すよう命じた。
迎撃はM1中心に行わせるよう、そちらの指揮を執るキサカに命じる。
「ヘリと戦車は動きが鈍い。遠方から援護を行わせろ!」
「オノゴロ上空に大型機接近!」
「何!?」
カガリは慌ててレーダーとモニターを見た。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
戦闘が激しくなると、飛行能力のあるフリーダムはそのまま飛び去り、捉まえられる範囲にいる艦隊とストライクダガーを急速にマルチロックした。
起き上がる背部のバラエーナ。両腰からはクスィフィアス。
そしてルプスの引鉄に指をかけ、キラは全ての砲を放った。
艦はことごとく火を噴き始め、ダガーは足やカメラを失って動きを封じられる。
さらにキラは獲物を求めて素早く飛び去り、その姿はもう見えない。
「なんだあれは!?オーブ軍のモビルスーツなのか?」
見たこともない機体の威力に驚愕し、地球軍は慌てて戦力を立て直しにかかったが、結局は何もできないまま、あっという間にキラに撃破された。
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」
フラガのストライクはエールの推進力で海岸に着地した。
そこでは実戦投入されたM1がダガーを相手に戦っている。
互いにモビルスーツ戦に慣れないため、ビームライフルで撃ちあうのが主だったが、1機のダガーが防衛ラインの薄い部分を突破してきた。
近づいてきたダガーにジュリがサーベルを抜いて斬りかかると、相手はそれをシールドで防ぎ、ジュリは反動でバランスを崩した。
「うわ、うわ…!」
相手のサーベルが振りかざされた時、空から一陣の風が舞い降りた。
フリーダムはダガーの腕を斬り落とすと後頭部を蹴り倒し、再び飛び去った。
あまりの早業にM1の三人娘も呆然とするばかりだ。
モビルスーツに乗って改めてキラの技術の高さを知ったフラガも「おーおー、かっこいいねぇ。どうせ俺は新米だけどね!」とおどけてみせた。そして次々と向かってくるダガーにライフルを撃つ。
「こら!ボーっとしてると次が来るぞ!お嬢ちゃんたち!」
「バリアント、撃ぇ!」
艦隊への攻撃を続けているアークエンジェルを捉えたのは、飛行能力のあるモビルアーマー形態のGAT-X370レイダーに乗ったクロトだった。
その背に乗ったGAT-X131カラミティにはオルガが乗っている。
イーゲルシュテルンをものともしない彼らの機体には、PS装甲の次世代型、トランスフェイズ装甲が施されていた。
「あれ、やるよ?白いの」
クロトは操縦桿をアークエンジェルに向けた。
「敵モビルスーツ、いや、モビルアーマー接近!」
トノムラが機体を捉えて叫ぶ。
「おらぁぁぁ!!」
背中のオルガがバズーカ砲トーデスブロックを放つ。
アークエンジェルから離れていたキラはその威力に息を呑んだが、ノイマンが思い切り舵を切って襲い掛かってきた砲を回避した。
「ハズれ!下手くそ!」
クロトがオルガを罵った。
「地球軍の新型か?」
見慣れない機体を見て、フラガも援護射撃を行った。
以前なら上空から支援できたが、モビルスーツの今は動けない。
しかもこっちはストライクダガーの進攻を食い止めなければならないのだ。
「撃滅!!」
やがてカラミティをオノゴロ島の岬に降ろし、身軽になったレイダーはアークエンジェルを守ろうと急接近するフリーダムに向かってきた。
