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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「Nジャマー・キャンセラーのデータを手に入れたというのは、確かにお手柄だよアズラエル。しかし…」

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クライン派およびオーブ残党、ザフト軍との戦闘の後、捕虜として囚われていたフレイ・アルスターが持ち帰ったデータを持ち、アズラエルは直ちに月基地へと帰還した。
その後様々な方面と怪しげなやり取りを重ねた彼は、地球に降りて連合の首脳陣との会合に臨んでいた。
アズラエルの狙いは当然、このNジャマーキャンセラーによって使用可能となる核の再兵器化である。それによってプラントを討って戦争を終わらせ、連合側の圧倒的有利のもとにプラントとの戦後交渉にあたりたい。
コーディネイターを黙らせてその叡智のみを利用しながら、再びナチュラルが実権を握る世界で富を我が物にすることは、もはや失った夢などではない。
しかし軍内部でもこのところの厭戦傾向で、過激な作戦は敬遠されがちになっている。首脳陣はむしろ、ユーラシアが唱える「戦線縮小主義」を受け入れつつあった。
「核で総攻撃というのは…」
「それよりも深刻となっている地上のエネルギー問題の解決を優先させた方が…」
「うむ」
彼らは以前ほどたやすくはアズラエルの思い通りに動かない。
その背景には、世論の後押しがあった。
戦いは多くの犠牲を生み、世間もここにきてようやく、このままでは元々は一つだった人類が、滅ぼしあうまで戦う事になるのではないかと危機感を感じ始めている。
また、地道な和平派や中立派の運動も実を結びつつあった。
連合が隠してきたJOSH-Aのサイクロプス使用も、いずこからともなくネットワーク上に漏れ、黒い噂として多くの人々の不興を買っている。
またアークエンジェルやオーブ、プラントの情報を元に、アラスカの事実や、中立国を踏みにじったオーブ戦の真実を世界に発信している逃亡オーブ人が結成した反抗組織も、今は連合に協力させられているオーブと同じ中立国を中心に着々と支持を集めていた。
当然連合は彼らの押さえ込みに躍起だったが、彼らは連合、ことに大西洋連邦が行った非道を暴いて、自由な意見や主張が認められなくなっている今の世界を弾劾し、活発化していた。
こうした風潮と情報の流出が続くと、やがて地球にナチュラル、プラントにコーディネイターが棲み分けることで、戦いがやみ、世界が均衡するなら、それもまたいいのではないかという方向に傾く人も少なくない。
多くの人が皆、戦いに疲れ、戦いに厭いていた。

意気揚々と戻ってきたアズラエルはこの状況を見て、当然ながら不愉快さを露にした。
(この僕が自ら前線にまで赴き、地球を連中に任せたらこの始末だ)
不甲斐ない首脳陣を見てアズラエルは忌々しそうに舌打ちした。
(空の化物と仲良しこよしなどさせるものか。ヤツらは潰す…必ず)
アズラエルは直ちに各地に散るブルーコスモスの幹部を叱りつけ、和平だの停戦だのと叫ぶ連中を吊るし上げ、粛清するよう命じた。
その一方で内に秘めた想いなどおくびにも出さず、彼はにこやかに言う。
「何をおっしゃってるんですか、皆さん」
首脳陣はその場にそぐわない明るい声に不気味さすら感じて黙り込んだ。
「この期に及んで…撃たなきゃ勝てないでしょうが、この戦争。敵はコーディネーターなんですよ?」
あと一歩というところまで来たのだ…やつらを追い詰めるまで。
アズラエルは「わからないなぁ」と首を振りながら訊ねた。
「大体、核なんてもう前にも撃ったんだ。それを何で今更ためらうんです?」
あまりにも明るいその言い草には、首脳陣も戸惑いを隠せない。
「いや、あれはきみたちが…」
以前からアズラエルに対して冷ややかな意見を持つ代表が口を開く。
ユニウスセブンへの核攻撃は、当初もさすがに人道的にもとる作戦だと軍内部でも反対が多かった。しかしアズラエルら開戦派の強い圧力に加え、ブルーコスモスの反コーディネイター活動による世論操作、さらに反対派を押し込め、始末する血なまぐさいテロや暗殺が続き、首脳陣を半ば脅迫する形で結果的に可決されたようなものだった。
アズラエルはその声を遮るように席を立つと、いつものように芝居がかった口ぶりで話し出した。
「核は持ってりゃ嬉しいただのコレクションじゃあない」
コツコツと歩き回り、大仰に手を広げて彼は語る。
「強力な兵器なんですよ?兵器は使わなきゃ。高い金をかけて作ったのは、使うためでしょ?」
その金を出したのはアズラエルらキナ臭い武器商人の連中だ。
莫大な資金を投資し、戦争という他に例を見ない大量消費によって巨万の利益を得ている。後に「ロゴス」と自らを称するようになる不遜な彼らは、表舞台には決して姿を見せず、経済・金融市場を暗躍する闇ギルドなのだ。
「さあ、さっさと撃って、さっさと終わらせてください。こんな戦争は。それが皆様のお仕事でしょう?」
不愉快そうな顔はしていても、アズラエルの持つ資金とあちこちにコネの効く強い影響力に、首脳陣とて誰も何も言えずに黙り込んでしまう。
アズラエルはニヤリと笑い、再び自分が世界を動かしていることを実感した。

