Natural or Cordinater?
サブタイトル
お知らせ PHASE0 はじめに PHASE1-1 偽りの平和① PHASE1-2 偽りの平和② PHASE1-3 偽りの平和③ PHASE2 その名はガンダム PHASE3 崩壊の大地 PHASE4 サイレント ラン PHASE5 フェイズシフトダウン PHASE6 消えるガンダム PHASE7 宇宙の傷跡 PHASE8 敵軍の英雄 (原題:敵軍の歌姫) PHASE9 消えていく光 PHASE10 分かたれた道 PHASE11 目覚める刃 PHASE12 フレイの選択 PHASE13 宇宙に降る星 PHASE14 果てし無き時の中で PHASE15 それぞれの孤独 PHASE16 燃える砂塵 PHASE17 カガリ再び PHASE18 ペイバック PHASE19 宿敵の牙 PHASE20 おだやかな日に PHASE21 砂塵の果て PHASE22 紅に染まる海 PHASE23 運命の出会い PHASE24 二人だけの戦争 PHASE25 平和の国へ PHASE26 モーメント PHASE27 果てなき輪舞 PHASE28 キラ PHASE29 さだめの楔 PHASE30 閃光の刻 PHASE31 慟哭の空 PHASE32 約束の地に PHASE33 闇の胎動 PHASE34 まなざしの先 PHASE35 舞い降りる剣 PHASE36 正義の名のもとに PHASE37 神のいかずち PHASE38 決意の砲火 PHASE39 アスラン PHASE40 暁の宇宙へ PHASE41 ゆれる世界 PHASE42 ラクス出撃 PHASE43 立ちはだかるもの PHASE44 螺旋の邂逅 PHASE45 開く扉 PHASE46 たましいの場所 PHASE47-1 悪夢はふたたび① PHASE47-2 悪夢はふたたび② PHASE48-1 怒りの日① PHASE48-2 怒りの日② PHASE49-1 終末の光① PHASE49-2 終末の光② PHASE50-1 終わらない明日へ① PHASE50-2 終わらない明日へ②
制作裏話
逆転SEEDの制作裏話を公開
制作裏話-はじめに- 制作裏話-PHASE1①- 制作裏話-PHASE1②- 制作裏話-PHASE1③- 制作裏話-PHASE2- 制作裏話-PHASE3- 制作裏話-PHASE4- 制作裏話-PHASE5- 制作裏話-PHASE6- 制作裏話-PHASE7- 制作裏話-PHASE8- 制作裏話-PHASE9- 制作裏話-PHASE10- 制作裏話-PHASE11- 制作裏話-PHASE12- 制作裏話-PHASE13- 制作裏話-PHASE14- 制作裏話-PHASE15- 制作裏話-PHASE16- 制作裏話-PHASE17- 制作裏話-PHASE18- 制作裏話-PHASE19- 制作裏話-PHASE20- 制作裏話-PHASE21- 制作裏話-PHASE22- 制作裏話-PHASE23- 制作裏話-PHASE24- 制作裏話-PHASE25- 制作裏話-PHASE26- 制作裏話-PHASE27- 制作裏話-PHASE28- 制作裏話-PHASE29- 制作裏話-PHASE30- 制作裏話-PHASE31- 制作裏話-PHASE32- 制作裏話-PHASE33- 制作裏話-PHASE34- 制作裏話-PHASE35- 制作裏話-PHASE36- 制作裏話-PHASE37- 制作裏話-PHASE38- 制作裏話-PHASE39- 制作裏話-PHASE40- 制作裏話-PHASE41- 制作裏話-PHASE42- 制作裏話-PHASE43- 制作裏話-PHASE44- 制作裏話-PHASE45- 制作裏話-PHASE46- 制作裏話-PHASE47①- 制作裏話-PHASE47②- 制作裏話-PHASE48①- 制作裏話-PHASE48②- 制作裏話-PHASE49①- 制作裏話-PHASE49②- 制作裏話-PHASE50①- 制作裏話-PHASE50②-
2011/2/28~2011/5/17
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機動戦士ガンダムSEED 男女逆転物語
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後方に陣を取ったドミニオンからは、カラミティ、レイダー、フォビドゥンが発進した。ここしばらくは小競り合いしかなくて退屈していた3人は、久々の大きな戦闘に嬉々として飛び出していった。
フレイは自分のポッドを拾ったカラミティをはじめ、バスターやイージスの後継機として開発されたこの3機の新型モビルスーツを見つめていた。
ドミニオンのデータによれば、キラも今はもうストライクではなく、新たな機体に搭乗しているという。
フレイは、イザークと共に受領に行ったザフトの新型モビルスーツ、ZGMF-600ゲイツと、これでナチュラルを宇宙から追い払えると言った整備員を思い出し、ため息をついた。
(戦争って、こんな風にどんどん拡がっていくものなんだな…)
アズラエルは、今日の作戦で戦いは終わると言った。
「きみが持ってきてくれた鍵のおかげでね」
ドミニオンは実行部隊ではないので、ナタル以外この極秘作戦の内容は知らされていないが、果たして自分が運んできた「鍵」とは何だったのか…フレイは今日この日、何があろうとも見届ける覚悟だった。
「インディゴ13、マーク66、ブラボーに新たな機影」
「モビルスーツです。数3、以前クルーゼ隊長より報告があった例の3機です」
「その後方、アークエンジェル級1、アガメムノン級4、距離500」
新型の機影とドミニオンらの艦体をレーダーに捉えたボアズ司令部は警戒を強め、さらに防衛を厚くする。新型はわずか3機とはいえ、ダガーとは桁違いの力を持っていることも、既に認識されていた。
「なんだ?新手か?」
血気盛んに動きの遅いダガーを屠っていたジンのパイロットたちは、近づく3機に気づいた。獲物を見つけ、シャニがペロリと唇を舐める。
「んっふふふ…いっぱいいるねぇ…」
子供のような笑顔で笑っていたクロトが、突然凶悪な表情に変わり、「行くぜーっ!!」と叫んで手近なジンに踊りかかった。
戸惑うジンをクローで捕らえ、そのままアフラマズダを放って上半身を吹き飛ばす。主を失った下半身を投げ捨てると、クロトは次の獲物を求めて飛び去った。
「はは~ん。目移りしちまうぜ。そらぁ!」
先陣を切ったクロトに負けじと、オルガもバズーカを構え、シュラーク共々辺りにいるジンに向けて闇雲にぶっ放した。
ジンはその威力を見て、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
モタつく者は戦場を自在に飛び回るレイダーの餌食になった。
そんな中、ゲイツがビームクローを展開して出遅れたフォビドゥンに襲い掛かった。シャニはシールドで避けると、ニーズヘグを振るう。
「誰だよ、俺を討とうなんて奴はっ!」
衝撃で吹っ飛ばされたゲイツは、後ろから放たれたフレスベルグを回避しようとした。しかしプラズマ砲の軌道は思いもかけない方向に曲がり、彼の予想を大きく上回って機体の肩からチェスト部分を直撃した。
「うわぁぁ!」
爆散したゲイツを見て、シャニはさも楽しそうに大笑いした。
「う~ん、いいね!初陣からケチの付きっぱなしだったけど、なんか強いじゃないの、アイツらもさ」
思う存分暴れまくる3機を見ながら、アズラエルはご満悦だった。
ジンもゲイツも彼らの敵ではない。フリーダムだのジャスティスだの、あんなものさえいなければ、やはりもっと早く片がついていたんだ…よく手入れされた髪をかきあげながら、アズラエルは血と断末魔の叫びに満ちた戦場を眺めていた。
「ワシントンより入電です」
フレイが旗艦からの通信を映像受信に切り替えると、モニターに映し出されたのは、あの忌わしいサザーランド大佐だった。
「道は開いたようですな。ピースメーカー隊、発進します」
「了解」
アズラエルがどす黒い笑みで答える。
フレイはそのあからさまに怪しげな隊の名に、人知れず眉をひそめた。
「そんなもの!大方例のモビルスーツ部隊と新型あたりであろう?それで落とせるとでも踏んだのであろうよ」
クルーゼの意味深な言葉に、エザリア・ジュールは苛立ちを隠さない。
何かを含んだような物言いにイラつくのは、息子によく似ていた。
クルーゼは「それならばよいのですがね」と答え、彼女をさらに苛立たせた。
じきにその綺麗な顔も泣きっ面に変わるだろう…クルーゼはほくそえんだ。
「何が言いたいのだ、クルーゼ」
エザリアとクルーゼの会話を黙って聞いていた議長が口を開いた。
「申し上げにくくはありますが、我々にはいくつかの不安要素がありますので。フリーダム、ジャスティス、ラクス・クライン…」
「なに?」
パトリックの脳裏に、袂を分かった娘の姿が浮かぶ。
