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Natural or Cordinater?
サブタイトル

お知らせ
PHASE0 はじめに 
PHASE1-1 偽りの平和①
PHASE1-2 偽りの平和②
PHASE1-3 偽りの平和③
PHASE2 その名はガンダム 
PHASE3 崩壊の大地
PHASE4 サイレント ラン
PHASE5 フェイズシフトダウン
PHASE6 消えるガンダム
PHASE7 宇宙の傷跡
PHASE8 敵軍の英雄
(原題:敵軍の歌姫)
PHASE9 消えていく光
PHASE10 分かたれた道
PHASE11 目覚める刃
PHASE12 フレイの選択
PHASE13 宇宙に降る星
PHASE14 果てし無き時の中で
PHASE15 それぞれの孤独
PHASE16 燃える砂塵
PHASE17 カガリ再び
PHASE18 ペイバック
PHASE19 宿敵の牙
PHASE20 おだやかな日に
PHASE21 砂塵の果て
PHASE22 紅に染まる海
PHASE23 運命の出会い
PHASE24 二人だけの戦争
PHASE25 平和の国へ
PHASE26 モーメント
PHASE27 果てなき輪舞
PHASE28 キラ
PHASE29 さだめの楔 
PHASE30 閃光の刻
PHASE31 慟哭の空
PHASE32 約束の地に
PHASE33 闇の胎動
PHASE34 まなざしの先
PHASE35 舞い降りる剣
PHASE36 正義の名のもとに 
PHASE37 神のいかずち
PHASE38 決意の砲火
PHASE39 アスラン
PHASE40 暁の宇宙へ
PHASE41 ゆれる世界
PHASE42 ラクス出撃
PHASE43 立ちはだかるもの 
PHASE44 螺旋の邂逅
PHASE45 開く扉
PHASE46 たましいの場所
PHASE47-1 悪夢はふたたび①
PHASE47-2 悪夢はふたたび②
PHASE48-1 怒りの日①
PHASE48-2 怒りの日②
PHASE49-1 終末の光①
PHASE49-2 終末の光②
PHASE50-1 終わらない明日へ①
PHASE50-2 終わらない明日へ②
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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「照準ミラーブロック、換装まだか?」
ヤキン司令室ではパトリック・ザラが、未だに退かない地球軍に、三度目になるジェネシスの発射シークエンスを急がせていた。

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プロヴィデンスで出撃したクルーゼに代わり、護衛のためにザラ議長の後ろに控えたのは、アスランの教官だった特務隊員レイ・ユウキだった。
「光軸偏差の修正値を転送」
「三号ユニットは最終撃発座標へ」
最後の標的を撃つべく準備の進むジェネシスについて、将官とひそひそ言葉を交わしているザラ議長を見ながら、ユウキはアスランを想った。
その気になれば多くの男たちを虜にできるだろうその美しい容姿に似合わず、ひたすら実直で真面目な彼女は今、父に反旗を翻して戦っている。
軍人らしからぬ柔和さで多くの部下から慕われるユウキは、この宙域のどこかにいるかつての教え子をひそかに案じていた。

「核魚雷、残弾数8」
「ピースメーカー隊2、交信途絶」
地球軍の核も、クライン一派とヤキンの防衛隊にほとんど落とされた。
ことにキラとアスランの力を知るイザークは、彼らの迎撃能力を鑑み、ジュール隊にはミサイルよりモビルアーマーを落とすよう命じていた。
(とりこぼした連中のミサイルは、あいつらが撃つ)
イザークは2人に不可思議な信頼感を寄せ、それは実際功を奏した。
核ミサイルを撃つ前に討たれたピースメーカー隊は、コーディネイターを罵りながら散っていった。
イザークはバスターの援護を受けた後、サーベルを収めた。
おまえと戦うつもりはない…それが彼なりの意思表示であり、礼だった。
2人は言葉を交わすことなくそれぞれの戦いの場へと戻ったが、ディアッカはイザークがやはり自分で答えを見つけ出した事を悟り、ふっと笑った。
しかし次の瞬間、自分のすぐ近くでジンの頭部をライフルで吹っ飛ばしている見慣れた機体に気づき、いぶかしげに身を乗り出した。その形は確かに見慣れているが、先に出撃したフラガのものとは色が違ったからだ。
それは青ではなく、赤と黒を基調にしていた。
カガリが「よぅ」と挨拶をすると、ディアッカは驚きの声をあげた。
「おい、何してんだ、おまえ!?」
カガリは周囲を警戒しながら、「喋りながら戦うのは無理だぞ!」と答えた。
「俺はルーキーだからな!」
「なんでこんなトコに…仮にもおまえは指揮官だろうが!?」
ディアッカは呆れたが、戦いぶりを見ると操縦も射撃もそこそこのようだ。
「くそ…仕方ねぇな!」
ディアッカはランチャーを構えてとりあえず周辺の敵を威嚇すると、「なるべく俺から離れるなよ」と言った。カガリはそれを聞いていたずらっぽく笑った。
「なんだ、手伝ってくれるのか?」
「おまえが死んだら、俺があいつらに怒られるからな!」

