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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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およそその射線上にいたもの全てを捉えた悪夢のような光は、次々と戦艦とモビルスーツ、そして核を運んだモビルアーマーを飲み込む。
戦場はたちまち恐怖に包まれ、阿鼻叫喚のるつぼと化した。

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部下たちと共に射線を離れていたイザーク、そしてイザークの言葉で後ろに退いたキラとアスラン、また、エターナルやアークエンジェル、追いついてきたクサナギも、この地獄のような光景に言葉がなかった。
その巨大な光は多くの命を消し去りながらもさらに前進を続け、ついに最も安全と思われた場所に陣取っていた旗艦にまでたどり着く。
回避するも間に合わず、ワシントンはその残酷な光に貫かれた。
ドミニオンのナタルはすぐさま判断を下していた。
「取り舵いっぱい!ロール角、左35、全速!宙域を離脱!」
ブリッジは慌しく動き出し、フレイは周囲の僚艦との通信を回復させようと試みたが、ジャマーがひどく何も聞き取れない。
やがてレーダーが艦隊ダメージが半数近い事を告げ、フレイを驚かせた。
第一波の後、さらに月から到着したばかりの艦も多かったというのに、それが今、たった一度の攻撃で…
クロトは無残なデブリと化した地球軍艦隊を見て大笑いした。
「結構やるじゃん、敵もさぁ!」
シャニも、核とはまた違うきれいな光が見られてご機嫌だ。
オルガだけはさすがにその威力に驚いていたが、次の瞬間くっくと笑いながら言った。
「おもしれぇ…互いに背水の陣ってヤツだ!」

避難したジンやゲイツ、ザフト艦も、自軍が放った砲のあまりの威力に声も出ない。
一体あの一撃で、どれだけの人間が…ナチュラルが死んだのか。
地球軍はザフト以上に数が多いので、それゆえにまた被害も大きいはず。
サイクロプスも核も人の命を奪う事に代わりはないが、たった今見せつけられたジェネシスの力は、イザークたちにとっても背筋を凍らせるに十分だった。そして誰もが、あの凶刃は恐らく地球を直接狙い、破壊する事ができるのだろうと、したくもない直感をさせられた。
ラクスもカガリも言葉を失っていた。
マリューやサイたちも収まっていく光と共に、戦場に残された累々たるデブリに目を見張る。無事に見える艦などわずかだ。
「こんな…」
どれだけの人が死んだのか…キラは思わず片手を口元に寄せた。
呆然としていたディアッカははっと気づいてデュエルを探し、フラガも因縁の相手がそこにいると知るかのようにヤキン・ドゥーエを睨みつけた。
「これがおまえの望んだ世界の終わりか…ラウ・ル・クルーゼ!」

「父上…」
凍りついた表情のまま戦場を、そしてはるか彼方に見えるジェネシスを見つめながら、アスランは父が真の望みを果たしつつある事を否応なく感じていた。
(あなたもまた、最後の扉を開いてしまったのですね)
「ジェネシス、最大出力の60%で照射」
「敵主力艦隊は半数が消滅しました」
ヤキン・ドゥーエでも、司令室では静かな驚きが拡がっていた。
たった今、同胞が暮らす故国に核を撃ちこもうとしていた許しがたい地球軍が、たった一撃で半数に減ったのだ。しかもジェネシスの出力は60%だという。
凄まじいその力に、静かなどよめきが起きる。
「勝てる…これで勝てる…」
誰かが呟いた言葉に、兵たちは軽くうろたえ、怯えたような表情を浮かべた。
「さすがですな、ザラ議長閣下。ジェネシスの威力、これ程のものとは」
壁際に立つクルーゼが静かな口調で賞賛した。
「戦争は勝って終わらねば意味はなかろう」
議長は普段と変わらない表情で冷ややかに戦果を見つめていた。
(この戦争、絶対に勝たせてはならないのだ…奴らナチュラルなどに)
彼の眼は痛手を受けた地球軍と、宙域のどこかにいるラクス・クライン、そして自分を裏切った我が子に冷たく向けられていた。

