Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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一番楽しかったのは、泣きながら命乞いをする子供を優しく殺す時。
一番気持ちがよかったのは、下に組み敷いた女をじわじわと殺す時。
自分より弱いものなら何でもよかった。犬でも猫でも鳥でも…人でも。
(血が噴き出し、涙でぐじゃぐじゃになった顔が青くなったり紫になったりして…)
でも動かなくなると、つまらなかった。退屈を埋めるために、次の犠牲を求めた。
クロトは苦しみにのた打ち回りながら、床をずるずると這いずり廻った。
(死ぬのはイヤだ…怖い…誰か…助けて…!)
一番気持ちがよかったのは、下に組み敷いた女をじわじわと殺す時。
自分より弱いものなら何でもよかった。犬でも猫でも鳥でも…人でも。
(血が噴き出し、涙でぐじゃぐじゃになった顔が青くなったり紫になったりして…)
でも動かなくなると、つまらなかった。退屈を埋めるために、次の犠牲を求めた。
クロトは苦しみにのた打ち回りながら、床をずるずると這いずり廻った。
(死ぬのはイヤだ…怖い…誰か…助けて…!)
因縁のスレッジハマーが襲い掛かってきたが、フリーダムはレイダーに捕らえられており、自由に動けない。
このまま攻撃を受けても問題はない。
あの時のスレッジハマーは、ストライクのエネルギーを大幅に削ったが、PS装甲を破壊する事はできなかった。フリーダムには脅威ですらない。
ただし、ナタルは「破壊」ではなく「鹵獲」を狙っている。
攻撃を甘んじて受ける事は、相手のアドバンテージを上げてしまう。油断は禁物だった。
キラはすぅ、と深く息を吸った。
(落ち着け…熱くなってはダメだ…)
その直後、心と体がキンと響くほど冷たくなる。
全身の神経を集中させ、キラの中の感覚が目覚めていった。
キラは凄まじい速さで全てのミサイルをロックした。
マニピュレーターが自由にならず、ライフルは持てないが、バラエーナとクスィフィアスはこのままでも起動させられる。
アグニで全てのミサイルを視認で捉えた時よりたやすい…今のキラには、全てが見えなくても、全てが視えていた。
スレッジハマーがことごとく爆破され、爆炎がフリーダムを隠したが、クロトはミョルニルを思い切り引くとフリーダムを引きずり出した。
「そら!!滅殺!!」
キラはミョルニルを引っぱり返し、レイダーとの力比べを受けて立つ。
無限のパワーを持つフリーダムのスラスターが大きくうなり始めた。
(たまには役に立つじゃねぇか)
拮抗する両者を見て、オルガはほくそ笑んだ。
「ボディが残ってりゃいいんだろ!?」
カラミティはフリーダムに体当たりをかまし、「喰らいな!」と笑いながらスキュラを放った。キラはボディを捻ってそれを避けると、カラミティを蹴り飛ばした。しかしその力技の抵抗が災いし、ミョルニルを引き絞ったレイダーにフリーダムは引っ張られ、大きくバランスを崩してしまった。
「そらぁ!!」
「くっ…!!」
体勢を立て直したオルガも、再びフリーダムに襲い掛かる。
「舐めやがって!」
アスランはワイヤーを外す事に手間取るクサナギからフォビドゥンを引き離していた。シャニはニーズヘグを振るい、フレスベルグを放つ。
彼の攻撃は単調だが、とにかくしつこくて、アスランも辟易していた。
(クサナギもそろそろ動けるようになる)
アスランはチラリと後方のブリッジに眼を向けた。
ここまで敵をひきつければ安全なはずだ…そこにいるはずのカガリを思い浮かべ、それから再びレーダーに眼を戻して戦う友の機影を見た。
(今はとにかく、キラを援護しなければ)
扱いに慣れてきたハルバートを素早く動かし、フォビドゥンにダメージを食らわせると、それを再び分けてマウントした。そして素早くブーメランを抜くとフォビドゥンに投げつける。フォビドゥンはシールドで避けたが、その時既に懐に飛び込んできていたジャスティスに、シールドごと体当たりされ、しまいには蹴り飛ばされた。
「どけ!クロト!」
オルガは再びフリーダムに近づいた。
捉えられ、バランスを崩しているフリーダムを見て目は血走り、嗜虐的な悦びで笑い出さんばかりの顔で、複列位相エネルギー砲の照準を合わせる。
(こいつ、俺のスキュラが嫌いなようだからな…)
「ぶち込んでやるぜぇ!白いの!」
カラミティの胸部にある砲口が熱を放ち出したので、クロトは慌ててフリーダムを捉えているミョルニルを持ったまま、安全地帯まで後退した。
「ちっ、ぶっ壊すと怒られるぞ!」
フォビドゥンを振り払って急いで駆けつけたアスランが見たのは、レイダーに捉えられ、カラミティにロックされたフリーダムだった。
「これでぇ!!」
「…!しまっ…」
(キラ…!)
その瞬間、アスランの視界が突然弾けた。
背中から肩口が冷え切って、ゾクリと悪寒が走る。
アスランは無意識にジャスティスのシフトを限界まで入れた。
スローモーションのようにスキュラの砲口が開くのが見える。
ジャスティスはスピードを上げて両者に近づくと、キラを狙うカラミティではなく、フリーダムに力一杯体当たりを喰らわせた。
「…うぅ…わっ!!!」
キラは驚き、勢いでミョルニルが外れたフリーダムは彼方へと吹っ飛んだ。
「何!?なんで…」
オルガが標的が入れ替わった事に驚く間もなく、アスランはシールドを構えてカラミティのチェストに押し当てた。ほぼ同時にスキュラが放たれると、ジャスティスがその威力に力負けし、機体がじりじりと下がっていく。
「く……!」
アスランはせわしなく手元のスイッチを入れ、エンジンの回転を上げた。
噴射される本体とファトゥムのスラスターが爆発しそうな音を立てている。
キラはその凄まじさに声も出ない。
アークエンジェルのマリューも、フリーダムが呆然とする姿を見て、いつの間にかジャスティスが加勢に来ていたことを知った。
クサナギでこの様子を見ていたカガリも、その戦い方に驚いて「あのバカ!何やってる!」と悪態をつき、思わず身を乗り出した。
しかしこのあまりの力技には、カラミティの方が悲鳴を上げた。
逃げ場を失ったビームが、内部からトランスフェイズ装甲を破壊したのだ。
「ぐっ…!」
そのすさまじい衝撃に思わずオルガが下がる。
アスランもまた表面が破壊されたシールドを下ろして退いた。
「アスラン!」
「大丈夫」
アスランはほっと息をつき、ダメージを確かめつつ、冷静に答える。
なんてムチャを…キラは今さらながらアスランの戦い方は怖いと思った。
余裕を持って戦う時は華麗なのに、時に自分の犠牲も厭わないなんて…
「ああ、惜しい!」
アズラエルはまるで試合でも見ているように両手を挙げる。
「何やっているんです?ほら、ドンドン撃ってくださいよ」
「この状況では友軍機にあたります」
ナタルは新型を避けて攻撃するデメリットを計算していた。
「当たったって大丈夫ですよ。トランスフェイズ装甲なんだから」
その言葉に聞き覚えがあり、ナタルはいささか複雑な気持ちになる。
(あの時、同じように抗議したのはトノムラだったな)
「アークエンジェル接近!」
やがて突っ込んできたマリューは、先ほどのお返しとばかり主砲を構えていた。
「ゴットフリート照準、撃ぇ!」
「回避!」
ナタルは落ち着いて命じ、ドミニオンとアークエンジェルがすれ違う。
自分と同じ場所にいるはずの女を、互いに強く意識しながら。
「ん?おい、なんだ?」
メンデルの港口で待機中のエターナルで、バルトフェルドはアークエンジェルを守るストライクが戻った事に驚いたが、ストライクはそのままメンデル内部へ消えていった。呆気に取られていると、今度はバスターがやってきた。
「おい、エルスマン!」
バルトフェルドがかつての部下を呼ぶと、ディアッカは困惑したように答えた。
「何があった?フラガは!?」
「ザフトがいるって言うんだ、あいつが!」
そう答えながらディアッカは、電波状況がひどく悪いこの一帯でストライクを見失わないよう、レーダー画面から眼を放さなかった。
「ザフトだと?どこに!?」
「ともかく、確認してくる。マジだったらヤバい」
ディアッカはそう言うと、そのままストライクを追った。
「反対側の港口か…」
バルトフェルドはメンデルの地図を開いて確認した。
「エターナルはとにかく発進を急ごう。騒いでも動けないんじゃ、任せるしかないからね」
「ごもっとも…ダコスタ!」
同じく彼らの様子を見ていたラクスがバルトフェルドに告げると、 赤毛の副官はオペレーターと調整中の機関室を急がせた。
周囲を警戒しながら、イザークは荒廃した土地を見つめていた。
(バイオハザードを起こしたというコロニー、メンデル…ここで昔、一体何があったというんだ?)
「ふふ」
イザークの困惑を知って知らずか、既にフラガが来た事を感知したクルーゼは心を躍らせていた。
「来るぞ!」
クルーゼとフラガが同時に叫ぶと、次の瞬間、飛び出してきたストライクとバスター、デュエルとゲイツが砂嵐の中で相見えた。
イザークとディアッカは互いの機体を見て息を呑んだ。
「ストライク!…バスター!?」
イザークは困惑と驚きのあまり叫んだ。
「…デュエル!」
ディアッカが最悪の再会に呻いた。
(くそっ、なんでこんなトコに…イザーク!)