「でやあ!」
バスターに追い払われたレイダーが、フォビドゥンを相手にしていたジャスティスに狙いを定め、MS形態に変形して向かってきた。
それに気づいたキラがアスランを援護するためにミサイルを放ったので、両者はすぐに爆炎に巻き込まれて見えなくなった。
「あの2機を落とせ!砲火を集中させろ!」
旗艦からはサザーランドが命を下していた。
キラはアスランの安否を確認する間もなく、今度はカラミティの攻撃を避け、さらには一斉に残存艦隊からの艦砲射撃を喰らう羽目になった。
「厄介な敵」と認識された2人は、地球軍の第一の標的にされたのだ。
「なんなんだよ!おまえたちは!?」
その時突然、ジャスティスのチャンネルに雑音交じりの若い男の声が入った。
「なに必死にやってんだ!?バッカじゃないの、マジメになっちゃってさ」
アスランはそれが相手パイロットと直感し、思わず怒鳴り返してしまった。
「おまえたちこそ何だ!一体何のために戦っている!?」
その声を聞いて、クロトは少し驚いて後ろを振り返った。
(なんだ、こいつ、女だったのか?)
女に辛酸を舐めさせられていた事より、か弱いその姿を想像して嗜虐心を刺激され、クロトの眼に穢れた欲望に混じった狡猾さがキラリと宿る。
「そんなこと僕は知らないね!やらなきゃやられる、そんだけだろうが!」
「な…」
軍人としての大義を重んじ、それゆえに道を見誤ったと思っているアスランは、敵である彼らも、何らかの大義を信じ、地球や家族への思いがあるからこそ戦うのだろうと思っていた。
(だから、互いに核やジェネシスなど撃ち合ってはならないと言えば…)
しかしその声は、そんなものはどうでもいいと言わんばかりだった。
「僕はただ、やられる前にやるだけさ」
クロトはバカにするようにゲラゲラ笑い、それからペロリと唇を舐めた。
「もっと早くおまえが女だって知ってたらさ…もっともっと楽しかったのになぁ」
アスランはその言葉の裏の黒い欲望を感じ取り、ザワリと背筋が寒くなる。
「きさま…!」
「おーっと、やられるぅ!」
ふざけたようにクロトはアスランが振るった巨大なビームソードを避けた。
「…やられないけどねぇ!」
「くっ!」
チャンネルを開いたのは失敗だった。アスランは乱暴にスイッチを切り、相手の声に感じた根っからの残忍さと不真面目さに不快感を隠せなかった。

