Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「レーダーに機影!」
「ミサイル接近!」
司令本部の読みどおり、夜明けと共に攻撃は再開された。
「モビルスーツ群、航空機隊、オノゴロを目標に侵攻中!」
空を覆いつくす戦闘ヘリと戦闘機、そして新型がオーブの空を侵す。
「迎撃!モビルスーツ隊、発進急げ!繰り返す…」
整備員が次々と歩き出したM1の下で大声で叫んでいる。
「ミサイル接近!」
司令本部の読みどおり、夜明けと共に攻撃は再開された。
「モビルスーツ群、航空機隊、オノゴロを目標に侵攻中!」
空を覆いつくす戦闘ヘリと戦闘機、そして新型がオーブの空を侵す。
「迎撃!モビルスーツ隊、発進急げ!繰り返す…」
整備員が次々と歩き出したM1の下で大声で叫んでいる。
「再度の会談要請に応えもないまま…くそっ!」
艦隊に動きありと聞き、本部に戻ってきたカガリが机を叩いた。
ウズミは眼を閉じ、各方面からの芳しくない報告に耳を傾けている。
戦闘が一時中断して後、ウズミは自ら操縦桿を握り、ジャイロで荒れた国土の様子を見て回っていた。本島は軍事施設が集中するオノゴロほど激しい攻撃を受けなかったとはいえ、破壊された建物や港が痛々しかった。また、強制的に緊急避難や脱出はさせたものの、移送や施設には限りがあり、当然ながら国民全員が無傷ではない。
再び始まった連合の総攻撃に、やがてウズミは眼を開き、怒鳴った。
「おのれ、これが回答か、地球軍!敵と見なせば既にその言葉すら聞かぬか!」
一方、攻撃再開を知ってバタバタと急に騒がしくなったアークエンジェルのハンガーで、アスランは足早にフリーダムに向かうキラの腕を掴んだ。
「この状況ではどのみちオーブに勝ち目はない。わかってるでしょう?」
ざわめくあたりを気にしながら、アスランが声をひそめて言う。
キラはその言葉に頷き、落ち着いた声で答えた。
「うん…多分、みんなもね。でも、勝ち目がないから戦うのをやめて、言いなりになるって…そんなことできないでしょ?」
キラの決心は変わらなかった。
「大切なのは、何のために戦うかで。だから私も行くよ」
キラは走り回る整備兵や、指示を続けているマードックを見つめた。
「ほんとは戦いたくなんてないけど、戦わなきゃ守れないものもあるから」
「キラ…」
アスランは何も言えず、そっとキラの腕を離した。
「ごめんね、アスラン。ありがとう。話せて嬉しかった」
キラは笑顔を見せたが、笑い返す事ができない。アスランは歩み去るキラを黙って見送るしかなかった。
しかしその時、キラがふと振り返った。
「アスラン」
「なに?」と聞かれ、キラはその何気ないやり取りが嬉しくて笑ってしまう。
こんな風に返事が返ってくるなんて、敵対していた時は思えなかった。
「私、アスランのこと、すごく大切な友達だと思ってるよ!」
キラはそう言い残すと、フリーダムに向かって走り出した。
「まいったね」
ディアッカは、呆気に取られたように立ちすくんでいるアスランに声をかけた。
「ディアッカ!?」
その声に驚いて振り返ると、そこにはザフトのパイロットスーツに着替えたディアッカがいた。
では、鹵獲されたと思っていたあのバスターに乗っていたのは…元気そうな彼の姿にようやく合点が行き、アスランは珍しく大きな声で言った。
「あれは…あなただったの?」
「はぁ?気づくのおせーよ、隊長」
ディアッカはそんな彼女の反応に呆れたように苦笑し、それから後ろ手にフリーダムを指さす。
「おまえ、あれの奪還命令受けてんだろ?」
「…え」
アスランは口ごもった。それは一応「特務」なのだ。
「Nジャマーキャンセラーが載ってんだって?親父さん、核を使う気なんだな」
けれど久々に会った同僚は機密の件も知っているようだ。
「やっぱまずいんだろうな。俺たちザフトが介入しちゃよ」
アスランは思わず瞳を伏せた。
「…ディアッカに言ってもわかってもらえないかもしれないけど…」
アークエンジェルを守り、ストライクと共に戦っていた姿を見ても尚、彼女の中のディアッカ・エルスマンは、別れたあの時のままだった。
「でも、私はあの子を…あの子が守る彼らを、死なせたくない」
否定されることは覚悟していると言わんばかりに、ポツリと言う。
しかしディアッカは、それを聞いて明るい表情を見せた。
「めずらしく…ってか、初めて意見が合うじゃんか!」
アスランは彼の言葉に驚いて思わずディアッカを仰ぎ見た。
「俺もあいつら、死なせたくないんだよね」
「ディアッカ…?」
「行こうぜ」
ディアッカはポンとアスランの肩を叩く。
「とりあえず、考えるよりやってみるってのも悪くないだろ」
十分な薬を投与された新型の3人は、思う存分に暴れまわっていた。
強力なスラスターで水上をホバー移動するカラミティは、バズーカを構え、両肩のシュラークと共にオーブ艦隊に向けて連射を繰り返している。
フォビドゥンもまた水面すれすれを低空飛行して大鎌を振るい、艦隊はもちろん、戦闘ヘリも大鎌の餌食にし、切り裂いていった。
「どうしたんだよ!昨日の2機は!?」
オルガがフリーダムとジャスティスを探して叫んだ。
レイダーは機動性を生かし、ヘリ、戦車、そして時にM1をターゲットに機関砲を撃ちまくり、イージス艦や駆逐艦に取りついてはプラズマ砲アフラマズダで沈黙させていく。さしものオーブ艦隊も、機動力に勝るモビルスーツを相手に成す術がない。まるで戦争初期、モビルスーツに敗北を重ねた連合の「対ザフト戦」をなぞるような戦いの構図だった。
「バリアント、撃ぇ!」
アークエンジェルが援護をしても、艦隊の被害は止まらない。
戦闘開始の昨日より、既に防衛圏が狭くなっている事は明白だ。
ダガー相手によく戦ってはいるが、M1の被害も目立ち始めている。
キラは大空に舞うと、ぞろぞろと上陸するダガー部隊を捉え、腕、足、アイカメラなど、致命傷にはならない程度に抑えつつ、全てが戦闘不能になるよう、一斉攻撃を行って破壊した。
そしてダガーを一通り片付けると、大鎌でアストレイを切り裂いているフォビドゥンに向かった。キラは足を止めようと両腰のレールガンを放つ。
シャニは高度を上げると、ラケルタを抜いたキラと上空で討ち合った。
オルガはそれを見てニヤリと笑う。
「見つけたぜ、昨日の強い奴!」
そしてそのままホバーで海上を滑りながらシュラークとバズーカをありったけぶち込んでくる。キラはパワーでフォビドゥンを退けると、今度はカラミティに向かっていった。そして相手の軌道に先回りしてスラスターを全開させて止まると、ビームライフルを撃ちこんだ。
しかしカラミティはその程度ではひるまず、フリーダムに近づいていく。
オルガの狙いは胸に内蔵されたスキュラでの攻撃だった。
かつてイージスに積まれていたあの強力な決定打を避けるため、キラはのけぞって飛び退り、フリーダムの翼が海水に濡れる。
すると息つく間もなく、今度はレイダーが向かってきた。
「今日こそやらせてもらうよ!」
レイダーはそのままクローを向けてきたため、体勢を崩していたキラはさらに加速して上昇しようと操縦桿を目一杯引いた。
「…ええい!」
普段はバラバラだが、3人の連携がはまると、火力が強大ゆえに厄介だ。
キラの視界には、先ほど退けたフォビドゥンまでも向かってくるのが見える。
(まずい…とにかく体勢を立て直さないと…!)
そう思った瞬間、フリーダムとレイダーの間にビームブーメランが割って入った。レイダーはその軌道に追われて一時離脱していく。
キラが驚いてブーメランの軌道を追うと、そこにはジャスティスがいた。
キラは思わず顔をほころばせ、そして通信を開いた。
「アスラン!どうして?」
追い払われたレイダーが楕円の軌道を描いて戻ってくる。
「揃ったなぁ!赤いのも!」
オルガが嬉しそうに叫び、再びバズーカとシュラークを撃ち込んだ。
「私たちにだってわかってる!」
ジャスティスはスラスターを盛大にふかして体勢を固定すると、襲い掛かってきたフォビドゥンの大鎌をシールドで打ち返した。そのパワーに抗いきれず、シャニは吹き飛ばされた。
「ぐっ…こいつ!」
「戦ってでも守らなきゃいけないものがあることぐらい!」
フォビドゥンが退くと、今度は海面に向けて機関砲やビーム砲を発射した。激しい水煙が上がり、海面が自在に移動していたカラミティが見えなくなる。
(くそっ、あの野郎!)