「ほぉ?今度はきさまがそれのパイロットか、ムウ・ラ・フラガ!」
クルーゼはビームクローを展開し、ストライクに向かった。
「新型か!くっ!この装備じゃ…」
フラガは下がり、ガンランチャーを放った。
「このぉ!」
傷つけられ、押し返されたオルガの怒りはジャスティスに向かった。
シュラークを連射するが、ジャスティスは大きく弧を描いて回避した。
一方レイダーはMS形態でフリーダムに近づき、一撃必殺を狙う。
「これで!」
しかしクローを伸ばした瞬間、クロトもオルガも殺気を感じて振り返った。
その途端、彼らのすぐ近くをビームが掠める。
「おまえ!おまえ!おまえぇぇ!!」
振り返ると、アスランに無視され、置いてきぼりになっていたフォビドゥンがフレスベルグを撃ちまくっていた。無論ゲシュマイディヒパンツァーを展開しているのでビームは曲がるのだが、ジャスティスとの戦いで破損したのか、片側の偏向率の調子が悪い。それがむしろランダムな角度で曲がるので、友軍のオルガやクロトもうかうかしていられなかった。
オルガは連射されるプラズマ砲を避けるため仕方なく退く羽目になり、 「シャニ!」と怒鳴ると、我を忘れていたシャニはその声に反応して動きを止めた。
「何やってんだ、バーカ!」
そんな2人を見ながら、レイダーが呆れて離脱していく。
「いい加減にしろ、シャニ!」
「…だって、あいつが!」
シャニは子供のようにオルガに訴えた。
(俺を置いてった…俺を蹴って置いてった…)
「置いてったんだぁ!!」
「バカ、落ち着け!」
オルガはフォビドゥンの前に腕を突き出して止めると悪態をついた。
シャニの精神状態が悪い上、自分のパワーもそろそろヤバい。
「くそっ…」
彼らの無謀な攻撃を眼にしたアスランは、呆れたように呟いた。
「めちゃくちゃだわ、あいつ…」
「すみません、手間取って」
「いや、こちらこそすまん」
ようやくワイヤーを外し終えたアサギがキサカに通信を入れると、自由になったクサナギには改めて発進命令が下された。
「推力最大。ドミニオンを追う」
「もう引っかけんなよ!」
副操縦士席に座ったカガリは、恐縮するパイロットに発破をかけた。
アークエンジェルとドミニオンは未だ交戦中だった。
マリューはヘルダート、ナタルはバリアントを放ち、互いにここぞというところでゴットフリートを撃った。だがまるで鏡に映った自分と戦うように、両者の力はまさに同等であり、決着がつかない。
いや、ナタルの戦術がマリューを上回る分、一方でノイマンの操艦術がドミニオンのそれを凌駕しているからこそ、両者の力はかろうじて拮抗しているのかもしれなかった。しかし厳しい実戦を重ね、死闘を勝ち残ったアークエンジェルの方が兵の練度が上である事も明らかだ。
「距離20、オレンジ15マーク1アルファにオーブ、イズモ級。接近してきます」
決着のつかない彼らの状況を打破せんと、クサナギが距離を縮めてきた。
「あらら?自由になっちゃったか」
アズラエルが額を叩いて残念がると、キサカは主砲を起動させて命じた。
「ゴットフリート、1番2番、撃ぇ!」
(これで相手の主砲は四門になった…)
ナタルはクサナギの参戦を見て、即座に戦況と戦力を分析し、主砲の回避を命じると同時に、パイロットには撤退を命じた。
「ええ!?」
驚いたのはアズラエルだ。
「あんなオンボロ艦の参戦ぐらいで、何を言ってるんです?」
「状況は既にこちらに不利です」
ナタルはアズラエルには構わず、「モビルスーツを呼び戻せ」と命じていた。
「ここまで追い詰めたのに?」
「3機のパワーもそろそろ危険です。撤収せねば、敗退しますよ?」
(だからあの機体を鹵獲しろと言ったのに…)
アズラエルはむすっと口を屁の字に曲げて苛立ちを隠せなかった。
「そう言うからには、今退けば次は勝てるんでしょうねぇ」
意地悪そうに尋ねるアズラエルの眼にひるむことなく、ナタルは返した。
「ここで戦死されたいので?」
アズラエルはその冷たい眼に降参し、白旗の代わりに手を振った。
一方、メンデルではそれぞれ因縁のある者同士が戦っていた。
「きさまっ!よくも…ディアッカの機体で!」
デュエルはシヴァを放ち、さらにサーベルを抜いて懐に飛び込む隙を狙う。
ディアッカはひたすら防戦一方だが、遠距離支援型のバスターには元々シールドが装備されていないので、イザークが好むショートレンジに持ち込まれると厄介だ。相手もこちらの弱点はよく知っている。
「イザーク…!」
自分が乗っているとは知らないゆえに、イザークの攻撃は容赦がない。
(ちくしょう…こいつに反撃なんてできねぇし…)
手が出せないディアッカは苦戦し、同時に苦悩していた。
「ここでこうして貴様と戦えるとはな!」
初めてビーム兵器を搭載したと自慢した整備員の言葉どおり、ゲイツは中距離からはライフル、近距離ではクローを展開してストライクを翻弄した。
実戦を重ねたとはいえ、宇宙戦は初めてのフラガは完全に押されていた。
「くっ…ラウ・ル・クルーゼ!」
「私も嬉しいよ、ムウ」
「バカ野郎!嬉しいもんか!」
フラガはランチャーとバルカンのコンボで応戦しながら、悪態をついた。
「バリアント、撃ぇ!」
遅まきながらクサナギの援護によって息を吹き返したアークエンジェルは、ここで一気にドミニオンを押し戻そうと巻き返しをはかっていた。
撤退を決めたドミニオンはこれを避けきれず、艦体に激しい衝撃が走る。
ラミネート装甲にダメージはないが、油断すると今度は後方に控えたクサナギのゴットフリートが火を噴いた。2対1では完全に不利だ。
「信号弾、撃て!面舵10、戦闘宙域を離脱する」
ナタルはついに離脱命令を下した。
クロトがそれを見て舌打ちし、オルガも「タイムアップかよ!」と言いながら、構えていたバズーカを肩に担いだ。
「みたいだね、ふん!」
クロトも帰還に備えてMS形態に変形し、離脱を始める。
しかしシャニは相変わらずしつこくジャスティスに向かっていた。
「この!この!このぉ!!」
大鎌の乱打をシールドで受け流していたアスランも力で押し返す。
「く…このっ…!」
再び向かってくるフォビドゥンを避けるアスランの眼にも敵軍の信号弾は見えているのだが、シャニはそれすら気づいていないようで、全く退く気がない。そんな2機の間にカラミティが割って入った。
「シャニ!」
「撤退命令だ、バーカ!」
クロトはMS形態で旋回しながらそう言い残し、先に飛び去った。
「でも!だって!あいつ!」
止めるカラミティの腕に掴まりながら、それでもまだジャスティスを諦めきれないシャニは、まるで子供のように駄々をこねている。
「今は退くんだよ!また苦しい思いをしたいのか!?」
「う…」
オルガが叱り飛ばすと、シャニはようやくおとなしくなった。
(あいつ、どうせまた俺たちへの薬の投与を遅らせるに違いない)
ことに薬への依存が強いシャニの苦しみは、死にも相当するはずだ。
オルガは自分たちへの投与量が増えていることに気づいていた。
「行くぞ!」
カラミティはフォビドゥンを伴って退く。
(俺たちは、いずれ薬がなきゃどうしようもなくなる…)
ジャスティスを一瞥し、オルガはポツリと呟いた。
「…それでもいいさ」
くだらねーこの世界に生きる、くだらねー連中を、できる限り殺して殺して殺しまくって…俺が死ぬまでは、生きてやる…!
「流石に引き際も見事ね」
去っていくドミニオンを見て、マリューや ノイマン、ブリッジのクルーは全員がほーっとため息をついた。誰もがぐったりと疲れきっていた。
「ヤマトがいるのに、たった1艦にここまで追い詰められるって…」
「さすがは…ってとこだよな」
トノムラが弱音を吐き、チャンドラも汗で曇ったメガネを拭いた。
そしてノイマンはただ黙ってドミニオンの艦影を見つめていた。
「キラ!」
ナタルを想い、彼女が乗るドミニオンを見送ったキラをアスランが呼んだ。
「あ、アスラン…大丈夫?」
「ええ」
アスランは不審な新型のパイロットたちを気にしていた。
「うん。オーブの時も感じたけど…」
「ちょっと、正規軍とは思えないわね」
撤退命令無視、同士討ちも辞さない攻撃、勝手な戦線離脱、民間人への攻撃…エリートの証である赤服をまとうアスランからすれば、ザフトであれ地球軍であれ、軍人にあるまじき行動をする者は許し難いものがあった。
「それに、ナチュラルでもないみたいだ」
(彼らは、まるで…そう、それこそバーサーカーのようだ)
自分がかつて気にしていた「バーサーカー」は、本当は興奮剤や薬物を使って恐怖心や痛覚を失わせ、戦いに臨んだ大昔の戦士だと、フラガが後で教えてくれた。ナチュラルがコーディネイターに対抗するには、もしかしたら本当にそんなものの助けが必要なのかもしれない。
キラはそんなことを考えながら、「まさかね…」と呟いた。
(人間は戦うための道具なんかじゃない。ナチュラルも、コーディネイターも)
そしてアスランに続き、機体をメンデルヘと向けた。
戦闘が終了したアークエンジェルに、エターナルから通信が入った。
「おい!フラガとエルスマンから連絡は?」
マリューはそういえば…と、いつの間にかいなくなったストライクとバスターに今さらながらに気づいてブリッジクルーと顔を見合わせていた。
「くっそー!」
フラガは飛び回るゲイツをイーゲルシュテルンで追っていた。
何しろストライクにはヘリオポリス崩壊のきっかけを作った前科があるので、いくら無人のコロニーとはいえアグニは使いたくなかった。
「ふん…なかなかやるじゃないか」
「貴様、今日こそ!」
しかし手持ちは既に出し尽くしている。
むしろヤツに「生かされている」感がありありだ。
「ディアッカ!ディアッカ!少佐!」
ミリアリアは2人の名前を呼び続けているが、応答がない。
「ダメです。コロニー内部に通信が届きません!」
(ザフトがいる、って…あいつ、そう言ってたって…)
ミリアリアは言い知れぬ不安で心をざわめかせた。
(あんたの無事なんか祈らない。祈らないからね、絶対…)
強気な想いとは裏腹に、ミリアリアの表情には焦りの色が見えていた。
(…だって、きっと帰ってくる…あいつの図々しさは折り紙つきだもん!)
「このナチュラルが!」
サーベルを振りかざすデュエルがバスターを襲った。
ディアッカは恐れもせず飛び込んでくるデュエルのビームに触れないよう気をつけながら、その手元をマニピュレーターで弾いてはかわしている。
しかしいかんせん戦い方の相性が悪い。
離脱を試みようとすればイザークはライフルで狙ってしつこく食い下がった。
「貴様なんぞに!」
(ダメだ…逃げ切れない…)
たとえミサイルポッドでも、デュエルに傷を与えるのは本意ではない。
イザークを傷つけずに距離を取り続ける事は、自分の技量では無理だと判断したディアッカは腹をくくり、忘れもしないクルーゼ隊のチャンネルに合わせると、一呼吸置き、それから友の名を呼んだ。
「イザーク!」
「…は!?」
その声を聞いたデュエルが動きを止める。
「俺だ!剣を引いてくれ!」
(まさか、そんな…貴様…)
「ディアッカ…!?」
メンデルでは、事情を知ったキラとアスランが艦長たちと話していた。
フラガを案じるマリューに、キラは言う。
「私が行きます。みんなは今のうちに、補給と整備を」
「ジャスティスも問題ない。私も行くわ」
「ううん」
それを聞いたキラは首を振った。
「ドミニオンもまだ完全に引き揚げたわけじゃないから、アスランはこっちに残って」
「でも…」
不服そうに口を開きかけたアスランに、キラは言った。
「今はM1しかいないから。さすがにそれじゃまずいでしょ?」
「それは…確かにそうだけど」
「大丈夫。アスランみたいなあんな無茶はしないよ」
キラは笑ってアスランの背中を叩くと、フリーダムに乗り込んだ。
「アスラン」
渋々キラを見送ったアスランに、ラクスがモニターから声をかけた。
「僕たちは、今ここで討たれるわけにはいかないんだ」
わかってる…アスランは呟く。
(わかってるわ、そんな事)
「ディアッカ…本当に貴様なのか?」
デュエルは攻撃の手を止め、イザークは上ずった声で聞いた。
「ああ、そうさ」
ディアッカは答えた。
確かに、この聞き覚えのある声はディアッカだ。
しかし動揺した心をうまく隠せない自分と違い、やけに落ち着いたその声に、イザークは事態の把握ができず、軽く混乱していた。
「それがなぜ、ストライクと共にいる!?どういうことだ、貴様!」
宿敵ストライク…ニコルを殺し、アスランが倒したはずのヤツと!
ディアッカはただ黙ってイザークの言う事を聞いていた。
「…生きていてくれたのは、嬉しい…」
その時、イザークは少し小さな声でポツリと言った。
垣間見えた本音に、友情が見えた。
しかし次の瞬間、彼の声は軍人としてのそれに戻っていた。
「…が!事と次第によっては、貴様でも許さんぞ!」
デュエルがバスターに向けてライフルを構えた。
「イザーク…」
ディアッカは彼の複雑な胸のうちを慮り、言葉が続かなかった。
ニコルが、俺が、アスランがいなくなり、一人で残されたイザークは、一体何を考えて、どんな気持ちで今日まで戦い続けてきたんだろう。
(俺はこいつに、何と声をかければいいんだ?)
その時、最悪のタイミングでフリーダムが現れた。
(あれはバスターと…デュエル…!?)
「ディアッカ!」
キラはバスターに向けてライフルを構えているデュエルを見て、ディアッカが攻撃を受けていると思い、素早くラケルタを抜いた。
「キラ!待て!」
ディアッカはそれに気づくと、デュエルを庇おうと前に飛び出した。
(あれは!?)
イザークもまた、アラスカで出会ったフリーダムに気づいた。
ラクス・クラインによって奪取された新型と、俺を殺さなかった女パイロット。
(それが、今はディアッカと共にいる?)
