Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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アークエンジェルとフリーダムがいくら孤軍奮闘しようとも、地球軍の物量には成す術がなく、防衛ラインが次々突破されていく。
M1部隊とストライク、バスターはイザナギ海岸で踏ん張っていた。
フラガは戦いの中で、実弾に対してはPS装甲を信じて動く勇気を覚えた。
いくら装甲がよくても、銃撃の中をなかなか無防備では動けない。
これも、人の心の染み込んでいる恐怖心というやつなのだろうか。
突如目の前に現れた赤い機体に、新型もキラも驚きを隠せなかった。
「このぉ…なんだてめぇは!」
クロトが機銃を掃射したが、アスランはフリーダムと同じルプスビームライフルを向けると威嚇射撃をして追い払う。
まるで「邪魔だ、どけ」と言わんばかりに。
「へぇ…まだいたんだ、変なモビルスーツ」
シャニはこの謎の赤い機体に興味を持ったようだった。
精神状態が不安定な彼が何かに興味を持つ事は珍しい。
キラはその断固たるジャスティスの存在感に気圧されているようだった。
やがてアスランはパチンパチンと手早く通信機をいじると、フリーダムとチャンネルを合わせる。互いにNジャマーキャンセラーを乗せた機体だ。雑音の入らない交信は非常にクリアーだった。
「こちらザフト軍特務隊、アスラン・ザラ。聞こえるか、フリーダム!」
キラはその声を聞いて思わず呻いた。
「キラ・ヤマトだな?」
「………アスラン…」
その声でアスランはフリーダムに乗るのがキラであると確認した。
しかしジャスティスに軽くいなされたクロトが再び飛び込んでくる。
今度はキラがライフルでレイダーを威嚇し、ピクウス機関砲を放った。
「どういうつもり?ザフトがこの戦闘に介入を!?」
キラはやや苛立ちながら尋ねた。
ザフトまでもが戦闘に介入したりしたら…キラはきゅっと唇を噛んだ。
(そうなったら、オーブは!)
「軍からはこの戦闘に対して、何の命令も受けていない」
アスランは冷静な声でそれを否定した。
しかしキラはその答えに、ますます戸惑うばかりだ。
「うらぁぁ!!」
その途端、フォビドゥンが大鎌を振り回してジャスティスに向かってきた。
ジャスティスは2本のサーベルを抜き、ハルバートモードにして構えた。
「この介入は…私個人の意志よ!」
突っ込んでくるフォビドゥンの大鎌を避け、ジャスティスは肩で相手の無防備な半身に突進した。ひるんだフォビドゥンに双頭サーベルを振りかざすと、フォビドゥンは素早くシールドで庇ったものの、衝撃で後ろに吹き飛ばされた。
意表を突き、相手の力を利用した巧みな戦闘に、キラは眼を奪われた。
「なんだか知らねぇが、てめぇも瞬殺!!」
さっきからいいようにあしらわれて頭に来ているクロトは、MA形態で後ろからジャスティスに近づくとプラズマ砲を放った。
「くっ!」
アスランは振り向きざまの遠心力でレイダーを薙ぎ払う。
掠めたプラズマ砲がシールドを焼いたが、ダメージというほどではない。
「なんだありゃ?増えてる!」
オルガが無差別にシュラークをぶっ放し始めた。
(的が増えやがった。こいつはおもしれぇ!)
しかしその砲が自機の翼をかすめそうになったため、クロトがチッと舌打する。
「オルガ!てめぇ!」
オーブ軍司令室でも突然介入してきた赤い機体の正体にざわめいていた。
「別の連合軍機か?」
「いや、違う…フリーダムを援護している」
機敏に飛び回りながら強力な砲で攻撃するフリーダムに比べ、動きは少ないが敵をひきつけて格闘戦に持ち込む赤い機体。
カガリは黙りこくって両者を見つめていた。
「へへ、何遊んでんだよ、おまえら!」
砲撃を仕掛けると慌てて散開する4機の姿があまりにも無様で、オルガは楽しそうに笑いながらさらにバズーカを放った。
「俺も混ぜろよ!」
「邪魔すんな、オルガ!」
クロトが文句を言う傍から、今度はシャニがフレスベルグを放つ。
レイダーの軌道など気にもせず、赤と白の機体しか見ていない。
クロトは大きく曲がったビームの射線をかろうじて避けた。
「うわぁ!シャニ!この野郎!」
クロトは2人の勝手な行動に苛立ちを隠せない。
(イカれてるぜ…!)
アスランが前面からビームライフルを放ち、ラケルタを構えて飛び出すと、シールドを構えたフォビドゥンが飛び込み、ジャスティスを鎌でいなした。
一方戻ってきたレイダーは両者の影で動かないフリーダムを狙った。
しかしフリーダムは既にフルバーストモードに入っている。
キラはジャスティスの陰で彼らをロックオンしていたのだった。
「なにっ!」
クロトは慌てて操縦桿を引いたが、逃げられなかったカラミティは被弾した。
「こいつらぁ!」
激しい衝撃に襲われたオルガは怒りに燃え、あたりかまわずシュラークをぶっ放す。
「アスラン!」
「上!」
アスランはフリーダムに注意を促すと、ビームブーメランを投擲した。
上空で彼らを狙っていたフォビドゥンはそれを避けたが、次の瞬間にはもう目の前にいたフリーダムに蹴り飛ばされた。
「取り舵20!左の艦隊を潰す!」
3機の動きがフリーダムとジャスティスによって牽制され、アークエンジェルは艦隊への攻撃に集中できるようになった。
一方バスターは、ストライクが敵に回らない今、その火力を遺憾なく発揮した。
フラガはなぜか隣で戦っているこの「宿敵」に複雑な気持ちを抱きつつ、ストライクダガーに斬りかかった。
「性能はこっちのが上だからね!」
ビームサーベルが相手の肩口から見事に入り、ダガーが爆発する。
フラガはそのまま飛び上がるとエールで滑空し、M1の援護に入った。
「コピーに負けるわけにはいかんでしょう!」
「まだ軍本部の制圧、できませんか?おかしいですね」
民間人のアズラエルにレーダーは読めないが、圧倒的な戦力差があることはわかるし、勝利がもたらされていないこともわかる。
(オーブめ、意外としぶとい)
「ご自慢の新型、思うほど働いてくれてはおらぬようですが?」
司令官すぐにはカタがつきそうもないと苛立ちを隠せない。
戦況は有利とはいえ、まだ完全には傾かない。
アズラエルは痛いところを突かれたとでもいう顔をし、時計を見た。
「でやぁぁ!必殺!!」
ジャスティスに鉄球を投げつけ、ツォーンを吐くレイダーに、まるで敵ごと仕留めんとオルガがシュラークを放った。
「うざいんだよ、クロト!」
一方でフリーダムにフレスベルグを放ったフォビドゥンも、キラが避けた場所にカラミティがいることなど考えていない。
「てめぇもうぜぇ!」
直撃をかろうじて避け、転倒したカラミティを見て、キラは敵ながら思わず「あっ!」と叫んでしまった。
(こいつら、味方も平気で…)
アスランは相手の卑劣な戦いぶりに嫌悪感を感じずにいられない。
そのうち同士討ちを始めるのでは…と思わせるような荒っぽさだ。
しかし彼らもさすがにそこまではいかなかった。
というより、突然モビルスーツの動きがおかしくなったのだ。
「うざいのはおまえだ!オルガ!よくも俺に攻撃しやがったな!」
そう叫んだ途端、クロトが急にうめき声をあげて苦しみだした。
シャニもまた痙攣のような発作を起こして、頭を振り始める。
「うわ!うう…」
3人はほぼ同時にコックピットの中で苦しみだし、悶えた。
なぜか動きが止まった3機体に、キラもアスランも驚きを隠せない。
「ちくしょう…時間切れかよ…クロト!!」
カラミティはよろよろと立ち上がるとレイダーを呼んだ。
クロトは 苦しみながらもカラミティの元へ飛び、その背に彼を乗せる。
「くっそぉぉぉぁぁ!!」
そのまま後も見ずに飛び去っていく3機を、キラもアスランもただ呆気に取られて見送るだけだった。
「レイダー、フォビドゥン、カラミティ、帰投します」
「なに?」
母艦では3機の帰投に、司令官が驚きの声を発した。
アズラエルはちっと舌打ちした。
(役立たず共め!もう切れたか)
「どういうことだね、これは?」
司令官は厳しい表情でアズラエルに向き直る。
「自信があったから作戦を実行し、あの3機を出したのではないのかね?」
「ああ、やめやめ、ちょっと休憩ってことですよ、艦長さん」
アズラエルは手をパタパタさせた。
「一時撤退です。全軍撤退」
「なんだと!?」
司令官は噛みつかんばかりだ。アズラエルはにっこり笑った。
「どうせストライクダガーだけじゃどうにもなりません。オーブの底力、思っていた以上のものだ。あいつら抜きで戦ったら、全滅しますよ?」
アズラエルはニヤリと笑いながら言った。
