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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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「ここは禁断の聖域。神を気取った愚か者達の夢の跡」
クルーゼは口元を歪めて楽しそうに呟いた。
「きみは知っているのかな?今のご両親が、きみの本当の親でないということを…」

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「知っていればそんな風に育つはずもない」
クルーゼは青くなったキラの顔を面白そうに眺めて言った。
「何の影も持たぬ、そんな普通の子供に」
キラの脳裏に、子供時代の記憶が次々と蘇っては消えていく。
頼もしく、優しい父。穏やかで、時には怖いけれど、優しい母。
もうはっきりと記憶がないほど小さい頃に出会ったアスラン。
毎日が楽しくて、とてつもなく幸せで、未来は明るくて…
(ヘリオポリスに移ってからは、コーディネイターに偏見を持つナチュラルの中で、肩身の狭い思いもしたけれど…それでも…) 
今もなお、心の多くを占める赤毛の彼の視線は、キラを縛りつけている。
けれどそんな尖った気持ちを、サイが、ミリアリアが、今はいないトールが、そしてラクスやカガリ、何よりアスランが傍にいて和らげてくれている。
「アスランから名を聞いた時は、思いもしなかったのだがな。きみが彼女だとは」
だからこそ、アスランの名が出るたびにキラはびくっと体を震わせた。
「だがその後のきみの戦いぶりを見て、私は調べたよ、きみを…」
ソファの陰で傷の痛みに耐えていたフラガも、クルーゼが一体、何を話そうとしているのかと耳をそばだてていた。
「そして見つけた、きみを…世界に否定されるべききみを!!」
キラはその言葉に思わず息を呑んだ。
「てっきり死んだものだと思っていたよ。あの双子…特にきみはね」
クルーゼはそう言いながら、机の上の写真の束を投げてよこした。
「その生みの親であるヒビキ博士と共に、当時のブルーコスモスの最大の標的だったのだからな!」
「何を…」
ドサリと落ちた束の中に見覚えのある写真があり、キラはそれを手に取る。
紫の瞳の女性が、2人の赤ん坊を抱いているあの写真だった。
裏面には何も書かれていないが、カガリが持っていた写真と全く同じだ。
あの時写真を見てもなお、信じられない、信じたくないと思ってきた事実を、眼の前にいる得体の知れない仮面の男が次々と肯定していく…
キラはその衝撃が強すぎて二の句が告げなかった。

「だがきみは生き延び、成長し、戦火に身を投じてからもなお、存在し続けている。なぜかな?」
クルーゼはまるでふざけるように、首を傾げて尋ねた。
「何度も死地を乗り越え、ついにはアスランに殺されたと思われたのに、今、きみはこうして生きている…なぜかな?」
クルーゼは再び、さも楽しそうに、まるで歌うように尋ねた。
「それでは私のような者でも、つい信じたくなってしまうじゃないか!彼らの見た『狂気の夢』をね!」
「私が…私が、なんだって言うんですか!?」
言葉を見つけられなかったキラは、ようやく言い返した。
「私はただの、普通の人間です!コーディネイターということだけで、後は何も変わらない!」
思った以上に滑らかに迸り出た言葉は止まらなかった。
キラは掌で自分の胸を指し、珍しく声を荒げて抗議を続ける。
「あなたは何を言ってるんですか!?」
それを聞いてクルーゼの仮面の下の瞳は、恐ろしいほど冷酷に光る。彼はチッと舌打ちし、記憶のどこかに走ったチリチリする痛みを追い払った。
「きみは人類の夢、最高のコーディネイター」
やがてクルーゼは、呟くように言った。
「ナチュラルにとっては致命的な病にもならず、怪我をしても驚異的な再生能力を持つ身体。爆発的な筋力、鋭い感覚器官、超人的な感応力…果ては生物が逃れられぬ老化すら遅らせんとして生み出された最高傑作」
クルーゼはそう言いながら、机の上の紙の束や旧時代のデータメディアを片っ端から床に落としていった。その響く音が震える心を逆撫でしたが、けれど負けるもんかと勇気を振り絞り、キラは彼を見つめ続けている。
「そんな願いの下に開発された、ヒビキ博士の人工子宮。それによって生み出された、唯一無二の成功体。彼の夢の子!」
クルーゼは右手を高々と上げると、仰々しく下ろして礼をした。
「…あまたのきょうだいの、犠牲の果てにね…」
キラは再び襲ってきた衝撃で動けない。
心臓は激しい鼓動を繰り返し、ここに来る途中に見た、フラスコの中でもう二度と目覚める事のない胎児たちが強烈な映像として網膜に蘇った。
フラガは渾身の力を持って立ち上がると、ショックで固まっているキラの手から銃を奪い、眼の前に立つクルーゼに放った。
クルーゼはそのまま幽霊のように奥の闇へと姿を消した。
「しっかりしろ、バカ!奴のヨタ話に飲まれてどうする!」
フラガはキラの腕を引っ張って座らせると、再び闇に銃を撃ちこんだ。
「僕は、僕の秘密を今明かそう。僕は人の自然そのままに、ナチュラルに生まれた者ではない」
やがて、闇の中からジョージ・グレンが語った言葉が聞こえてくる。
「くそ、あの野郎…!」
フラガはひどく痛む腕でマガジンを入れ替えながら毒づいた。

コロニーメンデルは、コーディネイター発祥の地とも言ってよい。
遺伝子操作…医療的問題から治療として行われ、作物や家畜については水面下で行われてきた「遺伝子操作」は、旧世界においては「神の領域に土足で踏み込む」「倫理への挑戦」「生命への冒涜」とされ、表向きは長く「アンタッチャブル」「理論はあれど実践なし」とされてきた。
しかしそれも、ジョージ・グレンというコーディネイターの登場で瓦解した。
金があれば、誰でも生まれてくる我が子の遺伝子操作を受ける事ができた。
抜けるような白い肌は、弱いとされる紫外線に対抗できるように。
褐色の肌は、色合いの調節ができ、有色の肌はより水分を保ちやすく…美しいブルーやグリーン、アメジストの瞳を好きに選ぶ事ができ、ブルネット、ブロンド、プラチナの髪と組み合わせる事が可能だ。
身長も好みの高さにでき、理想的な体型、グラマラスなボディ、太りにくい身体、アスリート並の筋力も、メニュー表の中から好きなものを選べる。
音楽家の家系でなければ音楽の才能は育たないなどと言われた時代は終わり、美しい声、絵を描く才能、計算能力、記憶力…後天的な訓練を重ねさえすれば、より「伸びやすく」、より「開花しやすい」才能を賦与することも可能だった。
「優れた能力は、子供への未来の贈り物ですよ」
医師たちはそう言って、こぞって金持ちたちの出産を請け負った。
受精卵の遺伝子を受注し、希望通り操作する企業は唸るほどの金を儲けた。
しかし、人もまた「生物」である。
「流産しただと!?何をやってたんだ!」
流産、出産時の事故、誕生後の不測の事態…いかな医療が進もうとも、子供が死ぬ可能性はゼロではない。
「せっかく高い金をかけて遺伝子操作したものを!」
死んだ子を前にして、親は嘆きより先に投資への損を口にした。
「完全な保証などできませんよ」
医師は首を振った。
「母胎は生身なんですし、それは当然胎児の生育状況にも影響しますよ」
生命は神秘性を失い、単なる「製造物」として扱われる。
「瞳の色が違うわ!」
注文と違っても、クーリングオフできない子供たち…若干ながらも、病に倒れたり、親が思ったようには育たぬ子もいる。