イザークの心にふつふつと怒りが湧き起こる。
何に対しての怒りなのか、イザーク自身にもわからない。
イザークは黙ってライフルをマウントすると、サーベルを抜いてバスターの頭を飛び越え、フリーダムに向かって加速した。
「貴様っ!!」
両者がいざ討ち合わんとした時、バスターが間に入った。
「やめろ、イザーク!キラも!」
「うっ!」
キラはその声に慌てて機体を止める。
慣性で機体がバスターに当たったが、ディアッカはスラスター操作でフリーダムの推進力を散らすと、機体を上手に受け止めて言った。
「こいつは俺に任せてくれ」
「いいんですか?」
ディアッカはデュエルを見ながら答える。彼らの機体が至近距離にあるため、イザークにも2人の会話がおぼろげながら聞こえてきた。
「ああ」
キラはまだ少し心配だったが、モニターの向こうのディアッカが、いつもと変わらず穏やかな表情をしていたので、任せる事にした。
「わかりました」
フリーダムはサーベルを収めた。
「フラガのおっさんが、あっちで新型とやりあってる」
ディアッカはストライクの位置のデータを送りながら言った。
「ランチャーパックじゃきつそうだ。援護してやってくれ」
それからニヤリと笑った。
「ま、言う必要はないだろうけど、おまえも気をつけろよ?」
「…ディアッカも…」
キラはややためらいながら言う。
「私と、アスランみたいなことにはならないでくださいね」
「アスラン!?」
イザークはいきなり飛び出してきた名前に再び驚いた。
(アスラン…やはりアスランもここに…!)
一方、キラに痛いところを突かれてディアッカは苦笑した。
「大丈夫だ。おまえらの二の舞じゃ、立つ瀬ないもんな」
「気をつけて」
フリーダムが疾風のように飛び去ると、ディアッカは「さて…」と、呆然とこの事態を見守っていたデュエルを振り返った。
「銃を向けずに話をしよう。イザーク」
ディアッカはそう言ってコックピットを開いた。
「貴様に討たれるならそれもまたとも思ったがね、ここで」
クルーゼはクローでストライクを追い詰めていく。
フラガは防ぎようがないままに後退するばかりだ。
「だがどうやら、その器ではないようだ」
(所詮、子は親には勝てぬということか…)
「つまらん…つまらんな、ムウ・ラ・フラガ!」
追い詰めたストライクに近づいたゲイツは、普段は腰部に隠れているエクステンショナルアレスターを展開した。
「なに?」
いきなり伸びてきたアンカーを避けることができず、ヘッドクローがストライクのコックピットをガリガリと削り、貫通した。
鉄壁の防御を誇るストライクとはいえ、至近距離から無防備な状態で攻撃を受けては、さすがにダメージは免れなかった。
「うわっ!」
小爆発に眼を閉じたフラガは、次の瞬間、左脇腹に鈍い痛みを感じた。
飛び散った破片が刺さり、呼吸ができない。
(くそっ…)
歯を食いしばってモニターを見ると、そこにはアンカーを収納し、再びビームクローを展開したゲイツが、傷つき倒れた獲物を前に、嬉々として襲い掛かろうと身構えていた。
「運命は私の味方のようだな…フラガの血は、ここで絶えるべきなのだ!」
「ムウさん!」
「なに!?」
電光石火であった。
ゲイツは既にクローを構えていたにもかかわらず、クルーゼがそれを相手に向ける暇を与えず、フリーダムの両手のラケルタが一閃された。
ほんの一閃…しかしそう見えるのはキラの反応とフリーダムの対応があまりにも早すぎたためで、その太刀筋は実は数回に渡っており、フリーダムがサーベルを構え直した時には、ザフトが誇る新鋭機もまるで柔らかい土くれででもあったかのように、装甲を破られ、バラバラにされていた。
(ちぃ…フリーダム!)
傷ついたストライクを庇い、翼を広げたフリーダムが立ちはだかっている。
クルーゼは、これだけのダメージを浴びてもなお爆発せず、無事に動くゲイツを不時着させ、コックピットから出ると、フリーダムを見た。
(止めを刺さぬなど…このような甘い考えで戦い抜こうというのか!)
フラガは彼に会った時だけ感じる得体の知れない直感により、機体から飛び降りてコロニー内を走るクルーゼの姿を脳裏に捉えた。
(あいつ…どこへ…)
傷がひどく痛むが、彼は銃を持ち、コックピットを開いた。
「ムウさん!?」
キラがそれに気づき、慌ててストライクを覗きこむ。
その時、何処からか銃声が聞こえ、数発の銃弾が撃ちこまれた。キラはとっさにフリーダムのマニピュレーターでフラガの身体を庇った。
「今日…そ…つける…ね?決着を!」
通信機を通さない、風にかき消されるクルーゼの声が響いた。
「くっ…あの野郎、何を…」
「なら…来たまえ!引導を渡して…るよ、…の私がな!」
再び銃声が聞こえ、クルーゼの足音が消えていく。
追って来い…そう言わんばかりに。
「くっそー!」
フラガは痛みをこらえて立ち上がり、彼を庇っていたフリーダムのマニピュレーターをくぐり抜けて、地面に飛び降りた。その衝撃で激痛が走ったが構ってはいられない。フラガは痛みをこらえて走った。
「ムウさん!」
キラは通信を…とチャンネルを開いたが、コロニー内の通信状態は悪く、Nジャマーキャンセラーを持つフリーダムの通信機ですら繋がらない。
(…仕方ない!)
キラは自衛用の銃を手に取ると、急いでコックピットハッチをスライドさせた。
機体から降りてヘルメットを取り、互いの姿を確認すると、イザークは無言のまま、手に持つ銃をディアッカに突きつけた。
「銃を向けずに、って言ったろ?」
ディアッカは銃も持たず、戦もないと示すため、軽く両手を上げてみせた。
「敵のそんな言葉を信じるほど、俺は甘くない!」
イザークは怒鳴った。
彼を怜悧に見せる、どこまでも蒼く澄んだ瞳が自分を睨みつける。
表情に浮かぶ強い意志の中に、裏切られたという怒りと、一体何がどうなっているのか解き明かしたいという想いが絡み合っている。
自分に銃を向け、有利なはずのイザークが、気持ちの上では追い詰められている事を感じ、ディアッカはふと表情を緩めた。
「俺は、おまえの敵か?」
ディアッカのその言葉に、イザークは再び小さく息を吸い込んだ。
キラは銃を携えながらクルーゼとフラガが消えた建物に潜入した。
「HUMANGENE MANIPULATION LAB」
施設の入り口にはそう書いてある。
(遺伝子操作…研究所?)
中は電気が通っていなかったが、天窓から光が差しているためほの暗い。
コーディネイターの視力なら十分な灯りなので、キラはそのまま歩を進めていったが、やがて上の階で何発か銃声が聞こえた。
(いる…!)
キラは(落ち着け)と自分に言い聞かせ、螺旋に続く階段を登る。
銃声が聞こえた階で止まり、そのまま廊下を進むと、再び銃声が響いた。
一応銃を構えているものの、撃った事どころか射撃訓練すらしていない。
鼓動は激しくなり、恐怖心もわきあがったが、ここにはフラガがいる…それは心強く、さらには彼を無事に連れ戻さねばとも思う意思が後押しした。
銃声が途切れるたびに、キラは素早く次の角まで走った。
その頃フラガは大きなプラントが並ぶ部屋から、次の部屋に進んでいた。
今度は何かの研究室のようだ。
時代遅れのコンピューター機器がいくつも並び、埃をかぶっていた。
張り詰めたフラガの眼には入らなかったが、今彼がいるこの研究室の入り口には、「Prof.Ulen Hibiki(ユーレン・ヒビキ教授)」というプレートが貼られていた。
「ここがなんだか知っているかね?ムウ」
「知るか!この野郎!」
フラガは答え、声のしたあたりを狙って撃ったが、手応えはない。
「罪だな、きみが知らないというのは」
一方条件はおなじはずなのに、クルーゼはまるでこちらの位置を知っているかのように、正確に威嚇射撃をしてくるのでたちが悪い。
(ったく、だから俺は射撃は得意じゃないってのに!)
しかも動いた事で出血はさらに酷くなり、痛みで脂汗が出た。
傷を抑えていた手を見ると、べっとりと血がついている。
(やべぇな…こりゃ…)
「ムウさん!」
その時、自分が隠れている場所に小柄な身体が転がり込んできた。
「キラ!?」
クルーゼはいたぶるように撃っていた銃の引鉄にかけた指を止めた。
(キラ…キラ・ヤマト!!)
「そうか…やはりきみがフリーダムのパイロットだったのか…」
キラが生きており、しかも件のフリーダムのパイロットだったという決定的な結果を手にしたクルーゼは嬉しそうに笑った。
(これで全ての鍵が揃った!)
扉を開き、この壮大でつまらない茶番劇の幕を下ろす時は近い。
メンデルの港では3隻が並んで補給・整備中だった。
「そこはCLTペーストで塞いどけ!」
「ええ!?もう一発喰らったらおしまいですよ?」
応急処置ではムチャだと抗議する若い整備員に、老練な整備員が悪態をつく。
「だったらお札でも貼って、あたらないようにするんだよ!」
「第2班、予備マニピュレーターの応力歪み測定を急がせろ!」
「つまり、B5線にブリッジブレーカーを並列増設させて、バンク25のダイオードアレイと結線するんです」
アスランは各艦の整備についてアドバイスを行っていたが、哨戒任務を負っていたM1が戻ったと聞いてエターナルへ向かった。
「ナスカ級が3隻。反対側の港口、デブリの影です」
「こいつはまた豪勢だな」
バルトフェルドがその笑えない報告に笑って答えた。
一方、後退したドミニオンは依然動きがない。
「フラガたちが何か情報を持ち帰れるか…くそ!誰の隊だ?」
思い当たる節があり過ぎるバルトフェルドは、ガリガリと頭を掻いた。
「クルーゼ隊です」
それまで黙っていたマリューが言った。
「なぜ言い切れるんだ?」
キサカが怪訝そうに尋ねた。
「ムウにはクルーゼの存在がわかるのよ」
艦長たちはマリューの言葉の意味を図りかねて黙っている。
「なぜだかは、自分でもわからないということだけど…」
「それが本当なら、俺たちの敵は、相当厄介なヤツだって事だな」
バルトフェルドがうんざりしたように言った。
「きみまで来てくれるとは嬉しい限りだ、キラ・ヤマト」
クルーゼは隠れている少女に呼びかけた。
「確かきみは、きみの昔からのご友人で私の元部下、アスラン・ザラに殺された…と聞いていたのだがね。さて…どこで聞き間違えたのかな?」
キラはアスランと自分の事を知っており、それを揶揄するような彼の軽々しい口調にムッとし、キリッと唇を噛み締めた。
「食わせ者のラクス・クラインに奪取されたフリーダムがアラスカに現れたと聞いて、『もしや』とは思っていたのだよ。いや、驚いたね」
くっくっくといやらしい笑い声に続いて、不気味なほど押し殺した声で呟かれた言葉は、キラをギクリとさせた。
「しかしきみが何者かを知れば、生きているのは当然と言えるがね…」
キラがそれは一体どういう意味かと聞き返そうとした瞬間、フラガがキラの腕を掴んで叱り飛ばした。
「何で来たんだ!」
キラはその剣幕に思わず肩をすくめた。
「おまえは訓練だって受けてないし、女の子だろ!ムチャするなよ!」
「だって…あのまま外で待つなんて、できません!」
キラは精一杯抗議した。そして上目遣いで言った。
「大体…マリューさんになんて報告すればいいんです?」
「くっ…生意気…」
言うんじゃないよ、と続けようとしてフラガは痛みで顔を歪める。
「ムウさん、その傷…!」
キラはフラガが傷を負っている事に気づいた。
大したことはないとフラガは言うが、息が浅く、痛みも激しそうだ。
(大変だ…早くアークエンジェルに連れて帰らなきゃ!)
「それよりおまえ、撃つ気あるならセーフティー外しとけ!」
「あぅ…」
キラはそう言われて慌てて銃を見ると、確かにセーフティーがガッチリとかかったままだった。外そうにもやり方がわからず、「貸してみろ」とフラガに銃を奪われ、結局外してもらった。
ようやく撃てるようになった銃をしげしげと見て、キラはここに至るまで丸腰だったのだと思い当たった。
「さぁ、遠慮せず来たまえ!始まりの場所へ!」
その時、クルーゼが高らかに宣言した。
「キラ・ヤマトくん!きみにとってもここは生まれ故郷だろう?」
「え!?」
その言葉にキラは思わず反応してしまう。
(生まれ故郷?一体何の事?)