フリーダムとジャスティス…奪われてはならない機体。
そして未だ根強いシンパを持つシーゲルの息子、ラクス・クライン…予想されているとはいえ、ボアズへの地球軍の突然の攻勢…議長はますますもたげてくる不安の陰を探ろうと目線を落とした。
「ピースメーカー隊、目標まであと400」
後方の部隊から飛び出したモビルアーマー隊が、カラミティたちが開いた突破口を抜け出し、急速にボアズに近づいていく。
「ふっふっふ」
アズラエルは笑いながら、足を組み、手を組んでその時を待った。
ナタルは何も言わず、ドミニオンを追い越していく部隊を見つめている。
ゲイツが突然現れたモビルアーマー部隊に気づいて転進を図ろうとすると、モビルスーツに変形したレイダーが後ろを向いた相手にミョルニルを投げた。
「ダメだよぉ。きみたちは僕の相手をしてくれなきゃ!」
衝撃で頭部が傾ぎ、バランスを崩した機体をさらに鉄球で砕く。
意図的にコックピットを狙い、中の人間に、自分が潰されていく恐怖を徐々に与えながら殺していくのが楽しくて仕方がないのだ。
モビルアーマー隊はそんな残酷な宙域をやすやすと突破していった。
「まさかヤツらの手に再び核が戻ったと…そう言いたいのか、貴様は?」
ついに議長の口から飛び出した忌わしい正解に、クルーゼは神妙に答えた。
「いいえ…よもやとは思いますが」
(その通りですとも、議長閣下!)と心の中で彼を嘲りながら。
やがて核を抱いたモビルアーマー隊がボアズを射程距離に捕らえた。
ボアズからの攻撃に倒れるものもいるが、新型3機の露払いにより、目標地点にたどり着けたモビルアーマーは8割を優に超えている。
「安全装置解除、信管、起動を確認」
「よし!くたばれ、宇宙の化け物」
「青き清浄なる世界の為に!」
そして、再び核が放たれた。
「月艦隊がボアズに侵攻?」
エターナルのハンガーにいたアスランとキラは、カガリからもたらされた情報に驚きを隠せなかった。月周辺の宙域に厳戒令が敷かれて立ち入りができなくなり、それを無視して連合からの警告追尾を振り切ったジャンク屋がクサナギにもたらした情報なのだという。
報道管制が厳しく、今はプラントからも情報が流れてこないのだ。
「ああ。彼らの話だとそろそろか、もしかしたら既にってことだ」
ボアズ…規模は小さいが、防御力に関してはヤキンに次ぐ要塞だ。
歴戦をくぐり抜けたものの、エースとしてはやや年齢が高くなったパイロットが多数配備されており、士気の高さと勇猛さは名高い。
連合とて、そうそう手を出すとは思えない堅固な要塞に、なぜ今…黙り込んだアスランに代わり、キラが尋ねた。
「ラクスは?」
「今、アークエンジェルと話してる」
また何かあったら連絡する…カガリはそう言って通信を切った。
その頃、放たれた核が死の光でボアズを包み込んでいた。
ある者は何も気づかないうちに、ある者は膨大なエネルギーを「核だ」と認識した瞬間に、ある者は必死に逃げようとして、誰も彼もがその死の光に絡め取られ、瞬時に蒸発していった。
穴という穴からまばゆく禍々しい光が漏れ出し、命を消していく。
宙域で呆然と見守るジンやゲイツもまた、これは核だと直感した。
オルガもクロトもその光に眼を細める。
シャニは嬉しそうに「まぶしい…」と呟いて微笑んだ。
(とてもきれいだ…とても)
フレイはその光に息を呑んだ。
かつて、父を失った時に見た光が脳裏に蘇る。
命を奪い、全てを壊す光。
けれどこれはそれ以上に禍々しく、許すべからざる凶悪さを放っている…
(あれは…まさか、核!?)
使ってはいけない兵器が、いや、今はもう使えないはずの兵器が、目の前で爆発した。一体何人のコーディネイターが死んだのか…フレイは膝が震え、胃からこみあげてくる酸っぱさに耐えた。
戦闘の様子を映し出すモニターを見ながら、ザラ議長もエザリアも言葉がない。
イザークもまた、多くの兵同様この悪夢のような光景に呆然としていた。
自分たちの目の前で再び核が使われ、一瞬にしてボアズが陥落した。
人の手で2度と撃ってはならぬものが炸裂し、堅固な要塞を廃墟に変えてしまっていた。同胞たちはそこで、逃げる間もなく命を散らしたのだ。
今またナチュラルの手によって、憎しみが戦場に満ちた。
「さすがに早い早い」
パンパンと手を打ち鳴らしてアズラエルが言っても、ナタルやフレイをはじめ、ブリッジクルーは当然ながら言葉一つなかった。
たとえ相手が敵であろうと、一発で数万の命を奪う核ミサイルを、友軍は一体何発撃ち込んだのか…そのあまりにも残酷な結末を思い、誰ひとりとして口を利ける者などいるはずがない…良心が残っていれば。
「あっという間だね、核を撃たれちゃ、ザフト自慢の要塞もさ」
そんな中、ただ1人上機嫌なアズラエルを見てナタルが口を開く。
「アズラエル理事は…」
「んん?」
文句があるなら言ってみろと言わんばかりの顔で彼はナタルを見た。
「いくら敵軍に対してでも、核を撃つことをなんとも思われないのですか?」
「そりゃ軍人さんの口から出るとは思えないセリフだね」
アズラエルは予想の上をいかない陳腐な質問にガッカリして答えた。
「勝ち目のない戦いに、死んでこいって自分の部下を送る人たちより、僕の方がよっぽど優しいと思うけど?」
アズラエルは何言ってんだか、とばかりに右手をひらひらさせた。
「さ、次はいよいよ本国だ。これでやっと終わるよ、この戦争もさ」
「おのれ…ナチュラルども!」
パトリック・ザラは怒りの声を上げた。
「我らに対して再び核を放つとは…!」
彼はそのまま、クルーゼにプラント全域に防衛線の展開を命じた。
ボアズが無力化すれば、残るはヤキンの防衛ラインのみである。
そして既に撃たれた核が再び放たれる事は必然といえよう。
血なまぐさい独裁者と化したとしても、彼もまた指導者である。
何の罪もない同胞たちが暮らすプラントを守らねばならない。
ザラは自らも要塞ヤキン・ドゥーエに上がる事を告げた。
慌しく、しかも最悪の方向に動いた事態の中で議長は思う。
これは即ち、連中にNジャマーキャンセラーが渡ったということだ。
彼の胸に娘の姿が浮かんでは消えた。
(まさか…アスランが…まさか…)
やがてその思考を断ち切り、彼はクルーゼとエザリアに向き直る。
「ジェネシスを使うぞ!」
もはや何もためらう必要などなかった。
「全艦発進準備。各艦員は至急持ち場につけ!」
突然響き渡った放送を聞き、キラはブリッジを呼び出した。
「ラクス、動くの?」
モニターにはラクスとバルトフェルドが映し出された。
「月艦隊の、ボアズへの侵攻というのは…?」
アスランが聞くと、ラクスは暗い表情のまま首を振った。
「事態はもっと早く、そして最悪な方向へ進んでしまった」
ラクスの後をバルトフェルドが引き継いだ。
「こっちのルートからさっき入った情報だと、ボアズはもう落ちた。地球軍の核攻撃でな」
その言葉に、2人は思わず顔を見合わせた。
「でも、核だなんて…」
アークエンジェルのブリッジもその情報にざわめいていた。
「あんま驚きはしないがね。JOSH-Aの後だし」
出撃準備を整えているフラガが、モニターの中で肩をすくめる。
けど、あの野郎…フラガはクルーゼの言葉を思い返していた。
最後の扉を開くと言っていた…この世界を終わらせる扉を開くと。
そして鍵を持っていると言ったあの坊主…クルーゼが持たせたのは…
「こういうことかよ!」
フラガは怒鳴り、マードックとディアッカがその声に振り返った。
「プラントも核、撃ってくると思う?」
キラがヘルメットを手にしてアスランに聞いた。
アスランは憂鬱な表情で、同じくヘルメットを取る。
「父が正気なら、まさかと思うけど…今は…わからない」
アスランはジャスティスを見上げながら、これを自分に託すと言ったニコルの父、ユーリ・アマルフィの言葉を思い出した。
(あれが地球軍の手に渡れば、やつらは大喜びで再び核を使うだろう)
あの時の彼の懸念が現実になってしまった。
それに核が撃たれてしまった今、ナチュラルを滅ぼすことがこの戦いの目的だと言い放った父は、もう何もためらうまい。
「なんでそんなもんがあるんだろうね」
キラもまた、アスランの視線の先にあるジャスティスを見ながら言った。
「核兵器なんて…モビルスーツも銃も、同じだけど」
アスランは、何も答えられなかった。
自分が父を止めなければならないと、ただそれだけを思っていた。
さしてダメージもない3機は補給のため、ドミニオンに戻った。
3人はしばしの休憩を取りながら、次の出撃に備えている。
どちらかというとピースメーカー隊などというふざけた名前をつけられた核部隊の補給待ちが主なので、アズラエルものんびりやりますかと自室に戻った。
(この間にシャワーを浴びておこう)
鼻歌交じりに彼はスーツの上着を脱いだ。
全てが終われば、すぐにメディアに顔を出す事になるだろうから。
核によるとはいえ勝利に沸く宙域では、処理作業や補給作業が進められていた。
ナタルはシャッターを開け、その作業を見守っていた。