「僕はかまいませんけど、軍人さんとしてはまずいんじゃないんですか?」
司令官はむっつりと黙り込み、オペレーターに指示した。
「信号弾、撃て!一時撤退!」
もとより、非のない主権国家に難癖をつけて侵攻するごり押し作戦だ。
間違っても失敗など許されるはずがなかった。
撤退していく連合軍を見て、皆どよめいた。
「どうしたんだ?」
「諦めてくれるのかな?」
期待と不安に満ちた声が聞こえてくる。
M1もストライクも、次々撤退するストライクダガーを見つめていた。
上空から戦場の様子を見つめていたアスランは、フリーダムがジャスティスに近づいてきた事に気づいた。
「援護は感謝します。だけど、その真意を改めて確認したい」
アスランは戦意がないことを示すため、コックピットハッチを開いた。
「私はその機体…フリーダム奪還、あるいは破壊という命令を本国から受けている」
アスランはキラに自分の姿を見せながら語った。
「けれど今、私はあなたと、その友軍に敵対する意志はない」
キラは黙って聞いている。
「話がしたい。あなたと」
アスランはそう言うと、片手を下に向けて着陸するよう合図をした。
「急げ!こっちだ!」
「また攻撃してくるぞ!」
「軽傷者は向こうのテントよ!重傷者は…」
急遽医療キャンプが張られ、負傷者の搬送が始まった。
指示に忙しいカガリも合間を縫い、3人娘やフラガたちに会いに来たが、援護してくれたバスターについて聞くと、コックピットを見上げた。
一方ディアッカは偉そうな軍服を着た男が騒いでいる事に気づいてハッチを開けると、そいつはぐるぐると手を振って怒鳴った。
「おい、おまえ!降りて来いよ!えーと…捕虜!!」
「なっ…俺はもう捕虜じゃねぇぞ!」
「いいから降りてこい!」
ディアッカは、「やなこった」と一旦は断ってハッチを閉じたのだが、カガリが機体を金属か何かでカンカン叩き始めたので、「うるせぇ!」とついに降参した。
「みんな!よくやってくれた!」
救護人にドリンクを配らせながら、カガリは皆をねぎらい、怪我や体調不良がないかとパイロット一人ひとりに聞いて廻った。
「一体どうしたっていうんだよ?」
「撤退理由は…よくわからないんだ」
フラガが尋ねたが、カガリは肩をすくめた。
「連合からの通告はないが、本部は再攻撃の可能性が高いと見ている」
キサカの言葉に、フラガは「やれやれ」と頭を振った。
アークエンジェルに被害状況を確認すると、重大な被害はないと言う。
「ありがとう。皆を休ませてくれ、ラミアス艦長」
未熟ながらも自分が指揮官の1人である事を自覚しているカガリは、医療キャンプを取り仕切り、兵や施設の被害状況を記録させていた。
やがて所在なく佇んでいるディアッカに気づくと、カガリは手ずからドリンクを渡した。
「…で?なんでおまえも戦ってるんだ、捕虜」
「だから!捕虜じゃねぇっつの」
カガリはしばらく面白そうに彼を見ていたが、やがて「ありがとうな、アークエンジェルを守ってくれて」と言うと、ディアッカは面倒くさそうに手を振った。
その時、フリーダムが正体不明の赤い機体を伴って降下してきた。
皆、突然現れて危機を救ったこの謎の機体を見ようと飛び出し、アークエンジェルからはマリューたちも降りてきた。
まず先にフリーダムのキラが姿を現した。
続いてアンノウンのコックピットからは、赤いパイロットスーツを着た美しいザフト兵が、長い藍色の髪をなびかせながら降りてきた。
「あの時のザフト兵…」
キサカが呟き、カガリも固唾を呑んで見つめた。
しかし次の瞬間、オーブ兵が一斉にアスランに銃を向けた。
キラと同時に、中間地点に向かって歩き始めていたアスランは、銃を向けるオーブ兵たちをチラリと見た。
「彼女は敵じゃありません」
その時、キラが右手を挙げてそれを止めた。
カガリがその意図を汲み、兵たちに「銃を下ろせ」と命じた。
一方ディアッカは、後ろの方で面白そうにその光景を見守っていた。
(アスランじゃんか…何しに来たんだ?)
キラとアスランはある程度近づくと立ち止まる。
キラは自分より身長の高いアスランを見上げ、微笑んだ。
一方アスランは元気そうなキラの姿を見て、胸が一杯になった。
(生きていた…本当に…キラ…)
もう二度と会えないと思ったキラが、こうして眼の前に立っている…
話したいことはたくさんある。けれど、言葉が出なかった。
アスランは何とか口を開こうとしたが、うまくいかない。
「トリィ!トリィ!」
その時、アークエンジェルからトリィが飛んできた。
トリィは生みの親のアスランの頭上を飛び回り、やがてキラの肩に止まった。
キラはそんなトリィを見て、それからアスランを見た。
「こんにちは、アスラン」
キラの顔が夕日に照らされて眩しい。
アスランは思わず眼を細めた。
何かを言葉にしたら想いが溢れそうだ。
(謝らなければ…いえ、まずは聞かなければ…話さなきゃ…)
「キ…ラ…」
けれど今はただ、その名を呼ぶのが精一杯だった。
いつまでも無言の2人に、しびれを切らしたカガリが呆れて言った。
「おまえら!いい加減喋れ!」
キラはその身も蓋もない言い方に吹きだしてしまった。
アスランも相変わらず乱暴なカガリを見て拍子抜けしたようだ。
2人はもう一度顔を合わせると、照れたように、困ったように笑った。
「とりあえず、おまえらも休め。オーブは今、誰であろうと歓迎する」
そう言うとカガリは、この再会劇を見ていた観客を振り返った。
「さぁ、仕事をするヤツは仕事、休むヤツは交代で休んでくれ!」
今後戦闘がどうなるかはわからないが、どちらにせよ、パイロットや兵たちには休息が必要なことは間違いなかった。こうして再び時間が動き出した。
「でも、それは…!」
ジャスティスはアークエンジェルのハンガーに格納され、アスランはそこで、随分長い間キラと話をしていた。
マリューやフラガ、サイたちも遠巻きに2人を眺めている。
ミリアリアも物陰で様子を窺い、そんな彼女をディアッカが見守っていた。
キラはプラントでラクスやシーゲル・クライン、このオーブではウズミ・ナラ・アスハと話した事、そしてアラスカでの実情を語った。
「それで、少しだけわかったのは…ナチュラルもコーディネイターも、本当はお互いの敵じゃないんじゃないか…って、事なんだけど…」
キラは相変わらずたどたどしく、的を射ない話し方をするが、アスランはこうしたキラの話しぶりには一番慣れている。
「なら、あなたは何と戦うと?」
「少なくとも、誰かに決められた『敵』じゃなくて…」
キラはうまい表現を考えて少し考え込んだが、見つからない。
「たとえば今は、戦争を拡大させようとする、正体を見せないもの」
「そんな…だって、漠然としすぎてるわ」
アスランは途方もない話に眉をひそめた。
「そんなもの、私たちに見つけ出せるはずないでしょう?」
正体がわからないものをどうやって探すというのだ…アスランは少し呆れながら、一方でこれは何かの暗喩だろうかと思う。
「うん。大変だってことはわかってる」
キラは「っていうか、やっぱ、無理…かな」と哀しそうに笑った。
アスランはその笑顔を見て、頭ごなしに否定した事を少し悔いた。
「でも仕方ないよ。私はそう思うから。だから今は、オーブを守りたいんだ」
キラは少し遠くを見る眼をして語った。
「だって、オーブが地球軍の側につけば、大西洋連邦はその力も利用してプラントを攻めるようになる。ザフトの側についても、きっと同じこと」
その言葉にアスランは厳しい父の顔を思い浮かべた。
確かに、オーブがプラントにつけば太平洋を掌握できると思うだろう、父は…
「見えない何かに操られて、そうやってただ、敵が変わるだけ。それじゃしょうがない。そんなのはもう嫌なの、私は」
だからまず、オーブをその見えない敵から守りたいとキラは言う。
「でも…!」
そんなことができるわけがない。
今のオーブの現実の敵は地球軍で、強大な戦力を持っている。
一国、ましてや1人の力などでは、とてもかなわないだろう。
けれど、キラは穏やかな表情でアスランを見つめた。
「アスラン…私は、あなたの仲間…友達を殺したよ」
アスランは思わずキラを見た。
ニコル…そう、キラはニコルを殺したのだ。
「でも…私は、彼を知らない。殺したかったわけでもない」
キラはブリッツを手にかけた感触を思い出し、両手を見つめた。
(そう…彼はあの時、私の敵だったけど、本当の敵じゃなかった)
それから呟くように言った。
「あなたも…トールを殺した」
その言葉はミリアリアを凍らせ、ディアッカも思わずアスランを覗き見た。
アスランはその名を聞いていぶかしむ表情を見せている。
(トール?…誰?)