地球軍は大混乱に陥っていた。
「LSSをやられてるんだ。緊急着艦の許可を!」
ほとんどの主だった戦艦との通信が途絶し、傷ついたモビルスーツは手近な艦に着艦許可を求めてくる。運び込まれるケガ人は増えるばかりで、それも見ている間にバタバタ死んでいく者が後を絶たなかった。
焼け爛れた皮膚を垂れ下がらせた女性兵士が運ばれる途中で痙攣を起こし、血まみれのパイロットはさらに大量の血を吐いて息絶える。
体の一部を失って呻き苦しむものが廊下や床に並べられ、片付ける手が足りないため、低重力に漂う遺体がそこここで人々の邪魔をした。
「バジルール少佐、これは…」
やや後ろに詰めていたため無傷だったドミニオンでは、動揺する兵たちが皆、ナタルの指示を待っていた。誰よりも冷静で頼りになる彼女が上官でよかったと、今まさに彼らは心から実感していた。
「浮き足立つな。残存艦の把握急げ!」
ナタルはテキパキと指示を出す。
「旗艦ワシントンはどうなっているか?」
「ワシントンの識別コード、消滅しています」
「クルック、及びグラントも応答ありません」
これだけの被害を受けたというのに、司令部から未だ何の指示も来ないということは、旗艦も僚艦も既に討たれたと考えてよいだろう。
「信号弾撃て!残存の艦隊は現宙域を離脱する。本艦を目標に集結せよ」
それを受け、フレイが素早く緊急チャンネルを開いた。
半分腰を浮かしてこの光景を見守っていたアズラエルは、やがてペタンとシートに座り込んだ。そしてブツブツと小さな声で呟いている。
「なんだ…なんだよ、あれ…なんなんだよ!」
あれだけの大艦隊が、こうして見ても半分はいなくなっている。
(一撃…たった一撃だ)
しかもこちらは無抵抗な民間人ではなく、れっきとした軍人だ。
大火力を備えた戦艦、モビルスーツ、モビルアーマー…武力を備えていたのに、あんなものの前では全くの無力だった。
しかも、アズラエルの明晰な頭脳は一つの可能性に到達していた。
(あれは…地球を撃つ…)
あれだけの威力を持つ砲が地表に届いたら、一体どうなるのか。
残してきた妻子や家族、自身が勝ちあがってきた世界そのものが一撃で破壊されると思うと、アズラエルの顔は恐怖に引きつった。
「奴ら、僕たちを惑星ごと滅ぼすつもりなんだ!!」
つい先ほどまで、核を使って彼らコーディネイターを滅ぼすつもりだったアズラエルは、身勝手な怒りに震えて叫んだ。

「我ら勇敢なるザフト軍兵士の諸君」
パトリック・ザラはさざなみのようにヒソヒソと話し声が聞こえる司令部に、自らの姿を現した。通信兵がそれを見て、彼の話が戦場の兵士たちにも聞こえるよう、緊急チャンネルを開いた。
「傲慢なるナチュラルどもの暴挙を、これ以上許してはならない。プラントに向かって放たれた核、これはもはや戦争ではない!虐殺だ!」
司令部の兵士たちがざわめき、その言葉に頷く者もいた。
だがイザークは、自軍が起こしたこの目の前の惨劇に眉を顰めた。
(虐殺…)
では、たった今この戦場で起きたことがそうではないと言えるのだろうか。
「このような行為を平然と行うナチュラルどもを、もはや我らは決して許すことはできない!」
エターナルにも届いたその声を、ラクスは黙って聞いていた。
核の次はジェネシス…戦場はもはや狂気の色を濃くしている。
戦いに大義はなく、ただ相手を滅ぼすために撃ちあうだけだ…
「こちらも一旦退く!モビルスーツを全機呼び戻せ!」
バルトフェルドが号令を発し、三隻は戦線離脱を開始した。