オルガは海水をかぶり、やむなく一度陸上へと引き返さざるを得ない。
「…それに、キラ…!」
キラはアスランの少し怒ったような声音に気づいた。
「私もあなたの事、大切な友達だって思ってるから!」
キラはその言葉に心が晴れやかになり、同時に怒りのままに向かってくるレイダーを迎え撃たんと、リアスカートからビームライフルを取って構えた。
「このぉ!撃滅!!」
「アスラン!」
ジャスティスもまたビームライフルで戻ってきたフォビドゥンを狙う。
「蹴散らす!」
フリーダムとジャスティスは背中を預けあい、同時にライフルを撃った。
海岸線ではバスターが火線ライフルとランチャーでミサイルを狙っていた。
(一発も逃がさない…)
ディアッカは、自分でもこれほど集中した事はないのではないかと思うほどの集中力でコンピューターと目視の捕捉を合わせていった。
そして見事、空中で爆発するミサイル全弾を確認してふぅと息をつく。
ミリアリアはモニターのフリーダム、ジャスティス、ストライクを確認しながら、ついバスターに気を取られる自分に気づいていた。
しかしこうして丁寧な援護を行ってくれているバスターのおかげで、アークエンジェルは戦闘再開以来、ほとんど被弾していないのだ。
「バスターさまさまだな!」
「ほんとほんと!」
チャンドラとパルが言いあうたびに、何だか身が縮まった。
大分追い詰めてはいるものの、オーブはまだまだ陥落しない。
アズラエルはダガーのサーベルに貫かれて爆散するM1に喜び、ストライクに仕留められるダガーを見て「何をやってるんです」とため息をつきながら、「今日の夜までには、全て終わらせたいところですがね」と、さりげなく司令官にプレッシャーをかけた。
(ふん。好き勝手言いおって)
司令官はじろりとこの胡乱な男を睨んだが、何も言わなかった。
(新型の戦力は大したものだが、あの2体にかかりきりになると戦場ががら空きになり、オーブの抵抗はすぐに激しくなる…)
司令官はしばし考え、やがて航空隊に市街地への爆撃を行うよう命じた。
街を焼き、民間人を追い立てるのは、疲弊した敵の戦意を挫く有効な手だ。
「はい、はい…戦闘は西アララギ市街に移動…」
司令本部では各地で市街地への被害の状況報告が入る。
当然ながらどの地域も避難や退避が全て終わっているとは言い難く、市街地への爆撃や進攻は、市民の犠牲がさらに増える事を示した。
「くっ!」
被害状況を聞いたカガリは思わずインカムを床に投げつけた。
「国民を…非戦闘員を狙うとは、連合め、どこまで腐ってやがる!」
「カガリ!」
キサカが厳しくその言動をいさめた。
「指揮官が平常心を失ってどうする!いい加減学びなさい!」
カガリは苛立ってすぐに言い返そうとしたが、考え直し、無言のままぐしゃぐしゃと頭を掻いた。やや艶のない金髪がもつれ、逆立っている。
「わかってる。わかってるよ、キサカ」
怖い顔で睨みつけるキサカに、カガリは小さく頷いてみせた。
「市民の避難を急がせろ!負傷者は1人も残すなよ!」
気を取り直し、カガリは大声でオペレーターにそう命じた。
ウズミもまた、思わしくない戦況に顔を曇らせていた。
揚陸部隊がM1をすべて排除し、既に制圧された港も多い。
「ウズミ様。準備は整いました。作業には2時間ほどあればと」
その時、補佐官を伴った首長の1人が報告にきた。
「かかりすぎるな。既に時間の問題なのだ。よい、私も行こう」
首長たちはそれを見て一様に視線を落とした。
モルゲンレーテにも連合が入り込み、中枢を制圧しつつある。もはやオノゴロの防衛線はあってなきが如しだった。
最も多くの艦隊が押し寄せているイザナギ沖は、アークエンジェルとフリーダムが守っているためまだ落ちないが、市街地に進攻されてはもはやオーブに奪還の戦力はなく、島の8割が制圧されたと言っていい。
「残存の部隊はカグヤに集結するよう命令を。オノゴロは放棄する!」
ウズミはついにオノゴロからの撤退を決めた。
「オーブはよく持ちこたえていますな」
カーペンタリアへの帰投中の潜水母艦ボズゴロフは、戦闘領域から外れたオーブ沖からこの戦闘を見ていた。
「あの物量では時間の問題だろうがな」
クルーゼも思った以上に粘るオーブの底力に苦笑した。
「やはり侮れん国だよ。地球軍がむきになるのもわかる」
一方で新型と思しきモビルスーツの調査について念を押した。
「あの見慣れぬモビルスーツどものデータは?」
「最優先で取らせておりますが、この位置ですから…」
艦長はオペレーターたちに眼で首尾を説明するよう合図をしたが、彼らは通信状態からも、光学映像さえ難しいというリアクションを返してきた。
「いずれどれかと相見える時が来るのか来ぬのか…まぁいいさ、ザラ議長の喜びそうな土産話にはなる」
クルーゼはデータ収集はできる限りでよいとクルーたちをねぎらうと、何か変化があったら知らせてくれと言い残してブリッジを去った。
「面白くなさそうだな、イザーク」
息が詰まりそうな潜水艦の狭い廊下で、後ろから仏頂面のまま、珍しく無言でついてきているイザークにクルーゼは話しかけた。
「自分もあの中に飛んでいって戦いたいかね?」
「え?いえ…」
心を見透かされたようで、イザークの声が上ずった。
「オーブはザフトからの支援も拒否しているからな。仕方あるまい」
クルーゼはこの理不尽な現状が腑に落ちないイザークの心をかき乱した。
「自分は別に…!」
イザークは思わず強い口調で反発した。
「戦時にありながら、同じナチュラル同士で戦うなどという愚かな行為は…」
イザークは顔をそむけて言い放った。
「…自分には理解できませんし、したいとも思いません」
「確かにな。これぞまさにウロボロスの蛇だ」
かつてザフトが取った地球封じ込め作戦の名を思い出し、クルーゼは笑った。
「しかし思想が違うというだけで相手を踏みにじる連合のやり方は、たとえ何が敵であっても卑劣で許し難い。自分はそう思います」
イザークは追従笑いはせず、ただ不機嫌そうに意見を述べた。
クルーゼはそんな葛藤の中にいるイザークを見て、なるほどな…と言う。
「ある程度見届けたらカーペンタリアへ帰投する。パナマからずっと狭い艦内暮らしでもううんざりだろうが、あと少し我慢してくれたまえ」
パナマでの事後処理の後、カーペンタリアへの帰途で知ったオーブ侵攻だ。
特に口には出さないが、少し前にパナマを訪れたアスランが向かったのはオーブではないかと、イザークもうすうす感づいているようだった。
「隊長!」
「ん?」
イザークはもう一つの不満をぶつけるべく、クルーゼに詰め寄った。
「何なんですか、あの男は?捕虜であるならそのように扱われるべきだと」
忌々しげに思い出すのは、クルーゼが連れてきた赤毛の男の事だった。
こちらを見ればまるで化物かのように怖がるわ、ちょっと話しかけただけでもビビって縮み上がるわ…
(なんだあいつは!扱いづらいったらない!)
そうは言いながらもクルーゼに頼まれたからには、イザークは彼にレーダーの読み方やオペレーション技術を基礎から叩き込んでいる。
クルーゼはそんなイザークの面倒見のよさを見込んで彼にフレイを預けていた。
「ふ。イザーク、銃を撃ち合うばかりが戦争ではないのだよ」
「は?」
「ナチュラルの彼にとっては、身元を隠してザフトに身を置く事そのものが戦争なのだ」
イザークは意味を図りかね、首を傾げたまま彼を見つめている。
「憎しみと、親しみと。どちらを得るか、これは面白い実験だよ」
「実験…?」
イザークは不満そうな声で曖昧に答えただけだ。
クルーゼはそれを見て面白そうに言った。
「私は鍵を探していた」
再び歩き出したクルーゼはそのまま喋り続けた。
「しかし鍵より先に拾ったのだ…その鍵を開けるべき『解除者』をな」
イザークはそれを聞いてさらに首を傾げた。
(あんな役立たずに、隊長は一体何を求めるんだ?)
「離脱命令?」
司令部からの緊急連絡を聞き、マリューは既にそこまで戦況が悪化しているのかと眉をひそめた。
「代表より、アークエンジェルは直ちに戦線を離脱し、カグヤへ降りろと」
「カグヤ?」
舵を握るノイマンが肩越しに、聞き慣れない地名を尋ねた。
「オーブのマスドライバー施設です」
サイはそう答えながら、操縦席にマップデータと座標を送った。
(連合軍が狙っている、マスドライバーのある島へ…)
ブリッジは皆、オーブは一体何をする気なのかと不安にざわめいた。
「はあぁ!」
キラは襲い掛かってきたフォビドゥンの偏向ビームをシールドで受けると、そのままシールドごと突っ込んで体当たりを食らわせた。
シャニはフリーダムの肩を掴むと、バックパックのエクツァーンを起こして至近距離で狙った。キラはしかし、撃たれる前に逆噴射で機体に制動をかけ、慣性で動きを抑えられてしまったフォビドゥンを上空へ投げ飛ばした。
そしてバラエーナを素早く起こすと、お返しとばかりにビームを撃つ。
ビームブーメランを放ってレイダーを一時離脱させたアスランもまた、そのまま距離を縮めて接近戦に持ち込んだ。可変型のレイダーのように中距離から遠距離が得意の機体には、思い切った接近戦や格闘戦が効く。
奇しくもキラとの戦闘で得た経験と、機動性だけならフリーダムに勝り、武器のバリエーションが多いジャスティスの性能は、これまで比較的慎重だったアスランの戦法を大きく変化させていた。
レイダーとフォビドゥンを翻弄する2機の素早さに、隙を見ては撃つもののダメージを与えられないカラミティのパワーゲージが下がってきた。
「くそ、このバカモビルスーツ!もうパワーがヤバい!」
「おまえはドカドカ撃ちすぎなんだよ、バーカ!」
カラミティのパワー切れをクロトが嘲笑う。
「…んだと!?」
「帰るなら一人で帰ってよね。僕は知らないよ」
そんな意地の悪い事を言って離脱したクロトだったが、またしてもジャスティスのライフルに追われ、ひるんだところを追いついてきたジャスティスに蹴り飛ばされて、機体のバランスが大きく崩れた。
「くっ!!」
「けっ!バカはおまえの方じゃねぇか!」
オルガはそれを見て逆に笑い返す。そして錐もみ状態で落ちてきたレイダーが自分の目の前で機体を立て直したため、これ幸いと勝手に背に飛び乗った。その大きな衝撃にクロトは思わず「うわぁ」と叫ぶ。
「勝手に乗るなよ!この野郎!」
「うるせぇ!とっとと補給に戻れよ!おまえもそれじゃしょうがねぇだろ!」
確かに、たった今蹴られて翼がやや破損したのか、真っ直ぐ飛べない。
「くそっ!」
クロトは仕方なく母艦へと回頭した。
一方でフリーダムと対峙していたフォビドゥンも、撤退する仲間2人を見て「終わり?」と呟き、後を追った。
今回はまだ薬は切れていないようだが、補給のために戻った3機を見て、アズラエルは苛立ちを隠せなかった。爪を噛みながらちっと舌打ちする。
「あいつら、これだけ強化してやっても成果が出せないとは」
(やはりあんなクズどもではこの程度か)
「補給作業、急げ!」
司令官がオペレーターに命じ、アズラエルも肘掛に頬杖をついた。
「やれやれ、まだまだですねぇ」
日は、既に南天にあった。
「オーブを離脱!?我々に脱出せよと…そうおっしゃるのですか、ウズミ様?」
新型が下がり、戦闘が小康状態に入ると、アークエンジェルはじめモビルスーツに乗っていたキラたちも皆、カグヤに集結した。
そこでウズミが今後の彼らの進路について提言している。「マスドライバーで宇宙に出るように」と。
「あなた方にももうおわかりであろう」
ウズミはカグヤの司令室から穏やかに告げた。
「オーブが失われるのも、もはや時間の問題だ」
アークエンジェルのブリッジでは、マリューたちが黙り込んだ。
最前線で戦い、戦況が思わしくない事を誰よりも知る彼らには、オーブがもはや持ちこたえられないであろう事はわかっていた。
オノゴロの放棄により戦局は大きく傾いていた。
モルゲンレーテは完全に制圧され、行政府のある本島にも連合の手が入った。
残るは彼らが欲するマスドライバーがある、このカグヤ島のみだ。
「親父、何を…」
重苦しい沈黙の中、カガリだけが口を開いた。