傷ついた艦が曳航され、EVA要員が破損して漂っているダガーのコックピットから、負傷したパイロットを助け出していた。
ふと人の気配を感じて見ると、隣にフレイ・アルスターがいた。
「どうした?大丈夫か?」
青い顔をしているフレイに、ナタルは声をかけた。
「やはり残っていたほうが良かったのではないか?月基地に…前線に出たからといって、アークエンジェルに出会えるとは限らないぞ」
フレイは首を振った。アークエンジェルもだが、彼にとってはたった今、目の前で起きたことを見届けることも目的だったのだ。
(俺が運んできた、戦争を終わらせる鍵って…)
それは決して開けてはならない扉を開ける鍵だった。
フレイはクルーゼの姿を思い出し、ギリッと唇を噛み締めた。
「俺は…とんでもないものを持ち帰ってきたんですね」
ナタルは何も言わなかった。何を言っても、もう扉は開いてしまったのだ。
「コーディネイターは、確かに敵…ですけど…こんな…こんなのって」
フレイはイザークを思い浮かべた。
彼の事だ。きっと今頃、この卑劣な核攻撃に対して怒りに燃えているだろう。
「俺…戦争を終わらせる鍵だなんて騙されて、信じこんで…」
「この先戦闘はますます激化する。さっきのような光景もな」
ナタルは慰めも気休めも口にせず、ただ事実を告げた。
次の目標は恐らくヤキン、そしてプラント本国だ。
非戦闘員が暮らす頼りないコロニーを撃つ事が、地球軍の最終目標なのだ。
ナタルとて、そんな作戦は承服できない。
(けれど、今ここで自分が反旗を翻してどうなるというのか…)
ナタルの言葉に、フレイは思わず言葉を荒げた。
「あいつ…あの野郎!これで戦争は終わるって言ったのに!戦争を早く終わらせたいとか、こんな戦争はイヤだとか言っておいて!」
「確かに終わるさ。敵である者を全て滅ぼせばな」
かつてバルトフェルドがキラたちに言った「戦争の終わり」は、結局滅ぼしあいという最悪の形でやってくることになったのだ。
(確かに終わる…どちらかが…あるいは両者が滅べば…)
フレイはあの時笑った仮面の男が、本当は何を終わらせようと考えていたのかわかった気がして、ブルッとその身を震わせた。
「閣下、全ての作業、終了致しました」
核攻撃の第一波から72時間が経過した頃、再び悪しき力が放たれる時がきた。
旗艦ワシントンからは全艦出撃が命じられ、ドミニオンも前進を始める。
同時に、ボアズの陥落を見せつけられたイザークも、プラントの防衛に出撃した。
守るべきものを守る戦い…そこに躊躇はない。
「ナチュラルどもの野蛮な核など、もうただの一発とてわれらの頭上に落とさせてはならない!」
ナチュラルへの憎しみを、怒りを煽るエザリア・ジュールの言葉が戦場に響く。
「血のバレンタインの折、核で報復しなかった我々の思いを、ナチュラルどもは再び裏切ったのだ!」
(母上…)
イザークはモニターの中で、兵士を鼓舞する母を見つめた。
ディアッカとの邂逅以来、イザークは自分が戦う理由を考えていた。
それは決して、ナチュラルを滅ぼすためでも、復讐のためでもない。
そして今…プラントがかつてない危機に晒された今こそ、改めて確信した。
かつて軍に志願した時から、自分の想いは何も変わっていない。
(俺は、プラントを守るために戦う)
今ならよくわかる…戦闘の意思を持たぬ者まで殺した自分の過ちが。
自身が犯してきた罪を背負いながら、イザークは答えに辿りついた。
(だから、俺とおまえが戦う必要はないんだ…そうだろう、ディアッカ)
「ジュール隊、出るぞ!」
もはや、奴らを許すことはできない!と母が叫ぶと、司令部にいる兵たちが賛同の声を上げる。けれどイザークはもはや何も迷わなかった。
再び、戦いの火蓋が切って落とされた。
プラントを目の前にした戦場では、各々の艦隊が展開し、互いに持てる限りのモビルスーツ部隊を続々と送り出す。それは総力戦の様相を呈していた。
エターナル、アークエンジェル、クサナギもまた、戦場を目指していた。
(僕の中には、あの時死んだ人たちがいる)
ラクスは核が放たれた戦場を思い、核によって蝕まれた自身の体…右手でそっと自分の胸に触れた。
(無念のうちに命を散らした人々が、再び放たれた核に震えている)
「…これが、戦争を終わらせる『鍵』か…」
ラクスは苦々しい想いで、かつて自分を殺すと言った赤毛の彼の言葉を思い出した。
こんな形の終わりなど、誰も望んではいないはずだ。
(いや、望んではいけないんだ。絶対に)
ラクスは胸に当てた手をぎゅっと握り締めた。
「核を…たとえ一つでも、プラントに落としてはいけない」
搾り出すようなラクスの言葉に、ブリッジクルーが皆振り向いた。
「討たれるいわれのない人々の上にその光の刃が突き刺されば、それはまた多くの涙と、深く刻まれる憎しみを呼ぶだけだ」
でも…ラクスは拳をさらに強く握り、暗い瞳で言った。
「僕たちは、間に合わなかったのかもしれない」
彼の絶望ともとれる言葉に、ブリッジが静まり返った。
そんな彼に答えたのはダコスタだった。
「そう…ですね。確かに、こんなところまで来たら、もう…」
バルトフェルドは何も言わず、俯いた副官を見つめていた。
やがてダコスタは困ったような顔をラクスに向けた。
「ラクス様、ここは危険ですし、お体の事もあります。そろそろ…」
ラクスはその言葉に少し驚いたような顔をし、それからにっこりと笑った。
「そうだね。ダコスタくんの言う通りだ」
ダコスタの表情がぱっと明るくなったが、ラクスはそのまま続けた。
「そろそろ行こう。いつまでも立ち止まっていられない」
「………え?」
後方に下がる事を奨めたつもりが、どうもおかしな事になったときょとんとしたダコスタに、バルトフェルドがにやにやしながら言った。
「初志貫徹って言葉を知ってるかね、ダコスタくん?」
彼らには「撤退」という選択肢など最初からなかったのだとつくづく悟ったダコスタは、溜息とも安堵ともつかないような息を一つつき、それから自分に言い聞かせるように荒っぽく言った。
「ああ、もう!なら、今はできる限りの事をしましょう!それしかないです!」
クスクス笑っているクルーに、ヤケクソのように「ほら、いつまでも笑ってるんじゃない!行くぞ!」と命令する副官の広い背中を見て、ラクスもバルトフェルドももう一度嬉しそうに笑った。
同じ頃、ドミニオンからは十分な薬物投与を受けた3人が発進した。
「なんか、前よりいっぱいいそうだね」
シャニはさっきの光がいたく気に入り、また見たいと眼を輝かせた。
「ザコばっかってのもおもしろくねぇけどな」
オルガはあの白いのと赤いのはいねぇのかよ…とニヤニヤする。
「どうでもいいよ。出ろって言われりゃ出るだけさ」
やる気のなさそうな事を言いながら、戦いを一番楽しんでいるクロトは、今回はどのモビルスーツを狙おうかと早くも値踏みしている。
すでにプラントまで十分な射程距離に艦隊が展開している今、彼らの露払いがなくともピースメーカー隊は核の発射が可能だ。ワシントンからは続々とモビルアーマーが発進していった。
一方では足の速いエターナル、そしてアークエンジェルも戦場に到達し、今まさに始まった戦いに介入すべく、戦闘準備に入った。
ナスカ級やローラシア級、そしてモビルスーツが防衛ラインを形作るプラントサイド、アガメムノン級とダガーが宙域を埋め尽くす月サイド。
これだけの圧倒的な戦力を前に、自分たちに一体何ができるのかと誰もが不安に思ったが、反面、誰もそれを口に出さなかった。
皆で何度も話し合い、ただ、自分たちにできることがあるならやるのだと確かめあっていたからかもしれない。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出ます!」
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン、バスター、発進する!」
4機のモビルスーツがそれぞれ発進していく。
しかしフリーダムとジャスティスはそのままエターナルの前面に立つと、動きを止めた。エターナルの艦首にマウントされている2機の強化武装、ミーティアを装備するためだ。
「ミーティア、リフトオフ!」
バルトフェルドがタイミングを合わせて発射を促すと、艦首からミーティアが射出され、両者はその巨大な火器を装備した。
「隊長…僕たちは、平和を叫びながらその手に銃を取っている」
ラクスの呟きに、バルトフェルドが振り返った。
「そうだな。それもまた、悪しき選択なのかもしれん」
「でも今、この果てない争いの連鎖を断ち切る力を…」
ミーティアを装備したフリーダムとジャスティスを見つめ、ラクスは言った。
「再び明日を迎えるために、僕たちは力を振るうんだ」
陣形展開後、各個に応戦するよう命じたイザークは、最も早く前線に到達したレイダーとの戦闘に入っていた。ミョルニルを振り回すレイダーにシヴァとライフルを向けたが、相手は思った以上にスピードが速く、懐に入られて吹っ飛ばされる。
(速い…!)