同時にドミニオンも、追撃を始めたザフト軍を振り切るために動き始めていた。
ドミニオンにダメージはないが、彼らを頼って集結した多くの艦のダメージが大きい。今追撃されたら逃げ切れない。
ナタルは自らが防御盾となり、友軍を安全な地に導く判断を下した。
「アンチビーム爆雷発射!」
「取り舵40!」
ブリッジに緊張が走る。
「ローエングリン1番2番、敵の先鋒を狙え!発射と同時に取り舵80!」
あちこちでナスカ級やモビルスーツが、ようやく我に返ったように残った友軍を攻撃し始めている。傷ついた戦場に再び絶望が走った。
「撃ぇ!」
ナタルは突破を開始した。
ジェネシスの威力を目の当たりにして勢いづいたザフトは、ボロボロになって敗走する地球軍の戦艦やダガーを追った。
「よくも再び核など!」
完全に怯えてすくむダガーに、ゲイツのビームクローが襲い掛かる。
あちらではジンがサーベルで傷ついたダガーを後ろから貫いていた。
「うわぁ!」
逃げ切れずに爆散するダガーを見たキラは思わず飛び出した。
「やめてください!戦闘する意志がない人を!」
キラはユニットからフリーダムの腕を外し、背中のライフルを手にして威嚇射撃を加えた。しかし見ている間にも、腕と足がなく、満足に防御すらできないダガーがジンの攻撃を受けて散る。
誰もがこの異常な戦場の熱に浮かされ、殺気立っていた。
「やめて!!もうやめてくださいっ!」
キラは悲痛な声で叫び、アスランは逆に沈黙を続けていた。
そんな彼らをバルトフェルドが呼び戻した。
「キラ!退け!今は退くしかない!」

「新たなる未来、創世の光は我らと共にある」
傷ついた地球軍とクライン一派が去っていく宙域を見つめ、議長は言った。
「この光と共に、今日という日を、我ら新たなる人類…コーディネイターが、輝かしき歴史の始まりの日とするのだ!」
その言葉に、兵士たちは応えた。
「ザフトのために!ザフトのために!ザフトのために!!」
それを見てパトリック・ザラは微笑んだ。
(見ろ、シーゲル。これが我らの世界の始まりなのだ)

「バイタル低下!誰か手を貸してくれ!」
ドミニオンのハンガーは傷ついた兵士で溢れかえっていた。
着艦したオルガ、シャニ、クロトは、殺気立つ衛生兵や虫の息の怪我人には何の興味もなさそうな視線を向けただけで、控え室に向かった。
けれど3人はその後、珍しく自分の好きな事をするのではなく、多くの命が一瞬で失われ、大量のデブリが漂う宙域を眺めていた。
彼らがその光景を見て何を考えていたのかは、知る由もないのだが。
「ああ、そう!そうだよ!ったく冗談じゃない!」
アズラエルはフレイからインカムを奪い、相手に怒鳴りまくっている。
「これは今までのたくたやってたあんた達トップの怠慢だよ!」
そうしてる間に、ドミニオンには他の艦から続々と救援要請が入った。
ナタルはすぐに救助に向かうと返信するよう指示を出す。
しかしそれを聞いたアズラエルはインカムを投げつけ、ナタルに怒鳴った。
「おい!ふざけたこと言うな!救援だ!?なんでこの艦がそんなことすんだよ!」
その剣幕にブリッジの誰もが振り返る。
「アズラエル理事!しかし…」
「無事な艦はすぐにも再度の総攻撃に出るんだ!」
アズラエルは悪鬼の形相でナタルを怒鳴りつけた。
「そんなことより、補給と整備を急げよ!」
「ムチャです!現在我が軍がどれだけのダメージを受けているのか、理事にだっておわかりでしょう?」
ナタルはアズラエルの方に向き直って抗議した。
無事な艦など、今ここにどれだけいると思っているのだ…無事であれば救援活動に忙しいのは当然で、戦闘に出られる状態ではない。
「月本部からすぐに増援も補給も来る」
確かに、彼が通信で要請し、月基地はただちに増援を送っていた。
「きみこそ何を言っているんだ!状況がわかってないのはきみの方だろうが!」
アズラエルは反論した。
その声にはこれまであった余裕も、優越も、傲慢さもなかった。
あるのはただ、恐怖と戸惑い、混乱と疑念…そして、大いなる怒りだ。
「あそこに!あんなもの残しておくわけにはいかないんだよ!」
アズラエルが指差すその先に、ジェネシスがあった。
今現在、ボロボロになった照準用ミラーを取り除く作業が進められているあの恐るべき大量破壊兵器が。
「何がナチュラルの野蛮な核だ!」
アズラエルはいつも小綺麗に整えている髪を振り乱しながら叫ぶ。
「あそこからでも地球を撃てる、奴らのあの、とんでもない兵器の方が遙かに野蛮じゃないか!」
コーディネイターの高い科学力と技術力をまざまざと見せつけられたドミニオンクルーも、彼のその言葉を聞いて黙り込んだ。
「そしてもう、いつその照準が地球に向けられるかわからないんだぞ!」

―― 討たれてからじゃ全てが遅いんだ!