「マスドライバーを守り、カグヤで総力戦を行うんじゃないのか!?」
「死力を尽くして戦えば犠牲が増すばかりだ。もはやその時ではない」
ウズミは穏やかに否定した。
「人々は避難した。支援の手もある。あとの責めは我らが負う」
ウズミは、今回の攻撃が始まる以前より、連絡を取り続けていた盟友のスカンジナビア国王が、中立国やプラントを含む各国に呼びかけて避難者の人道的支援を取り付けており、そしてその裏では極秘にオーブからの政治的離脱者を支援することを約束してくれている…と説明して聞かせた。
「おまえたちはこのまま宇宙へ上がるのだ」
カガリはウズミのその言葉に驚きを隠せなかった。
(俺どころではない忙しさだったはずなのに、いつの間に…)
「が、たとえオーブを失っても、失ってはならぬものがあろう」
ウズミはそのまま続けた。
「地球軍の背後には、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの姿がある」
その聞き覚えのある名を耳にして、モビルスーツを降り、キラと共に司令室に来ていたディアッカとアスランが思わず顔を見合わせた。
「知ってるの?」
キラが2人に聞くと、ディアッカが肩をすくめて「まぁな」と答えた。
「ブルーコスモス」については、プラントでも独自の調査が進められている。
莫大な金がかかるテロ活動をしている彼らへの援助の「根」は、世界中に張り巡らされており、中でも軍事産業で肥え太ったムルタ・アズラエルは最も「黒」とされているため、ザフトでもかねてからマークしている。
そのムルタ・アズラエルがこのオーブ攻撃の旗頭ならと、アスランもディアッカも、オーブ侵攻戦の強引さにようやく納得したのだった。
「そしてプラントも今や、コーディネイターこそが新たな種とする、パトリック・ザラの手の内だ!」
今度はキラとディアッカが視線を交わし、アスランがきゅっと唇を噛んだ。
「このまま進めば、世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう。そんなものでよいか!?きみたちの未来は。別の未来を知る者なら、今ここにある小さな灯を抱いてそこへ向かえ」
ウズミは彼ら若者たちを率いて行けとマリューに託すつもりのようだ。
マリューはそれを聞いてほぅと息をつくと、愛する人を見つめた。
キラたちと違い、フラガは指揮を執り続けたマリューを心配してアークエンジェルに戻り、クルーたちと共にブリッジにいる。
(まーたそんな重いもん、託されちゃって)
フラガは少し呆れながらも、彼女に軽く笑いかけた。
「ま、仕方がない。俺もそれを一緒に持つさ」
その言葉と笑顔に、少しだけ勇気を分けてもらった彼女は答えた。
「小さくとも強い灯は消えぬと、私たちも信じております」
では、急ぎ準備を…ウズミは言い、マリューとの通信を切った。
ウズミら首長たちが慌しく出て行くと、カガリだけが残った。
いつもなら心配して司令室まで来ているキラたちに何か言うか、父の後を追うだろうに、ただそこに立ち尽くし、無言のままだ。
たった1人でモニターを見上げているカガリに、キラは歩み寄った。
「カガリ…」
モニターには、破壊されてあちこちで煙が上がる市街地や、地球軍兵士が続々と上陸するオノゴロ島が映っていた。
兵士のみならず、爆撃で死んだ民間人や、負傷者の姿も映されている。
あんなに平和だった国…美しく整備され、幸せそうだった街はもうない…カガリが見ているものを見て、キラはこの国を守りたがった彼の心を慮った。
やがてカガリは、いきなり机に拳を打ちつけ始めた。
「カガリッ!」
何度も何度も、ついに手が血を噴いてもカガリはやめない。
驚いたキラがその手を握って止めた。
「ダメだよ、やめて!」
するとカガリは血まみれの手でキラの肩を掴んだ。
「なぁ、キラ!これが、世界の答えなのか!?」
キラはカガリの剣幕に驚いていた。
カガリはさらに悲痛な声でキラに問いかけた。
「ただ平和に暮らしたいと願った俺たちに、世界が返した答えがこれか?ナチュラルとコーディネイターが共に暮らせる国は、こんな風に否定されるのか!?」
キラは掴まれた肩に食い込む指の力を感じながら、何も答えられない。
カガリは構わず声を張り上げた。
「理念は無視され、中立など卑怯だと!自分たちだけ平和でずるいと!」
その途端、キラはカガリの琥珀の瞳に思いもかけないものが溢れるのを見た。
「これが、世界のペイバックなのかよ!!」
床に崩れ落ちたカガリと共に、呆然としたキラもまた、膝をついた。
(世界は、オーブを許さなかった?その存在すら、在ってはならないと…)
キラは自分にすがるようにうずくまっているカガリの背を抱いた。
震えるその背は自分よりずっと大きくて広いのに、ひどく頼りなかった。
「カガリ…カガリ…泣かないで…」
その背を強く抱きしめてやりながら、いつしかキラも泣いていた。
アスランもディアッカも言葉を失い、泣き崩れた2人を見つめるしかなかった。
「ブースター取付作業急げ!」
「ジャンクション結合。カタパルト接続確認しました」
「投射質量のデータに変更がある」
オーブの避難民を乗せるクサナギの発進準備が整っていく。
「宇宙へ出ることになるなんて」
傷ついたM1でデッキから乗り込むマユラが不安そうに呟く。
ジュリもアサギも、「望むところよ!」「今度こそ勝つわよ!」とカラ元気を振りかざし、彼女たちより腕の劣るマユラを励ました。
じきに、愛する母国が失われるのだ…強がらなければ、泣きそうだった。
「カグヤに集結している?」
オノゴロに上陸し、M1やダガーの残骸の転がる海岸線をブリッジから眺めていたアズラエルが、戦況を伝えた司令官を振り返った。
「うむ。あちらも背水の陣といったところか」
カグヤに集う熱紋データを見ながら司令官が答えた。
「ちっ!アスハめ。この期に及んで悪あがきを」
アズラエルは不満そうに舌打ちした。
モルゲンレーテはようやく手に入れたが、マスドライバーを抑えるというもう一つの目標が達成されていない。しかもその目標に立てこもるとは…
「ま、いいですけどね。なかなか見苦しくて。存分に叩きのめしてやりましょう」
「クサナギの予備ブースターを流用したものだが、パワーは十分だ。ローエングリン斉射と同時に全開に、ポジトロニックインターフェアランスを引き起こし、それで更に加速する」
発射オペレーションのため、司令室にただ1人残った年老いた首長が、アークエンジェルに次々と指示データを送ってきた。
サイたちはその送られてくる膨大なデータの分析に忙しい。
着々と発進準備が進む中、アスランはオーブの風に吹かれていた。
「このままカーペンタリアに戻ってもいいんだろうけどさ」
泣き崩れたカガリとキラを残し、アスランと共にデッキに出たディアッカは、「さぁて、どうすっかなー」と天を仰ぎ、それから向き直って言った。
「どうせ敵対してんのは地球軍なんだし」
本当は、気持ちなんかとうの昔に決まっていた。
自分はあいつと…ミリアリアと共に行きたいのだ。
「それに」
ディアッカはキラと共にうずくまったカガリの姿を思い出した。
おめでたい野郎だと思っていた彼のあの様子は、少なからず衝撃的だった。
「あいつのあんな姿を見て、このままサイナラとは…言えないよなぁ」
けれど、アスランはもう少し現実的だった。
確かに、今の敵は地球軍だから自分たちが敵対しても矛盾はない。
しかしいずれプラントとも戦わねばならない日が来るかもしれない。
(そうなった時、自分は一体どうすべきなのだろう)
アスランもディアッカにならい、一緒に天を仰いだ。
秋の日は既に落ちかけ、西から少しずつ夕焼けが広がってくる。
プラントを守りたいと銃を取った自分が、道を違えたとはいえ母国プラントに、何より実の父に銃を向けることができるのか…
「ザフトのアスラン・ザラか…ラクスにはわかってたのね」
ちょうどこの時、涙に濡れた眼を乱暴にこすり、「みっともないとこ見せてごめんな」と謝るカガリと別れてきたばかりのキラも、デッキに出て来た。
そして後ろから、話をしているアスランとディアッカの背中を静かに見つめていた。
「国、軍の命令に従って敵を討つ。それでいいと思ってた」
アスランはゆっくりと話し出した。
ディアッカが聞いているかどうかは気にしていなかったが、ディアッカはそんなアスランの言葉に静かに耳を傾けている。
「仕方ないって。それでこんな戦争が一日でも早く終わるならって」
すると、「おまえはクソ真面目だからな」とディアッカが笑った。
「俺はナチュラルをバカにしてたから、もうちょい不純だったけど、でも戦争は終わらせたいと思ってたよ。ユニウスの事もあったしな」
「そうね」
アスランは同意した。
「皆、初めはそうだった」
自分の国を守るのだと、その使命感に燃えて軍に入隊し、戦ったのだ。
ディアッカもまた、オーブは自分の国だと胸を張った彼女を思い出す。
「でも、私たちは本当は何と、どう戦わなくちゃいけなかったの?」
戦っても戦っても、戦争は終わらない。
ミゲルやラスティやニコルのような犠牲が増えるばかりで、戦争は勝手に育って、一人歩きして、手に負えなくなっている気がする。
アスランの問いかけに、ディアッカもまた、答えを持たなかった。
「一緒に行こうよ、アスラン、ディアッカ」
後ろから聞こえた声に、アスランとディアッカは同時に振り向いた。
「みんなで一緒に探せばいいよ。その答えを」
「キラ」
「おまえ…」
振り返った2人に、キラは明るい表情で言う。
ディアッカはふと笑うと、「それもいいんじゃないの?」と言った。
「考えるより、やってみる方がいいこともあるって言ったろ?」
アスランは少し考えてから、「そうかもね」と答えた。
「探してみよう。みんなで一緒に」
アスランの答えに、キラは満面の笑みで頷いた。
「アークエンジェルの方はどうか?」
ウズミは時間を気にしながら、アークエンジェルとクサナギの発進状況を説明させている。涙を拭ったカガリは、オペレーションルームに向かった首長たちに追いつき、複雑な操作を手伝いつつ、父の動向を見つめていた。
「現在、ブースターの最終チェック中です」
「急がせい!時はそうないぞ!」
なぜ首長たちが自らオペレーティングを行っているのか。
周囲にはもうほんの一握りの兵しかいないのはなぜなのか。
悪い予感がしていた。何か、とてつもなく悪い予感が…
「さぁ!今度こそケリにしましょう。私もそろそろ他で食事がしたいですしね」
味気のない携帯食はこりごりです、とアズラエルは包み紙をヒラヒラさせた。
「マスドライバーをいただいて、今夜はとびきりのディナーにいたしましょう」
「レーダーに機影じゃ!モビルスーツじゃな!」
先ほどからアークエンジェルと綿密なデータのやり取りをしていた年老いた首長が、敵機の飛来を伝えた。
モニターに映し出されたのは案の定、あの3機の新型だった。
もはや一刻の猶予もない。
「ラミアス殿、発進を」
ウズミが言う。
マリューは了解し、同時にまだアークエンジェルに乗り込まず、ウズミたちと共にいるキラに呼びかけた。
「キラさん?」
「発進を援護します。アークエンジェルは行ってください」
キラは追って来た新型3機を食い止めるつもりだった。
「クサナギの状況はどうですか?」
キラは続けて通信室のウズミに尋ねた。
「すぐに出す。すまん」
キラは頷き、ウズミはクサナギの発進をさらに急がせた。
アスランもキラと共に3機を迎え撃つことに異論はなかった。
「空中戦になる。バスターでは無理よ。ディアッカはアークエンジェルへ」
「しょうがないな。じゃ、宇宙で会おうぜ」
3人はそれぞれの進路へ散った。
「艦首上げ20。ローエングリン、スタンバイ」
マリューが指示を下す。
トノムラは近づいてくる機影を注意深く見守って報告を怠らず、チャンドラとサイが射出データを処理して逐一ノイマンに送る。
ミリアリアは着艦が許可されたバスターの格納フェイズを進めていた。
(せっかく開放されたのに、なんでこいつ、ザフトに戻らないの?)