パイロットがナチュラルだと思って戦っていた頃、その速さに驚かされたストライクに勝るとも劣らない動きに翻弄されかける。
イザークは自身の認識を修正し、相手を強敵と認めて挑んだ。
「はああああ!抹殺!」
モビルスーツに変形したレイダーのツォーンを避けると、カラミティがシュラークを放ってくる。サーベルを抜き、距離を詰めようとした途端、後ろから鉄球が飛んできた。やたらバラバラに動いているように見えるのに、やけに連携がいい時があり、イザークは苛立ちを募らせた。
「くっ…!」
しかしこれだけの強敵、ヒヨっ子揃いの部下ではやはり対処できない。
自分が抜かれればヤキン、そしてプラントまで、ヤツらの前に立ちはだかれる敵はいない。それはもはや自惚れではない。強敵ストライクと戦い、今ここに至るまで、誰よりも多く過酷な戦場を勝ち残ってきた彼の力は伊達ではなかった。
だがその時、彼の青い眼は最悪の事態を捉えてしまった。
「あれは…?!」
モビルアーマー部隊…それらが放った大量のミサイル…それはボアズでの攻撃フェイズとまったく同じだった。
(核か!?)
イザークは全身の血が冷えていくような感覚を味わった。
(バカな…プラントにいるのは普通に生活している人間だぞ!?いくら敵とはいえ、それを討つことにためらいはないのか?)
撃つだろう、やるだろうと頭では思っていても、実際にそれが現実だと目にした時の感覚は違う。
イザークは心のどこかで、彼らも同じ人ならば踏みとどまるのではないかと思っていた。
人はどんな状況でも、最後まで人を信じるものなのだろうか…イザークの瞳に、自分でもなぜなのかわからない涙がにじんだ。
「あのミサイルを落とせ!プラントをやらせるな!」
イザークは部下たちに叫び、自らもミサイルを撃ち落そうとデュエルで出る。
しかしそれを阻む者たちがいた。
「おっと」
カラミティがバズーカを向ける。
そしてフォビドゥンがデュエルの前に立った。
「ダメだよ。あれは…綺麗なんだぜ?」
イザークは彼らを睨みつけ、サーベルを構えた。
その時、どこからともなく凄まじい火力の砲が放たれた。
いくつもの火線が、威力を保ったまま戦場を貫いていく。
そして一切の無駄なく、正確に核ミサイルを捉えて次々と破壊していった。
同時におびただしい数の対艦ミサイルも放たれて、見る見るうちに残りの核ミサイルが駆逐された。
誰もがそのあまりの威力と破壊力に呆気に取られていた。
ドミニオンのアズラエルはポカンと口を開け、ナタルもまた何が起きたのかとレーダーを見た。火力の発射源は二つあった。
フレイもまた驚きを隠せない。
(あれは、一体…?)
やがて、その射手に注目が集まった。
そこには兵器というにはあまりにも巨大なモジュールを装着した、フリーダムとジャスティスがいた。
オルガはそれを見てちっと舌打ちをする。
「あいつっ!」
久しぶりに見た両者に対して彼が抱いた感情は複雑だった。
会いたかったぜという不思議な想いと、いい知れぬ怒りと憎しみ。
オルガは届かないとわかっていても挨拶代わりにバズーカを放った。
一方イザークはジャスティスの姿を見てそれが誰なのかを悟った。
「アスラン…?それに…」
あれはフリーダム…アスランの友人だという女パイロットか…
「地球軍はただちに攻撃を中止してください」
その時、オープンチャンネルからラクスの声が流れ出した。
「あなた方は何を討とうとしているのか、本当におわかりですか?」
ラクス・クラインの毅然としたその声で、ザフトに動揺が広がる。
たった今、プラントへの核攻撃を防いだのが自分たちザフトではなく、ラクス・クライン一派だった事も、兵士たちをひどく混乱させた。
やがてエターナルが戦場に姿を現すと、エザリアは眉をひそめた。
(一体どういうつもりだ、ラクス・クライン)
「もう一度言います。地球軍はただちに攻撃を中止してください」
ラクスは落ち着いた声で繰り返した。
「何ですか、この声?」
アズラエルは鼻で笑い、バカにしたように呟いた。
ナタルとフレイはかつて聞いたことのあるその声より、エターナルの後ろから姿を現したアークエンジェルに釘付けになっていた。
ようやく会えた彼らは、地球軍に対して戦闘停止を求めている。
(たったあれだけの戦力で、一体何をしようというのだ)
ナタルはブリッジにいるはずのマリューの姿を思い浮かべ、眉を顰めた。
「ま、何であれ邪魔をするのは敵です」
すぐにラクスの声に興味を失ったアズラエルが言った。
「あれも厄介なモビルスーツだし、丁度いい。一緒に消えて貰いましょう。プラントと共にね」
Nジャマーキャンセラーが手に入った今、もはや鹵獲の必要はなく、逆に核動力で動いているモビルスーツなど邪魔者でしかない。
「核ミサイルはまだまだあるんですからね…」
ヤキンではザラがジェネシスと呼ばれる兵器の準備に追われていた。
「ラクス・クラインが?」
エターナルやフリーダム、そしてジャスティスが戦闘に介入したとの報告を受けて、議長は不機嫌そうに一蹴した。
(アスラン…あのバカめが)
「ふん、小賢しいことを。構わん、放っておけ!こちらの準備も完了した」
彼は指揮を執るエザリアに、ただちに部隊を下がらせるよう命じた。
その頃、イザークはモニターに出たエマージェンシーを見て驚いていた。
「全軍射線上より退避?ジェネシス!?」
聞き覚えのない兵器の名だ…しかし射線からの全軍撤退とは、よほどの威力なのだろう。
彼の心にチラリとディアッカやアスランの姿が浮かぶ。
当然ながら、彼らはこの情報を手に入れてはいないはずだ。
やがて、ジェネシスの三角錐型の照準用ミラーが展開を始めた。
その兵器は、ブリッツに搭載されていたミラージュコロイドで隠され、解除された時に全貌が見えてくる仕組みになっていた。
ヤキン・ドゥーエの後ろに突如現れたその巨大な物体は、既に照準を地球軍艦隊に向けており、起動電圧も十分確保されていた。
ザフト軍はすみやかに撤退し、射線上にはもはや地球軍しかいない。
「フェイズシフト展開」
鉄壁の守りが展開され、ジェネシスが鮮やかに色を変えていく。
「何?あれは?」
マリューがその禍々しい姿を見て思わず声を出した。
(あんなものが要塞の後ろに隠れていたなんて)
アークエンジェルのブリッジにはいやな予感が広がっていく。
ジェネシスの全貌を目の当たりにしたイザークは、ためらいを捨てた。
そして通信を開くと、眼にも留まらぬ速さでチャンネルをあわせ始める。
「下がれ!ジャスティス!フリーダム!ジェネシスが撃たれる!」
アスランとキラはその言葉に驚き、ジェネシスと呼ばれた兵器を見た。
「ニュートロン・ジャマー・キャンセラー起動。ニュークリア・カートリッジを撃発位置に設定。全システム接続、オールグリーン」
核エンジンがうなり始め、いよいよジェネシスが始動した。
目標は地球軍艦隊…プラズマが走り、エネルギーが収束する。
「思い知るがいいナチュラルども!」
パトリック・ザラは悦びに震えながら叫んだ。
これでようやく、愚かなナチュラルに真の鉄槌を下す事ができる…
「この一撃が我らコーディネーターの創世の光とならんことを!発射!」
滅びの光が、地球軍艦隊を貫いた。
フレイは自分のポッドを拾ったカラミティをはじめ、バスターやイージスの後継機として開発されたこの3機の新型モビルスーツを見つめていた。
ドミニオンのデータによれば、キラも今はもうストライクではなく、新たな機体に搭乗しているという。