MA形態からモビルスーツに変形すると、ミョルニルと呼ばれる鉄球を投げつけ、それを避けると口からエネルギー砲ツォーンを放ってくる。
離れればMA形態になって身軽に飛び回り、機銃掃射だ。
キラはもはやPSダウンを気にしなくてよい核のPS装甲ゆえに、恐れる必要のない機銃を防ぐふりをしてひきつけ、ラケルタで斬りかかると同時に距離を詰めた。レイダーはモビルスーツ形態になると防盾砲を向けたが、キラの方が一瞬早く、サーベルを手にしながらフェイントで蹴り倒す変則技でレイダーを吹っ飛ばした。レイダーはくるくると回ってMA形態になると機体を立て直し、再びフリーダムに向かってきた。
「てめぇ!!抹殺!!」
一方オルガが操るカラミティは軍港を破壊していた。
移送船に乗ろうとしていた避難民や兵が逃げ惑い、連射される双肩のビーム砲シュラークで吹き飛ばされていく。
裏の山手や崖なども全て容赦なく爆撃された。そこを必死に走っていた家族の命が無惨に踏み躙られ、一人の少年の運命が大きく変わったことなど、今は誰も気づけなかった。
キラが止めようと近づいても、カラミティは上空に向けてシュラークを放ち、ビーム砲のケーファーツヴァイを撃ちこんでくるので近づけなかった。
もはや異常なまでに強化された新型の火力…
無論、フリーダムの火力はさらに上を行っているのだが、彼らの容赦のない戦闘にキラは震撼し、突破口を見つけられずにいた。
飛び回るレイダーに取りつかれ、アークエンジェルは苦戦していた。
防戦と艦隊への攻撃の攻防を同時に行っているのだ。
ディアッカは足を止め、高台から戦いの推移を見守っていた。
(どうする…このまま逃げるか?あいつを置いて…あいつを見捨てて…)
ディアッカの心に、ミリアリアの泣き顔がよぎる。
自分を殺そうとしたくせに、赤毛の男の銃からは守ってくれて。
食事を届けに来たあいつと、ちょっとだけ話すことが楽しみだった。
(けど、俺が戦ったってしょうがないじゃないか!)
言い訳をするようにディアッカは拳を握り締めた。
(俺はザフトだぞ。オーブを守る義理なんかねぇし…)
何より、とディアッカは自分の力のなさを思い起こした。
(俺が戦ったところで、戦いを止めるなんてできっこねぇ!)
その間にもレイダーにプラズマ砲を撃ちこまれ、後方エンジンから火を噴いたアークエンジェルを見て、ディアッカは息を呑む。
(…バスターがあれば…)
ふと思う。
(俺にも、できる事はあるんじゃないか…?)
「ええい!」
やがてディアッカは踵を返して走り出した。
「考えんのはもうやめだ!」
もともとそういうのは性に合わないし、とりあえず自分がやりたいと思う事をやってみればいい…そう思って今来た道を走り抜けた。
(俺は今、あいつを死なせたくないって、そう思うんだから!)
レイダーを追っていたキラに、突然横からビームが襲い掛かった。
それは誘導プラズマ砲フレスベルグだった。
さっきまでオーブ艦隊を禍々しい鎌で切り裂いては爆破させていたGAT-X252フォビドゥンが、フリーダムとレイダーの戦いに横槍を入れたのだ。
「邪魔すんな、シャニ!」
「邪魔はてめぇだよ」
キラは避けたビームが不思議な軌道を辿った事に驚きを隠せない。
やがてレイダーと場所取りを繰り広げていたフォビドゥンが再びフレスベルグを放ち、キラはその軌道を予測したのだが、やはりそれが予測とはやや外れて届いたため、一旦身を引いた。
「ビームが…曲がる!?」
(データの変更を…!)