「高い金を出して買った夢だ。誰だって叶えたい」
クルーゼはまるで見てきたかのように、その狂気の時代を…そう、まさにパトリック・ザラやシーゲル・クラインたちが誕生する前の「コーディネイターの黎明期」である唾棄すべき暗黒時代を語った。
「誰だって壊したくはなかろう?自分の夢をな」
企業は儲けるため、研究者は成功のため、そして親はエゴのため…より強く、より完璧な遺伝子を求め、人類は暴走を始めていく。
「だから挑むのか?それが夢と望まれて叶えるために」
1人の科学者だけではない。
たくさんの者が挑んだ。
「きみの父はその愚か者たちの1人だったに過ぎない。キラ・ヤマト」
おっと…クルーゼはくすりと笑った。
「キラ・ヒビキ、と言うべきかな?」
キラはそれを聞いて、胃から酸えたような液が上がるのを必死でこらえた。

「最大の不確定要素は、妊娠中の母胎なんだ。それさえ解消できれば」
彼はまだ若く、誰よりも貪欲に「成功」を夢見ていた。
ユーレン・ヒビキ…野心に溢れたその科学者は、我が子を実験に使い、殺していった。
「人工子宮は失敗が続いた。きみのきょうだいは何人も死んでいった」
赤ん坊たちは酸素を受け取れず、未熟な臓器を壊し、死に至る。
ヒビキも研究員も落胆し、何が悪かったのかと議論を重ねた。
そこに「死んでしまった赤ん坊」を悼む者などいない。
ただ1人の女を除いては。
「もうやめて!あれは物ではない、命なのよ?」
キラの母は、暴走を始めた夫を止めようとした。
彼女にも罪はある。決して善良ではない。
科学者だった彼女とて、初めは納得して研究に協力していたのだ。
けれど自分の提供する卵子が、生命となって生まれる事すらできずに死んでいく姿を見て、やがて良心の呵責に苛まれるようになる。
「わかっている!だからこそ、完成させねばならないんだ」
「わかってない!」
ヴィア・ヒビキは叫んだ。
「命は生まれいずるものよ…創り出すものではないわ!」
けれど、夫の暴走は止まらなかった。

「人は何を手に入れたのだ?その手に…その夢の果てに」
暗闇の中のクルーゼが笑った。
「人はまだ先へ行ける、進化できる。エヴィデンス01は幻などではなく、手に入れられる現実だと。その傲慢さが、貪欲さが、彼にその行動に取らせた」

「嘘つき!返して!あの子を返して!もう一人の…」
夫は妻の卵巣に眠る卵子を採取するふりをして、受胎していた子宮内の受精卵を調べた。試験管で受精させるのではなく、自然に結びついた受精卵ならあるいは…邪な彼の考えを知らない妻の体内の子供は、幸か不幸か二卵性双生児だった。既に妄執に近い欲望に取り憑かれている彼は狂喜した。
(ならば構うまい。どちらか1人を取り出しても…)
もしも取り出した1人が失敗したとしても、1人はナチュラルの子として自然に生まれる。
妻は納得するだろう…彼には母としての妻の心を推し量るなどできようがない。
(それは、妻の子だ。そしてこれが…これこそが…!)
「私の子供だ!最高の技術で、最高のコーディネイターとするんだ」
「それは誰のため?あなたのため?!最高のコーディネイター?」
キラによく似た、大きくて美しい紫の瞳を持つ母は涙を流して抗った。
「それが、この子の幸せなの!? 」
「より良きものをと、人は常に進んできたんだ!それは、そこにこそ幸せがあるからだ!」
違う違う、とヴィア・ヒビキは首を振った。
「それは傲慢な人の夢。そしてあなたの野心。あなたのエゴよ!」
夫の胸を叩きながら、けれど彼女の涙が夫を動かす事はない。
「今はただ育つため、生命の命ずるままに生きているあの子は、最高のコーディネイターになりたいなどと願ってはいないわ!」
抱きあうはずの子供たちが、引き離された。
自身の中で眠り、育つはずのもう1人の子が奪われた…ヴィア・ヒビキは崩れ落ちた。己の罪と共に。夫の暴走を許してしまった自分の愚かさと共に。

「キラまで…遅すぎる」
艦の整備の手伝いも終わったところで、アスランはジャスティスに戻り、出動待機していた。
ラクスに通信を入れると、まだ情報は何もないという。
「やはり、私も行った方が…」
「だめだよ、アスラン。認めない」
「でも、3機とも戻ってこないというのは…」
ラクスは困ったような顔をして諭すように言った。
「なら、なおの事だろ?これ以上戦力は割けない」
口調は優しいが、そこにはまるで軍人のような冷徹な計算が働いている。
「もしキラたちが戻らなくても、僕たちは戦わなきゃならない」
わかってくれとラクスに言われ、 アスランは今はただ従うしかなかった。

「青き清浄なる世界のために!」
こうして生まれたコーディネイターが育ち、その能力が開花していくにつれ、人々の間には確執が生まれていった。貧富の差が遺伝子操作の明暗を分け、努力では到底かなわない事が見えてくると、人々は卑屈な想いに捉われた。
妬み、嫉み、怒り…やがてそれは憎しみとなり、狂気に駆られた人々は彼らの断罪を唱え始める。
彼らを創り出した自身の欲望や業や罪には目を背け、誰の眼にも明らかでわかりやすいものだけを非難し、さらには排斥し始めた。
優れた才能を持つ音楽家、運動選手、学者、特化した能力を持つ者…自分はコーディネイターであると発表した人々が次々と凶弾に倒れた。
「青き清浄なる世界のために!」
世界には「敵」が必要だった。
ほんの一握りの人間にとっては、秩序とバランスを微妙に保ちながら、自分たちに都合よく争いを続けてもらえるよう、操作する必要があった。
この問題が根深いのは、世間から賛辞された者や真実を語る者、平和や和平を唱える者など、彼らにとって邪魔な存在をも片付ける事ができた事だ。
コーディネイターかどうかなど、いくらでも後で情報操作ができた。
標的がナチュラルでも、コーディネイター寄りと情報を流すだけで事足りた。
多くの人はこんな状況は「間違っている」と思いながらも、敢えて批判や非難をすることはせず、なんとなく流され無関心を装った。
「青き清浄なる世界のために!」
遺伝子を操作した人間を化物、諸悪の根源と罵り、排除しながら、彼らは人々の思想を、国の行く末を、地球の未来を「操作」していた。