ヒステリックに叫びながら、アズラエルはやけに冷静にこの事態を外から見つめている自分の存在も感じていた。
昔から自分が憎み、嫌悪するコーディネイターが、いかに外道であり、許しがたいものであるか…これで全世界は文句なく認めるだろう。
(僕はやはり、間違ってなどいなかった!)
アズラエルは怒りと共に、震えるような悦びを感じていた。
正しき道を歩んできたという英雄精神が彼に大きな幸福をもたらしていた。
「あいつらをこの世界から叩きだすんだ!僕らの未来のためにね!」
そうだ…奴らがいなくなって初めて、青き世界は清浄さを取り戻すのだ!
それからアズラエルはナタルを指差して叫んだ。
「奴らにあんなもの造る時間を与えたのはおまえたち軍なんだからな!無茶でもなんでも絶対に破壊してもらう。あれとプラントを!」
互いに強力な最終兵器を持ち、撃ちあう段階まで来てもなお、アズラエルはその責任はすべて、「自分以外」にあるのだと言い張るつもりだった。
「地球が討たれる前に!」
もはや対話をもつことすらせず、互いを追い詰め、互いに追い詰められて、ナチュラルは核を、コーディネイターはジェネシスを手にして向け合っている。
フレイは灰色の瞳を見開き、怒鳴りまくるアズラエルを見つめていた。
「フレイって、ブルーコスモス?」
父を殺したコーディネイターを憎んでいた自分が、そこにいた。
何も知らず、考えもせず、ただ盲目的に相手を認めなかった自分が。
自分勝手な理屈だけで、欲望を押し通そうとする自分が。
フレイはその愚かさに怯え、ついに世界が終わることを予感した。
どこかで、仮面の男が楽しそうに笑っているような気がした。

エターナルのブリッジでは、カガリと共に小型ランチでやってきたエリカ・シモンズが、ジェネシスの分析データを説明していた。
アークエンジェルのマリューもモニターを通じてそれを聞いている。
「発射されたのはΓ線です。線源には核爆発を用い、発振したエネルギーを直接コヒーレント化したもので、つまりあれは巨大なΓ線レーザー砲なんです」
「…地球が撃たれたら…どうなるのですか?」
ラクスが重苦しい口調で尋ねると、エリカは溜息混じりに答えた。
「もし地球に向けられれば…強烈なエネルギー輻射は地表全土を焼き払い、あらゆる生物を一掃してしまうでしょう」
「バカな!」
エリカの冷酷な予測に、カガリが思わず顔を背けた。
「…撃ってくると思いますか?地球を…」
沈黙したエターナルのブリッジに、マリューが静かに問いかけた。
その質問に答えたのはバルトフェルドだ。
「強力な遠距離大量破壊兵器保持の本来の目的は抑止だろ?」
もともとは核ミサイルとて、前世紀以来そうだったのだ。
「だがもう撃たれちまったからな。核も、あれも…」
撃ってしまった今となっては、どちらももうためらわないだろうと彼は言った。
しかしマリューはそれには納得できないのか、何も答えない。
バルトフェルドは額を掻くと、それを裏付けるように続けた。
「戦場で、初めて人を撃った時、俺は震えたよ」
ザフトに志願し、訓練を重ねて初めてナチュラルを撃ったあの日…若かった自分が震えながら握った銃の重みは忘れられない。
「だが、すぐ慣れると言われて、確かにすぐ慣れたな」
キラもまた、バナディーヤで彼を狙ったブルーコスモスの連中を、一切の躊躇も容赦もなく撃ち殺したバルトフェルドの冷徹な姿を思い出した。
「あれのボタンも…核のボタンも同じと?」
「違うか?」
バルトフェルドは少し哀しそうな表情で肩をすくめた。
「俺だって、自分が簡単に人を撃てるなんて思っちゃいなかった。だが、人はすぐに慣れちまう。戦いにも、殺し合いにも…」
それは銃を持った経験のある者なら誰もが思い当たる気まずい事実だった。
けれど、それでもキラはそうは思いたくはないと唇を噛んだ。
(戦いなんか、今だってイヤだ)
誰かを傷つけたり、殺したりせずに生きていけるなら、それが一番いいに越した事はない。
慣れたから、それが当たり前だからと、人を殺す武器を手に取りたくはなかった。
たとえそれが、何かを守るためであっても、常にその罪を感じていたい…だが、それをしなければ自分の大切な人が傷つけられたり、もっと多くの罪もない人が殺されたり苦しめられるのなら…
「…私たちは、戦わなくちゃいけないんですよね」
キラは言った。
「核にもあの光にも、絶対に互いを討たせちゃだめです」
その言葉には力強さがあった。
「そうなってからでは、全てが遅いんです。彼らが討とうとするなら、私は…ううん、私たちは、なんとしてでも止めなくちゃいけないんです。そうでしょう?」
キラは皆に問いかけた。
「できるかどうかはわからない。でも、やらなくちゃいけないと思います」
バルトフェルドはやれやれと笑った。
「確かに、ここで諦めたら何も始まらんな」
彼が知っている、怯えた顔の頼りない少女はもういない。
キラは今、なすべき事を知り、できる事をやろうと決意していた。
カガリもそんなキラを見つめ、それから傍らにいるアスランを見た。
「何もしなくても滅ぶなら、俺は最後まで抗い抜く方がいい」
アスランはその視線を受け止め、少し驚いたような表情をしている。
「俺はオーブを復活させるまで絶対諦めないぞ」
キラが頷き、それから戸惑っているアスランにも笑いかけた。
「だよね、アスラン」
「確かに。今やれるだけのことを、やってみましょう」
そのこたえにラクスが頷き、バルトフェルドやシモンズも視線を交わす。
「そのために、私たちはここまで来たんですものね」
マリューの言葉を聞いて、カガリが明るく笑って言った。
「俺たちの世界を、こんなとこで終わらせてたまるか」
アスランが見せた微笑みが、カガリには何より嬉しかった。