「アスランは、トールを知らない。殺したかったわけでもないよね」
そんな彼女を見て、キラが寂しそうに言った。
「知れば、敵ではないと思えたのに!バルトフェルドさんも、アスランの友達も、トールも…みんな今も元気に生きていられたのに!!」
キラの瞳の涙が、ずっと言葉に詰まっていたアスランを後押しした。
「…わ…たしは…あなたを…殺そうとした…」
あの時、憎しみと怒りに駆られ、本気で殺すために襲い掛かった。
キラはその言葉を黙って聞いていたが、やがて呟いた。
「…私もだよ…」
悲しみと怒りが心をかき乱し、手を緩める事なく、殺そうとした。
そんな醜いものが自身の中にいた事が、2人を深く傷つけていた。
「そうやって、敵と決めつけられた相手を殺してきたんだよ、私たち!」
吐き捨てるように言ったキラの言葉に、アスランは顔をあげた。
「こんなのいやだよ、もう!」
キラはいつも押し殺している気持ちを搾り出すように言った。
「…戦わないで済む世界ならいい」
そんな世界に、ずっといられたんなら…どんなにいいだろう。
「でも戦争はどんどん広がろうとするばかりで…このままじゃ本当に、プラントと地球は滅ぼし合うしかなくなるよ!」
「…それは…でも…」
「そんなの、哀しすぎる。ナチュラルにも、コーディネイターにも、優しい人はたくさんいるし、平和を願う人はたくさんいるのに」
キラの言葉に、アスランは結局何も言い返せなかった。
自分の父は今、ついに核を使う決意までしているのだ。
母を、多くの同胞を、そしてラクスの健全な体を奪った忌わしい核を…
「だから私は、やれる事をやるよ」
キラが寂しそうに笑った。
「それが途方もなくて、バカみたいでも、何もしないよりはいい。ラクスと約束したから。カガリと約束したから」
キラにとってそれは、フレイと交わした約束とは違うものだった。
「戦わない…という選択肢は?あなたは軍人じゃないんだし…」
アスランは以前から思っていた疑問を投げかけた。
「うん、前はね、逃げる事ばっかり考えてた…何でこんな事、私がって。相手はアスランだし、いやいや戦ってた」
寂しそうに語るキラの表情を見ながら、アスランもまた、わけもわからず彼女と戦わねばならなかった日々を思い出していた。
「でも、たとえ守るためでも、もう銃を撃ってしまったから…元には戻れないし、戻っちゃいけないと思う、きっと」
そう言ってから、キラは少しの間考え込むように沈黙した。
やがて恐る恐るアスランに尋ねた。
「アスラン…私たちも、また戦うのかな?」
アスランは答えに詰まった。
ラクスが言ったように、キラもずっとそれを考えていたのだろう。
自分がザフトに戻り、ナチュラルを敵として戦場に出れば、いつかまたキラは自分の前に立ちはだかるのだ。
(戦争を助長するものの1人として、再びキラの敵になる。ラクス…あなたが言いたかったのはこの事なの?)
アスランはラクスの言葉を思い返していた。
(だから考えろと…キラと話せと言ったのね)
「もう作業に戻らなきゃ。攻撃…いつ再開されるかわからないから」
やがてキラは時計を見て言った。
フリーダムの整備をして、少しでも眠っておきたい。
アスランはそれを聞き、軍人の顔になった。
「一つだけ聞かせて!フリーダムには、ニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されている。そのデータを、あなたは…」
「ここで、あれを何かに利用しようとする人がいたら、私が討つ」
キラもまたきっぱりと答えた。
「あれは誰にも渡さない。絶対に」
アスランはその答えに満足し、頷いた。
(あの人が、トールを殺した…トールの事を知りもせず…)
ミリアリアは2人の会話が終わるとその場を立ち去った。
「…おい!」
彼女を追いかけたディアッカが後ろから声をかけると、ミリアリアは涙を見せまいと上を向き、そして振り向いた。
「なによ!?」
ディアッカは痛々しいその表情を見た途端困ってしまい、 「あ…いや…その…トールって奴、殺したの…あいつ…」と、しどろもどろに言った。
「だから何!?あんた、聞いてなかったの!?キラの言ったこと!」
ミリアリアは苛立ちを隠せず、つい怒鳴りつけてしまった。
ディアッカはしまったと思い、慌てて否定する。
「いや、ただ俺は…」
「ただ何よ!」
ミリアリアは涙をこらえながら言い返す。
「あの人をかばうならかばえば?戦争なんだから仕方ないって言えば?」
自分でも驚くほど、悲しみと怒りが堰を切ったように迸り出た。
優しく慰めてくれるサイたちの前で、こんな風に感情的に喚いた事はなかった。
「皆みたいに…トールが死んだのはただ運が悪かったって言えばいいのよ!」
感情のままに一気に言ってしまい、終わりだと思った。
これでこいつも呆れて、二度と自分に近づかなくなるだろう。
けれどディアッカは怒ったり腹を立てたりなどせず、なんとも困ったような顔をして、ゆっくり口を開いた。
「…ただ…俺はさ、おまえが心配なだけだ…」
「…」
ミリアリアは、その思いがけない言葉に驚いて黙り込んだ。
「だっておまえ、やっと笑うようになったのに…また、元気なくしたらって…」
ディアッカは気まずそうに、「よくわかんないんだけどさ」と両手を広げた。
「とにかく、俺はもうやなんだよね、そんなおまえを見るの」
(何…言ってんのよ…)
ミリアリアは手で口を押さえたまま、黙って彼を見つめていた。
「アスランは…あいつはバカみたいに真面目で融通が利かないけど…俺なんかよりずっと優秀だから…」
そんなあいつの事だ。自分が誰を殺したかを知ったら、さぞや落ち込むだろう。
「キラが何を言いたかったか、ちゃんとわかってるさ」
ディアッカは首を傾げたが、最後にこう言った。
「でも、それでももし…おまえがあいつを許せないってんなら…」
「…あの人を殺すと、トールが帰ってくるの?」
ミリアリアはポツリと呟いた。
(私はもう、あの人を知ってしまった。あの人を知ってるあんたのことも)
「違うでしょ?だったらそんなこと、言わないで!」
ミリアリアは顔をそむけ、そのまま歩き出した。
歩いていないと、ぼろぼろ泣いてしまいそうだった。
「いや、あの…ちょっと待てよ!」
「ついてこないで!」
そう言いながら、それでも後をついてくるディアッカの姿に、ミリアリアはほんの少しだけ心が安らぐのを感じた。
「あとどのくらいですか?諸々の準備が整うのは」
仮眠を取り、戻ってきたアズラエルは携帯食を口にしながら尋ねた。
「オーブからは再三にわたって、会談の要請がきておるが」
司令官はボードに眼を落としながら報告する。
「あーもうダメダメです。そんなの。この戦力で攻めて制圧できなかった国なんて、消えてもらった方が後のためでしょう」
アズラエルはニヤニヤしながら言った。
「そして必要なものだけ頂きましょうよ」
「こちらの準備は間もなく終わる。問題なのはそちらなのではないのかね?」
「おやおや、これは失礼。では、早々に再開といきましょうかね」
アズラエルは携帯食を頬張ると、コーヒーで流し込んだ。