そう思ったが、今度はレイダーのミョルニルが飛んできた。
避ければフォビドゥンの機関砲アルムホイヤーが襲いかかり、再入力の暇を与えてはもらえない。
「ヘルダート、撃ぇ!」
アークエンジェルはカラミティのシュラークに痛めつけられていた。
プラズマ砲やビームによって、ラミネート装甲の排熱が間に合わない。
カラミティが再びトーデスブロックを構え、ロックされる。
「総員、衝撃に備えて!」
マリューが叫んだ時、別の方面からカラミティの砲撃が阻止された。
そしてさらに飛び回るレイダーをガンランチャーで追い払う。
「…バスター!?」
ライブラリに見慣れた名が出たので、サイが思わず叫んだ。
「え!?」
誰もが驚いたが、もちろん一番驚いたのはミリアリアだった。
「とっととそこからさがれよ、足つき…じゃねぇ、アークエンジェル!」
モルゲンレーテに収容されたはずのバスターがそこにいた。
ランチャーとライフルを速射し、ついでにM1とストライクを援護する。
(ちぇ、俺がストライクの野郎を援護するなんてなぁ…)
ディアッカは自嘲気味に笑った。
(イザークに怒られるわ、こりゃ)
「あいつ…なんで?」
ミリアリアは怪訝そうに眉を顰め、サイはくすっと笑った。
「助けてくれるんじゃない?ミリィのこと」
ミリアリアは「やめてよ、変な事言うの」とむくれてみせる。
けれど心の中には嵐のように不安がざわめいていた。
(だって、そんなこと頼んでないよ………ディアッカ…)
「こいつら!」
キラはフリーダムの威力をもってしても有利に立てない3機を相手に苦戦を強いられていた。アークエンジェルにバスターの援護がついた事で、むしろレイダーとフォビドゥンの攻撃目標がフリーダムに移ったといっていい。しかもカラミティまでが気まぐれな援護射撃を行ってくるため、3方向全て気が抜けない。
特にゲシュマイディヒ・パンツァーによる偏向ビームが厄介だった。
アスランはマルキオの家を辞してオノゴロに向かった後、上空に待機したままこの戦闘の様子を窺っていた。
大艦隊がオーブ沖に展開し、イージス艦や駆逐艦は、モビルアーマーとモビルスーツの合いの子のような機体に随分沈黙させられてしまった。
パナマで投入されたというストライクダガーの威力は思った以上で、オーブのモビルスーツも健闘はしているが、圧倒的に数でかなわない。
そして見慣れたストライクとバスターが戦っているのを見て少し驚く。
(バスター…?鹵獲されて、今はナチュラルが乗っているのだろうか?)
ディアッカの行方は、パナマのイザークも知らなかった。
しかし何より、特務隊員である自身の目標物であるフリーダムだ。
翼を広げ、機敏な動きで新型を相手に戦うキラは、相変わらず際立って強い。しかし3機の新型はあまりにも強大すぎる…
「フリーダム…キラ…」
私が信じて戦うもの…私がなすべき事…何をもって敵とし、何をもって戦うとすべきなのだろう。
ラクスの問いに、アスランはまだ答えを見出せないでいる。
(聞いてみたい。キラに)
あなたは何のために戦うのかと。
(そのために…私がすべきことは…)
突然、フリーダムとレイダー、フォビドゥンの間にビームが放たれ、驚いた3者は散開した。そして全員がその方向に意識を集中した。
上空からゆっくり降りてきたのは、リフターを背負い、ライフルを手にした赤い機体…ZGMF-X09Aジャスティスだった。
キラは眼を見張る。
あの時、工廠でフリーダムの隣にあった機体に誰が乗っているのか…それはもはや火を見るより明らかだった。
アスランはフリーダムの前に立ち、眼を逸らさなかった。
(キラ…私は今、あなたと話がしたい…)
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制作裏話-PHASE38-
いよいよアズラエルが登場!
逆種を書くにあたってはシナリオを読み返すわけですが、一番面白かったのがこのアズラエルです。
この人はぶれない。そしてクルーゼのようにいいんだか悪いんだか…という時期がないので、ひたすら悪役街道まっしぐら。ええ、もうそりゃ気持ちいいくらい。しかもジブリールより見目麗しく、檜山氏の演技がこれまた「らしい」ので、キャラが固まりまくりなんですよ。そのくせ、彼の言う事が100%間違っているわけでもなかったり…なんという複雑怪奇。ある意味最高の悪役ですね。
ちなみに、逆デスではすっかりお馴染みだった電脳グッズ、「サイバースコープ」を、2年前には「試作品」として出してみました。時の流れを感じさせてみたかったので、後出しじゃんけんです。