「第48、及び第211航宙師団の指揮は以後マグサイサイが執る」
「第15空母軍の残存艦艇はアインナインの信号座標に集結せよ。以後第3空母軍に編入とする」
数時間後、月艦隊からの指令が届き始め、地球軍もようやく平静さを取り戻しつつあった。
一方ヤキン・ドゥーエの司令部でも、ジェネシスのミラーブロックの換装オペレーションが進められており、あと1時間ほどで完了する。議長はそれをできる限り急がせるよう指示した。
「地球軍に動きは?」
「未だありません」
議長の問いかけに、クルーゼがデータを見ながら答えた。
「ふん、月基地にも戻らずまだ頑張っているか」
モニターには落ち着きを取り戻したとはいえ、惨憺たる有様の地球軍艦隊が映し出されていた。
「奴らも必死でしょうから。あの威力を見た後では…」
クルーゼは弱りきった地球軍に、こちらから仕掛けるかと聞いた。
「そのようなことをせずとも二射目で全て終わる。我らの勝ちだ」
ザラはそれを却下した。彼の中に勝利のシナリオは既にできている。
「では、地球を?」
「月基地を討たれてもなお、奴らが抗うとなればな」
まずは月か…クルーゼはその攻撃の付加価値を値踏みする。
しかしあの威力を見たアズラエルなら、それくらいでは退くまい。
クルーゼはニヤリと笑った。そうなれば間違いなく、世界は終わる…