こうしてNジャマー・キャンセラー搭載型核ミサイルの開発が決まると、月基地にはさらに地球から物資、および部隊が続々と上がってきた。
同時に核使用に反対するユーラシアや東アジア共和国は、ビクトリア奪還の勢いに乗ってアフリカ大陸をさらに北進し、ザフトを追い詰めるべく、ジブラルタル攻略を画策し始めていた。
月基地に戻ったドミニオンでは、アズラエルが帰り次第、再び脱走艦アークエンジェルを追うと共に別の任務が発令される事になっていたが、今は補給と修理を受けながら、しばしの安寧に浸っていた。
フレイ・アルスターは月基地において長時間の尋問の後、アズラエル理事、及びバジルール少佐の証言もあり、特例的に昇進した上で軍に戻れる事になった。
「除隊することもできるんだぞ?」
かつて彼が軍に志願した時、その言葉を聞き、自らが承認したナタルは、フレイに言った。しかしフレイは「いいえ」ときっぱり首を振った。
「ここに…アークエンジェルを追うなら、僕はドミニオンに残ります」
フレイの心にはいつも、哀しげな瞳をした小さな少女がいた。
「キラと、もう一度話がしたいんです。いろいろな事を、話したい…」
「しかし、我々は彼らの『敵』として会う事になる」
ナタルは感慨深げに呟く少年の甘い夢を砕いた。
(ここは戦場なのだ。一つ間違えば死が待っている)
しかしフレイはひるまず、感情的にもならなかった。
「わかっています」
戦場の厳しさも、地球軍が戦っている「敵」のことも、皆見てきた。
戦争が怖い事に変わりはない。逃げ出せるなら逃げてしまいたい。
(でも、俺は戦争を終える鍵を運んできたはずなんだ)
それが一体何だったのか、「鍵」がこの戦争をどうやって終わらせるのか、それを運んだ自分には見届ける義務が、責任があるとも思っている。
(彼はザフトで、一体何を見聞きしてきたのだろう?)
すっかり落ち着きと強さを身につけた少年を見て、ナタルもまた思う。
自分から運に志願しておきながら仕事を覚えようとはせず、ヘリオポリスの学生たちの中では最も役立たずだと思っていたフレイは、いまやベテラン通信士でさえ舌を巻くほどの高度なオペレーション技術を身につけていた。何より驚く事に、彼は古今東西で使われているほぼ全ての緊急・暗号通信に精通していた。
「どこで習ったか知らんが、その若さで大したもんだな、坊主」
「…いえ、そんなこと…」
フレイは古参の兵たちから賞賛を受けるたびに、罵倒され、怒鳴りつけられながらもきちんと基礎から教えてくれた銀髪のコーディネイターを思い出した。
アークエンジェルがなぜ脱走艦になったのかは、ナタルが説明してくれた。
「しかし確かに、彼らならその道を選ぶだろう」
ナタルは、アラスカやオーブ戦について淡々と事実を説明した後で、少し寂しそうに言った。フレイは、もしかしたらこの人も、本当は彼らと戦いたくないと思っていて、自分と同じようにただ「彼らに会いたい」と願いながら追っているのではないか…と、ふと思った。 
(キラ…サイ…)
フレイが月基地から見上げる宇宙は広く、闇ばかりが広がっている。
(一体今どこに…)