「フック固定。パイロットは以降、誘導ビーコンに従ってください」
重量級のバスターが固定の衝撃で揺れ、ハンガーに姿を現す。
(そもそも戦う理由なんてないはずなのに、バッカみたい)
格納フェイズ終了の合図を了承しながらそんな事を思っていると、モニター越しに彼と眼が合い、ミリアリアは慌てて映像をオフにした。
(ホント、バッカみたい……私も…)
「親父」
数人の首長と共に、自らも発進オペレーションをこなしているウズミに、カガリがついに業を煮やして呼びかけた。ウズミは振り返らずに答える。
「おまえはいつまでグズグズしておる。早く行かぬか」
「脱出は全員でだ。皆を残しては行けない」
ウズミは手を止めた。
(気づいていたか…)
その間にもモビルスーツが接近し、距離は15まで迫っている。
フリーダム…あの少女たちも迎撃のために発進した頃だろう。
「カガリ、おまえは行かなければならん」
ウズミはそのまま黙ってカガリの腕を掴むと歩き出した。
カガリは既に父を超える力で「離せよ!」と抵抗したが、ウズミは渾身の力で押さえつけ、頑としてそれを許さなかった。
「我らには我らの役目!おまえにはおまえの役目があるのだ!」
「勝手な事を言うな!」
カガリは怒りを湛えた琥珀色の瞳で父を見つめて叫ぶ。
「皆を置いて、どうして俺だけ逃げられる!?」
「想いを継ぐ者なくば全て終わりぞ!なぜそれがわからん!」
激しく首を振るカガリに、ウズミも負けずに怒鳴り返した。
「わっ…かんねーよ!」
カガリはついに父の手を振り払った。
そして顔を背け、絞り出すような声で言った。
「…わかりたくなんかない…絶対…」
「行くぜぇ!」
カラミティを乗せたレイダーと、大鎌を構えたフォビドゥンが、マスドライバーの前に立ちはだかった赤と白の機体を目指してきた。
オルガの掛け声に、クロトもニヤニヤしながら答えた。
「仲良くお出迎えのつもりぃ?」
アスランがフリーダムより一歩前に出て構える。
「来るわ!キラ!」
「急いでください、マリューさん!」
キラは今一度発進を急ぐよう伝え、ジャスティスの横に並んだ。
やがてアークエンジェルは発射・射出準備を終え、急場しのぎに取りつけられたクサナギの予備ブースターも順調に火を噴き始めた。
「エンジン良好、進路クリアー」
ノイマンが慣れないながらも手早く操作し、カウントダウンを始める。
何しろ陽電子砲の力を借りながら射出されるという、初めての試みだ。
「ローエングリン発射準備、完了しました」
チャンドラの最終報告に、ブリッジにはそこはかとない緊張感が走った。
マリューは深呼吸をし、チラリと副操縦士席に座るフラガの背を見た。
ウズミから託された未来と共に、アークエンジェルは発進するのだ。
「撃ぇ!」
陽電子砲ローエングリンが発射され、そのすさまじいまでの力がアークエンジェルを加速させた。レールを滑り、強いGがかかる。
「チッ!」
オルガがそれに気づき、凄まじいスピードでマスドライバーを駆け上がるアークエンジェルに砲口を向けた。
しかしジャスティスがカラミティの土台となっているレイダーに襲い掛かったためバランスを崩し、砲を放つ事ができなかった。
「くっ!動くな、バカ!」
オルガの無茶な注文に、クロトも「ふざけんな」と悪態をつく。
やがて、カガリと共にクサナギに乗り込む予定のキサカが迎えに来てもなお、カガリは無言のままウズミを睨みつけていた。
「ウズミ様!」
「急げ、キサカ。このバカ息子を頼むぞ」
それを聞いたキサカもまたカガリを促したが、カガリは「俺は行かない」と怒鳴る。
「皆を…親父を置いて行けるわけないだろう!」
「置いて行くのではない」
ウズミが穏やかに言った。
「我らは同じ目的のために、別の道を行くだけだ。想いが同じなら、道は違えど、やがて同じ場所にたどり着く」
ウズミの表情は落ち着いていて、それがカガリの心を波立たせた。
覚悟を決めた者の顔だ、と思う。首長たちも皆、そんな表情をしていた。
「別の道だと!?」
違う、とカガリは首を振った。
「それは…そんなの、ただの諦めだ!死はすべてを終わらせてしまうだけだ!」
「たとえ永遠の別れとなっても…想いが引き継がれる限り、我らは共にある」
ウズミはカガリの言葉を聞いても、心を乱すことも表情を崩すこともない。
「誰かが…おまえが継いでくれるなら、想いは決して滅びはしないのだ」
カガリは顔を歪めた。納得なんかしたくない。
納得したら、覚悟を決めている父との別れを受け入れる事になる。
「そんな顔をするな。オーブの獅子の子が」
ウズミはカガリの肩を叩く。
そしてその背の高さにふと微笑んだ。
(いつの間にかこんなに大きくなった…)
「俺は…っ!」
わかっている…ここで足掻いても父の決心は揺るがないことくらい。
けれどカガリは、どうしても足掻かずにはいられない。
これが今まさに終わろうとする、彼の少年時代最後のわがままだった。
「父とは別れるが、おまえは1人ではない」
やがてウズミは、1枚の写真をカガリに渡しながら告げた。
「『きょうだい』もおる」
「な?…う…!?」
そこには、見知らぬ女性に抱かれたそっくりな赤ん坊が2人映っている。
1人は柔らかそうな茶色い髪、そして1人は自分のような黄金色の髪。
カガリの胸が早打ち、何かヒントがないかと裏面を見る。
そこには「KIRA CAGALLI」と書かれていて思わず絶句した。
ウズミは頷き、そしてもう一度カガリの肩を叩いた。
「ええい!」
キラはアスランの援護により、3機をロックオンしてフルバーストを放つ。
アスランはレイダーの軌道を読み、下に回りこんでケルフスを放った。
レイダーが安定しないおかげで射線が取れないオルガが罵るが、こればかりはどうしようもない。
(あの赤い野郎、ちょろちょろと邪魔しやがって!)
クロトはもうブチ切れそうだった。
発進シークエンスに入ったクサナギの前で、ウズミはカガリに別れを告げた。
「そなたの父で…幸せであったよ」
「…」
カガリはもう何も言えず、ただ父を見つめているだけだった。
(もっともっと、教わりたい事があった。殴られても、怒鳴られても、2度と会えないよりはずっといい…)
絶対に眼を逸らさない。
父の姿を忘れぬように。
雄雄しく気高い、オーブの獅子の姿を。
やがて彼はただ一言、何も知らず、幸せだった子供の頃のように呟いた。
「…父…さん…」
その言葉を聞いたウズミは、優しく微笑んだ。けれどすぐに指導者の顔に戻って忠実な部下に命じた。
「行け、キサカ!頼んだぞ」
ドアが閉まり、父と子は永遠の別れを迎えた。
「リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムズ、ゴー。クサナギ、ファイナルシークエンススタート」
誰もいなくなった司令室で、クサナギの最後のオペレーションを終えた首長は、椅子にもたれてふぅと深いため息を吐いた。
(これで不甲斐ない年寄りの役目は終わったわい…)
あとは愛する母国と運命を共にするだけだ。彼は眼を閉じ、思いを馳せた。
まだ幼いカガリ様…そして、あの艦に乗った若者たちに全てを託すのは酷というものだが、滅亡を目の前にした今はこれしか方法がなかった。
彼はオーブ国民なら皆、子供の頃から慣れ親しんだ地母神の名を呟いた。
「全ての者たちに、ハウメアの護りがあらんことを」
「ん?」
今度はシャニがクサナギの発進に気づいて顔を上げた。
「おいおいおいおい!」
チンタラやってる間にまた出ちまっただろうが!とオルガが怒鳴る。
フリーダムは彼らを威嚇すると、くるりと反転してクサナギへと向かう。
アスランは新型の追撃を振り切るためライフルを放ってから後を追った。
マスドライバーを駆け上がるクサナギに追いついたフリーダムは、左舷後方に足場を見つけ、加速して速度を合わせてから着艦した。しかし後に続いたジャスティスは、さらに加速したクサナギにあと一歩、届きそうで届かない。
「アスラン!」
キラはフリーダムのマニピュレーターを精一杯伸ばした。
アスランは最大限に加速した。もう少し…ジャスティスも腕を伸ばす。
(届け!)
ジャスティスとの距離は縮まらないが、キラは諦めない。
(私は絶対に、アスランを置いてはいかない!!)
やがてフリーダムがジャスティスの手を掴む。
最後の加速と共にフリーダムに引っ張られ、ジャスティスも無事着艦した。
「くっそー!」
オルガがバズーカを構え、クサナギのデッキに取り付いた2機に向けた。
こうなったらもう、狙いが定まらなくてもいい。
(あいつら、ぶっ殺してやる!)
「落ちろぉ!!」
怒り狂うクロトもめったやたらと機関銃を撃ちまくった。
シャニが放つフレスベルグを、フリーダムとジャスティスがシールドで防ぐ。
キラがバインダーのバラエーナを起こし、クスィフィアスを構える。
アスランもまたリフターユニットを展開し、フォルティスビームを前方に稼動した。フリーダムの砲門とファトゥム00の全砲門が3機を捉える。
2人が持てる力を同時に放つと、追いすがる3機はその威力にひるみ、減速して彼方へと置き去られた。
フリーダムとジャスティスは砲門をたたみ、クサナギはそのまま加速してオーブの大空へと、その先に広がる暗い宇宙へと飛び立っていった。
「種は飛んだ」
モニターに映し出されるクサナギを見守っていたウズミは呟いた。
これでよい…ウズミは最後に愛する息子を想い、小さく微笑んだ。
そして一つのボタンに指をかける。
「オーブも、世界も、奴らのいいようにはさせん!」
やがて役目を終えた司令本部とマスドライバーが大爆発を起こし、倒壊する。
「ああっ!?」
崩れていくマスドライバーを見て、アズラエルは思わず身を乗り出した。
司令官も激しい炎と煙りを目視し、驚きを隠せない。
(この期に及んで自爆だと!?バカな…!)
「くっ…」
あと一歩まで追い詰めながら、最後の最後に舐めたマネを…アスラエルはギリギリと歯を食いしばる。
「オーブめ…アスハめ!」
キラもアスランも自分たちの後方で何が起きたのかを悟った。
この瞬間、オーブという名の国が地上から完全に失われたのだ。
(ウズミさん…)
キラは揺ぎない信念に散った人を想い、眼を閉じる。
アスランもまた、ナチュラルとコーディネイターの間に立ちながら、どちらにつく事も選ばず、中道の信念を貫いた彼の姿を思い浮かべた。
クサナギのカガリもまた、モニターに映る父の壮絶な最期に声もなかった。
キサカが主君を想い、最敬礼した後、眼をそむける。
傷ついた右手で、カガリは座っているシートの肘を殴りつけた。
再び傷が開いて血が流れたが、その痛みが今はカガリの心を保たせた。
「親父…」
―― あんたの息子で、俺も幸せだった…
艦隊に動きありと聞き、本部に戻ってきたカガリが机を叩いた。
ウズミは眼を閉じ、各方面からの芳しくない報告に耳を傾けている。
戦闘が一時中断して後、ウズミは自ら操縦桿を握り、ジャイロで荒れた国土の様子を見て回っていた。本島は軍事施設が集中するオノゴロほど激しい攻撃を受けなかったとはいえ、破壊された建物や港が痛々しかった。また、強制的に緊急避難や脱出はさせたものの、移送や施設には限りがあり、当然ながら国民全員が無傷ではない。
再び始まった連合の総攻撃に、やがてウズミは眼を開き、怒鳴った。
「おのれ、これが回答か、地球軍!敵と見なせば既にその言葉すら聞かぬか!」
一方、攻撃再開を知ってバタバタと急に騒がしくなったアークエンジェルのハンガーで、アスランは足早にフリーダムに向かうキラの腕を掴んだ。
「この状況ではどのみちオーブに勝ち目はない。わかってるでしょう?」
ざわめくあたりを気にしながら、アスランが声をひそめて言う。
キラはその言葉に頷き、落ち着いた声で答えた。
「うん…多分、みんなもね。でも、勝ち目がないから戦うのをやめて、言いなりになるって…そんなことできないでしょ?」
キラの決心は変わらなかった。
「大切なのは、何のために戦うかで。だから私も行くよ」
キラは走り回る整備兵や、指示を続けているマードックを見つめた。
「ほんとは戦いたくなんてないけど、戦わなきゃ守れないものもあるから」
「キラ…」
アスランは何も言えず、そっとキラの腕を離した。
「ごめんね、アスラン。ありがとう。話せて嬉しかった」
キラは笑顔を見せたが、笑い返す事ができない。アスランは歩み去るキラを黙って見送るしかなかった。
しかしその時、キラがふと振り返った。
「アスラン」
「なに?」と聞かれ、キラはその何気ないやり取りが嬉しくて笑ってしまう。
こんな風に返事が返ってくるなんて、敵対していた時は思えなかった。
「私、アスランのこと、すごく大切な友達だと思ってるよ!」
キラはそう言い残すと、フリーダムに向かって走り出した。
「まいったね」
ディアッカは、呆気に取られたように立ちすくんでいるアスランに声をかけた。
「ディアッカ!?」
その声に驚いて振り返ると、そこにはザフトのパイロットスーツに着替えたディアッカがいた。
では、鹵獲されたと思っていたあのバスターに乗っていたのは…元気そうな彼の姿にようやく合点が行き、アスランは珍しく大きな声で言った。
「あれは…あなただったの?」
「はぁ?気づくのおせーよ、隊長」
ディアッカはそんな彼女の反応に呆れたように苦笑し、それから後ろ手にフリーダムを指さす。
「おまえ、あれの奪還命令受けてんだろ?」
「…え」
アスランは口ごもった。それは一応「特務」なのだ。
「Nジャマーキャンセラーが載ってんだって?親父さん、核を使う気なんだな」
けれど久々に会った同僚は機密の件も知っているようだ。
「やっぱまずいんだろうな。俺たちザフトが介入しちゃよ」
アスランは思わず瞳を伏せた。
「…ディアッカに言ってもわかってもらえないかもしれないけど…」
アークエンジェルを守り、ストライクと共に戦っていた姿を見ても尚、彼女の中のディアッカ・エルスマンは、別れたあの時のままだった。
「でも、私はあの子を…あの子が守る彼らを、死なせたくない」
否定されることは覚悟していると言わんばかりに、ポツリと言う。
しかしディアッカは、それを聞いて明るい表情を見せた。
「めずらしく…ってか、初めて意見が合うじゃんか!」
アスランは彼の言葉に驚いて思わずディアッカを仰ぎ見た。
「俺もあいつら、死なせたくないんだよね」
「ディアッカ…?」
「行こうぜ」
ディアッカはポンとアスランの肩を叩く。
「とりあえず、考えるよりやってみるってのも悪くないだろ」
十分な薬を投与された新型の3人は、思う存分に暴れまわっていた。
強力なスラスターで水上をホバー移動するカラミティは、バズーカを構え、両肩のシュラークと共にオーブ艦隊に向けて連射を繰り返している。
フォビドゥンもまた水面すれすれを低空飛行して大鎌を振るい、艦隊はもちろん、戦闘ヘリも大鎌の餌食にし、切り裂いていった。
「どうしたんだよ!昨日の2機は!?」
オルガがフリーダムとジャスティスを探して叫んだ。
レイダーは機動性を生かし、ヘリ、戦車、そして時にM1をターゲットに機関砲を撃ちまくり、イージス艦や駆逐艦に取りついてはプラズマ砲アフラマズダで沈黙させていく。さしものオーブ艦隊も、機動力に勝るモビルスーツを相手に成す術がない。まるで戦争初期、モビルスーツに敗北を重ねた連合の「対ザフト戦」をなぞるような戦いの構図だった。
「バリアント、撃ぇ!」
アークエンジェルが援護をしても、艦隊の被害は止まらない。
戦闘開始の昨日より、既に防衛圏が狭くなっている事は明白だ。
ダガー相手によく戦ってはいるが、M1の被害も目立ち始めている。
キラは大空に舞うと、ぞろぞろと上陸するダガー部隊を捉え、腕、足、アイカメラなど、致命傷にはならない程度に抑えつつ、全てが戦闘不能になるよう、一斉攻撃を行って破壊した。
そしてダガーを一通り片付けると、大鎌でアストレイを切り裂いているフォビドゥンに向かった。キラは足を止めようと両腰のレールガンを放つ。
シャニは高度を上げると、ラケルタを抜いたキラと上空で討ち合った。
オルガはそれを見てニヤリと笑う。
「見つけたぜ、昨日の強い奴!」
そしてそのままホバーで海上を滑りながらシュラークとバズーカをありったけぶち込んでくる。キラはパワーでフォビドゥンを退けると、今度はカラミティに向かっていった。そして相手の軌道に先回りしてスラスターを全開させて止まると、ビームライフルを撃ちこんだ。
しかしカラミティはその程度ではひるまず、フリーダムに近づいていく。
オルガの狙いは胸に内蔵されたスキュラでの攻撃だった。
かつてイージスに積まれていたあの強力な決定打を避けるため、キラはのけぞって飛び退り、フリーダムの翼が海水に濡れる。
すると息つく間もなく、今度はレイダーが向かってきた。
「今日こそやらせてもらうよ!」
レイダーはそのままクローを向けてきたため、体勢を崩していたキラはさらに加速して上昇しようと操縦桿を目一杯引いた。
「…ええい!」
普段はバラバラだが、3人の連携がはまると、火力が強大ゆえに厄介だ。
キラの視界には、先ほど退けたフォビドゥンまでも向かってくるのが見える。
(まずい…とにかく体勢を立て直さないと…!)