「引っかかるんじゃない!ヤツの言うことなんか、一々気にすんな!」
「敵となったのは貴様の方だろうが!」
銃を構えたイザークの態度は変わらない。
赤い人工の土が舞い上がり、彼の銀色の髪を揺らす。
ディアッカの心に、イザークとの数え切れない思い出の数々が蘇る。
(アカデミーからこっち、ずっと一緒で、いつもつるんでバカやって…)
ニコルをからかったり、アスランをバカにしたり、ミゲルやラスティと笑いあったことも、ディアッカにとって簡単に捨てられる過去ではなかった。
「俺は、おまえの敵になった覚えはねぇよ」
「ふざけるな!貴様も裏切り者だ!」
ディアッカはイザークの怒りのこもった言葉に即座に反論した。
「…プラントを裏切ったつもりもない」
「なんだと!?」
イザークにはその言葉の矛盾が理解できなかった。
「俺はプラントを守るために敵と戦っているんだぞ!」
イザークは怒鳴った。
「おまえが今もプラントを裏切っておらず、しかもプラントを守る俺の敵でもないなら…なぜ今、おまえはザフトにいないんだ!?」
ディアッカは早くも答えに辿り付いたイザークに感心して尋ねた。
「ザフトは、プラントを守るものだろ?」
「あたりまえだ!!」
禅問答のような問いかけにイザークの怒りは沸騰しそうだ。
ディアッカは彼らしい笑顔で皮肉そうに笑った。
「それでいいんだ」
「…なに?」
イザークは狐に抓まれたような顔をし、それからバカにするのかと怒鳴った。
「それでいいんだよ、ザフトは」
「貴様、一体…!」
ディアッカはイザークを止めるように片手を上げ、呟くように言った。
「俺も、プラントを守りたい。その気持ちに変わりはない」
イザークはやや怪訝そうな表情をしたが、何も言わず黙って聞いている。
「だが、今のザフトはおかしいぜ」
ディアッカの言葉が、思いがけずイザークの胸を突いた。
「アラスカもパナマも、プラントを守るための戦いじゃない」
「…あれは…っ…」
「地球軍もおかしいけどな。ナチュラル同士で戦うって、なんなんだよって」
思わず言葉に詰まったイザークを見て、ディアッカは慌てて取り成した。
その困ったような笑顔が昔と変わらない事が、イザークを軽く傷つけた。
「…ただ、俺はもうナチュラルを…」
彼の脳裏には、自分を本気で殺そうとし、同時に命を救ってくれたナチュラルの少女の、哀しげな横顔が浮かんでは消えた。
「黙って軍の命令に従って、ナチュラルを全滅させる為に戦う気はないってだけだ」
ふとイザークの思考が立ち止まった。
「バカな!ザフトは…ナチュラルを、全滅させるためになど…」
「本当にそう言いきれるか?今、この状況で」
いつになくきっぱりと、強い口調で問い詰めるディアッカに、銃を構えたイザークは思わずたじろぎ、言葉を失ってしまった。
否定したいと思うイザークの心に、もやもやと黒い雲が広がった。
(ナチュラル共なんかあっという間に宇宙からいなくなるんでしょう?)
(ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!)
(この作戦により、戦争が早期終結に向かわんことを切に願う)
「これで終わりだな、ナチュラル共もさ!」
自分が笑いながら言った言葉が、彼自身を棘のように刺した。
(バカでノロマで臆病なナチュラルを…)
イザークの心に、彼がたった一人知るナチュラルの顔が浮かんでいた。
「何だここは?」
フラガはクルーゼに導かれ、銃を構えたままキラと共に奥へと進んでいく。
「うわ!」
キラは並んだフラスコの中に何かが浮かんでいることに気づいて覗き込み、それが白く変色した胎児だと知って飛び退った。
中には水カビだらけで判別すらできないようなものもあり、そんなフラスコが無数並んでいる。
(これ、全部…赤ちゃん…?)
キラは恐怖に足がすくみ、思わずフラガの背に掴まった。
「ムウさん…何…?ここは一体何なんですか?」
フラガは安心させるようにキラの肩を抱くと、再び銃を構えた。
「懐かしいかね?キラくん」
「え?」
フラガに寄り添いながら、怯えた眼で気味の悪い物が並ぶ周囲を見まわしていたキラは、再びクルーゼの言葉に反応してしまう。
「惑わされるな!」
フラガがキラの肩を揺さぶって警告したが、キラの鋭い聴覚はクルーゼの言葉を一言一句、正確に拾ってしまう。
「きみはここを知っているはずだ」
「いい加減にしろ!」
その言葉をやめさせようとフラガは盲滅法に銃を放つ。
「知っている?私が?」
キラの心に、脅えにも似た感情が波立った。
(知らない…私はこんなところ、知らない…!)
ドミニオンは待機を続けていた。
「戦闘は終わったわけじゃないでしょ」
もう一回いきましょうよと言いながら、アズラエルは爪を整えている。
「どうしても、お聞き入れいただけませんか?」
援軍を要請して待つなり、一旦引き揚げ、陣容を立て直して出直すなり…ナタルは先ほどから何度も再戦を考え直すよう進言していた。
ドミニオンのダメージはさほどでもないが、フリーダムとジャスティス、あれがいる限り新型は抑えられてしまい、その上でアークエンジェルとクサナギを同時に相手にするのは無理だとナタルは判断していた。
「しつこいね、きみも」
アズラエルはついにこの問答に厭きたようだ。
「そんなことをしていたらザフトにしてやられちゃうじゃないか!連中を追ってるナスカ級が3隻いるって言ってるでしょ?」
(ならばなおさらだ!)
ナタルはイラッとしながら思う。
(ザフトは我らにとっても敵ではないか…!)
「奴らももうじき、動けるようになるからさ」
結局、アズラエルは退く気などなかった。
涎をたらしながら、クロトが床をいざっていく。
そしてドアにすがるとそれを叩き、鉄の扉を爪で引っかく。
爪が剥がれて血が噴出すが、その痛みすらも感じないようだ。
オルガはその光景を見ながら、呼吸をしようともがき続けた。
(なんだってこんなに苦しいんだ)
胃には何も入ってやしないのに、吐き気が止まらない。
眩暈と視野狭窄が起き、音が近くなったり遠くなったりする。
(シャニ…どこだ?)
部屋の隅で転げまわって苦しみながら、失神すらできないシャニをオルガは見つけた。クロトはガリガリと扉を引っかきながら泣き叫ぶ。
「お願いですお願いですお願いですお願いですお願いですお願いです…」
(うるせー…うるせーよ、クロト…黙れよ)
フラッシュバックが始まる。白、赤、白、赤…
(あいつ…あいつら…白いのと、赤いの)
苦しい息の下でオルガはフリーダムの姿を鮮明に思い出す。
ことに先ほど、手酷いダメージを与えられたジャスティスをイメージすると、不思議と苦しみが落ち着くようだった。
(あいつをぶっ壊す…)
手足をもぎ取り、頭を吹き飛ばし、どてっ腹に大穴を開けて、中の人間を引きずり出す。オルガはジャスティスを破壊する過程を思い浮かべた。
(泣こうが喚こうがかまわねぇ)
生きたまま内臓を引きずり出して、眼を抉り、喉を潰す…人を壊す感覚を思い出すとゾクリと欲望が頭をもたげ、苦しみもいくらか収まっていった。
(待ってろよ、赤いの…それに、白いのも)
オルガはそんな苦しみの中でも笑い、彼らを観察する研究員を驚かせた。
(じっくりと苦しめて、いたぶりながら殺してやるからな)
「ぐっ!」
「ムウさん!」
右肩を銃弾がかすめ、フラガは銃を落とした。
「大丈夫ですか!?」
キラはフラガの身体を支え、部屋の隅に転がるソファの陰に隠れた。
応接室のような、よくよく見れば豪奢な雰囲気の部屋だ。
キラはセーフティーを外してもらった銃を構えた。
(撃たなきゃ…ムウさんを守らなきゃ…!)
キラが銃を構えて立ち上がると、正面にクルーゼが銃を構えて立っていた。
ギクリとして背筋が凍ったが、クルーゼはふっと口元に笑みを浮かべた。
「殺しはしないさ。せっかくここまでお出で願ったのだから」
(仮面…これが、ラウ・ル・クルーゼ…!?)
キラはその不気味な佇まいにゾッとしたが、勇気を振り絞って睨みつけた。
「全てを知ってもらうまではね」
クルーゼは足で何かを蹴ってよこした。
それは、何枚かの写真だった。
そのうちの一枚がフラガの眼を釘付けにする。
深みのあるブロンドの髪の男が、少年を肩に乗せて笑っていた。
少年は楽しそうに父である彼の肩で、飛行機の模型を持っている。
「親父!?」
思いもかけないその言葉に、キラは思わずフラガを振り返った。
クルーゼもまた、くっくっくと笑い始める。
「きみも知りたいだろう?人の飽くなき欲望の果て。進歩の名の下に、狂気の夢を追った、愚か者たちの話を…」
キラは仮面の男から眼を離さない。
いや、離そうにも離せなかった。
(一体何を言っているのか…何を言うつもりなのか)
「きみもまた、その子供なのだから」
時間が、永遠に進まないように感じた。
このまま攻撃を受けても問題はない。
あの時のスレッジハマーは、ストライクのエネルギーを大幅に削ったが、PS装甲を破壊する事はできなかった。フリーダムには脅威ですらない。
ただし、ナタルは「破壊」ではなく「鹵獲」を狙っている。
攻撃を甘んじて受ける事は、相手のアドバンテージを上げてしまう。油断は禁物だった。
キラはすぅ、と深く息を吸った。
(落ち着け…熱くなってはダメだ…)
その直後、心と体がキンと響くほど冷たくなる。
全身の神経を集中させ、キラの中の感覚が目覚めていった。
キラは凄まじい速さで全てのミサイルをロックした。
マニピュレーターが自由にならず、ライフルは持てないが、バラエーナとクスィフィアスはこのままでも起動させられる。
アグニで全てのミサイルを視認で捉えた時よりたやすい…今のキラには、全てが見えなくても、全てが視えていた。
スレッジハマーがことごとく爆破され、爆炎がフリーダムを隠したが、クロトはミョルニルを思い切り引くとフリーダムを引きずり出した。
「そら!!滅殺!!」
キラはミョルニルを引っぱり返し、レイダーとの力比べを受けて立つ。
無限のパワーを持つフリーダムのスラスターが大きくうなり始めた。
(たまには役に立つじゃねぇか)
拮抗する両者を見て、オルガはほくそ笑んだ。
「ボディが残ってりゃいいんだろ!?」
カラミティはフリーダムに体当たりをかまし、「喰らいな!」と笑いながらスキュラを放った。キラはボディを捻ってそれを避けると、カラミティを蹴り飛ばした。しかしその力技の抵抗が災いし、ミョルニルを引き絞ったレイダーにフリーダムは引っ張られ、大きくバランスを崩してしまった。
「そらぁ!!」
「くっ…!!」
体勢を立て直したオルガも、再びフリーダムに襲い掛かる。
「舐めやがって!」
アスランはワイヤーを外す事に手間取るクサナギからフォビドゥンを引き離していた。シャニはニーズヘグを振るい、フレスベルグを放つ。
彼の攻撃は単調だが、とにかくしつこくて、アスランも辟易していた。
(クサナギもそろそろ動けるようになる)
アスランはチラリと後方のブリッジに眼を向けた。
ここまで敵をひきつければ安全なはずだ…そこにいるはずのカガリを思い浮かべ、それから再びレーダーに眼を戻して戦う友の機影を見た。
(今はとにかく、キラを援護しなければ)
扱いに慣れてきたハルバートを素早く動かし、フォビドゥンにダメージを食らわせると、それを再び分けてマウントした。そして素早くブーメランを抜くとフォビドゥンに投げつける。フォビドゥンはシールドで避けたが、その時既に懐に飛び込んできていたジャスティスに、シールドごと体当たりされ、しまいには蹴り飛ばされた。
「どけ!クロト!」
オルガは再びフリーダムに近づいた。
捉えられ、バランスを崩しているフリーダムを見て目は血走り、嗜虐的な悦びで笑い出さんばかりの顔で、複列位相エネルギー砲の照準を合わせる。
(こいつ、俺のスキュラが嫌いなようだからな…)
「ぶち込んでやるぜぇ!白いの!」
カラミティの胸部にある砲口が熱を放ち出したので、クロトは慌ててフリーダムを捉えているミョルニルを持ったまま、安全地帯まで後退した。
「ちっ、ぶっ壊すと怒られるぞ!」
フォビドゥンを振り払って急いで駆けつけたアスランが見たのは、レイダーに捉えられ、カラミティにロックされたフリーダムだった。
「これでぇ!!」
「…!しまっ…」
(キラ…!)