ディアッカとカガリは、新型を相手にしているフリーダムとジャスティスに代わり、残りわずかとなった核ミサイルを撃ち落していった。
「こいつら、こんなものを!」
「おまえは無理するな!取りこぼしても大丈夫だ!」
たとえ外しても、ザフトには防衛隊であるイザークたちがいるのだ。
ディアッカはむしろ周囲を警戒しろとカガリに指導していた。
その時、ディアッカの忠告どおりビームが向かってきた。
「避けろ!」
両者は離脱したが、それは普通のビームではなく、突然軌道を変えた。
(ちっ!新型!?)
ディアッカが逆の方向に逃げたストライクRを見ると、フォビドゥンがニーズヘグを振り回してカガリを追っていた。
カガリはなんとかそれを避け、必死に姿勢を保持しようとする。
シャニは相手の技量が低いと知って、ニヤリと笑った。
そして勢いよくニーズヘグを振り下ろしたのだが、ジンやM1ならあっさり切り裂けるはずのボディで刃を受け止められ、「あれ?」と思う。
(こいつ、意外と硬いな…)
そこでシャニは戦法を変えた。
ディアッカが援護射撃を行おうと収束砲を構えたが、位置が悪い。
「カガリ!早く逃げろ!」
そう言いながら近づくバスターより早く、フレスベルグは発射された。
コンピューターの予測が偏向ビームを捉えきれず、ストライクRのコックピットではいきなりロックオンのアラートが鳴り響いた。
「うわっ!」
向きを変えて襲い掛かるビームに、カガリは慌ててシールドを合わせようとしたが、間に合わない。
その時、ストライクRの前にまばゆい光が走った。
ディアッカもカガリも、その光が何なのかわからなかった。
放たれたビームが相殺され、続けてどこからか発射されたビームが、フォビドゥンの肩から背部にかけて直撃したのだ。
「うあぁっ!」
コックピットが損傷し、シャニは激しい衝撃に襲われた。
「…デュエル!?」
カガリは自分を援護した機体を見て驚きを隠せなかった。
「でやぁ!!」
イザークは何も言わずにサーベルを抜くと、フォビドゥンに向かった。
(イザーク…?)
驚いていたディアッカも、すぐに援護を開始した。
「ふ…」
シャニは入れ替わった敵に、再びフレスベルグを放った。
ところがイザークは避けようともせず、シールドを突き出したまま真っ直ぐ突っ込んだのだ。ディアッカもカガリも、そのあまりにも無茶な力技に思わず息を呑んだ。
両者のぶつかりあいが大爆発を呼び、デュエルもフォビドゥンも爆煙に消えた。
機体内部の酸素が燃え、どちらかのダメージでデブリが散った。
次の瞬間、飛び出してきたのはアサルトシュラウドを失ったデュエルだった。
ディアッカもカガリも息をついたが、イザークはそのまま無防備な体勢で目の前に立っていたフォビドゥンに引導を渡さんとサーベルを抜いた。
「でやあああああ!」
鋭い掛け声と共に2本のサーベルで切り刻み、見事コックピットを貫く。
彼の太刀筋のあまりの速さと正確さに、カガリは不覚にも見とれてしまった。
一瞬、前髪に隠れていたシャニの金色の瞳が見えた。
彼が昔から人々に疎まれる原因は、左右の色が違う瞳だった。
「コーディネイターでもないのに」と、母が気味悪がった金の瞳…彼女は幼い彼を育てる事を放棄し、シャニは飢えと乾きで死にかけた。腐った食べ物や汚物の中で発見され、奇跡的に救出された彼の心には、誰にも救えない深い傷だけが残された。激しい破壊衝動に突き動かされ、彼は何人もの命を奪って死刑を宣告されていた。それが今、ようやく執行されたのだ。
(ああ…とても…綺麗だ…)
大好きだった綺麗な白い光に包まれ、シャニの体は蒸発した。
シャニは覚えていなかったが、最後に彼を置いて行った時、母は白く輝くようなワンピースを着ていたのだった。
「シャニーッ!」
フォビドゥンのシグナルロストのサインがモニターに現れ、オルガは彼方に見えた光が、シャニを永遠に連れ去った事を知った。

一方フラガはクルーゼのプロヴィデンスと戦いを繰り広げていた。
「クルーゼ!くっ…!」
フラガはビームサーベルを抜き、背中に巨大なドラグーンシステムをマウントした禍々しい機体に向かって行く。クルーゼは既にこの新型で何機ものダガーやM1を撃破しており、戦闘がこなれてきていた。
(親父のクローンなら、ヤツもナチュラルのはずなんだ…)
しかし戦闘能力において、クルーゼは明らかに自分を凌駕している。
それはこれまで何度か打ち合ったことでいやでも理解できてしまっていた。
(何しろ俺は、ザフトでエースになんぞなれるとは思えないからな!)
ストライクの1.5倍近くある重量型の機体を、軽々と乗りこなしている忌々しいクルーゼに毒づきながら、フラガは接近戦を挑んだ。
クルーゼは受けて立つとニヤリと笑った。
(重火器武装に焦点を置いた機体に接近戦か…)
「正解だ、ムウ!いい判断だな!」
両者は一歩も引かず、フラガは力任せにサーベルを打ち込んだ。
「これが望みか!?貴様の!」
「私のではない!これが人の夢!人の望み!人の業!」
クルーゼは機体に似合わぬ小さなシールドでサーベルを防いでいる。
跳ね飛ばされてなお、フラガは再び果敢に斬りかかった。
フラガの勘が、この機体からはなるべく離れぬよう警告していた。
「他者より強く、他者より先へ、他者より上へ!行きたがるものなのだ、人は!」
「ふざけるな!」
再びプロヴィデンスに押し切られ、ストライクが下がらされてしまう。
「競い、妬む、憎んでその身を喰い合う!」
クルーゼもまたライフルで少し離れたストライクを追った。
「愚か者ども!いつまでもそうやっているがいい…死してなお!」