フレイは、イザークと共に受領に行ったザフトの新型モビルスーツ、ZGMF-600ゲイツと、これでナチュラルを宇宙から追い払えると言った整備員を思い出し、ため息をついた。
(戦争って、こんな風にどんどん拡がっていくものなんだな…)
アズラエルは、今日の作戦で戦いは終わると言った。
「きみが持ってきてくれた鍵のおかげでね」
ドミニオンは実行部隊ではないので、ナタル以外この極秘作戦の内容は知らされていないが、果たして自分が運んできた「鍵」とは何だったのか…フレイは今日この日、何があろうとも見届ける覚悟だった。
「インディゴ13、マーク66、ブラボーに新たな機影」
「モビルスーツです。数3、以前クルーゼ隊長より報告があった例の3機です」
「その後方、アークエンジェル級1、アガメムノン級4、距離500」
新型の機影とドミニオンらの艦体をレーダーに捉えたボアズ司令部は警戒を強め、さらに防衛を厚くする。新型はわずか3機とはいえ、ダガーとは桁違いの力を持っていることも、既に認識されていた。
「なんだ?新手か?」
血気盛んに動きの遅いダガーを屠っていたジンのパイロットたちは、近づく3機に気づいた。獲物を見つけ、シャニがペロリと唇を舐める。
「んっふふふ…いっぱいいるねぇ…」
子供のような笑顔で笑っていたクロトが、突然凶悪な表情に変わり、「行くぜーっ!!」と叫んで手近なジンに踊りかかった。
戸惑うジンをクローで捕らえ、そのままアフラマズダを放って上半身を吹き飛ばす。主を失った下半身を投げ捨てると、クロトは次の獲物を求めて飛び去った。
「はは~ん。目移りしちまうぜ。そらぁ!」
先陣を切ったクロトに負けじと、オルガもバズーカを構え、シュラーク共々辺りにいるジンに向けて闇雲にぶっ放した。
ジンはその威力を見て、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
モタつく者は戦場を自在に飛び回るレイダーの餌食になった。
そんな中、ゲイツがビームクローを展開して出遅れたフォビドゥンに襲い掛かった。シャニはシールドで避けると、ニーズヘグを振るう。
「誰だよ、俺を討とうなんて奴はっ!」
衝撃で吹っ飛ばされたゲイツは、後ろから放たれたフレスベルグを回避しようとした。しかしプラズマ砲の軌道は思いもかけない方向に曲がり、彼の予想を大きく上回って機体の肩からチェスト部分を直撃した。
「うわぁぁ!」
爆散したゲイツを見て、シャニはさも楽しそうに大笑いした。
「う~ん、いいね!初陣からケチの付きっぱなしだったけど、なんか強いじゃないの、アイツらもさ」
思う存分暴れまくる3機を見ながら、アズラエルはご満悦だった。
ジンもゲイツも彼らの敵ではない。フリーダムだのジャスティスだの、あんなものさえいなければ、やはりもっと早く片がついていたんだ…よく手入れされた髪をかきあげながら、アズラエルは血と断末魔の叫びに満ちた戦場を眺めていた。
「ワシントンより入電です」
フレイが旗艦からの通信を映像受信に切り替えると、モニターに映し出されたのは、あの忌わしいサザーランド大佐だった。
「道は開いたようですな。ピースメーカー隊、発進します」
「了解」
アズラエルがどす黒い笑みで答える。
フレイはそのあからさまに怪しげな隊の名に、人知れず眉をひそめた。
「そんなもの!大方例のモビルスーツ部隊と新型あたりであろう?それで落とせるとでも踏んだのであろうよ」
クルーゼの意味深な言葉に、エザリア・ジュールは苛立ちを隠さない。
何かを含んだような物言いにイラつくのは、息子によく似ていた。
クルーゼは「それならばよいのですがね」と答え、彼女をさらに苛立たせた。
じきにその綺麗な顔も泣きっ面に変わるだろう…クルーゼはほくそえんだ。
「何が言いたいのだ、クルーゼ」
エザリアとクルーゼの会話を黙って聞いていた議長が口を開いた。
「申し上げにくくはありますが、我々にはいくつかの不安要素がありますので。フリーダム、ジャスティス、ラクス・クライン…」
「なに?」
パトリックの脳裏に、袂を分かった娘の姿が浮かぶ。
フリーダムとジャスティス…奪われてはならない機体。
そして未だ根強いシンパを持つシーゲルの息子、ラクス・クライン…予想されているとはいえ、ボアズへの地球軍の突然の攻勢…議長はますますもたげてくる不安の陰を探ろうと目線を落とした。
「ピースメーカー隊、目標まであと400」
後方の部隊から飛び出したモビルアーマー隊が、カラミティたちが開いた突破口を抜け出し、急速にボアズに近づいていく。
「ふっふっふ」
アズラエルは笑いながら、足を組み、手を組んでその時を待った。
ナタルは何も言わず、ドミニオンを追い越していく部隊を見つめている。
ゲイツが突然現れたモビルアーマー部隊に気づいて転進を図ろうとすると、モビルスーツに変形したレイダーが後ろを向いた相手にミョルニルを投げた。
「ダメだよぉ。きみたちは僕の相手をしてくれなきゃ!」
衝撃で頭部が傾ぎ、バランスを崩した機体をさらに鉄球で砕く。
意図的にコックピットを狙い、中の人間に、自分が潰されていく恐怖を徐々に与えながら殺していくのが楽しくて仕方がないのだ。
モビルアーマー隊はそんな残酷な宙域をやすやすと突破していった。
「まさかヤツらの手に再び核が戻ったと…そう言いたいのか、貴様は?」
ついに議長の口から飛び出した忌わしい正解に、クルーゼは神妙に答えた。
「いいえ…よもやとは思いますが」
(その通りですとも、議長閣下!)と心の中で彼を嘲りながら。
やがて核を抱いたモビルアーマー隊がボアズを射程距離に捕らえた。
ボアズからの攻撃に倒れるものもいるが、新型3機の露払いにより、目標地点にたどり着けたモビルアーマーは8割を優に超えている。
「安全装置解除、信管、起動を確認」
「よし!くたばれ、宇宙の化け物」
「青き清浄なる世界の為に!」
そして、再び核が放たれた。
「月艦隊がボアズに侵攻?」
エターナルのハンガーにいたアスランとキラは、カガリからもたらされた情報に驚きを隠せなかった。月周辺の宙域に厳戒令が敷かれて立ち入りができなくなり、それを無視して連合からの警告追尾を振り切ったジャンク屋がクサナギにもたらした情報なのだという。
報道管制が厳しく、今はプラントからも情報が流れてこないのだ。
「ああ。彼らの話だとそろそろか、もしかしたら既にってことだ」
ボアズ…規模は小さいが、防御力に関してはヤキンに次ぐ要塞だ。
歴戦をくぐり抜けたものの、エースとしてはやや年齢が高くなったパイロットが多数配備されており、士気の高さと勇猛さは名高い。
連合とて、そうそう手を出すとは思えない堅固な要塞に、なぜ今…黙り込んだアスランに代わり、キラが尋ねた。
「ラクスは?」
「今、アークエンジェルと話してる」
また何かあったら連絡する…カガリはそう言って通信を切った。
その頃、放たれた核が死の光でボアズを包み込んでいた。
ある者は何も気づかないうちに、ある者は膨大なエネルギーを「核だ」と認識した瞬間に、ある者は必死に逃げようとして、誰も彼もがその死の光に絡め取られ、瞬時に蒸発していった。
穴という穴からまばゆく禍々しい光が漏れ出し、命を消していく。
宙域で呆然と見守るジンやゲイツもまた、これは核だと直感した。
オルガもクロトもその光に眼を細める。
シャニは嬉しそうに「まぶしい…」と呟いて微笑んだ。
(とてもきれいだ…とても)
フレイはその光に息を呑んだ。
かつて、父を失った時に見た光が脳裏に蘇る。
命を奪い、全てを壊す光。
けれどこれはそれ以上に禍々しく、許すべからざる凶悪さを放っている…
(あれは…まさか、核!?)