「知りたがり、欲しがり!」
クルーゼは闇の中をコツコツと歩き回りながら続けた。
フラガは様子を窺いながら、隣で呆然としているキラに呼びかけた。
「おい、キラ!」
けれどキラは一点を見つめたままじっと動かない。
ブツブツと唇が動いているが、何を言っているのかは聞き取れなかった。
「しっかりしろよ!おい!」
仕方なく軽く彼女の頬を叩いたが、いまひとつ反応が薄い。
「やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び、殺し合う」
「ほざくな!」
フラガはクルーゼのその言葉にカッと怒りを燃え上がらせた。
「命を弄び、殺し合うだと!?」
彼の心に、あと一歩間違えば愛する女を永遠に失うところだったあの時の、心底ぞっとするような想いが蘇った。
「アラスカのことは、おまえが仕組んだ事だろう!」
「私は何もしていない。ただ流しただけだ。事実を。情報を。欲しがる者に」
クルーゼは笑った。
「それを糧にして育ち、あのような事をしたのは彼ら自身だ。わかるだろう?ムウ」
そう言われてフラガは、辿り着いた時、誰もおらず空っぽだった寒々しいJOSH-Aの司令本部を思い出した。
「戦場では命など安いものだ。一瞬で失われる」
ユニウスセブン、Nジャマー、泥沼化した戦争…サイクロプスに飲まれ、敵軍に虐殺され、同胞同士が討ち合って憎しみは加速し、止まらない。
「そんな彼らに、命の価値など説いてなんになる?」
「…きさま!」
フラガは怒鳴ったが、その途端痛みと出血で眩暈を起こした。
「…たとえ軍の上層部が腐っていても、少なくともおまえが情報を流さなければ、あんなに死ぬことはなかったかもしれないんだぞ!」
「それはどうかな。貴様も薄々感じているだろうに」
フラガは怒りで痛みを忘れ、笑うクルーゼに向けて撃った。
「彼らは追い詰められたわけではなく、考えれば、戸惑うならば、十分回避できた道…」
フラガの銃弾を避けながら、クルーゼは呟いた。
「私は常に、選択肢を与えてきた。それを選ばぬ道も残してきた。だが人はそれを選ばない」
クルーゼはふと、哀しげにも見える笑みを口元に湛えた。
「人は正しき道を見ようとはせず、正しいと『信じたい』道を行くものだ。違うかね?」
問いかけるように、フラガとキラの横を銃弾が掠めた。
「何を知ったとて!何を手にしたとて変わらない!最高だな、人は…!」 
続けざまに撃ち込まれる銃弾からキラを守り、フラガは荒い息を続けた。
「そして妬み、憎み、殺し合うのさ!」
こんなくだらない世界で、くだらない戦争に現を抜かして…クルーゼはギリッと唇を噛み締め、暗闇の向こうにいる彼に銃を向けた。
「ならば存分に殺し合うがいい!それが望みなら」
「何を!きさまごときが偉そうに!」
フラガは再び銃を構えたが、クルーゼの正確な射撃で銃を飛ばされた。
「私にはあるのだよ!この宇宙でただ一人!全ての人類を裁く権利がな!」
「ふざけるな!この野郎!」
フラガはキラを庇いながら少しずつ後退したが、すぐに壁に行き当たった。
(くそ、なんなんだこの体たらくは…)
悪態をついたフラガに、クルーゼが再び話しかけてきた。
「覚えてないかな?ムウ…私ときみは遠い過去、まだ戦場で出会う前、一度だけ会ったことがある」
「…なんだと?」

「距離120にナスカ級3隻です」
メンデルの裏手に回りこんでいたドミニオンは、ナスカ級を探知した。
後門に3隻のナスカ級がいることがわかっていながら、前門のアークエンジェルに先に仕掛けるのは明らかに不利だった。
「これでは先に動いた方が不利です。残念ながら、成功を保証できかねますが」
「無理を無理と言うことくらい誰にでもできますよ」
アズラエルはイラついたように答えた。
「それでもやり遂げるのが優秀な人物。これ、ビジネス界じゃ常識なんですけど?」
商人らしく自分の仕事のセオリーを持ち出した彼に、ナタルもナタルで軍人のセオリーで返した。
「ここは戦場です。失敗は死を意味します」
「ビジネス界だって同じですよ。あなたってもしかして、確実に勝てる戦しかしないタイプ?」
アズラエルはネチネチとナタルをいたぶった。
「それもいいですけどねぇ。ここって時には頑張らないと、勝者にはなれませんよ?ずっとこのままじゃいられないんだ。頑張ってくださいよ」
ナタルは何も言わずにアズラエルを睨みつけた。
アズラエルもそれを知っていながら、敢えて彼女の心を逆撫でするように言う。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、ってね」

「今度失敗したら、また怒られる?」
パイロットルームでは、薬を投与され、元に戻ったシャニがオルガに尋ねた。
一方さっきまでの無様な姿など忘れたように、クロトは頭の後ろで手を組んだ。
「ったく、いいように使ってくれるよな、あのおっさん」
「しょうがねぇ。殺されるよりは殺す方がマシってね!」
オルガも顔色がよくなり、狡猾そうな笑顔もいつも通りだ。
(まずはあの赤いのだ…ぶっ殺す!)
「X-131、APU分離確認。進路クリア。カラミティ発進よろし」
続いてX-252前進せよ…オペレーターの声に、ナタルの声が被さる。
「ドミニオン、発進する!」
メンデルの外では、再び戦場がざわめき始めていた。