そう思った瞬間、フリーダムとレイダーの間にビームブーメランが割って入った。レイダーはその軌道に追われて一時離脱していく。
キラが驚いてブーメランの軌道を追うと、そこにはジャスティスがいた。
キラは思わず顔をほころばせ、そして通信を開いた。
「アスラン!どうして?」
追い払われたレイダーが楕円の軌道を描いて戻ってくる。
「揃ったなぁ!赤いのも!」
オルガが嬉しそうに叫び、再びバズーカとシュラークを撃ち込んだ。
「私たちにだってわかってる!」
ジャスティスはスラスターを盛大にふかして体勢を固定すると、襲い掛かってきたフォビドゥンの大鎌をシールドで打ち返した。そのパワーに抗いきれず、シャニは吹き飛ばされた。
「ぐっ…こいつ!」
「戦ってでも守らなきゃいけないものがあることぐらい!」
フォビドゥンが退くと、今度は海面に向けて機関砲やビーム砲を発射した。激しい水煙が上がり、海面が自在に移動していたカラミティが見えなくなる。
(くそっ、あの野郎!)
オルガは海水をかぶり、やむなく一度陸上へと引き返さざるを得ない。
「…それに、キラ…!」
キラはアスランの少し怒ったような声音に気づいた。
「私もあなたの事、大切な友達だって思ってるから!」
キラはその言葉に心が晴れやかになり、同時に怒りのままに向かってくるレイダーを迎え撃たんと、リアスカートからビームライフルを取って構えた。
「このぉ!撃滅!!」
「アスラン!」
ジャスティスもまたビームライフルで戻ってきたフォビドゥンを狙う。
「蹴散らす!」
フリーダムとジャスティスは背中を預けあい、同時にライフルを撃った。
海岸線ではバスターが火線ライフルとランチャーでミサイルを狙っていた。
(一発も逃がさない…)
ディアッカは、自分でもこれほど集中した事はないのではないかと思うほどの集中力でコンピューターと目視の捕捉を合わせていった。
そして見事、空中で爆発するミサイル全弾を確認してふぅと息をつく。
ミリアリアはモニターのフリーダム、ジャスティス、ストライクを確認しながら、ついバスターに気を取られる自分に気づいていた。
しかしこうして丁寧な援護を行ってくれているバスターのおかげで、アークエンジェルは戦闘再開以来、ほとんど被弾していないのだ。
「バスターさまさまだな!」
「ほんとほんと!」
チャンドラとパルが言いあうたびに、何だか身が縮まった。
大分追い詰めてはいるものの、オーブはまだまだ陥落しない。
アズラエルはダガーのサーベルに貫かれて爆散するM1に喜び、ストライクに仕留められるダガーを見て「何をやってるんです」とため息をつきながら、「今日の夜までには、全て終わらせたいところですがね」と、さりげなく司令官にプレッシャーをかけた。
(ふん。好き勝手言いおって)
司令官はじろりとこの胡乱な男を睨んだが、何も言わなかった。
(新型の戦力は大したものだが、あの2体にかかりきりになると戦場ががら空きになり、オーブの抵抗はすぐに激しくなる…)
司令官はしばし考え、やがて航空隊に市街地への爆撃を行うよう命じた。
街を焼き、民間人を追い立てるのは、疲弊した敵の戦意を挫く有効な手だ。
「はい、はい…戦闘は西アララギ市街に移動…」
司令本部では各地で市街地への被害の状況報告が入る。
当然ながらどの地域も避難や退避が全て終わっているとは言い難く、市街地への爆撃や進攻は、市民の犠牲がさらに増える事を示した。
「くっ!」
被害状況を聞いたカガリは思わずインカムを床に投げつけた。
「国民を…非戦闘員を狙うとは、連合め、どこまで腐ってやがる!」
「カガリ!」
キサカが厳しくその言動をいさめた。
「指揮官が平常心を失ってどうする!いい加減学びなさい!」
カガリは苛立ってすぐに言い返そうとしたが、考え直し、無言のままぐしゃぐしゃと頭を掻いた。やや艶のない金髪がもつれ、逆立っている。
「わかってる。わかってるよ、キサカ」
怖い顔で睨みつけるキサカに、カガリは小さく頷いてみせた。
「市民の避難を急がせろ!負傷者は1人も残すなよ!」
気を取り直し、カガリは大声でオペレーターにそう命じた。
ウズミもまた、思わしくない戦況に顔を曇らせていた。
揚陸部隊がM1をすべて排除し、既に制圧された港も多い。
「ウズミ様。準備は整いました。作業には2時間ほどあればと」
その時、補佐官を伴った首長の1人が報告にきた。
「かかりすぎるな。既に時間の問題なのだ。よい、私も行こう」
首長たちはそれを見て一様に視線を落とした。
モルゲンレーテにも連合が入り込み、中枢を制圧しつつある。もはやオノゴロの防衛線はあってなきが如しだった。
最も多くの艦隊が押し寄せているイザナギ沖は、アークエンジェルとフリーダムが守っているためまだ落ちないが、市街地に進攻されてはもはやオーブに奪還の戦力はなく、島の8割が制圧されたと言っていい。
「残存の部隊はカグヤに集結するよう命令を。オノゴロは放棄する!」
ウズミはついにオノゴロからの撤退を決めた。
「オーブはよく持ちこたえていますな」
カーペンタリアへの帰投中の潜水母艦ボズゴロフは、戦闘領域から外れたオーブ沖からこの戦闘を見ていた。
「あの物量では時間の問題だろうがな」
クルーゼも思った以上に粘るオーブの底力に苦笑した。
「やはり侮れん国だよ。地球軍がむきになるのもわかる」
一方で新型と思しきモビルスーツの調査について念を押した。
「あの見慣れぬモビルスーツどものデータは?」
「最優先で取らせておりますが、この位置ですから…」
艦長はオペレーターたちに眼で首尾を説明するよう合図をしたが、彼らは通信状態からも、光学映像さえ難しいというリアクションを返してきた。
「いずれどれかと相見える時が来るのか来ぬのか…まぁいいさ、ザラ議長の喜びそうな土産話にはなる」
クルーゼはデータ収集はできる限りでよいとクルーたちをねぎらうと、何か変化があったら知らせてくれと言い残してブリッジを去った。
「面白くなさそうだな、イザーク」
息が詰まりそうな潜水艦の狭い廊下で、後ろから仏頂面のまま、珍しく無言でついてきているイザークにクルーゼは話しかけた。
「自分もあの中に飛んでいって戦いたいかね?」
「え?いえ…」
心を見透かされたようで、イザークの声が上ずった。
「オーブはザフトからの支援も拒否しているからな。仕方あるまい」
クルーゼはこの理不尽な現状が腑に落ちないイザークの心をかき乱した。
「自分は別に…!」
イザークは思わず強い口調で反発した。
「戦時にありながら、同じナチュラル同士で戦うなどという愚かな行為は…」
イザークは顔をそむけて言い放った。
「…自分には理解できませんし、したいとも思いません」
「確かにな。これぞまさにウロボロスの蛇だ」
かつてザフトが取った地球封じ込め作戦の名を思い出し、クルーゼは笑った。
「しかし思想が違うというだけで相手を踏みにじる連合のやり方は、たとえ何が敵であっても卑劣で許し難い。自分はそう思います」
イザークは追従笑いはせず、ただ不機嫌そうに意見を述べた。
クルーゼはそんな葛藤の中にいるイザークを見て、なるほどな…と言う。
「ある程度見届けたらカーペンタリアへ帰投する。パナマからずっと狭い艦内暮らしでもううんざりだろうが、あと少し我慢してくれたまえ」
パナマでの事後処理の後、カーペンタリアへの帰途で知ったオーブ侵攻だ。
特に口には出さないが、少し前にパナマを訪れたアスランが向かったのはオーブではないかと、イザークもうすうす感づいているようだった。
「隊長!」
「ん?」
イザークはもう一つの不満をぶつけるべく、クルーゼに詰め寄った。
「何なんですか、あの男は?捕虜であるならそのように扱われるべきだと」
忌々しげに思い出すのは、クルーゼが連れてきた赤毛の男の事だった。
こちらを見ればまるで化物かのように怖がるわ、ちょっと話しかけただけでもビビって縮み上がるわ…
(なんだあいつは!扱いづらいったらない!)