「母上!」
「まぁ、イザーク!」
イザークはアプリリウスの司令部に戻ると、急ぎ指揮を執る母の元に向かった。
エザリアは愛息子の姿に顔をほころばせ、彼の元に歩み寄ってきた。
「ずっとこちらに?」
「ええ。大事な局面ですから」
母の満足げな表情には、勝利を確信した人間の自信があった。
「間もなくジェネシスの二射目が行われます」
エザリアは声を潜めて作戦の極秘事項を息子に囁いた。
「そうすればこの長かった戦争もようやく終わるわ」
「あの…」
イザークは一体ザラ議長や母がこの戦いについてどう考えているのかを聞きたかったのだが、あのような兵器を見てなお、こんなにも明るい表情を見せる母に少し驚き、それを聞くことを躊躇してしまった。
「あなたも連戦で疲れているだろうと思うけど、あと少しです」
「…はい」
エザリアは愛しげに息子の髪をなでつけ、イザークは言葉を飲み込んだ。
「未来は、私たちのものよ」
母はそう言ってイザークの頬にキスをした。
幼い頃から馴染みのある母の唇が離れると、イザークは再び口を開いた。
「あの…母上…二射目の照準…」
しかし今度は彼女に随伴していた首脳陣がエザリアを呼ぶ。
母は彼らに軽く頷くと、再びイザークに向き直った。
「では、無茶はしないで。あなたの隊は後方に回します」
「母上…」
「あなたの仕事は、戦後の方が多くなるのよ」
母はそう言い残し、去って行った。
イザークは1人残され、言い知れぬ違和感と薄ら寒さを感じていた。
確かに、ナチュラルたちがプラントに核を放ったのは言語道断だが、一方で我々もあんな兵器を地球に撃ったりしたら、地球は一体どうなってしまうのか…母も議長も、何もためらわないのだろうか?
(いや…いくら議長でも、あれで地球を撃つなど…)
「本当にそう言いきれるか?今、この状況で」
ディアッカの言葉を思い出し、イザークはギクリとした。 
ジェネシスは確かに戦況をひっくり返した。
けれどその威力は多くの「命」を消し去り、全てを無に帰したのだ。
もしそれでもなお、地球軍が諦めなかったら?退かなかったら?
(ディアッカ…)
イザークは飄々とした戦友の顔を思い浮かべた。
「だけど、俺はもうナチュラルを…黙って軍の命令に従って、ただナチュラルを全滅させる為に戦う気はないってだけだ」
ナチュラル…イザークは自分の目の前でプラントに核を撃ちこもうとした彼らを、そしてジェネシスで傷つき、撤退していく彼らを思い出した。
(プラントに核を撃つなど、言語道断だ。だが…)
プラントに住む人々に生きる権利があるように、地球で暮らしている、アルスターのような無力な連中にだって生きる権利はあるだろう…彼らまでもが、ジェネシスで討たれていいはずがない。
イザークは息を吐きながらディアッカを、アスランを想った。
(おまえたちは、一体どうするつもりだ?)
そして、俺は…
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secret
制作裏話-PHASE48①-
ジェネシスが発射され、戦場が地獄のようになるクライマックスです。

SEEDは昔から「チンタラやってるくせに、信じられないような大量破壊兵器をポンポン出して、主人公に関係ないその他大勢をバタバタと殺し過ぎる」と批判されましたが、ついにその最たるものが出現しました。
サイクロプスで消え去る人々、核の光に飲まれる人々に続き、次回は月基地でポップコーンのように弾け飛ぶ人々が描かれます。

まぁ正直言って、戦争の苦悩や悲惨さが何一つ描かれず、演出や効果が派手なエンタメっぽさが前面に出ているのは否めません。
何しろ戦争のむごさや悲劇を背負っているキャラが全然出てこないですし、それを一身に背負うキャラとして登場した主人公シン・アスカは、皆さんご存知の通り、ひどい扱いでした…シンは使いようによってどれだけ素晴らしい主人公になるか、それを実際にやってみたいというのが逆デスを書くきっかけでしたから。

そんな事もあって、完璧ファースト世代の私としては逆種や逆デスにもなるべく「戦争の悲惨さ」を入れ込みたかったのですが、何しろシナリオにそれがないので入れ込めない…という苦悩がありました。

だからこのあたりでキラやラクスには悩んだり内省してもらっているのですが、どうしても「とってつけたように」なってしまうのは否めませんね。
それでもあのグダグダの本編よりは、「戦争が敵」であるとして闘うことを決めているラクスの考えや、一人ぼっちで戦い続けてきたキラの心や、失われたオーブへのカガリの想い、父との確執に悩むアスランなどはもう少し描けていると信じたいものですが。

そもそも、種で「戦争の悲惨さ、非道さに悩む資格がある」のは、最後まで立場を変えずに戦い続けたイザーク、またはナタルだけじゃないかと思います。(そのイザークもDESTINYでは寝返ってしまいましたね)

また、今回のりライトでアズラエルやフレイ、カガリの想いや言葉を少しつけ加えました。ママキッスを受けたイザークにもせっかくなのでディアッカの言葉を思い出してもらいました。
「とってつけたようだ」と自嘲しましたが、マリューとバルトフェルド、キラやカガリたちの会話シーンは、本編より「会話らしく」してあります。
私はキャラが自分の考えをはっきり述べる方が、わかりやすくて好きなので。

書いている時はこのPHASEはもっと長いような気がしていましたが、今読み返すと前後編に分ける必要がないほど短いです。後半にそれぞれカップリングが成立するので、メリハリのために分けざるを得なかったのです。
になにな(筆者) 2011/05/07(Sat)14:35:55 編集



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