使ってはいけない兵器が、いや、今はもう使えないはずの兵器が、目の前で爆発した。一体何人のコーディネイターが死んだのか…フレイは膝が震え、胃からこみあげてくる酸っぱさに耐えた。
戦闘の様子を映し出すモニターを見ながら、ザラ議長もエザリアも言葉がない。
イザークもまた、多くの兵同様この悪夢のような光景に呆然としていた。
自分たちの目の前で再び核が使われ、一瞬にしてボアズが陥落した。
人の手で2度と撃ってはならぬものが炸裂し、堅固な要塞を廃墟に変えてしまっていた。同胞たちはそこで、逃げる間もなく命を散らしたのだ。
今またナチュラルの手によって、憎しみが戦場に満ちた。
「さすがに早い早い」
パンパンと手を打ち鳴らしてアズラエルが言っても、ナタルやフレイをはじめ、ブリッジクルーは当然ながら言葉一つなかった。
たとえ相手が敵であろうと、一発で数万の命を奪う核ミサイルを、友軍は一体何発撃ち込んだのか…そのあまりにも残酷な結末を思い、誰ひとりとして口を利ける者などいるはずがない…良心が残っていれば。
「あっという間だね、核を撃たれちゃ、ザフト自慢の要塞もさ」
そんな中、ただ1人上機嫌なアズラエルを見てナタルが口を開く。
「アズラエル理事は…」
「んん?」
文句があるなら言ってみろと言わんばかりの顔で彼はナタルを見た。
「いくら敵軍に対してでも、核を撃つことをなんとも思われないのですか?」
「そりゃ軍人さんの口から出るとは思えないセリフだね」
アズラエルは予想の上をいかない陳腐な質問にガッカリして答えた。
「勝ち目のない戦いに、死んでこいって自分の部下を送る人たちより、僕の方がよっぽど優しいと思うけど?」
アズラエルは何言ってんだか、とばかりに右手をひらひらさせた。
「さ、次はいよいよ本国だ。これでやっと終わるよ、この戦争もさ」
「おのれ…ナチュラルども!」
パトリック・ザラは怒りの声を上げた。
「我らに対して再び核を放つとは…!」
彼はそのまま、クルーゼにプラント全域に防衛線の展開を命じた。
ボアズが無力化すれば、残るはヤキンの防衛ラインのみである。
そして既に撃たれた核が再び放たれる事は必然といえよう。
血なまぐさい独裁者と化したとしても、彼もまた指導者である。
何の罪もない同胞たちが暮らすプラントを守らねばならない。
ザラは自らも要塞ヤキン・ドゥーエに上がる事を告げた。
慌しく、しかも最悪の方向に動いた事態の中で議長は思う。
これは即ち、連中にNジャマーキャンセラーが渡ったということだ。
彼の胸に娘の姿が浮かんでは消えた。
(まさか…アスランが…まさか…)
やがてその思考を断ち切り、彼はクルーゼとエザリアに向き直る。
「ジェネシスを使うぞ!」
もはや何もためらう必要などなかった。
「全艦発進準備。各艦員は至急持ち場につけ!」
突然響き渡った放送を聞き、キラはブリッジを呼び出した。
「ラクス、動くの?」
モニターにはラクスとバルトフェルドが映し出された。
「月艦隊の、ボアズへの侵攻というのは…?」
アスランが聞くと、ラクスは暗い表情のまま首を振った。
「事態はもっと早く、そして最悪な方向へ進んでしまった」
ラクスの後をバルトフェルドが引き継いだ。
「こっちのルートからさっき入った情報だと、ボアズはもう落ちた。地球軍の核攻撃でな」
その言葉に、2人は思わず顔を見合わせた。
「でも、核だなんて…」
アークエンジェルのブリッジもその情報にざわめいていた。
「あんま驚きはしないがね。JOSH-Aの後だし」
出撃準備を整えているフラガが、モニターの中で肩をすくめる。
けど、あの野郎…フラガはクルーゼの言葉を思い返していた。
最後の扉を開くと言っていた…この世界を終わらせる扉を開くと。
そして鍵を持っていると言ったあの坊主…クルーゼが持たせたのは…
「こういうことかよ!」
フラガは怒鳴り、マードックとディアッカがその声に振り返った。
「プラントも核、撃ってくると思う?」
キラがヘルメットを手にしてアスランに聞いた。
アスランは憂鬱な表情で、同じくヘルメットを取る。
「父が正気なら、まさかと思うけど…今は…わからない」
アスランはジャスティスを見上げながら、これを自分に託すと言ったニコルの父、ユーリ・アマルフィの言葉を思い出した。
(あれが地球軍の手に渡れば、やつらは大喜びで再び核を使うだろう)
あの時の彼の懸念が現実になってしまった。
それに核が撃たれてしまった今、ナチュラルを滅ぼすことがこの戦いの目的だと言い放った父は、もう何もためらうまい。
「なんでそんなもんがあるんだろうね」
キラもまた、アスランの視線の先にあるジャスティスを見ながら言った。
「核兵器なんて…モビルスーツも銃も、同じだけど」
アスランは、何も答えられなかった。
自分が父を止めなければならないと、ただそれだけを思っていた。
さしてダメージもない3機は補給のため、ドミニオンに戻った。
3人はしばしの休憩を取りながら、次の出撃に備えている。
どちらかというとピースメーカー隊などというふざけた名前をつけられた核部隊の補給待ちが主なので、アズラエルものんびりやりますかと自室に戻った。
(この間にシャワーを浴びておこう)
鼻歌交じりに彼はスーツの上着を脱いだ。
全てが終われば、すぐにメディアに顔を出す事になるだろうから。
核によるとはいえ勝利に沸く宙域では、処理作業や補給作業が進められていた。
ナタルはシャッターを開け、その作業を見守っていた。
傷ついた艦が曳航され、EVA要員が破損して漂っているダガーのコックピットから、負傷したパイロットを助け出していた。
ふと人の気配を感じて見ると、隣にフレイ・アルスターがいた。
「どうした?大丈夫か?」
青い顔をしているフレイに、ナタルは声をかけた。
「やはり残っていたほうが良かったのではないか?月基地に…前線に出たからといって、アークエンジェルに出会えるとは限らないぞ」
フレイは首を振った。アークエンジェルもだが、彼にとってはたった今、目の前で起きたことを見届けることも目的だったのだ。
(俺が運んできた、戦争を終わらせる鍵って…)
それは決して開けてはならない扉を開ける鍵だった。
フレイはクルーゼの姿を思い出し、ギリッと唇を噛み締めた。
「俺は…とんでもないものを持ち帰ってきたんですね」
ナタルは何も言わなかった。何を言っても、もう扉は開いてしまったのだ。
「コーディネイターは、確かに敵…ですけど…こんな…こんなのって」
フレイはイザークを思い浮かべた。
彼の事だ。きっと今頃、この卑劣な核攻撃に対して怒りに燃えているだろう。
「俺…戦争を終わらせる鍵だなんて騙されて、信じこんで…」
「この先戦闘はますます激化する。さっきのような光景もな」
ナタルは慰めも気休めも口にせず、ただ事実を告げた。
次の目標は恐らくヤキン、そしてプラント本国だ。
非戦闘員が暮らす頼りないコロニーを撃つ事が、地球軍の最終目標なのだ。
ナタルとて、そんな作戦は承服できない。
(けれど、今ここで自分が反旗を翻してどうなるというのか…)
ナタルの言葉に、フレイは思わず言葉を荒げた。
「あいつ…あの野郎!これで戦争は終わるって言ったのに!戦争を早く終わらせたいとか、こんな戦争はイヤだとか言っておいて!」
「確かに終わるさ。敵である者を全て滅ぼせばな」
かつてバルトフェルドがキラたちに言った「戦争の終わり」は、結局滅ぼしあいという最悪の形でやってくることになったのだ。
(確かに終わる…どちらかが…あるいは両者が滅べば…)
フレイはあの時笑った仮面の男が、本当は何を終わらせようと考えていたのかわかった気がして、ブルッとその身を震わせた。
「閣下、全ての作業、終了致しました」
核攻撃の第一波から72時間が経過した頃、再び悪しき力が放たれる時がきた。
旗艦ワシントンからは全艦出撃が命じられ、ドミニオンも前進を始める。