また、同じく10話程度しか活躍しなかったヤク中ことオルガ・クロト・シャニの新型トリオが登場します。クロトの「滅殺!」に「カズマ?」と思ったり、オルガの声が完結した龍騎でゾルダを演じた涼平氏だったり、シャニの声(宮本君)も変なけいれんもヤバかったり、色々と楽しませてくれました。
このPHASEは今までになく大幅な改編を加えています。私がSEED本編で足りないと思っていたことをすべてつぎ込んだと言ってもいいかもしれません。
たとえばアスランが「自分の目で見て耳で聞く」ために、フリーダムを追って世界中を検証して歩くこと。本編ではアラスカの跡地を見つめる彼の姿しかありませんでしたが、逆転のアスランはジブラルタル、アラスカ、パナマと全ての戦場を見ていきます。イザークをはじめ懐かしい人たちと再会し、戦争の何たるかを知ろうとします。さらにジャスティスを眼にしたクルーゼの思惑も見え隠れします。
同時に、クルーゼには一機で戦艦に匹敵する戦力のフリーダムを奪取したラクスを「イレギュラーな存在」として意識させました。これによって、彼の親友であるデュランダル議長が、なぜあんなにも初めからラクスを警戒したのか匂わせています。最終的に彼らの野望を打ち破ったのはラクスですから、こうして大物ぶりを見せておかないとね。電波だけじゃダメですよ、電波だけじゃ。
またGシリーズの開発というある意味戦争を泥沼化させる片棒を担いだハルバートンの弟子であるマリューにも、この時新たな道を見出し、選択したという補足的説明を追加しました。当時はとにかく情に流されるダメ艦長の代名詞だったマリューですが(その後艦長ではないけどスメラギの登場でやや味が薄くなりました)彼女もまたここで一段階成長させたいと思っての事です。
一方、キラもオーブを守るために戦うことを決意します。カガリがキラに頼もしさを覚えるのは本編どおりですが、キラの存在がいかに皆の支えになるか、アスランも逆デスで身に染みることになります。逆種・逆デスではこうしてキラも少しずつ成長しているのです。完璧超人じゃないんですよ!
オーブという国については、SEED及びDESTINYの本編放映時も、某巨大掲示板を「暴言学会」とするしたり顔の「なんちゃって国際学者」たちがああでもないこうでもないと「中立=こうもり論」を論じてくれましたが、明るく強い男カガリにはもっとシンプルに、素直な想いを語ってもらいました。
これはカガリが2作の逆転を通じ、たった一度だけ泣くシーン…国を焼かれ、民を焼かれて泣いたシーンに繋げる伏線です。世界はオーブを許さなかったのかと彼が泣く姿は、アスランにも刻み付けられます。
逆デスではオーブを背負って立たねばならないカガリにも、その基盤となる「痛み」や「苦しみ」がなければ演出になりませんから、ここは気合を入れてます。
ディアッカとキラが出会うシーンも、オーブ戦より前にあらかじめあって欲しかったシーンなので入れ込みました。
開放されてからの「逃げるか、戦うか」というディアッカの葛藤もなかなか楽しかったです。
そしてこの気持ちは果たして好意か、恋愛か、勘違いか…ディアッカはこれからミリアリアの傍で翻弄され、悩まされることになりますね。
この時点での、オーブに対してのアスランのクールさも意識して書いています。アスランにはオーブに何の思い入れもないですからね。それどころかPHASE24や28、31での言い草だと、「中立のくせに地球軍に与している卑怯な国」と思っているフシがあります。
それが続編では(プラントには居づらかったとはいえ)故郷を捨てて移住するくらいまで変わっていったわけですから、何がアスランに影響を与えたかなんて一目瞭然です(だからDESTINYのあの展開はおかしいんだっつーんだよー)
ムウとマリューもめでたくくっつき、カズイは艦を降りていきました。オーブ戦はますます苛烈さを増していきますが、そんな中でついにキラとアスランが再会します。
そしてこのPHASEには、さりげなくシンが出てます。
シンが腕だけになった妹を見て泣き叫んでも、この時必死で戦っているキラたちには、その声に振り返る余裕がない事がよくわかりますね。戦争とはかくも残酷なものです。胸が痛いです。
逆種を書くにあたってはシナリオを読み返すわけですが、一番面白かったのがこのアズラエルです。
この人はぶれない。そしてクルーゼのようにいいんだか悪いんだか…という時期がないので、ひたすら悪役街道まっしぐら。ええ、もうそりゃ気持ちいいくらい。しかもジブリールより見目麗しく、檜山氏の演技がこれまた「らしい」ので、キャラが固まりまくりなんですよ。そのくせ、彼の言う事が100%間違っているわけでもなかったり…なんという複雑怪奇。ある意味最高の悪役ですね。