「くそっ、よくもシャニを…!」
そう言いかけて、オルガははたと思考を止めた。
何だ?なぜ俺がそんな事を思う?まるでシャニの仇討ちのように…
(ロクに話もできなかったヤツだ。いなくなってもどうって事はない)
しかし、彼の思考と行動は不思議な事に乖離し、矛盾をはらんでいた。
冷静さを欠いていたのか、判断が鈍っていたのかはわからない。
オルガはシャニを屠ったデュエルを追っていくうちに、いつの間にかフリーダムの射線に入ってしまったことに気づかなかったのだ。
デュエルの後方からバズーカを放っているカラミティを認めた時、キラは迷わずビームソードで斬りつけた。
「邪魔するなぁ!」
オルガがそれを避け、フリーダムに砲口を向けた時だった。
逆側からジャスティスが同じくビームソードを一閃したのだ。

―― ちくしょう、あの野郎…最後まで…!

カラミティの機体は胴体部分で容赦なく一刀両断された。
光と熱が、罪を重ねてきた彼の穢れきった体を塵に返していく。
「ぐわぁぁ!!」
こうしてオルガの血にまみれた生命もまた、漆黒の宇宙に消えていった。

彼らの援護を知っても、デュエルは振り返らなかった。
イザークはライフルを抜き、真っ直ぐに目標を目指していく。
彼の狙いは核を発射した、旗艦と思しきアガメムノン級だった。
「ん?」
そんなモビルスーツの高速移動に、オペレーターより早く気づくところが、サザーランドの強運を物語る。しかしさしもの彼の悪運もここまでだった。
イザークはライフルを構え、ブリッジを狙った。
向こうには人がいる。しかし彼らはプラントを撃たんとした「敵」だ。
(ためらう必要はない…これはプラントを守るための戦いなのだ)
ドゥーリットルのブリッジは突然目の前に現れたデュエルを見て驚き、叫び声をあげた。けれど彼らには、救ってくれるフリーダムは現れない。そしてイザークは引き金を引いた。
旗艦ドゥーリットルは連鎖爆発を起こして轟沈し、ここにプラントへの核攻撃はすべて回避されたのである。
アズラエルはそのドゥーリットルの爆発を見て声を失った。
ナタルは黙ってデブリを見つめ、フレイもまたそれを眼に焼きつけた。
旗艦を失う事がどういう事か、今はもう彼もよくわかっている。
戦局は追い込まれ、このままではいつ停戦になってもおかしくなかった。
その上、アークエンジェルはさらに激しく攻撃を仕掛けてくる。
ドミニオンクルーもよくしのいでいるが、徐々に追い詰められていた。
(なのに、あの兵器はまだあそこにある…地球を狙ってるんだ…)
何をすべきなのか、地球を故郷と思う者なら理解していた。

「貴様の理屈だ!思い通りになど!」
フラガは独りよがりの理屈を振りかざすクルーゼの言葉を跳ね返した。
しかし人の傲慢さと身勝手さが今の状態を招いたのは事実なのだから、フラガにはどうにも分が悪い。
「既に遅いさ、ムウ。私は結果だよ。だから知る!」
クルーゼは正確な射撃でストライクのライフルを破壊した。
「自らの欲望のままにコーディネイターを生み出し、自らが作り出したコーディネイターを妬み、嫉み、自らの手で無に帰そうとする…」
フラガはライフルの爆発を避け、再び後退を余儀なくされた。
「その反撃がこれだと!自ら育てた闇に喰われて、人は滅ぶとな!」
クルーゼはそう言い放つと、ついにドラグーンを放った。
フラガは突如射出されて襲い掛かってきた複数の小さな砲口に目を見張った。
「なんだ、これは!?」
慌てて回避しようとしたが、それが一斉に放ったビームを避けきれず、攻撃に伴う衝撃に叫ぶ。ヤツの機体から離れてはいけない…フラガは根拠のない自分の勘が正しかった事を、今さらながらに感じていた。
「うわぁ!」
ストライクはビームの包囲網に包まれ、あちこちで小爆発を起こした。
「手加減してやったぞ、不肖の息子よ。せいぜいあがき続けるがいいさ」
クルーゼは傷だらけになって動けないストライクを戦場に置き去り、高らかに笑いながら去っていった。