「お仕置きももう十分でしょうし。今度こそしっかりと働いてもらわないと、デモンストレーションにもなりゃしない」
アズラエルはここに来る前に見てきた3人の様子を思い浮かべた。
γ-グリフェプタンの効果が切れ、反動で苦しみもがくその姿を…
整備を終えたキラは、フリーダムのコックピットに毛布を持ち込んで、すやすやと寝息を立てていた。
アスランは座ったまま、1人静かに考え込んでいる。
しばらくそうした後で、物陰にいるカガリに声をかけた。
「なんでずっとくっついてるの?」
「気にするな。見張ってるだけだ」
物陰で機材に寄りかかっていたカガリが答えた。
「キラが生きてて、よかったな」
アスランは少し間を置いて、「そうね」と答えた。
死んでしまったと、もう会えないと思っていたキラが生きていた…同時に、あの時自分はカガリに助けられたのだと思い出した。
「そういえばあの時、私はお礼も言わなかったわ」
「言ったさ、ちゃんと。一応な」
カガリはくっくっと笑いながら言った。
(『あの綺麗な人は誰ですか?』と男たちを騒がせるこいつのどこに、あんな泣き虫で頼りない女の子が隠れてるんだか…)
「そう?」
「俺に着替えを手伝わせるほどボケてたからな。覚えてないんだろ?」
記憶が蘇り、アスランは見る見る頬を赤らめた。
「あ、あれは…!」
「全く、俺は召使いかっての」
カガリはアスランの恥じらいなど気にせず、フリーダムを見上げた。
「キラ、変わったろ」
厳しい戦いのさなかでも、その存在がどれほど心強かったか。
1人ぼっちで泣いていた小さな彼女は、もうどこにもいないのだ。
「しっかりしたっていうか、自分を持ったっていうか…さ」
アスランもフリーダムを見上げたが、ふっと微笑んだ。
「変わってないわ」
「そうか?」
「やっぱりあの子よ。あれがキラ」
カガリはアスランの横顔を見つめ、「そっか」と言った。
「で、おまえはどうするんだ?これから」
カガリはうーんと伸びをしながら聞いた。
そろそろ本部に戻らないと、戦闘再開の予想時刻が近い。
「…わからない」
「なんだよ、またかよ」
カガリはしょうがねぇなと笑った。
「決めないでこんなところまで来たのか?」
「でも…もう答えは出ているのかもしれない」
その「答え」とは何なのか聞いてみたいと思ったが、やめた。
「ま、おまえが決めたことならいいんじゃないか?」
アスランはしばらく考え込み、それからポツリと呟いた。
「…苦しいわね」
「みんなな…」
やがてカガリが「もう行くよ」と言った。
「俺たちは、最後までやるだけのことはやるつもりだ」
アスランはその背を見送り、再びフリーダムを、ジャスティスを見上げた。
グリフェプタンを10単位追加して投与され、禁断症状が治まった3人は、再び整備の済んだ機体へと向かった。今度は2時間はもつはずだった。
禁断症状の地獄の苦しみを盾に、3人は戦場へと駆りだされる。
けれどそれは彼らにとって苦痛ではない。どれだけ人を殺してもかまわない、戦争という名の「免罪符」は彼らの望むところだった。
「あの2機!」
「今度こそ!」
「落としてやる!」
こうして、オーブがその理念を貫き通せた「最後の夜」が明けた。
M1部隊とストライク、バスターはイザナギ海岸で踏ん張っていた。
フラガは戦いの中で、実弾に対してはPS装甲を信じて動く勇気を覚えた。
いくら装甲がよくても、銃撃の中をなかなか無防備では動けない。
これも、人の心の染み込んでいる恐怖心というやつなのだろうか。
突如目の前に現れた赤い機体に、新型もキラも驚きを隠せなかった。
「このぉ…なんだてめぇは!」
クロトが機銃を掃射したが、アスランはフリーダムと同じルプスビームライフルを向けると威嚇射撃をして追い払う。
まるで「邪魔だ、どけ」と言わんばかりに。
「へぇ…まだいたんだ、変なモビルスーツ」
シャニはこの謎の赤い機体に興味を持ったようだった。
精神状態が不安定な彼が何かに興味を持つ事は珍しい。
キラはその断固たるジャスティスの存在感に気圧されているようだった。
やがてアスランはパチンパチンと手早く通信機をいじると、フリーダムとチャンネルを合わせる。互いにNジャマーキャンセラーを乗せた機体だ。雑音の入らない交信は非常にクリアーだった。
「こちらザフト軍特務隊、アスラン・ザラ。聞こえるか、フリーダム!」
キラはその声を聞いて思わず呻いた。
「キラ・ヤマトだな?」
「………アスラン…」
その声でアスランはフリーダムに乗るのがキラであると確認した。
しかしジャスティスに軽くいなされたクロトが再び飛び込んでくる。
今度はキラがライフルでレイダーを威嚇し、ピクウス機関砲を放った。
「どういうつもり?ザフトがこの戦闘に介入を!?」
キラはやや苛立ちながら尋ねた。
ザフトまでもが戦闘に介入したりしたら…キラはきゅっと唇を噛んだ。
(そうなったら、オーブは!)
「軍からはこの戦闘に対して、何の命令も受けていない」
アスランは冷静な声でそれを否定した。
しかしキラはその答えに、ますます戸惑うばかりだ。
「うらぁぁ!!」
その途端、フォビドゥンが大鎌を振り回してジャスティスに向かってきた。
ジャスティスは2本のサーベルを抜き、ハルバートモードにして構えた。
「この介入は…私個人の意志よ!」
突っ込んでくるフォビドゥンの大鎌を避け、ジャスティスは肩で相手の無防備な半身に突進した。ひるんだフォビドゥンに双頭サーベルを振りかざすと、フォビドゥンは素早くシールドで庇ったものの、衝撃で後ろに吹き飛ばされた。
意表を突き、相手の力を利用した巧みな戦闘に、キラは眼を奪われた。
「なんだか知らねぇが、てめぇも瞬殺!!」
さっきからいいようにあしらわれて頭に来ているクロトは、MA形態で後ろからジャスティスに近づくとプラズマ砲を放った。
「くっ!」
アスランは振り向きざまの遠心力でレイダーを薙ぎ払う。
掠めたプラズマ砲がシールドを焼いたが、ダメージというほどではない。
「なんだありゃ?増えてる!」
オルガが無差別にシュラークをぶっ放し始めた。
(的が増えやがった。こいつはおもしれぇ!)
しかしその砲が自機の翼をかすめそうになったため、クロトがチッと舌打する。
「オルガ!てめぇ!」
オーブ軍司令室でも突然介入してきた赤い機体の正体にざわめいていた。
「別の連合軍機か?」
「いや、違う…フリーダムを援護している」
機敏に飛び回りながら強力な砲で攻撃するフリーダムに比べ、動きは少ないが敵をひきつけて格闘戦に持ち込む赤い機体。
カガリは黙りこくって両者を見つめていた。
「へへ、何遊んでんだよ、おまえら!」
砲撃を仕掛けると慌てて散開する4機の姿があまりにも無様で、オルガは楽しそうに笑いながらさらにバズーカを放った。
「俺も混ぜろよ!」
「邪魔すんな、オルガ!」
クロトが文句を言う傍から、今度はシャニがフレスベルグを放つ。
レイダーの軌道など気にもせず、赤と白の機体しか見ていない。
クロトは大きく曲がったビームの射線をかろうじて避けた。
「うわぁ!シャニ!この野郎!」
クロトは2人の勝手な行動に苛立ちを隠せない。
(イカれてるぜ…!)