その瞬間、アスランの視界が突然弾けた。
背中から肩口が冷え切って、ゾクリと悪寒が走る。
アスランは無意識にジャスティスのシフトを限界まで入れた。
スローモーションのようにスキュラの砲口が開くのが見える。
ジャスティスはスピードを上げて両者に近づくと、キラを狙うカラミティではなく、フリーダムに力一杯体当たりを喰らわせた。
「…うぅ…わっ!!!」
キラは驚き、勢いでミョルニルが外れたフリーダムは彼方へと吹っ飛んだ。
「何!?なんで…」
オルガが標的が入れ替わった事に驚く間もなく、アスランはシールドを構えてカラミティのチェストに押し当てた。ほぼ同時にスキュラが放たれると、ジャスティスがその威力に力負けし、機体がじりじりと下がっていく。
「く……!」
アスランはせわしなく手元のスイッチを入れ、エンジンの回転を上げた。
噴射される本体とファトゥムのスラスターが爆発しそうな音を立てている。
キラはその凄まじさに声も出ない。
アークエンジェルのマリューも、フリーダムが呆然とする姿を見て、いつの間にかジャスティスが加勢に来ていたことを知った。
クサナギでこの様子を見ていたカガリも、その戦い方に驚いて「あのバカ!何やってる!」と悪態をつき、思わず身を乗り出した。
しかしこのあまりの力技には、カラミティの方が悲鳴を上げた。
逃げ場を失ったビームが、内部からトランスフェイズ装甲を破壊したのだ。
「ぐっ…!」
そのすさまじい衝撃に思わずオルガが下がる。
アスランもまた表面が破壊されたシールドを下ろして退いた。
「アスラン!」
「大丈夫」
アスランはほっと息をつき、ダメージを確かめつつ、冷静に答える。
なんてムチャを…キラは今さらながらアスランの戦い方は怖いと思った。
余裕を持って戦う時は華麗なのに、時に自分の犠牲も厭わないなんて…
「ああ、惜しい!」
アズラエルはまるで試合でも見ているように両手を挙げる。
「何やっているんです?ほら、ドンドン撃ってくださいよ」
「この状況では友軍機にあたります」
ナタルは新型を避けて攻撃するデメリットを計算していた。
「当たったって大丈夫ですよ。トランスフェイズ装甲なんだから」
その言葉に聞き覚えがあり、ナタルはいささか複雑な気持ちになる。
(あの時、同じように抗議したのはトノムラだったな)
「アークエンジェル接近!」
やがて突っ込んできたマリューは、先ほどのお返しとばかり主砲を構えていた。
「ゴットフリート照準、撃ぇ!」
「回避!」
ナタルは落ち着いて命じ、ドミニオンとアークエンジェルがすれ違う。
自分と同じ場所にいるはずの女を、互いに強く意識しながら。
「ん?おい、なんだ?」
メンデルの港口で待機中のエターナルで、バルトフェルドはアークエンジェルを守るストライクが戻った事に驚いたが、ストライクはそのままメンデル内部へ消えていった。呆気に取られていると、今度はバスターがやってきた。
「おい、エルスマン!」
バルトフェルドがかつての部下を呼ぶと、ディアッカは困惑したように答えた。
「何があった?フラガは!?」
「ザフトがいるって言うんだ、あいつが!」
そう答えながらディアッカは、電波状況がひどく悪いこの一帯でストライクを見失わないよう、レーダー画面から眼を放さなかった。
「ザフトだと?どこに!?」
「ともかく、確認してくる。マジだったらヤバい」
ディアッカはそう言うと、そのままストライクを追った。
「反対側の港口か…」
バルトフェルドはメンデルの地図を開いて確認した。
「エターナルはとにかく発進を急ごう。騒いでも動けないんじゃ、任せるしかないからね」
「ごもっとも…ダコスタ!」
同じく彼らの様子を見ていたラクスがバルトフェルドに告げると、 赤毛の副官はオペレーターと調整中の機関室を急がせた。
周囲を警戒しながら、イザークは荒廃した土地を見つめていた。
(バイオハザードを起こしたというコロニー、メンデル…ここで昔、一体何があったというんだ?)
「ふふ」
イザークの困惑を知って知らずか、既にフラガが来た事を感知したクルーゼは心を躍らせていた。
「来るぞ!」
クルーゼとフラガが同時に叫ぶと、次の瞬間、飛び出してきたストライクとバスター、デュエルとゲイツが砂嵐の中で相見えた。
イザークとディアッカは互いの機体を見て息を呑んだ。
「ストライク!…バスター!?」
イザークは困惑と驚きのあまり叫んだ。
「…デュエル!」
ディアッカが最悪の再会に呻いた。
(くそっ、なんでこんなトコに…イザーク!)
「ほぉ?今度はきさまがそれのパイロットか、ムウ・ラ・フラガ!」
クルーゼはビームクローを展開し、ストライクに向かった。
「新型か!くっ!この装備じゃ…」
フラガは下がり、ガンランチャーを放った。
「このぉ!」
傷つけられ、押し返されたオルガの怒りはジャスティスに向かった。
シュラークを連射するが、ジャスティスは大きく弧を描いて回避した。
一方レイダーはMS形態でフリーダムに近づき、一撃必殺を狙う。
「これで!」
しかしクローを伸ばした瞬間、クロトもオルガも殺気を感じて振り返った。
その途端、彼らのすぐ近くをビームが掠める。
「おまえ!おまえ!おまえぇぇ!!」
振り返ると、アスランに無視され、置いてきぼりになっていたフォビドゥンがフレスベルグを撃ちまくっていた。無論ゲシュマイディヒパンツァーを展開しているのでビームは曲がるのだが、ジャスティスとの戦いで破損したのか、片側の偏向率の調子が悪い。それがむしろランダムな角度で曲がるので、友軍のオルガやクロトもうかうかしていられなかった。
オルガは連射されるプラズマ砲を避けるため仕方なく退く羽目になり、 「シャニ!」と怒鳴ると、我を忘れていたシャニはその声に反応して動きを止めた。
「何やってんだ、バーカ!」
そんな2人を見ながら、レイダーが呆れて離脱していく。
「いい加減にしろ、シャニ!」
「…だって、あいつが!」
シャニは子供のようにオルガに訴えた。
(俺を置いてった…俺を蹴って置いてった…)
「置いてったんだぁ!!」
「バカ、落ち着け!」
オルガはフォビドゥンの前に腕を突き出して止めると悪態をついた。
シャニの精神状態が悪い上、自分のパワーもそろそろヤバい。
「くそっ…」
彼らの無謀な攻撃を眼にしたアスランは、呆れたように呟いた。
「めちゃくちゃだわ、あいつ…」
「すみません、手間取って」
「いや、こちらこそすまん」
ようやくワイヤーを外し終えたアサギがキサカに通信を入れると、自由になったクサナギには改めて発進命令が下された。
「推力最大。ドミニオンを追う」
「もう引っかけんなよ!」
副操縦士席に座ったカガリは、恐縮するパイロットに発破をかけた。
アークエンジェルとドミニオンは未だ交戦中だった。
マリューはヘルダート、ナタルはバリアントを放ち、互いにここぞというところでゴットフリートを撃った。だがまるで鏡に映った自分と戦うように、両者の力はまさに同等であり、決着がつかない。
いや、ナタルの戦術がマリューを上回る分、一方でノイマンの操艦術がドミニオンのそれを凌駕しているからこそ、両者の力はかろうじて拮抗しているのかもしれなかった。しかし厳しい実戦を重ね、死闘を勝ち残ったアークエンジェルの方が兵の練度が上である事も明らかだ。
「距離20、オレンジ15マーク1アルファにオーブ、イズモ級。接近してきます」
決着のつかない彼らの状況を打破せんと、クサナギが距離を縮めてきた。
「あらら?自由になっちゃったか」
アズラエルが額を叩いて残念がると、キサカは主砲を起動させて命じた。
「ゴットフリート、1番2番、撃ぇ!」
(これで相手の主砲は四門になった…)
ナタルはクサナギの参戦を見て、即座に戦況と戦力を分析し、主砲の回避を命じると同時に、パイロットには撤退を命じた。
「ええ!?」
驚いたのはアズラエルだ。
「あんなオンボロ艦の参戦ぐらいで、何を言ってるんです?」
「状況は既にこちらに不利です」
ナタルはアズラエルには構わず、「モビルスーツを呼び戻せ」と命じていた。
「ここまで追い詰めたのに?」
「3機のパワーもそろそろ危険です。撤収せねば、敗退しますよ?」
(だからあの機体を鹵獲しろと言ったのに…)
アズラエルはむすっと口を屁の字に曲げて苛立ちを隠せなかった。
「そう言うからには、今退けば次は勝てるんでしょうねぇ」
意地悪そうに尋ねるアズラエルの眼にひるむことなく、ナタルは返した。
「ここで戦死されたいので?」
アズラエルはその冷たい眼に降参し、白旗の代わりに手を振った。
一方、メンデルではそれぞれ因縁のある者同士が戦っていた。
「きさまっ!よくも…ディアッカの機体で!」
デュエルはシヴァを放ち、さらにサーベルを抜いて懐に飛び込む隙を狙う。
ディアッカはひたすら防戦一方だが、遠距離支援型のバスターには元々シールドが装備されていないので、イザークが好むショートレンジに持ち込まれると厄介だ。相手もこちらの弱点はよく知っている。
「イザーク…!」
自分が乗っているとは知らないゆえに、イザークの攻撃は容赦がない。
(ちくしょう…こいつに反撃なんてできねぇし…)
手が出せないディアッカは苦戦し、同時に苦悩していた。
「ここでこうして貴様と戦えるとはな!」
初めてビーム兵器を搭載したと自慢した整備員の言葉どおり、ゲイツは中距離からはライフル、近距離ではクローを展開してストライクを翻弄した。
実戦を重ねたとはいえ、宇宙戦は初めてのフラガは完全に押されていた。
「くっ…ラウ・ル・クルーゼ!」
「私も嬉しいよ、ムウ」
「バカ野郎!嬉しいもんか!」
フラガはランチャーとバルカンのコンボで応戦しながら、悪態をついた。
「バリアント、撃ぇ!」
遅まきながらクサナギの援護によって息を吹き返したアークエンジェルは、ここで一気にドミニオンを押し戻そうと巻き返しをはかっていた。
撤退を決めたドミニオンはこれを避けきれず、艦体に激しい衝撃が走る。
ラミネート装甲にダメージはないが、油断すると今度は後方に控えたクサナギのゴットフリートが火を噴いた。2対1では完全に不利だ。
「信号弾、撃て!面舵10、戦闘宙域を離脱する」
ナタルはついに離脱命令を下した。
クロトがそれを見て舌打ちし、オルガも「タイムアップかよ!」と言いながら、構えていたバズーカを肩に担いだ。
「みたいだね、ふん!」
クロトも帰還に備えてMS形態に変形し、離脱を始める。
しかしシャニは相変わらずしつこくジャスティスに向かっていた。
「この!この!このぉ!!」
大鎌の乱打をシールドで受け流していたアスランも力で押し返す。
「く…このっ…!」
再び向かってくるフォビドゥンを避けるアスランの眼にも敵軍の信号弾は見えているのだが、シャニはそれすら気づいていないようで、全く退く気がない。そんな2機の間にカラミティが割って入った。
「シャニ!」
「撤退命令だ、バーカ!」
クロトはMS形態で旋回しながらそう言い残し、先に飛び去った。
「でも!だって!あいつ!」
止めるカラミティの腕に掴まりながら、それでもまだジャスティスを諦めきれないシャニは、まるで子供のように駄々をこねている。
「今は退くんだよ!また苦しい思いをしたいのか!?」
「う…」
オルガが叱り飛ばすと、シャニはようやくおとなしくなった。
(あいつ、どうせまた俺たちへの薬の投与を遅らせるに違いない)
ことに薬への依存が強いシャニの苦しみは、死にも相当するはずだ。
オルガは自分たちへの投与量が増えていることに気づいていた。
「行くぞ!」
カラミティはフォビドゥンを伴って退く。
(俺たちは、いずれ薬がなきゃどうしようもなくなる…)
ジャスティスを一瞥し、オルガはポツリと呟いた。
「…それでもいいさ」
くだらねーこの世界に生きる、くだらねー連中を、できる限り殺して殺して殺しまくって…俺が死ぬまでは、生きてやる…!