その頃エターナルでは、ラクスがプラントからの暗号通信を受け取っていた。
それは彼が危険を犯して接触したレジスタンス勢力の動向だった。
ザラ議長がヤキンに上がった今、アプリリウス行政府の司令部にはエザリア・ジュール議員が残るのみ。
ラクスは手薄なプラントを襲い、拘束されている穏健派を開放するよう彼らに依頼していた。
バルトフェルドが懸念していた「餌」は、やはり彼らの主だった罪状のもみ消しと参政権の復活だったが、そんなものは無理に決まっている。
しかし作戦は既に開始され、司令部周辺では武力衝突が始まっていた。
(戦いは果てしない)
キラが、アスランがモニターに映る。
カガリが戦闘に出たという連絡を受け、ラクスはダコスタに特に気をつけて援護するよう頼んでおいた。
(そうやって、皆が戦場で必死に戦っても)
ラクスはため息をつく。
(結局、僕たちはこの戦いそのものを止めることはできなかった)
向かってくるナスカ級にミサイルが発射され、主砲が放たれる。
エターナルの眼の前で爆発し、ゲイツがデブリとなって消えていく。
それを見つめながらラクスは頭を振った。
(それでも、何もしないよりはいい)
「プラントは守られた。次は、地球を守らなければ」
ラクスはバルトフェルドに、フリーダムとの通信を開くよう伝えた。

「マリューさん!」
キラはラクスからの要請を受けた後、マリューに現在の戦況を尋ねた。
マリューは旗艦が落ちた今、もう核が放たれる事はないだろうと答える。
「必要な機体は補給を。ドミニオンは抑える!ジェネシスへ!」
キラはバスター、そしてジャスティスに集合のための信号を送った。
「第8バンク、閉鎖。サブ回線オンライン。弾薬ノッシュ進行中」
その間に、パルが艦体の決して軽くはないダメージを伝える。
ラミネート装甲も限界に近く、あちこちで火が出て消火活動が行われた。
ダメージコントロールが追いつかず、アラートはずっと前から鳴りっ放しだ。
その時、モニターを見ていたミリアリアが叫んだ。
「ストライク、帰投します!被弾あり!」
「え!?」
その言葉に血の気が引いたが、すぐにフラガの元気そうな声が飛び込んできた。
「くっそー、クルーゼの新型!もう一度…」
マリューはほっとして、整備班に緊急着艦用ネットを準備するよう指示した。
「とにかく着艦を!」
「わりぃ…」
フラガは恋人に無理に笑って見せると、着艦デッキへと向かった。

少し遅れてキラたちと合流したアスランは、バスターの隣にいる機体を見てギクリとした。
ストライク…ではない。
(赤い装甲…これが、ストライクR?)
「あれ突破して、ジェネシスに向かうって?」
スピーカーからは、ディアッカとキラの会話が聞こえてくる。
「ストライクの被弾状況がわからないので、ディアッカはエターナルとアークエンジェルの援護に残って欲しいんです。それでいいですか?」
「やれやれ。人使い荒いぜ」
皮肉混じりに了解するディアッカの言葉を聞きながら、アスランは気もそぞろだ。
(あの機体…誰が…)
次の瞬間キラが呼んだ名を聞いて、アスランは思わず天を仰いだ。
「じゃ、行こう、カガリ」

「今だ!撃て!」
ストライクの着艦のために動きを止めたアークエンジェルを見て、アズラエルがナタルを飛び越してCICに命じた。
「早くあいつを沈めろ!ローエングリン照準!」
アズラエルが命じたのは、艦長にしか発射権限のない特装砲の発射だ。
彼は本気で指揮体系を無視するつもりだった。オペレーターは振り向いて艦長の判断を仰ごうとしたが、アズラエルに銃を向けられて手を上げた。
その時、突然アズラエルに飛びついた者がいた。
「ダメだ!もうやめろ!」
それはフレイ・アルスターだった。彼の体当たりに驚いたアズラエルがバランスを崩して流されていくと、フレイはマイクに向かって叫んだ。
「アークエンジェル!逃げろ!」
その声が懐かしいアークエンジェルに届きはしないとわかっている。
けれどフレイは今、そう叫ばずにはいられなかったのだ。
「おまえっ!」
アズラエルは体勢を立て直すと、フレイの元に戻って彼を殴り飛ばした。
低重力なので、空振り気味で殴られた痛みより、勢いで飛ばされて壁にぶつかった痛みの方が強い。フレイは呻いたが、すぐに顔をあげた。
「今俺たちがやるべきなのは、アークエンジェルを討つことじゃない!」
フレイは壁を蹴り、再びアズラエルに向かって行った。
アズラエルはまだバランスを崩しており、フレイは彼を押さえ込もうとした。
その容貌と派手な性格で、常に学園のスターだったフレイらしからぬこんな行動は、サイやキラを驚かせたに違いない。フレイは無我夢中で彼の襟をつかんだ。
しかし次の瞬間銃声と共に体に衝撃を感じ、すぐに力が抜けた。
アズラエルが彼の腹に向け、発砲したのだ。
「何をやっている!」
今度はナタルがアズラエルに飛び掛り、銃を奪おうともみ合いになった。
「貴様こそ何のつもりだ!」
アズラエルは奪われまいと暴れたが、そこはさすがに低重力での体術訓練を受けているナタルに分があった。彼の両手を押さえ、蹴りを警戒しながら、ナタルは振り返った。
脇腹に血がにじんでいるフレイを、クルーが助け起こして囲んでいた。
フレイは自分の身に何が起こったのかわからない顔でナタルを見つめている。
(自分の判断の遅さが、彼に傷を負わせてしまった…)
ナタルは眼を伏せ、心の中で「すまない」と謝った。