アスランが前面からビームライフルを放ち、ラケルタを構えて飛び出すと、シールドを構えたフォビドゥンが飛び込み、ジャスティスを鎌でいなした。
一方戻ってきたレイダーは両者の影で動かないフリーダムを狙った。
しかしフリーダムは既にフルバーストモードに入っている。
キラはジャスティスの陰で彼らをロックオンしていたのだった。
「なにっ!」
クロトは慌てて操縦桿を引いたが、逃げられなかったカラミティは被弾した。
「こいつらぁ!」
激しい衝撃に襲われたオルガは怒りに燃え、あたりかまわずシュラークをぶっ放す。
「アスラン!」
「上!」
アスランはフリーダムに注意を促すと、ビームブーメランを投擲した。
上空で彼らを狙っていたフォビドゥンはそれを避けたが、次の瞬間にはもう目の前にいたフリーダムに蹴り飛ばされた。
「取り舵20!左の艦隊を潰す!」
3機の動きがフリーダムとジャスティスによって牽制され、アークエンジェルは艦隊への攻撃に集中できるようになった。
一方バスターは、ストライクが敵に回らない今、その火力を遺憾なく発揮した。
フラガはなぜか隣で戦っているこの「宿敵」に複雑な気持ちを抱きつつ、ストライクダガーに斬りかかった。
「性能はこっちのが上だからね!」
ビームサーベルが相手の肩口から見事に入り、ダガーが爆発する。
フラガはそのまま飛び上がるとエールで滑空し、M1の援護に入った。
「コピーに負けるわけにはいかんでしょう!」
「まだ軍本部の制圧、できませんか?おかしいですね」
民間人のアズラエルにレーダーは読めないが、圧倒的な戦力差があることはわかるし、勝利がもたらされていないこともわかる。
(オーブめ、意外としぶとい)
「ご自慢の新型、思うほど働いてくれてはおらぬようですが?」
司令官すぐにはカタがつきそうもないと苛立ちを隠せない。
戦況は有利とはいえ、まだ完全には傾かない。
アズラエルは痛いところを突かれたとでもいう顔をし、時計を見た。
「でやぁぁ!必殺!!」
ジャスティスに鉄球を投げつけ、ツォーンを吐くレイダーに、まるで敵ごと仕留めんとオルガがシュラークを放った。
「うざいんだよ、クロト!」
一方でフリーダムにフレスベルグを放ったフォビドゥンも、キラが避けた場所にカラミティがいることなど考えていない。
「てめぇもうぜぇ!」
直撃をかろうじて避け、転倒したカラミティを見て、キラは敵ながら思わず「あっ!」と叫んでしまった。
(こいつら、味方も平気で…)
アスランは相手の卑劣な戦いぶりに嫌悪感を感じずにいられない。
そのうち同士討ちを始めるのでは…と思わせるような荒っぽさだ。
しかし彼らもさすがにそこまではいかなかった。
というより、突然モビルスーツの動きがおかしくなったのだ。
「うざいのはおまえだ!オルガ!よくも俺に攻撃しやがったな!」
そう叫んだ途端、クロトが急にうめき声をあげて苦しみだした。
シャニもまた痙攣のような発作を起こして、頭を振り始める。
「うわ!うう…」
3人はほぼ同時にコックピットの中で苦しみだし、悶えた。
なぜか動きが止まった3機体に、キラもアスランも驚きを隠せない。
「ちくしょう…時間切れかよ…クロト!!」
カラミティはよろよろと立ち上がるとレイダーを呼んだ。
クロトは 苦しみながらもカラミティの元へ飛び、その背に彼を乗せる。
「くっそぉぉぉぁぁ!!」
そのまま後も見ずに飛び去っていく3機を、キラもアスランもただ呆気に取られて見送るだけだった。
「レイダー、フォビドゥン、カラミティ、帰投します」
「なに?」
母艦では3機の帰投に、司令官が驚きの声を発した。
アズラエルはちっと舌打ちした。
(役立たず共め!もう切れたか)
「どういうことだね、これは?」
司令官は厳しい表情でアズラエルに向き直る。
「自信があったから作戦を実行し、あの3機を出したのではないのかね?」
「ああ、やめやめ、ちょっと休憩ってことですよ、艦長さん」
アズラエルは手をパタパタさせた。
「一時撤退です。全軍撤退」
「なんだと!?」
司令官は噛みつかんばかりだ。アズラエルはにっこり笑った。
「どうせストライクダガーだけじゃどうにもなりません。オーブの底力、思っていた以上のものだ。あいつら抜きで戦ったら、全滅しますよ?」
アズラエルはニヤリと笑いながら言った。
「僕はかまいませんけど、軍人さんとしてはまずいんじゃないんですか?」
司令官はむっつりと黙り込み、オペレーターに指示した。
「信号弾、撃て!一時撤退!」
もとより、非のない主権国家に難癖をつけて侵攻するごり押し作戦だ。
間違っても失敗など許されるはずがなかった。
撤退していく連合軍を見て、皆どよめいた。
「どうしたんだ?」
「諦めてくれるのかな?」
期待と不安に満ちた声が聞こえてくる。
M1もストライクも、次々撤退するストライクダガーを見つめていた。
上空から戦場の様子を見つめていたアスランは、フリーダムがジャスティスに近づいてきた事に気づいた。
「援護は感謝します。だけど、その真意を改めて確認したい」
アスランは戦意がないことを示すため、コックピットハッチを開いた。
「私はその機体…フリーダム奪還、あるいは破壊という命令を本国から受けている」
アスランはキラに自分の姿を見せながら語った。
「けれど今、私はあなたと、その友軍に敵対する意志はない」
キラは黙って聞いている。
「話がしたい。あなたと」
アスランはそう言うと、片手を下に向けて着陸するよう合図をした。
「急げ!こっちだ!」
「また攻撃してくるぞ!」
「軽傷者は向こうのテントよ!重傷者は…」
急遽医療キャンプが張られ、負傷者の搬送が始まった。
指示に忙しいカガリも合間を縫い、3人娘やフラガたちに会いに来たが、援護してくれたバスターについて聞くと、コックピットを見上げた。
一方ディアッカは偉そうな軍服を着た男が騒いでいる事に気づいてハッチを開けると、そいつはぐるぐると手を振って怒鳴った。
「おい、おまえ!降りて来いよ!えーと…捕虜!!」
「なっ…俺はもう捕虜じゃねぇぞ!」
「いいから降りてこい!」
ディアッカは、「やなこった」と一旦は断ってハッチを閉じたのだが、カガリが機体を金属か何かでカンカン叩き始めたので、「うるせぇ!」とついに降参した。
「みんな!よくやってくれた!」
救護人にドリンクを配らせながら、カガリは皆をねぎらい、怪我や体調不良がないかとパイロット一人ひとりに聞いて廻った。
「一体どうしたっていうんだよ?」
「撤退理由は…よくわからないんだ」
フラガが尋ねたが、カガリは肩をすくめた。
「連合からの通告はないが、本部は再攻撃の可能性が高いと見ている」
キサカの言葉に、フラガは「やれやれ」と頭を振った。
アークエンジェルに被害状況を確認すると、重大な被害はないと言う。
「ありがとう。皆を休ませてくれ、ラミアス艦長」
未熟ながらも自分が指揮官の1人である事を自覚しているカガリは、医療キャンプを取り仕切り、兵や施設の被害状況を記録させていた。
やがて所在なく佇んでいるディアッカに気づくと、カガリは手ずからドリンクを渡した。
「…で?なんでおまえも戦ってるんだ、捕虜」
「だから!捕虜じゃねぇっつの」
カガリはしばらく面白そうに彼を見ていたが、やがて「ありがとうな、アークエンジェルを守ってくれて」と言うと、ディアッカは面倒くさそうに手を振った。
その時、フリーダムが正体不明の赤い機体を伴って降下してきた。
皆、突然現れて危機を救ったこの謎の機体を見ようと飛び出し、アークエンジェルからはマリューたちも降りてきた。
まず先にフリーダムのキラが姿を現した。
続いてアンノウンのコックピットからは、赤いパイロットスーツを着た美しいザフト兵が、長い藍色の髪をなびかせながら降りてきた。
「あの時のザフト兵…」
キサカが呟き、カガリも固唾を呑んで見つめた。
しかし次の瞬間、オーブ兵が一斉にアスランに銃を向けた。
キラと同時に、中間地点に向かって歩き始めていたアスランは、銃を向けるオーブ兵たちをチラリと見た。
「彼女は敵じゃありません」
その時、キラが右手を挙げてそれを止めた。
カガリがその意図を汲み、兵たちに「銃を下ろせ」と命じた。
一方ディアッカは、後ろの方で面白そうにその光景を見守っていた。
(アスランじゃんか…何しに来たんだ?)