「流石に引き際も見事ね」
去っていくドミニオンを見て、マリューや ノイマン、ブリッジのクルーは全員がほーっとため息をついた。誰もがぐったりと疲れきっていた。
「ヤマトがいるのに、たった1艦にここまで追い詰められるって…」
「さすがは…ってとこだよな」
トノムラが弱音を吐き、チャンドラも汗で曇ったメガネを拭いた。
そしてノイマンはただ黙ってドミニオンの艦影を見つめていた。
「キラ!」
ナタルを想い、彼女が乗るドミニオンを見送ったキラをアスランが呼んだ。
「あ、アスラン…大丈夫?」
「ええ」
アスランは不審な新型のパイロットたちを気にしていた。
「うん。オーブの時も感じたけど…」
「ちょっと、正規軍とは思えないわね」
撤退命令無視、同士討ちも辞さない攻撃、勝手な戦線離脱、民間人への攻撃…エリートの証である赤服をまとうアスランからすれば、ザフトであれ地球軍であれ、軍人にあるまじき行動をする者は許し難いものがあった。
「それに、ナチュラルでもないみたいだ」
(彼らは、まるで…そう、それこそバーサーカーのようだ)
自分がかつて気にしていた「バーサーカー」は、本当は興奮剤や薬物を使って恐怖心や痛覚を失わせ、戦いに臨んだ大昔の戦士だと、フラガが後で教えてくれた。ナチュラルがコーディネイターに対抗するには、もしかしたら本当にそんなものの助けが必要なのかもしれない。
キラはそんなことを考えながら、「まさかね…」と呟いた。
(人間は戦うための道具なんかじゃない。ナチュラルも、コーディネイターも)
そしてアスランに続き、機体をメンデルヘと向けた。
戦闘が終了したアークエンジェルに、エターナルから通信が入った。
「おい!フラガとエルスマンから連絡は?」
マリューはそういえば…と、いつの間にかいなくなったストライクとバスターに今さらながらに気づいてブリッジクルーと顔を見合わせていた。
「くっそー!」
フラガは飛び回るゲイツをイーゲルシュテルンで追っていた。
何しろストライクにはヘリオポリス崩壊のきっかけを作った前科があるので、いくら無人のコロニーとはいえアグニは使いたくなかった。
「ふん…なかなかやるじゃないか」
「貴様、今日こそ!」
しかし手持ちは既に出し尽くしている。
むしろヤツに「生かされている」感がありありだ。
「ディアッカ!ディアッカ!少佐!」
ミリアリアは2人の名前を呼び続けているが、応答がない。
「ダメです。コロニー内部に通信が届きません!」
(ザフトがいる、って…あいつ、そう言ってたって…)
ミリアリアは言い知れぬ不安で心をざわめかせた。
(あんたの無事なんか祈らない。祈らないからね、絶対…)
強気な想いとは裏腹に、ミリアリアの表情には焦りの色が見えていた。
(…だって、きっと帰ってくる…あいつの図々しさは折り紙つきだもん!)
「このナチュラルが!」
サーベルを振りかざすデュエルがバスターを襲った。
ディアッカは恐れもせず飛び込んでくるデュエルのビームに触れないよう気をつけながら、その手元をマニピュレーターで弾いてはかわしている。
しかしいかんせん戦い方の相性が悪い。
離脱を試みようとすればイザークはライフルで狙ってしつこく食い下がった。
「貴様なんぞに!」
(ダメだ…逃げ切れない…)
たとえミサイルポッドでも、デュエルに傷を与えるのは本意ではない。
イザークを傷つけずに距離を取り続ける事は、自分の技量では無理だと判断したディアッカは腹をくくり、忘れもしないクルーゼ隊のチャンネルに合わせると、一呼吸置き、それから友の名を呼んだ。
「イザーク!」
「…は!?」
その声を聞いたデュエルが動きを止める。
「俺だ!剣を引いてくれ!」
(まさか、そんな…貴様…)
「ディアッカ…!?」
メンデルでは、事情を知ったキラとアスランが艦長たちと話していた。
フラガを案じるマリューに、キラは言う。
「私が行きます。みんなは今のうちに、補給と整備を」
「ジャスティスも問題ない。私も行くわ」
「ううん」
それを聞いたキラは首を振った。
「ドミニオンもまだ完全に引き揚げたわけじゃないから、アスランはこっちに残って」
「でも…」
不服そうに口を開きかけたアスランに、キラは言った。
「今はM1しかいないから。さすがにそれじゃまずいでしょ?」
「それは…確かにそうだけど」
「大丈夫。アスランみたいなあんな無茶はしないよ」
キラは笑ってアスランの背中を叩くと、フリーダムに乗り込んだ。
「アスラン」
渋々キラを見送ったアスランに、ラクスがモニターから声をかけた。
「僕たちは、今ここで討たれるわけにはいかないんだ」
わかってる…アスランは呟く。
(わかってるわ、そんな事)
「ディアッカ…本当に貴様なのか?」
デュエルは攻撃の手を止め、イザークは上ずった声で聞いた。
「ああ、そうさ」
ディアッカは答えた。
確かに、この聞き覚えのある声はディアッカだ。
しかし動揺した心をうまく隠せない自分と違い、やけに落ち着いたその声に、イザークは事態の把握ができず、軽く混乱していた。
「それがなぜ、ストライクと共にいる!?どういうことだ、貴様!」
宿敵ストライク…ニコルを殺し、アスランが倒したはずのヤツと!
ディアッカはただ黙ってイザークの言う事を聞いていた。
「…生きていてくれたのは、嬉しい…」
その時、イザークは少し小さな声でポツリと言った。
垣間見えた本音に、友情が見えた。
しかし次の瞬間、彼の声は軍人としてのそれに戻っていた。
「…が!事と次第によっては、貴様でも許さんぞ!」
デュエルがバスターに向けてライフルを構えた。
「イザーク…」
ディアッカは彼の複雑な胸のうちを慮り、言葉が続かなかった。
ニコルが、俺が、アスランがいなくなり、一人で残されたイザークは、一体何を考えて、どんな気持ちで今日まで戦い続けてきたんだろう。
(俺はこいつに、何と声をかければいいんだ?)
その時、最悪のタイミングでフリーダムが現れた。
(あれはバスターと…デュエル…!?)
「ディアッカ!」
キラはバスターに向けてライフルを構えているデュエルを見て、ディアッカが攻撃を受けていると思い、素早くラケルタを抜いた。
「キラ!待て!」
ディアッカはそれに気づくと、デュエルを庇おうと前に飛び出した。
(あれは!?)
イザークもまた、アラスカで出会ったフリーダムに気づいた。
ラクス・クラインによって奪取された新型と、俺を殺さなかった女パイロット。
(それが、今はディアッカと共にいる?)
イザークの心にふつふつと怒りが湧き起こる。
何に対しての怒りなのか、イザーク自身にもわからない。
イザークは黙ってライフルをマウントすると、サーベルを抜いてバスターの頭を飛び越え、フリーダムに向かって加速した。
「貴様っ!!」
両者がいざ討ち合わんとした時、バスターが間に入った。
「やめろ、イザーク!キラも!」
「うっ!」
キラはその声に慌てて機体を止める。
慣性で機体がバスターに当たったが、ディアッカはスラスター操作でフリーダムの推進力を散らすと、機体を上手に受け止めて言った。
「こいつは俺に任せてくれ」
「いいんですか?」
ディアッカはデュエルを見ながら答える。彼らの機体が至近距離にあるため、イザークにも2人の会話がおぼろげながら聞こえてきた。
「ああ」
キラはまだ少し心配だったが、モニターの向こうのディアッカが、いつもと変わらず穏やかな表情をしていたので、任せる事にした。
「わかりました」
フリーダムはサーベルを収めた。
「フラガのおっさんが、あっちで新型とやりあってる」
ディアッカはストライクの位置のデータを送りながら言った。
「ランチャーパックじゃきつそうだ。援護してやってくれ」
それからニヤリと笑った。
「ま、言う必要はないだろうけど、おまえも気をつけろよ?」
「…ディアッカも…」
キラはややためらいながら言う。
「私と、アスランみたいなことにはならないでくださいね」
「アスラン!?」
イザークはいきなり飛び出してきた名前に再び驚いた。
(アスラン…やはりアスランもここに…!)
一方、キラに痛いところを突かれてディアッカは苦笑した。
「大丈夫だ。おまえらの二の舞じゃ、立つ瀬ないもんな」
「気をつけて」
フリーダムが疾風のように飛び去ると、ディアッカは「さて…」と、呆然とこの事態を見守っていたデュエルを振り返った。
「銃を向けずに話をしよう。イザーク」
ディアッカはそう言ってコックピットを開いた。
「貴様に討たれるならそれもまたとも思ったがね、ここで」
クルーゼはクローでストライクを追い詰めていく。
フラガは防ぎようがないままに後退するばかりだ。
「だがどうやら、その器ではないようだ」
(所詮、子は親には勝てぬということか…)
「つまらん…つまらんな、ムウ・ラ・フラガ!」
追い詰めたストライクに近づいたゲイツは、普段は腰部に隠れているエクステンショナルアレスターを展開した。
「なに?」
いきなり伸びてきたアンカーを避けることができず、ヘッドクローがストライクのコックピットをガリガリと削り、貫通した。
鉄壁の防御を誇るストライクとはいえ、至近距離から無防備な状態で攻撃を受けては、さすがにダメージは免れなかった。
「うわっ!」
小爆発に眼を閉じたフラガは、次の瞬間、左脇腹に鈍い痛みを感じた。
飛び散った破片が刺さり、呼吸ができない。
(くそっ…)
歯を食いしばってモニターを見ると、そこにはアンカーを収納し、再びビームクローを展開したゲイツが、傷つき倒れた獲物を前に、嬉々として襲い掛かろうと身構えていた。
「運命は私の味方のようだな…フラガの血は、ここで絶えるべきなのだ!」
「ムウさん!」
「なに!?」
電光石火であった。
ゲイツは既にクローを構えていたにもかかわらず、クルーゼがそれを相手に向ける暇を与えず、フリーダムの両手のラケルタが一閃された。
ほんの一閃…しかしそう見えるのはキラの反応とフリーダムの対応があまりにも早すぎたためで、その太刀筋は実は数回に渡っており、フリーダムがサーベルを構え直した時には、ザフトが誇る新鋭機もまるで柔らかい土くれででもあったかのように、装甲を破られ、バラバラにされていた。
(ちぃ…フリーダム!)
傷ついたストライクを庇い、翼を広げたフリーダムが立ちはだかっている。
クルーゼは、これだけのダメージを浴びてもなお爆発せず、無事に動くゲイツを不時着させ、コックピットから出ると、フリーダムを見た。
(止めを刺さぬなど…このような甘い考えで戦い抜こうというのか!)
フラガは彼に会った時だけ感じる得体の知れない直感により、機体から飛び降りてコロニー内を走るクルーゼの姿を脳裏に捉えた。
(あいつ…どこへ…)
傷がひどく痛むが、彼は銃を持ち、コックピットを開いた。
「ムウさん!?」
キラがそれに気づき、慌ててストライクを覗きこむ。
その時、何処からか銃声が聞こえ、数発の銃弾が撃ちこまれた。キラはとっさにフリーダムのマニピュレーターでフラガの身体を庇った。
「今日…そ…つける…ね?決着を!」
通信機を通さない、風にかき消されるクルーゼの声が響いた。
「くっ…あの野郎、何を…」
「なら…来たまえ!引導を渡して…るよ、…の私がな!」
再び銃声が聞こえ、クルーゼの足音が消えていく。
追って来い…そう言わんばかりに。
「くっそー!」
フラガは痛みをこらえて立ち上がり、彼を庇っていたフリーダムのマニピュレーターをくぐり抜けて、地面に飛び降りた。その衝撃で激痛が走ったが構ってはいられない。フラガは痛みをこらえて走った。
「ムウさん!」
キラは通信を…とチャンネルを開いたが、コロニー内の通信状態は悪く、Nジャマーキャンセラーを持つフリーダムの通信機ですら繋がらない。
(…仕方ない!)