「総員、退艦しろ!」
やがてナタルが副長に命じた。
「バジルールッ!!」
アズラエルが身をよじって怒鳴ったが、ナタルはびくともしない。
「早くその子の手当てを!」
「きさまらぁっ!!」
「…くっ!」
さらに暴れるアズラエルの腕をねじり上げ、ナタルは再び彼を抑えつけた。
何人かのクルーが、彼女を援護しようと立ち上がったが、ナタルは首を振った。
「急げ!ここはいい!アークエンジェルへ行け!」
フレイは浅い息の下でナタルの言葉に驚いた。
ナタルは無理に微笑むと、彼に頷いてみせた。
(帰るんだ、フレイ・アルスター。我々がいるべきだった、あの艦へ)
「早く行けっ!!」
クルーはフレイを抱きかかえ、振り返りながらブリッジを出て行った。

「くっそー!おまえぇ!!」
「…うっ!」
やがて渾身の力でナタルを振り切ったアズラエルは、銃を構えなおした。
「誰が指揮官だと思ってるんだ!」
「指揮官だと!?命令する立場だというのなら…」
そう言い返したナタルの言葉が、銃声で遮られた。
血飛沫が舞い、ナタルはすぐにやってきた肩の痛みで息もできない。
「僕にこんなことをして!どうなるかわかってるんだろうな!!」
(狂っている…もはやこの男は狂っているのだ…)
被弾の衝撃で操作盤にぶつかったナタルは、咄嗟に扉をロックするキーを押した。
その途端、ブリッジのドアが閉まる音が響き、アズラエルは振り返る。駆け寄ってみれば扉はロックされ、彼はナタルが何をしたかを知った。
「あなたはここで死すべき人だ。私と共に」
「なんだと!」
彼女の冷静な言葉が、アスラエルの怒りの炎に油を注いだ。
「この女ぁ…!女ごときがこの僕に偉そうに!」
アズラエルは再びナタルを撃った。
致命傷を与えるほども、敢えて与えないほどの腕もない素人の彼の弾道は、残酷に、無差別に彼女の体を削っていった。
「うっ!」
何発目かで足を撃たれ、ナタルは床に転がった。

「ドミニオンより脱出艇。艦を放棄するようです」
敵艦からのランチの発射を確認したトノムラが報告する。
サイもまたその座標と起動を確認し、データとしてマリューに送った。
「脱出?」
ダメージが軽いというわけではないが、まだ撃沈に至るほどではない。
マリューはいぶかしみながらモニターの光学映像を見た。

「ふざけるんじゃないよ、ドアを開けろ!」
激昂するアズラエルを、既に深手を負っているナタルは見つめるだけだ。
「く…!」
アズラエルはさらに続けて発砲した。
「くそっ、くそっ、くっそー!!この…バカ野郎!」
(僕をコケにして…無能で生意気なおまえさえいなければ!)
アズラエルの怒りは収まらない。
「うわぁぁ!!ううっ…」
腹にも銃弾を受け、ナタルの周りには血玉が飛び散って血まみれだった。
大量に血が失われ、急激に寒さが忍び寄ってきた。
しかしアズラエルはまだ諦めなかった。
「くっそー!こんなところで!」
彼は艦長席に向かい、パネルを起こすと、何やら操作を始めた。
「アズラエル!何を!」
ナタルはそちらに顔を向けると怒りの声をあげた。
「僕は勝つんだ…そうさ、いつだって…!」
やがてコードが認証されたという音声が流れた。
(ローエングリンを撃つ気か…!?)
最後の力を振り絞り、ナタルはアズラエルの元へ向かおうとした。
「貴様…」
けれど狂気に飲まれた彼の指は、既に発射シークエンスを終えていた。