「スラスターはメインを決めたら、前後左右のバランスを重視して。難しかったらコンピューター制御に任せて、微調整だけでいいから、適度な強さで姿勢制御を急ぐ。次の動作に移る前に、まずそれが…」
「だーっ、もう!おまえらみたいにできるかよ!!」
カガリは結局バランスを崩してくるくると回ってしまうM1に手を焼く。
「ヘタくそねぇ、若様」
「それでよくあたしたちをバカにしてくれたわね!」
通信機からきゃあきゃあ聞こえてくるかしましい声がうっとうしい。
L4を一旦離脱後、ジャンク屋や星間流通商会と合流して補給と修理を受けたエターナルらは、ザフトと地球軍の眼を盗み、再びデブリ帯に姿を隠していた。
地球軍の動きが活発になると、ザフトも自然、本国の守りを固めるために防衛線を下げたため、両者の監視が緩んだのだ。
その間にラクスはプラントの情報を得るため、ダコスタら斥候を何度かプラントに送り込み、残っているクライン派への激励と、ザフトやザラの動向を探らせ、互いの連絡を密に行わせていた。
一方でクサナギは占領中のオーブから脱出し、密かに赤道連合諸国や大洋州など周辺国に渡ったオーブ残党と連絡を取り合っていた。
真実を糾弾する地道な活動を続けている彼らの活動が実を結びつつあるのは前述の通りである。オーブから逃れた彼らは、オーブの精神的支柱だった元代表ウズミを失った事でバラバラになりかけていたが、ウズミの子カガリが生存している事を知り、少しずつ勢いを盛り返していた。
彼らは他の組織とも積極的に合流しながら組織を育成し、集結しつつあった。
カガリは避難民を連れてオーブから脱出した将校や首長たちと連絡を取り、連合の穏健派や和平派との対談の設定を依頼した。表向きは全面的に連合に協力しているスカンジナビアも、極秘裏に連合の和平派との接触を図り、会合の場を作ろうと画策してくれている。
しかし巨大な世界の壁の前には、これらも所詮は小さな力でしかない。
彼らがドミニオン、ヴェサリウスと交戦してから2週間と経たないうちに、ユーラシアを主軸とする地球連合軍がカサブランカ沖に結集し、ジブラルタルを攻撃し始めた。かつては堅牢を誇ったジブラルタルも、アフリカ戦線の縮小で大幅に駐屯兵を減らした今、その威を保つ事はできなかった。
善戦はしたものの、ますます量産がなされたストライクダガーの前にあっけなくひれ伏し、ザフトはわずか数日の篭城戦で防衛を諦めると、ジブラルタルを放棄するという全面撤退を決定したのだった。
「ジブラルタルが…」
「堕ちたのかよ」
このニュースにはさすがにアスランもディアッカも言葉がなかった。
大西洋とヨーロッパににらみを利かせるジブラルタルと、太平洋を守るカーペンタリア…ザフトにとってこの二つの基地は、長い間辛酸を舐めさせられ続けた「プラント理事国」に鉄槌を下した証であり、コーディネイターとしての誇りの象徴でもあったのだ。
ジブラルタルが堕ちた事で、アフリカ戦線は再び一変した。
元々プラント寄りだった北アフリカが連合の支配下に入り、弾圧と思想粛清が激しいと聞く。その混乱はまた多くの人々を巻き込んでいるに違いなかった。
(サイーブたちはどうしているだろう…大丈夫なのか)
カガリは、長い間ザフトと戦っていた彼ら「明けの砂漠」を慮った。
「なぁに、たくましいからねぇ、彼らは」
その、当時はまさしく彼らの「敵」であったバルトフェルドは笑った。
「新たな支配者のユーラシアが彼らの望む自由や権利を認めなければ、今度は奴らを敵とみなして果敢に戦うだけさ。自走砲やバズーカでね」
反論しようとするカガリに、指を立てて「バカにしてるわけじゃないぜ」と言い置いてから、彼は続けた。
「何が本当の敵なのかを知りもせずに戦っている連中より、自分たちの敵が何なのかをはっきり認識して戦っている彼らの方が、よっぽどちゃんと『戦争』をしてるといえるのかもしれんよ」
「ちゃんとした戦争なんてあるもんか」
口を尖らせるカガリの反論に動じる事もなく、バルトフェルドは「それはもっともな意見だな」と笑ってうまそうにコーヒーを飲んだ。