同時に、ボアズの陥落を見せつけられたイザークも、プラントの防衛に出撃した。
守るべきものを守る戦い…そこに躊躇はない。
「ナチュラルどもの野蛮な核など、もうただの一発とてわれらの頭上に落とさせてはならない!」
ナチュラルへの憎しみを、怒りを煽るエザリア・ジュールの言葉が戦場に響く。
「血のバレンタインの折、核で報復しなかった我々の思いを、ナチュラルどもは再び裏切ったのだ!」
(母上…)
イザークはモニターの中で、兵士を鼓舞する母を見つめた。
ディアッカとの邂逅以来、イザークは自分が戦う理由を考えていた。
それは決して、ナチュラルを滅ぼすためでも、復讐のためでもない。
そして今…プラントがかつてない危機に晒された今こそ、改めて確信した。
かつて軍に志願した時から、自分の想いは何も変わっていない。
(俺は、プラントを守るために戦う)
今ならよくわかる…戦闘の意思を持たぬ者まで殺した自分の過ちが。
自身が犯してきた罪を背負いながら、イザークは答えに辿りついた。
(だから、俺とおまえが戦う必要はないんだ…そうだろう、ディアッカ)
「ジュール隊、出るぞ!」
もはや、奴らを許すことはできない!と母が叫ぶと、司令部にいる兵たちが賛同の声を上げる。けれどイザークはもはや何も迷わなかった。
再び、戦いの火蓋が切って落とされた。
プラントを目の前にした戦場では、各々の艦隊が展開し、互いに持てる限りのモビルスーツ部隊を続々と送り出す。それは総力戦の様相を呈していた。
エターナル、アークエンジェル、クサナギもまた、戦場を目指していた。
(僕の中には、あの時死んだ人たちがいる)
ラクスは核が放たれた戦場を思い、核によって蝕まれた自身の体…右手でそっと自分の胸に触れた。
(無念のうちに命を散らした人々が、再び放たれた核に震えている)
「…これが、戦争を終わらせる『鍵』か…」
ラクスは苦々しい想いで、かつて自分を殺すと言った赤毛の彼の言葉を思い出した。
こんな形の終わりなど、誰も望んではいないはずだ。
(いや、望んではいけないんだ。絶対に)
ラクスは胸に当てた手をぎゅっと握り締めた。
「核を…たとえ一つでも、プラントに落としてはいけない」
搾り出すようなラクスの言葉に、ブリッジクルーが皆振り向いた。
「討たれるいわれのない人々の上にその光の刃が突き刺されば、それはまた多くの涙と、深く刻まれる憎しみを呼ぶだけだ」
でも…ラクスは拳をさらに強く握り、暗い瞳で言った。
「僕たちは、間に合わなかったのかもしれない」
彼の絶望ともとれる言葉に、ブリッジが静まり返った。
そんな彼に答えたのはダコスタだった。
「そう…ですね。確かに、こんなところまで来たら、もう…」
バルトフェルドは何も言わず、俯いた副官を見つめていた。
やがてダコスタは困ったような顔をラクスに向けた。
「ラクス様、ここは危険ですし、お体の事もあります。そろそろ…」
ラクスはその言葉に少し驚いたような顔をし、それからにっこりと笑った。
「そうだね。ダコスタくんの言う通りだ」
ダコスタの表情がぱっと明るくなったが、ラクスはそのまま続けた。
「そろそろ行こう。いつまでも立ち止まっていられない」
「………え?」
後方に下がる事を奨めたつもりが、どうもおかしな事になったときょとんとしたダコスタに、バルトフェルドがにやにやしながら言った。
「初志貫徹って言葉を知ってるかね、ダコスタくん?」
彼らには「撤退」という選択肢など最初からなかったのだとつくづく悟ったダコスタは、溜息とも安堵ともつかないような息を一つつき、それから自分に言い聞かせるように荒っぽく言った。
「ああ、もう!なら、今はできる限りの事をしましょう!それしかないです!」
クスクス笑っているクルーに、ヤケクソのように「ほら、いつまでも笑ってるんじゃない!行くぞ!」と命令する副官の広い背中を見て、ラクスもバルトフェルドももう一度嬉しそうに笑った。
同じ頃、ドミニオンからは十分な薬物投与を受けた3人が発進した。
「なんか、前よりいっぱいいそうだね」
シャニはさっきの光がいたく気に入り、また見たいと眼を輝かせた。
「ザコばっかってのもおもしろくねぇけどな」
オルガはあの白いのと赤いのはいねぇのかよ…とニヤニヤする。
「どうでもいいよ。出ろって言われりゃ出るだけさ」
やる気のなさそうな事を言いながら、戦いを一番楽しんでいるクロトは、今回はどのモビルスーツを狙おうかと早くも値踏みしている。
すでにプラントまで十分な射程距離に艦隊が展開している今、彼らの露払いがなくともピースメーカー隊は核の発射が可能だ。ワシントンからは続々とモビルアーマーが発進していった。
一方では足の速いエターナル、そしてアークエンジェルも戦場に到達し、今まさに始まった戦いに介入すべく、戦闘準備に入った。
ナスカ級やローラシア級、そしてモビルスーツが防衛ラインを形作るプラントサイド、アガメムノン級とダガーが宙域を埋め尽くす月サイド。
これだけの圧倒的な戦力を前に、自分たちに一体何ができるのかと誰もが不安に思ったが、反面、誰もそれを口に出さなかった。
皆で何度も話し合い、ただ、自分たちにできることがあるならやるのだと確かめあっていたからかもしれない。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出ます!」
「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン、バスター、発進する!」
4機のモビルスーツがそれぞれ発進していく。
しかしフリーダムとジャスティスはそのままエターナルの前面に立つと、動きを止めた。エターナルの艦首にマウントされている2機の強化武装、ミーティアを装備するためだ。
「ミーティア、リフトオフ!」
バルトフェルドがタイミングを合わせて発射を促すと、艦首からミーティアが射出され、両者はその巨大な火器を装備した。
「隊長…僕たちは、平和を叫びながらその手に銃を取っている」
ラクスの呟きに、バルトフェルドが振り返った。
「そうだな。それもまた、悪しき選択なのかもしれん」
「でも今、この果てない争いの連鎖を断ち切る力を…」
ミーティアを装備したフリーダムとジャスティスを見つめ、ラクスは言った。
「再び明日を迎えるために、僕たちは力を振るうんだ」
陣形展開後、各個に応戦するよう命じたイザークは、最も早く前線に到達したレイダーとの戦闘に入っていた。ミョルニルを振り回すレイダーにシヴァとライフルを向けたが、相手は思った以上にスピードが速く、懐に入られて吹っ飛ばされる。
(速い…!)
パイロットがナチュラルだと思って戦っていた頃、その速さに驚かされたストライクに勝るとも劣らない動きに翻弄されかける。
イザークは自身の認識を修正し、相手を強敵と認めて挑んだ。
「はああああ!抹殺!」
モビルスーツに変形したレイダーのツォーンを避けると、カラミティがシュラークを放ってくる。サーベルを抜き、距離を詰めようとした途端、後ろから鉄球が飛んできた。やたらバラバラに動いているように見えるのに、やけに連携がいい時があり、イザークは苛立ちを募らせた。
「くっ…!」
しかしこれだけの強敵、ヒヨっ子揃いの部下ではやはり対処できない。
自分が抜かれればヤキン、そしてプラントまで、ヤツらの前に立ちはだかれる敵はいない。それはもはや自惚れではない。強敵ストライクと戦い、今ここに至るまで、誰よりも多く過酷な戦場を勝ち残ってきた彼の力は伊達ではなかった。
だがその時、彼の青い眼は最悪の事態を捉えてしまった。
「あれは…?!」
モビルアーマー部隊…それらが放った大量のミサイル…それはボアズでの攻撃フェイズとまったく同じだった。
(核か!?)
イザークは全身の血が冷えていくような感覚を味わった。
(バカな…プラントにいるのは普通に生活している人間だぞ!?いくら敵とはいえ、それを討つことにためらいはないのか?)