減速してストライクの着艦を待っていたアークエンジェルに向け、ローエングリンの砲口が開かれようとしたその時、サイが叫んだ。
「艦長!」
「回避!」
マリューもほぼ同時に叫ぶ。
しかしさしものノイマンも今度ばかりは絶望的な声で答えた。
「ダメですっ!間に合いません!」
次の瞬間、陽電子砲が、真っ直ぐアークエンジェルに向かってきた。
何度も死神の鎌を逃れてきた不沈艦に、運命の時が訪れた。

その時、アークエンジェルの前には、ストライクが立ちはだかった。

着艦体勢に入っていたストライクは、ドミニオンを認めて突如進路を変えた。
フラガの鋭い勘が、彼らクルーの運命をもう一度引き戻したのだ。
ストライクのシールドが融けていくのが見える。
強固な装甲もゆっくりと破壊されていくが、フラガは満足そうだった。
(ヒーローするより、あいつを守って死ぬ方が、俺らしいよな…)
背後に彼女のぬくもりを感じたようで、フラガは思わず振り返った。
甘い声で可愛らしく愛を囁くマリューの笑顔を思い、フラガは笑った。
(ごめんな…おまえのもとには帰れない。けど、後悔はしねぇよ)
温かく、優しい光が彼を包みこむ。恐怖などこれっぽっちもなかった。
「へへっ…やっぱ俺って…不可能を可能に…」
ストライクはそのまま砲の威力に押し流され、深淵の彼方へと消えて行った。

一方、フラガの命を代償に守られたアークエンジェルのブリッジでは、消えていく光を見つめながら、誰一人声を上げるものがなかった。
チャンドラもパルもトノムラもまるで時が止まったように固まっている。
サイはただモニターを見つめ、ミリアリアが涙声で小さく呟いた。
「…フラ…ガ…少…」
ノイマンは舵を戻すと、思わず艦長を振り返った。
マリューは首を振り、大粒の涙を浮かべて彼が消えた宙域を見つめていた。
(…なぜ…どうして…?こんな…こんな事になるなんて…)
混乱が彼女を襲い、引きちぎられそうな哀しみが心を覆った。
息ができない。体の奥が熱い。何も見えない。何も聞こえない。
ただ彼女の心には闇が広がった。闇が、愛する人を覆い隠していく。
「…ムウッ!!」
マリューはその名を絶叫し、涙と共に崩れ落ちた。

直撃コースだったのに、アークエンジェルはほぼ無傷でそこにいた。
それを見たアズラエルは愕然としたまま動けなかった。
もはやこちらにはカードがない。
操舵手のいないドミニオンは、真っ直ぐ前進していくだけだ。
たった今仕留めたと思った敵の…アークエンジェルの射程内へと。
「よくやった、ストライク…」
ナタルは声にならない声で、アークエンジェルを守って散った機体を褒めた。
(最後までおまえは、我らが大天使の忠実な守護者だったのだな)
その雄姿を思い浮かべたナタルはふふっと笑い、それから深く息を吸った。
「…あなたの負けです」
満足げに微笑むナタルを見て、アズラエルはもはや八つ当たりで発砲を続けた。
撃たれるたびに痛みは走るが、すぐに感覚がなくなった。
冷たい死が、もうそこまで彼女を迎えに来ていた。
(さぁ、この戦いを終わらせよう…不毛で、意味のないこの戦いを…)

「ドミニオン、なおも接近!」
まだ哀しみに浸れもしないブリッジで、サイが相手の距離を計測する。
マリューは涙に濡れた瞳を上げると、ドミニオンを睨みつけた。
「ローエングリン、照準…」
愛する男を奪い去った艦を、マリューは許す事ができなかった。
「ちっ…くしょう!!」
銃を撃ち尽くすと、アズラエルはなおも脱出の道を探って扉に向かう。
ナタルは虫の息のまま、もはや愚かな男を見ることもない。
弱いくらい優しいが、反面恐ろしく勇敢な彼女が次に何をするかなど、ナタルには全てお見通しだった。

「撃てーっ!マリュー・ラミアス!」

その叫びと共に、ローエングリンがブリッジを貫いた。
ドミニオンは声も出せないアズラエルを道連れに爆散したが、それは同時に戦いに疲れ、傷ついたナタルの体と魂も無に還した。
けれど最期に微笑んだナタルは、この上なく満足げで、神々しいまでに美しかった。
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制作裏話-PHASE49②-
すべてがあるべきところに向かって終わるという意味の「帰趣(きすう)」という難しいサブタイをつけたPHASE49後半です。
ナタル、アズラエルが死亡する後半はSEED本編の中でも屈指の名PHASEなので気合が入っていましたが、今回の加筆修正でさらに満足のいくものになりました。
実際に書いていた頃はどうしても気合が空回りし、冷静さを欠いていたため、無駄だったり足りなかったりするシーンが多いんですよね。
逆種より厳しい状況で逆デスを書き終わった今は、私の稚拙な筆もさすがにもう少し上達していると思うので、ザクザクと修正しました。