摩擦のない宇宙でいつまでも回り続け、ヘタなスラスター操作で安全域から離脱しかけるM1を、アスランはジャスティスで支えた。
「くそー、ダメだなぁ」
「でも、さっきよりよくなったわ」
ぼやくカガリを励ましながら、アスランは根気強く指導しているが、実際にはまだ戦闘経験のない新米のM1パイロットよりは上達が早い。生来の負けん気の強さも習得を早めている。
「よし、もう一回やってみる」
エリカ・シモンズたちはオーブから運んできた部品を次々と組み立て、さらにはジャンク屋などからパーツを手に入れてはM1を製造していた。
その生産ラインは急場しのぎとは思えないほどで、おかげでパイロットの養成が間に合わず、乗り手のいないM1がハンガーに溢れるほどだった。
しかもどうやらM1のみならず、彼女にはもう一つ、夢中になっている機体があるようだ。アスランはそれに関わっていないが、キラはよくクサナギに呼ばれて、シモンズの仕事を手伝っているようだった。
元々ストライクに乗ると立候補するくらいだったから、カガリは即座に自分もパイロット訓練を受けると手を上げ、キサカに渋い顔をされていた。
「戦うんじゃなくて、脱出時や作業のためだ。ならいいだろ?」
カガリはキサカを粘り強く説得し、ようやく許可が下りて訓練に至っている。
最後は一定速度での着艦訓練を行って終了となり、思うようにいかなかったカガリは仏頂面でコックピットから降りてきた。
かつて散々ヘタクソと罵られたアサギたちは、お返しとばかりにカガリをからかい、「うるさい」と怒鳴られてはきゃあきゃあと華やかに笑った。
やや遅れてジャスティスのコックピットから降りてきたアスランは、そんなカガリをチラリと見た。いつも女の子たちに囲まれている彼を…
「でも、カガリもずいぶん上手になったよ」
「おまえに言われても全っ然嬉しくないんだよ!」
カガリは訓練どころかそもそも練習すらしたことがないキラの額を小突く。
「きっと、アスランの指導がいいからだね」
キラは額をさすりながら笑った。
メンデルとフレイの一件以来、しばらく元気がなかったキラも、最近はようやく以前のように明るい笑顔を見せるようになった。
同じくクルーゼとの悶着以来、特に熱心に訓練を重ねるフラガの模擬戦闘の相手を務めたり、ナチュラルのためにOSや支援ソフトを改良したりと忙しない。
フレイのことは一切語らないので、アスランもそれ以上は聞いておらず、キラが話したくなるまで待てばいいと思っていた。

「ジブラルタルが堕ちりゃ、次は当然カーペンタリアだろうな」
珍しくアークエンジェルのブリッジに上がってきたディアッカが言った。
「ザフトはパナマからも全軍引き上げて、ジブラルタルの残存勢力も合わせてカーペンタリアに集結させてるんだろ?」
「つまり、あちらさんも総攻撃に備えてるってわけだ」
モニターの向こうのバルトフェルドが模式図を映し出してとんとんとモニターを叩いた。
「大洋州は当然、かなり助力してくれるだろうが…」
「で?カーペンタリアは持ちこたえられんの?」
「さぁて…」
フラガが尋ねると、バルトフェルドもさすがに難しい顔をした。
「オーブを基地として、大西洋連邦が艦隊を送り込むはずよ」
位置的にも、カーペンタリアへの橋頭堡としてうってつけだもの…マリューの言葉に、カガリが表情を曇らせる。まさかオーブ艦隊が、連合の命に従ってザフトと戦うために出撃する事もありうるというのだろうか。
「いや、オーブにはそこまでの戦力は残っていまい」
カガリの心を読み取ったように、キサカが呟いた。
艦隊司令部のトダカやソガたちの安否もまだ不明なままだ。
「ホムラ代表をはじめ残った首長たちも軟禁状態のようだし、軍はほとんど解体状態で機能していないだろう」
「…」
その言葉にカガリの表情は暗く陰る。ひどく気の弱い伯父には事態を収拾しきれまい。
どちらにせよ、踏みにじられたオーブの解放は彼らの悲願だった。
戦争のうねりはますます大きくなるばかりで、ちっぽけな自分たちが一体何をすればいいのか、ともすれば目的を見失いそうになる。
そんな不安に駆られる事が多い彼らは、常に話し合いの機会を持ち、自分たちの成すべき事が何なのか確認しあった。話し合いの内容は整備兵や捕虜、民間人に至るまで包み隠さず流され、知らされた。
誰もが、誰かが決めた事に盲目的に従う必要はないと考えるラクスは、3隻の誰の意見であろうとも耳を傾け、お互いが納得いくまで話し合った。
「僕たちだけが何かを決められるなんて、誰にも思って欲しくない」
けれどそんな無理がたたって倒れるたび、アスランはラクスを厳しく叱った。
「ほら、怒ると怖いだろ、アスランは」
ラクスは怒られるたびにいたずらっぽく笑ってキラに訴え、キラはラクスの顔色の悪さには気づかないふりをして頷いた。