そうは言いながらもクルーゼに頼まれたからには、イザークは彼にレーダーの読み方やオペレーション技術を基礎から叩き込んでいる。
クルーゼはそんなイザークの面倒見のよさを見込んで彼にフレイを預けていた。
「ふ。イザーク、銃を撃ち合うばかりが戦争ではないのだよ」
「は?」
「ナチュラルの彼にとっては、身元を隠してザフトに身を置く事そのものが戦争なのだ」
イザークは意味を図りかね、首を傾げたまま彼を見つめている。
「憎しみと、親しみと。どちらを得るか、これは面白い実験だよ」
「実験…?」
イザークは不満そうな声で曖昧に答えただけだ。
クルーゼはそれを見て面白そうに言った。
「私は鍵を探していた」
再び歩き出したクルーゼはそのまま喋り続けた。
「しかし鍵より先に拾ったのだ…その鍵を開けるべき『解除者』をな」
イザークはそれを聞いてさらに首を傾げた。
(あんな役立たずに、隊長は一体何を求めるんだ?)
「離脱命令?」
司令部からの緊急連絡を聞き、マリューは既にそこまで戦況が悪化しているのかと眉をひそめた。
「代表より、アークエンジェルは直ちに戦線を離脱し、カグヤへ降りろと」
「カグヤ?」
舵を握るノイマンが肩越しに、聞き慣れない地名を尋ねた。
「オーブのマスドライバー施設です」
サイはそう答えながら、操縦席にマップデータと座標を送った。
(連合軍が狙っている、マスドライバーのある島へ…)
ブリッジは皆、オーブは一体何をする気なのかと不安にざわめいた。
「はあぁ!」
キラは襲い掛かってきたフォビドゥンの偏向ビームをシールドで受けると、そのままシールドごと突っ込んで体当たりを食らわせた。
シャニはフリーダムの肩を掴むと、バックパックのエクツァーンを起こして至近距離で狙った。キラはしかし、撃たれる前に逆噴射で機体に制動をかけ、慣性で動きを抑えられてしまったフォビドゥンを上空へ投げ飛ばした。
そしてバラエーナを素早く起こすと、お返しとばかりにビームを撃つ。
ビームブーメランを放ってレイダーを一時離脱させたアスランもまた、そのまま距離を縮めて接近戦に持ち込んだ。可変型のレイダーのように中距離から遠距離が得意の機体には、思い切った接近戦や格闘戦が効く。
奇しくもキラとの戦闘で得た経験と、機動性だけならフリーダムに勝り、武器のバリエーションが多いジャスティスの性能は、これまで比較的慎重だったアスランの戦法を大きく変化させていた。
レイダーとフォビドゥンを翻弄する2機の素早さに、隙を見ては撃つもののダメージを与えられないカラミティのパワーゲージが下がってきた。
「くそ、このバカモビルスーツ!もうパワーがヤバい!」
「おまえはドカドカ撃ちすぎなんだよ、バーカ!」
カラミティのパワー切れをクロトが嘲笑う。
「…んだと!?」
「帰るなら一人で帰ってよね。僕は知らないよ」
そんな意地の悪い事を言って離脱したクロトだったが、またしてもジャスティスのライフルに追われ、ひるんだところを追いついてきたジャスティスに蹴り飛ばされて、機体のバランスが大きく崩れた。
「くっ!!」
「けっ!バカはおまえの方じゃねぇか!」
オルガはそれを見て逆に笑い返す。そして錐もみ状態で落ちてきたレイダーが自分の目の前で機体を立て直したため、これ幸いと勝手に背に飛び乗った。その大きな衝撃にクロトは思わず「うわぁ」と叫ぶ。
「勝手に乗るなよ!この野郎!」
「うるせぇ!とっとと補給に戻れよ!おまえもそれじゃしょうがねぇだろ!」
確かに、たった今蹴られて翼がやや破損したのか、真っ直ぐ飛べない。
「くそっ!」
クロトは仕方なく母艦へと回頭した。
一方でフリーダムと対峙していたフォビドゥンも、撤退する仲間2人を見て「終わり?」と呟き、後を追った。
今回はまだ薬は切れていないようだが、補給のために戻った3機を見て、アズラエルは苛立ちを隠せなかった。爪を噛みながらちっと舌打ちする。
「あいつら、これだけ強化してやっても成果が出せないとは」
(やはりあんなクズどもではこの程度か)
「補給作業、急げ!」
司令官がオペレーターに命じ、アズラエルも肘掛に頬杖をついた。
「やれやれ、まだまだですねぇ」
日は、既に南天にあった。
「オーブを離脱!?我々に脱出せよと…そうおっしゃるのですか、ウズミ様?」
新型が下がり、戦闘が小康状態に入ると、アークエンジェルはじめモビルスーツに乗っていたキラたちも皆、カグヤに集結した。
そこでウズミが今後の彼らの進路について提言している。「マスドライバーで宇宙に出るように」と。
「あなた方にももうおわかりであろう」
ウズミはカグヤの司令室から穏やかに告げた。
「オーブが失われるのも、もはや時間の問題だ」
アークエンジェルのブリッジでは、マリューたちが黙り込んだ。
最前線で戦い、戦況が思わしくない事を誰よりも知る彼らには、オーブがもはや持ちこたえられないであろう事はわかっていた。
オノゴロの放棄により戦局は大きく傾いていた。
モルゲンレーテは完全に制圧され、行政府のある本島にも連合の手が入った。
残るは彼らが欲するマスドライバーがある、このカグヤ島のみだ。
「親父、何を…」
重苦しい沈黙の中、カガリだけが口を開いた。
「マスドライバーを守り、カグヤで総力戦を行うんじゃないのか!?」
「死力を尽くして戦えば犠牲が増すばかりだ。もはやその時ではない」
ウズミは穏やかに否定した。
「人々は避難した。支援の手もある。あとの責めは我らが負う」
ウズミは、今回の攻撃が始まる以前より、連絡を取り続けていた盟友のスカンジナビア国王が、中立国やプラントを含む各国に呼びかけて避難者の人道的支援を取り付けており、そしてその裏では極秘にオーブからの政治的離脱者を支援することを約束してくれている…と説明して聞かせた。
「おまえたちはこのまま宇宙へ上がるのだ」
カガリはウズミのその言葉に驚きを隠せなかった。
(俺どころではない忙しさだったはずなのに、いつの間に…)
「が、たとえオーブを失っても、失ってはならぬものがあろう」
ウズミはそのまま続けた。
「地球軍の背後には、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの姿がある」
その聞き覚えのある名を耳にして、モビルスーツを降り、キラと共に司令室に来ていたディアッカとアスランが思わず顔を見合わせた。
「知ってるの?」
キラが2人に聞くと、ディアッカが肩をすくめて「まぁな」と答えた。
「ブルーコスモス」については、プラントでも独自の調査が進められている。
莫大な金がかかるテロ活動をしている彼らへの援助の「根」は、世界中に張り巡らされており、中でも軍事産業で肥え太ったムルタ・アズラエルは最も「黒」とされているため、ザフトでもかねてからマークしている。
そのムルタ・アズラエルがこのオーブ攻撃の旗頭ならと、アスランもディアッカも、オーブ侵攻戦の強引さにようやく納得したのだった。
「そしてプラントも今や、コーディネイターこそが新たな種とする、パトリック・ザラの手の内だ!」
今度はキラとディアッカが視線を交わし、アスランがきゅっと唇を噛んだ。
「このまま進めば、世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう。そんなものでよいか!?きみたちの未来は。別の未来を知る者なら、今ここにある小さな灯を抱いてそこへ向かえ」
ウズミは彼ら若者たちを率いて行けとマリューに託すつもりのようだ。
マリューはそれを聞いてほぅと息をつくと、愛する人を見つめた。
キラたちと違い、フラガは指揮を執り続けたマリューを心配してアークエンジェルに戻り、クルーたちと共にブリッジにいる。
(まーたそんな重いもん、託されちゃって)
フラガは少し呆れながらも、彼女に軽く笑いかけた。
「ま、仕方がない。俺もそれを一緒に持つさ」
その言葉と笑顔に、少しだけ勇気を分けてもらった彼女は答えた。
「小さくとも強い灯は消えぬと、私たちも信じております」
では、急ぎ準備を…ウズミは言い、マリューとの通信を切った。
ウズミら首長たちが慌しく出て行くと、カガリだけが残った。
いつもなら心配して司令室まで来ているキラたちに何か言うか、父の後を追うだろうに、ただそこに立ち尽くし、無言のままだ。
たった1人でモニターを見上げているカガリに、キラは歩み寄った。
「カガリ…」
モニターには、破壊されてあちこちで煙が上がる市街地や、地球軍兵士が続々と上陸するオノゴロ島が映っていた。
兵士のみならず、爆撃で死んだ民間人や、負傷者の姿も映されている。
あんなに平和だった国…美しく整備され、幸せそうだった街はもうない…カガリが見ているものを見て、キラはこの国を守りたがった彼の心を慮った。
やがてカガリは、いきなり机に拳を打ちつけ始めた。
「カガリッ!」
何度も何度も、ついに手が血を噴いてもカガリはやめない。
驚いたキラがその手を握って止めた。
「ダメだよ、やめて!」
するとカガリは血まみれの手でキラの肩を掴んだ。
「なぁ、キラ!これが、世界の答えなのか!?」
キラはカガリの剣幕に驚いていた。
カガリはさらに悲痛な声でキラに問いかけた。
「ただ平和に暮らしたいと願った俺たちに、世界が返した答えがこれか?ナチュラルとコーディネイターが共に暮らせる国は、こんな風に否定されるのか!?」
キラは掴まれた肩に食い込む指の力を感じながら、何も答えられない。
カガリは構わず声を張り上げた。
「理念は無視され、中立など卑怯だと!自分たちだけ平和でずるいと!」
その途端、キラはカガリの琥珀の瞳に思いもかけないものが溢れるのを見た。
「これが、世界のペイバックなのかよ!!」
床に崩れ落ちたカガリと共に、呆然としたキラもまた、膝をついた。
(世界は、オーブを許さなかった?その存在すら、在ってはならないと…)
キラは自分にすがるようにうずくまっているカガリの背を抱いた。
震えるその背は自分よりずっと大きくて広いのに、ひどく頼りなかった。
「カガリ…カガリ…泣かないで…」
その背を強く抱きしめてやりながら、いつしかキラも泣いていた。
アスランもディアッカも言葉を失い、泣き崩れた2人を見つめるしかなかった。
「ブースター取付作業急げ!」
「ジャンクション結合。カタパルト接続確認しました」
「投射質量のデータに変更がある」
オーブの避難民を乗せるクサナギの発進準備が整っていく。
「宇宙へ出ることになるなんて」
傷ついたM1でデッキから乗り込むマユラが不安そうに呟く。
ジュリもアサギも、「望むところよ!」「今度こそ勝つわよ!」とカラ元気を振りかざし、彼女たちより腕の劣るマユラを励ました。
じきに、愛する母国が失われるのだ…強がらなければ、泣きそうだった。
「カグヤに集結している?」
オノゴロに上陸し、M1やダガーの残骸の転がる海岸線をブリッジから眺めていたアズラエルが、戦況を伝えた司令官を振り返った。
「うむ。あちらも背水の陣といったところか」
カグヤに集う熱紋データを見ながら司令官が答えた。
「ちっ!アスハめ。この期に及んで悪あがきを」
アズラエルは不満そうに舌打ちした。
モルゲンレーテはようやく手に入れたが、マスドライバーを抑えるというもう一つの目標が達成されていない。しかもその目標に立てこもるとは…
「ま、いいですけどね。なかなか見苦しくて。存分に叩きのめしてやりましょう」
「クサナギの予備ブースターを流用したものだが、パワーは十分だ。ローエングリン斉射と同時に全開に、ポジトロニックインターフェアランスを引き起こし、それで更に加速する」