最高のコーディネイターを製造したかったユーレン・ヒビキは、キラ出生のさらに前、研究資金のためクローン製造に手を貸した。
「クローンは違法です」
「苦労の末に手にした技術、使わんでどうする。欲しいのだろ?研究資金が」
持ちかけたのは、大西洋連邦の大富豪アル・ダ・フラガだった。
より高度な研究をしていたヒビキにとって、クローン製造などたやすい。
仮腹の中で胚芽を移植された卵は分裂を始め、月満ちて赤ん坊が生まれた。
「本当ににこれが私かね?」
息子よりも年下の「自分」を見て、彼は顔をしかめた。
「まあいい。とにかく、あとはこれに継がせる」
年老いたアル・ダ・フラガは跡継ぎを欲していた。
「あんな女の子供になど…」
神経質そうな眉をひそめ、アル・ダ・フラガは命じた。
「しっかり管理して教育しろ。あのバカの二の舞にはするなよ」
(自分の…クローンを作っただと?)
フラガもまた、キラと同じように驚愕のあまり言葉を失った。
(血を分けた息子の俺がいたのに?)
すると、もうあまり思い出したくない過去が蘇ってきた。
フラガの記憶にある両親は、口すらも利かなかった。
大きな屋敷は冷え切り、父も母も自分を見ない。
生まれてくる子に遺伝子操作を行うか否か…それが原因で夫婦は決裂し、生まれてきた子を見なかった。
彼はいつも1人だった。
自分がいるのに、なぜ両親は憎みあうのかと思いながら育った。
両親が愛し合って生まれたのが自分ではないのかと、1人寂しく泣いた。
(この写真を撮った時、親父は珍しく上機嫌だった)
唯一温かいと思っていた記憶が急激に冷めていくのを止められなかった。
父が初めて幼い自分を肩車してくれて、庭を走り回って遊んでくれたのだ。
思えばそれは、自分のクローンが生まれた時だったのかもしれない…ふっとフラガは笑う。キラは気づかなかったが、ひどく寂しそうな笑顔だった。
(どこまでも情けない記憶だな、親父)
そんな父母も、キラ・ヤマトが誕生した年に火事で死んだ。
突然の出火により使用人に助け出されたムウは、ただ呆然と焼け落ちる屋敷を見つめるだけだった。
放火ではないかと捜査が入ったが、結局、何の証拠も見つからなかった。
しかし、クルーゼの告白は2人にさらなる衝撃を与えた。
「そして私は、己の死すら金で買えると思い上がった愚か者…貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな!」
クルーゼは「兄」だと信じた、優しい顔をした少年を思い出す。
「父」だと信じた人は、自分に似ていない「兄」を嫌っていた。
その「父」が自分であり、「兄」が息子であると知った時の衝撃。
そして、自分が出来損ないであり、「廃棄」された時の絶望感…
キラは驚きを禁じえない。
(ムウさんの…お父さんの、クローン?)
フラガもまた目の前に立つ、自分より若い男にいきなり、「自分はおまえの父のクローンだ」と衝撃の告白をされて面食らっていた。
(そんな事があるはずがない。バカバカしい!)
だがそう強く否定する心のどこかに、どこにいてもラウ・ル・クルーゼを感じる事のできるあの不思議な感覚が、否応なく答えをつきつけた。

「ラクス・クラインにバルトフェルド隊長、そしてアスランまでもか」
イザークは今、ディアッカが共にいる仲間たちの名を聞いた。
「ああ」
「なぜだ、ディアッカ!なぜ!?」
イザークは声を張り上げる。
(イザークは答えにはたどり着いている)
ディアッカは混乱している様子の彼を見て思った。
(けど、その証明過程がわからないんだろう)
ディアッカは、無理もないなとため息をついた。
イザークは「答えがわかったらそれでいい」と考えるタイプではない。
「フリーダムのパイロット、あいつが前のストライクのパイロットさ」
なかなか可愛い子だぜ、とディアッカは笑う。
イザークは先ほどの2人の会話からしても、どうやら彼らが親しいことは感じられたため、言葉に詰まる。
「あいつもコーディネイターだ。アスランとは、ガキの頃からの友達だってよ」
「なんだと…?」
これにはさすがのイザークも顔色を変えた。
「…なら、あいつはあの時…友達を討ったのか?」

「きさまっ!どういうつもりだ!おまえがあそこで余計な真似をしなければっ!」
あの時、ストライクを撃破するのではなく、鹵獲しようとした理由…
「私を助けようとしたせいで死んだと!!」
ニコルの死が自分のせいだと珍しく怒鳴ったのは、複雑な思い故か。
「ストライクは、討ったわ」
あの時の暗い表情の下に、押し殺した感情を隠していたというのか…
イザークは初めて握手を交わした時の、細く華奢な彼女の手を思い出した。
「色々と悪かったわ。今までありがとう」
(何も言わず、その気持ちを自分ひとりで抱え込んで…)

「頑固だろ、相変わらず」
ディアッカも、イザークが何を考えているか察して苦笑した。
「けど、あれがあいつなんだろうな」
イザークは黙ってディアッカを見返した。
その瞳からは、激しく燃え盛っていた怒りがいつしか消えていた。
「俺には奴らほどの業も覚悟もねぇけどさ…見ちまったから…」
ディアッカは軽く微笑みながら、笑顔のミリアリアを思い出した。
(俺はもう、あいつを知ってしまった。いや、あいつだけじゃない。ずっと戦ってきたフラガのおっさんも、マードックのおっさんも、アークエンジェルの艦長も、ストライクに乗ってたキラの事も…)
「あいつら見て、アラスカやパナマやオーブ見て…そんでもまだザフトに戻って、軍の命令通りに戦うなんて事、俺にはできねぇよ」
ディアッカはきっぱりと、けれど柔らかい口調で言った。
「あいつらは、俺たちコーディネイターを滅ぼすために戦ってるんじゃない。だから俺ももう、ナチュラルを滅ぼすために戦うのは、やめたんだ」

(アークエンジェルは…俺が乗ってた…艦なんです…)
(だからなんだ!?俺たちに戦うなとでも言うのか!)

相変わらずおどおどビクビクしているフレイ・アルスター。
俺はあいつに、やりたくない事に簡単に頷かなくていいと言った。
足つきとは、自分の仲間とは戦いたくない…それが彼の「やりたくないこと」だったのだろう。
(ディアッカもアスランも、だからザフトを去ったというのか)
だがそんな事を気にしていたら、俺たちは戦えない。
イザークは混乱する頭をまとめようとして視線を逸らした。
(ならばディアッカ、おまえは一体何と戦うつもりなんだ?)

「艦長!」
熱紋反応にサイが振り返った。
「ドミニオンが来ます!距離50、グリーンブラボー!」
「総員、第一戦闘配備」
マリューが告げ、パルが全艦に放送した。
「接近する熱源3。熱紋照合、あの3機です!」
ヴェサリウスでも真っ先に動き始めたドミニオンを捉えていた。
隊長からは動かぬよう言われているが…
「アデス艦長」
「くそ!隊長は…内部はどうなってるんだ?」
ブリッジにも動揺が広がり、アデスは通信を試みるよう命ずる。

「親父のクローンだと!?そんなおとぎ話、誰が信じるか!」
「私も信じたくはないがな。だが残念なことに事実でね!」
クルーゼは先ほどからバラバラと床に落としてきた紙切れや古ぼけたデータメディアを蹴り飛ばしては、フンと冷たくせせら笑った。
「その資料を持って帰ってよく読みたまえ…きみの父親が一体何をしたか…そして、私がなぜ失敗作なのか、おまえは知る事になるだろう」
クルーゼは言う。
「私も…友がいなければ、生き延びられはしなかった」
ただ1人、彼にとって友と呼べる黒髪の研究者が心に浮かぶ。
彼はクルーゼのために日々研究を重ね、薬を調合し、希望をくれた。
ナチュラルの自分がザフトのトップに立つための辛酸と苦渋の日々も、自分の全てを知る、柔和な笑顔を見せる友の支えがあってこそだった。
そして仮面の男の心の奥には、もう1人、大切な人物が住んでいた。
なぜそのような事が起きたのかはわからないが、アル・ダ・フラガの死後、残った胚芽でクローンが作られた。非人道的な研究者どもの手からようやく助け出した彼は、人に脅え、愛に飢えきっていた。生まれてからずっと弄ばれ、痛めつけられ、惨めに扱われていた彼は、はじめ声すら発する事ができなかった。少しでも声を出すとひどい目に合わされていたようだ。そんな哀れな彼を救う事だけが、自身のかけがえのない慰めになった。
そしてそれらすべてがアル・ダ・フラガの所業に基づき、それをさせたのが人類の最高傑作たるキラを生み出すためだったという、皮肉で冷たい構造…
「私には裁く権利がある。世界を、人を、そしてキラ・ヤマトを!」
キラは呻いた。
「…私は、私はそんな存在じゃない」
(アスラン、カガリ、ラクス、サイ、ミリアリア…私は、私は…!)