「ラクスさんとアスランは、本当にお似合いね」
休憩時間を利用してエターナルの彼を見舞った帰り、サイがキラに囁いた。
「私もそう思うな。あの2人って、元々婚約者同士なんでしょ?」
ミリアリアも同意したが、キラは困ったように首を傾げた。
「でも、婚約はもう破棄されたんだってアスランは言ってたよ」
「え?」
「そうなの?」
2人が驚いているのを見て、ランチを操縦しているディアッカが口を開いた。
「けど正式な婚約破棄は…」
「あんたには聞いてないから」
けれどミリアリアが素っ気なく遮り、しゅんとしたディアッカを見てキラもサイも苦笑した。ディアッカはヒマさえあればミリアリアにまとわりついて離れないのだが、ミリアリアときたら彼が意見を言ったり同意を求めても、相変わらず冷たい態度でとりつく島がない。
それでも最近、2人きりになった時だけは少し優しくしてくれるので、ディアッカはいたく満足していた。もっとも彼らのそんな姿を見ているチャンドラやパルからは、「どう見ても尻に敷かれてるよなぁ」と陰でこっそり笑われているのだが。

やがて彼らの読みどおり、カーペンタリア奪還を目指した大洋州への総攻撃が始まった。地球軍はオーブを基地として太平洋艦隊に海からの攻撃を行わせ、さらに月に集結させていた戦力をザフトの十八番である降下作戦に使い、内陸からもカーペンタリアを攻撃させた。
結果的に太平洋の制空権を巡る戦いなので、大西洋連邦も積極的に参加した。
カーペンタリアはよく持ちこたえていたが、戦いは激化するばかりだ。
犠牲が増えれば、プラントでもこれ以上若者を失う事は得策ではないと和平への願いが強くなる。ただでさえ出生率の低下が著しい彼らが種族として生き残るためには、若い世代を失う事は致命的だった。
「防衛部隊を増強しろ。奴らを図に乗らせるな」
ザラ議長はそれらの声を力で抑え込んでいたが、戦いが最終局面に近づけば近づくほど滅びの危機を感じるのか、人々の停戦・終戦への願いは強くなっていった。
時に乗じて活発化したクライン派は、多くの同志を凶弾で失いながらも、地道に軍内部の切り崩しを行い、ラクス生存をふれまわって厭戦気分を煽った。
一方ラクスは、この頃盛んに過激な思想を持つ反ザラ派のレジスタンスとも接触を試みていた。
それは危険を冒してでも彼らの武力を利用しなければならないと判断したからで、現在ザラ議長に拘束されている穏健派議員を開放させるためである。
彼ら穏健派議員たちなくして、連合との停戦交渉や戦後交渉はありえない。
しかし彼らレジスタンスを動かすにはどうしても餌をちらつかせる必要がある。
彼ら反ザラ派が、イコール穏健派ではないからだ。
彼らは戦後、当然政治参加を望むだろうが、テロリストまがいの連中の地位を、ましてや現評議会議員でもないラクスが保証することはできない。
たとえ口約束をしたとしても、ほぼ100%反故になることは確実だった。
「危険だぞ。この先ずっと命を狙われる危険もある」
バルトフェルドは危ない橋を渡る事で、後々ラクスの身が危険にさらされる事を示唆した。
(連中は戦後、クラインの息子が政治の表舞台に立つ可能性を担保にして今回のラクスの要求を受け入れるだろう。しかしその先は…)
連中を政治の中枢に入れることなどできるわけがない。
裏切られたと知れば当然命を狙われ、逃亡しなければならなくなるだろう。
「それでも、今は彼らの力が欲しいんだ」
使えるものは何でも使わなければ…ラクスは呟いた。
「手遅れになる前にね」
ラクスのこうした覚悟は大人たちを感心させたが、同時に自己犠牲の度が過ぎるのではないかとアスランを不安にさせた。