キラは自衛用の銃を手に取ると、急いでコックピットハッチをスライドさせた。
機体から降りてヘルメットを取り、互いの姿を確認すると、イザークは無言のまま、手に持つ銃をディアッカに突きつけた。
「銃を向けずに、って言ったろ?」
ディアッカは銃も持たず、戦もないと示すため、軽く両手を上げてみせた。
「敵のそんな言葉を信じるほど、俺は甘くない!」
イザークは怒鳴った。
彼を怜悧に見せる、どこまでも蒼く澄んだ瞳が自分を睨みつける。
表情に浮かぶ強い意志の中に、裏切られたという怒りと、一体何がどうなっているのか解き明かしたいという想いが絡み合っている。
自分に銃を向け、有利なはずのイザークが、気持ちの上では追い詰められている事を感じ、ディアッカはふと表情を緩めた。
「俺は、おまえの敵か?」
ディアッカのその言葉に、イザークは再び小さく息を吸い込んだ。
キラは銃を携えながらクルーゼとフラガが消えた建物に潜入した。
「HUMANGENE MANIPULATION LAB」
施設の入り口にはそう書いてある。
(遺伝子操作…研究所?)
中は電気が通っていなかったが、天窓から光が差しているためほの暗い。
コーディネイターの視力なら十分な灯りなので、キラはそのまま歩を進めていったが、やがて上の階で何発か銃声が聞こえた。
(いる…!)
キラは(落ち着け)と自分に言い聞かせ、螺旋に続く階段を登る。
銃声が聞こえた階で止まり、そのまま廊下を進むと、再び銃声が響いた。
一応銃を構えているものの、撃った事どころか射撃訓練すらしていない。
鼓動は激しくなり、恐怖心もわきあがったが、ここにはフラガがいる…それは心強く、さらには彼を無事に連れ戻さねばとも思う意思が後押しした。
銃声が途切れるたびに、キラは素早く次の角まで走った。
その頃フラガは大きなプラントが並ぶ部屋から、次の部屋に進んでいた。
今度は何かの研究室のようだ。
時代遅れのコンピューター機器がいくつも並び、埃をかぶっていた。
張り詰めたフラガの眼には入らなかったが、今彼がいるこの研究室の入り口には、「Prof.Ulen Hibiki(ユーレン・ヒビキ教授)」というプレートが貼られていた。
「ここがなんだか知っているかね?ムウ」
「知るか!この野郎!」
フラガは答え、声のしたあたりを狙って撃ったが、手応えはない。
「罪だな、きみが知らないというのは」
一方条件はおなじはずなのに、クルーゼはまるでこちらの位置を知っているかのように、正確に威嚇射撃をしてくるのでたちが悪い。
(ったく、だから俺は射撃は得意じゃないってのに!)
しかも動いた事で出血はさらに酷くなり、痛みで脂汗が出た。
傷を抑えていた手を見ると、べっとりと血がついている。
(やべぇな…こりゃ…)
「ムウさん!」
その時、自分が隠れている場所に小柄な身体が転がり込んできた。
「キラ!?」
クルーゼはいたぶるように撃っていた銃の引鉄にかけた指を止めた。
(キラ…キラ・ヤマト!!)
「そうか…やはりきみがフリーダムのパイロットだったのか…」
キラが生きており、しかも件のフリーダムのパイロットだったという決定的な結果を手にしたクルーゼは嬉しそうに笑った。
(これで全ての鍵が揃った!)
扉を開き、この壮大でつまらない茶番劇の幕を下ろす時は近い。
メンデルの港では3隻が並んで補給・整備中だった。
「そこはCLTペーストで塞いどけ!」
「ええ!?もう一発喰らったらおしまいですよ?」
応急処置ではムチャだと抗議する若い整備員に、老練な整備員が悪態をつく。
「だったらお札でも貼って、あたらないようにするんだよ!」
「第2班、予備マニピュレーターの応力歪み測定を急がせろ!」
「つまり、B5線にブリッジブレーカーを並列増設させて、バンク25のダイオードアレイと結線するんです」
アスランは各艦の整備についてアドバイスを行っていたが、哨戒任務を負っていたM1が戻ったと聞いてエターナルへ向かった。
「ナスカ級が3隻。反対側の港口、デブリの影です」
「こいつはまた豪勢だな」
バルトフェルドがその笑えない報告に笑って答えた。
一方、後退したドミニオンは依然動きがない。
「フラガたちが何か情報を持ち帰れるか…くそ!誰の隊だ?」
思い当たる節があり過ぎるバルトフェルドは、ガリガリと頭を掻いた。
「クルーゼ隊です」
それまで黙っていたマリューが言った。
「なぜ言い切れるんだ?」
キサカが怪訝そうに尋ねた。
「ムウにはクルーゼの存在がわかるのよ」
艦長たちはマリューの言葉の意味を図りかねて黙っている。
「なぜだかは、自分でもわからないということだけど…」
「それが本当なら、俺たちの敵は、相当厄介なヤツだって事だな」
バルトフェルドがうんざりしたように言った。
「きみまで来てくれるとは嬉しい限りだ、キラ・ヤマト」
クルーゼは隠れている少女に呼びかけた。
「確かきみは、きみの昔からのご友人で私の元部下、アスラン・ザラに殺された…と聞いていたのだがね。さて…どこで聞き間違えたのかな?」
キラはアスランと自分の事を知っており、それを揶揄するような彼の軽々しい口調にムッとし、キリッと唇を噛み締めた。
「食わせ者のラクス・クラインに奪取されたフリーダムがアラスカに現れたと聞いて、『もしや』とは思っていたのだよ。いや、驚いたね」
くっくっくといやらしい笑い声に続いて、不気味なほど押し殺した声で呟かれた言葉は、キラをギクリとさせた。
「しかしきみが何者かを知れば、生きているのは当然と言えるがね…」
キラがそれは一体どういう意味かと聞き返そうとした瞬間、フラガがキラの腕を掴んで叱り飛ばした。
「何で来たんだ!」
キラはその剣幕に思わず肩をすくめた。
「おまえは訓練だって受けてないし、女の子だろ!ムチャするなよ!」
「だって…あのまま外で待つなんて、できません!」
キラは精一杯抗議した。そして上目遣いで言った。
「大体…マリューさんになんて報告すればいいんです?」
「くっ…生意気…」
言うんじゃないよ、と続けようとしてフラガは痛みで顔を歪める。
「ムウさん、その傷…!」
キラはフラガが傷を負っている事に気づいた。
大したことはないとフラガは言うが、息が浅く、痛みも激しそうだ。
(大変だ…早くアークエンジェルに連れて帰らなきゃ!)
「それよりおまえ、撃つ気あるならセーフティー外しとけ!」
「あぅ…」
キラはそう言われて慌てて銃を見ると、確かにセーフティーがガッチリとかかったままだった。外そうにもやり方がわからず、「貸してみろ」とフラガに銃を奪われ、結局外してもらった。
ようやく撃てるようになった銃をしげしげと見て、キラはここに至るまで丸腰だったのだと思い当たった。
「さぁ、遠慮せず来たまえ!始まりの場所へ!」
その時、クルーゼが高らかに宣言した。
「キラ・ヤマトくん!きみにとってもここは生まれ故郷だろう?」
「え!?」
その言葉にキラは思わず反応してしまう。
(生まれ故郷?一体何の事?)
「引っかかるんじゃない!ヤツの言うことなんか、一々気にすんな!」
「敵となったのは貴様の方だろうが!」
銃を構えたイザークの態度は変わらない。
赤い人工の土が舞い上がり、彼の銀色の髪を揺らす。
ディアッカの心に、イザークとの数え切れない思い出の数々が蘇る。
(アカデミーからこっち、ずっと一緒で、いつもつるんでバカやって…)
ニコルをからかったり、アスランをバカにしたり、ミゲルやラスティと笑いあったことも、ディアッカにとって簡単に捨てられる過去ではなかった。
「俺は、おまえの敵になった覚えはねぇよ」
「ふざけるな!貴様も裏切り者だ!」
ディアッカはイザークの怒りのこもった言葉に即座に反論した。
「…プラントを裏切ったつもりもない」
「なんだと!?」
イザークにはその言葉の矛盾が理解できなかった。
「俺はプラントを守るために敵と戦っているんだぞ!」
イザークは怒鳴った。
「おまえが今もプラントを裏切っておらず、しかもプラントを守る俺の敵でもないなら…なぜ今、おまえはザフトにいないんだ!?」
ディアッカは早くも答えに辿り付いたイザークに感心して尋ねた。
「ザフトは、プラントを守るものだろ?」
「あたりまえだ!!」
禅問答のような問いかけにイザークの怒りは沸騰しそうだ。
ディアッカは彼らしい笑顔で皮肉そうに笑った。
「それでいいんだ」
「…なに?」
イザークは狐に抓まれたような顔をし、それからバカにするのかと怒鳴った。
「それでいいんだよ、ザフトは」
「貴様、一体…!」
ディアッカはイザークを止めるように片手を上げ、呟くように言った。
「俺も、プラントを守りたい。その気持ちに変わりはない」
イザークはやや怪訝そうな表情をしたが、何も言わず黙って聞いている。
「だが、今のザフトはおかしいぜ」
ディアッカの言葉が、思いがけずイザークの胸を突いた。
「アラスカもパナマも、プラントを守るための戦いじゃない」
「…あれは…っ…」
「地球軍もおかしいけどな。ナチュラル同士で戦うって、なんなんだよって」
思わず言葉に詰まったイザークを見て、ディアッカは慌てて取り成した。
その困ったような笑顔が昔と変わらない事が、イザークを軽く傷つけた。
「…ただ、俺はもうナチュラルを…」
彼の脳裏には、自分を本気で殺そうとし、同時に命を救ってくれたナチュラルの少女の、哀しげな横顔が浮かんでは消えた。
「黙って軍の命令に従って、ナチュラルを全滅させる為に戦う気はないってだけだ」
ふとイザークの思考が立ち止まった。
「バカな!ザフトは…ナチュラルを、全滅させるためになど…」
「本当にそう言いきれるか?今、この状況で」
いつになくきっぱりと、強い口調で問い詰めるディアッカに、銃を構えたイザークは思わずたじろぎ、言葉を失ってしまった。
否定したいと思うイザークの心に、もやもやと黒い雲が広がった。
(ナチュラル共なんかあっという間に宇宙からいなくなるんでしょう?)
(ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!)
(この作戦により、戦争が早期終結に向かわんことを切に願う)
「これで終わりだな、ナチュラル共もさ!」
自分が笑いながら言った言葉が、彼自身を棘のように刺した。
(バカでノロマで臆病なナチュラルを…)
イザークの心に、彼がたった一人知るナチュラルの顔が浮かんでいた。
「何だここは?」
フラガはクルーゼに導かれ、銃を構えたままキラと共に奥へと進んでいく。
「うわ!」
キラは並んだフラスコの中に何かが浮かんでいることに気づいて覗き込み、それが白く変色した胎児だと知って飛び退った。
中には水カビだらけで判別すらできないようなものもあり、そんなフラスコが無数並んでいる。
(これ、全部…赤ちゃん…?)
キラは恐怖に足がすくみ、思わずフラガの背に掴まった。
「ムウさん…何…?ここは一体何なんですか?」
フラガは安心させるようにキラの肩を抱くと、再び銃を構えた。
「懐かしいかね?キラくん」
「え?」
フラガに寄り添いながら、怯えた眼で気味の悪い物が並ぶ周囲を見まわしていたキラは、再びクルーゼの言葉に反応してしまう。
「惑わされるな!」
フラガがキラの肩を揺さぶって警告したが、キラの鋭い聴覚はクルーゼの言葉を一言一句、正確に拾ってしまう。
「きみはここを知っているはずだ」
「いい加減にしろ!」
その言葉をやめさせようとフラガは盲滅法に銃を放つ。
「知っている?私が?」
キラの心に、脅えにも似た感情が波立った。
(知らない…私はこんなところ、知らない…!)
ドミニオンは待機を続けていた。
「戦闘は終わったわけじゃないでしょ」
もう一回いきましょうよと言いながら、アズラエルは爪を整えている。
「どうしても、お聞き入れいただけませんか?」
援軍を要請して待つなり、一旦引き揚げ、陣容を立て直して出直すなり…ナタルは先ほどから何度も再戦を考え直すよう進言していた。
ドミニオンのダメージはさほどでもないが、フリーダムとジャスティス、あれがいる限り新型は抑えられてしまい、その上でアークエンジェルとクサナギを同時に相手にするのは無理だとナタルは判断していた。
「しつこいね、きみも」
アズラエルはついにこの問答に厭きたようだ。
「そんなことをしていたらザフトにしてやられちゃうじゃないか!連中を追ってるナスカ級が3隻いるって言ってるでしょ?」
(ならばなおさらだ!)