「間もなく最後の扉が開く。私が開く。そしてこの世界は終わる!」
クルーゼが楽しそうに笑った。
「この果てしなき欲望の世界は終わるのだ。思い上がった者たちの望みのままに」
「そんなこと!」
キラは思わず、傍にあった小さなコンクリートの欠片をつかんだ。
「世界を終わらせるなんて、そんなこと…させるもんか!」
キラはそれを横投げでクルーゼに向かって投げつけた。
「うわ!」
クルーゼはそれをかろうじて避け、欠片は彼方へ飛んでいったが、顔の横を掠めた勢いで仮面が飛んで素顔があらわになった。
面立ちがフラガに似ている…といわれれば、確かにそうかもしれないが、全く似ていないといわれればそうとも思えた。
やや疲れている印象は受けたが、怪我や火傷をしているわけではなく、キラには彼はごく普通の青年に見えた。
クルーゼは仮面を剥がされてもなお、素顔を隠そうとした。
「ふん!貴様らだけで何ができる。もう誰にも止められはしないさ。この宇宙を覆う憎しみの渦はな!」
そう言い捨てると、彼は部屋を走り出た。
「待て!」
フラガは立ち上がろうとしたが、その途端、グラリとよろめいた。

「皆さんは艦の守りをお願いします」
出撃を控えたアスランは、3人娘はじめ、M1部隊に伝えた。
敵は、まだ動かないとはいえナスカ級3隻、それにドミニオンと新型だ。
ヴェサリウスらナスカ級からジン部隊が出てきたら、アスラン1人では対処しきれない。ジャスティスが3機を引き受ける代わりに、M1部隊の数を頼んで、共に艦の防衛ラインを築く事が目的だった。
彼らのサポートにカガリがつくことになり、 M1は次々飛び立っていく。
「おまえも気をつけろよ」
カガリの手向けの言葉に、アスランは「そっちもね」と答えた。
「ナスカ級の動き、気をつけて!ゴットフリート照準、コリントス装填」
エターナルもまだ完全とはいかないが、今度は出撃することになった。
ナスカ級が3隻も来ているとなれば、四の五のいってはいられない。
艦長席からはバルトフェルドが威勢のいい命令を飛ばした。
「主砲準備。アンチビーム爆雷発射!母艦をつぶすぞ」

「あいつだ!」
シャニがジャスティスの出現に心を逸らせる。
「おいおい、1機しかいねぇじゃねぇかよ」
オルガはバズーカを担ぎあげ、しかしその姿にニヤリと笑う。
「けどまぁ、都合がいいや」
クロトはMAに変形するとスピードを上げた。
「んじゃ、ちゃちゃっとやっちゃおうぜ、今度はさ」
アスランは3機を視認すると彼ら全てと戦う覚悟を決めた。
1機でも梃子摺る相手を、1人で3機相手にするなど無理があり過ぎる。
けれどキラもディアッカもフラガも戻らない今、戦うのは自分しかいない。
アスランは顎を引き、相手を見据えながら集中力を高めた。
何かが身体の中を通り抜けていくような感覚があり、視界が開け、聴覚が鋭敏になる。体は心地よく冷たく、ゆっくりと水底に沈むようだ。
開けた視界に3機を捉え、アスランはサーベルを抜くと、2本を繋げて器用に振り回した。スラスターが唸り、ジャスティスは力強くスピードを上げた。
「ゴットフリート、撃ぇ!」
ドミニオンが回り込みながら主砲を放った。
コリントスやバリアントも同時にアークエンジェルに襲い掛かる。
「回避!」
「ミサイル4、グリーンアルファです!」
サイが攻撃方向を報ずると、マリューは取り舵を命じる。
ドミニオンのゴットフリートは外れ、メンデルの側面をかすめた。

「うわっ!」
イザークとディアッカはその衝撃にたたらを踏んだ。
「イザーク、聞こえるか?退くぞ」
通信が回復したらしく、デュエルからはクルーゼの声が聞こえてきた。
「待て、ディアッカ!」
コロニーの揺れとその通信を耳にし、ディアッカもまたバスターに向かおうとしたが、イザークが叫ぶと、立ち止まって振り返った。
イザークの手にはまだ自分に向けられた銃が握られていたが、どうやらもうトリガーを引く気はないようだ。
(軍への疑念、地球軍への疑念、プラントへの疑念…確かに、俺は疑念を抱いている)
けれど、今はまだ全てがわかったとはいえない。
イザークは呼び止めた友を見つめた。もはや場所を違えてしまった彼を。
「…ザフトじゃなきゃ敵だって言うんなら撃てよ」
ディアッカは再びくるりと背を向けた。
もし自分が忠義に篤く、ザフトに全てを捧げていたのなら、今こうして生きてはいられなかったかもしれない。そう考えない日はなかった。
(こんなちゃらんぽらんな俺でも、そういう意味では必要なのかもな)
「だまされてるんだ、おまえは!」
「さて、どっちかな、そりゃ…」
ディアッカは肩をすくめた。
「正しいかどうかなんてわからねぇけど…俺は行く!」
ディアッカはそのままバスターに向かって歩を進めた。
イザークはその背を狙い続けたが、やがて力なく銃を下ろした。
バスターは発進し、砂煙が残された彼の銀髪と頬をなぶった。