発射オペレーションのため、司令室にただ1人残った年老いた首長が、アークエンジェルに次々と指示データを送ってきた。
サイたちはその送られてくる膨大なデータの分析に忙しい。
着々と発進準備が進む中、アスランはオーブの風に吹かれていた。
「このままカーペンタリアに戻ってもいいんだろうけどさ」
泣き崩れたカガリとキラを残し、アスランと共にデッキに出たディアッカは、「さぁて、どうすっかなー」と天を仰ぎ、それから向き直って言った。
「どうせ敵対してんのは地球軍なんだし」
本当は、気持ちなんかとうの昔に決まっていた。
自分はあいつと…ミリアリアと共に行きたいのだ。
「それに」
ディアッカはキラと共にうずくまったカガリの姿を思い出した。
おめでたい野郎だと思っていた彼のあの様子は、少なからず衝撃的だった。
「あいつのあんな姿を見て、このままサイナラとは…言えないよなぁ」
けれど、アスランはもう少し現実的だった。
確かに、今の敵は地球軍だから自分たちが敵対しても矛盾はない。
しかしいずれプラントとも戦わねばならない日が来るかもしれない。
(そうなった時、自分は一体どうすべきなのだろう)
アスランもディアッカにならい、一緒に天を仰いだ。
秋の日は既に落ちかけ、西から少しずつ夕焼けが広がってくる。
プラントを守りたいと銃を取った自分が、道を違えたとはいえ母国プラントに、何より実の父に銃を向けることができるのか…
「ザフトのアスラン・ザラか…ラクスにはわかってたのね」
ちょうどこの時、涙に濡れた眼を乱暴にこすり、「みっともないとこ見せてごめんな」と謝るカガリと別れてきたばかりのキラも、デッキに出て来た。
そして後ろから、話をしているアスランとディアッカの背中を静かに見つめていた。
「国、軍の命令に従って敵を討つ。それでいいと思ってた」
アスランはゆっくりと話し出した。
ディアッカが聞いているかどうかは気にしていなかったが、ディアッカはそんなアスランの言葉に静かに耳を傾けている。
「仕方ないって。それでこんな戦争が一日でも早く終わるならって」
すると、「おまえはクソ真面目だからな」とディアッカが笑った。
「俺はナチュラルをバカにしてたから、もうちょい不純だったけど、でも戦争は終わらせたいと思ってたよ。ユニウスの事もあったしな」
「そうね」
アスランは同意した。
「皆、初めはそうだった」
自分の国を守るのだと、その使命感に燃えて軍に入隊し、戦ったのだ。
ディアッカもまた、オーブは自分の国だと胸を張った彼女を思い出す。
「でも、私たちは本当は何と、どう戦わなくちゃいけなかったの?」
戦っても戦っても、戦争は終わらない。
ミゲルやラスティやニコルのような犠牲が増えるばかりで、戦争は勝手に育って、一人歩きして、手に負えなくなっている気がする。
アスランの問いかけに、ディアッカもまた、答えを持たなかった。
「一緒に行こうよ、アスラン、ディアッカ」
後ろから聞こえた声に、アスランとディアッカは同時に振り向いた。
「みんなで一緒に探せばいいよ。その答えを」
「キラ」
「おまえ…」
振り返った2人に、キラは明るい表情で言う。
ディアッカはふと笑うと、「それもいいんじゃないの?」と言った。
「考えるより、やってみる方がいいこともあるって言ったろ?」
アスランは少し考えてから、「そうかもね」と答えた。
「探してみよう。みんなで一緒に」
アスランの答えに、キラは満面の笑みで頷いた。
「アークエンジェルの方はどうか?」
ウズミは時間を気にしながら、アークエンジェルとクサナギの発進状況を説明させている。涙を拭ったカガリは、オペレーションルームに向かった首長たちに追いつき、複雑な操作を手伝いつつ、父の動向を見つめていた。
「現在、ブースターの最終チェック中です」
「急がせい!時はそうないぞ!」
なぜ首長たちが自らオペレーティングを行っているのか。
周囲にはもうほんの一握りの兵しかいないのはなぜなのか。
悪い予感がしていた。何か、とてつもなく悪い予感が…
「さぁ!今度こそケリにしましょう。私もそろそろ他で食事がしたいですしね」
味気のない携帯食はこりごりです、とアズラエルは包み紙をヒラヒラさせた。
「マスドライバーをいただいて、今夜はとびきりのディナーにいたしましょう」
「レーダーに機影じゃ!モビルスーツじゃな!」
先ほどからアークエンジェルと綿密なデータのやり取りをしていた年老いた首長が、敵機の飛来を伝えた。
モニターに映し出されたのは案の定、あの3機の新型だった。
もはや一刻の猶予もない。
「ラミアス殿、発進を」
ウズミが言う。
マリューは了解し、同時にまだアークエンジェルに乗り込まず、ウズミたちと共にいるキラに呼びかけた。
「キラさん?」
「発進を援護します。アークエンジェルは行ってください」
キラは追って来た新型3機を食い止めるつもりだった。
「クサナギの状況はどうですか?」
キラは続けて通信室のウズミに尋ねた。
「すぐに出す。すまん」
キラは頷き、ウズミはクサナギの発進をさらに急がせた。
アスランもキラと共に3機を迎え撃つことに異論はなかった。
「空中戦になる。バスターでは無理よ。ディアッカはアークエンジェルへ」
「しょうがないな。じゃ、宇宙で会おうぜ」
3人はそれぞれの進路へ散った。
「艦首上げ20。ローエングリン、スタンバイ」
マリューが指示を下す。
トノムラは近づいてくる機影を注意深く見守って報告を怠らず、チャンドラとサイが射出データを処理して逐一ノイマンに送る。
ミリアリアは着艦が許可されたバスターの格納フェイズを進めていた。
(せっかく開放されたのに、なんでこいつ、ザフトに戻らないの?)
「フック固定。パイロットは以降、誘導ビーコンに従ってください」
重量級のバスターが固定の衝撃で揺れ、ハンガーに姿を現す。
(そもそも戦う理由なんてないはずなのに、バッカみたい)
格納フェイズ終了の合図を了承しながらそんな事を思っていると、モニター越しに彼と眼が合い、ミリアリアは慌てて映像をオフにした。
(ホント、バッカみたい……私も…)
「親父」
数人の首長と共に、自らも発進オペレーションをこなしているウズミに、カガリがついに業を煮やして呼びかけた。ウズミは振り返らずに答える。
「おまえはいつまでグズグズしておる。早く行かぬか」
「脱出は全員でだ。皆を残しては行けない」
ウズミは手を止めた。
(気づいていたか…)
その間にもモビルスーツが接近し、距離は15まで迫っている。
フリーダム…あの少女たちも迎撃のために発進した頃だろう。
「カガリ、おまえは行かなければならん」
ウズミはそのまま黙ってカガリの腕を掴むと歩き出した。
カガリは既に父を超える力で「離せよ!」と抵抗したが、ウズミは渾身の力で押さえつけ、頑としてそれを許さなかった。
「我らには我らの役目!おまえにはおまえの役目があるのだ!」
「勝手な事を言うな!」
カガリは怒りを湛えた琥珀色の瞳で父を見つめて叫ぶ。
「皆を置いて、どうして俺だけ逃げられる!?」
「想いを継ぐ者なくば全て終わりぞ!なぜそれがわからん!」
激しく首を振るカガリに、ウズミも負けずに怒鳴り返した。
「わっ…かんねーよ!」
カガリはついに父の手を振り払った。
そして顔を背け、絞り出すような声で言った。
「…わかりたくなんかない…絶対…」
「行くぜぇ!」
カラミティを乗せたレイダーと、大鎌を構えたフォビドゥンが、マスドライバーの前に立ちはだかった赤と白の機体を目指してきた。
オルガの掛け声に、クロトもニヤニヤしながら答えた。
「仲良くお出迎えのつもりぃ?」
アスランがフリーダムより一歩前に出て構える。
「来るわ!キラ!」
「急いでください、マリューさん!」
キラは今一度発進を急ぐよう伝え、ジャスティスの横に並んだ。
やがてアークエンジェルは発射・射出準備を終え、急場しのぎに取りつけられたクサナギの予備ブースターも順調に火を噴き始めた。
「エンジン良好、進路クリアー」
ノイマンが慣れないながらも手早く操作し、カウントダウンを始める。
何しろ陽電子砲の力を借りながら射出されるという、初めての試みだ。
「ローエングリン発射準備、完了しました」
チャンドラの最終報告に、ブリッジにはそこはかとない緊張感が走った。
マリューは深呼吸をし、チラリと副操縦士席に座るフラガの背を見た。
ウズミから託された未来と共に、アークエンジェルは発進するのだ。
「撃ぇ!」
陽電子砲ローエングリンが発射され、そのすさまじいまでの力がアークエンジェルを加速させた。レールを滑り、強いGがかかる。
「チッ!」
オルガがそれに気づき、凄まじいスピードでマスドライバーを駆け上がるアークエンジェルに砲口を向けた。
しかしジャスティスがカラミティの土台となっているレイダーに襲い掛かったためバランスを崩し、砲を放つ事ができなかった。
「くっ!動くな、バカ!」
オルガの無茶な注文に、クロトも「ふざけんな」と悪態をつく。
やがて、カガリと共にクサナギに乗り込む予定のキサカが迎えに来てもなお、カガリは無言のままウズミを睨みつけていた。
「ウズミ様!」
「急げ、キサカ。このバカ息子を頼むぞ」
それを聞いたキサカもまたカガリを促したが、カガリは「俺は行かない」と怒鳴る。
「皆を…親父を置いて行けるわけないだろう!」
「置いて行くのではない」
ウズミが穏やかに言った。
「我らは同じ目的のために、別の道を行くだけだ。想いが同じなら、道は違えど、やがて同じ場所にたどり着く」
ウズミの表情は落ち着いていて、それがカガリの心を波立たせた。
覚悟を決めた者の顔だ、と思う。首長たちも皆、そんな表情をしていた。
「別の道だと!?」
違う、とカガリは首を振った。
「それは…そんなの、ただの諦めだ!死はすべてを終わらせてしまうだけだ!」
「たとえ永遠の別れとなっても…想いが引き継がれる限り、我らは共にある」
ウズミはカガリの言葉を聞いても、心を乱すことも表情を崩すこともない。
「誰かが…おまえが継いでくれるなら、想いは決して滅びはしないのだ」
カガリは顔を歪めた。納得なんかしたくない。
納得したら、覚悟を決めている父との別れを受け入れる事になる。
「そんな顔をするな。オーブの獅子の子が」
ウズミはカガリの肩を叩く。
そしてその背の高さにふと微笑んだ。
(いつの間にかこんなに大きくなった…)
「俺は…っ!」
わかっている…ここで足掻いても父の決心は揺るがないことくらい。
けれどカガリは、どうしても足掻かずにはいられない。
これが今まさに終わろうとする、彼の少年時代最後のわがままだった。
「父とは別れるが、おまえは1人ではない」
やがてウズミは、1枚の写真をカガリに渡しながら告げた。
「『きょうだい』もおる」
「な?…う…!?」
そこには、見知らぬ女性に抱かれたそっくりな赤ん坊が2人映っている。
1人は柔らかそうな茶色い髪、そして1人は自分のような黄金色の髪。
カガリの胸が早打ち、何かヒントがないかと裏面を見る。
そこには「KIRA CAGALLI」と書かれていて思わず絶句した。
ウズミは頷き、そしてもう一度カガリの肩を叩いた。
「ええい!」
キラはアスランの援護により、3機をロックオンしてフルバーストを放つ。
アスランはレイダーの軌道を読み、下に回りこんでケルフスを放った。
レイダーが安定しないおかげで射線が取れないオルガが罵るが、こればかりはどうしようもない。
(あの赤い野郎、ちょろちょろと邪魔しやがって!)