キラとアスランはある程度近づくと立ち止まる。
キラは自分より身長の高いアスランを見上げ、微笑んだ。
一方アスランは元気そうなキラの姿を見て、胸が一杯になった。
(生きていた…本当に…キラ…)
もう二度と会えないと思ったキラが、こうして眼の前に立っている…
話したいことはたくさんある。けれど、言葉が出なかった。
アスランは何とか口を開こうとしたが、うまくいかない。
「トリィ!トリィ!」
その時、アークエンジェルからトリィが飛んできた。
トリィは生みの親のアスランの頭上を飛び回り、やがてキラの肩に止まった。
キラはそんなトリィを見て、それからアスランを見た。
「こんにちは、アスラン」
キラの顔が夕日に照らされて眩しい。
アスランは思わず眼を細めた。
何かを言葉にしたら想いが溢れそうだ。
(謝らなければ…いえ、まずは聞かなければ…話さなきゃ…)
「キ…ラ…」
けれど今はただ、その名を呼ぶのが精一杯だった。
いつまでも無言の2人に、しびれを切らしたカガリが呆れて言った。
「おまえら!いい加減喋れ!」
キラはその身も蓋もない言い方に吹きだしてしまった。
アスランも相変わらず乱暴なカガリを見て拍子抜けしたようだ。
2人はもう一度顔を合わせると、照れたように、困ったように笑った。
「とりあえず、おまえらも休め。オーブは今、誰であろうと歓迎する」
そう言うとカガリは、この再会劇を見ていた観客を振り返った。
「さぁ、仕事をするヤツは仕事、休むヤツは交代で休んでくれ!」
今後戦闘がどうなるかはわからないが、どちらにせよ、パイロットや兵たちには休息が必要なことは間違いなかった。こうして再び時間が動き出した。
「でも、それは…!」
ジャスティスはアークエンジェルのハンガーに格納され、アスランはそこで、随分長い間キラと話をしていた。
マリューやフラガ、サイたちも遠巻きに2人を眺めている。
ミリアリアも物陰で様子を窺い、そんな彼女をディアッカが見守っていた。
キラはプラントでラクスやシーゲル・クライン、このオーブではウズミ・ナラ・アスハと話した事、そしてアラスカでの実情を語った。
「それで、少しだけわかったのは…ナチュラルもコーディネイターも、本当はお互いの敵じゃないんじゃないか…って、事なんだけど…」
キラは相変わらずたどたどしく、的を射ない話し方をするが、アスランはこうしたキラの話しぶりには一番慣れている。
「なら、あなたは何と戦うと?」
「少なくとも、誰かに決められた『敵』じゃなくて…」
キラはうまい表現を考えて少し考え込んだが、見つからない。
「たとえば今は、戦争を拡大させようとする、正体を見せないもの」
「そんな…だって、漠然としすぎてるわ」
アスランは途方もない話に眉をひそめた。
「そんなもの、私たちに見つけ出せるはずないでしょう?」
正体がわからないものをどうやって探すというのだ…アスランは少し呆れながら、一方でこれは何かの暗喩だろうかと思う。
「うん。大変だってことはわかってる」
キラは「っていうか、やっぱ、無理…かな」と哀しそうに笑った。
アスランはその笑顔を見て、頭ごなしに否定した事を少し悔いた。
「でも仕方ないよ。私はそう思うから。だから今は、オーブを守りたいんだ」
キラは少し遠くを見る眼をして語った。
「だって、オーブが地球軍の側につけば、大西洋連邦はその力も利用してプラントを攻めるようになる。ザフトの側についても、きっと同じこと」
その言葉にアスランは厳しい父の顔を思い浮かべた。
確かに、オーブがプラントにつけば太平洋を掌握できると思うだろう、父は…
「見えない何かに操られて、そうやってただ、敵が変わるだけ。それじゃしょうがない。そんなのはもう嫌なの、私は」
だからまず、オーブをその見えない敵から守りたいとキラは言う。
「でも…!」
そんなことができるわけがない。
今のオーブの現実の敵は地球軍で、強大な戦力を持っている。
一国、ましてや1人の力などでは、とてもかなわないだろう。
けれど、キラは穏やかな表情でアスランを見つめた。
「アスラン…私は、あなたの仲間…友達を殺したよ」
アスランは思わずキラを見た。
ニコル…そう、キラはニコルを殺したのだ。
「でも…私は、彼を知らない。殺したかったわけでもない」
キラはブリッツを手にかけた感触を思い出し、両手を見つめた。
(そう…彼はあの時、私の敵だったけど、本当の敵じゃなかった)
それから呟くように言った。
「あなたも…トールを殺した」
その言葉はミリアリアを凍らせ、ディアッカも思わずアスランを覗き見た。
アスランはその名を聞いていぶかしむ表情を見せている。
(トール?…誰?)
「アスランは、トールを知らない。殺したかったわけでもないよね」
そんな彼女を見て、キラが寂しそうに言った。
「知れば、敵ではないと思えたのに!バルトフェルドさんも、アスランの友達も、トールも…みんな今も元気に生きていられたのに!!」
キラの瞳の涙が、ずっと言葉に詰まっていたアスランを後押しした。
「…わ…たしは…あなたを…殺そうとした…」
あの時、憎しみと怒りに駆られ、本気で殺すために襲い掛かった。
キラはその言葉を黙って聞いていたが、やがて呟いた。
「…私もだよ…」
悲しみと怒りが心をかき乱し、手を緩める事なく、殺そうとした。
そんな醜いものが自身の中にいた事が、2人を深く傷つけていた。
「そうやって、敵と決めつけられた相手を殺してきたんだよ、私たち!」
吐き捨てるように言ったキラの言葉に、アスランは顔をあげた。
「こんなのいやだよ、もう!」
キラはいつも押し殺している気持ちを搾り出すように言った。
「…戦わないで済む世界ならいい」
そんな世界に、ずっといられたんなら…どんなにいいだろう。
「でも戦争はどんどん広がろうとするばかりで…このままじゃ本当に、プラントと地球は滅ぼし合うしかなくなるよ!」
「…それは…でも…」
「そんなの、哀しすぎる。ナチュラルにも、コーディネイターにも、優しい人はたくさんいるし、平和を願う人はたくさんいるのに」
キラの言葉に、アスランは結局何も言い返せなかった。
自分の父は今、ついに核を使う決意までしているのだ。
母を、多くの同胞を、そしてラクスの健全な体を奪った忌わしい核を…
「だから私は、やれる事をやるよ」
キラが寂しそうに笑った。
「それが途方もなくて、バカみたいでも、何もしないよりはいい。ラクスと約束したから。カガリと約束したから」
キラにとってそれは、フレイと交わした約束とは違うものだった。
「戦わない…という選択肢は?あなたは軍人じゃないんだし…」
アスランは以前から思っていた疑問を投げかけた。
「うん、前はね、逃げる事ばっかり考えてた…何でこんな事、私がって。相手はアスランだし、いやいや戦ってた」
寂しそうに語るキラの表情を見ながら、アスランもまた、わけもわからず彼女と戦わねばならなかった日々を思い出していた。
「でも、たとえ守るためでも、もう銃を撃ってしまったから…元には戻れないし、戻っちゃいけないと思う、きっと」
そう言ってから、キラは少しの間考え込むように沈黙した。
やがて恐る恐るアスランに尋ねた。
「アスラン…私たちも、また戦うのかな?」
アスランは答えに詰まった。
ラクスが言ったように、キラもずっとそれを考えていたのだろう。
自分がザフトに戻り、ナチュラルを敵として戦場に出れば、いつかまたキラは自分の前に立ちはだかるのだ。
(戦争を助長するものの1人として、再びキラの敵になる。ラクス…あなたが言いたかったのはこの事なの?)