ナタルはイラッとしながら思う。
(ザフトは我らにとっても敵ではないか…!)
「奴らももうじき、動けるようになるからさ」
結局、アズラエルは退く気などなかった。
涎をたらしながら、クロトが床をいざっていく。
そしてドアにすがるとそれを叩き、鉄の扉を爪で引っかく。
爪が剥がれて血が噴出すが、その痛みすらも感じないようだ。
オルガはその光景を見ながら、呼吸をしようともがき続けた。
(なんだってこんなに苦しいんだ)
胃には何も入ってやしないのに、吐き気が止まらない。
眩暈と視野狭窄が起き、音が近くなったり遠くなったりする。
(シャニ…どこだ?)
部屋の隅で転げまわって苦しみながら、失神すらできないシャニをオルガは見つけた。クロトはガリガリと扉を引っかきながら泣き叫ぶ。
「お願いですお願いですお願いですお願いですお願いですお願いです…」
(うるせー…うるせーよ、クロト…黙れよ)
フラッシュバックが始まる。白、赤、白、赤…
(あいつ…あいつら…白いのと、赤いの)
苦しい息の下でオルガはフリーダムの姿を鮮明に思い出す。
ことに先ほど、手酷いダメージを与えられたジャスティスをイメージすると、不思議と苦しみが落ち着くようだった。
(あいつをぶっ壊す…)
手足をもぎ取り、頭を吹き飛ばし、どてっ腹に大穴を開けて、中の人間を引きずり出す。オルガはジャスティスを破壊する過程を思い浮かべた。
(泣こうが喚こうがかまわねぇ)
生きたまま内臓を引きずり出して、眼を抉り、喉を潰す…人を壊す感覚を思い出すとゾクリと欲望が頭をもたげ、苦しみもいくらか収まっていった。
(待ってろよ、赤いの…それに、白いのも)
オルガはそんな苦しみの中でも笑い、彼らを観察する研究員を驚かせた。
(じっくりと苦しめて、いたぶりながら殺してやるからな)
「ぐっ!」
「ムウさん!」
右肩を銃弾がかすめ、フラガは銃を落とした。
「大丈夫ですか!?」
キラはフラガの身体を支え、部屋の隅に転がるソファの陰に隠れた。
応接室のような、よくよく見れば豪奢な雰囲気の部屋だ。
キラはセーフティーを外してもらった銃を構えた。
(撃たなきゃ…ムウさんを守らなきゃ…!)
キラが銃を構えて立ち上がると、正面にクルーゼが銃を構えて立っていた。
ギクリとして背筋が凍ったが、クルーゼはふっと口元に笑みを浮かべた。
「殺しはしないさ。せっかくここまでお出で願ったのだから」
(仮面…これが、ラウ・ル・クルーゼ…!?)
キラはその不気味な佇まいにゾッとしたが、勇気を振り絞って睨みつけた。
「全てを知ってもらうまではね」
クルーゼは足で何かを蹴ってよこした。
それは、何枚かの写真だった。
そのうちの一枚がフラガの眼を釘付けにする。
深みのあるブロンドの髪の男が、少年を肩に乗せて笑っていた。
少年は楽しそうに父である彼の肩で、飛行機の模型を持っている。
「親父!?」
思いもかけないその言葉に、キラは思わずフラガを振り返った。
クルーゼもまた、くっくっくと笑い始める。
「きみも知りたいだろう?人の飽くなき欲望の果て。進歩の名の下に、狂気の夢を追った、愚か者たちの話を…」
キラは仮面の男から眼を離さない。
いや、離そうにも離せなかった。
(一体何を言っているのか…何を言うつもりなのか)
「きみもまた、その子供なのだから」
時間が、永遠に進まないように感じた。
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制作裏話-PHASE44-
このPHASEは、2010年7月に書き上げた時は不本意で不本意で、正直「なぜこんなに思い通りいかないのかね!」と苛立ちさえ感じたPHASEです。
本編放映時には、既に尺が足りなくなってきており、しかも世界陸上で一回休みが入る状況で、「果たしてこのペースで本当にまとまるのか?」と視聴者が不安に思い始めた頃でしたが、実際、まとまりませんでした。もちろん、続編のDESTINYがある事で、相対的に「SEEDはギリギリまとまった」と言えるようになりましたが、この時点では「まとめるのは絶対無理じゃね?」と囁かれ始めていましたね。
何より、本編ではなんだかよくわからん「両澤禅問答」で誤魔化されてしまったディアッカとイザークの対決と和解をきちんと描きたかったのに、長くなるばかりでうまく書けなかったことが心残りだったのですが、今回、ようやく思い通りの会話に持っていけました。
逆種を執筆している当時は、「なるべくオリジナルの会話しか使わない」としていたために、このおかしな「禅問答」を彼らの心情描写だけで補完しようとしましたが、種以上にひどいDESTINYは逆デスでかなりセリフを作ったので、ここでも必要なセリフを創作しました。というか、創作しないととてもじゃないけどちゃんとした「会話」になってないんですもの。場面もコロコロコロコロ変わるし…構成悪すぎでしょ!
とにかく、2人の会話を通じて「ザフトはプラントを守ることが目的であり、敵であるナチュラルを滅ぼすことが目的ではない」という背骨(これは地球軍にも言えることですが)を明らかにしたことで、この戦争がいまや狂気と暴走に走り出していることを浮き彫りにし、これまでの三隻同盟にはなかった大義を与えたかったのです。
もう一つ力を入れているのが、薬中トリオの描写です。私はこの3人が少年にしてシリアルキラーであり、死刑囚であるという初期設定が大好きで(今はどうなっているのか知りませんが)、それゆえに彼らのゾッとする残虐性と呆れる自分勝手さを描きたかったので、オルガやクロトの内的描写は楽しかったです。オルガがシリアルキラーらしく殺人と快楽を結びつけている描写の一環として、ジャスティスと中の人間を引き裂くと残酷な想像を働かせるシーンは、逆種ではアスランが女性なので(もちろんオルガは最後までそれを知ることはありません)ちょっとやり過ぎかと思いましたが、別に子供向けに書いているわけではないのでこれくらいはお許しいただきたいと思います。クロトも外道ですね。何をしたんだキミは…
さらに、まさしく自分の「制作裏話」をすると、シャニはナチュラルながらオッドアイゆえに忌み嫌われて母親に疎まれ、捨てられたという過去があると聞いていたので、「置いてきぼりにされる」事に非常に敏感である、という裏設定を入れてあります。DESTINYでいう、「ブロックワード」に通じるものをちょっと入れてみたのです。
こんな風に、3人組にも掘り下げがあったら面白かったのに、と思いつつ、彼らの描写は結構力を入れてあります。
「バーサーカー」についても、キラがここでチラリと「連合の非道」に眼を向けることで、「もしかしたらDESTINYで、ステラを返そうとしたシンの本当の気持ちをわかってあげられたのはキラだけだったのかもしれない」という含みを持たせてあります。この「バーサーカー」は種割れに対する面白いたとえなので、逆デスでもバルトフェルド絡みでもう一回使っています。
ミリアリアとディアッカ、アスランとカガリにもちょっとしたスパイスを加えてありますが、ここは基本、キラが主軸です。もたもたと銃を構え、フラガを守ろうとした割にはセーフティーが外れておらず、不気味な研究所にビビりまくり、仮面のおじさんにいじめられる…本編のキラきゅんも可愛すぎましたが、逆種のキラにゃんも可愛く書いてあります。あーあー、何してもキラは可愛いなぁ、くそぅ!(勘違いされているかもしれませんが、私、本編では筋金入りのアンチ・キラでございます)
冒頭の戦闘シーンは、相変わらず記憶のみが頼りで、ほとんど想像で書いております。フリーダムとジャスティスは圧倒的なのに、新型3機は結構頑張ります。DESTINY本編で、主役のシンとレイが連中にあっさりやられた(しかも打撃自由も無限正義も全くの無傷)のはやはり納得いかんわー
本編放映時には、既に尺が足りなくなってきており、しかも世界陸上で一回休みが入る状況で、「果たしてこのペースで本当にまとまるのか?」と視聴者が不安に思い始めた頃でしたが、実際、まとまりませんでした。もちろん、続編のDESTINYがある事で、相対的に「SEEDはギリギリまとまった」と言えるようになりましたが、この時点では「まとめるのは絶対無理じゃね?」と囁かれ始めていましたね。
何より、本編ではなんだかよくわからん「両澤禅問答」で誤魔化されてしまったディアッカとイザークの対決と和解をきちんと描きたかったのに、長くなるばかりでうまく書けなかったことが心残りだったのですが、今回、ようやく思い通りの会話に持っていけました。
逆種を執筆している当時は、「なるべくオリジナルの会話しか使わない」としていたために、このおかしな「禅問答」を彼らの心情描写だけで補完しようとしましたが、種以上にひどいDESTINYは逆デスでかなりセリフを作ったので、ここでも必要なセリフを創作しました。というか、創作しないととてもじゃないけどちゃんとした「会話」になってないんですもの。場面もコロコロコロコロ変わるし…構成悪すぎでしょ!
とにかく、2人の会話を通じて「ザフトはプラントを守ることが目的であり、敵であるナチュラルを滅ぼすことが目的ではない」という背骨(これは地球軍にも言えることですが)を明らかにしたことで、この戦争がいまや狂気と暴走に走り出していることを浮き彫りにし、これまでの三隻同盟にはなかった大義を与えたかったのです。
もう一つ力を入れているのが、薬中トリオの描写です。私はこの3人が少年にしてシリアルキラーであり、死刑囚であるという初期設定が大好きで(今はどうなっているのか知りませんが)、それゆえに彼らのゾッとする残虐性と呆れる自分勝手さを描きたかったので、オルガやクロトの内的描写は楽しかったです。オルガがシリアルキラーらしく殺人と快楽を結びつけている描写の一環として、ジャスティスと中の人間を引き裂くと残酷な想像を働かせるシーンは、逆種ではアスランが女性なので(もちろんオルガは最後までそれを知ることはありません)ちょっとやり過ぎかと思いましたが、別に子供向けに書いているわけではないのでこれくらいはお許しいただきたいと思います。クロトも外道ですね。何をしたんだキミは…
さらに、まさしく自分の「制作裏話」をすると、シャニはナチュラルながらオッドアイゆえに忌み嫌われて母親に疎まれ、捨てられたという過去があると聞いていたので、「置いてきぼりにされる」事に非常に敏感である、という裏設定を入れてあります。DESTINYでいう、「ブロックワード」に通じるものをちょっと入れてみたのです。
こんな風に、3人組にも掘り下げがあったら面白かったのに、と思いつつ、彼らの描写は結構力を入れてあります。
「バーサーカー」についても、キラがここでチラリと「連合の非道」に眼を向けることで、「もしかしたらDESTINYで、ステラを返そうとしたシンの本当の気持ちをわかってあげられたのはキラだけだったのかもしれない」という含みを持たせてあります。この「バーサーカー」は種割れに対する面白いたとえなので、逆デスでもバルトフェルド絡みでもう一回使っています。
ミリアリアとディアッカ、アスランとカガリにもちょっとしたスパイスを加えてありますが、ここは基本、キラが主軸です。もたもたと銃を構え、フラガを守ろうとした割にはセーフティーが外れておらず、不気味な研究所にビビりまくり、仮面のおじさんにいじめられる…本編のキラきゅんも可愛すぎましたが、逆種のキラにゃんも可愛く書いてあります。あーあー、何してもキラは可愛いなぁ、くそぅ!(勘違いされているかもしれませんが、私、本編では筋金入りのアンチ・キラでございます)
冒頭の戦闘シーンは、相変わらず記憶のみが頼りで、ほとんど想像で書いております。フリーダムとジャスティスは圧倒的なのに、新型3機は結構頑張ります。DESTINY本編で、主役のシンとレイが連中にあっさりやられた(しかも打撃自由も無限正義も全くの無傷)のはやはり納得いかんわー