クロトはもうブチ切れそうだった。
発進シークエンスに入ったクサナギの前で、ウズミはカガリに別れを告げた。
「そなたの父で…幸せであったよ」
「…」
カガリはもう何も言えず、ただ父を見つめているだけだった。
(もっともっと、教わりたい事があった。殴られても、怒鳴られても、2度と会えないよりはずっといい…)
絶対に眼を逸らさない。
父の姿を忘れぬように。
雄雄しく気高い、オーブの獅子の姿を。
やがて彼はただ一言、何も知らず、幸せだった子供の頃のように呟いた。
「…父…さん…」
その言葉を聞いたウズミは、優しく微笑んだ。けれどすぐに指導者の顔に戻って忠実な部下に命じた。
「行け、キサカ!頼んだぞ」
ドアが閉まり、父と子は永遠の別れを迎えた。
「リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムズ、ゴー。クサナギ、ファイナルシークエンススタート」
誰もいなくなった司令室で、クサナギの最後のオペレーションを終えた首長は、椅子にもたれてふぅと深いため息を吐いた。
(これで不甲斐ない年寄りの役目は終わったわい…)
あとは愛する母国と運命を共にするだけだ。彼は眼を閉じ、思いを馳せた。
まだ幼いカガリ様…そして、あの艦に乗った若者たちに全てを託すのは酷というものだが、滅亡を目の前にした今はこれしか方法がなかった。
彼はオーブ国民なら皆、子供の頃から慣れ親しんだ地母神の名を呟いた。
「全ての者たちに、ハウメアの護りがあらんことを」
「ん?」
今度はシャニがクサナギの発進に気づいて顔を上げた。
「おいおいおいおい!」
チンタラやってる間にまた出ちまっただろうが!とオルガが怒鳴る。
フリーダムは彼らを威嚇すると、くるりと反転してクサナギへと向かう。
アスランは新型の追撃を振り切るためライフルを放ってから後を追った。
マスドライバーを駆け上がるクサナギに追いついたフリーダムは、左舷後方に足場を見つけ、加速して速度を合わせてから着艦した。しかし後に続いたジャスティスは、さらに加速したクサナギにあと一歩、届きそうで届かない。
「アスラン!」
キラはフリーダムのマニピュレーターを精一杯伸ばした。
アスランは最大限に加速した。もう少し…ジャスティスも腕を伸ばす。
(届け!)
ジャスティスとの距離は縮まらないが、キラは諦めない。
(私は絶対に、アスランを置いてはいかない!!)
やがてフリーダムがジャスティスの手を掴む。
最後の加速と共にフリーダムに引っ張られ、ジャスティスも無事着艦した。
「くっそー!」
オルガがバズーカを構え、クサナギのデッキに取り付いた2機に向けた。
こうなったらもう、狙いが定まらなくてもいい。
(あいつら、ぶっ殺してやる!)
「落ちろぉ!!」
怒り狂うクロトもめったやたらと機関銃を撃ちまくった。
シャニが放つフレスベルグを、フリーダムとジャスティスがシールドで防ぐ。
キラがバインダーのバラエーナを起こし、クスィフィアスを構える。
アスランもまたリフターユニットを展開し、フォルティスビームを前方に稼動した。フリーダムの砲門とファトゥム00の全砲門が3機を捉える。
2人が持てる力を同時に放つと、追いすがる3機はその威力にひるみ、減速して彼方へと置き去られた。
フリーダムとジャスティスは砲門をたたみ、クサナギはそのまま加速してオーブの大空へと、その先に広がる暗い宇宙へと飛び立っていった。
「種は飛んだ」
モニターに映し出されるクサナギを見守っていたウズミは呟いた。
これでよい…ウズミは最後に愛する息子を想い、小さく微笑んだ。
そして一つのボタンに指をかける。
「オーブも、世界も、奴らのいいようにはさせん!」
やがて役目を終えた司令本部とマスドライバーが大爆発を起こし、倒壊する。
「ああっ!?」
崩れていくマスドライバーを見て、アズラエルは思わず身を乗り出した。
司令官も激しい炎と煙りを目視し、驚きを隠せない。
(この期に及んで自爆だと!?バカな…!)
「くっ…」
あと一歩まで追い詰めながら、最後の最後に舐めたマネを…アスラエルはギリギリと歯を食いしばる。
「オーブめ…アスハめ!」
キラもアスランも自分たちの後方で何が起きたのかを悟った。
この瞬間、オーブという名の国が地上から完全に失われたのだ。
(ウズミさん…)
キラは揺ぎない信念に散った人を想い、眼を閉じる。
アスランもまた、ナチュラルとコーディネイターの間に立ちながら、どちらにつく事も選ばず、中道の信念を貫いた彼の姿を思い浮かべた。
クサナギのカガリもまた、モニターに映る父の壮絶な最期に声もなかった。
キサカが主君を想い、最敬礼した後、眼をそむける。
傷ついた右手で、カガリは座っているシートの肘を殴りつけた。
再び傷が開いて血が流れたが、その痛みが今はカガリの心を保たせた。
「親父…」
―― あんたの息子で、俺も幸せだった…
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制作裏話-PHASE40-
PHASE1が炎の中に立ち上がるガンダム、このPHASEは炎の中で死を迎えるウズミ・ナラ・アスハという、SEEDのテーマの一つを対比させた、恐らくSEEDで一番盛り上がった話です(この後は残念ながら盛り下がるばかりで…)
後述の「カガリを泣かせない」ポリシーにより「お父様、お父様ぁ!」は一切なくしましたし、凄まじいGを受けるのに「立ったままかよ!」という無理やりビジュアルもなくしました。
BGMはやはり「暁の車」で、EDはこの回から名曲「FIND AWAY」ですね、
基本的な部分はぶれていませんが、大幅に改変を加えたのはカガリとウズミの別れに関わる部分です。
そして何より、逆転SEEDを書くと決めた時、必ず書く!と決めていたのが、カガリが祖国の惨状に泣き崩れるシーンでした。
とにかく、本編とは違ってカガリをメソメソ泣かせたくない。何しろ本編のカガリはメソメソべそべそ泣くばかりで、それでもまだSEEDのうちはいいけど、代表になってからのDESTINYでまでそれでは…と思わせ、全く意味不明の結婚なんぞをしようとし、結果的にはなーんの成長もしないまま国に戻り、ただ偉そうな態度を取っただけ(あんなものが成長か!)で成長したように「見せる」なんて、許せないじゃない!?と思っていたからです。
だから逆種・逆デス通じて、絶対にカガリを泣かせないと決めていました。少年カガリは、ウズミが死んだ時でさえ涙をぐっとこらえて泣きません。
彼が100話を通して泣くのはたった一回だけ。(あくまでも描写上泣いたのは、です。実際にはもう一回だけ泣きます)
それこそがこの、「オーブが侵され、失われる時」です。
その姿があればこそ、逆デスでシンの怒りと苦しみを受け止めるキャラクターになり得ると思うからです。
このシーンは書きたかっただけあって気に入っています。
この時点ではカガリがキラと共に泣くのも自然だと思いますし、
同じく街を焼かれ、心を挫かれたタッシルの人々同様、PHASE18で使った「ペイバック」という言葉も再利用しました。あの時点でカガリが「もし自分の国が…」と想像したのも、いずれ現実になるという伏線です。
あ、ついでに「ウロボロス」も再利用してみました。
イザークもパナマ以来、ずっとこの戦争の意味を考えていくからです。後のディアッカとの再会、さらにフレイとの関わりにより、彼もきちんと成長していきます。
それ以外にもこのPHASEではいくつか伏線を回収しています。PHASE34でキラが「アスランに友達だと伝えたい」と言ったこと、PHASE38でミリアリアが「オーブは私の国」と言ったこと、パナマに立ち寄ったアスランがオーブに向かったのではとイザークが思うことなどです。オーブは世界に許されなかったのかとカガリが言うあたりも、PHASE37でキラとカガリが話している内容ですしね。
逆に新たな伏線も張っています。「鍵」と、いよいよ出てきたアスランの「何と戦うのか」という疑問です。キラが後に自分の出生の秘密を知った時、オーブが許されなかったように自分も許されないのか、と嘆くのも、カガリが言った言葉が伏線になっていますね。
また、別の道とは死ではないかと怒るカガリもそうです。彼が最終回で死を選ぼうとしたアスランに「逃げるな!」と言ったのは、どこかで「死=逃げる事」と認識しているからです。
このズレがあるため、親子の会話はかなり尺を増やしました。こうした父へのわずかな反発があるからこそ、逆デスのカガリはウズミの影響を色濃く受けながらも、自分なりの「王道」を、「闘うべき時は恐れず戦う」路線を見つけ出していきます。アスラン同様、まだかなり先ですけどね。
本編以上に会話を多くしてディアッカとアスランの関係が修復されていったり(一緒に行こうと誘う時のキラもちゃんとディアッカの名前を呼ぶし)、ついつい彼を意識するミリアリアも随所に入れています。
後述の「カガリを泣かせない」ポリシーにより「お父様、お父様ぁ!」は一切なくしましたし、凄まじいGを受けるのに「立ったままかよ!」という無理やりビジュアルもなくしました。
BGMはやはり「暁の車」で、EDはこの回から名曲「FIND AWAY」ですね、
基本的な部分はぶれていませんが、大幅に改変を加えたのはカガリとウズミの別れに関わる部分です。
そして何より、逆転SEEDを書くと決めた時、必ず書く!と決めていたのが、カガリが祖国の惨状に泣き崩れるシーンでした。
とにかく、本編とは違ってカガリをメソメソ泣かせたくない。何しろ本編のカガリはメソメソべそべそ泣くばかりで、それでもまだSEEDのうちはいいけど、代表になってからのDESTINYでまでそれでは…と思わせ、全く意味不明の結婚なんぞをしようとし、結果的にはなーんの成長もしないまま国に戻り、ただ偉そうな態度を取っただけ(あんなものが成長か!)で成長したように「見せる」なんて、許せないじゃない!?と思っていたからです。
だから逆種・逆デス通じて、絶対にカガリを泣かせないと決めていました。少年カガリは、ウズミが死んだ時でさえ涙をぐっとこらえて泣きません。
彼が100話を通して泣くのはたった一回だけ。(あくまでも描写上泣いたのは、です。実際にはもう一回だけ泣きます)
それこそがこの、「オーブが侵され、失われる時」です。
その姿があればこそ、逆デスでシンの怒りと苦しみを受け止めるキャラクターになり得ると思うからです。
このシーンは書きたかっただけあって気に入っています。
この時点ではカガリがキラと共に泣くのも自然だと思いますし、
同じく街を焼かれ、心を挫かれたタッシルの人々同様、PHASE18で使った「ペイバック」という言葉も再利用しました。あの時点でカガリが「もし自分の国が…」と想像したのも、いずれ現実になるという伏線です。
あ、ついでに「ウロボロス」も再利用してみました。
イザークもパナマ以来、ずっとこの戦争の意味を考えていくからです。後のディアッカとの再会、さらにフレイとの関わりにより、彼もきちんと成長していきます。
それ以外にもこのPHASEではいくつか伏線を回収しています。PHASE34でキラが「アスランに友達だと伝えたい」と言ったこと、PHASE38でミリアリアが「オーブは私の国」と言ったこと、パナマに立ち寄ったアスランがオーブに向かったのではとイザークが思うことなどです。オーブは世界に許されなかったのかとカガリが言うあたりも、PHASE37でキラとカガリが話している内容ですしね。
逆に新たな伏線も張っています。「鍵」と、いよいよ出てきたアスランの「何と戦うのか」という疑問です。キラが後に自分の出生の秘密を知った時、オーブが許されなかったように自分も許されないのか、と嘆くのも、カガリが言った言葉が伏線になっていますね。
また、別の道とは死ではないかと怒るカガリもそうです。彼が最終回で死を選ぼうとしたアスランに「逃げるな!」と言ったのは、どこかで「死=逃げる事」と認識しているからです。
このズレがあるため、親子の会話はかなり尺を増やしました。こうした父へのわずかな反発があるからこそ、逆デスのカガリはウズミの影響を色濃く受けながらも、自分なりの「王道」を、「闘うべき時は恐れず戦う」路線を見つけ出していきます。アスラン同様、まだかなり先ですけどね。
本編以上に会話を多くしてディアッカとアスランの関係が修復されていったり(一緒に行こうと誘う時のキラもちゃんとディアッカの名前を呼ぶし)、ついつい彼を意識するミリアリアも随所に入れています。