「驚かされてばかりね、あなたには」
ラクスはふうと大儀そうに息をついて横になると、呆れたような、けれどどこか感心したようなアスランの言葉にふふっと笑った。
「反ザラ派からも、ザラ派からも、恨まれる事になるかもしれないね」
「穏健派だって味方とは限らないわ。私たちを邪魔に思うかもしれない」
それに…アスランは視線をそらし、口ごもった。
(私たち軍人は皆、戦後は恐らく軍法で裁かれる事になる)
アスランの脳裏には常に銃殺刑かもしれないという予想がちらつくが、そのことはキラには何も話していない。不安がるに違いないからだ。
投薬が終わり、眼を閉じたラクスがアスランに尋ねた。
「戦争を終わらせる鍵って、何だと思う?」
「え?」
あの時、フレイ・アルスターが叫んだあの言葉…当時戦闘中だったアスランは状況が飲み込めず、会った事もない彼の発言を深く考えたことはなかったが、ラクスはそれが心に引っかかっているようだ。
「さぁ」とアスランは首をかしげてラクスを見守る。
「そんなものがあるのかしら」
「本当に…戦争を終わらせるものなのか…それとも…それは…」
やがてラクスは眠りに落ち、アスランはそれを見届けると部屋を出た。
外で待っていたキラとカガリに「今眠ったわ」と伝えると、キラが「様子を見てくるね」と入れ替わりに部屋に入って行った。
ラクスは部屋に戻ると気が緩み、いつも崩れ落ちるように横になる。
そんな姿は自分の体をよく知るアスランにしか見せたがらなかった。
元々婚約者同士なのだし、ラクスがアスランに心を許すのは当然だ。
しかしカガリは、不満ではないと思いつつ、なんとなく気になってしまう。
「ラクスの具合、どうだ?」
「うん。最近は結構無理してるから…」
「あいつ…すごいよな。あんな体なのに、自分の命まで賭けてさ」
カガリが呟くと、アスランはほぅと息をついた。
「それだけ、思うところがあるんでしょう」
自分が知るラクスは少し変わっていて、明るくて優しかったが、あんな強さは見せなかった。アスランは彼がクルーゼにピシャリと戦闘停止を命じた時と、劇場での会話を思い出し、自分の弱さを看破したラクスの真の強さを痛感する。
カガリはそのまま物思いに沈んだアスランをチラリと見つめた。
アサギたちからは「若様とアスランさんじゃ絶対つりあいませんね」と笑われ、「そうそう、美人だもんねぇ」と彼女を褒めるフラガは、その後決まって自分をじっと見つめ、「…坊主も大変だなぁ」と苦笑するので頭にくる。
(大体俺がいつこいつを…その…気にしてる…みたいなこと言ったよ!)
非常に不本意だ。連中の言う事にいちいち動揺する自分も不本意だ。
何より今はこんな時だ。いつ何が起きるかもわからないし、自分も訓練や情報収集に忙しいし、変な事にうつつを抜かす場合じゃない。
(俺は一応、アスハ家とオーブを背負う立場なんだからな!)
やがてキラが出てくると、アスランはもう少しラクスの様子を見ていくと言い、2人を見送った。
キラは手を振って挨拶すると、しみじみと言った。
「アスランってホント、ラクスのお嫁さんみたいだよね」
そんな悪気のない無邪気なキラの言葉が、何より一番カガリをヘコませた。