「ディアッカ!キラ!少佐!応答して!」
たった1機で戦うジャスティスを見て、ミリアリアは必死にキラたちを呼んだ。
(あなたも、トールを殺した)
キラが言ったように、彼女はトールを殺した人だ。
(でも、今は私たちと一緒に戦って、こんな…戦争という名の愚かな殺し合いをやめさせようと思ってる、「仲間」になった)
ミリアリアは必死に自分の内に潜む想いと戦っていた。
(…彼女が死ねばいいなんて思わない。だから、早く…!)
カラミティの砲撃を避けたまではよかったが、後ろからレイダーのミョルニルを投げつけられ、ジャスティスが前に大きくのめる。
その途端フレスベルグを乱射しながら飛び込んできたフォビドゥンを、ジャスティスはフォルティスを展開して迎撃した。
さらにアークエンジェルに取りつこうと機銃掃射を続けるレイダーに、ビームブーメランで威嚇する。フォビドゥンの大鎌が降りかかり、肩と腕で防御したものの、激しい衝撃で機体が振り回された。
アークエンジェルをかばうジャスティスを見て、カラミティはドミニオンに集中しているアークエンジェルに、シュラークとバズーカをぶっ放した。
アークエンジェルに攻撃を加えると、途端にジャスティスがクロトやシャニの攻撃を避けるより、自分の方に意識を向ける事に気づいていた。
アスランはカラミティに斬りかかり、ジャスティスが何を一番守りたいのか確信したオルガは、ニヤリと笑った。なら…と、再びバズーカを構える。
「おめーの大事なもん、ぶっ壊してやるよ!」
「ディアッカ!キラ!少佐!!誰か返事して!キラ!」
ミリアリアは自分たちを守るために痛めつけられているジャスティスを見て叫び続けた。
(早く、誰か…あの人を…彼女を…)
「…ディアッカ!!」
「どうした?」
その時突然モニターから返事が返ってきたので、ミリアリアははっと顔をあげた。
「今、港口から出る。状況は?どうなってる?」
「…ジャスティスが…早く…急いで!」
「ジャスティス?アスランか」
ディアッカの声を聞いて安堵し、涙声になった彼女がもどかしげに叫んだ。
「あの人を助けて!お願い!」

「ゴットフリート、撃ぇ!」
「回避!艦首下げ、ピッチ角20!」
アークエンジェルとドミニオンの戦いは再び拮抗している。
外側には、両者の戦いに干渉しようとするカラミティと、阻止しようとするジャスティスが鎬を削っていた。
「おらぁ!!」
「ぐっ…!」
プラズマ砲を避けきれなかったジャスティスは、ブーメランを破壊された。
小爆発の衝撃に耐えながらダメージを確認すると、肩のジョイントはかろうじて破壊を免れている。
(…これなら大丈夫だ。まだいける)
アスランはライフルを構えると、大きく旋回するレイダーを撃った。
「ジャスティスの援護を。ミーティアはまだ使えないか?」
ラクスが苦しい戦いを続けるアスランを見つめながら聞いた。
「起動完了まであと1分30秒」
バルトフェルドが答え、ミサイルでの援護を命ずる。
「ゴットフリート照準、ドミニオン。ミサイル発射管、全門コリントス装填」
カガリはインカムでラクスとのやり取りを終えると、CICに指示を送った。
(ごめんな、俺たちは今、おまえの援護はしてやれない)
現在の戦況においては、クサナギはあくまでアークエンジェルの援護を優先する事になったのだ。彼の瞳には3機を相手にするジャスティスのマーキングが映っていたが、ざわめく心を抑え、唇を噛んで耐えた。
(帰ってきたら、何度でも、気が済むまで謝ってやる…)
「撃ぇ!」
やがてキサカの命令と共に主砲が放たれ、カガリはドミニオンに向かう主砲の軌跡を眼で追った。同じ宙域にいるはずの彼女を想いながら。
(だから死ぬなよ、意地っ張り!)

「はん!」
シャニは後ろを向いているジャスティスにフレスベルグを放ったが、アスランは振り向きざまにシールドで曲がるビームを上手に弾いた。
「どけ、おまえら!」
クロトはモビルスーツに変形すると、ミョルニルを振り回して迫る。
しかしジャスティスはカラミティに気を取られ、気もそぞろのようだ。
「だから…僕をシカトするなって言ったろう!?」
レイダーは鉄球を投げつけながら、同時にジャスティスを蹴り飛ばしたが、その衝撃でジャスティスの腰部スラスターにエラーが出た。
姿勢制御に手間取るアスランに、レイダーが再び向かってきた。
その時、そのレイダーの横をかすめて強力な火力のビームが貫いた。
「うっ!」
射線の先には本来の標的であるカラミティがおり、オルガはかろうじてビームを防いだものの、シールドごと後ろに吹っ飛んでバランスを崩した。
「ちっ!どこから?」
クロトは驚いて振り向き、正体不明の狙撃者を探した。
しかし発見する前に二射目が放たれたため、慌てて変形し、離脱した。
ジャスティスが射手に気づき、シールドを軽くあげて礼を示す。
するとバスターもインパルスの砲口を軽く持ち上げてそれに答えた。
そして手早くランチャーとライフルに分解すると、両手で持って構える。
「さて…行くか!」
ディアッカは戦線に復帰した。

「ムウさん!」
キラはよろけた彼の大きな身体を支えた。
痛みに耐え、フラガは歯を食いしばって眼を閉じている。
「歩けますか?」
キラがフラガを支えながら一歩を踏み出すと、フラガは荒い息で答えた。
「ああ、大丈夫だ…」
「血が…急ぎましょう!」
しかしフラガはキラの肩を押しやると、今までクルーゼがいた空間に向かった。
「ムウさん、ダメです!」
「この…資料を…持っていけるだけでいい。おまえだって…」
キラは一瞬、(私は何も知りたくない)と足をすくませた。
「あいつの…言葉なんぞ…」
フラガは脂汗を浮かべながら机に残ったメディアや紙を掴んだが、床に落ちたものを拾おうとしてしゃがみかけ、痛みに悶絶した。
「ムウさん!」
キラは慌てて駆け寄り、ムウを机に寄りかからせると床に落ちたものを片っ端から拾い集めた。見覚えのあるあの写真も無造作に掴んだ。
「さぁ、もう帰りましょう」
持てるだけの資料をかき集め、転がっていたブリーフケースに詰め込んだキラは、ムウの体を支えながら歩き始めた。
(アークエンジェルへ…マリューさんの元へ…)

「デブリを盾に回り込んで!ナスカ級は?」
マリューが不利な戦況をなんとか優位に持ち込もうとする。
「依然、動きありません」
トノムラが答え、サイに続けて策敵を続けるよう指示している。
(この状況でナスカ級にまで出てこられたら終わりだわ)
マリューは眼の前の敵を見つめながらキリッと唇を噛んだ。
「艦長!フリーダムです!」
その時、ミリアリアが叫んだ。
アークエンジェルに向かってくるフリーダムがストライクを抱えている。
一体何が起きたのかとブリッジがざわめいていると、モニターにキラが映った。
「ムウさんが負傷してます!」
それを聞いたマリューは小さく声をあげ、直ちに医療班の待機を命じた。
キラはデッキにストライクを着艦させると、そのまま飛び去った。
「キラ!?」
「このまま合流する。ジャスティスとバスターの座標を送って」
(今は何も考えない…考えたくない)
キラはアークエンジェルを守る事で雑念を振り払おうとした。