ただでさえ物語が盛り上がるPHASEなので、力を入れたのはキャラクターの描写です。

イザークがカガリを助けるシーンでは、本編でも実際にディアッカが傍にいるので、「キャラクター同士でこんな会話があってもいい」というものにしました。
そしてイザークがシャニを圧倒するシーンはひたすら格好よく。
本放映時には、一瞬爆煙に包まれたデュエルに息を呑み、アサルトシュラウドを脱ぎ捨てて元のデュエルで飛び出してきた時は鳥肌ものでしたっけ。
主役張りすぎだろー、王子!格好良すぎだろー、王子!

シャニが母に疎まれたのは、オッドアイのためでした。
彼が生まれた地域では、金色の瞳を持つ者は「殺人、強盗、放火、姦通、近親相姦などの罪を犯して転生してきた罪人」とされて忌み嫌われていました。
母に捨てられ、死の淵を彷徨った記憶が彼を蝕み、残虐な殺人者にしました。
彼が血の色である赤を気にするのはこの側面ですが、一方で白い光を好んだのは、自分を捨てた母の最後の姿を見ていたから…という、少しメランコリックな描写をしてみました。

さらに、彼の死を目の当たりにして「シャニ!」と叫んだオルガの、敵討ちともとれる複雑な感情も入れてみました。

一方でまだ生き残っているクロトは、唯一アスランと言葉を交わします。アスランは不快感しか感じませんでしたが、実はこの後もう一度彼と「出会う」事になります。DESTINYのPHASE25で、ロドニアのラボのデータの中に「クロト・ブエル」の姿があるのは有名です。

なお、このPHASEではザックリ削ったものがあります。
それはラクスの「種割れ?」と「意味不明な電波台詞」です。

「私たち人は…おそらくは…戦わなくとも良かったはずの存在。なのに…戦ってしまった者達。何のために?守るために?何を?…自らを!未来を!誰かを討たねば守れぬ未来、自分を、それは何?何故?そして、討たれた者にはない未来。では…討った者達は… その手に掴む、この果ての未来が、幸福? 本当に?」

この通り、さっぱり意味がわかりません。
なんだこれ。ラクス教の経典?お経?聖書?アホか。
こういう電波がすごくイヤだったので、逆転では彼がレジスタンスを使って穏健派の奪取を画策し、戦場を見ながら矛盾に苦言を呈するものに変更しました。まさにアズラエルの言うように、前線でドンパチやりながら、高みから戦局を眺め、戦後までも見つめて「最高司令官」してるわけです。デュランダルがなぜあんなにも彼を恐れたのかも示したかったので、このへんは当然だと思います。

ちなみに種割れはラクスはもちろん、カガリもしません。あれの意味もよくわかっていないので。

OPで因縁を示唆され続けたフラガとクルーゼにも決着がつきます。ドラグーン戦にトリッキーさを入れるため、フラガの「悪い予感」が彼を守る展開にしました。だって一応口喧嘩するヒマを与えないと。

そしてナタルVSアズラエルです。
ここの大きな変更点は、何と言ってもフレイがアズラエルに撃たれてしまうことです。なぜかというと、「ドミニオンクルーが女性であるナタルを残してさっさと退艦する」のはどうも腑に落ちないからです。フレイが撃たれたゆえにナタルは援護は不要といい、クルーは急いでランチに向かうという理由付けがしたかった。
それに最終回で、フレイを殺したのは果たしてクルーゼかアズラエルか、曖昧にしておきたかったからです。死がゆっくりと忍び寄ってくる時間があれば、この物語の象徴であるフレイの心を描写できると思いましたし。

フラガの死は、実は今回の手直し前はアッサリしてました。何より小説版が非常に感動的なのですが、彼は生きてましたから感動も半減しちゃって…それでちょっと手を抜いてしまったんですね。でもやっぱり他のキャラとの対比もあるので、自分なりにもう少し描写する事にしました。

本編で微笑んだまま逝ったナタルの最期は本当に美しかったので、映像にはかないません。
なのでストライク(まさかフラガが乗っているとは知らないのが非情さを表現しています)や、元上官のマリューへの最後の想いを描写してみました。
になにな(筆者) 2011/05/08(Sun)13:41:52 編集



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