撃つだろう、やるだろうと頭では思っていても、実際にそれが現実だと目にした時の感覚は違う。
イザークは心のどこかで、彼らも同じ人ならば踏みとどまるのではないかと思っていた。
人はどんな状況でも、最後まで人を信じるものなのだろうか…イザークの瞳に、自分でもなぜなのかわからない涙がにじんだ。
「あのミサイルを落とせ!プラントをやらせるな!」
イザークは部下たちに叫び、自らもミサイルを撃ち落そうとデュエルで出る。
しかしそれを阻む者たちがいた。
「おっと」
カラミティがバズーカを向ける。
そしてフォビドゥンがデュエルの前に立った。
「ダメだよ。あれは…綺麗なんだぜ?」
イザークは彼らを睨みつけ、サーベルを構えた。
その時、どこからともなく凄まじい火力の砲が放たれた。
いくつもの火線が、威力を保ったまま戦場を貫いていく。
そして一切の無駄なく、正確に核ミサイルを捉えて次々と破壊していった。
同時におびただしい数の対艦ミサイルも放たれて、見る見るうちに残りの核ミサイルが駆逐された。
誰もがそのあまりの威力と破壊力に呆気に取られていた。
ドミニオンのアズラエルはポカンと口を開け、ナタルもまた何が起きたのかとレーダーを見た。火力の発射源は二つあった。
フレイもまた驚きを隠せない。
(あれは、一体…?)
やがて、その射手に注目が集まった。
そこには兵器というにはあまりにも巨大なモジュールを装着した、フリーダムとジャスティスがいた。
オルガはそれを見てちっと舌打ちをする。
「あいつっ!」
久しぶりに見た両者に対して彼が抱いた感情は複雑だった。
会いたかったぜという不思議な想いと、いい知れぬ怒りと憎しみ。
オルガは届かないとわかっていても挨拶代わりにバズーカを放った。
一方イザークはジャスティスの姿を見てそれが誰なのかを悟った。
「アスラン…?それに…」
あれはフリーダム…アスランの友人だという女パイロットか…
「地球軍はただちに攻撃を中止してください」
その時、オープンチャンネルからラクスの声が流れ出した。
「あなた方は何を討とうとしているのか、本当におわかりですか?」
ラクス・クラインの毅然としたその声で、ザフトに動揺が広がる。
たった今、プラントへの核攻撃を防いだのが自分たちザフトではなく、ラクス・クライン一派だった事も、兵士たちをひどく混乱させた。
やがてエターナルが戦場に姿を現すと、エザリアは眉をひそめた。
(一体どういうつもりだ、ラクス・クライン)
「もう一度言います。地球軍はただちに攻撃を中止してください」
ラクスは落ち着いた声で繰り返した。
「何ですか、この声?」
アズラエルは鼻で笑い、バカにしたように呟いた。
ナタルとフレイはかつて聞いたことのあるその声より、エターナルの後ろから姿を現したアークエンジェルに釘付けになっていた。
ようやく会えた彼らは、地球軍に対して戦闘停止を求めている。
(たったあれだけの戦力で、一体何をしようというのだ)
ナタルはブリッジにいるはずのマリューの姿を思い浮かべ、眉を顰めた。
「ま、何であれ邪魔をするのは敵です」
すぐにラクスの声に興味を失ったアズラエルが言った。
「あれも厄介なモビルスーツだし、丁度いい。一緒に消えて貰いましょう。プラントと共にね」
Nジャマーキャンセラーが手に入った今、もはや鹵獲の必要はなく、逆に核動力で動いているモビルスーツなど邪魔者でしかない。
「核ミサイルはまだまだあるんですからね…」
ヤキンではザラがジェネシスと呼ばれる兵器の準備に追われていた。
「ラクス・クラインが?」
エターナルやフリーダム、そしてジャスティスが戦闘に介入したとの報告を受けて、議長は不機嫌そうに一蹴した。
(アスラン…あのバカめが)
「ふん、小賢しいことを。構わん、放っておけ!こちらの準備も完了した」
彼は指揮を執るエザリアに、ただちに部隊を下がらせるよう命じた。
その頃、イザークはモニターに出たエマージェンシーを見て驚いていた。
「全軍射線上より退避?ジェネシス!?」
聞き覚えのない兵器の名だ…しかし射線からの全軍撤退とは、よほどの威力なのだろう。
彼の心にチラリとディアッカやアスランの姿が浮かぶ。
当然ながら、彼らはこの情報を手に入れてはいないはずだ。
やがて、ジェネシスの三角錐型の照準用ミラーが展開を始めた。
その兵器は、ブリッツに搭載されていたミラージュコロイドで隠され、解除された時に全貌が見えてくる仕組みになっていた。
ヤキン・ドゥーエの後ろに突如現れたその巨大な物体は、既に照準を地球軍艦隊に向けており、起動電圧も十分確保されていた。
ザフト軍はすみやかに撤退し、射線上にはもはや地球軍しかいない。
「フェイズシフト展開」
鉄壁の守りが展開され、ジェネシスが鮮やかに色を変えていく。
「何?あれは?」
マリューがその禍々しい姿を見て思わず声を出した。
(あんなものが要塞の後ろに隠れていたなんて)
アークエンジェルのブリッジにはいやな予感が広がっていく。
ジェネシスの全貌を目の当たりにしたイザークは、ためらいを捨てた。
そして通信を開くと、眼にも留まらぬ速さでチャンネルをあわせ始める。
「下がれ!ジャスティス!フリーダム!ジェネシスが撃たれる!」
アスランとキラはその言葉に驚き、ジェネシスと呼ばれた兵器を見た。
「ニュートロン・ジャマー・キャンセラー起動。ニュークリア・カートリッジを撃発位置に設定。全システム接続、オールグリーン」
核エンジンがうなり始め、いよいよジェネシスが始動した。
目標は地球軍艦隊…プラズマが走り、エネルギーが収束する。
「思い知るがいいナチュラルども!」
パトリック・ザラは悦びに震えながら叫んだ。
これでようやく、愚かなナチュラルに真の鉄槌を下す事ができる…
「この一撃が我らコーディネーターの創世の光とならんことを!発射!」
滅びの光が、地球軍艦隊を貫いた。
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制作裏話-PHASE47②-
核が放たれるPHASE47の後半は、ほとんどいじる部分がありませんでした。
このPHASEを二つに分けたのは、本編ではあまりにも急展開過ぎて語られなかった事が多すぎるので、物事が動き出す前の「静」と動き出したらとまらない「動」を対比させるためです。
本編もギッチギチに詰め込みすぎていたので、もはや逆種でもいじりようがないのです。
逆種である必要がないくらい、内容は本編とはなんら変わりません。
本編と違うとしたら、プラントの危機を眼の前にして、イザークが自身の戦う理由を再認識したり、フレイが自分が何を運んできたのかを知って愕然としたり、ラクスが本編ではブツブツ独り言を言っていた部分を、バルトフェルドとの「会話」にして「見せた」りした程度です。
また、ダコスタくんが「ラクスが戦場から後退する」という淡い期待を抱く、なんてシーンも入れてみました。逆種でも逆デスでも、優秀で有能なのにいつも不幸で不遇なダコスタくんです。
それでもDESTINYに比べると、種はやはり「最終回」的な雰囲気は出てますね。何より主人公が出撃してますしね。
だって何しろDESTINYは47話から50話までで主人公の出撃はなんと50話の1話のみですからね。
本当に制作陣にとってシンって一体…
このPHASEを二つに分けたのは、本編ではあまりにも急展開過ぎて語られなかった事が多すぎるので、物事が動き出す前の「静」と動き出したらとまらない「動」を対比させるためです。
本編もギッチギチに詰め込みすぎていたので、もはや逆種でもいじりようがないのです。
逆種である必要がないくらい、内容は本編とはなんら変わりません。
本編と違うとしたら、プラントの危機を眼の前にして、イザークが自身の戦う理由を再認識したり、フレイが自分が何を運んできたのかを知って愕然としたり、ラクスが本編ではブツブツ独り言を言っていた部分を、バルトフェルドとの「会話」にして「見せた」りした程度です。
また、ダコスタくんが「ラクスが戦場から後退する」という淡い期待を抱く、なんてシーンも入れてみました。逆種でも逆デスでも、優秀で有能なのにいつも不幸で不遇なダコスタくんです。
それでもDESTINYに比べると、種はやはり「最終回」的な雰囲気は出てますね。何より主人公が出撃してますしね。
だって何しろDESTINYは47話から50話までで主人公の出撃はなんと50話の1話のみですからね。
本当に制作陣にとってシンって一体…