アスランはラクスの言葉を思い返していた。
(だから考えろと…キラと話せと言ったのね)
「もう作業に戻らなきゃ。攻撃…いつ再開されるかわからないから」
やがてキラは時計を見て言った。
フリーダムの整備をして、少しでも眠っておきたい。
アスランはそれを聞き、軍人の顔になった。
「一つだけ聞かせて!フリーダムには、ニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されている。そのデータを、あなたは…」
「ここで、あれを何かに利用しようとする人がいたら、私が討つ」
キラもまたきっぱりと答えた。
「あれは誰にも渡さない。絶対に」
アスランはその答えに満足し、頷いた。
(あの人が、トールを殺した…トールの事を知りもせず…)
ミリアリアは2人の会話が終わるとその場を立ち去った。
「…おい!」
彼女を追いかけたディアッカが後ろから声をかけると、ミリアリアは涙を見せまいと上を向き、そして振り向いた。
「なによ!?」
ディアッカは痛々しいその表情を見た途端困ってしまい、 「あ…いや…その…トールって奴、殺したの…あいつ…」と、しどろもどろに言った。
「だから何!?あんた、聞いてなかったの!?キラの言ったこと!」
ミリアリアは苛立ちを隠せず、つい怒鳴りつけてしまった。
ディアッカはしまったと思い、慌てて否定する。
「いや、ただ俺は…」
「ただ何よ!」
ミリアリアは涙をこらえながら言い返す。
「あの人をかばうならかばえば?戦争なんだから仕方ないって言えば?」
自分でも驚くほど、悲しみと怒りが堰を切ったように迸り出た。
優しく慰めてくれるサイたちの前で、こんな風に感情的に喚いた事はなかった。
「皆みたいに…トールが死んだのはただ運が悪かったって言えばいいのよ!」
感情のままに一気に言ってしまい、終わりだと思った。
これでこいつも呆れて、二度と自分に近づかなくなるだろう。
けれどディアッカは怒ったり腹を立てたりなどせず、なんとも困ったような顔をして、ゆっくり口を開いた。
「…ただ…俺はさ、おまえが心配なだけだ…」
「…」
ミリアリアは、その思いがけない言葉に驚いて黙り込んだ。
「だっておまえ、やっと笑うようになったのに…また、元気なくしたらって…」
ディアッカは気まずそうに、「よくわかんないんだけどさ」と両手を広げた。
「とにかく、俺はもうやなんだよね、そんなおまえを見るの」
(何…言ってんのよ…)
ミリアリアは手で口を押さえたまま、黙って彼を見つめていた。
「アスランは…あいつはバカみたいに真面目で融通が利かないけど…俺なんかよりずっと優秀だから…」
そんなあいつの事だ。自分が誰を殺したかを知ったら、さぞや落ち込むだろう。
「キラが何を言いたかったか、ちゃんとわかってるさ」
ディアッカは首を傾げたが、最後にこう言った。
「でも、それでももし…おまえがあいつを許せないってんなら…」
「…あの人を殺すと、トールが帰ってくるの?」
ミリアリアはポツリと呟いた。
(私はもう、あの人を知ってしまった。あの人を知ってるあんたのことも)
「違うでしょ?だったらそんなこと、言わないで!」
ミリアリアは顔をそむけ、そのまま歩き出した。
歩いていないと、ぼろぼろ泣いてしまいそうだった。
「いや、あの…ちょっと待てよ!」
「ついてこないで!」
そう言いながら、それでも後をついてくるディアッカの姿に、ミリアリアはほんの少しだけ心が安らぐのを感じた。
「あとどのくらいですか?諸々の準備が整うのは」
仮眠を取り、戻ってきたアズラエルは携帯食を口にしながら尋ねた。
「オーブからは再三にわたって、会談の要請がきておるが」
司令官はボードに眼を落としながら報告する。
「あーもうダメダメです。そんなの。この戦力で攻めて制圧できなかった国なんて、消えてもらった方が後のためでしょう」
アズラエルはニヤニヤしながら言った。
「そして必要なものだけ頂きましょうよ」
「こちらの準備は間もなく終わる。問題なのはそちらなのではないのかね?」
「おやおや、これは失礼。では、早々に再開といきましょうかね」
アズラエルは携帯食を頬張ると、コーヒーで流し込んだ。
「お仕置きももう十分でしょうし。今度こそしっかりと働いてもらわないと、デモンストレーションにもなりゃしない」
アズラエルはここに来る前に見てきた3人の様子を思い浮かべた。
γ-グリフェプタンの効果が切れ、反動で苦しみもがくその姿を…
整備を終えたキラは、フリーダムのコックピットに毛布を持ち込んで、すやすやと寝息を立てていた。
アスランは座ったまま、1人静かに考え込んでいる。
しばらくそうした後で、物陰にいるカガリに声をかけた。
「なんでずっとくっついてるの?」
「気にするな。見張ってるだけだ」
物陰で機材に寄りかかっていたカガリが答えた。
「キラが生きてて、よかったな」
アスランは少し間を置いて、「そうね」と答えた。
死んでしまったと、もう会えないと思っていたキラが生きていた…同時に、あの時自分はカガリに助けられたのだと思い出した。
「そういえばあの時、私はお礼も言わなかったわ」
「言ったさ、ちゃんと。一応な」
カガリはくっくっと笑いながら言った。
(『あの綺麗な人は誰ですか?』と男たちを騒がせるこいつのどこに、あんな泣き虫で頼りない女の子が隠れてるんだか…)
「そう?」
「俺に着替えを手伝わせるほどボケてたからな。覚えてないんだろ?」
記憶が蘇り、アスランは見る見る頬を赤らめた。
「あ、あれは…!」
「全く、俺は召使いかっての」
カガリはアスランの恥じらいなど気にせず、フリーダムを見上げた。
「キラ、変わったろ」
厳しい戦いのさなかでも、その存在がどれほど心強かったか。
1人ぼっちで泣いていた小さな彼女は、もうどこにもいないのだ。
「しっかりしたっていうか、自分を持ったっていうか…さ」
アスランもフリーダムを見上げたが、ふっと微笑んだ。
「変わってないわ」
「そうか?」
「やっぱりあの子よ。あれがキラ」
カガリはアスランの横顔を見つめ、「そっか」と言った。
「で、おまえはどうするんだ?これから」
カガリはうーんと伸びをしながら聞いた。
そろそろ本部に戻らないと、戦闘再開の予想時刻が近い。
「…わからない」
「なんだよ、またかよ」
カガリはしょうがねぇなと笑った。
「決めないでこんなところまで来たのか?」
「でも…もう答えは出ているのかもしれない」
その「答え」とは何なのか聞いてみたいと思ったが、やめた。
「ま、おまえが決めたことならいいんじゃないか?」
アスランはしばらく考え込み、それからポツリと呟いた。
「…苦しいわね」
「みんなな…」
やがてカガリが「もう行くよ」と言った。
「俺たちは、最後までやるだけのことはやるつもりだ」
アスランはその背を見送り、再びフリーダムを、ジャスティスを見上げた。
グリフェプタンを10単位追加して投与され、禁断症状が治まった3人は、再び整備の済んだ機体へと向かった。今度は2時間はもつはずだった。
禁断症状の地獄の苦しみを盾に、3人は戦場へと駆りだされる。
けれどそれは彼らにとって苦痛ではない。どれだけ人を殺してもかまわない、戦争という名の「免罪符」は彼らの望むところだった。
「あの2機!」
「今度こそ!」
「落としてやる!」
こうして、オーブがその理念を貫き通せた「最後の夜」が明けた。
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制作裏話-PHASE39-
これまでは文字数が増えがちでしたが、このPHASEは逆にかなり削り、シンプルにしました。
一番の見所はやはりようやく再会したキラとアスランの会話ですが、本編では正直、何を話しているのかさっぱりわからなかったというトンデモ展開でした。あん~なに楽しみ~だったのに~♪
【以下、本編抜粋】
A「しかし…それは…!」
K「うん。大変だってことは解ってる」
何が?といきなりツッコみたくなる会話から始まります。
いやホント、何話してたんでしょうね?なんで端折ったんでしょうね?
なお、本編ではカガリが飲み物を運んできますが、逆転はなし。やっぱそこは男子ですから。
K「でも、仕方ない。僕もそう思うから」
だからどう思ってそう思うの?と聞きたくなりますが、これ以降はもうキラきゅんのキラきゅんによるキラきゅんのためのキラ説法が続きます。
オーブはゼロ地点にいたいと言ってるのに、AかBかを選べ、選ばないなら殺すと言われるのは理不尽だから僕は戦うよというようなことを言います。
でもこれはあくまでも超訳です。正直、本当はキラきゅんが何を言ってるのかわかりません。
A「しかし…!」
そしてツッコミが下手過ぎるアスランはひたすら「しかし」ばっかりで後が続かないので何を言いたいのかわかりません。「話がしたい」と言ったくせに全然話ができてません。
K「僕は、君の仲間、友達を殺した」
ここでなぜかいきなり(ホントにいきなり)閑話休題で自白を始めるキラ様に驚くアスラン…と視聴者。
いや~、ここはビックリでしたよ。前後のつながりも脈絡もないんだもん。もしやニコル死亡のバンクを使うためか?