イザークはヴェサリウスに戻ると、すぐにゲイツのコックピットに向かった。
「隊長!」
しかし、ほんの少しの差で着艦したはずの隊長機には誰もおらず、シートベルトだけが揺れている。それがひどく不気味な光景に思えた。
一方ゲイツから飛び降りて部屋に戻ったクルーゼは、苦しみもがきながらデスクの引き出しを開いた。そして服用している薬をがしゃがしゃと探す。
フレイはそんな鬼気迫る光景を見ながら声もかけられずにいた。
やがて彼はいつもの薬を見つけると、それをバリボリと噛み砕いた。
貪り食うように薬を飲む姿が恐ろしく、フレイは息もできなかった。
即効性の薬が効いて少し落ち着いたのか、彼は通信機のスイッチを入れた。
「アデス!」
モニターの向こうには戸惑ったような表情の艦長が映し出された。
「隊長!どうなさ…」
「ヴェサリウス、発進する!モビルスーツ隊出撃用意!ホイジンガーとヘルダーリンにも打電しろ!」
「しかし…」
クルーゼは我々は偵察任務では?と言いかけるアデスの言葉を遮った。
「このまま見物してるわけにもいかんだろ!あの機体、地球軍の手に渡すわけにはいかんのだからな!」
クルーゼは同時にシグーを用意しろと命じた。
「私も出る!すぐブリッジへ上がる!」
そう言い終わると一方的に通信を切り、下を向いて荒い息を続けた。
やがて弾んでいた息が元に戻ると、クルーゼはふぅと長い息を吐いてドサリと椅子に座りこんだ。
ここのところ無理を重ねている彼の体が、悲鳴をあげている。
(あと少し…あと少しで終わる…)
くだらない茶番劇は今、終末に向かって怒涛のように動き始めたのだ。
「さて…きみにも手伝ってもらおう」
クルーゼは部屋の隅で縮こまっているフレイに、優しく手招きした。
「最後の賭だ。扉が開くかどうかのね…」
そして引き出しからデータメディアを取り出し、フレイに見せた。

バスターの援護により、ジャスティスがアークエンジェルへの攻撃までカバーする必要がなくなったとはいえ、やはり1人で3機の相手は厳しい。
それでもアスランは弱音ひとつ吐かず、果敢に戦っていた。
「アスラン!ディアッカ!」
「遅いじゃねぇかよ」
「ごめん」
ようやく戻ってきたフリーダムを見てアスランが息をつき、ディアッカは悪態をついた。
前線を二人に任せてバスターが退くと、アスランは言った。
「行きましょう」
2機揃ったと見るや、カラミティが再びシュラークを放ち始める。
オルガは珍しく接近戦を挑んだが、攻防盾の鋭角部で殴りつけると、勢いを殺しきれなかったフリーダムがあっけなく吹っ飛んだ。
「お?」
オルガは面白そうに体勢を立て直すフリーダムを追って畳み掛け、先行していたアスランもそんなキラの様子にいささか驚いた。
(フリーダムが力負けするなんて…)
アスランは援護しようとカラミティを撃つ。
「ちっ…こいつ!」
何発か喰らったカラミティは、矛先をジャスティスに変えた。
アスランが援護してくれている間に、巧みなスラスター操作で機体を安定させたキラは、(落ち着かなきゃ)と息を整えた。
まだ動揺が残っている。戦場では気の緩みは死を招く。
ダメだ…いつものように集中しなければ…キラは呼吸を整え、集中力を高めていった。
(目覚めて…私を戦わせて…戦うべき者たちと!)
「抹殺!!」
アスランはリフターを投げると、レイダーの回避軌道上でハルバートを構えて待ち構えた。
「こいつはぁ!!」
フォビドゥンのフレスベルグを慎重に避けながら、フリーダムは素早くクスィフィアスを起動する。
後方ではドミニオンから放たれたコリントスを、バスターが全て叩き落した。
ミリアリアが激しく火花を散らす戦場でデータを送り続けていると、策敵担当のサイが上ずった声でマリューに報告した。
「ナスカ級です!距離80、ブルーデルタ!」
ついに動き出したザフトに、アークエンジェルのブリッジが緊張する。
「ナスカ級3隻、接近してきます!」
ドミニオンもまた、ザフトの介入に緊張が走った。
地球軍、ザフト、そしてどこにも属さぬ3隻…三つ巴戦は、傍から見ればむしろ戦禍の拡大に見える。

フラガは治療を受けながら戦闘の行方を気にしていた。
(キラ…あいつ、戦っているのか…?)
欲望の果ての最高のコーディネイター、金のためのクローン、妬み、蔑み、憎み合った末に、互いを滅ぼしあう人類。
仮面の男の言葉が、傷の痛みよりも深くフラガの心をえぐった。
(一体なんなんだ、この時代は…この世界は…!)

「ほら、乗れ!」
ノーマルスーツを来たフレイは、救命ポッドに乗るよう促された。
彼の手にはクルーゼに託されたデータメディアが握り締められている。
「しかしどうするんですか?あのガキ」
「さあな。何かの作戦だろうよ、隊長の」
2人はポッドを外からロックすると、射出準備を始める。
フレイは救命ポッドの中で祈るように眼を閉じていた。
あの人から受け取ったこれは、最後の扉の鍵…
(俺が地球軍にこれを渡せば、戦争が終わるんだ)
フレイは懐かしい人たちの顔を思い浮かべた。
(サイ…きみも、アークエンジェルのみんなも、イザークだって…)
フレイは戦闘配備中のために別れすら言えなかったイザークを思い出した。
(怒ってばかりいるあいつも、これでもう戦わなくていい)
彼のパイロットとしての腕は相当なものだという事は、皆の彼への接し方から感じられていた。けれどフレイは、彼はこの戦争に何か不審な想いを抱いているのではないか…と感じていた。確証も根拠もなかったけれど、どちらにせよ、戦争が終わればイザークの悩みも解消されるだろう。
「戦争が終われば…きっと全部うまくいく」
(だから終わらせるんだ…みんなのために!)

「地球連合軍艦アークエンジェル級に告げる。戦闘を開始する前に、本艦で拘留中の捕虜を返還したい」
ブリッジにやってきたクルーゼがドミニオンに呼びかけた。
射出待機中のポッドの中で、フレイは「鍵」を握り締めていた。
撃ち落とすか、受け取るか、それとも足つきどもに奪われるか…これは、考えれば、戸惑うならば、十分回避できる道だ。
(しかし、人は選ばないものなのさ、ムウ・ラ・フラガ)
クルーゼはついさっき会ったばかりの「息子」を思い出してフンと笑った。
(正しき道を見ようとはせず、正しいと信じたい道を行く…それが間違っていても、事実は捻じ曲げられるのだ、必ず)
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secret
制作裏話-PHASE45-
このPHASEは不遇だと思います。
制作者と視聴者に明らかにギャップがあることが、シナリオを再構築してアレンジすることではっきりとわかるからです。

この物語、実は書いている側にとってはとても面白いのです。
SEEDの根幹を成す「ナチュラルとコーディネイター」誕生から始まり、その確執、ついには欲望の果てに「最高のコーディネイター」を生み出そうとする人の欲を描き出しているので、制作側としてはまさに「これがSEEDのテーマや!どや!!」なのです。