やがて「鍵」とは一体何なのかが明らかになる日がやってきた。
それはラクスが、かつて父が秘密裏に会談を持った地球連合事務総長オルバーニとの会談を、マルキオ導師を通じて持てないかと、熱心に働きかけていた矢先の事だった。
「明け、1200を期して、第六ならびに第七機動艦隊は月周回軌道を離脱。プラント防衛要塞ボアズ、及びプラント本国への直接攻撃を開始する」
ドミニオンをはじめとする、月に駐屯している艦隊が発進し、L5にあるザフトの要塞ボアズを目指す。かつてはL4にあったユーラシア旗下の資源衛星「新星」は、グリマルディ戦線直後にザフトの手に落ちて以来、L5まで運ばれて改造・改築が施され、要塞化されていた。
「ボアズへの侵攻が始まっただと!?」
ヴェサリスの撃沈後、本国に戻ったイザークは、特務隊所属となったクルーゼの隊を離れ、自らが多くの部下を預かる身となっていた。
「ジュール隊長!」
血気盛んなヒヨっ子たちは動揺しつつも、自分たちへの出撃命令があれば、果敢に飛び出す気概を見せている。
イザークは彼らを諌めると、情報を得るために司令部に通信を入れた。
そこには今、母がいるはずだった。
「うろたえるな。月艦隊のボアズ侵攻など想定外のことではなかろう」
攻撃開始の報に驚き、振り返った件の女性…イザークによく似た美しいエザリア・ジュール議員にパトリック・ザラが指示を下した。
「全軍への招集は?」
「完了しております」
「報道管制」
「は!既に」
ザラは士官たちに的確に指示を下した。
月艦隊に動きがあることなどとうの昔から予測済みだ。
問題は、そうそう簡単に堕ちるはずのない要塞に、一体なぜ今、ナチュラルどもが敢えて攻撃を行う気になったのかという事だった。
ビクトリア、ジブラルタル、カーペンタリアと、確かに昨今は地球上での戦いに勝利し続け、有利に事を進めているとはいえ、彼らコーディネイターが本領を発揮する宇宙は、連中にとっては不利以外の何物でもないアウェイだ。
(連中は何か勝利への切り札を持っていると言うことか?)
ザラは眉根をひそめた。

ダガー連隊に対し、勇猛さを誇るボアズ守備隊が迎え撃たんと展開する。
さすがにストライクダガーの戦闘データが集まってきた今は、歴戦を勝ち抜いてきたコーディネイターにも対抗策は見えてくる。
鹵獲した機体のOSを解析してプログラムを読み取れば、ナチュラルが反応しきれない動きをしてみせるだけで、戦闘はすぐに有利に覆った。
艦隊はジンが数機素早い動きで取りつけば、相変わらずもろい。
ボアズでは誰もがこの攻撃はあまりにも無謀だと鼻で笑っていた。
「敵艦、左翼に展開」
「ムーア隊、チェリーニ隊より支援要請」
手薄な部分を狙われると、すぐに支援部隊を送らせる。
「砲火を左翼に展開させい!支援にはネール隊を!中央はどうなっているか!」
「アイザー隊が防衛しております」
「ネール隊、発進は五番ゲート」
ジンや、配備の始まった新型のゲイツが次々と飛び出していく。
司令官は磐石の守りを敷きつめた戦場を満足げに見つめていた。
「このボアズ、抜けるものなら抜いてみろ!思い上がったナチュラルどもめ」
イザークは部下たちと共にこの戦闘の推移を見守っていた。
荒くれとさえ言われる守備隊が守るボアズが落ちるはずがない。
イザークは士官学校や戦場で見知った顔を思い浮かべ、いい知れぬ不安を拭い去ろうとした。こんな作戦、秘策があるからではなく、無謀なだけだ。
(…俺は奴らの勝利を信じるぞ)
必死でそう思おうとしている気がしながら、イザークは戦況を見つめていた。