ちなみに、逆デスではすっかりお馴染みだった電脳グッズ、「サイバースコープ」を、2年前には「試作品」として出してみました。時の流れを感じさせてみたかったので、後出しじゃんけんです。
また、同じく10話程度しか活躍しなかったヤク中ことオルガ・クロト・シャニの新型トリオが登場します。クロトの「滅殺!」に「カズマ?」と思ったり、オルガの声が完結した龍騎でゾルダを演じた涼平氏だったり、シャニの声(宮本君)も変なけいれんもヤバかったり、色々と楽しませてくれました。
このPHASEは今までになく大幅な改編を加えています。私がSEED本編で足りないと思っていたことをすべてつぎ込んだと言ってもいいかもしれません。
たとえばアスランが「自分の目で見て耳で聞く」ために、フリーダムを追って世界中を検証して歩くこと。本編ではアラスカの跡地を見つめる彼の姿しかありませんでしたが、逆転のアスランはジブラルタル、アラスカ、パナマと全ての戦場を見ていきます。イザークをはじめ懐かしい人たちと再会し、戦争の何たるかを知ろうとします。さらにジャスティスを眼にしたクルーゼの思惑も見え隠れします。
同時に、クルーゼには一機で戦艦に匹敵する戦力のフリーダムを奪取したラクスを「イレギュラーな存在」として意識させました。これによって、彼の親友であるデュランダル議長が、なぜあんなにも初めからラクスを警戒したのか匂わせています。最終的に彼らの野望を打ち破ったのはラクスですから、こうして大物ぶりを見せておかないとね。電波だけじゃダメですよ、電波だけじゃ。
またGシリーズの開発というある意味戦争を泥沼化させる片棒を担いだハルバートンの弟子であるマリューにも、この時新たな道を見出し、選択したという補足的説明を追加しました。当時はとにかく情に流されるダメ艦長の代名詞だったマリューですが(その後艦長ではないけどスメラギの登場でやや味が薄くなりました)彼女もまたここで一段階成長させたいと思っての事です。
一方、キラもオーブを守るために戦うことを決意します。カガリがキラに頼もしさを覚えるのは本編どおりですが、キラの存在がいかに皆の支えになるか、アスランも逆デスで身に染みることになります。逆種・逆デスではこうしてキラも少しずつ成長しているのです。完璧超人じゃないんですよ!
オーブという国については、SEED及びDESTINYの本編放映時も、某巨大掲示板を「暴言学会」とするしたり顔の「なんちゃって国際学者」たちがああでもないこうでもないと「中立=こうもり論」を論じてくれましたが、明るく強い男カガリにはもっとシンプルに、素直な想いを語ってもらいました。
これはカガリが2作の逆転を通じ、たった一度だけ泣くシーン…国を焼かれ、民を焼かれて泣いたシーンに繋げる伏線です。世界はオーブを許さなかったのかと彼が泣く姿は、アスランにも刻み付けられます。
逆デスではオーブを背負って立たねばならないカガリにも、その基盤となる「痛み」や「苦しみ」がなければ演出になりませんから、ここは気合を入れてます。
ディアッカとキラが出会うシーンも、オーブ戦より前にあらかじめあって欲しかったシーンなので入れ込みました。
開放されてからの「逃げるか、戦うか」というディアッカの葛藤もなかなか楽しかったです。
そしてこの気持ちは果たして好意か、恋愛か、勘違いか…ディアッカはこれからミリアリアの傍で翻弄され、悩まされることになりますね。
この時点での、オーブに対してのアスランのクールさも意識して書いています。アスランにはオーブに何の思い入れもないですからね。それどころかPHASE24や28、31での言い草だと、「中立のくせに地球軍に与している卑怯な国」と思っているフシがあります。
それが続編では(プラントには居づらかったとはいえ)故郷を捨てて移住するくらいまで変わっていったわけですから、何がアスランに影響を与えたかなんて一目瞭然です(だからDESTINYのあの展開はおかしいんだっつーんだよー)
ムウとマリューもめでたくくっつき、カズイは艦を降りていきました。オーブ戦はますます苛烈さを増していきますが、そんな中でついにキラとアスランが再会します。
そしてこのPHASEには、さりげなくシンが出てます。
シンが腕だけになった妹を見て泣き叫んでも、この時必死で戦っているキラたちには、その声に振り返る余裕がない事がよくわかりますね。戦争とはかくも残酷なものです。胸が痛いです。