ところがです。
視聴者側にとっては正直、全然面白くも何ともない話だったんですねー、これ。
とにかく最強で殺されても死なないキラが、今さら「最高のコーディネイター」と言われても「は?」ですし、ナチュラルとコーディネイターの対立や確執も、「市井の人々の姿がない」「政治的背景がない」中で、総集編で散々語られ、使われた映像の使い回しを見せられても、インパクトはなく、描写が足りなさ過ぎてイマイチだったのです。

むしろ「キラが実はコーディネイターではなく、ナチュラルの中でも最高の進化を遂げた遺伝子を持つ二人の卵子と精子から生まれた最高のナチュラルでした」ってな方が、「な、なんだってー!?」と驚かせたでしょうね。

そこまでじゃないにしろ、私は本編放映時、実はここらへんまで、「ホントはキラがナチュラルで、カガリがコーディネイターだった」という逆転展開を予想…というか、期待していました。
こうすれば双子である事にも理由がつくと思ってたので(ストライクでの突入も、実はディアッカやイザークはあそこまで苦しんでなくて、それがキラがナチュラルである証拠だった、とかね)

こんな具合ですから、逆種を書こうと思い立った時、一番に思い浮かんだのが最終回と、このあたりの「盛り上がらないクライマックス」をどうしようか、でした。
キラの秘密を語るにしてもクルーゼがとにかく唐突過ぎて、しかも同時にフラガとの関係も明かすという「詰め込みすぎじゃ!」という中身をなんとかしないと、面白くもなんともないからです。

さらに回想とバンクにかまけてイザークとディアッカの邂逅は中途半端に終わってるし、薬中トリオはただの戦闘マシーンになっちゃってるし…ミリアリアにもアスランと和解するきっかけを与えたいと、ずっと再構築を考えており、そのためにかなり伏線も張ってきました。

「ザフトへの裏切り」についての解釈はPHASE44で語り終えたので、次はコーディネイターとナチュラルがわかり合えるという事をイザークに納得させなければなりません。
そこで「イザークとフレイ」と「ディアッカとミリアリア」を対比させる事でイザークにも納得できるようにしました。フレイがクルーゼにさらわれてきた事は本編ではあまり意味のない設定でしたが(鍵を運ぶ役なんて、ぶっちゃけフレイでなくてもいい。この事がクルーゼがフレイを殺す伏線ならまだしも、全然関係なかったし)、どうせならより物語の根幹に関わるように生かしたかったのです。
でもこのおかげで怒りんぼのイザークの公平性や、隠れた優しさが描けたのは予想外だったので面白かったです。逆デスでも、彼が隊長としてなんだかんだ言いながらも慕われる人柄であるという伏線にもできました。

フレイもまた、別れを言えなかったイザークを想い、自分が戦争を終わらせるのだと使命感を抱きます。それが悲劇を呼ぶのもまた、戦争の哀しさ。
こんなシーンがもし本編であったら、イザークとフレイは恋愛が絡まない(物語的に絡まない方がいい)のに、戦争の悲劇を物語るドラマティックなペアになったことでしょう。

それにアスランが友達と戦っていたという事実に衝撃を受けたイザークには、ディアッカ同様、これまでの彼女の行動を思い出してもらいました。バンクってそもそも、こういう時にこそ演出として使うものですよね。

この世を終わらせたいと願うクルーゼも、最初の頃から「狂言回し」としてきっちり役割を果たさせてきたので、「情報を流しただけ」で、「常に道は残した」という、フラガに人の愚かさを諭す事にも成功したと思います。
本編になかったものとしては、「最高のコーディネイター」の遺伝子は、「老化をも遅らせる」というスーパーぶりを盛り込んだ事です。こうすれば急速過ぎる老化に悩むクルーゼの嫉妬を一身に浴びられますしね。

なお、この頃クルーゼの背景にいたはずの大切な2人…デュランダルやレイについても語らせました。レイの出生には謎が多いのでよくわからないのですが、私の中では彼が言った事を膨らませ、「狂った研究者たちに面白半分に作られ、連中におもちゃのように扱われていた」としています。レイha
虐待を受け続け、かなりひどい目に合ったのだと思います。でなければ冷静沈着な彼がロドニアのラボであんなパニックは起こさないでしょう。だからこそ、それを知らずともシンが彼を救うシーンを描きたかったのです。この設定にすると、救うのがキラでは絶対ダメな事がわかります(だってそもそもヤツが原因じゃん)

また、この時までトールを殺したアスランにわだかまりを持ち続けていたミリアリアが、艦を守ろうと孤軍奮闘するアスランを見て助けを求めるシーンはどうしても描きたかったシーンです。それに応えるのがディアッカである事も譲れませんでした。
ディアッカはちょうどメンデルから戻るタイミングで、しかもアスランの戦友でもあるのでここで彼女に応えても全く不自然ではない上に、今後のミリアリアとの関係にも影響を与え、PHASE46での2人の関係は本編より少しだけ前に踏み込ませています。

また、ミリアリアとアスランの和解は逆デスでの2人に繋がっていきます。本編ではニコルとは違い、トールの事なんかきれいサッパリ忘れているアスランも、逆デスではちゃんと罪を背負い続けています。けれどミリアリアはそれを赦し、2人は友人関係を築いています。さらに逆デスPHASE40では、ミリアリアが頑なにカガリを拒絶するアスランにアドバイスすることで、彼らを破局の危機から救いました。
視聴者が戦争を通じて見たいと思うのは、こういう人と人との関係じゃないでしょうか。

フラガの過去についても、ここで唐突に出てくるよりはと以前から触れてきました。PHASE28で親との関係に悩むキラにフラガがアドバイスできなかったのは(あのシーンでフラガには両親を思い出させています)、子供時代に温かい家庭がなく、思春期に親がいなかったからです。
明るく健全そうに見えて実は捻れた過去を持つフラガが、多くの隊員に慕われるバルトフェルドや、カガリのもう1人の父にあたるキサカのようには子供たちを力強く引っ張れないのは、実はこうした「親の愛情不足」という暗い影のせいにしてみたかったのです。

これは後にネオとなり、ステラたちの時にも露呈する、彼の「責任を負いきれない弱さ」という「心の闇」です。そしてそれを満たし、補うのが健全で心優しいマリューさんなんですね。

また、この話には逆デスを見越して「ロゴス」の存在や思惑も示しています。世界の思想や世論、潮流を支配し、操作し、自分たちの都合のいいように変えていく者たち…
けれど、本当の敵は彼らではなく、アスランは「白にも黒にもなり得る内なる自分」であり、キラは「なんとなく流されていく事」だと気づくのです。
そんな「愚痴は言うが、力ある言葉としては何も言わず、批判はするが具体的な行動はせず、人は責めるが自分を省みない」多くの人々が流され、結局はそれが世界の流れを作ってしまうという警告を発してみました。

なお戦闘シーンの描写がかなりおざなりだったのでほとんどリライトしました。
また、初稿では書かなかったのですが、キラが資料を持ち帰るシーンを加筆しています。これは次のPHASE46で必要となるためです。
になにな(筆者) 2011/04/23(Sat)12:10:26 編集



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