議長がこの攻撃に疑念を感じたと悟り、クルーゼが口を開いた。
「ボアズ突破が容易でないことくらい、地球軍とて承知のはず」
その言葉はザラがふと思った疑念をさらに掻き立てるものだった。
「何の勝算もなしに侵攻を開始したりはしますまい。今踏み切ったそのわけが気になります」
これから何が起きるのか、彼にはおおよそ予想がついている。
(存分に滅ぼしあうがいい…もう誰にも止めることはできない)
仮面を直すふりをしてクルーゼは手を添え、人知れずにやりと笑った。
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制作裏話-PHASE47①-
このPHASEは初めと最後以外はほぼオリジナルで補完した話なので、お恥ずかしながらあまり他人様にお奨めできるPHASEではありません。

そんな中でも、フレイの心境や現在おかれている状況をきちんと描けたのはよかったと思います。コーディネイターのイザークに厳しく仕込まれた通信技術が卓越したものであるというのも、地球軍での彼の地位を安泰にします。本編と違い、ナタルがフレイの成長を見つめているのも、キャラとキャラの繋がりを大切にしていれば普通にできる事だと思います。

この頃になると既に次の逆デスに向けて構想が発進していますので、重要な伏線をいくつか張っています。

まずは「ラクスが敵対する事になる過激派」との関係です。
逆デスでは議長がラクスを暗殺する際、暗殺部隊がザフトと丸わかりなのもおかしいので、カムフラージュのために彼らを利用するという設定にしてあります。さらに、彼らとの抗争がラクスを政治の表舞台から遠ざける一因であるとして、ラクスが三隻同盟を率いた責任をとっていない理由の一つにしたかったので(一番の理由はちょうど50話後の逆デスPHASE47でラクス自身がアスランに語るように、「自分の責任から逃げていた」からですが)、彼はこの時点でカナーバたちを開放するために彼らの武力を利用した事にしています。いわば彼らを詐欺にかけたので、ラクスは彼らに恨まれ、執拗に命を狙われる事になります。
(本編では穏健派が一体どうやって開放されたのか描かれていないので、アレンジしても咎められない)

そしてアスランもまた、穏健派が全て自分たちを許容するとは限らないと冷静な意見を述べています。これは、「ザラ議長の娘」である彼女がプラントに残る事をよしとはしない勢力もあったという事で、彼女を利用しようとするデュランダルとの対比にしています。

また、オーブを離れた難民による告発も活発になっているという描写も多く入れました。彼ら三隻同盟の力だけで戦争を止めるなど不可能ですし、ラクスが独自の動きをしている分、オーブ側でも動きを見せたかったのです。
カガリが生きているという事が戦火に踏み躙られ、占領されているオーブ国民の希望になる事は間違いないですし、カガリも当然、彼らの支えになろうとするべきだからです。

そしてこれが後のオーブの主権回復と英雄カガリ・ユラ・アスハの帰還に繋がり、オーブの復活へと向かう、という事を示唆しています。ただしこれは、彼が国民に人気があるのは「オーブ復活」の象徴だからであり、逆デスで悩むように、決して為政者としての実力が伴っていたからではない、という苦い現実でもあります。

このPHASEの「空白」というサブタイには、本編の中の2ヶ月間(ドミニオンとの戦いから核の発射まで)の空白と、種からDESTINYまでの2年間の空白の両者を含んでいるのです。

ディアッカとミリアリアの力関係も、ミリアリアのガードが固いので着かず離れずです。何しろイザークの友達をやってられるディアッカは打たれ強いので、ちょっとやそっとじゃめげません。

カガリとアスランについては、小説版でキラとアスランがカガリを含めたM1パイロットに訓練を施していたという部分を拝借し、アレンジしています。
お互いに相手を強く意識しているのに、キラを含め常に女の子に囲まれているカガリと、ラクスがただ1人気を許す相手であるアスランは、この時点では想いが完全にすれ違っています。
まぁ2人とも晩生なので、この程度でいいかなと。

裏話をすると、可愛らしいキラの兄ですからカガリとて決して不細工ではないと思うのですが、そもそもナチュラルですし、まぁ「普通」程度の容姿だと考えています。(というかラクスとアスランが整い過ぎているんですよね)
そこでフラガが2人を見比べ、「大変だな」と笑うというセリフを何気なく入れたんですが、まさかこれが逆デスでも生きるとは思ってませんでした。
初めから意識して張った伏線ではなく、結果的に伏線になったのです。これはフラガ(ネオ)とカガリのキャラが勝手に動いた結果ですね。
になにな(筆者) 2011/05/01(Sun)23:10:49 編集



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