K「でも…僕は、彼を知らない。殺したかったわけでもない」
「ワァオ!出た!」
これぞ「知らなかったんだから、殺しちゃってもしょうがないよね、えへ♪」理論とされたキラ様説法の真骨頂。本放映時は呆れるレビューが続発しました。
K「君も…トールを殺した」
でもきみも殺ったよねと言わんばかりのキラ様に視聴者はもう唖然呆然。だからおあいことでも言うつもりかと揶揄されたキラ様説法。もはやついていけない。
A「でも…君も、トールのことを、知らない。殺したかったわけでもないだろ?」
「知らなかったし、殺す意思もなかったんだから、いいよね?殺しても」とまとめるキラ様もキラ様だ。
実際、本編ではアスランとミリアリアの確執がどう解決したのかを描く事もなく、この会話どおり、結果的には「2人ともあんまり悩んどらんなー」と視聴者に思わせました。これが種クォリティ。
しかし「殺したかったわけでもないだろ?」はある意味正しい。
なぜならこの後、自分が落ち込むたびにこれでもかとニコルを殺しまくっているアスランが、トールを思い出すことはないからだ。おかげでトールは安らかに死ねましたね。
はい、こうして抜粋しても全くわかりません。
これをいかにアレンジするかは逆種最大の難問でしたね。
何しろキラはこの後、「こんな間違った歪んだ世界だけれど、そして自分も存在してはならない欲望の産物だけれど、愛する人たちがいるこの世界を、今生きている世界を守りたい」という主人公に成長してクルーゼと戦ってもらわねばならんのです。
そして、このときSEEDで守った世界を再び守るために、可能性を狭める恐れのある新世界を否定してデュランダル議長を倒すわけですから、基盤をしっかりさせておく必要があります。
ですからラクスやシーゲルたちとの出会いや、ウズミやカガリの姿を見ることが必要だったわけです。特にラクスの影響は大きく、ラクスが言ったことや想いに感化され、それを自分なりに噛み砕いて血肉にしている、という描写にしています。ただ電波にやられただけの本編とは違います。
さらに、もちろん本編にはありませんが、「敵」の定義、オーブを守るというなら、一体何から守るのか、本当の敵とは何か、というところまで踏み込んで語り合っています。
なお、キラはこの時点ではまだ、漠然とわかっていればいいのです。感覚的な子なのでこれで十分です。
ってか、話すならこの程度は話して欲しかったなぁ…
でも、キラのように「フィーリングで」とはいかないのが、真面目で頑固一徹のアスランです。迷走に迷走を重ね、裏切り者・女難・キラ病により、大きく株を下げた種デスのアスランを、なんとか逆デスで救ってやるためには、彼が抱いた疑問、「何と戦わねばならないのか」にしっかり答えを出してやる必要がありました。
ですからここは、ラクスに、そしてキラに投げかけられた疑念の波紋が広がっていくという、かなり先を見据えた伏線になっています。答えを得るまであと60話ありますからね。アスランも大変です。
あれ?いやいや待てよ?
そもそも本編は答えに辿り着いてませんでしたっけね。うーわー、ダメじゃんアスラン。
ディアッカとミリアリアについては初稿から何度もリライトしています。段々とよくなっているとは思いますが、未だに満足しておりません。近すぎず、遠すぎずって難しい。
なおなぜか戦ってくれたディアッカに声をかけるカガリというシチュエーションは、逆種を書こうと思った時から結構温めていたシーンなので描けて満足です。逆転のカガリにはこういう太っ腹なところがあると演出したかったからです。最終回でも共闘させてますしね。カガリと、自分的に動かしやすいキャラであるディアッカ&ミリアリアを絡ませるのは好きなんですよね。
一番の見所はやはりようやく再会したキラとアスランの会話ですが、本編では正直、何を話しているのかさっぱりわからなかったというトンデモ展開でした。あん~なに楽しみ~だったのに~♪
【以下、本編抜粋】
A「しかし…それは…!」
K「うん。大変だってことは解ってる」
何が?といきなりツッコみたくなる会話から始まります。
いやホント、何話してたんでしょうね?なんで端折ったんでしょうね?
なお、本編ではカガリが飲み物を運んできますが、逆転はなし。やっぱそこは男子ですから。
K「でも、仕方ない。僕もそう思うから」
だからどう思ってそう思うの?と聞きたくなりますが、これ以降はもうキラきゅんのキラきゅんによるキラきゅんのためのキラ説法が続きます。
オーブはゼロ地点にいたいと言ってるのに、AかBかを選べ、選ばないなら殺すと言われるのは理不尽だから僕は戦うよというようなことを言います。
でもこれはあくまでも超訳です。正直、本当はキラきゅんが何を言ってるのかわかりません。
A「しかし…!」
そしてツッコミが下手過ぎるアスランはひたすら「しかし」ばっかりで後が続かないので何を言いたいのかわかりません。「話がしたい」と言ったくせに全然話ができてません。
K「僕は、君の仲間、友達を殺した」
ここでなぜかいきなり(ホントにいきなり)閑話休題で自白を始めるキラ様に驚くアスラン…と視聴者。
いや~、ここはビックリでしたよ。前後のつながりも脈絡もないんだもん。もしやニコル死亡のバンクを使うためか?
K「でも…僕は、彼を知らない。殺したかったわけでもない」
「ワァオ!出た!」
これぞ「知らなかったんだから、殺しちゃってもしょうがないよね、えへ♪」理論とされたキラ様説法の真骨頂。本放映時は呆れるレビューが続発しました。
K「君も…トールを殺した」
でもきみも殺ったよねと言わんばかりのキラ様に視聴者はもう唖然呆然。だからおあいことでも言うつもりかと揶揄されたキラ様説法。もはやついていけない。
A「でも…君も、トールのことを、知らない。殺したかったわけでもないだろ?」
「知らなかったし、殺す意思もなかったんだから、いいよね?殺しても」とまとめるキラ様もキラ様だ。
実際、本編ではアスランとミリアリアの確執がどう解決したのかを描く事もなく、この会話どおり、結果的には「2人ともあんまり悩んどらんなー」と視聴者に思わせました。これが種クォリティ。
しかし「殺したかったわけでもないだろ?」はある意味正しい。
なぜならこの後、自分が落ち込むたびにこれでもかとニコルを殺しまくっているアスランが、トールを思い出すことはないからだ。おかげでトールは安らかに死ねましたね。
はい、こうして抜粋しても全くわかりません。
これをいかにアレンジするかは逆種最大の難問でしたね。
何しろキラはこの後、「こんな間違った歪んだ世界だけれど、そして自分も存在してはならない欲望の産物だけれど、愛する人たちがいるこの世界を、今生きている世界を守りたい」という主人公に成長してクルーゼと戦ってもらわねばならんのです。
そして、このときSEEDで守った世界を再び守るために、可能性を狭める恐れのある新世界を否定してデュランダル議長を倒すわけですから、基盤をしっかりさせておく必要があります。
ですからラクスやシーゲルたちとの出会いや、ウズミやカガリの姿を見ることが必要だったわけです。特にラクスの影響は大きく、ラクスが言ったことや想いに感化され、それを自分なりに噛み砕いて血肉にしている、という描写にしています。ただ電波にやられただけの本編とは違います。
さらに、もちろん本編にはありませんが、「敵」の定義、オーブを守るというなら、一体何から守るのか、本当の敵とは何か、というところまで踏み込んで語り合っています。
なお、キラはこの時点ではまだ、漠然とわかっていればいいのです。感覚的な子なのでこれで十分です。
ってか、話すならこの程度は話して欲しかったなぁ…
でも、キラのように「フィーリングで」とはいかないのが、真面目で頑固一徹のアスランです。迷走に迷走を重ね、裏切り者・女難・キラ病により、大きく株を下げた種デスのアスランを、なんとか逆デスで救ってやるためには、彼が抱いた疑問、「何と戦わねばならないのか」にしっかり答えを出してやる必要がありました。
ですからここは、ラクスに、そしてキラに投げかけられた疑念の波紋が広がっていくという、かなり先を見据えた伏線になっています。答えを得るまであと60話ありますからね。アスランも大変です。
あれ?いやいや待てよ?
そもそも本編は答えに辿り着いてませんでしたっけね。うーわー、ダメじゃんアスラン。
ディアッカとミリアリアについては初稿から何度もリライトしています。段々とよくなっているとは思いますが、未だに満足しておりません。近すぎず、遠すぎずって難しい。
なおなぜか戦ってくれたディアッカに声をかけるカガリというシチュエーションは、逆種を書こうと思った時から結構温めていたシーンなので描けて満足です。逆転のカガリにはこういう太っ腹なところがあると演出したかったからです。最終回でも共闘させてますしね。カガリと、自分的に動かしやすいキャラであるディアッカ&ミリアリアを絡ませるのは好きなんですよね。